
3/31に「南番」を観て、今日ついに楽しみにしていたコクーン歌舞伎『東海道四谷怪談』の「北番」に行ってきた。
「南番」観劇の感想はこちら
「北番」の方が公演数が少ないので平日の昼の2階席最後列しかチケットがとれず、仕事を休んで観てきたが十分に報われた~。

BGMも通常の囃し方ではなく開幕から洋楽。冒頭の「浅草観音額堂の場」などほとんど同じような場面なのに参詣人の台詞回しから普通の時代劇のようにぐっとくだけてテンポアップしていて、洋楽もちっともおかしくない。直助で登場する勘三郎の七之助のお袖をポンポンとたたみかけてくどく時の愛嬌あるねちっこさ。ぐいぐいと「北番」の世界に引き込まれていく。
「北番」は通常の上演では省かれている場面や細かい説明的な場面も盛り込まれ、関係する端役などの登場人物も多くなっている(2003年7月に歌舞伎座で澤潟屋の通し上演を観ているがそれとは違って「四谷怪談」以外の要素は入っていない)。また、「南番」よりもさらにテンプアップさせている上に従来の歌舞伎を離れた演出で喜劇味も濃い。「南番」の時にもあったにはあったがあまり使われていなかった左右の2階建ての小屋がけの装置。ひとつひとつの部屋の幕が開いて人が見下ろす場面など串田和美演出らしいなと思ってしまった。
また、シアターコクーンでは従来の歌舞伎のように部屋をしつらえた装置を回り盆に乗せても回せない。「南番」は従来のイメージの装置を出してきたり引っ込めたりしていたが、「北番」では省略形の小さい部屋にして「伊右衛門内」「伊藤喜兵衛内」を隣りあわせで作って小さい盆回して舞台転換。その間に笹野高史が按摩宅悦←→喜兵衛の早替りをしたりして本当にテンポが早い。そのテンポに乗ってしまえたので観るのはそんなにつらくなかった。

扇雀の白塗りの佐藤与茂七がまたイイ男!「藤十郎の恋」がよかったので今回かなり期待していたのだが納得のいく二枚目ぶり。七之助のお袖とはかなりの美男美女で、地獄宿で夫婦の再会の後に直助を「フラレ男」にしてしまう。勘三郎のフラレ男ぶりがまた可愛い。ダイエット効果がここでも出ていてふんどし姿も50代とは思えないなかなかの魅力あり。
「北番」では通常の上演では省かれるお袖をめぐる因縁話を「三角屋敷」の場も入れてしっかりと描かれるので、この三人のキャスティングは◎だ。

笹野高史の伊藤喜兵衛は「南番」よりも金満家ぶりをバージョンアップ。金ピカの羽織袴でそっくりかえっているのが可笑しくて仕方がない。そのテンションに合わせるかのように孫娘のお梅を坂東新悟くんが女方の声の合間に地声をはさむ大仰な芝居。私はちょっとひいてしまったけどね(笑)
笹野さんは按摩宅悦とさらに伊右衛門の母お熊の三役を替わる大活躍だ。彼が「北番」の芝居の「軽さ」「テンポのよさ」「喜劇味の濃さ」を支えているように思う。

「南番」で直助で活躍した弥十郎は四谷左門と仏孫兵衛で登場。初めて見た「小仏小兵衛内」の場面で後妻のお熊がいじめる孫のおとぼけ次郎吉(鶴松)をかばったり、息子小兵衛(扇雀二役)の幽霊と再会したりと大活躍。ここでふせっていた主人が橋之助の二役だというのがちょっと意外で笑えた。
お岩と直助は同時に舞台にいることもある二役だが、マスクなしで代役が出ていて勘三郎が声を演じ分けていて楽しかった。また遠見の子役も田んぼの場面で登場し早替りの時間を稼ぐ。遠見のお岩も鶴松くんで大活躍だ。

大活躍といえば、浪衣の衣装をつけた大勢が横たわって表現した堀!!何をのたうっているのだろうと思ったが、ややしばらくして水面のゆらぎを表していると気づいてここも笑えた。伊藤家没落後のおまきやお弓が溺れる場面など寄ってたかって飲み込んでしまい布をかぶせて左右からひっこませるというのもなかなかの演出だと思った。「戸板返し」も土手を表す台をうまく使っていた。










