緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

一色次郎「丘の鶯」を読む。

2015-11-07 21:26:04 | 読書
今年のお盆休みに一色次郎という作家の著作に出会った。
これは全くふとしたきっかけであったが、彼の代表作「青幻記」を東京の某古書店で見つけ、大いに感動したのである。
さらにこの小説が映画化されていることを知り、幸運なことにこの映画も見ることができた。
それ以来、彼の著作を集めては少しづつ読んでいる。
私は関心を持った作家の著作は、全集などで全て読もうとする。
はっきりとは分からないが、代表作だけ読んで終わりにする、ということが出来ない。
作家には名作もあれば駄作もある。多くの作家の名作のみを読んで、幅広く文学を楽しむという方法もあるが、私にはそれが出来ない。
気に入った作家であれば、有名、無名関係なく、その作家の全ての作品を読みたいと思う。

今までにこうして集めた著作の作家には、以下のようなものがある。

芥川龍之介
志賀直哉
結城信一
高橋和巳
庄野英二
原民喜
牧野信一
中島敦
石森延男
小川未明
有島武郎

集めたはいいが、なかなか読みすすめられない。
時間が無いのである。
早く仕事を定年になって、こうした本をゆっくり楽しみたいと思っているのである。

一色次郎には全集が無いので、一冊ずつ古書を探して集めている。
「青幻記」の後に、次のような著作を集めてみた。

左手の日記
孤雁
魔性
石をして語らしむ
海の聖童女
枯葉の光る場所
真夜中の虹
太陽と鎖
影絵集団
日本空襲記
父よあなたは無実だった
丘の鶯

未だ全て読んでいないが、左手の日記、海の聖童女、枯葉の光る場所、真夜中の虹、太陽と鎖は既に読んだ。
今、丘の鶯を読んでいるところだ。
一色次郎は、創作というより、自分が実際に体験した事実をもとに書くタイプの作家だ。
その点は結城信一氏と共通のものを感じる。
共に第二次世界大戦中に青年期を過ごした作家だ。
一色次郎が生まれてまもなく、父が無実の罪で投獄され、それから3年ほどで父は結核で無念の死を遂げる。
一色氏は父の記憶が無い。
しかし一色氏の父親に対する思いの強さは物凄く強かった。
一色氏は父の生前のことを知るために大変な思いと経験をしている。
父のことを知るために強い執念を持って、記録の調査や父のこと知る人々を探すための努力をした。
実際父は無実であった。
父の記憶の無い一色氏は父の無念の気持ちを著作でもって晴らした。
曾祖母から父のことを聞かされて育った一色氏は、父は立派な人間であったと確信したに違いない。
子供の父に対する思いというものは、こうも強いものなのか。平和に育った人間からは感じられないものであろう。
「青幻記」では母に対する思いが描かれた。一色氏が10歳頃に結核で亡くなった母との短い生活を綴ったものだ。

一色氏は母が死んでから、分家で過酷な体験をする。
成績優秀でありながら小学校しか行かせてもらえず、貧しい生活を強いられたが、小説家になりたいという夢を実現させるために20歳を過ぎてから単身、東京に出る。
しかし世間からなかなか認めてもらえず、長く貧しい下積生活を続け、50歳近くになってやっと作品が評価され、一人前の作家として認知されるようになる。

「丘の鶯」は作家になるために上京する直前に、一色氏の初恋の体験を描いた短編である。
小説の場面は1930年代であるが、当時の恋愛というのは、命がけなほどまでに感じられる。
しかしこの時代の若い男性も女性も、異性に対する尊敬の念に溢れている。
これは普段から異性間のつきあいに制限があったためかもしれないが、手紙の文面や、特に女性の男性に対する言葉遣いや態度は、十代後半とは思えない丁寧さ、大人びたものを感じさせられる。

今の時代は友達感覚のなれ合いでの男女間の交際が当たり前であるが、古い時代の恋愛は今の時代ではもはや見ることが皆無となった、高貴さ、純真さ、奥ゆかしさを感じる。


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2 コメント

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Unknown (Tommy)
2015-11-08 11:07:13
定年退職後に有り余る時間を利用して本を沢山読もうと
考えていましたが、現実は妻との話し合いで部屋に空間を作るためにビジネス関係の本数千冊を古本屋に売却、残ったのは要所要所で影響を受けた本のみが残ってます。

高齢になると視力も弱り集中力も落ちてきて今ではどちらかと言えばギター練習に費やす時間が多くなりました。
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Unknown (緑陽)
2015-11-08 20:49:18
Tommyさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。
私の父は80半ばを過ぎましたが、数年前に私が持っている芥川龍之介と志賀直哉の全集と同じ物が欲しいと言い出して買ってあげたことがあるのですが、結局読まずじまいのようです。
父は白内障などを患い、歩くのも危険な状態になりました。
しかし父も70代前半くらいまでは趣味のワープロにいそしんでおりました。
定年後の第二の人生、私も他人事ではない年齢になってきました。
今なかなか出来ないこと、旅行や読書、ギター演奏、音楽鑑賞などやりたいと思っておりますが、今までの経験を生かした、ちょっとしたボランティア的なものをやることも構想のひとつにあります。
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