あるくみるきく_瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内を中心とした、『旅するシーカヤック』の記録

『芸予ブルー』_テーマカラー of 印象派_”瀬戸内シーカヤック日記”

瀬戸内シーカヤック日記: 岡村島ツーリング&『旅する櫂伝馬プロジェクト』打ち合わせ

2010年01月25日 | 旅するシーカヤック
2010年1月24日(日) 前日の強烈な西風が嘘のように治まり、穏やかな冬の朝。 岡村島の、いつもの浜から出発した。

観音崎を回り、岡村島の南岸に沿って東進していく。 遠くには、しまなみ海道の橋が見える。
記念すべき『第1次瀬戸内カヤック横断隊』でも通った、岡村島と小大下島との間の水道を北上し、小大下島の小さな港へ入る。
 
小さな浜にシーカヤックを揚げ、しばし島を散策。 通りで話しておられた方に挨拶すると、『どっから来た?』 『前に、広島の人が一人でカヌーで来たことがあるよ』
『これからどこへいく?』 『大下島の付近は潮流が複雑やから気をつけよ』 『子供の頃、大崎上島まで泳いで行った事があったよ』などなど。 楽しい交流の一時。

『じゃあ、大崎上島の清風館の下の浜にでも行ってみます』
***
再び漕ぎ出し、バウを北東に向けた。 穏やかな小春日和の休日。 海面はまるで湖のように波もなく、空や景色が写り込んで美しい。 『あー、気持ちええなあ。 昨日とは全然違う。 今日漕ぎに出ることができて良かったあ!』
 
清風館下の静かで美しい浜で、しばし休憩。 温かい紅茶を飲み、大長みかんで糖分を補給。 『うーん、美味い』

その後は、大崎上島の南岸に沿って西進し、岡村島の正月鼻に渡って出発地点へと向かう。 御手洗との間の海峡の所に来ると、南西風が吹き始めており、最後の10分程は横波とサーフィン状態でのパドリング。
少し気を使いながらも、久し振りのプチ緊張感を楽しみながらゴールした。
***
午後3時過ぎ。 小長からのフェリーで大崎上島の明石港へと渡る。 今日は、夕方から『旅する櫂伝馬プロジェクト』の打ち合わせ。

実は、何ヶ月も探しまわって先日ようやく手に入れた貴重な古書、『あるくみるきくの槙皮船(まきはだふね)の特集号』では、槙皮の産地として大崎上島の明石が紹介されていたのである。 せっかく明石に行く事になったので、櫂伝馬の親分であるFさんに伝えたところ、槙皮の事が分かる所に案内してあげようということになり、近くにある資料館に連れて行っていただいた。
 
↑ 『あるくみるきく_瀬戸内の槙皮船』        ↑ 手に入れた『あるくみるきく』にも写真が出ていた槙皮工場の跡
 
F親分に案内していただいた資料館では、実物の槙皮や、槙皮を木造船に詰めるための道具、そして同じく『あるくみるきく』に紹介されていた『舟釘』も展示されている。 貴重な資料だ。

資料館を後にすると、F親分と『旅する櫂伝馬プロジェクト』の打ち合わせ。
実行予定日が決まり、潮流を考慮しながら出発時刻と寄港予定地、タイムスケジュールを想定していく。 ワクワクする一時。

打ち合わせが終わっても、『旅する櫂伝馬プロジェクト』の志(こころざし)や、将来ビジョン、そして大崎上島の町起こしなどの楽しい話題で盛り上がる。 いやあ、面白い。 まさに瀬戸内海洋文化の復興、創造そして継承である。
これはたまらんなあ。 
***
その後はF親分の家にお邪魔し、鍋をつつきながらお酒を酌み交わす。 『うーん、ビールが旨い』
宴の席には、F親分のお母さんも同席され、『この辺りは、昔とは変わりましたか?』 『昔はねえ、5時を過ぎたら三味線の音が聞こえてきよったんよ』という会話をきっかけに、おばあちゃんの波瀾万丈の一代記を聞かせていただきながら、宴は最高潮へ。

いやあ、最高に楽しいなあ。 『儂は、こんな一代記を聞かせてもらうんが、なにより好きなんですよ』
***
宴が終わると、そのままF親分の家に泊めていただき、翌朝は明石港まで送っていただいた。 『ありがとうございます。 本当にお世話になりました。 実行予定日も決まりましたし、私の方もいろいろと動いてみます』

ようし、これから準備や調整に頑張るぞ! 詳細が決まったら報告するので、皆さんもぜひ応援して下さい!

