ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/02/12 『マクベス』でりゅーとぴあ能楽堂シェイクスピア・シリーズを初体験

2006-02-12 19:07:31 | 観劇
この間ずっとマークしてきながら(チラシだけはファイルに残っている)東京での上演日程の短さから第3弾まで観劇できていなかったりゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズをようやく初体験できた。実は能楽堂というところに行くのも初めてだった。2/24に『紅天女』でお能デビュー予定なのでなかなかよいつながりだ。今日は梅若能楽学院会館でお茶屋娘さんと気合を入れて脇正面最前列で観劇。

そもそも栗田芳宏が演出した舞台を初めて観たのは、一昨年の東京芸術劇場ミュージカル月間の主要キャストが男女反対で演じる『ハムレット』で得チケが出たので行ってみたのだった。旅芸人の一座で5~6人のキャストが姿をくるくる変えて何役かこなしながら劇中劇を上演するというものでとても新鮮な舞台で本当に観てよかったと思った(安寿ミラのハムレットと旺なつきのホレイショーかっこよかった~)(追記:オフィーリアを演じた植本潤さんが今日は観にきてました!)。市川猿之助一門にいた人だと書いてあったので、今回のシリーズを知った時から観る機会をねらっていたのだった。
同シリーズのご紹介はこちら
今回の『マクベス』公式HPはこちら
今回のプログラムを読んで栗田芳宏の経歴がもっとよく見えてきて納得してしまった。彼は藤間紫の内弟子だったのだ、それで猿之助の舞台に役者として出ていて猿之助の演出をしっかり学んでいたのだ。その後、その後、藤間紫の門弟をやめて吉田鋼太郎と劇団AUNをつくって活動した時にシェイクスピア劇と出会ったのだ。
このシリーズについての栗田芳宏×横内謙介の対談はこちら

そして日本舞踊をずっとやっていた人だから『ハムレット』で舘形ひろしとコラボレーションがスムーズにできたのだろうし、魔女の女童(台詞中には老女の形容もあるのでそこは少々矛盾)を人形ぶりでそれもからくり人形的な動きをさせる演出ができたのだとこれも納得。

今回、師匠の藤間紫の特別出演を得て、魔女を3人から6人に倍増させ、長老魔女のヘカテという役をつくった(ギリシア劇に出てくるような名前なのはご愛嬌?)。最初のうちはヘカテがいることがしっくりこない感じがして女童の魔女達だけで話にさしつかえはないのになあという印象を持ってしまった。ところが、最後の場面はやはり再演で追加されたのであろう、マクベスの死後、黄泉の国から妻が夫を迎えに来て橋掛かりで「地獄への道行」になる場面を支配したのがヘカテだったのだ。ヘカテのあやつりで動いていくマクベス夫妻。最後の最後はヘカテだけになり、魔女が最初の登場から持っていて大活躍の笹をふって空中に「人」の字を何回か切って照明が落ちて真っ暗になっての幕切れだった。この凄い幕切れのために最初からいていただいているのね~とこれも納得。

マクベスの市川右近。歌舞伎メイクなしでも太い眉がなかなか凛々しい。背は低いけれど動きがきびきびと堂々としているので長身のバンクォー(谷田歩)とも渡りあう。私はどうも彼の台詞がこもってききとりづらいところが苦手なのだが、冒頭少々危惧されたが気にならなくなる。最前列だからかもしれないけれど。魔女の予言実現のために国王暗殺をしてしまった直後までの気の弱さと国王になって開きなおった後の暴君ぶりがなかなかメリハリがきいていてよかった。
マクベス夫人の市川笑也。戦場の夫から魔女の予言や国王ダンカン暗殺の意思が書かれた手紙をもらい、夫の野心が果たせるよう気弱になる夫を叱咤激励する。最初から性格のきつそうな感じのメイクだったが、この場面は鬼女のよう。夫が後半どんどん開きなおっていくのと反比例して妻は罪の意識から精神をやみ、自殺してしまう。この有名な夢遊病の場面での狂気の演技が素晴らしかった。女方で観た中で一番良かった。一昨年末の新橋演舞場で観た『西太后』での宦官役で見直したのだが、女方の役ではイマひとつの感があった。今回の右近・笑也コンビはなかなか良かったので、『メディア』なども観てみたくなった。

私はこれまでいろいろな舞台で「マクベス」を観たが、今回が一番マクベス夫人を理解できた。戦場から届く手紙で夫の国王暗殺計画を知る場面が従来はどうも印象が薄かったのだが、今回は魔女の女童が持っていた赤い反物を巻いたようなものを手紙に見立て、別の魔女が持っていた筒の中から取り出した筆を受け取ってマクベスがさらさらと巻紙に手紙を書き、それを妻が受け取るという視覚的にも強く印象に残る演出だった。そのことにより夫からの深い愛情と信頼を受けている妻が夫の野心をともにかなえようという気持ちから心をあそこまで鬼にしたのだと強く思えた。元々が鬼のような人間ではないからこそ、罪の意識にさいなまれるようになるのだと合点がいったのだった。

