ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/07/31 『NINAGAWA十二夜』千秋楽昼の部、堪能しました

2005-07-31 22:57:45 | 観劇
シェイクスピアの『十二夜』は、山崎清介たちの「子どものためのシェイクスピアシリーズ」で1度、大地真央主演の東宝ミュージカルで2度観ている。そして今回は蜷川幸雄演出の歌舞伎版。アレンジなしの舞台は未見。トレバー・ナン演出の映画版でもDVDで観てみようかなと思っている。
だから、シェイクスピアの原作の登場人物の名前の方がぴんとくるので、以下、人物一覧に付記しておく(表記は私の読んだ松岡和子訳より)。
斯波主膳之助(セバスチャン)、獅子丸(シザーリオ)実は琵琶姫(ヴァイオラ)=尾上 菊之助
大篠左大臣(オーシーノー公爵)=中村 信二郎
従者幡太(ヴァレンタイン)=坂東 秀調
従者久利男(キューリオ)=尾上 松也
織笛姫(オリヴィア)=中村 時蔵
丸尾坊太夫(マルヴォーリオ)、捨助(フェステ)=尾上 菊五郎
左大弁洞院鐘道(サー・トービー・ベルチ)=市川 左團次
麻阿(マライア)=市川 亀治郎
比叡庵五郎(フェイビアン)=市川 團蔵
右大弁安藤英竹(サー・アンドルー・エイギュチーク)=尾上 松緑
海斗鳰兵衛(アントーニオ)=河原崎 権十郎
舟長磯右衛門(船長)=市川 段四郎
役人頭嵯應覚兵衛 坂東 亀三郎
こうして見ると、名前からしてよく考えて翻案してある。これで最後の麻阿の「トービー」「アンドルー」 にひっかけた台詞もわかると思う。今回は小田島雄志翻訳の脚本を下敷きに今井豊茂が上演台本を書いているが、なかなかよくできていると思った。シェイクスピアの芝居は韻を踏んだダジャレがとにかく多いので、それを英語からそのまま日本語にはできない。多少意味が違っても韻を踏んだ言葉でその感覚を楽しむのだ。だから翻訳者が違うと大分違う言葉があてはめられていたりする。それもまた面白いのだが。

しかしながら、室町時代末期の日本に舞台を置き換えていて、最も無理があるのは道化のフェステだ。「阿呆」と翻訳されるが、日本語にするとどんな存在なのか今ひとつピンとこない。また、原作では乱心したとされるマルヴォーリオをさんざん馬鹿にするのは道化の役回りなのだが、菊五郎がマルヴォーリオと道化の役を二役でこなすためにフェイビアンの役回りに書き換えられている。そうなると道化の存在意義がまた薄くなる。「阿呆」といつも呼ばれている人間がマルヴォーリオを「阿呆」よばわりするのが面白いのだ。無理に二役にしなくてもよかったのではないかなと思うが、まあ、菊五郎を情けないマルヴォーリオのままにせず、最後に花道で引っ込ませたいとなると道化にせざるを得なかったのかもしれない。
それとヴァイオラとシザーリオだけでなく兄のセバスチャンまでを菊之助の三役にしたのも無理があったと思う。いくらそっくりのラバーの仮面を作っても最後の兄と妹の再会の場面で会話もあったり、2組の恋人たちを並ばせたりもするのに仮面の身替りは興ざめだった。
あと、二幕目の冒頭のオーシーノー公爵の恋病みをなぐさめる宴席のシザーリオの踊りは長すぎて眠くなってしまった。けっこう話が長いし、場面転換でも時間をとられるのだから、踊りの途中からにするなど短くして欲しかった。


と、先に気になった点をつらつら書いてしまったが、ひとことで言うと堪能できた舞台だった。冒頭の満開の桜の木の下で、ローマ法王へ送られた天正の少年使節を思わせる少年たちがチェンバロの演奏で歌うところから室町末期のあでやかな世界にすーっと入ってしまった。いろいろな方のブログで評判だったチェンバロ、期待にたがうことはなかった。
奥の鏡と手前のマジックミラーを多用した舞台は美しかった。特に左右にも鏡を置いたので三面鏡のようになり、今日は奮発して2階東席で観たのだが、オーシーノー公爵の登場場面で本人と鏡2箇所に写った姿で3人の姿まだ見ることができたのはなかなか面白かった。とにかく客席までが写りこむ今回の舞台は、これまでも特設の対面の客席を作るのが好きな蜷川幸雄らしかった。海の場面でも波布プラス波を表現する照明で迫力満点。オリヴィアの屋敷の庭にある2つの橋も鏡で4つになり、そこを人物がわたってくるのも美しい。回り舞台による舞台転換が多い歌舞伎の奥行が半分になる舞台を鏡で効果的に奥行を倍にするという効果で「歌舞伎座の奥行のない横長の舞台」も自分好みに変えてしまった。
その回り回って時間のかかる舞台転換もチェンバロや三味線の音色の中で前の場面の余韻を楽しめる時間になった。ピアノと違って弦をはじくチェンバロの音色は三味線ともなじみがいい。舞台装置、照明、音楽、どれも斬新でよかった。

