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ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/06/20 香取慎吾主演「座頭市 THE LAST」で親孝行+α

2010-06-21 23:59:49 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

梅雨の典型のような日々が続くが、幸い雨が落ちてこないので、実家の母をさいたま新都心のシネコンに誘って一緒に観た。当初は中井貴一の「Raleways」にしようとネットでチケットをとったのだが、香取の「座頭市」の方が観たいというので、カウンターで頼み込んで変更してもらった。無理を聞いてくれたMOVIXさいたまのスタッフの皆様に感謝したいm(_ _)m

【香取慎吾主演映画「座頭市 THE LAST」】
ストーリーは、以下、「映画のことならeiga.com」の「座頭市 THE LAST」の項から引用、加筆。
「勝新太郎、ビートたけしが演じてきた盲目の居合いの達人・座頭市にSMAPの香取慎吾が扮し、市の最期を描く「最後の座頭市」。旅の途中で妻(石原さとみ)を殺され傷心の市は余生を静かに暮らそうと帰郷し、かつて一緒に博打の旅に出た旧友の農民・柳司(反町隆史)の家に居候する。だが、市の故郷は博徒の天道(仲代達矢)一家に支配されており、市は再び戦いの渦中に巻き込まれていく。
監督は「亡国のイージス」、「闇の子供たち」の阪本順治。
他の主な配役は、以下の通り。
工藤夕貴、寺島進、高岡蒼甫、ARATA、ZEEBRA、加藤清史郎、宇梶剛士、柴俊夫、豊原功補、岩城滉一、中村勘三郎、原田芳雄、倍賞千恵子

タネ(石原さとみ)が市の妻になってくれたかと思うとすぐに市の盾になって殺されてしまう。この二人のコンビによる色っぽい場面はなし。確かに二人には似合わないなと納得。しかしながら命を賭けて愛してくれた女がいたことがこの映画に一本の芯を通す。
海の見える半農半漁の故郷をめざすも廃墟となっていて、同じような土地に暮らす元の仲間の柳司をたずねて百姓としてともに生きることに精を出す市。柳司の母ミツ(倍賞千恵子)は市を歓迎しないが息子の五郎(加藤清史郎)はすぐになつく。
昔から漁場を仕切るヤクザを島地(岩城滉一)とその代貸し達治(寺島進)は新興のヤクザの天道(仲代達矢)にショバを奪われる。達治の女房トヨ(工藤夕貴)が色っぽい方の役回りを引き受けてバランスをとっているが、そのトヨを天道一家の代貸し十蔵が横恋慕してものにしてしまう。役人の梶原(宇梶剛士)も脅して支配権を奪取する天道。
島地から借金の証文を奪って柳司たちから金を搾ろうとするあの手この手の暴虐に、普通の杖に持ち替えていた市は、仕込み杖を再び手にし、柳司たちを救おうとする。
梶原の上役の北川(柴俊夫)による見回りをねらって上訴の計画を立てた柳司は、三叉路を使って市を囮に使う。ミツが市に防寒の衣を着せ掛けて「ただ弱いから耐えるのじゃないよ百姓は」という辺りが、雑草のように踏まれても生きる民の力を思わせる。

追うものも追われるものも最終的には同じところに集まっての上訴、梶原の乱心、結局北川も斬られ、役人の権威も何も役に立たない状態になり、大人数の斬り合いの中、柳司は市に赦しを請いながら落命。
圧倒的な「悪」の権化、天道を倒すために満身創痍の市は最後の力を振り絞る。天道を倒すが自らも致命傷を受け、海をめざす市。中途失明の市の心の原風景に海があり、命の源の「海」に還るかのよう。そこにタネの魂が市を招くようなイメージが重ねられる。
地に足をつけた暮らしは全うできなかったが、最後まで悪と闘い、燃え尽きる市の最後にふさわしいと思った。
「座頭市」シリーズの有終の美を飾る作品という宣伝ではあるが、2017年以降はまた自由につくれるということらしい。それでもとりあえず今の状態でのTHE LASTという作品に豪華なキャストが大集結しているのが贅沢。
主演の香取慎吾も大河ドラマの「新撰組!」の近藤勇の頃からけっこう気に入って観ている。「西遊記」の孫悟空のように茶目っ気たっぷりなのもいいし、近藤勇のように真面目な演技もけっこう好み。今回の市も真面目に徹している。アウトローの盲人らしく言葉はより少ないので安心して見ていられるし、さらに影を背負った人間の哀しさも滲ませていて好演。(6/24追記:プログラムを読んだら香取慎吾は殺陣のところでも一切目を開けなかったのだという。殺陣師の方がその覚悟とやりきったことに感動されていた。抜刀した仕込み杖を戻す時のぎこちなさはそのためかとあらためて感心。慎吾ちゃん、やる時はやるんだねとまたまた見直した!!)

