久しぶりに、エリオット・ガーディナーの「マタイ受難曲」を聴く。
ひと息に聴く時間がないので、全曲を聴くには、数晩にわたりますがー。
あるいは、聴きなほしたのは3、4年ぶりかもしれません。
その過ぎた時間のせゐでせうか、以前とはずゐぶんと違った印象で、
前は、何か颯爽としてゐるだけだなあ、との弱い印象でしたが、
もちろん、早いテンポでこのドラマを描いてはゐるものの、
各所にちりばめられた周到な検証のためか、実に生き生きとしたものに聴けました。
今さらながら、ソリストを9人配しての布陣が(通常ですと、4、5人かしらん)、役割に応じての微妙な変化とその効果が見事にでてゐることに驚きました。
特に、「血を流せ! わが心よ」での、やはらかな声のソプラノには(出番が少ないのですがー)改めて感謝するほどです。
福音史家の、割とドラマティックに進行するがゆゑに、テノールの高音を多用するディスクやライブが多いのですが、この盤ではそれを慎重にいましめてゐて、
中音域の温かみのあるエヴァンゲリストが物語を進ませてゐます。
イエスの声も、妙に大家然としたところがなく、目線の低いイエスの姿で出てきます。
終曲の演奏は、正直、まう少しドラマティックな演奏が好きですが(この長い受難曲を聴き終へた最後のしるしとしてー)、
1部の終曲「人よ、汝の大いなる罪に泣け」は、それまでの曲の作り方が巧を奏してゐるのか、とても安らかな演奏で、
師イエスを置いて逃げ去った弟子達の、悔恨と決意の歌になってゐるやうに聴きました。
ここ一年ほど、公私ともに辛い話が多く、
何故か、マタイを聴くことが増へてゐます。
この、270年以上も前にドイツで生まれた音楽が、
今をもってしても、東洋の小さな国の、
それも出羽の国でささやかな生を営んでゐる小生を、
時に鼓舞し、時に慰めてくれることに、
満腔の思ひをもって感謝しない訳にはゆきません。
(写真は、ジャケットから)