ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 豊下楢彦・古関彰一著  「集団的自衛権と安全保障」(岩波新書)

2015年07月09日 | 書評
集団的自衛権の憲法解釈変更の閣議決定は日本の安全につながるのか 第11回

第1部 「集団的自衛権」症候群 (豊下楢彦)
第4章 中国の脅威と「尖閣問題」


 石原元東京都知事が2012年米国で尖閣諸島買い上げ論をぶち上げて、同年9月に民主党野田内閣が国有化を宣言してから、日中関係は劇的に悪化した。挑発者は言うまでもなく自称タカ派石原慎太郎氏である。乗せられた野田首相は消費税増税と尖閣諸島国有化宣言、武器輸出3原則の緩和という3つの政策決定で、自民党でさえできなかった悪役を演じてしまったあきれたおバカさんである。「尖閣問題」については、豊下楢彦著 「尖閣問題とは何か」(岩波現代文庫 2012年)に詳述されている。石原氏の意図は明確に中国を挑発し怒らせて軍事的衝突に持ち込むことで、アメリカの介入を呼び込むことであった。そして日本をナショナリズムで一色とし、一気に右傾化国家に変質させることにあった。こうした国有化決定を引き金に、中国各地で反日デモや反日暴動が繰り返され、尖閣諸島には連日中国船舶が侵入することが日常化され、日中関係は未曽有の緊張状態となった。日中関係の緊張は日本側からの挑発にあるとみたオバマ大統領は安倍首相に対して、挑発的行動をとるなという警告を発した。アメリカは尖閣諸島の3島を射爆地として使用してきておりながら。その領有権に関しては中立の立場を表明した。1971年の沖縄返還協定の締結において、安保の対象領域であると言いながらどこの国の土地かは知らないという態度は不可解である。この日米間の矛盾を中国は鋭く突いてきた。しかし歴代自民党内閣はこのことでアメリカに抗議した形跡はない。1972年田中角栄内閣が中国との国交正常化交渉において、周恩来首相と「尖閣問題の棚上げ」を図り、棚上げを続けることが最も賢明な道筋であることに日中間で合意が成り立った。オバマ大統領は記者会見で安保5条の適用を言明する一方、「話し合いによる平和的解決の重要性」を強調した。安倍首相に対して「事態がエスカレートしていくことを放置するなら、それは根本的な誤りである」と言明したと明らかにした。このような不毛の領土ナショナリズムで国家関係が悪化するのは、ナショナリズムを記事としてもてはやすメディアの体質にも問題があり、5輪ナショナリズムについてもいえる。ナショナリズムは言論を1色にし、他の言論を抑圧する傾向にある。東京オリンピックにかかる費用を、首都機能の分散、東北の復興、福島の原発事故処理に、急ぎ投じるべきであると豊下楢彦氏は主張するのである。

(つづく)