場末の賭場に立派な刺青を入れた壷振りがいるなぁと思ったら勘三郎だった!市を知る旅の博徒の役だが、話題作にはしっかりとはずさずにご出演というのがさすがだ!!
村の医者の玄吉(原田芳雄)と市のからみは貴重なチャリ場となっている。笑いをとるのはそこくらいで、あとは実に生真面目な展開なのに、香取も浮かずにきちんと主人公の存在感を見せる。観終わって母と「香取、がんばったよね」という評価で一致。

私はTVのシリーズで勝新太郎の座頭市を何回か観たが、殺陣が派手というのはどうでもいいことなので、好みの時代劇ではなく、特に印象に残っている場面があまりなかった。
さらにビートたけしもそんなに好きではなく、金髪で話題の座頭市もあまり興味なし。
今回のプログラムで「座頭市」が勧善懲悪で市が悪者をバッタバッタ斬っていくところに人気の秘密があったとわかり、後の「必殺シリーズ」につながっていくのかなぁとわかった次第。

そういった過去の人気シリーズの把握にも役に立ち、ある程度の見ごたえもあり、母が楽しかったと言ってくれて親孝行ができたので満足、満足。
うーん、それにしても前日のコクーン歌舞伎「佐倉義民伝」に続き、上訴もの続きというのも、なんとなく今の時代に符合しているのかもしれないとも思えるのだった。
以下、系統的に把握するためにリンクをつけておく。
Wikipediaの「座頭市」の項はこちら
Wikipediaの「座頭市」(2003年の映画)の項はこちら
Wikipediaの「座頭市THE LAST」の項はこちら
写真は今回の作品のチラシ画像。
さっそくの追記!
私は時代劇好きである。小さい頃から北大路欣也のお父ちゃんの市川右太衛門の「旗本退屈男」やら近衛十四郎・品川隆二コンビの月影兵庫もの、杉良太郎・梶芽衣子の「大江戸捜査網」、必殺シリーズ・・・・・・。そして御馴染みの斬られ役・福本清三の姿が見られるのが嬉しい。映画「ラスト・サムライ」でもそして今回の映画でもけっこういい役がついていて嬉しかった。ちゃんと本も読んでます(^^ゞ
「名脇役 福本清三」の応援サイトはこちら

10/05/01 「のだめカンタービレ 最終楽章」後編で無事卒業!

2010-05-15 00:58:40 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

5/1は土曜日で、さらにGWに突入している。MOVIXさいたまで娘と一緒に観る予定の「のだめカンタービレ 最終楽章(後編)」の座席指定券を前日に押さえればよかったものを当日朝寝坊してネットで確認したら予定していた回より後の回でも△マークがついている!並んで観るのはあきらめてなんとかセンターより後方席を確保(^^ゞ
「のだめカンタービレ 最終楽章」前編の感想はこちら

