いよいよゴールデンウイーク後半。 さあ、どこ行こうかな?
今回は、昨年秋にポイント5を手放して手に入れたタンデムのリクリエーショナルカヤックをアテンザワゴンに積んで、妻と2泊3日のキャンプツーリングに行く予定である。 前日の午後、キャンプ道具とカヤック道具を準備し、いつものようにMacBookProを開いて天気予報をチェック。
『うーん、島根半島は残念ながら雨の予報』 『しまなみ海道でもいいけど、連休前半に行ったばかりだし』 『お、ここは少し風が強い予報だけど、なんとか漕げそうな感じやなあ。 うん、今回はここにしようか!』
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2012年5月3日(木) 朝6時に家を出て、クルマの多い山陽自動車道を東へ。

フェリーで10分ほどの狭い海峡を渡ると、キャンプ場のある島に到着。 浜からシーカヤックが出せることに加え、妻が一緒なので、そこそこ施設が充実していて、しかも人が多い場所が苦手な私にとって重要なそれほど混雑しない場所として、ここを選定。
今回は、牛窓の前島にあるサンビーチ前島にベースキャンプを設け、2泊3日で牛窓周辺を、歩く漕ぐ観るでたっぷりと堪能しようという計画である。
フェリー乗り場で手続きを済ませ、キャンプ場へ。

クルマを止めると、眼の前に見覚えのある人物が。。。

『おー、井出っちや!』 そう、私が参加させていただいていた初期の瀬戸内カヤック横断隊員の一人である愛媛のプロガイド、井出君である。
挨拶を交わし、ここにキャンプして遊ぶ計画であることを話す。 聞いてみると、この日は前島でのツーリングが盛況なので、四国からわざわざ応援に駆けつけたとの事。
しばし旧交を温め、思わぬ再会に嬉しい一時。

ツアー準備が始まったので、『いやあ、久し振りに会えて嬉しかったよ。 それじゃあ、また!』
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少し風はあるものの、晴れ間も覗きそうな気配。 なんとか海に漕ぎ出せそうだ。

今日は、このタンダムカヤックの進水式。 バウをマッコリで清め、今後の航海の安全を祈願。 『ようし、行くか』

井出君達のカヤックツアーは、黄島を一周すると言っていたので、邪魔をしないように、私たちは青島を目指す。

徐々に青空も広がり、なかなか快適なパドリング。 『うん、なかなか気持ちええのう』
青島の手前でしばし休憩し、そこから反時計回りに青島を一周。
このタンデムカヤックは、以前所有していた『ポイント5』と違ってリクリエーショナルカヤックなので、荒れた海に漕ぎ出すことはできないが、安定性と居住性が良く、パドリングタッチも軽くてそこそこスピードも出るので、妻や友人達と気軽なショートツーリングに出掛けるには良い舟である。
そしてなにより全長が短いので、カートップしてツーリングに行く時に、いちいち積載許可申請をしなくて良いのが最大のメリット。
申請が煩わしくて、ポイント5はここ数年、カヤックラックの重石になっていたのである。 これで、今年は妻とのツーリングが再開できる。 嬉しいな。
青島を一周し、キャンプ場に戻る途中、黄島の北を越える頃からそらは再びドンヨリと曇り、西風が強くなってきた。

『よっしゃ、ここから少し真面目に漕ごうか』

アークティックウインドの強みを活かし、向い風の中をグイグイと進むタンデムカヤック。 しばし波と戯れ、1時間半ほどのツーリングを楽しんで、無事にキャンプ場に戻ってきた。
『二人で漕ぐん、久し振りやったなあ』 『うん、前半は空もきれいやったし、楽しかったね』
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カヤックを浜に上げ、濡れものを干し、温水シャワーを浴びて着替えると、キャンプ道具をセット。

今回は、久し振りに『コールマンのスチールベルト』と『ガタバウトチェア』を引っ張り出してきた。 約20年ほど前、まだ小さかった子供達を連れ、家族でキャンプを楽しんでいた頃に愛用していた品々。
当時は、モンベルのムーンライト6型のテントに、スノーピークのウイングタープ、コールマンのシングルマントルランタンとスチールベルトのクーラーボックス、そしてマクラーレンのガタバウトチェアが我が家の定番。 ボンゴワゴンにこれらの道具を積んで、海や山、川でキャンプを楽しんだものだ。
今日のお昼ご飯は、ホットサンド。 風が強いので、カセットコンロは諦め、風に強いストームクッカーでホットサンド作り。

