世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

生きる有権者

2008年02月02日 23時16分34秒 | Weblog
クリーニング店に、出していた衣類を取りに行った。

「不幸があったため、営業を休ませていただきます」

そんな紙が一週間も店舗のガラス戸に張られていたあのクリーニング店。
それを知らずに残業を切り上げて取りに行った私は店の前で大変がっかりした…という日記を書いたのは先日のことだ。

「いらっしゃい!あ、亮子ちゃん」

私は店主の顔を見て驚いてしまった。

頬が痩けて、全体的に老けてしまった彼に私は
「ご不幸があったようで。大変でしたね」
とだけ言った。

彼は私と同じ栃木出身で、朝の通勤時にすれちがうと必ず挨拶をしてくれる。
「よう!おはよう」
って。

いつもの笑顔を必死で作ろうとしているのだろうが、店主の顔は見る見る内に曇っていく。

「いやぁね、これがね、笑ってらんないんだよ。息子がね。息子が事故にあって。病院に搬送された時には瞳孔が開いていて…25歳なのにさ」

彼は私の衣類を畳むことに集中しているようだが、手がおぼつかないのは一目瞭然だった。

狭い店内。
つけっぱなしにしてあるテレビ。
さっきまで私が部屋で観ていた番組が映っていた。

そんな日常と死が、こんなにもこんなにも近くにあるだなんて。

私は何も言えなかった。
ふさわしい言葉が見付からなかった。

「亮子ちゃんも気を付けなよね」

彼は衣類をビニール袋に入れ、そう言った。
イントネーションが馴染み深い栃木訛だ。

私は会ったこともない、25歳の青年を想った。
両親に
「さようなら」
「ありがとう」
も言えずに逝ってしまった若干25歳の彼を。
さぞかし無念だっただろう。

明後日、私は30歳になる。
三十路寸前の複雑な心の揺れも経験できぬまま、彼は逝ってしまった。
来週のスーパーチューズデーの結果も、倖田來未の問題発言の填末も知ることなく…。

生きているって、今ある日常をリアルに見聞きできる権利を有している状態なのかもしれない。

結局、私は彼に気の利いたことも言えずまま店を去った。

ビニール袋に入った衣類。
来週、これを着て私は働く。

それも私の人生だ。

そう、小さなことを紡ぎ続けた末に出来上がる私の人生。

どんなに小さな喜びも悲しみも、リアルに感じられる権利。
明日も明後日もそんな権利を有していたい。
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「想い出にかわるまで」

2008年02月02日 23時00分51秒 | Weblog
「想い出にかわるまで」
…姉の婚約者を妹が寝盗る、内館牧子原作のあのドラマである。

姉・るり子役に今井美樹。
東大卒エリートサラリーマンの婚約者・高原直哉役は素足&革靴の石田純一。
妹・久美子役は松下由樹。

ドロドロ度数100。

「一回寝たぐらいで、あんたなんかに何が分かるのよっ」
というドス黒い台詞を、清純派女優今井美樹に言わしめたあのドラマ。

すげーよ。マジ。

私は小学6年の時、リアルタイムで本作品を観ていた。
ドラマを観た翌朝。
近所に住むるみちゃんと
「久美子、最低!」
と罵りながら通学していた。
ランドセルを背負いながら、女児二人が結婚前の女の揺らぎとそこに入り込む妹についてを朝から語っていたんである。

昨日、レンタルビデオ屋で本作品がDVD化されているのを見た私は興奮した。
早速借りて観た。

1990年。
バブルの翳り。
しかし、るり子をはじめ女性たちは極めて元気だ。
ファッションも露出度が低いものの、華やかだ。
OLという種族はどの時代にも適応できるのかもしれない。

高原とるり子が住まうはずだったマンションは8,000万円!!
商社マンって…と思ってしまった。

それにしても石田純一のキザな様子は一体何なんだろうか。
ああいう演技ができる俳優ってそうそう滅多にいるもんじゃない。

面白くって、結局3話まで観てしまった。


ふと、我が妹のことを考える。
妹と私とでは殿方の好みが全く違う。
私は、眼鏡フェチ。
インテリな雰囲気を好む。
髪がサラサラしていて、電卓を左手で叩く公認会計士みたいな人が好き。

妹は…よく分からない。
私とは違うことは確かだ。
私が「この人が好き」と妹に写真を見せると決まって彼女は
「ふ~ん。どこが?どの辺が好きなの?」
と言う。
我々の好きな殿方タイプは重なることはないだろう。
よって、「想い出にかわるまで」的展開になることはこの先、絶対に無い。

でも長女って、どうしてあんなにも家庭を想っているのに報われないのだろう。
るり子だってもう少し我が儘になっていりゃ、久美子から高原を奪い返せたのに。

携帯電話がない当時の様子に不便さを感じた。
そのことに当時のヒロインたちは気付いていないのにも違和感がある。

考えてみたら、携帯電話があったら展開が変わっていただろうに…というドラマって多いよなぁ。
「東京ラブストーリー」なんて、その典型ではないか。

携帯電話があっても、ドラマちっくな事象を避けている私には関係ない話なんだが。