NATO(北大西洋条約機構)首脳会議が6月30日終わりました。フィンランド、スウェーデンの加盟にトルコが賛成し、両国の加盟が確実になったことが大きく報じられました。確かにそれも見過ごせませんが、われわれ日本人にとって、そして東アジアにとって、もっと目を向けなければならないのは、岸田文雄首相が日本の首相として初めて同会議に出席(6月29日)したことです。
これは戦後史に大きな汚点を残す政治的事件と言わねばなりません。なぜなら、日本国憲法が禁じる「集団防衛(軍事同盟)」を地球的規模に拡大するものだからです。
今回NATOは「戦略概念」でロシアを初めて「最大かつ直接の脅威」と規定。中国についても、「我々の利益、安全保障、価値観への挑戦だ」という表現で初めて言及しました。
そして、「インド太平洋地域での出来事は、大西洋地域の安全保障に直接影響を与える可能性があり、NATOにとって重要だ」と、「欧州」と「アジア」を結び付けました。
岸田首相は出発前から、「この機会を捉えてNATOとの連携を新たなステージに引き上げたい」(25日記者団に)と意気込み、会議では「ウクライナは明日の東アジアだ」とNATOの新戦略に積極的に同調しました。
この意味を、防衛大の広瀬佳一教授は体制側の視点からこう指摘します。
「日本などが初めて参加したのも、中国の脅威を念頭に、グローバル(地球規模)のパートナーとして重要性が増しているためだろう。…日韓や豪州、ニュージーランドとNATOとの協力が進むのは、日本の安全保障にとっても意味がある。日米同盟を中心としてきた日本多国間同盟同盟のマナーやルール、協力関係を学ぶ良い機会にもなるだろう」(6月30日の朝日新聞デジタル)
自民党政権は「ウクライナ戦争」以前からNATOへの接近を図ってきました。その先頭に立ってきたのが安倍晋三元首相です。
2013年、NATOのラスムセン事務総長(当時)が来日し、「共同宣言政治」を発表。「グルーバルな安全保障上の共通の課題について緊密に協力する」と表明しました。
2014年には安倍首相(当時)がNATO本部で演説し、「中国の対外姿勢、軍事動向は我が国を含む国際社会の懸念事項」と中国を名指しで批判。NATOは「必然のパートナーだ」と強調しました。
同じく2014年にNATOとの間で「パートナーシップ協力計画」を策定。18年、20年に2度改訂し、自衛隊とNATO軍の共同訓練・演習を深めてきました。
2018年にはNATOに日本政府代表部を開設しました。(以上の経過は6月28日の朝日新聞デジタルより)
こうして安倍晋三政権が敷いてきたNATOとの一体化路線を、岸田政権は「ウクライナ戦争」に乗じて、まさに「新たなステージに引き上げた」のです。
NATOは有事即応部隊を現在の4万人から30万人に増強する方針です。その主力は米軍で、バイデン政権は今後欧州へ大きな力を向けざるをえません。その分、同盟国である日本への負担転嫁が増大するのは必至です。米戦略にとって日本がNATO首脳会議に出席した意味はここにあります。
岸田首相のNATO首脳会議出席は、日本の軍事費膨張(まさにNATO並みのGDP2%)、自衛隊と米軍、さらにNATO軍との一体化、「敵基地攻撃」など集団的自衛権行使という憲法違反の軍事大国化を、さらに「新たなステージに引き上げる」出発点です。