研究助成を受けたプロ野球球団研究の一環として、昨夜、研究仲間と軽いワークショップを開いた。私が属するグループはファンの意識調査の結果を分析、もう1つのグループはチーム編成のダイナミクスをエージェント・モデル化している。
後者の研究で、組織文化の伝承と適応、といった話題が出てきたが、もちろんこれを測るのは難しい。ただし、選手への取材や回顧録から、そのあり方を定性的に知ることはできる。その参考になりそうな、最近出た本を紹介しておこう。
まずは、巨人を中心に長年プロ野球を取材されてきたジャーナリスト、赤坂英一氏の新著。著者は広島出身で、生粋のカープファンでもある。かつて取材中に、カープベンチから「わりゃあ、どっちの味方や」と声をかけられたとのこと。
その赤坂氏が、古葉竹識、山本浩二、大野豊、達川光男から前田健太まで、新旧の監督や選手を取材(「敵側」として川相昌弘も)。興味深い話が満載だが、そのなかで特に強調されているのが、チーム内の世代間ギャップの問題である。
チーム最年長の横山竜士とマエケンの間に存在する、意識のギャップ。それは、昔からのカープファンと、最近球場を賑わせている新しいファンとの意識の違いにも対応する。組織文化という点では、一定の断絶があることになる。
横山竜士は、かつてカープには他球団の選手が遠巻きにするような「怖さ」があったという。高橋慶彦は、それについて語る最適任者の一人だろう。彼は『赤き哲学』と題する自著で、強い時代のカープのプロ意識について熱く語っている。
ヨシヒコは、常軌を逸した練習量でスター選手の座を獲得する。彼の目からは、現在のカープの選手は歯がゆく見える。ファンのなかには、彼にベンチ入りしてほしいという声があるが、強かった時代の組織文化の再興を願ってのことだろう。
高橋慶彦が移籍したあとのカープは徐々に優勝から遠ざかり、いつのまにかBクラスが定位置になる。栄光の時代と現在をつなぐ時代に苦闘した一人が、前田智徳だ。彼が同じ世代の石井琢朗、トレーナーの鈴木卓也と3人で鼎談している。
天才と称賛された前田が味わったアキレス腱断裂後の苦闘は、想像を絶するものだ。本人は自ら多くを語りたがらないが、トレーナーであった鈴木や最後の数年同僚になった石井との対話によって、様々なエピソードが引き出される。
もしアキレス腱の断裂がなかったらどうなっていたと思うか、という質問への前田の回答は秀逸だ。天才打者として野球人生を終えることの代償に彼が得たものの価値が、そこからほのかに見える。もちろん、私の主観的解釈として。
壮絶な練習とプロ意識に支えられた強くて「怖い」時代があり、個人としてもチームとしても苦闘した「辛い」時代があり、若手選手を中心に新たな人気を獲得した現在がある。そこに組織として、どんな流れと断絶があるのか。
戦うための組織として、ある意味で極限化されたかたちをとるプロ野球チームの内部変化を、数十年というタイムスケールで眺めることは、他の組織のマネジメントを考えるうえでも、示唆に富んでいると思う。それに、面白い。
後者の研究で、組織文化の伝承と適応、といった話題が出てきたが、もちろんこれを測るのは難しい。ただし、選手への取材や回顧録から、そのあり方を定性的に知ることはできる。その参考になりそうな、最近出た本を紹介しておこう。
まずは、巨人を中心に長年プロ野球を取材されてきたジャーナリスト、赤坂英一氏の新著。著者は広島出身で、生粋のカープファンでもある。かつて取材中に、カープベンチから「わりゃあ、どっちの味方や」と声をかけられたとのこと。
その赤坂氏が、古葉竹識、山本浩二、大野豊、達川光男から前田健太まで、新旧の監督や選手を取材(「敵側」として川相昌弘も)。興味深い話が満載だが、そのなかで特に強調されているのが、チーム内の世代間ギャップの問題である。
チーム最年長の横山竜士とマエケンの間に存在する、意識のギャップ。それは、昔からのカープファンと、最近球場を賑わせている新しいファンとの意識の違いにも対応する。組織文化という点では、一定の断絶があることになる。
広島カープ論 | |
赤坂英一 | |
PHP研究所 |
横山竜士は、かつてカープには他球団の選手が遠巻きにするような「怖さ」があったという。高橋慶彦は、それについて語る最適任者の一人だろう。彼は『赤き哲学』と題する自著で、強い時代のカープのプロ意識について熱く語っている。
ヨシヒコは、常軌を逸した練習量でスター選手の座を獲得する。彼の目からは、現在のカープの選手は歯がゆく見える。ファンのなかには、彼にベンチ入りしてほしいという声があるが、強かった時代の組織文化の再興を願ってのことだろう。
赤き哲学 | |
高橋慶彦 | |
ベストセラーズ |
高橋慶彦が移籍したあとのカープは徐々に優勝から遠ざかり、いつのまにかBクラスが定位置になる。栄光の時代と現在をつなぐ時代に苦闘した一人が、前田智徳だ。彼が同じ世代の石井琢朗、トレーナーの鈴木卓也と3人で鼎談している。
天才と称賛された前田が味わったアキレス腱断裂後の苦闘は、想像を絶するものだ。本人は自ら多くを語りたがらないが、トレーナーであった鈴木や最後の数年同僚になった石井との対話によって、様々なエピソードが引き出される。
過去にあらがう | |
前田 智徳、石井 琢朗、鈴川 卓也 | |
ベストセラーズ |
もしアキレス腱の断裂がなかったらどうなっていたと思うか、という質問への前田の回答は秀逸だ。天才打者として野球人生を終えることの代償に彼が得たものの価値が、そこからほのかに見える。もちろん、私の主観的解釈として。
壮絶な練習とプロ意識に支えられた強くて「怖い」時代があり、個人としてもチームとしても苦闘した「辛い」時代があり、若手選手を中心に新たな人気を獲得した現在がある。そこに組織として、どんな流れと断絶があるのか。
戦うための組織として、ある意味で極限化されたかたちをとるプロ野球チームの内部変化を、数十年というタイムスケールで眺めることは、他の組織のマネジメントを考えるうえでも、示唆に富んでいると思う。それに、面白い。