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瀬戸内シーカヤック日記: 地元の海で、冬の日帰りお散歩ツーリング

2010年01月17日 | 旅するシーカヤック
2010年1月17日(日) 朝起きると絶好のツーリング日和。 前日からニヤックをカートップし、日帰りツーリングセットも積み込んである。
今日は日帰りツーリング。 とっておきの、お気に入りのエリアに漕ぎ出そうか!
***
出艇地に到着すると、風もなく、空は澄みわたり、最高のコンディション。 今日漕がなくて、いつ漕ぐ? って感じの小春日和だ。

独り静かに漕ぎ出し、
 
美しい瀬戸内の景色を堪能し、小さな洞窟を潜り抜ける。
 
せっかくの好天。 寄り道していくつかの島を回り、約1時間半ほど掛けて、『なんちゃってプライベートビーチ』に到着した。
***
ここは、カヤックを始めた17年ほど前から通っているお気に入りのエリア。 透明度が高くきれいな海があり、人の手の入らない自然海岸が続き、独り静かにのんびりまったりと時間を過ごすには最高の場所である。
 
浜に上がるとまずはビーチコーミング。 昼食の準備をするテーブルや椅子になりそうなモノを探すのだ。
椅子にちょうど良い流木があり、ストームクッカーを置けそうな台も見つけた。 その他の収穫は、大きくてきれいな黄色のビーチグラスと、小型のサメかエイの卵。
 
ストームクッカーをセットし、お湯を沸かす。 今日のお昼ごはんは、『肉じゃがうどん』 コンビニ食材を利用した手抜きメニューだが、具がたっぷりで体も温まる。
食事を終えると、美しい冬の瀬戸内の景色を眺めながら、温かい紅茶。

2010年に入ってから最高の漕ぎ日和と思われる天気の中、誰も居ない小さな浜でゆったりとした時間を楽しみ、再びきれいな海を漕いで、出発した浜に戻った。 今日は、休憩時間を除き、実漕ぎ2時間ほどのツーリングを堪能した。
***
 
白砂青松の自然海岸が続き、海の透明度は最高で、条件によってはコバルトブルーに近い色を見せてくれる。 ここは沖縄の離島か! と錯覚するほどの、癒し系の景色。

瀬戸内をあちらこちら漕いでいるが、自然海岸としてはここが一番のお気に入り。
ここには、おいしい食事の店があるわけでも、興味深いお話が聞ける漁師さんが居るわけでも、素晴らしいキャンプサイトがあるわけでもないが、のんびりまったりと独り静かに過ごすには最高の場所だ。 何度来ても飽きることがない。

そして、ここの景色は17年前とほとんど変わっていないことが、なによりうれしい。 10年後、20年後にも、ここで同じ景色が楽しめるといいな!

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瀬戸内シーカヤック日記: あるくみるきく_お気に入りの旅の記録(家船の島、豊島)

2010年01月16日 | 旅するシーカヤック
ブログは旅の記録。 時折読み返すと、その時の旅の光景や出来事、人との会話が、ありありと浮かんでくる。
そんな自分の旅の記録の中で、一番のお気に入りが、『家船の島、豊島』を訪問した時の記録。

*** 以下、以前綴っていたブログから引用 ***

『明治初年以来これほど発達した漁浦はない。しかもこの地の漁民はどこまでも出かけてゆく。漁船は船の側面に番号がいれてあるが、その頭に府県の記号がかいてある。広島県はHである。そのHとあるものを対馬でも平戸でも五島でも、また天草でも見かけて、きいてみるとみんな豊島からきたという。(私の日本地図_瀬戸内海/芸予の海、宮本常一)』

