10月2~3日は、NYU Stern School で開かれた Workshop on Information in Networks (WIN2015) に参加した。毎年ここで開かれ、今回で6回目だそうだが、その存在は知らなかった。このワークショップの中心人物は、いまは MIT Sloan School に所属する Sinan Aral 氏だ。
会議は基調講演、口頭発表(2トラック)、ポスター発表からなる。前者の2つは発表を15分とし、30分程度を同じセッションの発表者全員への質疑応答・相互の議論に当てている。当然議論の中心になる発表とそうでない発表があって、いろいろな意味でタフな場である。
ポスター発表はレセプションと同じ場所で開かれ、酒とスナックを片手にじっくり話すことになる。ランチ会場で一人2分ほどの予告編があることも含め、ポスター発表への集客に力が注がれていた。ポスター発表について手抜きの学会が少なくないだけに、なかなかよいと思う。
この会議では、ネットワークに関するデータ解析について、様々な分野の研究者が集まって議論する。中心はコンピュータサイエンスや情報システム系の研究者だが、経済学、社会学、政治学の研究者も参加している。彼らを括る共通のキーワードは「計算社会科学」だろう。
コンピュータ・サイエンスの人が社会経済データを解析する、というだけではない。ゲーム理論の数理的研究もあれば、ブルデューの文化資本概念に依拠してソーシャルメディアを論じる人もいる。また、政治学とコンピュータサイエンスの双方の肩書きを持つ教授もいる。
経済学では、Sanjeev Goyal (Cambridge)、Matthew Jackson (Stanford)らが招待されていた。彼らはネットワーク理論を経済学に導入し、教科書も書いている研究者だ。上述のようにコンピュータサイエンス側にも経済学のモデルを導入する人々がいて、境界が崩れつつある。
ネットワークに関する研究というと、ソーシャルメディアのデータを機械学習で分析したり、エージェントベースのシミュレーションというイメージがあるが、無作為化比較テスト、自然実験、構造推定などを用いた研究もあった。つまり、手法はかなり多様で、オープンということだ。
特に実験ということでは、主催者の Aral 氏だけでなく、今回の基調講演者の一人であった Microsoft Research の Duncan Watts もそちらを志向しており、今後ますます拡大していきそうだ。日本でも、自分も、と思うが、そのためには産業界(政府やNGO)との連携が欠かせない。
この会議では、Facebook の研究者が何人か発表していた。データが膨大かつリッチなので、使われている手法はむしろシンプルだったりする。一方で、ネットワーク上でA/Bテストのようなことをするには、伝統的な統計的検定では問題があるらしく、その解決策が議論されていた。
研究の最先端を垣間見て、正直、彼我との距離の大きさを感じただけの2日間だった。しかし、この分野で注目すべき研究者がかくも多数いることを知っただけでも収穫といえる。早速、彼らのホームページを覗いたが、あまりにも多くの論文が書かれていて驚くばかりである。
日本でも「データサイエンティスト」が増え、人工知能の研究所を設立する企業が増えている。このことを、数量的アプローチをとる社会科学者、またマーケティングサイエンティストは好機到来と捉えるべきだろう。スケールの大きな共同研究を生み出す可能性が広がればと願う。
会議は基調講演、口頭発表(2トラック)、ポスター発表からなる。前者の2つは発表を15分とし、30分程度を同じセッションの発表者全員への質疑応答・相互の議論に当てている。当然議論の中心になる発表とそうでない発表があって、いろいろな意味でタフな場である。
ポスター発表はレセプションと同じ場所で開かれ、酒とスナックを片手にじっくり話すことになる。ランチ会場で一人2分ほどの予告編があることも含め、ポスター発表への集客に力が注がれていた。ポスター発表について手抜きの学会が少なくないだけに、なかなかよいと思う。
この会議では、ネットワークに関するデータ解析について、様々な分野の研究者が集まって議論する。中心はコンピュータサイエンスや情報システム系の研究者だが、経済学、社会学、政治学の研究者も参加している。彼らを括る共通のキーワードは「計算社会科学」だろう。
コンピュータ・サイエンスの人が社会経済データを解析する、というだけではない。ゲーム理論の数理的研究もあれば、ブルデューの文化資本概念に依拠してソーシャルメディアを論じる人もいる。また、政治学とコンピュータサイエンスの双方の肩書きを持つ教授もいる。
経済学では、Sanjeev Goyal (Cambridge)、Matthew Jackson (Stanford)らが招待されていた。彼らはネットワーク理論を経済学に導入し、教科書も書いている研究者だ。上述のようにコンピュータサイエンス側にも経済学のモデルを導入する人々がいて、境界が崩れつつある。
Connections: An Introduction to the Economics of Networks | |
Sanjeev Goyal | |
Princeton University Press |
Social and Economic Networks | |
Matthew O. Jackson | |
Princeton University Press |
ネットワークに関する研究というと、ソーシャルメディアのデータを機械学習で分析したり、エージェントベースのシミュレーションというイメージがあるが、無作為化比較テスト、自然実験、構造推定などを用いた研究もあった。つまり、手法はかなり多様で、オープンということだ。
特に実験ということでは、主催者の Aral 氏だけでなく、今回の基調講演者の一人であった Microsoft Research の Duncan Watts もそちらを志向しており、今後ますます拡大していきそうだ。日本でも、自分も、と思うが、そのためには産業界(政府やNGO)との連携が欠かせない。
偶然の科学 (ハヤカワ文庫 NF 400 〈数理を愉しむ〉シリーズ) | |
ダンカン・ワッツ | |
早川書房 |
この会議では、Facebook の研究者が何人か発表していた。データが膨大かつリッチなので、使われている手法はむしろシンプルだったりする。一方で、ネットワーク上でA/Bテストのようなことをするには、伝統的な統計的検定では問題があるらしく、その解決策が議論されていた。
研究の最先端を垣間見て、正直、彼我との距離の大きさを感じただけの2日間だった。しかし、この分野で注目すべき研究者がかくも多数いることを知っただけでも収穫といえる。早速、彼らのホームページを覗いたが、あまりにも多くの論文が書かれていて驚くばかりである。
日本でも「データサイエンティスト」が増え、人工知能の研究所を設立する企業が増えている。このことを、数量的アプローチをとる社会科学者、またマーケティングサイエンティストは好機到来と捉えるべきだろう。スケールの大きな共同研究を生み出す可能性が広がればと願う。