ダンカンの息子マルカムは右近の弟子の市川喜之助。澤村剣友会でスーパー歌舞伎に参加した縁で入門したらしい。背も高く声も動きもきれいな二枚目で王子役への抜擢によくこたえたと思う。

今回もひとりのキャストが舞台から引っ込まずに別の役になる手法が随所にあった。魔女が刺客になって笹を剣に見立ててマクダフ夫人を殺す場面などは見事だった。
見事だったといえば時広真吾の衣装が素晴らしい。男性は皆着物に袴の上に長い打掛状のものをガウンのように羽織る。その素材には和洋のいろいろな生地が使われている。女性の頭には頭巾のような形で帯を頭につけ左右の後ろにたらしていたのがなんとも美しかった。魔女の女童たちは1幕目は朱色のような柄入りの着物、2幕目は白1色の着物。今の流行の言い方を真似すると「コワカワイイ」かな?
魔女の再演で加わったメンバーの経歴をみると、3人ともりゅーとぴあ演劇スタジオキッズコースで育っている。りゅーとぴあは新潟市民文化会館であり、地方にこういう良質の演劇文化が根づいているのを知るととても嬉しくなった。

写真は、今回の公演のチラシ画像。
追記:これまで『マクベス』は2回観ていて、①蜷川版で数年前に唐沢寿明・大竹しのぶで夫妻を主演した時、②昨年1月新国立劇場で野田秀樹演出オペラの2本である。『マクベス』の中では今回の舞台がベスト1となった。見逃していて今でも悔しいと思っているのはもっと以前に鹿賀丈史・高橋惠子で夫妻を主演した舞台。今回の舞台を観て鹿賀・高橋だったらどんなマクベス夫妻になったのだろうかと想像してしまい悔しさが再燃。観たい時に我慢するとこういう後悔をすることになるんだなとまた痛感した次第。

追記:どなたかのブログ(失念、ごめんなさい)で読んでびっくりしたこと。りゅーとぴあの能楽堂では目付柱が取り外しできるのだそうだ。このシリーズなど能・狂言ではない作品を能楽堂という空間で上演する場合にはとても合理的だ!なんと日本ではりゅーとぴあだけだそうだ!
それにしても能楽堂のように小さくシンプルな舞台で見立てと動きと必要最小限の音楽でここまで濃い舞台を創出するというのはなかなかできることではないだろう。本当に贅沢な時間を過ごす事ができたと思う。


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15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私も火曜日行きます~♪ (真聖)
2006-02-13 00:15:18
ぴかちゅうさん、こんばんは!



他のブログさんのおかげで(笑)情報得て直ぐeプラスにアクセス。

有休余ってるので平日公演観にいきます。



楽しみだわん。

それから、ベガーズ感想UP読みました。



私は、案外シャイなので多分SS席に座っても踊れないような気がします。
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演出におちました (花梨)
2006-02-13 02:31:54
こんばんは。ブログで「マクベス」宣伝しまくった花梨です。もう今まで栗田さんの演出を見ていなかったことが悔やまれます…。



再観劇しますので、ぴかちゅうさんの「夫の国王暗殺計画を知る場面」、よくよくチェックして見てみようと思います。

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Unknown (お茶屋娘)
2006-02-13 19:53:28
昨日は、どーもでした!



わたしには、ニナガワさんのシェークスピアより、こっちのほうがわかりやすかった、というか、しんどくなかったね。能舞台というシンプルな空間で、演出も、徹底的に削ぎ落とした感じなので、重すぎないですね。

能の象徴性を、上手く取り入れていると思いました。
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どハマり (yaya)
2006-02-13 21:08:45
し、大変なことになっているyayaでございます!(^^)!



新潟の初日(笑)から観劇しています。

自分はこんなに大感動なのだけれど

他の方の感想はどうなんだろう!?と

マクベスで検索しても、新感線のメタル~の

方ばかりヒットして、

なかなか、りゅーとぴあマクベスの方の感想に

出会えなかったのですが、東京公演もひと段落つき

やっと、色々な観劇記を読めるようになりました!嬉しい~



魔女の二幕目の着物のインパクト、意匠は

私も本当に素晴らしい!!と思ったのですが、

魔女の着物については、時広さんでなく

第一弾からのものだそうです。



ぴかちゅうさんの観劇日だと、二幕

魔女の傘は破れ傘ですよね…

東京の4日目か5日目くらいに変更になった

ようなのですが、元は白い傘だったのです。

これが、とても、素敵だったのでこの変更は

私には残念なものなのですが…



拙宅で語りまくってますので

よろしければ、遊びにいらして下さい\(~o~)

http://blog.goo.ne.jp/yaya1986







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(*^^*) (midori)
2006-02-13 22:34:24
先日は、ランチオフありがとうございました!

