ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/11/23 顔見世大歌舞伎夜の部①「良弁杉由来」も堪能

2006-12-05 23:59:31 | 観劇
顔見世歌舞伎昼の部の「先代萩」にやられ、夜の部の良弁の仁左衛門への期待も高まらざるを得ない。ビジュアル的にはお坊さんだしあまりカッコよくないとは思うけれど評判のいいお役だし、しっかりと観よう・・・と思っていたら甘かった。
『菅原伝授手習鑑』の菅丞相に並ぶただの人間でないお役なのだという。かたや天神様になった方だし、良弁は東大寺の大僧正。そのへんの神仏に近い存在になっている品格が必要なのだという。
3/26昼の部「道明寺」の感想はこちら
1.『良弁杉由来(ろうべんすぎのゆらい)二月堂』
あらすじは以下の通り。
東大寺の大僧正の良弁は、春日大社参拝、二月堂の傍らの杉の大木への礼拝を日課としている。良弁自身が幼児の頃、大鷲にさらわれてきてこの大木に落とされたところを師匠に拾われたという所縁のあるものなのだ。その後の修行の末、大僧正にまで登りつめていた。
今日も大木の前にやって来た良弁は、杉に貼られた紙に目をとめる。そこには大鷲にさらわれた子どもを長い年月さがし求め、見つかることを願っているということが書かれていた。書いた者が見つけ出させると渚というみすぼらしい老婆。生き別れた子どもに何か持たせた証拠の品を訪ねると観音像の入ったお守りを持たせていたという。まさに良弁が肌身離さずにきた観音像の導きで母と子は三十年ぶりの再会を果たす。ふたりは再会を喜び合うが、孝養をつくしたいという良弁に渚の方は夫の菩提を弔いたいのですぐに近江に帰るという。母の気持ちを汲んだ良弁は自分の輿に母を乗せて見送るのだった。
配役は以下の通り。
良弁大僧正=仁左衛門  渚の方=芝翫
僧順円=秀調  僧慈円=由次郎
僧惟善=桂三  僧法善=竹三郎

夜の部冒頭の舞踊「鶴亀」ですっかり奈良・平安時代ムードに近づいていたため、この演目の時代にもすっと入っていけた。舞台にしつらえられた二月堂がとても立派で、その回廊を僧たちがすすんでくる。開け放たれた空間から良弁の朱の衣が見えると次第にワクワクしてくる。仁左衛門の良弁大僧正の登場だ。
なんて徳の高そうな品のあるお姿だろう。頭を丸めた大僧正のお姿がこんなに美しいとは思わなかった。そして語りだすと菅丞相を彷彿とさせる高めのお声。公達風のふわりふわりした声とも違った聖者の雰囲気が漂うようなといったらいいだろうか。昼の部の八汐からすると全く違う声だ。歌舞伎役者は大変だ。昼夜二部でいろいろなお役をつとめるので何種類もの声を同じ月に出さなければならない。幕間のイヤホンガイドの仁左衛門への特別インタビューでは、菅丞相とこの良弁は特別な「音づかい(おんづかい)」が必要で大変だと言っていた。ただの坊さんの母子対面劇ではなく、なかなかの難役なのだとあらためて思った。
お寺の開祖とか中興の祖という高僧の像が座っているような椅子に腰掛けた姿もつま先まで美しい。思わず手を合わせたくなるほどだ。
そういう普通の人ではなくなってしまっているような良弁が目の前に母親が現れたことで、ずっと抱き続けていた親を慕う気持があふれ出る。いつまでも親は慕わしいものだが、幼い頃に生き別れになっていた人にはよけいその気持ちが強いと思う。その思いを涙声で語り、この世で会えたことに喜ぶ子どものような微笑む姿に胸打たれる。

