ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/06/26 歌舞伎座千穐楽夜の部③絶品の「御浜御殿綱豊卿」

2007-07-04 23:59:08 | 観劇

6/13に「御浜御殿」の幕見で友人の娘に歌舞伎デビューをしてもらった。
その日の記事はこちら
そして千穐楽で再観劇。よかった!もうホントにすごい舞台だった!!感想アップがずいぶん遅れたがちゃんと書いておく。
【元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿】
今回の主な配役は以下の通り。
徳川綱豊卿=仁左衛門 富森助右衛門=染五郎
中臈お喜世=芝雀 御祐筆江島=秀太郎
上臈浦尾=萬次郎 新井勘解由(白石)=歌六
あらすじは以下の通り。
江戸城松の廊下の刃傷で浅野内匠頭は切腹、大石内蔵助は弟によるお家再興を願い出て公儀の沙汰を待つ状態が続いている。
舞台は将軍綱吉の甥・甲府宰相徳川綱豊の江戸の浜手屋敷で毎年恒例になっている御浜遊びの日。無礼講で楽しむ女中たちの綱引きで幕開き。このお女中たちの姿をあらゆる伝手を使って透き見させてもらうのが当節の流行。綱豊のお手つき中臈お喜世の方の義理の兄である赤穂浪士の富森助右衛門も遥泉院の周囲の者からの手紙を携えて来て透き見も願い出ている。遥泉院を力づけるために綱豊に赤穂家再興の口添えをしてもらうように話をして欲しいとあった。その手紙を上臈浦尾が見つけて詮議しようとするところを祐筆の江島が助け舟を出す。
そこに堅苦しい御台所のところから逃げ出してきた綱豊卿が現れる。寵愛するお喜世には「そちはいつまでも町娘らしく浮き浮きとしておれよ」と手をなでる。綱豊の御台所は関白近衛家から輿入れしてきており、実家からの赤穂家再興のための口添えの催促に頭を痛めている。明日は将軍謁見の予定があるところ、決断を迫られているのだ。そんなところに赤穂浪士でもある助右衛門が透き見のために屋敷内にとどまっていることを知り、会って話をすることにした。
その前に学問の師であり相談役である新井白石を呼び出し、最後に相談の場を設ける。時の帝も内匠頭は切腹を哀れんでいることから赤穂家再興を進言するつもりだと言うと白石は賛成する。ところがそれでは内蔵助たちの仇討ちができなくなってしまうので、自分としては進言したくないという本心も明かすと膝をたたいて褒める白石。ここが最初の見せ場。
助右衛門は本日の客の中に吉良上野介がいることを聞きつけ、顔を確認したいがために透き見を願い出ていた。何やら奥向きに呼び出された助右衛門は綱豊との対面だとわかってあわてふためくが、ついに御前に通されてしまう。ここからが第二の見せ場。
綱豊は助右衛門とやりとりする中で赤穂浪士による吉良の仇討ちの確証を得ようとする。まずは仕官の話をもちかけるが助右衛門はそっけなく固辞。近衛家の赤穂家再興の働きかけは内蔵助を召抱えたいからだが、所詮は田舎侍と挑発。助右衛門が堪え切れずに反論を始めると徐々に自分の本心をさらし始める。この国の心ある者は赤穂浪士の仇討ちに心を寄せている。それなのに内蔵助の最近の放蕩ぶりはなんだと非難する。
助右衛門はついに逆襲。綱豊が次期将軍になろうとする志のために、綱吉が力のある大名を次々にとりつぶしているので用心し、わざと学問と遊興にふけっているのと同じことだと舌鋒鋭く突く。綱豊は怒って刀の柄に手をかけるが、ふっと助右衛門の言葉に利があることを認める。
明日の登城で赤穂家再興を願い出るが、そうなると仇討ちはできなくなるがと言い置いて、綱豊は来客接待に向かおうとする。それまでいくら近くに寄れと言っても敷居をこさなかった助右衛門がついに敷居を越え、何もしゃべれずに涙顔で綱豊を見つめ続ける。その顔をしかと見た綱豊は「助、そちは憎いことを申したなぁ」という言葉をかけて立ち去っていく。
助右衛門は上野介の到着を聞きつけ、今のうちに討ち果たそうとするが、お喜世が必死に止める。この部屋を血で汚してはならないと必死に止める。義理の兄の思いもわかり、自分が手引きをして上野介が演能に出るところをきっと討たすと約束する。
最後の場面は屋敷内の能舞台に続く廊下。能「望月」の獅子の衣裳をつけた者がひとりになると助右衛門は槍で討ちかかる。ハラリと覆いがとれて顔が現れるとそれは綱豊卿だった。上野介の白髪首さえとればいいのではない。卑怯な真似をしないで正々堂々と討ち果たしてこその仇討ちなのだと助右衛門を嗜める。
綱豊は、祐筆の江島に助右衛門を阿呆払いにするように託して、自分の登場を待つ舞台に颯爽と向かう。そこで幕。

