rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

人権よりも市場原理を優先させる米国の法制度紹介

2014-05-15 19:41:03 | 書評

堤 未果 氏の「貧困大国アメリカ」シリーズの3作目は(株)貧困大国アメリカ 2013年 刊 岩波新書 1430 ですが、全編に渡って現在の「人権よりも市場原理を優先」させるに至った米国のしくみを適確にまとめているので、通常の書評ではなく、ここに紹介された米国の法制度について備忘録として箇条書きにまとめてみました。

 

○ SNAP (Supplemental Nutrition Assistance Program)

貧しい人達のために食料品を現物給付できたFood stamp制度に変わって2008年から登場したクレジットカードで週29ドルまで食料品を買える制度。受給者は全人口の14%を超え、年間予算は750億ドルに達する状態だが、ウオルマートなどのスーパーやクレジット会社の大きな収入源になるため政府は受給者拡大を促進している風がある。食品の4大小売業者(ウオルマート、クローガー、コストコ、ターゲット)にも得点。

 

○      レーガン政権による独占禁止法の規制緩和

食肉業界などの寡占化を促進し、中小の独立した企業が消滅。大企業のスケールメリットを生かした安くて豊富な商品展開が可能になった反面生産者は奴隷的労働を強いられる状況になっている。

 

○      レーガン政権によるHACCP (Hazard Analysis Critical Control Point) 規準の規制緩和

食品の製造過程における安全審査規準を緩和し、企業側に審査を任せることで安く早く食品を商品化することを可能にした処置。4大食品生産業者(タイソンフーズ、クラフトフーズ、ゼネラルミルズ、ディーンフーズ)にとって有利な状況を作り出した。

 

○      反内部告発者法(HR0126)

アメリカ州議会交流評議会(ALEC)によって複数の州で可決された不法な工場や家畜施設などの内部を撮影し、告発しようとしても企業秘密漏洩罪として罪に問えるとする法律。悪い事はやった者勝ちという法律。

 

○      オーガニック食品生産法 (Organic Foods Production Act)

1990年から2000年にかけて形成されたオーガニック食品について認証する規準を定めたものだが、申請規準が複雑で巨大メーカーでないと認証されにくい結果となり、良心的な中小の企業の経営を圧迫する結果になっている。

 

○      モンサント保護法 (HR993-735)

2013年3月成立、遺伝子組み換え作物で消費者の健康や環境に被害が出ても、因果関係が証明されない限り、司法が種子の販売や植栽停止をさせることは不可とする。というもので遺伝子組み換え作物普及にフリーハンドの許可を与えたに等しい法案。「何が起きてもおとがめなし(どうせ因果関係の証明はできないし、認めないと宣言)」というお墨付きを与えた法案。

 

○      食品安全近代化法 (S501=FSMA)

2011年11月成立、バイオテロ防止という名目でFDAが定める食品の全てについて、栽培、売買、輸送する権利を政府が規制するというもの。大企業の行う大規模農法のレシピに沿わない中小の農業を許可を出さないという方法で駆逐するために利用されている。

 

○      落ちこぼれゼロ法 (No Child Left Behind Act)

ブッシュ政権が導入した学校同士で成績を競い合わせて、成績の悪い学校には補助を出さないという法律。底辺の学校を破綻させて替わりに営利学校(Charter school)が導入されるきっかけとなっている。

 

○      非常事態管理法

2011年にミシガン州で成立した州法で、破産に瀕した自治体の財政立て直しのために州が指名した危機管理人が住民の意思にかかわらず自由に公共サービスの停止や公務員の解雇を行って良いとする法律。公立学校の廃止や警察や消防の統合化で住民サービスは悪化している。

 

○      労働権法 (Right to work)

2012年から州毎に導入されている労働組合への加入と支払いの義務を廃止する法律で、雇う側(資本家側)が一方的に有利になるから企業が誘致しやすく、雇用も増えるという理屈。南部を中心に半数以上の州で導入済み。

 

○      正当防衛法 (Stand Your Ground Law)

2005年にフロリダ州で成立したもの。身の危険を感じたら公共の場でも殺傷力のある武器の使用が認められ、場所が自宅や車内であれば傷害致死であっても罪に問われることはない。正当防衛の立証責任も被害者側のみに義務づけられる、というもの。相手が有色人種やイスラムならば「殺した者勝ち」といえる。

 

○      テキサス刑務所産業法 (Texas Prison Industries act)

1993年に成立。刑務所労働への企業参入を許可する法律。獄産複合体の成立に貢献。

 

○      市民連合判決 (Citizens United)

2010年1月合衆国最高裁が「企業による選挙広告費の制限は言論の自由に反するから上限を設けない」という裁定を出したもの。企業献金の上限撤廃を意味し、政治・政府が大企業の都合に合わせて行われることを合法化したものと解釈される。企業は米国籍を問われず、日本のトヨタやサウジアラビアのアラムコなどグローバル企業が自由に献金して米国の政治に口出しできるようになった。州法成立を助けるアメリカ州議会交流評議会(ALEC)の企業会員として活動することで州議会において自企業に有利な法律を作ることができる。

 

同書ではこのような近年成立し、「民主主義や人権よりも市場原理主義を優先する」法律が紹介され、「市場原理主義に乗っ取られた病める米国の姿」が浮き彫りにされます。米国とTPPを結ぶということは、このような法制度がグローバルな常識として日本にも強要され、日本社会がかき回されることを覚悟しないといけないという点で、紹介する意味は十分にあると思われます。私が留学していた1990年前半ならばまだ「このままニューヨークに住んでいるのも良いかな」と思えましたが、今の米国の姿はとても住みたい国ではありません。「理不尽でも合法ならば正義」とする社会にあなたは耐えられるでしょうか。

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