ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 豊下楢彦著 「集団的自衛権とは何か」(岩波新書)

2015年07月27日 | 書評
集団的自衛権という日米安全保障体制の強化はさらに日本を危険な道に誘い込む 第11回

第6章 日本外交のオルタナティブ(第3の選択肢)を求めて (その2)

 ここにデヴィッド・レイ・グリフィン著 「9.11事件は謀略かー21世紀の真珠湾攻撃とブッシュ政権」(緑風出版2007年9月)という本がある。9.11同時多発テロ事件をブッシュ大統領の自作自演謀略と見る説もある中、一連のテロ事件の最後に起きた「炭疽菌テロ事件」は何とも歯切れの悪い事件であった。2001年10月「炭疽菌」粉末を入れた封筒が政府機関に送り付けられ、5人が死亡した事件である。当初政府とメディアはアルカイダの仕業と発言していたが、この菌の遺伝子解析によってメリーランドにある「陸軍感染医学研究所」(生物兵器製造研究)が保管していた炭疽菌と一致した時から、事件について沈黙と抹殺が行われた。これについて語ることはタブーとされたのである。この文脈で類推すると9.11事件そのものが「テロとの戦い」を標榜するブッシュ大統領の謀略を感じさせるものとなった。国民が新型生物兵器の効果を確認する動物実験にされたとみられる。1975年に発効した生物兵器禁止条約は「紳士協定」で実効性を持たず、1995年から検証議定書を作る多国間交渉がまとまり2001年春に草案ができた矢先に、ブッシュ大統領はこれを葬った。疑惑の中心は米国にあったからこれを潰す作戦に出たのであろう。同じことは1997年に発効した化学兵器禁止条約においても見られる。禁止条約事務局長のブスター二氏を2002年に解任した。ブスター二氏は加盟国を広げ、イラクの条約加盟を進めてきたが、査察の手続きになればブッシュのフセイン打倒という計画に齟齬を来すことになるで解任されたとみられる。米国は1998年国内法で「安全保障上の脅威となるなら査察を拒否できる」と決めていた。条約というものは参加国の平等性(対等性)が原則であるが、ブッシュ大統領は核拡散条約NTPと同様、化学兵器、生物兵器条約でも、「米国の特権的立場」を維持しようとし、認められなければ条約を潰すか、自国だけは査察を受けないという「差別性」を主張した。核不拡散問題では、北朝鮮とともにイランの核開発問題が切迫してきた。国連安保理で一連の制裁決議が可決され、米国がイラク戦後処理が落ち着いたらイランに武力攻撃をおこなうことも危惧されている。イランの核開発問題の解決には、まず「核拡散をめぐる西側のダブルスタンダード」を止めることで、「中東全体の非核地帯宣言」が必要である。ダブルスタンダードとは、イランの核開発には反対しながら、イスラエルの核保有は黙認しているという欧米諸国の立場のことである。イスラエルが1000発近い核弾頭を保有していることは常識となっている。しかもイスラエルはNPTに加盟していない。なぜ欧米諸国はイスラエルの「特権的立場」を認めてきたのだろう。1969年ニクソン大統領とイスラエルのメイア首相の会談で、イスラエルは核保有を認めたという。そこで米国のキッシンジャー補佐官は、イスラエルが核保有を極秘にするなら米国は黙認するという了解が成立したようだ。米国はホロコーストの道徳的責任はないにもかかわらず、米国がイスラエルを支持する根拠は何かというと、金融資本を通じた「イスラエルロビー」の存在である。このダブルスタンダードを背景にイスラエルの核保有が黙認されたために、インドやパキスタンがNPTの枠外で次々と核保有国となり、北朝鮮がNPTから脱退して核実験を行い、イランの核開発が問題となっているのである。このダブルスタンダードが核拡散を許してきた元凶である。要するに示しがつかないのである。唯一の被爆国である日本が非核3原則を堅持して核不拡散を国是としてきた実績から、イスラエルの核保有問題に切り込み、核不拡散の方向性を示すことが中東で果たすことができる「国際貢献」である。2006年3月米国とインドは原子力協定を結んだ。しかも原子炉16基のうちIAEAが査察できるのは8基のみで、あとの8基は軍事用なので査察を拒否している。この「差別」に反発したパキスタンは7月にプルトニウムを抽出できる原子炉の建設に着手するという。米国がその時の短絡的なご都合主義でインドを優遇すると、パキスタンの核開発に拍車をかけ、そこへテロ組織が乗じる危険性が増すのである。脅威を増殖する役目を米国が行っている。

(つづく)