ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/11/25 顔見世大歌舞伎千穐楽昼の部①「先代萩」前半・八汐編

2006-11-26 23:58:43 | 観劇
「先代萩」は今回で3回目。2005年3月に菊五郎の政岡で初めて観たが正直あまり面白いとは思わなかった。今年1月の藤十郎の政岡で2回目。歌舞伎座では10年振りの通し上演なのだという。今まで見ていない「対決・刃傷の場」があるのと、仁左衛門の八汐と細川勝元の二役が今回の楽しみだった。
11/12に観てあまりの良さに感動。もう一度観ようとウェブ松竹のチェックを続け、千穐楽に2度目の観劇。2回分の感想を話が長いので前半後半の2回に分けて書く。

1.『通し狂言 伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』前半の感想
花水橋から床下までの前半のあらすじは以下の通り。
【花水橋】足利家の当主頼兼は、執権仁木弾正らの悪臣の唆され廓に通いつめる日々を送る。今日も大磯の廓からの帰り途、暗殺者たちに襲われる様子をだんまりで、夜が白んできて助けに来た相撲取り谷川と悪漢たちとの立ち回りを見せる。(その後、頼兼は悪臣たちによって隠居に追い込まれる。この部分は割愛。)
【竹の間】幼い若君鶴千代を暗殺する動きがある中で乳母の政岡は守りを固める。鶴千代が病気ということにしてあるので、仁木弾正の妹の八汐は局の沖の井・松島と見舞いに訪れる。そしてあの手この手で政岡を陥れようとするが、局の沖の井ら果ては鶴千代にまでやりこめられてしまう。
【御殿】【床下】は1月の歌舞伎座藤十郎襲名披露公演の記事を参照のこと(今回は“まま炊き”はカット)。
1/26歌舞伎座藤十郎襲名披露公演「先代萩」の感想はこちら
配役は以下の通り。登場順。
足利頼兼=福助 絹川谷蔵=歌昇
乳人政岡=菊五郎 八汐=仁左衛門
沖の井=三津五郎 松島=秀調 小槙=右之助
鳶の嘉藤太=弥十郎 栄御前=田之助
仁木弾正=團十郎 荒獅子男之助=富十郎

花水橋の福助はお大名の鷹揚な感じがよく出ていて歌昇の谷川とのやりとりもよかった。しかしなんといっても菊十郎たち菊五郎劇団の悪漢の立回りがいい。だんまりの見方というのもわかってきたので初めての時よりも楽しめた。
初回の11/12に東1列目で竹の間での仁左衛門の八汐の花道の登場に目を奪われる(段四郎と梅玉の八汐と比べようもないが)。長身の立役の丈の片はずし姿が予想以上に美しい。勘平で見た水もしたたる美しい二枚目のかんばせは美しくそして意地悪げな拵えがまた良い。しぐさも決まりの姿も美しい。そして表情は睨んだり嫌味な顔をしたり若君にとりいるへらへら笑いと本当に百面相!竹の間と御殿で八汐の写真を2枚も買ってしまったほどだ。
御殿を語る竹本の葵太夫さんのHPの「今月のお役」のところで仁左衛門のお菓子の取り次ぎが最速で竹本もゆっくりするのを嫌うということを読んでいたので、2回目はそこもしっかりとチェック。本当に手際がすごくよく、テンポを大事にされていることがよくわかった。
低い声で嫌味たっぷりな台詞回しも関西風。「アホらしい」という言い方は上方風なのかもとか思いながら聞いていた。「上から見えぬは人心。てもおそろしいたくみやなぁ」はもう最高。若君にやりこめられるあたりの芝居も面白くて仕方がない。竹の間でやりこめられた時の悔しがり方も凄い形相をみせる。御殿での千松の無礼討ちの場面、意趣返しも込めて千松を何度もえぐっては政岡に見せつけながら嬲り殺すところの説得力が出る。またその憎憎しさも無類。八汐という役の面白さもよくわかった。

今回の子役は鶴千代が下田澪夏ちゃんで口をしっかりとあけていい発声。本当にいい声だった。八汐に「獄屋にそんなにやりたいなら、そちが行け」とか「余の言うことを聞かないなら斬ってしまうぞ」とかも気迫十分。千松の原田智照くんも可愛くてよかったが、千穐楽では咳き込んでちょっと可哀相だった。

三津五郎の沖の井は11/12の時はまだまだ女の声があまりいいと思えなかったが、千穐楽では安心して聞くことができるようになっていた。八汐の偽願文状でやりこめていくあたりの局としての貫禄はさすがだった。秀調の松島も地味だが落ち着いたいい局で、2年前の菊之助とは比べようもない。このふたりの仁左衛門の八汐とのやりとりもバランスよくて気持ちがいい。

