アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

樋口陽一氏の「天皇賛美」に異議あり<上>

2017年12月18日 | 天皇制と憲法

     

 明仁天皇の退位日を審議した皇室会議(12月1日)の翌々日から、東京新聞は「象徴天皇と平成」と題した連載を開始しました(全5回)。「憲法」「満蒙開拓団」「福島原発事故」「障害者」「子ども」の5つのテーマで、天皇・皇后が徹底的に美化されています。

  それらは、満蒙開拓という棄民政策の元凶である天皇制・天皇の戦争責任には一切触れず、また、深刻な状況が続く福島の放射能汚染、障害者福祉切り捨て政策、世界有数の「子どもの貧困」などの事実・実態は覆い隠すという、きわめて一面的なものです。

  中でも看過できないのは、第1回に1面トップで大々的に登場させた憲法学者・樋口陽一氏の天皇賛美です(写真左)。樋口氏は戦争法強行の際には国会前の抗議集会で参加者を激励するなど、「民主的憲法学者」として知られており、その影響力はけっして小さくありません。
 2回に分けて樋口氏の「天皇賛美」の問題点を検証します。(以下、樋口氏の記事の引用はすべて12月3日付東京新聞より)

 ①    「天皇の中国訪問」―なぜ「反対」から「評価」に変わったのか。

  明仁天皇は1992年10月23日~28日、天皇として初めて中国を訪問し、晩さん会でスピーチしました。これについて樋口氏は、「『昭和天皇がやり残したことを成し遂げた』と評価」しました。

 しかし、天皇や皇族の「皇室外交」は、憲法が規定する「国事行為」にはないもので、「公的行為(象徴としての行為)」の名による天皇の政治利用の最たるものです。

 それはかつて樋口氏自身が強調していたことでした。

 「問題となるのは、象徴天皇制の運用が憲法規範から離れることによって生ずる一連の問題である。外交面での天皇の元首としての運用や、政教分離原則からの逸脱が、その典型である」(『講座 憲法学2主権と国際社会』日本評論社、1994年)

 「天皇の中国訪問」についても、かつて樋口氏は「反対」を表明していました。
 作家・井上ひさし氏との対談で、井上氏が「天皇が国を代表するような”お言葉“を言うのには疑問符が付きます」と皇室外交に疑問を呈したのに対し、樋口氏は、「私は国民主権と象徴天皇といういまの制度を大事にする立場だけれども、天皇の訪中には反対でした」と井上氏に同調していたのです(『「日本国憲法」を読み直す』岩波現代文庫2014年)。

 「皇室外交」「天皇の訪中」への「反対」が、いったいいつから、なぜ「評価」に百八十度変わったのでしょうか。

 ②   「 天皇の沖縄訪問」は「平和の感受性の証左」か。

  東京新聞の連載によれば、明仁天皇が「6月23日(「沖縄慰霊の日」)」を「重要な日」としていることについて、樋口氏は、「現天皇が平和に対する非常に強い感受性を宿していることの証左」(仏紙「フィガロ」今年6月24・25日付)と賛美しています。

  確かに天皇・皇后はたびたび沖縄へ行っています。しかし、何度行っても決して口にしないこと、決して足を運ばない所があります。それは父・天皇裕仁の沖縄に対する加害責任であり、天皇の軍隊(皇軍)が沖縄の住民を死に追いやったことを示す場所です。

 昭和天皇は「国体」(天皇制)維持のため、沖縄戦で沖縄を捨て石にしました。さらに戦後は、「天皇メッセージ」((1947年9月20日)で沖縄をアメリカに売り渡し、「本土防衛」のために沖縄を「米軍基地の島」にしました。再びの「捨て石」であり、沖縄に対する「構造的差別」の根源がここにあります。

 沖縄戦で「天皇の軍隊」は、住民から食糧や家屋を奪っただけでなく、「集団強制死」(「集団自決」)で直接死に追いやりました。久米島などでは皇軍の将校によって住民が虐殺されました。

 明仁天皇はこうした事実について一切ふれず、まして一言の謝罪もありません。久米島にも行ったことがありますが(2012年11月20日)、惨殺された島民の「慰霊碑」(写真右)には見向きもしませんでした。

  これのどこが「平和に対する非常に強い感受性」でしょうか。(明日に続く)

  <お知らせ>

 『「象徴天皇制」を考える その過去、現在、未来』(B6判、187ページ)と題した本を自費出版しました。
 これまで当ブログに書いてきた「天皇(制)」の関するものをまとめたものです(今年10月までの分)。「天皇タブー」が蔓延する中、そしてこれから「退位・即位」に向けて「天皇キャンペーン」がさらに大々的に繰り広げられることが予想される現状に、一石を投じたいとの思いです。

 ご希望の方に1冊1000円(郵送料込み)でおわけします。郵便振り込みでお申し込みください。
 口座番号 01350-8-106405
 口座名称 鬼原悟

 

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