ブログ 「ごまめの歯軋り」

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松本サリン事件被害者河野氏の心のひろさに打たれる

2006年12月18日 | 時事問題
asahi.com 2006年12月18日06時09分
松本サリン事件で服役の元信徒と河野義行さんとの交流続く
 オウム真理教(アーレフに改称)による94年6月の松本サリン事件で、サリン噴霧車の製造にかかわり服役した40代の元男性信徒が今年6月から、被害者の河野義行さん(56)の自宅=長野県松本市=を訪れるようになった。6回目の訪問となった17日には、後遺症で意識の戻らない河野さんの妻澄子さん(58)を施設に見舞った。事件から12年。「おわびの気持ちを伝えたい」という元信徒と、その気持ちを受け入れた河野さんの交流が始まった。

「家に来ることで罪の意識を自己完結させたいなら、来ればいい」。河野さんは言う。教団幹部や元教団代表松本智津夫・死刑囚の子供たちとも会ってきた。「罪を犯した人に世間は冷たい。相応の罰を受けた限りは普通の人だ。そのような人たちが受け入れられる世の中が理想的だ」。河野さんにはそんな思いもある。

松本サリン事件被害者河野氏自身が犯人と疑われた苦しさから乗越えて心が大成されたようだ。これぞ宗教的境地でないだろうか。

「犯人を許さない」というのはよく聴く言葉であるが、この河野さんの心の広さはどうだ。妻は未だ意識不明のまま横たわっているにもかかわらず、この犯人を受け入れる気持ちは常識をはるかに超越している。警察は事件当時河野さんを疑った。弁護士一家拉致事件のときも、オームのバッチが落ちていたにもかかわらずオームを捜索しなかった。警察のオーム事件勃発当時の捜査には疑問が多い。地下鉄サリン事件でテロ事件として公安が動いて始めて一連のオーム関連犯罪の実態が明らかになった。私もこの事件以来警察の捜査能力には絶望している。

東山三十六峰とは

2006年12月18日 | 京都案内
先日南禅寺大方丈(国宝)を拝観した時、宗務所(庫裏)で貰った「東山三十六峰」のリストを紹介する。北から順に記す。「東山三十六峰静かに眠る丑三つ時、にわかに聴こえる剣戟の響き」とは幕末維新の講談のさわりです。又なだらかな優美な形から「ふとんきて ねたるすがたや ひがしやま」とも謳われています。

比叡山、御生山、赤山、修学院山、葉山、一乗寺山、茶山、瓜生山、北白川山、月待山、如意ヶ岳、吉田山、紫雲山、善気山、椿ヶ峰、若王子山、南禅寺山、大日山、神明山、栗田山、華頂山、丸山、長楽寺山、双林寺山、東大谷山、高台寺山、霊山、鳥辺山、清水山、清閑山、阿弥陀ヶ峰、今熊野山、泉山、恵日山、光明峰、稲荷山

以上の三十六峰が記されていた。ちなみに京都地図であったって見ると、七つの山名は確認できた。しかしほかの山名はどうも見つからない。よく見ると寺の名に過ぎない山が多い。もう少し勉強して文献をあたってから分れば報告します。
(追記)
検索して調べたところ、各山の位置や高さ、行き方などが分りました。自分の地図が粗かっただけの事らしい。TOSHIさんのホームページへ行って見て下さい。

環境書評 松井孝典著 「アストロバイオロジー」 岩波新書(2003年5月初版)

2006年12月18日 | 時事問題
20世紀に地球環境問題をはじめ、資源・エネルギー問題、人口問題、食糧問題など様々な問題が噴出した。20世紀末からこれらの問題を人間中心的、環境倫理的、経済成長至上主義的に考えても満足な解が得られないままに21世紀に突入した。状況は危機的様相を呈している。これらは人間文明の問題と総称できるが、宇宙から地球を見る視点で太陽系、地球、生物圏、人間圏の起源と歴史を総覧するとき、極めて冷徹に運命を理解できる。とてつもない長い時間での法則(物質の生起と消滅)から現在の文明の将来を見つめる事は、最近にない知的興奮であった。
例えば人間活動由来のCO2ガスによる地球温暖化は短期的な観点であり、CO2ガス濃度と地球表面温度はフィードバック制御がかかっている(CO2ガス濃度上昇―地球温暖化―CO2ガス濃度低下)。むしろ太陽光度の変化により大気中のCO2ガス濃度が著しく影響されることは常識である。ビッグバン以来宇宙の膨脹と太陽の温度上昇は宿命的に継続して地球表面温度の上昇をもたらしCO2ガス濃度は減少して生物圏は消滅し、地球はいずれマグマとなって蒸発する。もちろん5億年後のことであるが、その前に人間文明はその地球環境破壊によって近い将来自滅するかもしれない。地球の蒸発は別として短期的に人間文明の破綻をどう軟着陸させるのかが人類の最後の知恵にかかっている。右肩上がりの経済成長論やバブル待望論は破綻にいたる時期を短縮する意味しかもたない。持続可能な経済の解がはたしてあるのか。
著者は地球惑星学者であるため、生命科学、哲学社会思想の章と、地球外生命に興味を持っている点は紹介しない。あくまで宇宙の起源と運命から来る結論に重点を置いて書評を行いたい。