さてさて菊五郎の政岡。2年前はうまいなぁとは思いながらも物足りなかったのだが、今回は違った。仁左衛門の芝居がいいので今回は菊五郎も本気モードなのかぐっと気持ちが入っている感じがして段違いにいい。八汐とのにらみあいは火花が散っている!
緊迫感が非常に高いのだ。
千松が八汐に刺された後の芝居もすごかった。最初はやはり驚くのだがそれを忠義心がどんどん抑え込んでぐっとこらえるあたりの変化が見ごたえ十分。そして最高潮の千松の死を嘆く政岡のくどきの表現もたっぷりで唸るしかなかった。常々言い聞かせたことを忘れずに侍の子として忠義のため「よう死んでくれた、でかしゃった、でかしゃった」と言いながらも母としての顔になって慟哭するのだ。千穐楽のこの場面では泣かされてしまった。

栄御前の田之助の重厚感もまた格別。さすがに人間国宝が並ぶ芝居だ。仁左衛門・田之助・三津五郎とくれば、いつもはあっさり感の強い菊五郎もぐっと重厚な芝居をしてくれるというものだ。
ベテランの本気芝居の持つ求心力にひきつけられてしまった。

床下。富十郎の荒獅子男之助は相変わらず堂々としたいいお声。しかし妖術をといて鼠から人間に戻った仁木弾正の放つ小柄を受け止めたところの「合点だ」と何歩か下がるところはちょっと間がおかしかったと思う。
團十郎の弾正は今回が初見。不敵に笑うところがなんともいい。團十郎ならではの表情だ。千穐楽は3階正面席だったので花道での引っ込みはすぐに見えなくなったが、定式幕に蝋燭の面灯りの裃姿の影がずっと視界に残るのが素晴らしい。最後の最後は影がかなり大きくなっていく。1月の藤十郎の「先代萩」で初めてわかったが、今回もこの影の変化を堪能した。

後半に続く!
写真は顔見世歌舞伎の櫓の上がった歌舞伎座正面の千穐楽の様子。
追記
そうそう、八汐が政岡に刺されて幕が閉まる間際をしっかり見ていたら、先月の勘平の断末魔の時のように立ったまま仁左衛門がヒクッヒクッとしていた。さすがだぁと感心したことを付け加えておく。
関連の感想記事はこちらですm(_ _)m
11/25昼の部②「先代萩」後半・勝元編
11/23夜の部①「良弁杉由来」
11/23夜の部②團十郎の「河内山」
11/23顔見世大歌舞伎の舞踊4本の感想


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21 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
千秋楽 (さちぎく)
2006-11-27 00:15:39
千秋楽見に行ったのね、羨ましい!こんな大顔合わせ滅多にないし、充実の舞台だったから、もう一度観たいと思っていたんです。でも実現できず残念・・・
夜の部よりずっと良かったなぁ。
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★さちぎく様 (ぴかちゅう)
2006-11-27 00:48:43

さっそくコメント有難うございますm(_ _)m
さちぎくさんのブログでご紹介があった葵太夫さんの「今月のお役」での「重厚な竹の間」の記事も読ました。11/12には東1列だったのでお声だけで姿は見えずでしたが、千穐楽は正面席だったのでしっかり太夫と三味線さんのお姿も観ることができました。
今回は本当に大顔合わせで、さらに仁左衛門さんの効果が大きかったと思ってます。菊五郎さんのこんなに本気になったお芝居、初めて観ました。いつもはまだまだ余裕があるなぁ、でもあっさりモードがお好きなんだろうなぁという印象だったんですけれど、今回は違った。ベテランの本気芝居を観てしまうと「花形」の方はやはり物足りないです。菊之助は「勧進帳」の怒鳴りあいで11/24に観た「船弁慶」の静御前の声はガラガラになってしまっていてちょっとがっかりでした。そのへんのコントロールも勉強していくのでしょうね。
後半の勝元編もただ今執筆中で~す(^O^)/
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こちらにも・・・ (dream)
2006-11-29 22:32:03
こちらにもお邪魔いたします。
コメントありがとうございました。
菊五郎様VS仁左衛門様、本当に素晴らしかったです。

