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立原正秋の『残りの雪』を読む。
写真は文庫本の表紙ですが、今回読んだのは立原正秋全集(角川書店)の第18巻でした。
以前より、立原正秋の小説は好きですが(特に、彼の短篇の切れのよさは見事です)、
どうも、この小説はいただけない。
新聞連載といふこともあったのでせうが、話の割りに全体が長すぎ、
勁い主人公の女性と、落ちてゆく夫との対比も立原正秋の作品ではワンパターンですし、
主人公と出会ふ男との逢瀬や道行きも、すっかり夢物語になってしまってゐる。
作者が彼らを美しく描けば描くほど、余りにも浮世離れした話になり、
結果、全体が余りにもリアリティに欠けたものになってしまってゐる。
ふたりの、凄みもなければ、哀しさもない。
三十年以上前の作品ですが、それ以上に作品の”古さ”が目立ち、
主人公たちが立ち寄る店の名前にも陳腐なものが多く、
いつも食するものが、”オニオンスープとビーフステーキ”といふのもいただけない。
小生も、30年も前に、
毎月のやうに鎌倉を訪ね、この小説にでてくる近代美術館を訪ねた足で、二つ、三つの寺を訪ね歩いたものでした。
その意味では、それぞれの寺に咲く花の描写は美しく、また、懐かしいものですが、
作中にもあったやうに(既に30年前ながら)、街は日に日にその素朴さと威厳さを失ひ、
まったく、ただの観光地になってしまったのは残念なことです。