緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

マイケル・バークリー作曲「一楽章のソナタ」を聴く

2018-05-06 21:56:13 | ギター
9連休がついに終ろうとしている。
今年のゴールデンウイークは、マンドリン合奏の合同練習2日間+一人合宿7日間で幕を閉じた。
1年前のゴールデンウイークは殆どが仕事だったが今回は全く別の過ごし方だった。

社会人になってから、朝から晩までこんなにギターばかり弾いたことはなかった。
本番演奏まであと2週間足らず。
難しいパッセージやテンポを合わせるのが難しかった箇所もだいぶクリアされてきた。
あとは難しい所を中心にとにかく時間の許す限り最後の練習だ。

メンバーは大勢いるが、まだ名前も殆ど分からない。
次回の練習から座席が指定となるので、まずは座席表と顔を見比べて覚えることにしたい。
練習中は基本、おしゃべりや音出しは厳禁となっており、隣の人ともあまり話ができないのである。
曲の途中で指揮者が打ち切った時にちょっとでもオーバーランしてしまうと、シーッとやられてしまうから気を張り詰めていなければならない。
しかし演奏中は楽しいし、物凄くやりがいがある。
大学卒業以来こんな体験は正直無かった。

一人合宿の後は好きなギターを聴いて気休めにしたい。
昨日の記事で、マイケル・バークリー作曲の「ウォーリー・ビーズ(Worry Beads)」という曲のことを書いたが、マイケル・バークリーのギター曲での代表作「一楽章のソナタ(Sonata in One Movement)」のことにも少し触れた。





この曲は1982年の第36回エジンバラ音楽祭でジュリアン・ブリームにより初演され、1983年前後だったと思うが、当時大学生だった時、兄がたまたまこのライブ演奏をFMラジオからカセットテープに録音し、私はこの録音でこの曲を初めて知ったのである。



大学時代にこの曲を何度も何度も聴いた。
とにかくブリームの演奏が完璧で素晴らしかった。
テクニックや音の表現、リズムやテンポの正確性、どれをとっても超一流の演奏である。
当時使っていた1973年製のホセ・ルイス・ロマニリョスの音が会場全体に響きわたっているのが伝わってくる。
それにしても凄い音だ。ブリームが最盛期の時の演奏。

この「一楽章のソナタ(Sonata in One Movement)」はブリームが何故かレコーディングしなかったため、殆ど知られていない。
そのためギター愛好家の殆どがその存在を知らないのではないか。
しかしYoutubeで検索してみたら、あった。
2017年1月に投稿されていた。
また第36回エジンバラ音楽祭で演奏されたブリームのプログラム全曲の投稿が2015年2月にされていた。
この「一楽章のソナタ」がレコーディングされていたら、この曲はもっとこれまでに演奏されていたと思う。
私の聴いた範囲では10年くらい前の東京国際ギターコンクールの本選で、日本人の方がこの曲を自由曲で弾いていたのが思い出される。
彼がブリームの演奏を聴いていたかは不明だが、よくこの難曲を選んだと思う。

演奏時間約12分。
調性は無い。
拍子も4分の4、4分の5、4分の2、4分の3、8分の7、8分の5など、めまぐるしく変化する。
曲はLentoで始まる。



静かなGの重音で始まるが、このGの重音がこの後何度か再現される。
何かを暗示していると思われる。
この後不気味で不安定な雰囲気が続く。
リズムをとるのが難しい。
ブリームの演奏はリズムが正確であるが、単に機械的に正確というのではない。
何度も聴いていると曲の音楽的意味をとらえたリズムの取り方であるのがわかる。
機械的であるならば音楽大学の学生でも可能だ。
ここがギターの巨匠と言われる演奏家の違いだと思う。

Anmatoに入ると不安定感が強さを増し、何かを訴えているように聴こえる。



しかしすぐに静かになり荒涼感を感じさせるハーモニックスと実音との重音の連続する部分が現れる。
しかしその後下降上昇スケールが奏され、意表をつく4分の3拍子の伴奏部が分散和音、上声部が旋律となるいわゆる普通の書法で書かれたフレーズが現れる。



