アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

死刑廃止へ、必要な情報公開と市民の議論

2022年10月11日 | 日本の政治・社会・経済と民主主義
   

 10月10日は「世界死刑廃止デー」でした。世界死刑廃止連盟(WCADP、本部=パリ)が2003年に定めました(写真左は同連盟の2020年のポスター、刑事弁護OASISのサイトより)。

 死刑廃止は世界の趨勢です。10年以上執行していない事実上の廃止国を含め144 カ国が廃止しており、存置国は55カ国。いわゆる「先進国」といわれるOECD加盟国38カ国の中で死刑制度を残しているのは、米国、韓国、そして日本の3ヵ国だけです。

 米国は23州で廃止し、3州が執行停止を宣言。韓国は20年以上執行していない事実上の廃止国です。(以上、第二東京弁護士会の2021年10月10日の声明より)

 日本は世界の趨勢からも歴史の進歩からも立ち遅れた異常な死刑執行国です。ほぼ毎年執行されており、今年も7月、秋葉原事件の加藤智大死刑囚に対する執行がありました。

 なぜ日本は“死刑後進国”なのか。

 その理由の1つは、死刑に関する情報が閉ざされており、その実態が知らされていないことです。たとえば、次のような事実がどれほど知られているでしょうか。

< 日本の死刑は法務大臣の命令によって、全国7カ所の拘置所で執行される。執行方法は刑法で絞首刑とされ、1873年の太政官布告で決まってから変わっていない

 死刑囚は目隠しされて首に縄をかけられ、足元の踏み板が開いて下の部屋に落ちる。3人の刑務官が一斉に3つのボタンを押すと、どれか1つが作動して踏み板が開く。

 かつて国は、執行の事実すら公表していなかった。情報公開の要請が強まるなかで1998年から執行した人数、2007年から氏名や犯罪事実、執行した場所も公表するようになった。

 ただ、死刑囚の生活状況や執行対象がどのように選ばれたのか(確定死刑囚は今年7月時点で106人)、実際の執行に問題がなかったかなど、具体的な運用は明かしていない。>(9月23日付朝日新聞デジタル)

 日本の死刑執行が同じ存置国アメリカと比べても大きく違うのは、死刑囚に執行が宣告されてから執行されるまでの時間の短さなど、死刑囚の人権が尊重されていないことです。

< 日本では死刑が確定すると、面会や文通など、外部との接触が非常に厳しく制限されます。執行が知らされるのは当日の朝。監房を出てから執行までは約1時間だと言われます。

 当日の朝に執行が知らされるというのは、権力に対する防御権、異議を申し立てる権利が保障されていないのではないかという問題をはらんでいて、裁判にもなっています。

 米国ではいつ死刑になるか、本人も弁護士もメディアも市民も、わかっている。取材など、さまざまな防御がとれる。多くの市民が意見を表明できる。制度としてみんなが考えられる状態になっているのです。

 日本では、死刑のことは知らなくていい、究極の権力行使は僕たちがこっそりやる、という姿勢です。同じ死刑存置国でも、プロセスにこんなに格差があるのです。>(佐藤大介・共同通信編集委員、「アムネスティ・ニュースレター」2022・9・10月号。写真右地図の黄色は2021年に死刑を執行した18カ国、同ニュースレターより)

 絞首刑という方法が約150年前の明治天皇制政府の太政官布告から変わっていないことに象徴されるように、死刑制度は国家権力の「寄らしむべし、知らしむべからず」という人民支配の典型といえるでしょう。それが死刑囚だけの問題でないことは明らかです。

 まず死刑の実態を知ること。そのために情報を公開させること。執行宣告から執行までの時間を見直すこと。そして市民が死刑の存否を自分事として考え議論すること。死刑廃止は国家権力の人権抑圧・専制支配を許さない喫緊の課題です。

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「クリミア橋爆発」は“軍事侵攻”ではないのか

2022年10月10日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ南部クリミア半島とロシアを結ぶクリミア橋で8日早朝、トラックが爆発し、貨物列車に引火して3人が死亡しました。これはウクライナ戦争の性格が変わってきていることを示す象徴的な出来事です。

 ウクライナ政府は公式には認めていませんが、「複数のウクライナ・メディアは、ウクライナの治安機関が工作を仕掛け、爆発させたと伝えている。…ニュースメディア「ウクライナ・プラウダ」は「爆発はウクライナ保安局(SBU)の特別作戦だ」と伝えた」(8日付朝日新聞デジタル)。

