Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Marketing Science Conference@Baltimore

2015-06-21 23:02:43 | Weblog
ボルチモアは、現在滞在中のニューヨークからは電車で2時間半の距離にある(もちろん順調に行けばの話で、実際は出発が遅れたり途中で止まったり・・・)。そこにあるジョンホプキンス大学が主催校になって、INFORMS Marketing Science Conference が開かれた。

会場は、海沿いにあるマリオット・ウォーターフロントというホテルで、周囲には高級ホテル、ヨットハーバーなどが林立する。ジョンホプキンス大学のビジネススクールも、すぐそばの高層ビルを間借りしている。ビジネススクールとはいえ、異例の立地ではないかと思う。

会議のあと、日本から来た旧知の先生方と、水上タクシーに乗って遊覧した(2枚目の写真)。ボルチモアはいまが観光シーズンで、冬の厳しさはNY以上だという。会場付近は別として、治安がよくない場所もあるらしい。今回、市内を回遊する時間的余裕はなかったが・・・。



さて、自分の発表は初日の午後という、非常にありがたい時間であった。そこで阿部誠先生、新保直樹さんとの共同研究 "Quantifying the Impact of WOM Contagion over the Twitter: Is the Influencer-Seeding Strategy Effective?" を発表した。このプロジェクトでは3回目の発表となる。

そこで私は、クチコミ・マーケティングにおいてどのようなシード戦略(クチコミ伝播を最初に誰に仕掛けるか)が最適かを、コストを考慮して行う分析を報告した。これを一応の到達点として、今後いくつか補足分析を行ったのち、論文として仕上げていく予定である。

とはいえ、デジタル・マーケティングや社会的影響に関する研究は相変わらず山ほどあって、論点がますます細かくなっている印象を持った。自分が聴講した範囲では、有名研究者たちの報告でさえ驚くような話は出なかった。研究において何らかの飛躍が必要だと感じる。

エージェントベース・モデリングを用いた研究については、発表数は相変わらず少ないといえ、それを一貫して追求している研究者がいて非常に心強く感じた。ただし、普及現象やクチコミを研究するだけでは、いずれジリ貧になる。ここでも新たな飛躍が必要だと痛感する。

一方、今回目立ったのが、神経科学に関連するセッションの多さである。主催者の肝いりで企画されたと想像されるが、Journal of Marketing Research の掲載予定論文を見ても、神経科学的研究がずらっと並んでいる。学界全体で見ても注目分野であることは間違いない。

ここ数年、米国の大学に留学・勤務している日本人研究者とこの会議で出会ってきたが、今回も新たな出会いがあった。多くの分野で国際的に活躍する日本人研究者は少なくないが、マーケティング研究では、しばらく稀有であった。その意味で、非常にうれしいことである。

ただし、彼らの多くが、そもそもミクロ計量経済学や産業組織論を基盤としている。それが(特に日本の)経営学・商学が持つ曖昧さと対立する可能性に目を閉じてはならない。その曖昧さは愛すべきものだとしても、科学と名乗る以上、それではすまないはずなのだから。

もちろん、連携すべき経済学には、行動経済学や神経経済学、あるいは計算経済学(複雑系経済学)なども加えるべきであろう。今回の会議で私が聴いていたのは、そうした学派がお互いに対立しながらも、ときおり近づいてスパイラルを描く未来図であったかもしれない。