あるくみるきく_瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内を中心とした、『旅するシーカヤック』の記録

瀬戸内シーカヤック日記: あるくみるきく_地元の銭湯にて、『オコゼとワラビ』&『イカとツゲ』

2010年08月08日 | 旅するシーカヤック
2010年8月7日(土) 一日掛かった調べものと頭の整理を終え、家族で晩ご飯を食べると、無性に銭湯に行きたくなってきた。
この銭湯は、息子達が小学生と幼稚園だった15年以上前から時々通っており、昔は酒造りにも使われていたという井戸水の水風呂が人気のお風呂屋さん。 当時は週末になると、俺と長男が幼稚園児だった次男の左右の手をつなぎ、真ん中の次男が楽しそうにぶら下がりながら、三人で銭湯に通ったものである。

そんな彼らも20歳と18歳。 平日は仕事で、休日は友人達と過ごす時間で忙しくなった長男とは、最近、一緒に行動する事はほとんどなくなった。
駄目もとで銭湯に誘ってみると、珍しく『行ってもいいよ』との事。 今日も暑かったから、大きな風呂でゆったりと汗を流して、サッパリしたいらしい。
***
彼に回数券を一枚渡し、『じゃあ行こうか』

銭湯への道すがら、隣を歩く彼を見上げながら、時折交わす会話。 『仕事はどうなんや?』 『うん、いろいろ面倒なこともあるけど、なんとかやっとるよ。 連休明けに出図があるし、担当部品があるから忙しくなりそう』
『この前の出張はどうやった』 『あれは無事終わって、報告書も書いた』

昔は小さかったのにこんなに大きくなって、しかも今では働いて給料をもらっているなんて、未だになんだか不思議な感じである。 俺も歳をとるはずや!
***
銭湯に着くと、それぞれお気に入りの風呂へ。 俺の今日の目的は、ミストサウナで汗を出し、水風呂で体を冷やす事。 この銭湯のサウナと水風呂は人気があり、井戸水で当たりが柔らかい事もあって、それ目当てで来る常連さんも少なくない。

まずは普通のお風呂に入って体を温める。 うん、そろそろいいかな。
サウナのドアを開け、中に入ると、顔見知りの常連さん二人が居られた。 『こんにちは』と挨拶し、空いている一番奥へ。
ミストサウナだから50℃程度の温度だが、時間が経つと全身から徐々に汗が噴き出してくる。 汗とともに一日の疲れが出て行くようで、なんとも気持ちが良い。
10分程度汗を出すと、サウナから出て汗を流し、水風呂へザブリ。 『あー、気持ちええ』 井戸水だから、ぬるくもなく冷たすぎることもない、なんとも言えない快適な水温なのである。

サウナに入り、水風呂に浸かる。 これを何度も繰り返すと、次第に脳と体がシャキッとしてくる。
***
一人でサウナに入っていると、別の常連さんが入って来られた。 『あ、こんにちは。 ご無沙汰してます』 『お、来とったんか。 この時間に来るんは珍しいじゃないか』 『ええ、今日は晩ご飯を食べてから来たもんで』

『それにしても、よう焼けとるのお。 あんたあ、外の仕事じゃろう。 何しよるんな?』 苦笑いしながら、『いやあ、それが事務所の中での仕事なんですよ。 パソコンでいろんな資料を作りよります』

するとおじさんも笑いながら、『ほうか。 わしゃあ、外での仕事とばっかり思うとった』 『こがあに焼けとるんは、休みの日に海で遊びよるけえです。 海でカヌー、シーカヤックいうのを漕いで遊びよるんですよ』

『よう、自衛隊や漁師に間違われるんです』 『ほうじゃろう。 わしもあんたを最初に見た時は、漁師か思いよったわ。 人は見かけじゃ分からんのう』 この銭湯の近くには漁師町もあり、常連さんには本物の漁師さんも居られるのだ。 漁師と思われていたとはうれしい限り!

サウナの中で、しばし、その方が昔やっておられた造船所や製鉄所などでの設備関係の仕事のお話を伺う。

*** 『オコゼとワラビ』 ***

サウナから出て水風呂で体を冷やし、再びサウナへ。
先に入っておられた、良く日に焼けた常連のおじさんと話していると、気になる一言が。

『この前、祭りが四日間あったんよ。 でもわしは昼間に酒を飲むのは好きじゃない。 みんな昼間から飲みよったが、わしは夜だけみんなと一緒に酒を飲んだ』
もしかして。。。 『その祭りって、なんですか?』 『管絃祭よ』 やっぱり! うん、やはりこの方こそ、本物の漁師さんだったんだ!
そしてあの漕船にも関わっておられるという! なんとも嬉しい偶然。