お喜世をいじめる上臈浦尾の萬次郎。「女暫」の巴御前と同じ人とは思えないほど憎憎しくて存在感があってよい。江島の秀太郎はこの後の「盲長屋~」のお兼と両極端な役で大変だろうなぁ。
芝雀のお喜世を相手に仁左衛門の綱豊がニッコニコでとにかく可愛くて可愛くて仕方がないという様子を見せるが、もう本当にそうだろうなぁと思える。お世継ぎをもうけるのはこの人だったよなとまた納得。本当に可愛くて義理の兄への思いも深くて健気だし、魅力的。
歌六の新井勘解由と綱豊のさむらい心についてのやりとり、「武士の相身互いとは己の侍心で相手の侍心をたててやることだ」のあたりでもう涙腺決壊(T-T)歌六は「鬼平」でも然り、こういう男と男の気持ちをぶつけあう場を支えるいい役者だと思った。

仁左衛門の綱豊はもうハマリ役というしかない。染五郎は助右衛門を初役でつとめたというが、これも見事な出来だった。緩急自在の仁左衛門の芝居に染五郎がよく食らいついているのも嬉しく、ふたりのやりとりがだんだん緊迫していき、まさの火花が散る様に大興奮。最後は二人とも本当に泣いていた~。仁左衛門は目の下の赤が頬に飛んでいた。ちゃんと花紙のようなものを小引き出しから出して涙を抑えて部屋を出て行った。観ているこちらも涙涙。男と女のドラマもいいが、男と男のドラマが大好きなのでもう魂持ってかれた状態になった。

仁左衛門が脇息にもたれながら少し反るようにしながら杯をあおり、伏せ目がちに助右衛門を見ながら語りかける姿も美しい。伏せ目がちな表情が美しい役者が好みなのでもうホントに堪らない。
そんな酩酊状態から少しずつ真顔になっていくその変化、たたみかける台詞術、刀に手をかけてキッと決まる表情・姿形の緊迫感みなぎる美しさ、そこからフッと表情を変えて相手に微笑みかけるその自在さに観る方は酔うしかない。

綱豊卿が笑う場面が多いので、仁左衛門の笑顔が大好きな私はそのたびに見とれていたことも告白する。

染五郎は仁左衛門にいろいろなお役を教わっているようなので、この間築いてきた信頼関係もこの熱い芝居を支えていたように思った。仁左衛門の「芸の花」、染五郎の「時分の花」がぶつかりあった本当に絶品の舞台を堪能した。「元禄忠臣蔵」の連作の中でも人気があるのも納得した。また観ることができる日を心待ちにしている。

写真は、イヤホンガイドの『耳で観る歌舞伎』表紙になっている獅子の拵えをした綱豊卿の仁左衛門をアップで撮影。
追記:御浜遊びでお伊勢参り姿の女の子が出てきて綱豊に「壱文のご報謝~」と声をかける。この子役は仁左衛門八汐に「(獄屋に)そちゃゆけ~」ってやった下田澪夏ちゃん!仁左衛門とまたまた共演。とってもいいお声だった。でも「ぜぜは持ったことがない」って綱豊!すごいお育ちの方だってこのやりとりでわかる。脚本も素晴らしい!!
以下、この公演の別の演目の感想
6/10昼の部①「侠客春雨傘」染五郎長男の初お目見得
6/10昼の部②「閻魔と政頼」
6/10昼の部③ずっと観たかった「吉野川」
6/26千穐楽夜の部①染五郎の「船弁慶」
6/26千穐楽夜の部②「盲長屋梅加賀鳶」