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***

『マリちゃん』を出た後は、湊を歩いて挨拶してみても、はなしかけてみても、なかなか話が続かず、結局家船の漁師さんから詳しい話を伺う事ができなかった。

『沖からかえってきた若者達は退屈である。話しかけたらけんかを吹っかけてきた(私の日本地図)』 あの宮本常一でさえこう綴っている。 これも仕方なかろう。

***

それなら、豊島の銭湯『豊島温泉』にでも入って、汗を流し、何時間も島の集落を歩いた疲れを癒して帰ろう。 でも、銭湯が開くまでもう少し時間が有るので、日向ぼっこでもしようと、海沿いの公園へと向った。
広くて静かな公園の中を歩いていると、ベンチに腰掛けていたおばあさんに声を掛けられた。

***

『どっから来たん』 『こんにちは。 呉から来たんですよ。 今日は良い天気で気持ち好いですねえ』 しばらく四方山話を交わし、自然とおばあさんの隣に腰を掛けさせていただく。

ペリケースを開け、本を取り出し、『実はこの本を読んで家船に興味を持って、豊島に来てみたんですよ』 『えー、この本。 うんうん、家船ね』 『ここに写真が出てるでしょう』
『あらあら、ここに写っとる人は知っとるよお』

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***

70歳だというこのおばあさんは、数年ほど前まで(!)4つ年上だと言うご主人と一緒に家船で漁をしておられたそうだ! これも縁であろう。 エビス様、ありがとうございます。

『十八でじいさんと結婚して、それから50年近く漁に出よったんよ』 『豊後水道の方へ行って、太刀魚を釣りよった』

『午前中に聞いた話だと、和歌山の方にも出漁していた人が居られたそうですが』 『うん、そう。 私らも、35歳の頃には和歌山の方に行きよったねえ』

***

なぜこの豊島で家船文化が生まれ、これまで続いてきたのか?
今回の豊島訪問にあたり、家船の本を読み、Webで資料を探し、これまでの経験を加味して、私なりの仮説を立てて来ていた。

その仮説を検証するため、偶然出会ったこのおばあさんに、一つの質問をしてみた。 『なんで、遠くまで漁に行くようになったんですか?』

『十八で結婚した頃はねえ、そりゃあ貧しい暮らしじゃったよ。 小さい島で、兄弟も多くて。 島の廻りで鯛やタコやなんやら釣って、麦や芋や食べよったけどねえ』 『やっぱりお金を儲けるには、魚が多い所へ出て行かんとと思うて。 一生懸命働いて、船を造って、おとうちゃん、稼ぎにいこうやゆうて、それから遠くに行くようになったんよ』

『なあ、兄ちゃん。 人間言うたら十人十色じゃろう。 借金しとうない、遠くの知らん所へ行くのは嫌じゃ言うて、島の廻りで漁をする人も居るし。 大勢の人間が、この島の廻りの漁で食べていく事はできんけえ、地で漁をしたい言う人にはそこで漁をしてもらって、なにがあるかわからんけど、遠くに行って儲けちゃろう思うとるモンは遠出するようになったんよ』

『船造るいうても、エンジンとレーダーやらGPSやら、無線やらいうて付けよったら、3000万とか4000万とかかかるけねえ。 そりゃ太いけど。 かというて、安いもん付けよったら魚も獲れんよー』

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***

『そりゃあ、豊島は女の人が強いわい。 男の3倍は働くよね。 男の人は、漁が済んで、風呂入って、ご飯食べて酒飲んだら寝させるけど、女はそうはいかん。 片付けやら、洗濯やら、なんやかんやいそがしいじゃろ』

『洗濯させてもらうにしても、水をもらうにしても、寄留させてもらう所を見つけて、交渉して、やりとりするんは私らじゃけん。 水をもらうにしても電話を掛けさせてもらうにしても、お金を出してもダメじゃ言う人も居るし、お金なんかいらんいうて親切に分けてくれる人もおる。 人それそれじゃ。 親切にしてくれる人には、魚も分けるし、肉や野菜や灯油なんかもたくさん置いて、何倍にもして返すし』