そして最後の場面。宙に吊られた駕籠の中に夢のお岩と伊右衛門が透けてみえる。そこから一転地獄の場面へ。大セリを下げて口をあけた地獄にどんどんと亡者が落ちていく。伊右衛門は地獄から脱出しようと「蜘蛛の糸」ならぬ梯子を上っている。下の方には何人かの亡者が後から続こうとしている。かたや妹と契ったことを恥じて切腹した直助がロープで吊られて畜生道に落ちていく。
しかし伊右衛門は地獄からは出られないのではないか。蜘蛛の糸のイメージ通り、もう少しのところで落ちるだろう。直助もしばらくしたら梯子を上ってくるのではないか。そうして無限に地獄からの脱出・落下を繰り返すという「地獄」に落ちたのではなかろうか...。それほどお岩やお袖を不幸にした罪は重い...と考えるとなかなか恐ろしい結末を描こうとしたのではないかな、串田さん。昨年のコクーン歌舞伎『桜姫』の最後の姫の狂乱地獄の演出を思い出してそう思ってしまった次第。

私はけっこう今回の「北番」気に入った。チケットとりにくいという不満は残るが、同じ公演期間中に2つのバージョンの演出という快挙には賞賛を贈りたい。これからもこのカンパニーでいろいろ新しいことをやってくれるだろうと確信している。

写真は休憩に食べた500円の「特製あんみつ」をポスターの前で撮影。2階席(中2階より上)だと15分休憩にトイレにも行って1階まで降りてくるのが大変。結局あんみつもかきこんでやっと二幕に間に合った。「南番」の時もこのあんみつ。あんこの隣にある苺にひかれて今回お気に入り。
追記:タイトルを修正しました。やはり今回の終局は「無間地獄」ならぬ「無限の地獄」でしょうから。
追記2:翌日のNHK「生活ほっとモーニング」に出演された勘三郎丈によると、同じ日にクドカンさんも観てらして勘三郎さんに歌舞伎を書く約束をされたとのこと。勘三郎×三谷歌舞伎に続きクドカン歌舞伎もいつの日か実現するようだ。すごく楽しみだが、新橋演舞場くらいの大きな劇場で安い席もつくってくれないと私困る~。チケット争奪戦もこわすぎる~。
また「南番」の千穐楽のカテコ情報によると、来年のコクーンは「北番」中心とか。より一層練り上げられた舞台を観たいと思う。NY公演にも持っていくらしいが、そっちは成功を祈りたい。
「南番」観劇の感想はこちら
「北番」の方が公演数が少ないので平日の昼の2階席最後列しかチケットがとれず、仕事を休んで観てきたが十分に報われた~。



BGMも通常の囃し方ではなく開幕から洋楽。冒頭の「浅草観音額堂の場」などほとんど同じような場面なのに参詣人の台詞回しから普通の時代劇のようにぐっとくだけてテンポアップしていて、洋楽もちっともおかしくない。直助で登場する勘三郎の七之助のお袖をポンポンとたたみかけてくどく時の愛嬌あるねちっこさ。ぐいぐいと「北番」の世界に引き込まれていく。
「北番」は通常の上演では省かれている場面や細かい説明的な場面も盛り込まれ、関係する端役などの登場人物も多くなっている(2003年7月に歌舞伎座で澤潟屋の通し上演を観ているがそれとは違って「四谷怪談」以外の要素は入っていない)。また、「南番」よりもさらにテンプアップさせている上に従来の歌舞伎を離れた演出で喜劇味も濃い。「南番」の時にもあったにはあったがあまり使われていなかった左右の2階建ての小屋がけの装置。ひとつひとつの部屋の幕が開いて人が見下ろす場面など串田和美演出らしいなと思ってしまった。
また、シアターコクーンでは従来の歌舞伎のように部屋をしつらえた装置を回り盆に乗せても回せない。「南番」は従来のイメージの装置を出してきたり引っ込めたりしていたが、「北番」では省略形の小さい部屋にして「伊右衛門内」「伊藤喜兵衛内」を隣りあわせで作って小さい盆回して舞台転換。その間に笹野高史が按摩宅悦←→喜兵衛の早替りをしたりして本当にテンポが早い。そのテンポに乗ってしまえたので観るのはそんなにつらくなかった。

扇雀の白塗りの佐藤与茂七がまたイイ男!「藤十郎の恋」がよかったので今回かなり期待していたのだが納得のいく二枚目ぶり。七之助のお袖とはかなりの美男美女で、地獄宿で夫婦の再会の後に直助を「フラレ男」にしてしまう。勘三郎のフラレ男ぶりがまた可愛い。ダイエット効果がここでも出ていてふんどし姿も50代とは思えないなかなかの魅力あり。
「北番」では通常の上演では省かれるお袖をめぐる因縁話を「三角屋敷」の場も入れてしっかりと描かれるので、この三人のキャスティングは◎だ。