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6 コメント

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仁左さん素晴らしい!1 (さちぎく)
2007-07-05 13:48:55
結構前のように思いますが、これ読んだら感動した日にジャンプしましたよ。国立の梅玉さんも良かったけど、緩急自在というか、柔軟性があるというか、仁左さんのほうが一枚上でしょうかね。
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Unknown (hitomi)
2007-07-06 19:11:55
仁左さんってホントに綺麗でかっこいいですね。悪の魅力も善人も上手い!大好きです。
昔、お父さんの仁左さんがよく大川橋蔵の映画に出でいました。最近亡くなった観世英夫さんもよく映画で拝見しました。
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千穐楽もご覧になれたとは素晴らしい (六条亭)
2007-07-06 22:04:13
TB&コメントありがとうございました。こちらからもTBをうちました。なお、三人吉三の拙ブログ記事は、感想内容がぴかちゅうさまとかなり異なっていますので、ご迷惑をかけてはいけないと思い、あえてTBはうっておりません。

『御浜御殿綱豊卿』の二回もご覧になれたとは、よかったですね。千穐楽の熱い熱気が伝わってくるような感想でした。今度は仁左衛門さんのお芝居にはまってしまいそうですね(笑)。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-07-08 00:55:35
★さちぎく様
わたしも舞台の脳内再現をしながら感想を書いていると感動が甦ってきてまたさらにテンションが上がってしまうのです。染五郎もこうして共演することで仁左衛門の芸をきっと吸収してくれていると思っています。
★hitomiさま
お父さんの仁左衛門さんを追ったドキュメンタリー映画も観たい観たいと思いつつ機会を逃しています。しかしずっと観たいと思っていればきっと実現すると思っているので、その機会を楽しみにしていようと思います。
★六条亭さま
とにかく仁左衛門×染五郎の緊迫感あふれるやりとりの場面がよかったです。6/13と千穐楽の2回観てしまいましたが、千穐楽はもう本当に熱く熱くすごい迫力でした。そこからまたふっと気を変えて笑顔を見せるというあたりは仁左衛門の芸の真骨頂を見せてもらったと思いました。これからもこんな芝居が観たいです!!!
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白熱の舞台・白熱のレポ (スキップ)
2007-07-08 02:11:25
ぴかちゅうさま
仁左衛門さんの綱豊卿vs染五郎さんの助右衛門の緊迫したやり取りは、私が観た初日でもすごく力が入っていてすでに出来上がっている感がありましたが、日を追うごとにより素晴らしくなっていったと聞いていました。
千穐楽のその白熱の舞台を、こうしてぴかちゅうさんの白熱のレポで読ませていただいて、とても感動いたしました。ありがとうございました。
仁左衛門さんは後進を育てるのに熱心な役者さんのお一人と拝察いたしますが、七月松竹座では海老蔵さんがどんな薫陶を受けているのか、これも楽しみです。
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★スキップ様 (ぴかちゅう)
2007-07-11 01:51:10
>六月大歌舞伎夜の部、ワタシ的注目は江島とお兼、二役を演じ分けた片岡秀太郎......ということで書いていらっしゃるスキップさんの記事をこちらでご紹介させていただきますm(_ _)m
http://paradise.269g.net/article/4413256.html
当初の予定にはなかったけれどこの演目だけ2回観ることができたのもラッキーでした。迫力が進化しているのもしっかりと確認!仁左衛門さんにはこれからも若手をビシバシ鍛えていただきたいです。海老蔵くんもいろいろあるようですが、芸道はしっかり極めていただきましょう。なんてったって成田屋しょってるんですからねぇ。
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