 また、米ニューヨークタイムズは、ウクライナ政府高官の話として、「ウクライナ情報機関が橋を走っていたトラックに積まれた爆弾を使って計画」と報じました(9日午後7時のNHKニュース)(写真右)

 ゼレンスキー大統領は8日、SNSであらためて「クリミア奪還」に意欲を示しまた(写真中)。

 ウクライナ大統領府のポドリャク長官顧問はSNSで、「これが始まりだ。違法なものはすべて破壊されなければならない」「盗まれたものはすべてウクライナに返還されなければならない」と述べました。

 クリミア橋の爆発(攻撃)がウクライナ当局によるものであることは明らかでしょう。これは「徹底抗戦」を超えたウクライナによる“軍事侵攻”と言えるのではないでしょうか。

 ウクライナ戦争の性格が変わったのは、8月9日からです(8月24日のブログ参照)。この日、ゼレンスキー大統領はビデオ演説でこう述べました。

戦争はロシアのクリミア半島占領から始まった。半島の解放で終わらなければならない

 ロシアによる軍事侵攻(2月24日)の当初、ゼレンスキー氏は、侵攻前の状況に戻すことが「停戦・和平」の条件だとしていました。それが侵攻から半年後のビデオ演説で、ロシアが8年前に併合したクリミア半島を「解放」(奪還)するまで戦うと宣言したのです。今回のクリミア橋の爆発がその「始まり」であることは明らかです。

 「クリミア半島の解放」を目標とする限り、戦争の長期化・泥沼化は必至です。プーチン氏が黙って引き下がるはずはないからです。核兵器使用という最悪の事態を招く危険性がますます高まります。

 ウクライナが8年前の「クリミア併合」までさかのぼるなら、当然「マイダン革命(クーデター)」が問題になります。「マイダン革命」を裏で糸引いたアメリカ政府の責任も改めて問われなければなりません(3月28日のブログ参照)。

 さらにその背景にあるNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大も問題にしなければなりません。
 ゼレンスキー氏が「クリミアの解放」へ戦略転換した背景には、アメリカはじめNATO諸国の兵器・軍事支援があります。
 ウクライナ戦争は文字通り、ロシアとNATOの戦争に発展しかねません。

 また、8年前にさかのぼって「ロシアの国際法違反」(ゼレンスキー氏)を俎上に載せるというなら、同じくイラクやアフガニスタンなどで「国際法違反」を繰り返してきたアメリカの責任・犯罪性も改めて問わなければなりません。

 “軍事侵攻”の応酬は戦争を長期化・泥沼化させるだけです。ウクライナが主張する「クリミアの解放」は停戦後の外交交渉で議論すべきです。

 必要なのは戦闘を停止することです。国連はじめ国際機関が一刻も早く「停戦・和平」の調停に乗り出すことが切望されます。


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日曜日記218・アントニオ猪木と力道山と在日差別

2022年10月09日 | 日記・エッセイ・コラム
   アントニオ猪木(1日死去)は朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)を33回訪問し(1994年9月~2018年9月)、「スポーツ交流による日朝関係改善を訴え続けた」(1日付朝日新聞デジタル)。
「日朝交流に努めることが、故郷へ帰りたくても帰れなかった師匠への恩返しになる」と考えたのだという(同)。

 師匠とは力道山(1924~63)だ。中学生の時にブラジルに移住した猪木は、17歳の時に遠征で訪れた力道山にスカウトされ、日本プロレスに入団した。

 猪木は、「力道山はとても怖い人だったが、私の父親といっていい存在でした。弟子として力道山イズムを引き継いだのは私だけ」と語っていた(同)。

 キャッチフレーズの「燃える闘魂」についてもこう話している。
「闘魂とは何か。俺は自分自身に打ち勝つことだと解釈している。晩年のおやじ(力道山)が好んで使った言葉で、ずっと大切にしてきた」(2日付琉球新報)

 力道山は猪木をどうみていたか。力道山夫人の田中敬子さんはこう述懐する。
「付き人だった猪木さんには厳しく接していました。今思うと、それは期待の大きさの裏返しだったと思います」「猪木さんが朝鮮側と特別な関係を築けたのは、猪木さんが力道山の直弟子だという理由も大きいと思います」(月刊「イオ」8月号)