笹野高史の伊藤喜兵衛は「南番」よりも金満家ぶりをバージョンアップ。金ピカの羽織袴でそっくりかえっているのが可笑しくて仕方がない。そのテンションに合わせるかのように孫娘のお梅を坂東新悟くんが女方の声の合間に地声をはさむ大仰な芝居。私はちょっとひいてしまったけどね(笑)
笹野さんは按摩宅悦とさらに伊右衛門の母お熊の三役を替わる大活躍だ。彼が「北番」の芝居の「軽さ」「テンポのよさ」「喜劇味の濃さ」を支えているように思う。

「南番」で直助で活躍した弥十郎は四谷左門と仏孫兵衛で登場。初めて見た「小仏小兵衛内」の場面で後妻のお熊がいじめる孫のおとぼけ次郎吉(鶴松)をかばったり、息子小兵衛(扇雀二役)の幽霊と再会したりと大活躍。ここでふせっていた主人が橋之助の二役だというのがちょっと意外で笑えた。
お岩と直助は同時に舞台にいることもある二役だが、マスクなしで代役が出ていて勘三郎が声を演じ分けていて楽しかった。また遠見の子役も田んぼの場面で登場し早替りの時間を稼ぐ。遠見のお岩も鶴松くんで大活躍だ。

大活躍といえば、浪衣の衣装をつけた大勢が横たわって表現した堀!!何をのたうっているのだろうと思ったが、ややしばらくして水面のゆらぎを表していると気づいてここも笑えた。伊藤家没落後のおまきやお弓が溺れる場面など寄ってたかって飲み込んでしまい布をかぶせて左右からひっこませるというのもなかなかの演出だと思った。「戸板返し」も土手を表す台をうまく使っていた。










そして最後の場面。宙に吊られた駕籠の中に夢のお岩と伊右衛門が透けてみえる。そこから一転地獄の場面へ。大セリを下げて口をあけた地獄にどんどんと亡者が落ちていく。伊右衛門は地獄から脱出しようと「蜘蛛の糸」ならぬ梯子を上っている。下の方には何人かの亡者が後から続こうとしている。かたや妹と契ったことを恥じて切腹した直助がロープで吊られて畜生道に落ちていく。
しかし伊右衛門は地獄からは出られないのではないか。蜘蛛の糸のイメージ通り、もう少しのところで落ちるだろう。直助もしばらくしたら梯子を上ってくるのではないか。そうして無限に地獄からの脱出・落下を繰り返すという「地獄」に落ちたのではなかろうか...。それほどお岩やお袖を不幸にした罪は重い...と考えるとなかなか恐ろしい結末を描こうとしたのではないかな、串田さん。昨年のコクーン歌舞伎『桜姫』の最後の姫の狂乱地獄の演出を思い出してそう思ってしまった次第。

私はけっこう今回の「北番」気に入った。チケットとりにくいという不満は残るが、同じ公演期間中に2つのバージョンの演出という快挙には賞賛を贈りたい。これからもこのカンパニーでいろいろ新しいことをやってくれるだろうと確信している。