【「のだめカンタービレ 最終楽章」後編】
「goo映画」の「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」の項はこちら
あらすじ等も上記サイトより引用、加筆。
離れ離れに暮らすことになった、のだめ(上野樹里)と千秋(玉木宏)。千秋には孫Rui(山田優)との共演話が持ちかけられる。一方のだめはピアノレッスンに励むが、オクレール先生からコンクールの許可がなかなか下りず、焦りを感じはじめる。清良(水川あさみ)の出場するコンクールを訪れたのだめは、ピアノ部門で「ラヴェル ピアノ協奏曲」に心奪われる。この曲こそ千秋と演奏する曲だとのだめは夢見るが、実は千秋がRuiと共演する演目でもあった。千秋とRuiの演奏は大成功を収め、のだめはショックを受ける。失意ののだめに、シュトレーゼマン(竹中直人)が共演話を持ちかける。客席の千秋を前にしてのだめの「ショパン ピアノ協奏曲」が始まる……。
<スタッフ>監督:川村泰祐(前後編を短期間で仕上げるため、後半は武内英樹からバトンタッチ)

前編の最後で千秋がのだめから距離をとっていき、二人はどうなるのか気になる気持ちのまま後編を待った。途中BOOK OFFの最新の古本コーナーで単行本の最終巻を偶然手に入れて読んであったので、そのゴールまでを映画で確認すればいいやと私は落ち着いていた。同じ本を読んだ娘は途中の漫画も読みた~いとうるさかったが、却下。

後編はコンクールやコンサートの山場がいくつもあるが、一つ一つの演奏場面は前編よりも盛り上がりにかける。メインの人物の演奏の中での心理描写や成長よりもそこでスポットを当てる複数の人物の相手への気持ちやお互いのキャッチボールに比重が置かれているためだろう。
スランプだった清良のバイオリンコンクールの応援に内緒で日本からかけつけた峰(瑛太)と真澄ちゃん(小出恵介)が来て、アパルトマンはパリ在住組(ウエンツ瑛士、ベッキー、福士誠治)と日本組が入り混じってハチャメチャな盛り上がりを見せる。3位入賞後にお互いの愛情を確かめ合う清良と峰は実に可愛かった。この二人はやっぱり恋愛でも情熱家のコンビなんだよね。

黒木(福士誠治)に惚れたターニャ(ベッキー)と拒否感の消えたコンビもこれからそれぞれコンクールを頑張るという決意を披露し、ベクトルが重なった二人の恋の行方も楽しみという感じになっている。
親離れして自立しつつある孫Ruiは千秋の指揮でイキイキとした演奏を披露し、のだめは打ちのめされてしまう。思い入れの強すぎるのだめにどう接すればいいかよくわからない千秋の優柔不断さが不信を決定付けてしまうというハラハラドキドキの設定。
不器用なふたりにショック療法を仕掛けるのがシュトレーゼマン。千秋から気持ちが離れて放心状態ののだめをコンサートに抜擢。そこで「無名の天才ピアニストあらわる!」というような大成功をさせるのだが、のだめはさらなるドツボにはまる。
慎重派のオクレール先生はのだめをいきなりプロデビューさせたシュトレーゼマンに怒りを爆発させるが、のだめって慎重に育てるだけでは、化けられない人材ということなんだろう。変人は変人のことがよくわかってるっていう設定か?!

ドツボにはまったのだめを自分の隣に引き戻すべく必死になる千秋。それを黒木がサポートするというのも好きだったのだめを放っておけない黒木の優しさかな。
幼稚園の先生になりたかったのだめは子どもの前で心を開きはじめる(パリの保育園を再現したという園はカラフルで楽しそう!)。黒木のメールでそこに現れた千秋がのだめをさらっていく。
2台のピアノのある部屋へ。二人の原点ともいうべきモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」をのだめに弾かせ、千秋が必死であわせる。共にピアノを奏でる中で言葉以上の気持ちが伝わりあうというこの映画の一番の山場!!
大丈夫、この二人のベクトルもしっかり重なった。のだめは千秋と同じ方向に歩き出すが、自分の感性は保ち続けることがよくわかる。「どう感じるかはのだめのものです」

橋の上での二人の長い長い接吻シーンをいろいろなところから撮影した映像でつなぐ幕切れは実に少女漫画のロマンチズムの象徴を恥ずかしげもなく映像にしている。ここまでやられるともうアッパレというしかない。

「ああ、よかった。もうみんな大丈夫ね。これからも頑張ってね~」という気分。私もキャストの皆さんと同じように「のだめワールド」を卒業という感じだ。
この軽く引きずられない世界に心地よく遊ばせてもらって幸せだった。有難うm(_ _)m

