ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/10/06 進化するミュージカル『エリザベート』!ついに感想アップしました

2005-10-06 20:31:23 | 観劇
今年帝劇で1ヶ月だけのミュージカル『エリザベート』を9/17と9/18の連日、トート役のダブルキャストのそれぞれで観劇することができた。自力ではとれなかった山口トートの公演のチケットを譲っていただいた友人に感謝m(_ _)m。
ようやく感想を書く時間がとれ、エッセン版のCDをききながら書いている。まずは全体の感想から。キャスト評は後ほど。

『エリザベート』は1992年オーストリア初演のミュージカル。日本では世界各国に先駆けて宝塚歌劇団で1996年に初演。ミヒャエル・クンツェのオリジナル脚本を小池修一郎が男役トップが主役になるという宝塚歌劇に合わせてトート役を主役に置き換えて潤色・演出し宝塚版として上演されて大ヒット。宝塚初演時にトート役をつとめた一路真輝が退団後、東宝での『エリザベート』初演でタイトルロールをつとめて、現在まで再演を重ねている。
この作品はクンツェの脚本が魅力的なことととシルヴェスター・リーヴァイの音楽がよくて何回も観たくなるのだが、初演から内容が少しずつ変えられ、進化してきているということが素晴らしいと思っている。作詞・作曲コンビのクンツェ・リーヴァイ両氏が作品に対して極めてフレキシブルな姿勢をお持ちなのだ。ウィーン初演と宝塚で主役を変えての上演を快諾したのも珍しいことだが、各地での上演プロダクションで曲の追加や場面の入れ替えなどが続き、初演からはだいぶ趣も変わってきているようだ。

2000年の東宝版の初演を観ての私の印象。天衣無縫に育った田舎の貴族の娘が母方の従兄である皇帝と淑やかな姉の見合いの席で番狂わせに見初められ、なるはずのなかった皇后の地位に上ったが、宮廷に押し込められることに我慢できずに精神的におかしくなり、放浪の末に死に憧れるようになり、暗殺されたことでようやく魂が救われるという話。死の象徴のトートは確かに魅力的だったのだが、エリザベート自体は「個性に合わない家に嫁いで逃れられなかった哀れな嫁」という感じであまり感情移入できなかった。エリザベートのソロ「私だけに」で失敗だった結婚を嘆き、一路のために追加されたソロ「夢とうつつの狭間に」でさらにその境遇を嘆きという「嘆き」の曲2曲が重たすぎた。エリザベートにあまり魅力が感じられないためにトートは結局のところ彼女に勝手に惚れたストーカーという感じが強かった。

その後、ウィーンでトート役を演じたウーヴェ・クレーガーたちが皇帝とエリザベートのデュエットはあるのにトートとのデュエットがない、是非つくってほしいと要望し、「私が踊る時」というデュエット曲が新たに加えられた。
「私が踊る時」は日本でも宝塚花組での公演から加わり、2004年の東宝版からも加わった(「夢とうつつの狭間に」はなくなった)。この変更が大きく舞台の印象を変えた。このデュエットは、ハンガリーに自治権を与える主導権をエリザベートがもち、オーストリア・ハンガリー二重帝国の誕生に大きな役割を果たし、ハンガリーでの戴冠式に続く場面で歌われる。一番はエリザベートが主に歌ってその時点での勝利、自分の人生を自分なりに生きていく決意をしめす。二番はトートが主に歌ってそのうちに彼女が人生を憎みだすことを予告し、その時こそ自分が必要になるのだという。このふたりの対等な対峙の曲、緊張感があってとてもいい。

「夢と現の間に」はなくなって「私が踊る時」が入ったことによって、エリザベート像が大きく変わったと思う。嘆くだけでなく、自分なりに主体的に人生を切り拓いて生きていこうとしたという姿がより魅力的に浮かび上がってきたのだ。そういう魅力的な女性をめぐって皇帝とトートが争うという構図もよりくっきりし、皇帝の役もトートの役も魅力が増した。
皇帝とその母ゾフィーが争う場面やゾフィーが死ぬ前に歌うソロが加わったことも人間ドラマの深みを増した。ゾフィーが息子をどれだけ愛していたかが明らかになり、その母を捨て去るほどの妻への愛情を注ぐ皇帝フランツ。その後のフランツとのデュエット「夜のボート」が、より哀切さを増した。

実は今回、内野トートによって最後の方の台詞がききとれたために長年の謎がとけたという喜びもあった。息子のルドルフの自殺で生きる力を失ってトートを求めたエリザベートを「まだ俺を愛していない」と黄泉の国へ連れていくことを拒否したトートが何故、最後にルキーニに暗殺を指示したのかという流れが納得できていなかったのだ。今回ききとれた台詞は「彼女を救うのはこれだけだ」(というような内容だったと思う)。キーワードの「救う」がこれまではききとれなかったのだ。そうか、一度は拒否してみたものの、彼女が苦しみを抱えてさすらう様に見かねたトートがその苦しみに終止符を打ってやろうという気になったのかあ。と勝手に合点してみた。今回の公演は、内野トートによってその納得を得たことによって大変気持ちよく後にひくことなく、マイ楽をおさめることができたのであった。