ビールを飲みながら、出来立てホカホカのホットサンドを頬張る。 『うん、ビールも美味いし、ホットサンドも最高や!』
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『ごちそうさまでした』 食事を終え、コーヒーをゆっくりと楽しむと、最近続けている妻とのウオーキングを兼ねて、前島の散策へ。

高台から見ると、風が強くなっている事が良く分かる。 『うん、良いタイミングでツーリングを楽しんだなあ』
少し早足で、アップダウンのある道を、西へ。

黒島が眼の前に見える場所に到着。

しばし、眺めの良い景色を堪能。

『風次第だけど、明日はこっち方面に漕ぎに来ようか』
少し大回りになるが、ここから前島のフェリー乗り場側を廻って戻る事に。

牡蠣殻を積上げて作られた畑。 カルシウムを利用しているのかな?

海の景色を眺め、藤の花を愛で、新緑を楽しみ、離島らしい散策を堪能。
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ウオーキングの途中、喫茶店を発見。 『喉も乾いたし、ちょっと入ってみようか』
ドアを開け、中を覗いてみるが人は居ない。 『こんにちは』と声を掛けてみたが、誰も出てくる気配がない。『残念、だれも居ってんないような感じやな。 ほな行こか』とドアから出ようとした時、奥のテーブルの辺りが動いた。
『犬か?』と身構えると、『あー、ごめんな。 少し横になっとった』とおばちゃんが起き上がってきた。 『気温もちょうどええし、昼寝には最高ですよね』と、笑いながら私が言うと、『ほんま、気持ちよかったよ』
『ちょっと何か飲みたいんじゃけど、大丈夫ですか?』 『飲み物しかやっとらんけど。 それでええ?』 『はい、じゃあ、カフェオレとアイスティーお願いします』
注文の品を作っていただいている間、『どっから来たん?』 『はい、広島の呉です。 今日は、サンビーチにキャンプしてシーカヤックを漕いで、それから島を歩いて廻ってるんですよ。 喉が渇いたところに、ちょうど喫茶店があったから寄ってみました』
『そうね。 シーカヤック。 海を漕いで優雅な遊びじゃねえ』 『いやあ、そげなこたあないですよ。 潮にまみれ、汗にまみれて遊んでます』
『この島は、やっぱり海水浴シーズンが賑わうんですか?』 『そう。 でも今は人は減ったね。 バブルの前までは凄かったんよ』
『バブルの頃は、この狭い島に自家用車やバスでどんどん人が来て渋滞』 『ここは道が狭いから大変じゃったでしょう』
『そうなんよ。 休みが終わって帰る日には、フェリー乗り場からクルマの列がずらーっと並んで、私ら用事があって島から出よう思うても、いつ出られるんじゃろうかいう感じで、そりゃあ大変じゃった』 『この店もね、お客さんが大勢来て、朝から晩まで、そりゃあ忙しかったよ。 昼は喫茶店、夜はスナックもしよったし、時にはお客さんにも手伝うてもろうてやりよったねえ』
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『前島は、昔に比べて変わりましたか?』 『そりゃあ大違い』
『わたしゃあ、前島で生まれ育ったんじゃけど、子供の頃には電気もガスも水道もなかったよ』 『そのころは、水いうたら井戸で汲んで運びよったし、ガスはもちろんないから、松の枯れ枝を集めて炊事に使いよった』 『風呂焚き? そんなもんに松の枯れ枝を使うのはもったいないから、浜に流れ着いた木を集めて風呂焚きに使いよったねえ』 『百姓仕事やから野菜はあった。 肉はほとんど食べんかったけど、親は漁師じゃったから、メバルやなんや、魚は食べよったね』
『小さい頃から百姓仕事でいっぱい働いて大変じゃったねえ。 仕事が終わったら、まず海に飛び込んで汗と汚れを落としてから、風呂に入りよったもんよ』 『ほんま、一杯働いたわ。 でもそのお陰で今でも体は元気。 遅かれ早かれ苦労はするんじゃから、苦労は早いうちにしとった方がええよ。 お兄さんらも、優雅にカヌーで遊んどらんと、早いうちに苦労しとかんと』 『いやあ、ほうですねえ』と苦笑い。
『前島には学校がなかったから、牛窓に通いよったよ。 じゃから、台風の時なんか前島の子は早う帰れいうて言われて、牛窓の子らには羨ましがられた。 でもね、ほんまはええ事はないんよ。 その分、勉強せんだけじゃけえね』と笑う。
『昔はね、夏になると舟の後ろにロープを延ばしてもろうて、それに掴まって沖の方まで連れて行ってもらいよった』 『そして、ここからなら戻れる思うところでロープを話して泳いで帰るんよ』
『楽しかったですか?』 『そりゃあ楽しかったよ。 昔は、そんなことしか楽しみいうてもなかったからねえ』
その後も、カフェオレとアイスティーをいただきながら、趣味だと言う本格的な画や生け花の話や息子さん達の話を伺い、昔の写真、最近の写真を拝見。
バイタリティとユーモアに溢れたおばちゃんの半生記を、時には感心し、時には三人で大笑いしながら楽しんだ。
『ごちそうさまでした。 いやあ、偶然立ち寄ったんですが、面白い話を聞かせてもろうて、とても楽しかったです』
『私も楽しかったよ。 またこっちに来たら寄りんさい』 『はい、また是非来ます!』
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『いやあ、ほんま楽しかったなあ。 それにあの画と生け花には感心したね』と妻と話しながらキャンプ場へ戻る。