写真はこの作品のチラシ画像。

10/05/09 「アリス・イン・ワンダーランド」で3D映画デビューしたが・・・

2010-05-12 23:58:52 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

5/9日曜日にMOVIXさいたまで娘と一緒に「アリス・イン・ワンダーランド」を観て3D映画デビューを果たした。
ちょうど前日にさいたま新都心でいつもの女子高同窓生のさいたま市近辺のお仲間でのランチ会のついでに座席指定席を調達。会員カードに貯まったポイントを使って3D分だけ支払うつもりが、できないと言われてしまった。一回分をただにするサービスは3D上映分には適用されないそうな!しぶしぶ割引サービスだけ使って翌日に臨んだ。

【アリス・イン・ワンダーランド(Alice in Wonderland)】
以下、作品情報を「cinemacafe.net」からほぼ引用、加筆。
アリス・キングスレー(ミア・ワシコウスカ)、19歳。美しく成長した彼女は、ある日求婚者から逃げ出し、誤って“うさぎ穴”に落ちてしまう。そこは、13年前にもアリスが迷い込んだワンダーランド。しかし、いまは残忍な“赤の女王”(ヘレナ・ボナム=カーター)が支配する国。ワンダーランドの住人たちは、「預言の書」に記された、伝説の救世主“アリス”を待ち望んでいたのだが…。監督ティム・バートンが長年温めてきた『不思議の国のアリス』の映画化が実現。
その他の主なキャスト
マッド・ハッター(いかれ帽子屋)=ジョニー・デップ
白の女王(赤の女王の妹)=アン・ハサウェイ

まず、3Dで観たのが私には合わなかったようだ。娘は「アバター」で3D映画を先に体験しているので、私も続けとばかりに頑張ったのだ。昔昔、3D映像はディズニーランドでマイケル・ジャクソンの「キャプテンEO」で♪スリラー~♪を聞きながら観たものだ。その時の眼鏡よりも頑丈そうで少し重たい。私は鼻が低いのでずり落ちてくるので両手の指先で押さえている時間がけっこう長くて疲れた。
字幕版で観たので文字が読みづらくないか心配していたが、その点はそれほど苦ではなかった。しかしながら期待していた映像の魅力は大して感じられず。何故か涙と鼻水が決壊してきて困ったのだが、3D映像が変な刺激になったのではないかと思ってしまった。映画館によって3Dの施設も違うらしいが、これからは3D版はやめて通常版で観ることにしようと決意した。ポイントで観ようとしたのに1人当り1300円も予定外で支払ったのでよけいにそう感じられるのかもしれないが(笑)
私の教訓!映画は2次元のよさがあるのであって、それ以上のものは自分の想像力を使えばよろしい。

内容について
前宣伝の特別番組でジョニー・デップ人気だけでなく、「闘うアリス」というところに焦点をあてて作品の魅力を売り込んでいるということも知っていたので、まぁ予測通りというところ。
わかりやすさねらったのだろうが、家臣の命をなんとも思わずにすぐに殺してしまう残忍な赤の女王と、殺生をしない白の女王という姉妹の対比が今ひとつ面白くない。
親が娘二人の性格を見抜いて妹姫に王位を継がせたのを姉娘が納得せずに王位を簒奪。暗黒世界になっているのを王位を奪還して平和な世界を取り戻すというのが大筋になっている。
6歳だったアリスが来た頃もハートの女王が君臨していたのじゃなかったっけ?まぁ、その辺りを深くつっこまないことにして、原作を踏まえたティム・バートン監督版として楽しめばいいのだろう。

なんといっても監督のパートナーでもあるヘレナ・ボナム=カーターの赤の女王が圧巻。残忍な性格の姫だったのだろうが、それでも親から説得された上で妹が王位継承したのであればいいが、そうでなければ長女としてはやっぱり納得がいかなかっただろうなぁと思ってしまう。夫からも捨てられて誰からも本当は愛されていなかったと知ったことが可哀想に思えた。本当の主役はこの赤の女王なんじゃないだろうか?!
それに対置された白の女王の人物造詣が全く物足りない。「私は殺生はしない」とか言うだけで、「予言の書」に書かれた救世主アリスを待つだけというのが女王としてふさわしいのかどうなのか?大体、白い髪で白い衣裳なんだから眉毛が太くて黒すぎるのもちょっと気持ちが悪い。