 猪木は頻繁に朝鮮を訪れただけではない。ある時、安倍晋三元首相と会食し、朝鮮との交渉についてこう進言した。

「制裁というカギをかけたのは(第1次)安倍内閣。カギを解く合鍵や暗証番号を持っているのは安倍さんしかいませんよ」「拉致問題の解決はもちろん大事だが、いきなりその話だけをするのではなく、日朝関係の将来の話もしながら、拉致問題にもきちんと触れる。そんな話し合いが大切ですよ」(同朝日新聞デジタル)

 力道山(本名・金信洛)ははじめ相撲界にいた。関脇まで進んだが、親方から「朝鮮人は横綱にはなれない」と言われ、プロレスに転進した。以後、朝鮮出身であることを公表することはなかった。在日朝鮮人差別が身に染みていた。しかし、力道山の方は日本人・日本に親愛の情を持ち続けていたという。田中敬子さんはこう明かす。

「力道山の必殺技・空手チョップは3回連続で繰り返すんです。「勇気」「元気」「日本復興」という3つの思いを込めていたそうです」(同「イオ」)

 猪木が力道山の遺志を継いで朝鮮との交流を図ったのは、「恩返し」もあっただろうが、移民としてブラジルに渡り、マイノリティとして味わった苦労が力道山への敬慕につながったのではないだろうか。

 幼いころ祖父母に預けられていた私は、おじいちゃん子で、よく一緒にテレビを見た。祖父は大のプロレスファンだった。とりわけ力道山に心酔していた。「リキさん、リキさん」と呼んでいた。60年以上前の話だ。

 兵卒の軍服姿の祖父の写真を見たことがある。戦地に赴いていたのだろう。アメリカのレスラーを倒す力道山に熱い拍手を送ったのは、戦争体験と関係があったのかもしれない、と今にして思う。

 祖父は力道山が在日であることは知らなかったはずだ。もし知っていたら、それでも「リキさん」と親しみを込めて呼んだだろうか。呼んだだろうと信じたい。

 国籍や人種、民族に関係なく、人が人として尊重し合える、尊敬し合える社会にしたい。

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「北朝鮮抗議決議」衆参全会一致で可決の異常

2022年10月08日 | 日本の政治・社会・経済と民主主義
   

 国会は「北朝鮮による弾道ミサイル発射に抗議する決議案」を衆議院(5日)、参議院(6日)でいずれも全会一致で可決しました(写真左・中)。きわめて異常で危険な事態と言わねばなりません。

 「決議」はとうてい賛同・容認できるものではありません。その理由は次の5点です。

 第1に、「決議」は朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対し、「一連の挑発行動」「更なる挑発行動」と繰り返しています。しかし、朝鮮の「ミサイル発射」は、度重なる米韓合同軍事演習、さら日米韓合同軍事演習への対抗です。朝米シンガポール会談合意(2018年6月12日)に反して合同軍事演習を繰り返す挑発を行ってきたのはアメリカであり、それに追従する韓国、そして日本です。
 「決議」はそれを完全に逆転させています。問題の発端である合同軍事演習については一言も触れていません。

 第2に、「決議」は「日米韓の情報共有を含む連携を強化し…」「米国、韓国等と緊密に連携し…」と繰り返しています。これは日米軍事同盟と米韓軍事同盟を事実上一体化させ、日米韓3国の軍事協力体制の強化を求めたものに他ならず、きわめて重大です。

 第3に、「決議」は「北朝鮮の行為は、関連国連安保理決議及び日朝平壌宣言への違反」だと断じています。しかし、「関連安保理決議」はアメリカはじめ核大国が自らの膨大な核・ミサイル保有・実験を棚上げした完全なダブルスタンダードです。

 「日朝平壌宣言違反」というなら、「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大な損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」という宣言の根幹を踏みにじっている日本政府の「宣言違反」をこそ問題にしなければなりません。

 第4に、岸田文雄首相は4日記者団に対し、「北朝鮮のミサイル」への対抗として「あらゆる防衛力の強化」を改めて表明し、浜田靖一防衛相は同日、「反撃能力」という名の「敵基地攻撃能力」の保有への強い意欲を示しました。自民党内からも稲田朋美元防衛相や佐藤正久外交部会長らから同様の発言が相次いでいます。

