角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

冬の草履。

2007年04月04日 | 実演日記

<生地詳細・素材感>

今日の草履は、4月1日、東京都杉並区からお越しくださったご家族のオーダー草履です。
お母さんの『急がなくてイイからねっ!』のお言葉に甘えて、予定より一日遅れてしまいました。土踏まず付きご家族分三足、揃って明日の便で出発です。

神奈川県川崎市からお越しのご夫婦、おそらくお二方とも80歳くらいじゃないでしょうか。奥様の足がお悪いようで、ステッキをご利用です。こちらの奥様が草履を眺めながら、『これだったら脱げないんじゃない!?』。
これまでもご高齢の方からよく言われてたのが、『スリッパは脱げるから怖いのよねぇ』でした。
鼻緒の履物は指で挟むことで足との一体感が生まれるお話をすると、『そうねぇ、試してみようかしら!』ということでお買い上げくださいました。

ご主人に『こちらへは旅行ですか?』とお尋ねすると、『親戚の結婚式に来てこれから帰るんだけど、食事するところを探してここへ来たわけよ。』
お買い上げの草履が入った袋を高く持ち上げて、『おかしな食事になっちゃったなぁ』とお笑いでした。確かに草履は食べられませんからねぇ。
ご高齢のご夫婦旅を拝見すると、いつも「お手本」のように思ってしまいます。

実演席を通り過ぎながら、お連れの方と小声で話す方がよくいます。一番多いのは、『夏は良さそうねぇ』でしょうか。明らかに関心をお持ちの方は私に話し掛けてくださいますから、『冬は冬で暖かいんですヨ』とお応えします。

夕方になって人影もなくなった頃、北蔵レストランのスタッフさんが私へコーヒーを届けてくれました。聞いてみると、『今レストランにお越しのお客様から、草履職人さんへって頼まれましたぁ』。
口をつける前にまずはご挨拶と思い訪ねてみると、確かに以前お会いした奥様です。
『去年の秋に草履を買いましてねぇ、お陰でこの冬は足が冷たくなく過ごせました!』。

ご挨拶に伺ったことを、返って恐縮そうにこう話してくださいました。この冬私の草履が、確実におひとりには役に立ってくれたようです。

コメント
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