斜め向いに座った私の膝を叩きながら、『なあ、兄ちゃん。 人は十人十色じゃ。 堅い生活しかでけん人も居るし、もうけちゃろう思うて外に賭ける人も居る。 十八でじいさんと結婚したが、この人なら間違いない。 ぜったいに私を養うてくれる思うて結婚したんよ。 ピョンピョン飛ぶほど元気じゃったし、いつもキョロキョロといろんなもんを観察しよったし。 この人なら間違いない思うたん。 人を見る目はあるんよ。 なあ、兄ちゃん』
と、またまたわたしの膝をポンポンと叩く。

***

『男は山を見て、海の底の形を知って、漁ができるようになるまで10年掛かる』

ペリケースを指しながら、『こんな平らな岩の上や、海の底には魚はおらんのよ。 この駆け上がりの所。 ここにおるんじゃけ。 下手に仕掛けを引っ張ったら、引っかかって仕掛けを取られて損するばあ。 じゃけえ、それを覚えるのに10年かかるんよね』

『豊後水道は波が高いけえ、昼間に料理するんは大変よ。 夜のうちによけいに作っとって、昼はそれを暖めるくらいかねえ。 煮しめとか、魚の汁とか。 それでも、波があるけえ、鍋を両手で押さえながら暖めたもんよ。 ほんまにすごい揺れてたいへんなん』

『太刀魚は、大きさによって分けて、5キロ毎に詰めていくん。 これを計るのが重とうてねえ。 一日に何回も何回も重たい魚を計るじゃろう。 肩が痛うて。 でも若い頃は、一晩寝たらなおりょおったねえ』

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***

『子供をね、島において漁に出るじゃろ。 それが辛うてね。 子供が大きいなってこの仕事の事を理解してくれるようになってうれしかったけど、やっぱり子供と離れて仕事するのは辛いよね』

『そうよ。 お節料理は、男の人が作るんよ。 うちのじいさんは、一番にエビス神社に行きたいいうて、毎年12時5分になったら煮しめを作りよった』 『前の日? だめだめ、12時前に作ったら、前の年のものになるじゃろ。 それじゃあだめよ』 『それでね、煮しめができたらそれを持ってすぐに神社へ行きよったよ。 あー、今年は2番じゃった、マンが悪いいうて、そんな負けず嫌いな人じゃったねえ』

『ケンカ? けんかはほとんどしたことないね。 またねえ、けんかしちょったら、不思議と魚が釣れんのよ』

***

情が深くて豪快で、明るくて気さくなおばあさん。 時にはここに書けない愉快でおもしろおかしい話しがとびだし、二人で笑い転げた。 『いやあ、そりゃあそうですよねえ。 ワッハッハ! こりゃあ面白い!』

気が付くと、1時間以上が過ぎていた。

『おばあちゃん。 本当に興味深い楽しい話を聞かせてもらってありがとうございました。 ええ勉強になりましたよ。 また豊島に遊びに来て会えたら、また話を聞かせて下さいね』

『じゃあね。 にいちゃん。 またね』

***

ああ、これぞ『あるく みる きく』旅の至福の一時。

***

『旅の途中から私はこう考える事にした。宮本常一がかつて旅して会った人をがつがつと捜すことは可能だが、それはやめよう。ゆっくりとその土地を歩きながら、旅が会わせてくれる人、宮本常一が会わせてくれる人にだけ会っていこう。それが旅なのではないか。 (宮本常一を歩く、毛利甚八)』

家船の事を漁師さんに聞こうと気負っていたが、結局毛利さんが言う通りだということに気が付いた。 そう、『旅が会わせてくれる人』にしか話しを聞く事はできないのだ。

ようし、じゃあ『豊島温泉』に行くか!

*** あるくみるきく_家船の島を訪ねて、豊島訪問(その3) ***

豊島を訪問した時の、最初の記録は下記です。
『あるくみるきく_家船の島を訪ねて、豊島訪問(その1)』

やはりブログはいいなあ。 旅の記録を残すには、私にとって最高のメディアである!