 岸田政権・自民党が「北朝鮮のミサイル」を口実に憲法違反の「敵基地攻撃」に踏み切る危険性がきわめて強くなっています。「決議」はその点には一言も触れておらず、結果的に政府・自民党の狙いに同調(あるいは容認)する役割を果たしています。

 第5に、「北朝鮮のミサイル」を口実に、ネット上などでは「朝鮮学校をつぶせ」などのヘイトスピーチが氾濫しています。外国人人権法連絡会(田中宏・丹羽雅雄共同代表)は6日、「国等に対し緊急に在日コリアンに対するヘイトクライムを止める具体的行動を求める声明」を出しました。

 「ミサイル」や「拉致問題」を口実にして在日コリアンに対するヘイトスピーチ、ヘイトクライムが横行するのが、日本社会の恥ずべき暗部です。「決議」はそうした在日差別を助長する危険性を持っています。

 以上のような重大な問題・危険性をもつ「決議」が、日本共産党を含む与野党の共同提案で、れいわ新選組を含む全ての政党の賛成で可決されたことは、日本の政治の堕落、国会の翼賛化を顕著に表すものと言わねばなりません。

 そんな中、沖縄選出の高良鉄美参院議員(写真右)が唯ひとり、「決議」を棄権しました。

 高良氏は6日、「(決議は)北朝鮮の脅威を煽って、日米軍事同盟の強化を正当化し、基地負担に苦しむ沖縄への更なる負担を正当化する意図が見て取れる」というコメントを発表しました(7日付琉球新報)。

 高良氏は3月の「ウクライナ決議」にも棄権しました。暗闇の中の一条の光と言えるでしょう。できれば「棄権」ではなく「反対」して「全会一致」に風穴を開けてほしかった。



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ウクライナ政府の「プーチンとは交渉せず」は正当か

2022年10月07日 | 国家と戦争
   

 プーチン大統領は9月30日の「4州併合」演説でこう述べました。
「ウクライナに、直ちに戦闘を停止し、交渉の席に戻ることを求める。私たちはその準備ができている」(写真左)

 これに対し、ゼレンスキー大統領は直ちに、「プーチンとは交渉しない」と述べるとともに、NATO(北大西洋条約機構)への加盟申請を行いました。
 そして、ウクライナ政府は4日、「プーチン大統領と交渉するのは不可能」と正式に決定しました。

「プーチンとは交渉しない」―このウクライナ政府の決定は正当でしょうか。

 ロシアでプーチン氏に代わる大統領が生まれる見通しがない状況で、プーチン氏と交渉しないということは停戦・和平交渉を事実上拒否したことになります。それはすなわち、泥沼の戦争が続くということです。

 プーチン氏の「交渉呼びかけ」が軍事侵攻・「4州併合」の合理化・固定化を図ろうとするものであるのは確かでしょう。しかし、停戦交渉のテーブルにつくことはけっしてロシアの主張を認めることではありません。

停戦は、降伏と明確に異なる。戦争の結果とは無関係だ。領土・帰属問題の決着や戦争犯罪の取り扱いは、むしろ戦闘行為が中断されてから時間を掛けて議論すべきだ」(伊勢崎賢治東京外大教授、5月20日付琉球新報)

 なにより重要なのは1日も早く戦闘を中止することです。それはウクライナ、ロシア双方の犠牲者をこれ以上出さないだけでなく、戦争によっていっそうの食糧難に苦しんでいる途上国の人々の生活と命を救う上でも喫緊の問題です。

 さらに、環境保全の点からも停戦は急務です。UNEP(国連環境計画)のアンダーセン事務局長はNHKのインタビュー(6日放送)で、戦争がウクライナの動物・自然環境に深刻な汚染を広げているとし、「戦闘を一刻も早く終結させなければならない」と訴えています。

 ウクライナ政府の今回の決定、さらには「徹底抗戦」という一貫した方針の背景に、アメリカをはじめとするNATO諸国のウクライナへの武器供与・軍事支援があることは明らかです。バイデン米大統領は、4日のウクライナの決定を受けて、ゼレンスキー大統領との電話会談で、さらに900憶円の追加軍事支援を行うと約束しました。

