ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

12/04/15 「小笠原騒動」初見となった平成中村座第2部の感想

2012-05-17 23:54:44 | 観劇

平成中村座も1月をのぞいては毎月足を運んでいる。また、さすがにチケット代が高いために二部とも観るのは厳しい。四月は珍しい演目の「小笠原騒動」の第2部を観た。
4/15の観劇前の浅草寺「大絵馬・寺宝展と庭園拝観」などについての記事はこちら
【通し狂言 小笠原騒動】本外題:小笠原諸礼忠孝(おがさわらしょれいのおくのて)
序幕 明神ヶ嶽芒原の場より 大詰 小笠原城内奥庭の場まで
元々は猿之助の復活通し狂言十八番であり、猿之助四十八撰になっている。それを1999年に橋之助ら若手が京都南座にてさらにブラッシュアップした舞台にしたらしい。
以下、あらすじを「歌舞伎美人」の京都南座2009年五月花形歌舞伎より引用、加筆。
<あらすじ>今回の主な配役に差し替える。
ここは九州・豊前国。小笠原家では、お家乗っ取りを企む執権・犬神兵部(勘九郎)とお大の方(七之助)一味の陰謀が着々と進んでいた。
そんな中、狩りに出た藩主の小笠原豊前守(彌十郎)が白狐を射ようとするのを家臣の小笠原隼人(扇雀)は押し止め、また藩政の乱れを意見するが、兵部やお大の方の言いなりとなっている豊前守の逆鱗に触れ閉門を言い渡される。兵部は、大望の妨げになると隼人に刺客を差し向ける。絶体絶命に陥った隼人の前に、最前助けた白狐の化身である奴菊平(扇雀)が現れ隼人を救い出す。
隼人から分家小笠原遠江守(勘三郎)への密書を託された召使のお早(七之助)は、その道中で兵部に加担する足軽の岡田良助(橋之助)に殺され密書を奪われる。
妻のお早を殺された飛脚の小平次(勘九郎)は、すぐさま敵が良助と知る。一方の良助は、お早の怨霊にとりつかれた末に自らの愚かさを悟り、真人間に改心するが、女房のおかの(扇雀)をはじめ、家族を一度に失ってしまう。
それを知らない小平次は、水車小屋で激闘の末、良助を討つのだが、断末魔の良助から遠江守へ届ける兵部一味の連判状と訴状を託される。程なく通りかかる遠江守の行列に小平次は直訴をするのだが、その瞬間、一発の銃声が辺り一面に響いたのだった......。

二役、三役を替わるという役者が何人もいるが、座組みによってどの役を兼ねるかが変わるのも歌舞伎の面白いところだ(2009年京都南座公演との比較でもよくわかる)。
「歌舞伎美人」の平成中村座 四月大歌舞伎
ストーリー的には、お家騒動の中で狐の恩返しあり、亡霊あり、悪人の「もどり」あり、本水の立ち回りありでエンターテインメント性が高い。さすがに猿之助が復活上演の演目に選んだだけのことはある。
今回の公演では、勘九郎・七之助兄弟が善悪の二役で夫婦役になっているのが楽しめた。
七之助のお大の方は藩主の妾でありながら愛人の執権兵部の子を宿してともにお家乗っ取りを企み、その妨げになる養父佐兵衛(勘之丞)を冒頭に殺害する。綺麗な顔に冷酷な微笑みを浮かべながら、赤い紐でくびり殺す場面が絵になっていた。反対に善人役の小平次女房お早では早々に密書を奪われて殺されるが、ちゃんと亡霊になって祟ることでお主への忠義を果たす。このような役では七之助の硬質な美しさが活きるなぁと感心。
勘九郎の小平次が主の敵を本水の立ち回りの中で討つ場面は、「怪談乳房榎」を彷彿としたが、悪役の犬神兵部を兼ね、不気味な味をしっかり出しているのもよかった。これから実悪のお役をいろいろとやってくれるだろうと楽しみになる。

橋之助は兵部を勘九郎に譲って、岡田良助と林帯刀の二役だったが、岡田良助という小悪党が実に魅力的だった。兵部に唆され、家族に少しでもよい目をみせたいということから悪事に手を染めたのだが、結局はその家族に不幸を招いたことで悔い改める。その「もどり」の述懐に情がこもっていてよく、いつかこの人で「いがみの権太」が観てみたいと思った。
良助が姿を隠している間の面倒はみるとの兵部の約束は違えられ、押しかけた借金取りたちは幼い娘にほだされる。娘の子役が実にほろりとさせるし、借金とりの米屋市兵衛に笹野高史を起用したのも憎い。
父の悪事を諌めるために、娘がまず自害。女房おかのと母お浦(歌女之丞)が胸を刺して死をもって諌めるがこれは陰腹ならずして、陰胸とでもいうのだろうか。
水車小屋での立ち回りでは水車の取っ手に役者がつかまってぐるぐると回る演出を南座から加えたらしく、よい見せ場となっていた。
  
三役(隼人・菊平・おかの)を替わった扇雀もよかった。白狐の化身の菊平や白い狐の衣装も似合った。平成中村座では「葛の葉子別れ」もやったっけ。
小平次が取り戻した密書で直訴して、捌き役の遠江守で勘三郎が最後に出てきて大団円。平成中村座の座頭としての存在を示しての幕切れ。
この「小笠原騒動」の舞台であれば、梅席に1万円出してもリーズナブル!大満足だった。