いかれ帽子屋のジョニー・デップは期待通りに可愛かったし、白うさぎやヤマネのおばさんもチェシャ猫もそれぞれ可愛い。アブソレムという青い芋虫は声が「ハリー・ポッター」のスネイプ先生(アラン・リックマン)だったのはよかったが、姿はちょっと気持ちが悪い。トウィードルダム・トウィードルディーの双子もちょっとダメかな。

甲冑に身を固めて怪鳥と闘って首を切り落とすアリスも、地上に戻った後、迷いを捨てて母親の薦める縁談をきっぱり断り、父の共同経営者と対等に渡り合うアリスも、まさに闘うアリスであった。最後にまずは見習いということで貿易船に乗り込むところは「パイレーツ・オブ・カリビアン」のエリザベスを彷彿とした。芋虫から蛹になっていたアブソレムが青い蝶になってアリスの周りを飛ぶのも、彼女の成長の象徴のようだった。

ただ、昔々に観たディズニーのアニメ版のアリスの映画の方が素朴でよかったかもしれない。まぁ、一見の価値はあったという気はする。
写真は、この映画の宣伝画像。

10/04/22 映画「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」で憲法第25条を問う

2010-05-03 17:07:57 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

「日本の青空」に続く平和憲法シリーズ第2弾の映画「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」を4/22に埼玉会館小ホールで観てきた。今の私にはアクティブなことはあまりできないが、自主上映企画を応援するくらいはできるので続けていくつもり。
【映画「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」】
あらすじと主な配役は、インディーズサイトの「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」の項からほぼ引用、加筆。
“豪雪・多病・貧困”とてつもなく大きな問題を抱えていた、岩手県の山間の小さな村・沢内村。長く無医村であったこの地で、父親(加藤剛)から医者になることを期待されながらも村を離れていた深澤晟雄(長谷川初範)はある日、妻ミキ(とよた真帆)と帰郷する。
昔と変わらず悲惨な村の状況を前に晟雄は、何とか村をよくしたいと立ち上がった。
自分達を苦しめている問題を打破しようと村民に語りかけ、自らの信念である『生命尊重』行政の在り方を説き、いよいよ村民の医療無料化に踏み切ろうと決意するが、国民健康保険法違反という壁に突き当たってしまう。
晟雄は、村民のいのちのため、全国に先駆けて何としてでも実現させようと「少なくとも憲法違反にはならない。国がやらないから、村がやるんです!」と憲法25条を盾に、老人・乳児医療無料化を推し進めていく。やがて、全国でも最悪の乳児死亡率だった村が、全国初の乳児死亡“ゼロ”という記録を生みだすまでになる。

高齢者・乳児医療費を日本で先駆けて自治体で実現した「沢内村」の深澤晟雄(ふかさわまさお)村長の伝説は聞いたことがあったし、職場の資料室での写真整理作業の中で月刊の機関紙で取材したと思われる写真にも遭遇したことがあった。
しかしながらここまで長い冬を雪に閉じ込められる陸の孤島というところまではイメージを持てていなかった。村民はみな貧しく医者にもかかれず、死亡診断書を書いてもらうために遺体をそりに積んで病院のある隣の町まで峠を越えていくという映像にまず衝撃を受ける。
だからこそ勉強のできた晟雄に父がかけた「医者になれ」という望みも、理科の解剖実験で不向きをさとった晟雄がたどった回り道の末のドラマも理解できた。