 ウクライナ戦争は、ロシアと、ウクライナを前面に立てたアメリカ・NATOとの戦争でもあると言って過言ではないでしょう。

 ロシア、ウクライナ双方が直ちに戦闘を中止すべきです。ゼレンスキー大統領はプーチン大統領との交渉のテーブルにつくべきです。
 そしてその交渉が実を結ぶように、国連など国際組織が中立の立場で交渉の調停を行い、国際社会はそれを支援する必要があります。


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「山県有朋と伊藤博文」と安倍晋三氏

2022年10月06日 | 日本の政治・社会・経済と民主主義
   

 「安倍晋三国葬」の弔辞で菅義偉前首相が、伊藤博文の死にあたって山県有朋が詠んだ短歌(岡義武著『山県有朋』岩波文庫所収)を引用したことから、同書に対し「書店から注文が相次ぎ…岩波書店は…急きょ重版を決めた」(9月29日付共同配信)といいます。ため息の出る話です。

 安倍氏はなぜ『山県有朋』を愛読していたのでしょうか(4日付朝日新聞デジタルによれば、同書を安倍氏に薦めたのはJR東海元会長の故葛西敬之氏だったとか)。

 山県有朋は伊藤博文とともに明治藩閥政治で中心的役割を果たしましたが、「終身現役軍人」でもあった山県が主に担ったのは、帝国日本の軍事分野でした。

 幕末は高杉晋作の「奇兵隊」に所属し、官軍として戊辰戦争に参戦。明治政府での最初の配属は兵部省。1871年には西郷従道らと「徴兵制」施行の「建議書」を太政官に提出しました。やがて陸軍の全権を掌握するようになり、1882年には軍人勅諭を制定しました。

 1889年、現役軍人のまま首相となり第1次山県内閣が発足。最大の課題は、「利益線」(朝鮮半島)を確保するための軍備増強でした。

 1894年には枢密院議長として大本営メンバーとなり、日清戦争開戦を決定。自ら朝鮮半島に渡って戦闘を指揮しました。

 1898年、第2次山県内閣を組閣。ここでも取り組んだのは大軍拡とそのための増税でした。

 1904年の日露戦争も山県は御前会議で開戦決定に参画。大本営メンバーとして戦争指導の中心にいました。

 1906年、元老として「帝国国防方針案」を明治天皇に上奏。翌年、天皇が承認して帝国日本の正式な軍事方針となりました。

 1910年には大逆事件をでっちあげて幸徳秋水らを弾圧しました。

 こうして、明治天皇制政府の軍隊制度を築き、軍拡を推進し、侵略戦争・植民地支配の先頭に立ち、社会運動を弾圧する中心に居続けたのが山県有朋です。

 一方、伊藤博文が初代総理大臣として明治政府の中心にあり、初代韓国総監として植民地支配を推進したのは周知の事実です。

 山県と伊藤は、ときに対立することもありましたが、山県は第1次伊藤内閣(1885年)で内務大臣、第2次伊藤内閣(1898年)では司法大臣を務め、個人的にも親しい盟友でした。

 2人の共通点はなんといっても、同じ長州藩出身で、吉田松陰の門下生だったことです。

 吉田松陰こそは、「蝦夷を開拓し…琉球に諭し…朝鮮を責め…北は満州の地を割き、南は台湾、呂宋(ルソン)諸島を収め、進取の勢を漸示すべし」(『幽囚録』)と主張するなど、侵略・植民地支配、「大東亜共栄圏」思想の先駆者でした。

 山県は主に軍事面で、伊藤は主に行政面で、ともに松陰の思想を忠実に実行した生涯だったといえるでしょう。

 そして、同じ山口県出身の安倍氏は、同じく吉田松陰を信奉・敬愛し、「150年前の先人たちと同じように…行動を起こすこと」(2018年1月、「明治維新150年」の首相談話)と明治政府を礼賛してきました。

 安倍氏が、自衛隊増強・軍事費肥大化をすすめ、戦時性奴隷(「日本軍慰安婦」)・強制動員(「徴用工」)問題で植民地支配責任を隠ぺいし、朝鮮学校無償化排除などで在日朝鮮人を差別し、憲法を蹂躙する専制的政治を続けてきたことをみれば、安倍氏は山県有朋、伊藤博文の2人が担ってきた帝国主義支配の軍事・行政の両方を推進してきたといえるでしょう。

