ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 豊下楢彦著 「集団的自衛権とは何か」(岩波新書)

2015年07月26日 | 書評
集団的自衛権という日米安全保障体制の強化はさらに日本を危険な道に誘い込む 第10回

第6章 日本外交のオルタナティブ(第3の選択肢)を求めて(その1)

国民に対する嘘とごまかしでなければ、おぼっちゃまのきれいごとに過ぎない安倍政権の集団自衛権問題を巡る日米関係の「双務性、対等性」についてはこれまでで明らかになったが、本章では対米従属でない日本外交の新しい選択肢を模索する。まず日本外交の国際貢献について考えてゆこう。発展途上国という概念が存在したが、東京大学国際政治学の田中明彦氏は安全保障からこれを「混沌圏」と呼び、世界の脅威はここから生み出されるという。田中氏は世界の不安定性から先進国を守るための制度としての安保条約の存在意義を確認する。しかし本当に先進国はその役割を果たしているのだろうかを、旧ユーゴ紛争で検証することにしよう。旧ユーゴ紛争は東欧共産圏の崩壊によって、チトー大統領のまとめた独自の社会主義国が分解される過程で生まれた。この紛争の主たる原因が「大セルビア主義」を掲げることによって各民族の民族主義をあおりたてたセルビア共和国の指導者ミロシェビッチ氏にあるとされている。しかし問題は先進国たるEC欧州共同体の対処法であった。処置を誤るとバルカン戦争の事態になりかねない。1991年スロヴェニアとクロアチアが独立を宣言すると、ECは元イギリス外相キャリントンを議長とするユーゴ和平会議を発足させ和平の仲介に乗り出した。独立の認定基準として「少数民族の法的保護体制」の確立を決めたが、ドイツはクロアチアの独立を承認する方が戦争拡大を防止できるとした。ECはドイツに引きずられる形で、クロアチア、ボスニアヘルツェゴビナの独立を承認した。そして民族間のボスニア内戦となり泥沼の紛争に発展した。ECではドイツの責任を糾弾したが、紛争の調停にあたる先進諸国が紛争に油を注ぐ愚を犯したのであった。1995年国連事務総長であったガリは紛争「予防外交」を唱え、緊張を緩和させることや紛争拡大を阻止する外交であるとしたが、旧ユーゴ紛争ではECの外交は「紛争拡大外交」になってしまった。そしてNATOによる空爆という事態では完全に紛争当事者になった。これは「介入」と言われる。大国の介入で暗躍するのが武器輸出業者である。国連常任理事国にドイツを加えた6か国だけで兵器輸出の81%を占め、米国だけで46%と圧倒している。火に油を注ぐ軍産複合体と言われる戦争拡大政策によって利益を得る団体が世界の最も不安定要因となるのである。武器輸出3原則によって、公的には兵器輸出を行ってこなかった唯一の国である日本の立場こそが、紛争地域への兵器輸出禁止条約の国際的な枠組み形成を主導する役割を担えるのである。

(つづく)