不安感を感じさせるもののどこかで聴いたことがあるかもしれないような旋律だ。
しかしこのフレーズも長くは続かず、すぐに冒頭部の不安定な雰囲気に戻る。
そして4分の6拍子から4分の2拍子の静かな重音を過ぎると、突然不協和音が連続する激しい音型が現れるが、



これもすぐに鎮静化し、冒頭部の変形した音型が繰り返され、ハープのような分散和音が4回繰り返され、Allegroに入る。
このAllegroからが物凄く難しい。





随所に音符の一部を楽器の表面板をこぶしで叩く(percussion on sound board)奏法が用いられている。
速い5連符、スタッカート、アクセントなど激しい表現の連続であるが、この部分のブリームの演奏が凄く、聴いていて爽快だ。
そして古いヒチコック映画のBGMに出てくるような特徴的なフレーズが現れる。



速度がいったん半分ほどに緩められるが再びAllegroの速さにもどるが、しばらくは低音弦だけで奏される部分が続く。アクセントのあるリズムだ。



途中、8分の3拍子→16分の11拍子→8分の4拍子→8分の3拍子→16分の7拍子と続くが、この部分の旋律が何か過去を追想するような感じを与える。



そしてこの後激しい重音の連続が続く。



この曲で技巧的に最も難しい箇所の1つだ。
Marcatoに入って速度は冒頭のLentoに近い速度まで落とされる。
そしてゆっくりとした音の流れの進行の中で何か明るさを予感させるような流れが続き、速い6連符の連続パッセージの後、Vivo fast walts、6分8拍子に入るが、この部分がこの曲の特徴をさらに際立ている。



ユーモア感のある、軽やかで楽しく躍動感のあるフレーズだ。
そして三連符の上昇スケールの後に、あのAnmatoに入ってしばらくして現れる4分の3拍子のやや寂しいが親しみやすい部分が再現されるが、これも長くは続かず、何度か繰り返された低音と高音の交互弾弦による不安定な雰囲気を持つ音型が現れる。
曲は終結部に入る。
やや不気味だが神秘的にも感じられる和音が奏でられた後、静かに推移し、何度か現れた荒涼感のあるハーモニックスと実音との重音が続いた後、何とも言えない不思議な感じのする和音が静かに響く。
そして意表を突くように、激しく速い6連符の後に表面板をこぶしで打ち付け、fffの強い和音で曲を閉じる。



この最後の終わり方が最高にかっこいい(ちょっと不謹慎な言い方だが本当にそう思う)。

とにかく変化に富んだ素晴らしい曲。
超絶技巧を要し、リズムやテンポを取るのが難しい曲であるが、プロの方のみならずギターが好きな方であれば必ず弾きがいのある曲だと思う。
コンクールの自由曲にももっと採用されても不思議ではない。

ジュリアン・ブリームの最盛期にはイギリスの作曲家に多くの作曲を頼んだようだが、他にもレコーディングされていない現代音楽がまだあるようだ。
昨日、それらしき曲を見つけたので後日感想を書きたい。

下はYoutubeで見つけた音源。
エジンバラ音楽祭の方は、「一楽章のソナタ」は28:30からスタートする。

Julian Bream plays Michael Berkeley Sonata in One Movement (1982)


Julian Bream: live concert at 1982 Edinburgh Festival
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2 コメント

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訪問ありがとうございます (鈴木)
2018-05-11 17:05:50
こんにちは
ブログ拝見してます

<趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。>
すごいです
私も趣味でギターを弾きますがただのひまつぶしの遊びです
私とレベルが違いすぎます
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Unknown (緑陽)
2018-05-11 23:30:06
鈴木さん、はじめまして。コメント下さりありがとうございました。
鈴木さんのブログ、拝見させていただきました。
とてもおもしろいし、読み応えがあります。
とくに定年後の人生の在り方、参考になりました。
(私も定年はそう遠くはないので)
今は演奏会の準備などで時間がなかなかとれませんが、落ち着いたらゆっくり読ませていただきます。
ありがとうございました。
(また当方のブログを読んでいただけると嬉しいです)
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