夕方には風も止み、夕食の準備。

今日のメインは、『里山コンロ』でタケノコ、しいたけ、キャベツにピーマンの炭火焼。 冷えたビールを飲みながら、瀬戸内の夕暮れを楽しみ、炭火焼でお腹を満たす。
夜は静かなキャンプ場。 なかなか良い雰囲気である。 『楽しい一日だったなあ。 おやすみなさい』
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2012年5月4日(金) キャンプ二日目の朝。 朝から強い風が吹いている。 天気予報をチェックしても、夕方まで風は落ちそうにない。
ということで、今日の予定は、牛窓散策して、夕方に風が落ちればカヤックを楽しむ事にしよう。
簡単な朝食を済ませ、朝のコーヒーをゆっくりと楽しむ。

『さあ、そろそろ出掛けるか』

強風の中、クルマはキャンプ場に置いたまま、空のソフトクーラーを担いで、まずはフェリー乗り場へ。 歩くこと30分程でフェリー乗り場に到着し、そのままフェリーで牛窓へ。
ここからは、牛窓散策。

古い町並みを歩く。

狭い道路は、鞆の浦にも似た雰囲気。

造船所が立ち並ぶ通り。

風は強いが晴れ間が覗いている。 空気は澄んで、空の青さと雲の白さのコントラストが美しい。
観光センターの人には、歩いて行くのは大変だと言われた牛窓海水浴場に到着。 『えー、ぜんぜん大変じゃないじゃん。 近いもんだ』

眼の前に広がる抜けの良い景色をしばし堪能。

なるほど、ここは出艇地に良さそうだ。
ここから反時計回りのコースを歩き、牛窓のメインストリートに戻ってきた。

コンビニで今日のビールを買い出しし、中光商店で地元のおいしい『かまぼこ』を購入。

しばし散策し、フェリーで前島に戻ってきた。
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前島のターミナルで、大きく立派なキャベツを売っていたので、家用に購入。

ビールがタップリ入ったクーラーバッグを肩に掛け、片手にはキャベツ、片手には中光商店のかまぼこという、奇妙な出で立ちで、再びキャンプ場まで30分のウオーキング。 これで本日は、午前中だけで2万歩超え。 『ああ、今日もタップリ歩いたな。 後は風が落ちるのを待つだけだ』
キャンプ場には、シーカヤックを積んだクルマが一台停まっていた。 同じシーカヤッカーどうし、せっかくなので挨拶に伺い、しばし四方山話。
伺ってみると、岡山市内の方で、ここは近いので良く来ておられるとの事。 今日はお子さん達とキャンプ&シーカヤックを楽しまれるご様子。
風が落ちないので、まずはお昼ご飯。

今日は、蕎麦とかまぼこ、そしてビール。 『お、このかまぼこ、本当に旨いねえ』
夕方。 ようやく少し風が落ちたので、カヤックを海に浮かべた。 『ようし、ちょっと黒島方面に行ってみようか』