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瀬戸内シーカヤック日記: 瓢箪島&大山祇神社、そして大漁

2010年01月11日 | 旅するシーカヤック
2010年1月10日(日) 土曜日は出勤日だったので、この週末の休みは日曜と月曜。 1月の内には一度、海の神様である『大山祇神社』に参拝しておきたいということで、久し振りに大三島を訪問することとした。
せっかくだから、前から気になっていた大三島の食事処/居酒屋もチェックする事にしよう! という訳で、今回は車中泊での一泊二日の旅。
***
朝、しまなみ海道に向けてニヤックを積んだアテンザワゴンを走らせながら、『さあて、今日はどこで漕ごうかな?』
夜は大三島で車中泊することは決めているのだが、それ以外は行き当たりばったり。 いつも通り、『風の吹くまま気の向くまま』の、風来坊の旅である。

しまなみ海道を走っていても、天気はいま一つ。 気温もそれほど高くなく、なんだか長距離を漕ごうという気にならない。 『ようし、今日は瓢箪島にするか!』、という訳で生口島でICを降り、浜へと向かった。
 
瓢箪島と言う事で、片道20分程度のお散歩ツーリング。 少し風があるものの、今日は潮が小さく、この辺りを漕ぐには絶好のコンディション。
 
瓢箪島をグルリと回り、浜に上陸。
いつもの様にストームクッカーでお湯を沸かし、最近お気に入りの『金ちゃんヌードル』とおむすびで、簡単なお昼ごはん。

冬の静かな瀬戸内の海。 誰も居ない小さな無人島の浜で、独り静かに海を眺め、風を感じ、ゆったりと過ごす一時。 私には、こんな時間が必要なのだ。
 
***
浜に漕ぎ戻り、シーカヤックと道具を片付けると、瀬戸田の町を散策。 まずは、歴史民俗資料館へと向かった。

三連休だと言うのに、見学しているのは私一人。 一回りして入口に戻り、受付の年配女性の方に聞いてみた。
『ハゼつぼ、というのがあるんですね。 蛸壺は知っていましたが、ハゼ壺というのは初めてです』 『そうでしょう。 みなさん、珍しいって言われますよ』
『どちらから来られました?』 『はい、呉からです』 『近いんですね』 『ええ、さっき海水浴場から出て、瓢箪島までカヌーを漕いで来たんです。 時間があるんで、久し振りにこの辺りを歩いて見ようと思って』 それからしばしお話を伺う。

『生口島は、今は観光ですけど、昔は漁業や農業の島だったんですか?』 『昔はねえ、塩田が沢山あったのよ。 この近くの沢港のあたりから東に向けて、ずーっと塩田だったそうよ』 『その頃は賑やかだったんでしょうね』 『そうよね。 塩田を経営していた人たちの家は豪邸が多いのよ。 このすぐ傍にもあるけど、土台は墓石にするような大きくて立派な石』

『すぐ隣にある高根島は、みかんの島。 気候が良いから、おいしいみかんができるのよ』 『なるほど。 海のすぐ傍にみかん畑があって、そのうえ地形が急傾斜だから、日当りも良さそうですよね。 大長みかんで有名な、大崎下島の大長もそんな地形です』

『みかん農家はどうなんですか?』 『やっぱりやる人が減っていきよるね。 昔ほど値段は高くないし、作業は大変じゃし、働きに行った方がお金になるもんねえ。 でも高根島は、農家も大きい家が多いし、おいしいみかんができるから、続けよる人が多いよ』 『みかん畑も、やめたら一年でだめになるいうていいますね』 『そう。 それにね、つくるのをやめたら、隣のみかん畑の人らが迷惑なんよ。 やめたいうて放っといたら、残ったみかんの樹に虫がくるじゃろう。 それが隣の畑にやってきて駄目になる』 『えー、そんなことがあるんですね。 確かにそうだなあ』

