ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 豊下楢彦・古関彰一著  「集団的自衛権と安全保障」(岩波新書)

2015年07月11日 | 書評
集団的自衛権の憲法解釈変更の閣議決定は日本の安全につながるのか 第13回

第2部 憲法改正と安全保障 (古関彰一)
第2章 「国防軍」の行方


自民党の憲法改正草案の一番の眼目は「国防軍の創設」である。今後太平洋戦争のような総力戦があるだろうか。国土を焼土と化し数百万人が戦死するような戦い方は人類の経験として今後まずありえない。むしろ限定された戦争となり、先進国同士が戦う戦争もないだろう。つまり仮想敵国を先進国に求めての準備はありえない。2012年に行われた内閣府の世論調査では、自衛隊の防衛力は現状程度でよいとする意見が圧倒的で、自衛隊の目的は「災害派遣」83%、「国の安全確保(侵略防止)」78%となっている。ではなぜ自民党は自衛隊を国防軍に名称変更したいのだろうか。米国の国防省を意識し、陸海空のみならず、海兵隊や緊急援助軍も統合する柔軟な組織を念頭においているからだろう。「有事法制」は平時から戦時への移行できる法制である。すでに自衛隊は戦時の準備をしている。しかし「開戦規定」は存在しない。現にある「周辺事態法」(1999年)では、関係行政機関の長は地方自治体の長に権限の行使に関して必要な協力を求めることができるとされる。又国以外の者に対して必要な強力を依頼することができる。つまり民間人を動員できるということである。昔の軍属にちかい。自民党憲法改正草案にある「軍と国民」の関係を見てゆこう。例えば武力攻撃事態法では国民の協力第6条があり、国家総動員法に近い国民の組織化が可能となる。戦争とは政府が相手国に宣言し、事前に通告する必要がある。不意打ちやゲリラ戦は戦争ではなく紛争である。しかも戦闘員は軍隊に限られ、一般国民は戦闘に加わることはできない。民間人が戦争に参加することは国際法違反であり、捕虜としての保護も受けられない。自民党の憲法改正草案には開戦規定も交戦規定もない。世界中にそのような軍隊法は存在しない。2000年に交戦規定を訓令で部隊行動基準をさだめたという。法ではなく訓令という行政命令である。現日本国憲法は「特別裁判所」を禁止している。自民党の憲法改正草案では国防軍に審判所を置くという。今の日本には軍法会議や皇室裁判所、行政裁判所(行政機関は終審として裁判を行うことができない)などは認められていない。すべての普通裁判所とは最高裁判所の系列に属する。現存の知的財産高等裁判所や家庭裁判所は普通裁判所への上訴を定めているので特別裁判所ではない。裁判所とは人権擁護が目的なのである。自民党の憲法改正草案は国防審判所を海難審判所のような行政機関の審判所をイメージしながら、じつは軍法会議をもくろんでいるようだ。旧軍法会議に類似した国防審判所を想定しているなら軍事警察(憲兵)が必要となり、軍事刑法の整備が必要となる。時代錯誤的「戦前レジーム」への回帰が、安倍首相が属する保守勢力の理想とする「美しい日本」の実態なのである。そして必ずや天皇を担いで自分たちのやりたい放題をするに違いないのである。御輿は軽いほうがいいとは小沢氏の言葉であるが、無力な天皇ほど利用しやすい楯はない。

(つづく)