ミュージカル『エリザベート』は、作品そのものも進化し、続投するキャストの歌も演技も進化し、観る側の受け止め方も進化し、長く長く楽しんでいける作品に育っている。そう実感できたのが嬉しい今回の公演だった。

写真は、東宝のHPから今回公演のポスター画像。
一部、今年5/6に宝塚月組『エリザベート』を観た時の感想と重複したことをお許しいただきたい。
その時の感想はこちら
以下、ミーハーだがキャスト評の記事をリンクしておく。
その1:エリザベートとトート
その2:フランツとルキーニ
その3:ゾフィー、ルドルフ、マックス、ルドヴィカ


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16 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
トートの救い (red and black)
2005-10-06 23:42:51
感想をTBしていただいて、ありがとうございました。「悪夢」の場面、エリザベートの苦しみにトートが終止符を打つというのは、なんだか愛を感じますね。自分では思いつかなかった解釈でした。
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追伸です (red and black)
2005-10-06 23:45:02
たびたびすみません。ぴかちゅうさんがご覧になったのはパクさんルドルフかなと思って、彼についての記事をTBさせていただきました。
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TBありがとうございました! (かつらぎ)
2005-10-07 00:32:58
私のブログにもコメントをつけたのですが、TBありがとうございました。すばらしい感性に脱帽です!

実は、一路さんの次(々)回作「アンナ・カレーニナ」も楽しみにしております。彼女の気品につよさと威厳が加わるようになって、皇妃…というより、さらにつよい光を放っているようにも感じました。

またすばらしい観劇レポートを楽しみにしております。
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TBしました。 (お茶屋娘)
2005-10-07 10:52:56
感想をいえば、内野さん

で終わってしまいます。



あ、パク・トンハくん、あのメンバーのなかでダンスが群を抜いてましたわ。これからを注目です。



連作で、「MITSUKO」なんかも上演できたら面白そうですね。っていうか、絶対いいと思うよ!
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みにきました (らぶりー)
2005-10-08 23:10:23
内野トートに、かなり興味あります。1度はみたいんですがね~
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TBありがとうございました! (チロル)
2005-10-09 00:12:01
こんばんは。TBありがとうございました

「エリザベート」はまだ初心者ファンですが、

様々な変遷を遂げているのですね~。

色々と教えていただきありがとうございます
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TBサンクスです~ (まいまい)
2005-10-09 01:21:36
エリザ初心者としてはとても興味深く読ませていただきました!

なるほど~トートはシシィを救ったのですね。

やっぱりそれは愛ゆえ、だったのかしら。

またエリザ観たいです。
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TB、コメントありがとうございます (ぴかちゅう)
2005-10-09 01:35:59


★red and black様

そうなんですよ、5年越しの謎がとけたんですよ。まさにルキーニの言うところの「トート閣下のグラン・アモーレ」ですね。それと、ご指摘の通り2公演ともパクさんルドルフを観ております。

★かつらぎ様

かつらぎさんのブログでもコメントしていただきありがとうございますm(_ _)mずっと書きたかったのを1時間ちょっとまとまった時間がとれたので一気に書きました。『アンナ・カレーニナ』はしっかりチラシをもらってセピア色の写真に見入っております。

★お茶屋娘さま

ハートみっつが全てをあらわしてますねえ(笑)キャスト評では私もミーハーに書くつもりです。グーテンホーフ光子の舞台『MITSUKO』の日本初演も楽しみです。でも誰が主演するのかな。ここらで新しい主演女優の誕生が待たれますね。

★らぶりー様

次の上演ではぜひぜひデビューしてくださいませ。

★みゆみゆ様、チロル様、まいまい様

しつこく5年も納得いかなかったことの答えも出て、進化も味わえて幸せな今回の公演でした。またよろしくお願いします。

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どうやら、 (お茶屋娘)
2005-10-09 14:35:50
わたしのほうが、20年間、グーテン、と間違ったまま信じてたようですわ。



一路さんより若い世代で主役を張れるひと、誰だろう。



「相棒」というドラマの再放送を見ていて、木村佳乃ちゃんが重要な役(代議士役)で出てたのだけれど、彼女、ひときわ風格が出てきたね。歌を特訓すればいけるかも?
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今ちょうどキャスト評書いてるところ(^^ゞ (ぴかちゅう)
2005-10-09 14:56:00


今、ググってみました。グーテンホーフじゃなくてクーデンホーフ光子が正しかったようですね。後者の方が該当する件数が625件と圧倒的に多かった。でもやはり前者と思っている方もある程度いるようで20件ヒットしました。前はグーテンでヒットしたのでそっちが正しいと私も認識を修正してしまったんですが、クーデンでもその時にググってみればよかったな(笑)



今ちょうど『SHIROH』のDVDを流しながら『エリザベート』キャスト評を書いてますよ。エリザをやれる人をまた考えてたけど誰も思いつかない。木村佳乃ちゃんがあの♪「私に~」♪の音が出せるとは思えない。各国のエリザも怖がっているくらいなんだから。リーヴァイさんが編曲してくれないと無理でしょう。でもNHKの朝ドラで藤竜也の若妻役で出てきたよ。なんかひっぱりだこだね。
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