 菅氏は安倍氏の「国葬」で山県の伊藤への弔歌を引用しましたが、その伊藤の死は、苛烈な植民地支配に対する朝鮮民族の怒りが引き起こした安重根によるハルビン駅での銃撃(1909年10月26日)でした。歴史のめぐりあわせと言うべきでしょうか。

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Jアラート騒動が示した「ミサイル防衛」の虚構

2022年10月05日 | 日米軍事同盟と朝鮮・韓国
  

 4日午前7時27分、NHKなどテレビは一斉に放送を中断し、「北朝鮮によるミサイル発射」のJアラート警報(写真左)を流し、特番を組みました。Jアラートの発信は2017年9月15日以来5年ぶりです。

 日本のメディアは相変わらず「北朝鮮の挑発」という日本政府の言い分そのままの報道を繰り返しています。しかし、今回を含む最近の朝鮮民主主義人民共和国の「ミサイル発射」が、9月26日から日本海で行われている米韓合同軍事演習、それに続く30日からの5年ぶりの日米韓合同軍事演習(写真中)に対抗したものであることは明らかです。挑発しているのは日米韓の方です。

 一方、今回のJアラート騒動で改めて明らかになったことがあります。それは、政府・防衛省が膨大な予算を投入している「ミサイル防衛」なるものはまったく役に立たない虚構だということです。

 J アラートの内容と政府の発表によって時間的経過を振りかえってみましょう。

7:22ころ ミサイル発射
7;27 Jアラート(1回目)が「ミサイル発射」を告知し、北海道と東京都の島々に避難指示
7:28~29ころ ミサイルが青森県上空を通過
7:42 Jアラート(2回目)が「ミサイル通過」を告知し、北海道と青森県に避難指示
7:44ころ ミサイルは太平洋上のEEZ(排他的経済水域)外に落下

 この経過で明らかなのは、Jアラートがミサイル発射を告知し避難を指示したのは、ミサイルが上空を通過するわずか1~2分前だったことです。これでは避難できるはずがありません。J アラートは何の役にも立たないということです。

 役に立たないのはJ アラートだけではありません。

 松野官房長官は8時すぎの記者会見で、「自衛隊は(ミサイルの)破壊措置はとらなかった」と明らかにしました。その理由は、「日本領域での被害は想定されなかったため」だと述べました。これはおかしな話です。

 「被害は想定されない」ことが分かっていたのなら、なぜJ アラートで何度も避難を指示したのでしょうか。Jアラートによって北海道や青森は騒然とし、マラソン大会を中止した学校も出たほどです。被害がないことが分かっていながらJ アラートを鳴らしたのは、騒ぎを大きくして朝鮮への批判を煽るためではなかったのでしょうか。

 そうでないというなら、「破壊措置」は「とらなかった」のではなく「とれなかった」のではないでしょうか。
 上記の通り、ミサイルが日本上空を通過すると自衛隊が探知してJ アラートを発信してから実際に通過するまでの時間はわずか1~2分。ミサイルの速度は音速をはるかに超えていました。

 共同通信の磐村和哉編集委員は、フジテレビ系の特番で「(ミサイルの速度が)マッハ5以上だと迎撃は難しい」と述べましたが、韓国軍が発表した速度は「マッハ17」でした。とても迎撃できる速度ではないでしょう。

 「ミサイル防衛」と称してアメリカから巨額の費用で「イージス・アショア」(写真右)を購入したのは安倍晋三首相(当時)でした。それはなんの役にもたたず、ただ米兵器産業をもうけさせ、米政府を喜ばせただけの巨大な税金の無駄遣いだったのです。

 万一ミサイル戦が始まれば、「防御」は不可能です。「抑止」を名目にした軍拡は緊張を高めるだけです。沖縄諸島で進行している自衛隊のミサイル基地化は戦争の危険を現実のものにしています。
 戦争を防ぎ平和を維持する手段は外交と軍縮しかありません。今回のJアラート騒動は、そのことを改めて示したのではないでしょうか。


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「陸自性被害」問題の核心は何か

2022年10月04日 | 自衛隊・軍隊
    

 2年前から自衛隊内で性被害を受け続けた元陸上自衛官・五ノ井里奈さんの告発を防衛省・自衛隊は、9月29日にやっとその一部を認めました。しかし、加害者の謝罪がないうえ、他の被害実態も明らかにされていないなど、問題はまだ山積しています(写真左・五ノ井さん=左と陸自幹部)。

