Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

マーケティング・リサーチの進化

2018-12-25 18:11:10 | Weblog
「マーケティング・リサーチは《実学》です。珍しいお題目と面白おかしい逸話を講釈すれば事足りる書斎の学ではありません。何よりも企業の方々が何を想い、今後そうやって意思決定されるのかが大事です。」

本書の冒頭で、編著者の朝野熙彦先生はそう述べる。したがって本書の主な章は、マーケティング・リサーチの最前線にいる実務家によって寄稿されている。実際、本書に盛られた事例から、現場の臭いを嗅ぎ取ることができる。「書斎の学」にはさせないという方針が徹底されているようだ。

マーケティング・リサーチ入門
―「調査」の基本から「提言」まで

朝野 熙彦 (編著)
東京図書

とはいっても、マーケティング・リサーチは最近、現場において懐疑的に見られることが少なくないのでは? 本書はまさにそういう問題意識に立ち、現場においてマーケティング・リサーチを進化させようとする取り組みを紹介している。その基礎となる枠組みが、以下の分類である:

Asking
Listening
Watching
Experiment

マーケティング・リサーチのかつての主役は質問紙調査やグループ・インタビューで、いずれも Asking(質問)の方法であった。しかし、いまや Listening(傾聴)や Watching(観察)によるりリサーチが拡大している。その背景には、いうまでもなくデジタル化の進展がある。

たとえばソーシャルメディアからの「傾聴」、機械による人間行動の「観察」は、潜在的に膨大な情報を生み出している。とはいえ、そこから本当に実務に役立つ情報を得るには、コンピュータにお任せするのでは解決しない難しさがあり、専門家としての見識が問われることになる。

上述の4ステップをどのように組み合わせ、どうインサイトを得るかの方法は企業によって、また人によって様々だろう。現場では日々試行錯誤が続き、進化が起きている。本書からその一端を知ることは、実務家だけでなく、マーケティングに関心がある学生にも役に立つだろう。

蛇足。朝野先生の著書の魅力の1つは、数学科の出身である著者らしい論理性、そこからくる「既存の権威」への批判精神である。たとえば、補章として書かれた「マーケティング・リサーチDo's and Don'ts」のいくつかのコラムにそれが見られ、単なる入門書ではない楽しさがある。