『いろいろ教えてもらってありがとうございました。 今から商店街を散歩してみます』 『ゆっくり回っていきんさい』

昔の風情が残る町並みを散策。
 
生口島名物の蛸。 できたての、ズラリと並んだレモンケーキ。
***
しまなみ海道で、今日の宿泊予定地である大三島へ。 今回の目的、海の神様である『大山祇神社』に参拝する。
 
『今年一年、海旅の安全を見守って下さい』

***
参拝の後は、港までの古い商店街を散策し、お気に入りの温泉マーレグラッシアで潮抜き。 『あー、さっぱりした!』

お風呂から上がると、ちょうど日没前。 海沿いにクルマを停め、しばし瀬戸内の夕暮れを堪能した。
 
刻一刻と移り変わる、妖しく美しい瀬戸の夕日。 これだけでも、ここまで来た甲斐があると言うものだ。
 
***
駐車場にクルマを停め、荷物を片付けて車中泊の準備を終えると、今日の夜の目的である『大漁』へ。

ここは、ネットでも評判の食事処。 セルフサービスのお店だが、お昼には行列ができるほどの人気店だとか。
でもせっかくなら、ゆっくりと一杯飲りたいというのが人情だ。 と言う訳で、今日は車中泊とあいなった。
 
ガラリと引き戸を開けて店に入ると、ほぼ満席。 『ごはんものですか? 今日はもう、丼ものや寿司はできそうもないんで』 『いや、お酒が飲めればと思って来たんですが』 『そうそう。 そういう人ならちょうどいいよ』

ズラリとならぶ料理の数々。 冷蔵ケースには刺身やサラダ、漬け物、冷や奴も。 これはいいなあ。
『生ビール一つ下さい』 ビールをグビリと飲り、おいしい蛸天をガブリ。 『旨いなあ!』

『あの、今なら丼ものが少しだけできるそうですけど』 『じゃあ、海鮮丼お願いします』
 
『はい、海鮮丼。 これ、ごはんが酢飯になってますから』 小振りの丼ではあるが、たっぷりと刺身が載ってなんと380円也。 安いなあ!

ビールを飲りながら、お店の方々とお話しさせていただく。 カウンター席のすぐ後ろがレジになっているので、お店の人とお話しするにはちょうど良い場所なのだ。

『このお店はいつからですか?』 『始めたのは5年位前かね』 『夜は地元のお客さんが多いんですか?』 『そう。 昼は、観光客の人が多くて入れないから、地元の人は夜に来てくれるんですよ。 それに、昼は待ってる人が多いから、落ち着いて飲める雰囲気じゃないし』
『いやあ、そうですか。 やっぱり夜来て正解でした。 それと、このカウンターがなんだか落ち着いて良い感じです』 『そうでしょう。 席が一杯で、こっちに座ってもらったら、ここで良かったって言う人が多いんですよ』

『ところで、この近くの商店街は、昔は賑やかだったんでしょうね』 『橋ができる前は、みんな船で来てたでしょう。 そのころは、それは賑やかだったですよ。 春市の時なんか、沢山の屋台が出て、学校も休みになってました。 その頃の子供は、春市が楽しみでしたねえ』
***
『すみません。 お酒、ぬる燗で』 『はーい』
***
『うちはねえ、リピーターが多いんですよ。 それと、ネットの情報とか口コミで来て下さる人が多いんです』 『それは分かりますよ。 雰囲気もいいし、おいしくて安い。 俺もまた絶対来ますよ』 『来た時に私がもし顔を忘れてたら、前来た時にカウンターで飲みました、って言って下さいね。 そうすれば思い出すと思うから』

『なんだか、さっきから味噌汁を注文する人が多いですね』 『ええ、意外と人気なんですよ。 四国の今治や松山は麦味噌が多いんだけど、本州側は違うらしくて、広島から来られた人たちは珍しがって気に入って下さるんです』 『じゃあ、私も一杯いただけますか』