今回は蜷川幸雄の初めての歌舞伎演出だったが、今後もぜひ取り組んで欲しいと思う。今日お隣の席に座った方は蜷川幸雄の舞台がお好きで観にいらしたとのことだった。こうして歌舞伎座に普段いらっしゃらない方にも観ていただけたのだから、
勘三郎が野田秀樹とコラボレーションしたのと同様、これからも続いていって欲しい。そうそう『桜姫』のコメント欄での盛り上がりの中で書いたが『NINAGAWA桜姫』なんてどうだろう。舞台でなくて映画でもいいけれど。映画なら菊之助の姉の寺島しのぶなんてどうかな?などと勝手な企画をしてしまう。

さて、主要キャスト評。
菊之助
『源氏物語』の紫の上から観ているが、「兼ねる役者」として立派に成長してくれていて嬉しい。私はどちらかというと姫の扮装よりも若衆姿の方がきりりとしていて好きだ。さらに小姓として主の前にいるのに姫の本心がにじみ出てうっとりする場面は可愛らしさにあふれ、3つの役で表情、しぐさとも表現が自在で魅力的だった。口跡がいい上に3つの役で3つの声の使い分けもしっかりできているのもさすが。
時蔵
八重垣姫で初めて観て、先月の小万でかなり贔屓度をあげたが、今回も端正に美しい姫姿。気位が高いくせに年下の可愛い男に惚れると途端に可愛くなってしまう姫を十二分に可愛く演ってくれた。
信二郎
「子持山姥」の夫役で観たが、線が細い印象だった。今回はお髭姿で正統派の二枚目。時蔵との兄弟共演がこんなに美しく決まるとは予想以上だった。この3人の舞台写真を買ってしまった。
左團次
天衣無縫なキャラがぴったりだった。今まで観た中で一番好きだと思う。
松緑
ここまでの三枚目をやれば今後こわいものはないと思う。でも写真を売ってないのはこの姿をファンにいつまでもとっておいて欲しくなかったのかなあ。もっと開き直ってつきぬけてくださ~い。
亀治郎
コメディエンヌ?ぶりがすごい。こんなに活き活きと演じている姿を初めて観た。こういった役ももっともっとやってほしい。

写真はこの公演のチラシ写真(松竹のHPより)。
11月の新橋演舞場の『児雷也豪傑譚話』が早くも楽しみ。奮発しそうでこわい。

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23 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
歌舞伎座様壊すきか (舞台研究会のスパイ部の者より)
2012-03-04 11:30:34
私共はこの公演はちと危ぶみましたのでスパイスタッフを送り込みました
案の定舞台照明で大変な事が置きかけていました
蜷川の馬鹿演出家が例の照明で無理やりすのこ天井に45・6本ものムービングライト吊ろうとして劇場管理任されている清水建設の社員がすのこ天井にとんだ負荷がかかり倒壊の恐れあるのでやめろと警告発したんです
老朽化激しい歌舞伎座様です
ちょっとでも茶々したら2度と使用不可能起こしそうな状態でしたので清水の社員が警告したのです
凄いでしたね・終わり
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いまさらですが… (古典めざましタイ)
2005-12-06 13:31:35
いまさらですが。TBありがとうございました。

トラバ返しさせて頂きます。

蜷川特集をWOWOWでやってますね。

贔屓じゃないんだけど、”とにかく見ておこう”という演出家なのです。私にとって。

「NINAGAWA12夜」か…。

今となっては、装置が美しかったなぁ。という記憶しかない…トホホ。
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TBしましたー (あっこ)
2005-08-09 02:35:25
(^^)こんばんわ。遅くなりましたがTBしました。

ぴかさんは沢山TBされているんですね~すごいですね~。



文章もスゴいです。あはは、、あたいのレポはチープっぽくてですみませぇ~ん(^^;)にゃはは~



では~
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装置の金井勇一郎さんって... (ぴかちゅう)
2005-08-07 22:51:26
最近、グーグル検索づいている私。今回とても素敵だった鏡の装置をした金井勇一郎さんって何者?と早速検索してみました。