手にした職で満州まで行き、引き揚げ後の会社勤めを労働者の首切りの仕事をする嫌さにやめての帰郷して田畑を耕す生活に入る。そこで戦後の数年間をともに憲法について勉強した青年会の太田祖電(大鶴義丹)たちと再会。夜間高校の英語講師の職も得て生徒たちや家族の様子から村民の生活の厳しさを痛感。人望から教育長に推薦され、「行脚と対話」を大事にして地域ごとに婦人から話をきく活動に着手。村の暮らしをよくするためには村民の半分を占める女性の意見を聞かせて欲しいという発想が、まさに憲法の精神そのものだと思った。
助役の後任に推薦されると村の住職でもある太田祖電を後任の教育長に推薦。ともに「行脚と対話」を続けていく。学歴のない若手の農業家・佐々木吉男(宍戸開)の安定収入を得られるナメコ栽培の賛同者を増やしたいという熱意に共感し、ナメコ賛同者づくりの「行脚と対話」で組合を組織し産業として育てていく実践力にも驚く。
豪雪から道を確保する事業を提案するが、村長の諦念という壁にぶつかる。そこで村長選挙に立候補するが、深澤助役の人望の厚さに無投票当選。佐々木吉男を助役に抜擢し、3人で村政の刷新をすすめていく。
村の予算の一割以上をかけてパワーのあるブルドーザーを入れて峠道を冬でも通れるようにすることで村民の「諦めの気持ち」を払拭し、貧しさから老人が死ぬまで医者にかかれないことへの挑戦を始める。まずは保健婦を2名採用して巡回の母子健診からスタート。治療よりも予防を重視して巡回健診にも力を入れて、そのための医師の派遣を周囲の自治体の協力を得る。さらに村立病院に常駐の医者を派遣してもうらうべく母校の東北大学の医学部に何度も足を運んで実現。
さらに「いのちの格差」をなくすための第一歩を65歳以上の高齢者の医療費の無料化を決断。県からの圧力に屈せず、「行脚と対話」の中で築いた婦人組織をはじめとした村民の村長との絆の力が保守志向の強い村の議員たちも動かす場面は感動的だ。ついで乳児医療も無料化。保険ばかり重視していると批判する対立候補に勝っての2期めに入り、ついに全国初の乳児死亡“ゼロ”という偉業を達成。
「諦め」に支配されていた村の人々の気持ちを前向きに取り組む姿勢にひっぱっていくそのリーダーシップの素晴らしさに感嘆する。

ヘビースモーカーであることが気になって見ていたが、村長は多忙な中で受診せず食道がんが末期になってようやく見つかったが遅かった。
福島の病院から戻る遺体を乗せた車が峠道を走ってくる感慨深い幕切れ。映画はこの道を夫婦二人で雪にまみれて帰郷したところから始まったっけ。

主演の長谷川初範が素晴らしく魅力的。妻ミキ役のとよた真帆も女子大出のインテリさんが田畑に入って頑張る様子を熱演。なさぬ仲の娘を可愛がって育てるために実子をあきらめたというエピソードにも驚いたが、信念を貫いて愛する夫とともに生きた女性像をくっきり出していたと思う。

父親役の加藤剛と佐々木役の宍戸開は「日本の青空」に続いての出演。眼鏡をかけた太田祖電は大鶴義丹と最初は気がつかなかったが、好演。

民主党政権になって後期高齢者医療制度が見直されるという約束なのだが、放置すれば優先順位が低いとかいってどんどん先延ばしや内容が後退することも十分ありえる。
しっかりと監視していかなければならないと思う。このまま何もしなければ、「安心して老後が迎えられる社会」は絵に描いた餅のままだ。
東京都が裁判の末に行政責任をとることにして無料化した喘息治療を、是非国として無料にして欲しい。ものすごく薬代も高くて年間の治療費は10万円を越すのだ。このままでは高齢者ケアハウスに入るようなことになる時は都内の施設にしないといけないのではないかとまで思いつめている。

最後に「日本国憲法」第25条の条文を掲載しておく。
一、 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
ニ、 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(追記)
プログラムに太田祖電さんが寄稿されていて、肩書きが元村長となっていたので、深澤村長のあとを継承されたんだろうと推測。
その中に紹介されていた深澤村長の言葉がズシンときたので追記してご紹介する。
「・・・与えられた人の命を燃焼しつくすまで、住民の命を守りつづけることが主義主張を超えた政治の基本でなければならない。教育も経済も文化も、すべてこの生命尊重の理念に奉仕すべきものである。・・・」