 性被害者の勇気ある告発が防衛省・自衛隊に一撃を与えた意義は小さくありません。

 同時に、これは単なる職場内の性暴力事件ではないことを見逃すことはできません。

 第1に、自衛隊は言うまでもなく軍隊であり、軍隊と性暴力は不可分の関係にあることです。

 それには2つの側面があります。1つは、軍隊が外部に対して行う性暴力の不可避性です。軍隊は「敵国」市民に対する性暴力を軍事行動の一環として行います。また、「従軍慰安婦」という名の性奴隷問題も軍隊による性暴力の表れです。

 もう1つの側面は、軍隊内部の性暴力の不可避性です。たとえば、米国防総省の報告(2018会計年度)によると、米軍内の1年間の性暴力被害は届け出があったものだけで7623件に上りました。国防総省は届け出は被害者の3人に1人とみており、被害者は2万人超と推定しています(2019年5月4日付沖縄タイムス)

 アメリカでは上記のように国防総省が実態を調査して発表しています(その精度はともかく)。日本でも自衛隊内の性暴力・性被害の全体調査を直ちに行って公表すべきです。

 見過ごすことができない第2の問題は、政府・自民党が女性を自衛隊に取り込む動きを強めていることです。

 植村秀樹・流通経済大教授はこう指摘しています。

「2017年版(防衛)白書は「輝き活躍する女性隊員」を特集している。自衛隊発足当初は看護職のみであった女性隊員は、1976年から職域に拡大され、その数を徐々に増やしてきた。…「国家を守る、公務員」のポスターに登場する隊員も過半が女性である。今年の隊員募集カレンダーも半数以上が女性である。

 自衛隊は長年、隊員募集に苦労してきたが、今や日本の女性には…「戦う」職場で「輝く」道が開かれている。「提言」(自民党安全保障調査会が4月岸田首相に提出した「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」)が「女性自衛官の更なる活躍」「女性自衛官の積極的な活用」と再三にわたって女性に注目しているのも、他の分野で「ガラスの天井」を断固として維持しておいて、自衛隊へ誘導するためなのかと疑いたくなってしまうほどである」(「世界」10月号)

 防衛省・自衛隊が五ノ井さんの訴えを遅まきながら認め、なんらかの措置をとろうとしているのは、追い込まれたうえでの世論対策であると同時に、ジェンダー問題を逆手にとって「女性自衛官の積極的な活用」を図ろうとしていることと無関係ではありません(写真中・右は自衛隊HPより)。

 軍隊と性暴力は不可分の関係であり、戦争(殺戮)を任務とする軍隊はけっして女性が「活躍」すべき場ではありません。憲法違反の軍隊=自衛隊の存否を根本的に問い直すことなしに「自衛隊の性暴力」問題を考えることはできません。

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ウクライナの食料はどこへ向かっているのか

2022年10月03日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ東部4州の「住民投票」、それによるプーチン大統領の「併合宣言」が情勢の大きな画期になることは確かです。戦争下の「住民投票」が正常なものでないことは言うまでもありません。

 しかし、メディアの報道は、ロシアと、ウクライナおよび支援するアメリカはじめG7諸国の攻防(戦況報道)に終始しており、重要な問題が切り捨てられています。

 1つは、停戦・和平をめぐる動向であり、もう1つは、ウクライナ戦争の犠牲を被っているアフリカなど途上国の状況、とりわけ食糧危機の現状です。

 ロシアの軍事侵攻後、ウクライナとロシアが唯一行った合意は、国連とトルコの仲介によって、南部オデーサ港からの食料輸出を再開したことでした(8月1日に第1弾が出港)。

 ところが、プーチン氏は9月7日、ウラジオストクの演説で、ウクライナから輸出した食料は「ほとんどがヨーロッパに送られており、肝心の途上国には3%しか届いていない」「欧州はかつて途上国を植民地にしたのと同様の行動で途上国をだましている」と非難しました。

 これに対しゼレンスキー大統領は、プーチン氏の演説はウソだとし、「食料輸送の大半は途上国向けだ」とウエブサイトで反論しました。

 輸送再開を仲介したトルコのエルドアン大統領は、「食料が貧困国に届いていないというプーチン大統領の主張は正しい」と述べました(以上、9月9日のNHK国際報道2022、写真も)。

 9月30日、プーチン氏はクレムリンで行った「4州併合演説」でも、あらためて「ウクライナの小麦は5%しか最貧国に届いておらず、多くは欧州へ送られている」(NHK同時通訳)と述べました。

 いったい真相はどうなのでしょうか?

