ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/06/10 歌舞伎座昼の部③ずっと観たかった「吉野川」

2007-06-13 23:59:58 | 観劇

「妹背山婦女庭訓」のこれまで全く観ていない《小松原》~《吉野川》を初めて観ることができた。両花道がかかってその間を吉野川に見立てるここの場面をずっと観たくて仕方がなかった。写真は、歌舞伎座キャンディ缶の「吉野川」デザイン。今月の企画が決まる前に買っていたくらいだ。開幕直前まで7月公演の先行発売の電話かけをしていてあせったが、なんとかイヤホンガイドの解説開始にも間に合った!

《道行恋苧環》~《入鹿誅伐の段》が上演された今年2月文楽公演の感想はこちら
【妹背山婦女庭訓 小松原~吉野川】
今回の配役は以下の通り。
大判事清澄=幸四郎  久我之助清舟=梅玉
太宰後室定高=藤十郎  太宰娘雛鳥=魁春
宮越玄蕃=松江  荒巻弥藤次=亀鶴
蘇我入鹿=彦三郎  采女の局=高麗蔵
あらすじは、「妹背山婦女庭訓」の全体を把握しようと検索してみつかったおたべさんの「歌舞伎のお勉強」のページがわかりやすい。他にもいろいろあってこれからも参考にさせていただくことにしたい。

《小松原》
天智帝の寵愛を受けている采女の局は鎌足の娘。入鹿に命をねらわれて、宮中から逃げ出したのだ。その局付きで出仕している久我之助が局を逃がすのだ。こういう設定もわかるのでやはり初見の際にはイヤホンガイドが有難い。局の高麗蔵はいかにも鎌足の娘という感じがするほどキリッとしている。こういうお役はよく似合うと思った。久我之助の梅玉と雛鳥の魁春は腰元たちが縁を結んで“囁き竹”で気持ちを通い合わせて恋に落ちる。ここの場面が可愛らしい。梅玉・魁春の兄弟コンビのおっとりとした雰囲気が活きているなぁと感心した。

《太宰館》
この場面は松竹のサイトには《花渡し》とあったが、渡辺保氏は《定高館》とし、水落氏は《太宰館》としている。なんとなく《太宰館》と呼ぶことにしてみる。
彦三郎の藍隈の入鹿は立派。ただ台詞がききとりにくいのは私が初見のせいかも。時代物、特に王代物の台詞は苦手かもしれない。とにかく入鹿は、川をはさんでの領地争いに遺恨をもつ両家当主の不和は見せかけではないかと疑っている。《小松原》での様子を宮越玄蕃から注進されているからだ。ここで大判事には局の行方を知っているはずの久我之助の出仕を、定高には自分に雛鳥を差し出すことを命じる。その返事を桜の花枝でせよとそれぞれに花枝を腰元に渡させることから《花渡し》の場となっているらしいが、結局それらは別目的で使われる。見かけの綺麗さだけ重視の演出に感じた。
とにかく普段は上演されない《小松原》《太宰館》の2場面が前段にあったことで《吉野川》の場面に向かって盛り上がったことは確か。

《吉野川》
幕が開くと真ん中に吉野川。奥には滝状になったところを筒状の物を回しながら模様が動くことで水がこちらへ流れてくるように見える仕掛けが素晴らしい。その動きも終始動いてはいない。芝居の邪魔になるところではちゃんと止まっているのに感心。
ここは義太夫も左右の両床になる。下手の大和国妹山に太宰の下屋敷。上手の紀伊国背山に大判事の下屋敷。川をはさんでやりとりがある場面はかけあいになる。それぞれの床を昔は一人ずつの太夫で通したそうだが、今では前半が若手、後半がベテランと4人で語るようになっているらしい。(葵太夫さんの「今月のお役」より)筋書がまだなので自信がないが、背山:葵太夫→綾太夫、妹山:愛太夫?→谷太夫だと思う。それぞれ一人ずつで通してもらうというのも聞いてみたい。そして、こういうのを見ると思わず文楽でも観たいなぁと思ってしまう。