演出お演者との絶妙な組み合わせで、実に魅力的な舞台になっていたと私も思いました。

でも、当日の私が、あまりに感動してしまったので、他の方の感想を聞きながら、“私だけじゃなかった♪”と嬉しいです。

(^^)v
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皆様TB、コメントありがとうm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-02-14 01:42:00


★真聖さま

火曜日観劇の記事を是非TBしてくださいね。TBする方法忘れてませんよね~。お待ちしていますm(_ _)m

★花梨さま

りゅーとぴあの能楽堂シェイクスピア・シリーズを今まで観ることができなかったのが私も残念です。でもDVD全部あるのがすごい!その気になれば全部観ることができますね。貧乏なので図書館にリクエストしようかしら。シェイクスピアと能楽堂の組合せだときっと購入決済おりやすいだろうし...。

★お茶屋娘さま

これは奮発してSS席にして大正解でしたね。次回の「オセロー」も猿之助一門と一緒にやってくれるといいね。

★「ヤマトタケルの夢」のyaya様

HinemosNotariさんのところでよくおみかけしていたyayaさんでいらっしゃいますね。貴ブログに先ほど飛んでいってきましたが本当にハマってらっしゃるのですね。

栗田さんの演出は要チェックだぞと思ってはいたのですが、このシリーズはやっと観ることができてプログラムを読んでますます猿之助丈が育てた貴重な人材だ~という思いを強くしました。

それと初演の時は時広さんが衣装を担当されていないのですね。確かに初演の時の写真を観ると主役のふたりなどの衣装は違いました。魔女の傘も白い傘→破れ傘に途中で変更があったのですか。きっと何か意味がありそうですね。

そうそう、私はTB大好きなので、yayaさんの連続記事を是非是非どーんとTB返ししてくださいませ。これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

★midoriさま

このシリーズは今後、要チェックですね。明日は蜷川版『間違いの喜劇』を観てきます。こういうレンチャンはけっこう面白そうです。だから早く寝なくちゃ~。寝不足は居眠りのもと、要注意です。

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お言葉に甘えて。。。 (yaya)
2006-02-15 21:40:36
どぉーんとトラばらせて頂きました!(^^)!

名古屋の舞台も良かったみたいです。

(支局より報告あり・笑)

明日、16日から18日まで大槻能楽堂@大阪です。

皆さま、是非!!

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TB遅くなりました (HineMosNotari)
2006-02-16 00:29:57
こんばんわ ぴかちゅうさん♪

連続してのシェイクスピア劇の観劇、どちらもアタリだったみたいですね。

シェイクスピア劇は脚本が古典と化してるから、

役者さんと演出の味付けでどんどん違う表情が出てくるのが、作り手さんも、見る方も面白いところですよね。

今年は5月にクドカンさんの脚本と劇団☆新感線がタッグを組む「メタル・マクベス」なんかもあるようで、

ちょっと見てみたい気もしますが・・・うーん。
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続・TB、コメントありがとうm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-02-16 01:39:25
★yaya様

まとめてTBいただきましてありがとうございました。私こういうのけっこう好きなんです。雑感2の方の記事で帝王切開で生まれたらなぜ女から生まれたことにならないのかということの情報収集・考察が面白かったです。♪~さん提供の情報=http://www.lingua.tsukuba.ac.jp/cato/teiou.htmlに超納得!『ハムレット』のオフィーリアの埋葬の墓穴掘りの台詞を踏まえているというのはすごいです。死んだものは性別がなくなってしまうのね、その死体の腹から救い出された胎児がマクダフ!やっと魔女の二枚舌が理解できました!!

そして...いや~ん、yayaさん、「レ・ミゼラブルの舞台」の方のブログ=http://yaya3daime.cocolog-nifty.com/では何回かやりとりさせていただいていたのに今頃つながりました!私がレミゼにハマったのとyayaさんが猿之助歌舞伎にハマったのが似たような時期だったんですね。これからも情報交換、よろしくお願いしますm(_ _)m

★HineMosNotari様

TB、コメントありがとうございます。ホント、こうヒットが続くと幸せです。『間違いの喜劇』の方、期待以上の舞台でもう涙~。『メタル・マクベス』も行きたいと思っていますが...チケットとれるかしら???

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感動!!しました (あいらぶけろちゃん)
2006-02-25 00:40:52
濃密で幸せな時間を過ごしました。次回作もぜひ観たいものです。感想TBしたら2本入ってしまったので削除お願いいたします。
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