そうしたら金井大道具株式会社のHPが出てきて、そちらの取締役副社長だとか!代表取締役社長が金井俊一郎さんで、会社の受賞歴もすごいけど、金井俊一郎さんは紫綬褒章と勲四等朝日賞綬章までもらっているすごい方。父子さんではないでしょうか。

http://www.kanainet.co.jp/index.html

きっと金井勇一郎さんもいろいろな賞をもらうことでしょう(もうもらってるかもしれないけど)。

今、『新・三国志Ⅲ』のパンフで装置は金井勇一郎となってました。この3・4月の『ヤマトタケル』の方を調べたら、わー、装置は朝倉摂・金井勇一郎、舞台技術で金井俊一郎となっている。日本の舞台装置は、金井父子さんに大きく支えられているということですね。

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コメントありがとうございます。 (achacco)
2005-08-04 02:31:23
はじめまして、ご訪問ありがとうございました。

事後報告ですがTB&リンク貼らせていただきました。

私、蜷川さん演出を見たのは今回が初めてなんですが、十二夜以外のお芝居も見たくなりました。もちろん、また歌舞伎の演出してくださると嬉しいですね。



演劇界の9月号まだチラっとしか見ていないのですが、ぴかちゅうさんの記事を楽しみに早く全部拝見してきます!

また遊びにきますね~。

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たくさんのTB、コメントありがとうございますm(_ _)m (ぴかちゅう)
2005-08-04 02:06:28


TB、コメント、TB返しをいただいた皆様、ありがとうございますm(_ _)m

蜷川さんの舞台と歌舞伎と両方をおっかけている私としては、けっこう真面目にいろいろ考えてしまいました。図書館で「演劇界」9月号を読んできてツラツラ考えたことを記事に書きましたので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

http://blog.goo.ne.jp/pika1214/d/20050804

蜷川さんの最初で最後の歌舞伎演出かもしれないと菊之助が語っていたということですが、蜷川さんの気が変わるかもしれないし、舞台ででも映画ででもいいから絶対歌舞伎物をやってほしいと願っています。みんなで願えば通じるかも...。



また、猿之助が始めた歌舞伎界を革新するような取り組みが、中村屋でもついには菊五郎劇団でも意欲的に取り組まれているのが嬉しいです。受けとめる側も伝統的なもの、革新的なもの、両方を楽しめるようになっていけば歌舞伎も決してすたれることはないと確信を抱いています。
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コメントありがとうございます。 (健忘亭)
2005-08-04 00:21:17
ぴかちゅうさん、はじめまして。

拙文にコメントいただき、ありがとうございました。

蜷川さんにはまた歌舞伎に取り組んでもらいたいですね。また、沙翁の歌舞伎化も、もっと観たいものです。

勘三郎は、本当に芝居が好きなんだなと思いました。

今後とも、よろしくお願いします。
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TBさせて頂きました (dream)
2005-08-03 21:51:29
こんにちは。TBさせて頂きました。

仮面には驚きました。こんなにソックリな人がいるなんて・・・と思っていた私です。

また、NINAGAWAさんの演出の歌舞伎を観てみたいです。
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楽しかったです (チハ)
2005-08-03 14:52:29
TB、試みていただきましてありがとうございます。毎回本当にすみません……。

こちらからもTBさせていただきました。

7月は本当に楽しみました。

また是非再演して欲しいです。蜷川さん演出が無理でも、菊五郎劇団の財産としては残ると思うので。今後がますます楽しみですね。
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Unknown (ofuran-su)
2005-08-03 10:54:21
こんにちは。TBさせていただきました。

本当に仮面にはびっくりです・・。

気付かない自分にもびっくりですけど・・。
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次も… (yonet35)
2005-08-03 00:56:07
TB&コメントありがとうございました。

私もまた蜷川歌舞伎が見たいと思いました。

今度は是非、喜劇ではなく、南北っぽい残酷な悲劇でお願いしたいです…。
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仮面 (ofuran-su)
2005-08-02 22:33:34
はじめまして。ofuran-suと申します。

千穐楽ご覧になっていたそうで、私も同じ日に見ていたのでレポート楽しみに拝見いたしました。

で、びっくりしたのが最後の吹替え。仮面でしたか?2階席から見ていたのですが、全然気が付きませんでした・・。しばしPCの前で呆然です。初日からあんまり評判が悪いから変えたのかななんて思ってました~(苦笑)

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Unknown (さくらえび)
2005-08-01 23:41:21
ぴかちゅう様