「玉三郎様の政岡と仁左衛門様の八汐&勝元」
やはり、このコンビを観たい方がいらっしゃるのですね。
「歌舞伎座建替え後のこけら落とし公演で・・・」
是非、私もお願いしたいですね。
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八汐様 (かしまし娘)
2006-11-30 16:26:36
ぴかちゅう様、まいど!
TB&コメントありがとうございました。
八汐様に夢中~!やっと再会出来て、私の双眼鏡には、八汐様しか写らなかった!ケッケッケ。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-12-01 02:37:08
★dream様
今回はとにかく菊五郎×仁左衛門×團十郎の相乗効果だったと思います。しばらく封印~。
>「玉三郎様の政岡と仁左衛門様の八汐&勝元」.....封印を切るのはズバリこの条件でしょう。
★かしまし娘さま
千穐楽にうちの娘も連れていったのですが、勝元よりも八汐がよかったと言ってます。そして娘はかしまし娘さんのブログのファンにもなってます(^^ゞ
それからご希望の強い“まま炊き”を入れて「花水橋」から「対決・刃傷」までの通し上演となると最後の舞踊はなしですね。どうしても舞踊を1本入れるとなると「花水橋」を削るとか。そっちの方がいいという声もききましたが。
1月の藤十郎襲名公演の時は孫の虎之助くんを千松に持ってきましたから、御曹司を子役に起用するとかしないとまま炊きはやらないのではないかなぁと推測します。結局歌舞伎もどの役者で何を見せようかということで内容を決めるているのでしょうから。
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八汐☆サイコー! (Ren)
2006-12-01 06:56:52
仁左衛門さんの八汐は花道の出から迫力ありましたね~!こんなに表情の豊かで見ていて楽しい八汐を見せられたら、菊五郎さんの政岡だって役者魂メラメラだったことでしょう。仁左衛門さん菊五郎さん團十郎さんと豪華な配役の見事な芸を堪能いたしました。
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続・皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-12-01 22:03:47
★「如意宝珠」のRenさま
>こんなに表情の豊かで見ていて楽しい八汐.....本当にそうでしたね。
>仁左衛門さん三津五郎さん秀調さんって立役のイメージが強いけど花道にお三方並ぶとなかなか壮観.....これもご指摘通りでした。こういう予想以上の面白さがあって2回も観てしまったんです。
昨年の顔見世の仁左衛門丈は私の苦手だった時代物だったんで見送ってしまったんです。馬鹿だった私。今後は東京の仁左衛門丈は絶対に見逃しません!
きっぱり!!
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八汐と仁木 (お姐)
2006-12-03 01:54:43
今回は八汐と仁木の二役じゃないんですね。
昔見た孝夫時代の仁木もよかったですよ~♪
でも、こんなに絶賛されているなら八汐だけでも「満腹♪」かもしれません。

昔、菊五郎の政岡を見たとき、義太夫とのかけあいが、ラップみたいになっちゃったんですよ(笑)。
菊五郎は粋で色っぽくて、好きな役者だけど、義太夫のリズムは下手かな、と思いましたです。
今回の成熟ぶりを見てみたかった~~!

まま炊きの場面て、ノーカットでやると死ぬほど長いのですが、私、あの気の遠くなるようなまま炊きの場面を見て、初めて「面白い」と思いました。
とはいえ、あれはほんとに長い……ひもじい(笑)。

同じ演目なのに、面白いと感動するときと、「うーん?」というときとありますね。
オペラとかもそうです。
それから、日によって気合が違うなんてのもあるし……やはり当たりはずれも生の面白さですね
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リピーター (あやめ)
2006-12-03 12:58:56
こんにちは。
私、すっかり今月(いえ、先月)の先代萩リピーターになってしまいました。千穐楽でも同じ舞台を観ていたのですね。が、ぴかちゅうさまの記事を読んでいてまだまだ”目”に頼った観劇だな、と反省しました。
弾正の引っ込み、定式幕に映る影がなんとも・・・いいですよね~。

>お姐 さま
初めまして。ラップみたいにって、なんだかわかる気がします。難しいところですね。
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続・皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-12-03 21:22:05

★仁左衛門贔屓のお姐さま
>同じ演目なのに、面白いと感動するときと、「うーん?」というときとありますね。
まさにキャストの妙、日による違いがナマの舞台の醍醐味です。「先代萩」の菊五郎さん、今回は良かったですもん。まさに仁左衛門さん効果だと思う。ちょうど今回、芸術院会員になられて菊五郎さんと並ばれるのも納得のお仕事されてますよ。きっと人間国宝にもなられる方だと思います。
そういう名優が火花を散らす舞台を観る満足感といったらありません。「良弁杉由来」も頑張って書きま~す。
★「もうひとつの、大切な、私」のあやめ様
>先代萩リピーター.....私も同じくでした。その前の月の「勘平」もそうでした。
あやめさんの観劇記は観察が細かいのでいつもなるほど~というところがたくさんあります。舞台は観てきいて感じて考えていくのが楽しいんですよね。これからも楽しみましょう。
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