芝翫の渚の方は元はきちんとした家の奥方であったという風情を残しながら、流浪の末のみすぼらしい姿。さらわれた子どもを捜して物狂いになったこともあったが、再び正気に戻って子どもを探すうちに良弁の噂をききつけ、最後の望みにすがるように大木に貼紙をしたのだ。芝翫は実は私、お声や表情がちょっと苦手なのだが、この役はけっこう気に入った。声も顔の拵えやしぐさも渚という役にぴったりな気がする。
今回の舞台のつくりは仁左衛門と芝翫で相談して従来と変えたところがあるとイヤホンガイドの説明があった。私は今回初めてなのでどこを変えたのかはわからなかったが、ベテランのおふたりがじっくりと工夫をこらした舞台なのだなぁと思った。さらに再会を喜ぶ場面では仁左衛門も涙声だったし、いつもはクールな芝翫も情がたっぷりだったように思う。
予想以上に格調も高く、親子の情愛たっぷりの芝居を堪能できたのだった。

写真は公式サイトよりのチラシ画像。
関連の感想記事はこちらm(_ _)m
11/25昼の部①「先代萩」前半・八汐編
11/25昼の部②「先代萩」後半・勝元編
11/23夜の部②團十郎の「河内山」
11/23顔見世大歌舞伎の舞踊4本の感想
追記
書くのに手間取っていたら仁左衛門丈ら6人が日本芸術院の新会員に内定されたという報道あり。以下、アサヒコムのサイトの記事の新会員欄よりの抜粋。
▽演劇(歌舞伎)
片岡仁左衛門(かたおか・にざえもん、本名・孝夫) 江戸・上方の時代物・世話物を新鮮かつ格調高く演じ分ける。03年朝日舞台芸術賞舞台芸術賞。大阪府出身。62歳。東京都品川区在住。
10・11月と素晴らしく納得のいく舞台だった。おめでとうございます!!


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3 コメント

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芝翫さんと仁左衛門さん (お姐)
2006-12-06 06:19:38
良弁杉は、説話風ないい「お噺」で、私的には何が何でも見たいというほどの演目ではないのだけれど、僧侶姿が美しいかどうかが見たい見なくていいやの分かれ目だなぁ、と(笑)。
こちらで、仁左衛門さんがまだまだ美しいと読むと、やっぱり行けばよかった~~と悔やみます

芝翫さんとのコンビでは、他に『綱館』が印象に残っているのですが、新聞でベタ褒めだった芝翫さんの茨木、私はちょっと下世話すぎて「うーん、色気と気品が……」と思ってしまいました。
上手い人なんだけど、下世話な役のほうが向いてるかなぁ、なんて気がするときもあります。
でも、今回はよかったみたいですね♪

芝翫と福助って……志村けんに声が似てるかなぁ
まあ、女方の発声って、みんなちょっとだけ志村けんになっちゃうんだけど(笑)。
(昔、松江を初めて見たときは、母と「未知との遭遇みたいな台詞まわしだね」と笑ってました。あれは彼だけの特徴かな)
あ、無駄に長いコメントになってしまった。。。。
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ジ~ン (かしまし娘)
2006-12-06 16:25:31
ぴかちゅう様、まいど!
TB&コメントありがとうございました。
仁左衛門の太陽の様なあったかさに、ジ~ンです。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-12-07 00:43:51

★お姐さま
>仁左衛門さんがまだまだ美しい......というか時分の花と違ったきちんと創り込んだ美しさのような気がします。こういうことができるのが芸術院会員?(笑)。
>芝翫と福助って……志村けんに声が似てるかなぁ.....なんかピッタリですね、このたとえ!松江=現魁春のことでしょうけれど声が独特ですよね。今年の「葛の葉」の狐の母だと不思議に声がピタッとハマってました!
★かしまし娘さま
オーソーレミオ~♪仁左衛門さまでしたね。
それと私もイヤホンガイドの回し者でして、今回は特に幕間の仁左衛門丈のインタビューをじっくり聞きました。ホント関西弁の普通のおじさんの声でした。それが舞台であんな七色の声を出してくれるんですから、嬉しいやら有難いやら。ああ、お坊さんをあがめる口調になってしまった。
敵役が面白いっておっしゃってましたね。鹿賀丈史もジャンバルジャンよりジャベールの方が面白いといつも言ってます。敵役と捌き役の二役をやれるのって歌舞伎ならではかな。
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