ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

13/03/30 浜木綿子主演の新版「人生はガタゴト列車に乗って」に勇気づけられる

2013-04-11 23:59:12 | 観劇

親知らず抜歯後の予後が悪くて2/4に仕事を休み、TVをつけたら偶然「徹子の部屋」でゲストが浜木綿子さんだった。息子の香川照之の歌舞伎界入りについての話題の中で猿之助(先代)が家を出てから1年間は待っていたという話を聞いたら泣けてしまった。男勝りのような気性でポンポンとしゃべる外見からはわかりにくいが、やっぱりそうだよねぇと共感してしまったのだ。
その浜さんが井上ひさしのお母さんの物語に主演した舞台の再演ということでこれは観てみたいと即決。その日のうちにチケットをとってしまった。
平成元年(1989年)芸術座で初演、再演を重ね、帝劇での上演からは13年ぶりとのこと。その頃に少し気になってはいたのだが、ご縁がなかった。初演から24年たっての今回の上演企画ということだ。
【新版「人生はガタゴト列車に乗って」】
「シアター1010」の公演情報にあらすじ等があった。
原作:井上マス
脚本:堀越 真
演出:池田政之
出演:浜木綿子、左とん平、紺野美沙子、風間トオル、大空眞弓、
   遠藤久美子、逢坂じゅん、小宮孝泰、荒木将久、臼間香世、ほか

原作本の『人生はガタゴト列車に乗って』は絶版だが、その本が生まれるエピソードは
「万治くらぶ」さんの第367号の記事に詳しい。
その情報やウィキペディアの情報によると、薬剤師だった井上修吉と東京の病院で知り合い、修吉の郷里に駆け落ちしたが、元々が養女だったので養家からの許しがもらえずに入籍できず、事実婚状態で3人の息子を得たらしい。それでも息子たちは庶子として井上家の籍に入っていたので、修吉亡き後、その妹菊子から井上家に引き取ると言われ続ける。その小姑を大空眞弓が憎々しげに演じている。それなのにいびりの場面も浜との芝居のやりとりの間がよくて、しっかり笑える場面になっている。

修吉が作家志望で作品の一つが入選しておりその賞金だけが母子の自由になるお金となり、苦労して薬局開業のための資格をとるも戦時の経済統制で薬局が開けなくなり、女の才覚で生理帯の代用品を作って売る商売、戦後は美容院と女経営者として逞しく稼ぐ。
美容院は、東京から戻ってきた美容師・秋代(紺野美沙子)の腕を活かして開業するのだが、そこに出入りをしている東京から戻ってきた浪曲師くずれの男・良太郎(風間トオル)にマスが入れあげてしまう。ここのマスが若ぶって着飾る様子の浜木綿子が若々しく可愛らしいのにびっくり。
「年増女の深情け」だったが、若い二人に店のお金を持ち逃げされてしまう。良太郎が一関にいるという手紙が来て追いかけていくと土建業の飯場の頭をやっていて、出奔の侘びを償うということでそこでの仕事ごとを丸ごと託し、良太郎は再び姿を消す。

そこで「井上組」を仕切ることになるわけだが、飯場の男たちを真似て花札やチンチロリンで遊ぶ次男と三男。菊子が引き取ろうと現れるが、仙台のラサール会の施設に預けるよう手配し、息子たちは母の気持ちを理解して仙台に行く(長男は既に東京の音楽学校に出したのだが、胸を患って療養所に入っている)。
その土建業も詐欺のようにして手放さざるを得なくなり、ツテを頼って釜石の「新来軒」の雇われ女将としてやってきたら、なんと戦後の今では女郎屋が本業になっていた。
マスはそんなことでは逃げ出さない。女たちの稼ぎのピンハネをせずにやっていけるよう、中華そば屋としても軌道に乗せていく。

そこに視察に現れた県会議員の勘吉が左とん平で、飯場に転がりこんできたこともあったという昔馴染みだった。勘吉はマスに屋台店をすすめる。釜石での屋台店の営業許可も市長に働きかけて実現してしまったのもマスに惚れ込んだせいだ。雇われ女将の座も井上家の女中だったのに釜石までついてきた、たま(臼間香世)に引き継ぎ、秋代とともに始める「ガタゴト亭」の開業の祝いの日。船乗りになっていた良太郎と再会したものの、秋代が追いかけるのを気持ちよく送り出す。
「女の人生は、まだまだこれから」と名調子の台詞での幕切れとなる。

波乱万丈の女の一代記だ。英雄ではなくてもエネルギッシュな人間は色恋も好むというのが私の持論だが、マスは駆け落ちをし、「年増女の深情け」をかけ、自分に惚れた男の気持ちもわかりつつ力添えもうまく引き出す。それを浜木綿子が魅力たっぷりに見せてくれる。彼女の芸質が一番生きる、まさに当たり役だと思えた。
左とん平も舞台では初見だが、浜とのコンビが絶妙。脇を固める俳優陣も贅沢で芝居を堪能した。私の高校時代に東宝劇団の芝居を観ていた頃の懐かしい気持ちにもなれた。芸術座では「三婆」、帝劇では山田五十鈴主演の「千姫」などを観たものだ。女座長としての浜木綿子の芝居を見逃さずにすんで本当によかったと思う。

それにしても「この母親にしてこの子あり」だなぁと二組の母子について痛感した舞台だった。
まず、井上マスとひさしとの関係。この間、ずいぶん井上作品を観てきたが底辺で生きる人間の逞しさ、人間の色恋のもつエネルギーが猥雑さをもって描かれることが多い。いろいろな側面をひっくるめて人間存在を肯定している。母がいろいろな仕事をして逞しく生き、女郎屋の雇われ女将をやっている時には店の女たちの境遇もそのまま受け止めてなるべく早く抜け出せるように仕向けるという接し方を身近に見ていたのだろう。感覚としても納得できた。(このブログ内検索で「井上ひさし」と入れると作品の記事も見つかります)

もう一つは、浜木綿子と香川照之との関係。父よりも母似の顔立ちだし、台詞回しも似ているしと思ってきたが、舞台での浜木綿子を観て、ますますその思いを強くした。しばらく舞台から遠ざかっていた浜が今回、全国公演に取り組むのも、息子が歌舞伎界へ勇気をもって飛び込んだことを受けとめ、自分もしっかりとやっていこうという強い意思があるように感じる。

「女の人生は、まだまだこれから」
私もそういう気になって、元気を出していこう。