 プーチン氏のウラジオストク演説に対して、EUなど欧州諸国が反論したというニュースは聞きませんでした。その後1カ月が経過しますが、メディアがこの問題を調査・追及した跡も見られません。

 プーチン氏だけでなく、仲介したトルコのエルドアン大統領もそれを是認したことは軽視できません。

 プーチン氏の主張、ロシアの行動で批判すべきはもちろん批判しなければなりません。しかし、メディアにとって最も重要なのは、戦争の真実・真相を調査して報じることです。ウクライナ食料輸出の行方は、その最も重要な問題の1つではないでしょうか。

 メディアだけでなく、輸出再開を仲介した国連も、調査して真相を明らかにし、公表する責任があります。

 メディアや国連がその責任を履行せず、“一方的に”ロシアを非難することは、泥沼の戦争を長期化させて、ウクライナ、ロシア、途上国の市民の犠牲を拡大し、最も重要な即時停戦・和平に逆行すると言わねばなりません。

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日曜日記217・さらに遠のく患者の権利

2022年10月02日 | 日記・エッセイ・コラム
  先月はじめ、原因不明の腹痛に襲われ、近所の休日診療へ飛び込んだ。「大腸がんの手術による癒着でガスがたまっている」という診断だった。翌日、さっそく手術をした病院へ行った。腸に便がたまっているという診断で、下剤と痛み止めを処方されたが、痛みが収まらない。

 主治医には内緒で別の拠点病院を受診しようと思った。ところが、「紹介状がないと初診料とは別に5000円かかる」という。躊躇した。

 手術を受けた病院で、「セカンドオピニオンを受けたい」と話した。セカンドオピニオンには追加費用はかからない。
 しかし、「セカンドオピニオンは病院間で協議するので、受診日がいつになるか分からない」という。現在進行形の腹痛には間に合わない。

 「今日受診したいので紹介状を書いてもらえないか」と頼んだ。しばらくして、「書いてもいいが、以後はそちらの病院へ行ってほしい」と、がん治療から手を引くと告げられた。

 結局、手術を受けた病院で主治医とは別の医師に診てもらうことになった。その診察の時、腹部に発疹が現われていて、帯状疱疹と分かった。

 そんな中、「紹介状なし初診7000円超 大病院 来月から2000円増」(9月14日付共同配信)の記事が出た。「患者の「大病院志向」が根強く、診療に追われる勤務医の負担も重いままのため、増額で解消を図る」のだという。

 「勤務医の負担」は分からないではないが、患者負担の膨大化(通常の費用に7000円超が加わるのはあまりにも大きい)で「大病院」へ向かうのを抑止しようというのは話が逆だろう。

 原因不明の痛みに襲われ、しっかりした検査・治療を受けたいというのは患者の当然の要求だ。そもそも、どの病院でどんな検査・治療を受けるかは、患者の基本的な権利ではないか。

 それが保障されていないことを痛感した。「セカンドオピニオン」の制度は貴重だが、それも患者不在の病院間の協議で進行すると分かった。

 医師と患者の間には絶対的な立場の差がある。本来対等であるべきだが、そうはいかないのが現実だ。だからこそ、医療においても患者が主人公であることが明確にされる必要がある。

 「勤務医の負担」を解消するのは政府の責任だ。必要な医療費予算を増額することだ。「財政逼迫」が政府の常とう句だが、それはウソだ。

 すでに5兆円を超えている軍事費をさらに大幅に増やすと政府は公言し、メディアはその是非を問うことなく「問題は財源」と財源探しに手を貸している。これが患者の負担増につながっているのは言うまでもない。

 紹介状なし負担だけではない。一部75歳以上の自己負担も10月から2倍(1割から2割へ)になる。食料品やエネルギーも値上げラッシュだ。

 軍事費が聖域化される社会では、市民の権利と生活は際限なく侵害されていく。患者になるとその“痛み”が痛感される。


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