『じゃあ、延崎の方ですか?』 『ほうよ。 わしゃあもう55で歳じゃけえ行きとうないいうんじゃが、櫓を押すのを若いやつに教えてくれいうて、連れて行かれるんよ』

『ほんま、わしも漕船と櫓を見せてもらいましたが、確かにあの櫓は大きいですもんねえ』 『前の方の人間は、技術も何ものうても、力で押しゃあええ。 でも、後ろの櫓は舵取りの役目もあるし、鳥居の奥の狭い所でしっかり回らんといけんから、経験があるもんが居らにゃあいけん』

『今の若い奴らは、あーじゃこーじゃ理屈ばっかりいうて、何十年かしたら櫓じゃのうてエンジンで漕船を走らすようになるかもしれんのう』と笑う。 『まあ、儂らの目の黒いうちはそがあなこたあさしゃあへんが』 『ほらあほうですよ。 長い伝統があるんじゃけえ、手漕ぎでなかったらいかんです』
***
そうこうしていると、別の常連さんが入って来られ、別の話題に。 これがまた興味深い話なので、私も混ぜていただく。

『そうよ。 オコゼに刺されたいうたら、おばちゃんが、【仕方ないねえ、あれ持ってきんさい】いうてワラビの干したのを持ってきて、鍋でグラグラ煮立てて、【さされた指をこの湯に浸けときんさい】いうて言われよった』

『今はええ注射があるが、昔はそがあなもなあ無いけん、ワラビを使いよった。 漁師の船には、ワラビの干したんを必ず持っとったもんよ』 『早いもんなら1時間、普通で2時間くらい浸けとったら痛みがとれる。 その間は動かれんが、【ズーッと痛いのと、これに2時間浸けとくんとどっちがええんね】いうておばちゃんに怒られるけえ、じっとしとったもんよ』

『それにしても、ワラビが効くいうて、どうやって見つけたんかのう。 昔の人は偉いわい』

*** 『イカ籠とツゲの木』 ***

『コウイカを獲る籠がある。 あの中にはツゲの木を入れるんよ。 そしたらイカがようけ獲れる』
『おそらく、昔の人はいろんな木を入れて試したんじゃろう思う。 竹を入れたり、他の木を入れたり。 でも結局、ツゲの木が一番ええ。 よう見つけたもんよ』 『すごいですね。 まあ、昔の人は時間はたっぷりあったんでしょうから、いろいろ試したんですね』 『ほうじゃろうのう』

『実際、海の中でツゲの木を見たら、その葉がイカの卵に見える。 じゃけえ、イカが入ってくるんじゃろう』 『イカが入ると、蟹やエビも入る。 そしたら蟹を狙って鯛も入ってくる。 鯛なんか、籠の入口より大きいのが入るんよ。 じゃけえ、入ったら出られんようになる』

『昔はイカを近所に持って行ったら、そのお返しにいうてビールやタバコをくれよった。 今じゃあ、イカ持ってってもビールもタバコもくれんよ。 物価は上がっても魚の値段は昔と変わらん』
『何十年も前。 当時のサラリーマンの月給が5万くらいのころ、わしらは漁で月に30万くらい儲けよった。 仲間と飲みに行って、キャバレーをハシゴしても、2万ありゃあベロベロになるまで飲めよったもんよ』 『今でも、イカが獲れる漁はそんなに減っちゃおらんけど、値段が変わらんけえ、そがあに儲かりゃせん』

私が、『前に情島の人から、サワラ漁の事を聞きました。 昔はえかったらしいですねえ』と言うと、『そうそう。 昔はサワラ漁がえかったよ。 あの情島の沖がええ漁場で』 『近い所で漁ができるけえ、油もちょっとしか要らんかった。 今じゃあ遠くまで、ドラム缶くらい油を使うて獲りに行くけえ、油代ばっかり掛かる』

『それにしても、あと何十年かしたら大変な時代になるんじゃないかのう。 電気も油も使えんようになって、昔みたいな生活に戻る。 今の若い奴らは、そがあな暮らしはできゃあせん。 ほんま、大変な時代が来る。 わしゃあ、そがあな気がするわい』

***

常連さんから思わぬ興味深いお話を聞くことができ、とても楽しい一時を過ごした。 お風呂で体をあたため、ミストサウナで汗を流し、井戸水の水風呂で体を冷やして体のコンディションもばっちりだ。

『さあて、もう少ししたら帰るで』 長男に声を掛け、仕上げの水風呂に入った。

地元の銭湯でのはだかの付き合い。 体と心がくつろぐ、最高の社交場である。 これも、いつまでも残っていて欲しいものの一つだ。
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