緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

熊谷賢一作曲 マンドリンオーケストラのためのボカリーズⅥ「二つの春の歌」を聴く

2018-05-01 23:48:48 | マンドリン合奏
ゴールデンウイークも早くも4日経過した。
マンドリン合奏練習三昧だ。
楽譜をA4サイズからB4サイズに拡大コピーし、スクラップブックに貼り付け直す。
貼り直すのに2時間ほど費やした。
ど近眼なので、A4ザイズだと良く見えないのである。
明日は運指などの書き込みを入れなければならない。

さて今日、中央大学マンドリン倶楽部から6月2日に開催される第114回定期演奏会の葉書が届いていた。
曲目を見ると、第Ⅰ部に学生時代に演奏した、マスカーニの歌劇「仮面」序曲があった。
第Ⅱ部は2曲だったが、2曲とも何と藤掛廣幸の曲ではないか。
そのうちの1曲はあの「星空のコンチェルト」だ。
中央大学マンドリン倶楽部にしては珍しい選曲。
「星空のコンチェルト」は意外に難しい。
難しいというのは技巧的なものではなく、聴き手を本当に感動させるレベルの表現力のことである。
この曲もCDやYoutubeの録音、また母校を始めとする大学マンドリンオーケストラの生演奏など数多く聴いてきたが、今まで本当に感動するに値する演奏だと感じたのは藤掛廣幸の事務所から購入したCDのライブ演奏の録音しかない。
はたして中央大学マンドリン倶楽部はこの曲をどう仕上げてくるのか。
前回の冬の定期演奏会は平日開催だったため残念ながら聴きに行けなかったが、今回は土曜日のため、仕事が入らなければ聴きに行ける。
楽しみにしている。

今日の朝、熊谷賢一の曲を聴いた。
マンドリンオーケストラのためのボカリーズⅥ「二つの春の歌」という曲だ。
熊谷賢一の曲は壮大な大曲が多いのであるが、この曲はシンプルで短い。
演奏はプロムジカ・マンドリン・アンサンブルで1977年初演。
1977年というと、私がギターを始めた翌年だ。
今までの人生で最も楽しかった時代。
活気に溢れ、朝起きるのが楽しかった時代。
そういえばこの頃新聞配達をしていた。朝日がとてもきれいな日があった。
ピンク色の太陽だった。
勉強はさっぱりであったが、ギターに熱狂していたし、友達と良く遊んだ。
試験勉強は一夜漬け。
友達の家の庭にテントを張って、4人で試験勉強したことがあった(結局殆どしなかったけど)。

今日聴いた「二つの春の歌」という曲は、そんな1970年代の楽しかった時代を思い出させた。
凄く、瑞々しい生命の息吹が感じられる。

熊谷賢一の曲は、人の気持ちを前に押し出す力が感じられる。
熊谷賢一の曲を聴いていつも感じるのは「再生」という言葉。
「二つの春の歌」は表向き、春の生命の息吹、明るい外に向かおうとする開放感や躍動感を感じるのであるが、私にはその気持ちに至るまでの長い道のり、その道のりが決して平坦ではなかったことも同時に感じられるのである。
生れてからずっと幸福で、幸福感の中で春の季節を感じ取った気持ちとは全然違う気がする。
熊谷賢一の曲は、「樹の詩」のように、立ち上がれないほどのダメージを受けた存在を引き上げ、その対象に力強いエネルギーが注がれるかのような「再生力」が感じられる。
再生することが困難なくらいダメージを受けた存在に対する受容力、そして前に押し出し、鼓舞し、引っ張りあげようとする強いエネルギーが感じられる。

熊谷賢一は、もしかすると常にどん底やゼロからの「再生」を音楽表現のよりどころとしていたのではないか。
熊谷賢一が実際どんな人間であったか分からないが、曲を通して感じ取れるものからすると、人間という存在に対する理解力が深く、敏感な方だったのではないかと推測するのである。

この曲の演奏者であるプロムジカ・マンドリン・アンサンブルは小編成であるが、各パートの楽器の音が今と全然違う。
特にギターの音が素晴らしい。
太く力強く芯のある音。テクニックも凄いが。
作曲者の意図を汲んだエネルギーに満ちた清冽な音だ。
右手はこの時代のタッチだ。今の時代には殆ど聴けなくなった。
「樹の詩」の演奏で、冒頭からしばらくしてギター三連符が続く箇所があるが、その三連符がだんだん速度を増し、あの高揚した部分に入る直前に見せた、初演者のノートルダム清心女子短期大学のギターパートの強いエネルギーに満ちた音を思い出す。

ギターだけでなく、マンドリンの音も芯のある強い音だ。
冒頭のギターの三連符のアルペジオが印象的だが、全体に渡ってギターパートが主力となっている。
熊谷賢一がギターを実際に弾けたかわからないが、これほどのパート譜を書けるということは、相当のギター奏法の知見を持っていたと思わざるを得ない。
マンドリン・オーケストラの作曲家の中には、ギターパート譜が貧弱な方が多いが、熊谷賢一はギターのことを良く知っているし、最大限活かそうとしていることが分かる。

熊谷賢一:ボカリーズⅥ「二つの春の歌」
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