『お酒、無くなりました? 飲み終わったら出しましょう』 『はい、もう少しでなくなるんで、大丈夫です』

〆の味噌汁。 うーん、香ばしい匂い。 『これ、好い香りがしますね』 『そういってもらえると嬉しいです』
一口すすると、『おお、これは美味い!』

おいしい料理とビール、お店の方々との楽しいお話、そして〆は絶品味噌汁。 これはまた良い店を見つけたなあ。
大三島に通う頻度が高くなりそうだ!
***
大満足で駐車場に戻り、久し振りの車中泊。 翌朝は、天気が良ければ漕ごうと思っていたが、あいにくの曇り空。
しばらくすると、ポツリポツリと雨も落ち始め、家路につくことにした。

瓢箪島へのお散歩ツーリングと年始の大山祇神社参拝、そして念願だった『大漁』での一杯と、冬のしまなみ海道をたっぷりと堪能した週末。 これからも『しまなみ』の穴場を、少しずつ発掘していきたいなあ!

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瀬戸内シーカヤック日記: 2010年漕ぎ初め_ブログが結ぶ縁

2010年01月02日 | 旅するシーカヤック
2010年1月2日(土) 今日は朝から晴れて気温も高い。 目が覚めて、久し振りの青空を眺めていたら、なんだか無性に漕ぎたくなってきた。 『今日、日帰りでちょっと漕いでくるけえ』
早速着替えて日帰りツーリングセットを準備し、シーカヤックをカートップ。 『じゃあ、音戸に行ってくる。 ちょろっと漕ぐだけやから、2時位には戻るわ』

という訳で、2010年の漕ぎ初めは、地元の海に決定。 ここは家から一番近い出艇地であり、2002年にカヤックを始めた頃、練習やツーリングによく訪れていたお気に入りの場所の一つである。
***
家から30分弱で、いつもの浜に到着。 駐車場に入り、クルマを停めようとすると驚きの光景が目に飛び込んで来た。

なんとそこには3艇のシーカヤックが並んでいたのである。 クルマのハッチは開けられ、道具も置いてあり、どうやら出艇準備中の様子。

瀬戸内の私が漕いでいるエリアでは、あまり他のシーカヤッカーに会う事がない。 それにこの浜は、地元の私もシーカヤックを始めるまで知らなかったほど、あまり知られていない場所なのに、そこにシーカヤックが3艇も! しかもクルマは県外ナンバーである。

『それにしても、県外から来て1月2日からこんなマイナーな場所で漕ぎ初めとは変わってるなあ』と思っていると、3人の方が準備を始められた。 男性2名、女性1名のグループである。

『こんにちは。 今日、ここから漕がれるんですか?』と聞いてみると、男性の方が『ええ、情島の辺りを漕いでみようと思ってます』との事。 『ところでどちらからですか?』 すると、『関西と東京からです』と驚きの答え。
逆に、『ここにはよく来られるんですか』と聞かれたので、『そうですね。 この辺りは日帰りツーリングコースなんで今は年に数回ですが、17年位まえにカヤックを始めた頃はよく練習やツーリングに来てたんですよ』

*** 17年前 ***


↑ カヤックを始めた頃の写真。 奥ノ内湾で偶然出会ったカヤッカーが、持参していたポラロイドカメラで撮影した写真を、私に下さったもの。 遠くに写っているのが、情島である。 『ポラロイド写真』というのも、時代を感じさせる。
17年前は、ウエアも種類が少なく高価だったので、普通のスポーツウエアやヤッケ、ゴム手袋などを着用して漕いでいた。 初めて買ったカヤックは、中古のファルトボート、フジタカヌーのSG-1。 このフネで、瀬戸内や錦川、江ノ川などを漕いでいた。 いやあそれにしても17年前というと、まだ20代。 懐かしいなあ。

*** ブログが結ぶ縁 ***

『ここにはよく来られるんですか』と聞かれたので、『そうですね。 この辺りは日帰りツーリングコースなんで今は年に数回ですが、17年位前にカヤックを始めた頃はよく練習やツーリングに来てたんですよ』
すると、『もしかして、ブログやっておられますか?』 『はい、瀬戸内シーカヤック日記っていうんです』 『あるくみるきく、ってやつですよね』と、これまた驚きの答えが返ってきた!