前半は川をはさんで久我之助と雛鳥が思いを通わせるせつない場面。《小松原》があるとここがより盛り上がる。その二人に引導を渡しにそれぞれの親が両花道に登場。《太宰館》での両家当主の言い争いもあり、不和な雰囲気が続いているので、川の両岸での憎まれ口もよくわかる。
入鹿の命に従わずに自害をする覚悟をそれぞれに決めるが、お互いに自分が死ねば相手は助けられると思って喜んで死んでいこうとする。この恋人たちが哀れ、その決心を聞いて「でかいたでかいた」と褒め、子どもの首をそれぞれはねることになる親の哀れさ。川を隔ててそれぞれに死を選んでいたことを知った定高と大判事の驚き。その不幸を共有することで初めて不和を水に流してお互いの嘆きをわかちあう姿に泣かされる。

藤十郎も幸四郎も場面によっては台詞がききとれないことがけっこうあった。しかしながらお二人の個性的な濃い目の芝居がぶつかりあいが実に相乗効果を上げていた。おふたりとも鼻をすすりあげながらの嘆きの場面はまさに愁嘆場。客席のあちこちですすりあげが響く。上方風の雛鳥の首への死化粧をしてやる定高には気丈ながらも女親らしい愛情が濃く漂う。このへん、私にはかなりくるところである。

縁結びの腰元たちが雛段に飾ってあった嫁入り道具のミニチュアを大判事側に流す。最後は駕籠を裏返した琴にくくりつけた舟で雛鳥の首を渡しての嫁入り。ここで吉野川の筒の装置が作動して川の流れを見せる。横にまっすぐ渡っていくのはありえないが、このどんぶらこどんぶらこと横に渡っていく様子がまた芝居らしくていいものだ。その雛鳥の首を虫の息だった久我之助の前に据えると満足そうに九寸五部を引き回し、父の介錯を受けるのだ。
そのふたりの首の包みを両脇に抱えて入鹿の三笠御殿に向かう大判事と見送る定高が左右に決まっての幕切れ。この二つの家の入鹿への悲痛な抵抗こそが、蘇我入鹿という巨悪を誅するという大ドラマにつながっていくという作劇の大きさに驚かされる。

この話はよく「ロミオとジュリエット」に似ているといわれるが、親の比重がかなり違う。ロミジュリはあくまでも若いふたりの物語だ。こちらは若いふたりも恋に殉じるだけではなく、あくまでも忠義や二世の誓いをつらぬくために死に、それを親たちは応援する。ただのラブロマンスだけでなく、歴史ドラマとしての大きさがあるのが実にいい。
幸四郎と藤十郎、梅玉と魁春というバランスのとれた配役もとてもよかったと思った。ずっと観たかった「吉野川」だが、とても満足できて嬉しかった。

以下、この公演の別の演目の感想
6/10昼の部①「侠客春雨傘」染五郎長男の初お目見得
6/10昼の部②「閻魔と政頼」
6/26千穐楽夜の部①染五郎の「船弁慶」
6/26千穐楽夜の部②「盲長屋梅加賀鳶」
6/26千穐楽夜の部③絶品の「御浜御殿綱豊卿」