写真は休憩に食べた500円の「特製あんみつ」をポスターの前で撮影。2階席(中2階より上)だと15分休憩にトイレにも行って1階まで降りてくるのが大変。結局あんみつもかきこんでやっと二幕に間に合った。「南番」の時もこのあんみつ。あんこの隣にある苺にひかれて今回お気に入り。
追記:タイトルを修正しました。やはり今回の終局は「無間地獄」ならぬ「無限の地獄」でしょうから。
追記2:翌日のNHK「生活ほっとモーニング」に出演された勘三郎丈によると、同じ日にクドカンさんも観てらして勘三郎さんに歌舞伎を書く約束をされたとのこと。勘三郎×三谷歌舞伎に続きクドカン歌舞伎もいつの日か実現するようだ。すごく楽しみだが、新橋演舞場くらいの大きな劇場で安い席もつくってくれないと私困る~。チケット争奪戦もこわすぎる~。
また「南番」の千穐楽のカテコ情報によると、来年のコクーンは「北番」中心とか。より一層練り上げられた舞台を観たいと思う。NY公演にも持っていくらしいが、そっちは成功を祈りたい。
私も今日北番観ました~
高速バスが遅れたにも関わらず、どうしても仁左様の貢の写真が欲しくて東銀座に行ったため、またも遅刻したヒンシュク者です。109前で信号を待ってたとき、目の前の大きなGショック(?)が13時を知らせてました・・・私は真横がスピーカーだった(と思う)ため ちょっと音楽には違和感を感じたのですが、幕切れの演出が面白かったです。串田演出を見るのはこのコクーンが初めてかなぁ。
そして...七之助さんにサインと握手。橋之助さんは急いでいてみんなふられる。そしてそして鶴松くんと勘三郎さん!!勘三郎さんには思わずダイエットで哀れみと凄みが増して感動してブログに書いたとか活躍を祈ってますとかしゃべってサインと握手していただいてしまった~(けっこう反応していただきました!)。それと携帯のカメラで一緒に写っていただいてしまった~。至福のひととき~!!鶴松くんも先代萩褒めてしまったし~。うわー、変なおばさんだよね~。
ミーハー話でごめんなさいね!
★あいらぶけろちゃん様
途中で休憩していた記事にコメントいただきましてありがとうございますm(_ _)m
でもでも一緒に出待ちすればよかったね~。
勘三郎さんと写真も撮られたなんて、いいなぁ本当にウラヤマシイ。
私はスピーディな展開のお芝居がけっこう好きなので、
ぴかちゅうサマの記事を拝見して、ああ~好みかも♪と思いました。
「三角屋敷」と最後の「地獄落ち」は、特に興味を引かれた場面です。
ああ~お金をケチって南番だけにしたことが、つくづく悔やまれます。
しかもお写真もだなんて!!
羨ましいかぎりです。
北も南もそれぞれに楽しませてくれて
私たちは満足満足ですが、役者の皆さんは
混乱しないのかしら...と 思っていたら
回数の少ない北番は 南 南 とやっているうちに
忘れてしまって、いつも初日の様だったと
今朝方の生放送で勘三郎も言ってました。
7月から地方廻りに入る中村屋の面々...
今年の納涼は、成駒屋さん 大和屋さん辺りで
なさるのでしょうか...。
そうですか~。ツーショットとは、なんと素敵な
以前、世田谷パブリックシアターで、若干遅刻した時に、劇場入口を目指して、私と並んで走っている袴姿の人が居ました。それが勘三郎さん、当時は勘九郎さん、でした。雪駄で走って、よく危なくないなぁと感心したのも楽しい思い出です。確か、『ガリレオの生涯』の時です。
>無限に地獄からの脱出・落下を繰り返すという「地獄」に落ちたのではなかろうか...。
という箇所にぐっときました!するどい考察に脱帽です!
「生き地獄」とはこういうことを言うのかもしれませんねぇ。。。
勘三郎とのツーショット、うらやましい!!
しかも鶴松くんともお話できたなんて!!いいなぁいいなぁ。
※ぴかちゅうさんのブログを、拙ブログにリンクさせていただきました。
今後もよろしくお願いします!
★ゆっこ様
「北番」再演があれば、ぜひ観てくださいね。一見の価値のある舞台でしたよ。
★mayumiさま
今朝の「生活ほっとモーニング」の「この人にトキメキ!」しっかりビデオ録画しながら見ておりました。ホント同じ公演期間中に2つのバージョンはきつそうですよね。彼の役者馬鹿ぶりが大好きです(市村さんとおんなじだ~)!!
★いっちゃん様
並んで走られたなんていい思い出ですね。三谷歌舞伎の次はクドカン歌舞伎も書いてもらう約束したとか!ますます若い観客が増えそうです。
★ツチ子大夫さま
リンクありがとうございますm(_ _)m
無限の地獄のあたり、共感のコメントもいただいて、この記事のタイトルも変えてみました。これで一番言いたいことが伝わると思います。
皆様、私のミーハー話にもおつきあいいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
「浪衣の衣装をつけた大勢が横たわって表現した堀」のところは私は少々冷めてしまいました~ごめーーん。
北番は橋之助さんの色気に参っちゃった。
昨日見た国生くんもいつかはパパのように色っぽい男になってくれ♪
ぷよぷよで御餅みたいだったの。
感想のTBもありがとうございましたm(_ _)m
北番はやはりラストの「無限の地獄」場面でしょう!触発されてお茶屋娘さんから借りっぱなしになっていた梅原猛著『地獄の思想』(中公新書)を読み始めました。
★真聖さま
私のように「堀」の浪衣さんに喜んでいるのは少数派なんでしょうか。でもNY公演ではウケると思うなあ。橋之助さん、出待ちで急いでらしてサインもらえなかったけど、素顔も本当にイイ男ぶり!!私も参りました。
国生くんの裸武者で頑張っていた場面の舞台写真見ました!かなりダイエットしたらしいけれどこちらも賛否両論ですね。昨年の浅草の「鏡獅子」の胡蝶の時はちょっとお話になりませんでしたから(笑)でもおじさんともどもダイエットで頑張ったことはとても役者としては大事なことだと応援したいです。