快適なパドリング。 小豆島を眺め、屋島を遠望し、海岸洞窟を眺め、黒島に渡る直前の岬まで漕ぎすすんだ。 が、ここまで来ると、強い北西の風が回り込んでくる。

嫌な風の吹き方なので、ここから引き返す事に。

再び強くなってきた風に押されつつ、キャンプ場へ。
明日は、早朝にここを発つ予定なので、カヤックの潮抜きをしてカートップ。 温水シャワーを浴びて着替え、二日目の晩ご飯。

夜は、満月に近いきれいな月に照らされ、なかなか良い雰囲気の浜であった。
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2012年5月5日(土) 牛窓連泊ツーリング最終日。 今日は、犬島を散策する予定。
いつものように朝5時に起床し、シュラフやテント、道具を片付け、6時前にキャンプ場を出発。
定期船の出る宝伝に向かう途中、朝の美しい景色に出会う。
宝伝港まで行くが、駐車場の場所が分からない。 クルマを停め、近くで作業されていた方に駐車場の場所を教えていただいた。
『ありがとうございます。 じゃあ、行ってみます。 ところで、これ、海苔ですか?』 『そう。 青海苔。 今日から解禁なんよ』

『量は少ないんじゃけど、品質がええけえ、単価は高いよ』 『なるほど』

『あんたらどっから来たん?』 『広島の呉です。 今朝まで牛窓の前島にキャンプして、遊んでたんです。 今日は、犬島を観光しようと思うて』
『まさかあのカヌーで渡るん?』 私は笑いながら『いいえ、今日は定期船で渡ります』 『ほんま、ありがとうございました。 駐車場、行ってみます』
教えていただいた駐車場にクルマを停め、料金を支払うと、船の時間まで余裕があるので、しばし散策。 『せっかくやから、宝伝海水浴場へ行ってみよう。 出艇場所の下見もしたいし』

宝伝海水浴場からは、犬島は目の前。 駐車場もあるし、今度はここから犬島に渡ってみるとしよう。 『次回は、ここからタンデム艇で渡ってみようや』
港に戻る途中、海苔のお兄さんに再び会った。
『さっきはどうも、ありがとうございました』 『おお、これ、少しバクってやってみる?』
『え、いいんですか?』 『このままじゃあ海水じゃけ、あっちの水道水で洗うて食べてみんさい』

『ありがとうございます』

『この海苔は、乾燥させたらええ香りが出る。 生のままじゃと、香りは薄いがの』 水洗いした生の海苔を、妻と二人で試食させていただいた。
生まれて初めての生海苔の試食。 『なるほど、確かに香りは微かですね。 でも良い海の香りです。 ありがとうございました』
港に向かいながら妻と、『あの人、見た目はゴッツイけど、ほんまええヒトやね』
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8時の船で家島へ。

早朝だというのにさすがゴールデンウイーク、船は満席である。

9時から見学できるという、製錬所跡の見学チケットを購入し、時間までしばし島を散策。
9時。 製錬所跡見学の一番乗りである。

私は犬島訪問は2回目(
前回はカヤックで訪問)、妻は初めてであるが、製錬所跡の見学は二人とも初めてである。 廃墟見学は、なかなか興味深いものであった。
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見学後は、センターハウスのカフェで少し早めのお昼ご飯。

せっかくなので、地元の食材を使っているというお弁当、祭りずしを注文。

『おお、この酢漬けの”ままかり”、美味しいね』
『ごちそうさまでした』 食後は、船の時間まで再び島を散策。

きれいな庭。

離島の心地良い木陰。

塗り直されたばかりの櫓。

老人と靴。

犬島を後にする頃には、穏やかだった瀬戸内海に再び強い風が吹き始めた。

『荒れてきたね。 今日は、カヤックで渡らなくて正解だったなあ。 でも次回はぜひ、カヤックで一緒に渡ってみようや』
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風は強かったものの、なんとか二日間カヤックツーリングを楽しむことができ、日々のウオーキングもたっぷり堪能し、喫茶店のおばちゃんの半生記&かつての前島の貴重なお話を伺うことができた。

やはりシーカヤックの旅はキャンプツーリング。 一泊二日のツーリングは、日帰りツーリングの何倍も楽しいが、連泊ツーリングになると、さらに楽しさが倍増する。
訪れた地をじっくりと堪能することができ、たっぷりと時間を贅沢に使ってのんびりまったり地元を味わい尽くせる感じが、連泊ツーリングの醍醐味。
これで、また一つ旅の想い出が増えたなあ。

息子二人が成人となった子離れ夫婦の、『歩く、漕ぐ、観る』旅。 最高のゴールデンウイークだ。