『ここもそのブログを読んで来たんですよ。 情島のツーリング記事がありましたよね。 ここに来て景色を見たら、ブログの写真と一緒なんで、ここに間違いないと思いました』 『いやあ、そうなんですか。 県外の人が、こんなマイナーな場所を知っているなんて不思議だなって思っていたんですよ』
そういう事だったのか!

『あのブログに書いてあった「北吉鮮魚店」も行ってきました。 残念ながら、店では食べることができなくて、持ち帰りだけでしたけど』 『あそこは、盆や正月の忙しい時期には、持ち帰りだけの営業なんですよ。 でもほんと、あの『さしみ屋さん』は良いですよ! 今度は普通の休日に行ってみて下さい』

その後もしばしお話しさせていただき、ゴールデンウイークや盆正月の休みになると3人で全国各地を漕いでまわっておられる事や、今回は宮島辺りを漕いだ後、倉橋島に来られた事などなどを伺った。

ここ数年、瀬戸内や日本海に漕ぎに行ったとき、偶然出会ったカヤッカーの方々から、『ブログの方ですよね』とか、『ブログ見てます!』と声を掛けていただく事が少なくない。 また、いただく年賀状にも、複数の人から『ブログ見てますよ』と書いていただいていることがある。
本当に嬉しいことだ。 ブログを続けていて良かった!

グループの方々の邪魔をしないよう、『じゃあ私は先に出ます。 気をつけて、ゆっくり楽しんで下さい』と、先に出発。

***
 
今日の相棒は、エルコヨーテのワークショップで仕上げた『グリーンランドパドル』 アークティックウインドは、サブに回ってもらう。
キャンプツーリングの時はナローブレードの『アークティックウインド』を愛用しているため、このグリーンランドパドルの出番は、日帰りツーリングで年に数回程度ではあるが、自分の手のサイズに合わせて仕上げてあるため手にしっとりと馴染み、ブレードに浮力もあって漕ぎやすい、ナローブレード派の私にはお気に入りのパドルである。
***
瀬戸内らしい穏やかな冬の海。 気温も高く、快適なパドリング。
 
情島、小情島、鈴鹿島と辿り、奥ノ内湾へ。 
 
空気はキリリと引き締まり、海はスッキリと透明度が上がっている。 その空気と海の透明感が、冬のツーリングの楽しみの一つ。
***
お気に入りの浜に上陸し、浜を散策して大きな木の板を見つけた。 岩場にセットすると、快適な調理台兼イスの出来上がりである。
 
11時。 少し早いが、ストームクッカーをセットしてお湯を沸かし、カップラーメン(金ちゃんヌードル)とおむすびの昼食。 食後は、美しい瀬戸内の景色を眺めながら、テルモスに詰めてきた温かい紅茶で一息いれる。
***
帰りは、弁天島に立ち寄り、2010年の海旅の安全を祈願。
 
快適な海を、グリーンランドパドルで漕ぎ進み、漕ぎ初めは無事終了!
***
出発地点に到着すると、3人の方々は先に戻ってきておられた。 情島を一周されたとの事。 カヤックと道具を片付けながら、再びお話しさせていただいた。

『この辺りは、瀬戸内でもマイナーな場所です。 今度は是非、とびしま海道や、しまなみ海道あたりを漕いでみて下さい』  『ええ。 実は、この前ブログに書いてあった岡村島も気になっているんですよ』
『あの辺も良いですよ! またこっちの方に来ることがあったら連絡ください。 予定が合えば、ご案内しますから』
***
『あるくみるきく_旅するシーカヤック』 このブログを通じて、瀬戸内の海旅の魅力が少しでも伝えられているなら、とてもうれしいことだ。
これからも、10年、20年(66歳か!)と旅の記録を続けて行く事で、『芸予諸島エリア』のシーカヤック旅情報なら『瀬戸内シーカヤック日記』と言われるようになるといいな。

朝の好天で思いついた、地元の海での漕ぎ初め。 そこで、こんな偶然かつ驚きの出会いが待っているとは!
まさに”ブログが結ぶ縁”。 2010年は、漕ぎ初めから幸先の良いスタートである。

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