アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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明仁天皇の政治介入のルーツ・裕仁とジョージ五世

2019年04月25日 | 天皇・天皇制

     

 明仁天皇は23日、「退位に伴う一連の儀式」の一環として、昭和天皇(裕仁)の武蔵野陵を訪れ、「退位の報告」を行いました(写真左)。
 明仁と裕仁は、ただ親子というだけでなく、「天皇の活動の在り方」において、きわめて深い関係にあります。明仁は裕仁の「天皇像」を今日的に引き継いできたのです。

 明仁天皇は65歳の誕生日会見(1998年12月18日)で、こう述べていました。

 「天皇の活動の在り方は、時代とともに急激に変わるものではありませんが、時代とともに変わっていく部分もあることは事実です。私は、昭和天皇のお気持ちを引き継ぎ、国と社会の要請、国民の期待にこたえ、国民と心を共にするよう努めつつ、天皇の務めを果たしていきたいと考えています。…昭和天皇のことは、いつも深く念頭に置き、私も、このような時には『昭和天皇はどう考えていらっしゃるだろうか』というようなことを考えながら、天皇の務めを果たしております」(宮内庁HPより)

 その点で、以前「明仁天皇が影響を受けた4人の人物」として、バイニング夫人(家庭教師)、小泉信三(宮内庁教育掛)、チャーチル(元英国首相)、裕仁天皇を挙げました(2018年12月25日のブログ)が、これにもう1人加える必要があるでしょう。この人物は先に挙げた4人とも密接な関係にあります。それは、元英国王「ジョージ五世」(1865~1936、1910~1936在位、写真右)です。

 裕仁は皇太子時代(1921年3月)、半年間欧州を訪問しました。その中で最も長く滞在したのがイギリスで、最も影響を受けたのがジョージ五世でした。

 「時あたかもヨーロッパでは、第一次世界大戦の終結と革命(1917年ロシア革命―引用者)に伴い、長い歴史と伝統を誇っていた君主政治が次々に崩壊していた。皇太子のヨーロッパ訪問は、大衆社会との適合を図ることで、大戦後になお生き残ろうとするイギリスの君主政治のあり方を実施に学ぶ機会となるはずであった。つまりこの訪欧は、危機に瀕した近代天皇制を立て直すという、隠された、しかし最も重要な意図が込められていたのである」(原武史著『昭和天皇』岩波新書2008年)

 ジョージ五世とは、「内閣に対する『良き助言者』という立場を貫き、近代史上希にみる、成功せる立憲君主としての名声を不動のものとした」(『英国王室史事典』大修館書店)とされている人物です。つまり政府に直言し積極的に政治に介入した「君主」です。

 「裕仁皇太子は、ジョージ五世と会ったことで、『お濠の内側』で行われていた従来の宮中祭祀とは別に、『お濠の外側』で行われるべき『大規模な儀式』に対する関心を膨らませていったのではないだろうか」(原武史、前掲書)

 バイニング夫人が「イギリス王室」を理想とし、小泉信三が福沢諭吉の「帝室論」とともに『ジョージ五世伝』を明仁教育のテキストに使って精読したのは有名な話です。

 明仁天皇の退位を前に、筒井清忠・帝京大教授は明仁と裕仁、そしてジョージ五世の関係に改めて注目しています。

 「君主は象徴であると同時に、政治に介入する『警告する権利』もあるという立憲君主論…それを学んで実際に介入した国王ジョージ5世、そして皇太子としての訪欧中、5世を通して、それを学んだ昭和天皇…昭和天皇はこの『警告する権利』を度々発動した。…陛下(明仁―引用者)は皇太子時代…小泉信三氏からアドバイスを受け、5世の伝記などをテキストに君主制について学んだので、やはり『警告する権利』ということを習得されている」(4月16日付中国新聞=共同インタビュー)

 さらに、次の指摘は注目されます。
 「昭和天皇には戦争責任の問題が最後までつきまとった。そこで、陛下はその問題にどう対処するかを考え、新たな『警告する権利』をあからさまにならない形で発動することにより、昭和天皇の『警告する権利』の発動により残された課題をリスク覚悟で克服されようとしたのではないか」(同)

 これを分かりやすく言えば、明仁は「あからさまでない形」で政治に介入することによって、父・裕仁の戦争責任の打ち消しを図ってきた、ということではないでしょうか。

 「あからさま」であろうとなかろうと、天皇が政治に介入することは現行憲法上絶対に許されることではありません。
 しかも、2回の「ビデオメッセージ」(2011年3月、2016年8月)に典型的に示されたように、相当に「あからさま」な形で政治的発言を行い、政治に介入してきたのが、(特に晩年の)明仁天皇(および美智子皇后)の特徴ではなかったでしょうか。


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