TB'返歌'させていただきました。

11月児雷也も、もう今からワクワクですわ。

売り切れ必死。
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信二郎さん (HineMosNotari)
2005-08-01 22:32:33
信二郎さん、舞台見たときは、どちらかというと、、印象薄かったんですが、舞台写真は、かっこいいのが多くて「おおっ!」と思わされました。

なんか、影のある写真がとてもすてきでしたよね。



今回の「十二夜」、私は原作全く読まない状態で、このお芝居みたので、ぴかちゅうさんのように原作との役柄比較なんかの楽しみは味わえなかったんですが、でも 原作知らなくても十分楽しめる ってのも、

ある意味、大事ですよね。



ただ、吹き替えの件はね~、ちょっと・・・(^_^;)
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メッサリ~ン (てぬぐい…)
2005-08-01 21:18:07
◇こんばんは、ぴかちゅうさん。私へのTBではお手数おかけしたそうで、Biglobeになりかわりお詫びいたしますよ。

で、お誘いにのって遊びにきました。

更にさきほど別記事書いてTBさせてもらいました。

 :

こちらのブログは比較的文章量が多いほうだと思うんですが、テンポよく読みやすいですね。レミゼ2005の頃からしっかり拝読してます。

これからもキレのある評に期待します。では。
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再演希望 (うさ吉)
2005-08-01 20:02:33
ぴかちゅうさんのお言葉にいちいちうなずいてしまいました。

原作を知らないもので捨助の役に疑問があったのですがおかげで納得しました。ありがとうございます。

いろいろ手直しが必要なところはありますがとても素敵な舞台だったので、私も是非再演を希望します。

というか、1回しかチケットを取らなかったことを非常に後悔してます。なのでまた見たいのです!(^^;
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こんにちは (harumichin)
2005-08-01 15:13:41
お邪魔します。はじめまして。

わあ~~~。みなさんのさまざまな感想を

読ませていただいて...反省しきりの私です。

(なんで9回も行くか~と)

最近どの芝居も回数みないと...と老化現象かも?

また、遊びに来させていただきます。





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TBありがとうございます! (龍の目)
2005-08-01 07:54:34
おはようございます、龍の目です。

とても素敵なお芝居でしたねえ。

またどこのブログを拝読しても、

舞台への指摘がどれも前向きな指摘で、

あぁ、皆さんも再演を期待しているのかと嬉しくなりました。

僕の注文は段四郎丈が演じた磯右衛門の、

中途半端な描き方の手直しなんですけどね。

歌舞伎は再演を繰り返して決定版が出来ていくので、

この作品の未来が愉しみです。
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TBありがとうございます (みらの)
2005-08-01 01:26:07
NINAGAWA歌舞伎良かったですよね~☆

でも私もあの仮面はちょっと…。身替りなのにしゃべってましたしね…菊之助くんじゃないでしょ、あんた!と思ってしまいました(笑

そういえば松緑さんの舞台写真なかったですよねぇ、まさか売り切れだったりしたら笑うんですけど(笑

児雷也豪傑譚話も行こうと思ってなかったんですけどかなり行きたくなってしまいました!

TBこちらもさせていただきました(_ _)
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tbありがとうございました! (lowoolong)
2005-08-01 00:46:28
「道化」って日本にはいない役職(?)ですからなかなか歌舞伎にするのは難しいのかもしれませんねえ。

冒頭のソプラノ少年が「天正遣欧使節」というのに納得です。信二郎さんの台詞もロマンティックで、最初からひきこまれてしまいました(^^)
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二役。。 (asari)
2005-08-01 00:22:28
千秋楽盛り上がった様ですね。



あのすごーく素敵なラストに難癖をつけるのは残念なのですけど、私も吹替えは興醒めと

思いました。

でも主膳之助も琵琶姫も菊之助がいい。

「菊ちゃん、分裂して!」と思いながら観ておりました(^^;
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お久しぶりです。 (石橋)
2005-07-31 23:57:49
TBありがとうございます。

おっしゃる通りで、二役・三役は

ちょっと無理がありましたよね。

舞台の美しさでごまかしていても

捨助は単なる早口の理屈言いにしか

見えませんでした・・・。

ラストに堂々と吹き替えが

出てくるのもちょっと興ざめですね。



でもでも!

亀治郎&左団次がいればオッケーですよ!

また練り直しての再演を期待しますね。
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TBしました。 (お茶屋娘)
2005-07-31 23:13:23
今日はお世話さまでした。

やっぱり、松禄丈のこれからを、見ていきたいと思います。ほんとは、三之助の中で、一番芝居は上手な人なんだから。
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