最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (hitomi)
2007-06-18 09:12:36
吉野川はいかにも日本的。主や親のため命絶つ悲劇。吉衛門と玉三郎、福助で録画鑑賞しました。
返信する
皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-06-20 02:12:13
★「花がいっぱい。」のharumichinさま
TB返し有難うございますm(_ _)m
初めての「吉野川」観劇に前段も一緒に観ることができたのはとても幸運でした。出演者も十分に感情移入し、観る方もしっかりと気持ちの流れも理解した上での「吉野川」。だから泣き過ぎるくらいになっていてもむべなるかなと思えました。確かに「吉野川」だけであそこまでやられたら観る方もきっとひいてしまうと思いました。
今年2月の文楽鑑賞から続けて「妹背山婦女庭訓」全体の作品世界にひたってこれたのもよかったんだと思います。義太夫ものの魅力にどんどんハマりつつあるところのようです。
★hitomiさま
>主や親のため命絶つ悲劇......親のためというのをあまり感じませんでした。それよりも雛鳥は入鹿に嫁がずに久我之助への想いを貫くために死んだというのを哀れに思いました。魁春雛鳥の久我之助恋しの思いに満ちた演技に特にそう感じたのかもしれません。
忠義や二世の誓いをつらぬくための子どもの死を受け止めるそれぞれの親、そのことで相手の家を立てようとするという感覚、そのへんが日本的なのかもしれませんね。
返信する
TBありがとうございました☆ (Ren)
2007-06-23 09:36:39
こんにちは☆
小松原での出会いと、次の館での難題、そこを踏襲しての吉野川で私の中でお話がビシっと繋がりラストへと大変盛り上がりました。よくご存知の方には少々退屈でも時々はこうした場を続けて上演していただけるとありがたいです。TB入れさせていただきました。
返信する
続・TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-06-24 00:06:28
★「如意宝珠」のRen様
私も前段つきで観ることができて本当によかったと思いました。《小松原》〜《吉野川》を通して観ることで《吉野川》の悲劇性が高まりますもんね。幸四郎×藤十郎の濃い目のお芝居がとってもよかったです。梅玉・魁春コンビの久我之助・雛鳥も、もう文句なくいいので、この4人揃った舞台はきっと忘れられないと思います。!

返信する
TBさせて頂きました。 (dream)
2007-06-26 22:55:19
TB&コメントありがとうございました。
吉野川の前の「小松原」「花渡し」の場から観られて、本当に嬉しかったですね。
私も感情移入してしまい、途中からは涙涙涙でした。
「閻魔と政頼」は、吉右衛門さんと富十郎さんが楽しそうに演出!今回が初演なので、これから改良される事を期待しています。
齋(いつきchan)の30年後の弁慶を観られたら嬉しいけれど・・・(笑)・・・応援しています。
PS・・・誕生日のお祝いのメッセージを頂き、本当に嬉しいです。有難うございました。
返信する
藤十郎のダイナミックな (かしまし娘)
2007-06-29 16:58:33
ぴかちゅう様、まいど!
『妹背山婦女庭訓』は和製ロミオとジュリエット
こう宣伝されることが多いですね。
雛鳥と久我之助、互いの家が領地争いで不仲!
さあこの恋ど~なる。
こうくると、若い2人の物語。
そう思っちゃうけど、これは2人の親の物語だと思いました。

藤十郎のダイナミックな動きは文楽人形みたい!
最後の最後には、気がつけば涙がポロリ…。
風邪で熱があってフラフラな中で、集中して観れた数少ない場面でした(苦笑)
返信する
続続・皆様、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-06-29 22:02:11
★「夢日記」のdreamさま
今年2月の文楽鑑賞から続けて「妹背山婦女庭訓」全体の作品世界にひたってこれて、今回も《小松原》〜《吉野川》を通して観れてドラマにドーンと引き込まれてしまいました。義太夫ものの魅力にどんどんハマりつつあるところのようです。
★かしまし娘さま
>風邪で熱があってフラフラ......お加減はいかがでしょうか。確かにこの通し上演は気力体力が充実していないと存分に楽しめない重量級のドラマでした。かしまし娘さんの完全復活を祈っております。
>これは2人の親の物語だと思いました......同感です。やはりそこがロミジュリと大きく違いますよね。
文楽の本場・大阪で文楽をしっかり踏まえた藤十郎の丸本物。襲名披露公演の政岡もよかったし、この定高もよかった。かしまし娘さんおすすめの戸無瀬も観てみたいです。
(注)かしまし娘さんの記事はお名前の欄をクリックすると読むことができます(^O^)/
返信する

コメントを投稿