Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

『パパは脳研究者』を読む

2017-09-29 08:39:49 | Weblog
著者の池谷裕二氏は、脳に関する数々の啓蒙書がある、有名な脳研究者である。一度池谷氏の講演を聴いたことがあるが、軽妙な語り口とユーモアで聴衆を沸かせていたのを覚えている。本書『パパは脳研究者』は、その池谷氏がご自分のお嬢さんについて記した成長記録・育児日記であり、赤ちゃんを題材にした脳・神経科学あるいは心理学の解説書である。

パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学
池谷裕二
クレヨンハウス

私がこの本を読んだ理由の1つは、以前から人の嗜好は何歳ぐらいから、なぜ発生するのかに興味があったからだ。本書にはそうした興味に応えてくれる箇所がいくつかある。1つは、どこの国の赤ん坊は甘い味を好むこと。ただし、その真相は、甘みではなく糖分を求めていることが実験でわかっている。こうした選好は、生物の適応戦略として理解できる。

もう1つ、池谷氏が育児を通じて気づいたのが、食べものへの嗜好の個人差はゼロ歳児の段階で現れるということだ。本書にその原因についての言及はない。遺伝的要因なのか環境的要因なのか…嗜好に個人差があることが、その社会の発展にどういう効果を持つのか…私自身は、特に後者の観点から嗜好の個人差が生じるメカニズムを知りたいと思っている。

それは自分の関心に即した話だが、本書は基本的に、科学的裏づけを持つ育児の参考書だといえるので、幼い子どもを持つ(予定のある)親たちや、子どもの生育に興味を持つ幅広い人々に強くお勧めしたい。池谷氏の他の著書と同様、非常に読みやすく、微笑ましい文章で書かれている。版元は絵本の出版社なので、挿入されているイラストも素敵である。