1)「暗い太陽のパラドックス」 太陽光度変化と地球の運命   
1926年ハッブルは遠い銀河ほど早い速度で遠ざかる事を発見し(宇宙の膨脹)、現在ではハッブル時間から宇宙の始まり(ビッグバン)を137億年前と推定した。太陽は45億年前に誕生して以来、水素の核融合により太陽は縮小して中心圧力が増し太陽温度は上昇している。したがって昔太陽は暗く地球表面温度は低かったはずであるが、38億年前地球表面温度は零度以上あった。これを「暗い太陽のパラドックス」という。暗い太陽光度では海水の蒸発による降雨は少なく大気中のCO2ガス濃度減少は抑制され、火山ガス活動のCO2ガス発生は一定なので前に述べたフィードバック制御により暗い太陽光度下でCO2ガス濃度は上昇し温室効果で地球温度は低下しなかった。しかし長い目で見れば太陽温度上昇のトレンドは変らないので、地球上の海水蒸発は増加し降雨のため大気中のCO2ガス濃度は低下する。5億年後には大気CO2ガス濃度は1/10以下になると推測され、光合成に依存する植物相は絶滅しその捕食関係にある動物を含めて生物相が消滅する。さらに海と地殻の消失により20億年後には地球は金星と同じマグマ体(赤色惑星)となってガス化し太陽に吸収される運命にある。

2)「文明のパラドックス」 地球の構成要素と人間圏=文明の歴史   
地球システムの構成要素は地球中心からコアー層、マントル層、大陸地殻、海洋、大気層、生物圏、人間圏、プラズマ層(電離層)、磁気圏からなる。全ての構成要素には力関係が働いて一時的な調和が成立しているように見えるのが地球圏である。その関係に深刻な影響を与えているのが人間圏の『文明』である。現人類が文明を開始したのは1万年前である。最初は狩猟採取生活で他の生物と大差はなかったが、人間が森から出て農耕牧畜を始めて以来自然変革の文明期に入った。農業文明は一定の物質・エネルギーを利用するフロー型人間圏を作っていたが、18世紀あたりから工業文明という急速な物質・エネルギー移動を特徴とするストック型人間圏になり人口が膨脹した。やがて科学技術の急激な進歩により人間圏の無制限な拡大が地球環境を破壊する20世紀型人間圏となった。この文明の進歩が地球圏ひいては人間圏の存立を脅かす事態を『文明のパラドックス』という。文明の最大問題が今日の地球環境問題である。人間圏が生まれたため地球システムの物質やエネルギーの流れが変り、流れが変れば地球システムの他の要素も変る(これを地球の汚染という)。したがって地球環境問題を善悪や倫理の問題と捉えるのは人間中心主義にすぎず解決にはならない。OECDが提唱する「持続的発展」は地球システムの中で安定な人間圏を議論することである。

3)宇宙・地球・生物圏の歴史と将来   
宇宙と地球と生物圏・人間圏の起源と運命は、気が遠くなるような時間スケールであるが、太陽系には始まりがあり終わりがある。地球にも人にも終わりがある。この観点が知的生命体にとって大切であろう。我々が文明を築いて、たった1万年で地球環境問題や資源・エネルギー問題などの文明のパラドックスを抱えている。地球規模の文明、つまり地球規模の人間圏を作る段階にならないと知的生命体は宇宙の歴史を解読できないが、人間中心的な発展はもうできなくなる。

4)人間圏の現状と未来   
現在科学文明が何時まで持続できるかは、人間中心主義か否かで結果は全く異なる。20世紀型文明の持続は、識者の見解によっては100年から500年(核融合、燃料電池などがうまくいって)と言われている。情報社会と個人のネットワーク、物の所有形態、製品の機能開発(レンタルの思想)などを議論しなければならないが、まだ人には見取り図さえ持たない。

小林秀雄全集第9巻「文芸批評の行方」より「文芸批評の行方」

2006年12月18日 | 書評
「文芸批評の行方」

小林氏は文芸作品対批評という図式から批評の従属関係や理論のなさを嘆いておられるよだが、私たちにはそんな泣き言に付き合う必要はない。批評たるものがあるとすれば当然対象たる作品がなければなるまい。「近代小説なるものの伝統がわが国では薄弱だから、これが近代文学批評にもその軽薄さと支離滅裂さが付きまとう。文芸批評の伝統がないから岡目八目的批評が横行する。」 こういう情況が今日でも存在するのかどうか。それが厭なら独立して小説なぞは対象にしなければいいのではないだろうか。小林氏が開拓された古典を対象とした独立した評論がそのいい例であろうか。