10/05/03 憲法記念日に映画「日本の青空」のこと

2010-05-03 15:01:47 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

安倍晋三首相の頃、憲法「改正」のキナ臭い動きが強まり、気をもんでいたが、その頃に憲法を守ろうという運動の中で映画「日本の青空」がインディーズで製作された。2007年公開、各地で自主上映が広がり、2008年2月に私も文京区の上映実行委員会による上映会で観た。
Wikipediaの「日本の青空」の項はこちら
感想未アップのままにしていたが、「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」を観てきたので、先に簡単に書いておこう。

【映画「日本の青空」】
あらすじと主な配役は、インディーズサイトの「日本の青空」の項からほぼ引用、加筆。
沙也可(田丸麻紀)は『月刊アトラス』編集部の派遣社員。部数復活をかけた企画「特集・日本国憲法の原点を問う!」で、先輩達が白洲次郎(宍戸開)、ベアテ・シロタ・ゴードンなど著名人の取材を検討する中、沙也可も企画を出すようチャンスを与えられる。
そんな折、母(岩本多代)の助言により、沙也可は全く名も知らなかった在野の憲法学者・鈴木安蔵(高橋和也)の取材を進めることになる。
安蔵の娘・子(水野久美)と潤子(左時枝)への取材に成功した沙也可は二人の証言から、戦時下での在野の憲法学者としての安蔵の苦労と崇高さを知る。
そして沙也可は、子から託された古びた安蔵本人の日記帳を手がかりに、 安蔵を支えた聡明な妻・俊子(藤谷美紀)の存在や、日本国憲法誕生を巡るドラマの核心を明らかにしてゆく―。
戦後まもなくの日本では民主主義国家の形成に向けて知識人たちがいち早く行動を開始する。大日本帝国憲法にかわる、真に民主的な新憲法は民間人から生まれてしかるべきだという気運が彼らを取り巻いていた。
安蔵はそんな時代の流れの中で高野岩三郎(加藤剛)、森戸辰男(鹿島信哉)、室伏高信(真実 一路)、岩淵辰雄(山下洵一郎)、杉森孝次郎(坂部文昭)らと民間の「憲法研究会」を結成する。メンバー唯一の憲法学者である安蔵を中心に、彼らは新しい時代に求められるべき憲法を探るため草案完成に向け論議を重ねて力を尽くす。
時の幣原内閣に憲法改正担当の国務大臣として入閣した松本烝治(児玉謙次)が中心となって作成した憲法草案(松本試案)は大日本帝国憲法と基本的には代わり映えしないものでGHQ側にあっさりとはね返された。対して、「憲法研究会」が熟考を重ね、GHQに提出した草案は、真に民主的なものであると高く評価され、GHQ案に多大な影響を与えることに・・・。
GHQ側の主な配役は以下の通り。
ホイットニー陸軍准将=ウェイン・ドスター
ベアテ・シロタ・ゴードン=デルチャ・ガブリエラ
ハーバート・ノーマン=ブレイク・クロフォード

憲法関連映画は、第9条を中心とした関係者へのインタビュー集「映画 日本国憲法」と、男女平等規定の第24条を中心にした「ベアテの贈りもの」を観ている。
今回の「日本の青空」は、今の憲法の制定過程についてGHQからの押し付けだったという暴論も声高に聞こえてくる中で、堂々とした反論を映画作品として仕上げてくれたもの。

映画のストーリーとしては、月刊誌編集部の派遣社員が企画提案のチャンスに張り切っていろいろと調べていくうちに、埋もれかけた歴史ドラマを明らかにしていき、さらに恋人の今村(谷部央年)も巻き込まれるうちに共感して協力してくれるようになるという、現代の若い世代にもとっつきやすくするような工夫を感じた。

主権在民の憲法なのになぜ「天皇」に関わる章が初めの方にあるのか、かねてより疑問に思っていたのだが、大日本帝国憲法の改定の形で急いで制定したためだとわかって納得した。
当時の国際情勢的にソビエト連邦に日本追求の主導権を渡したくないアメリカが日本国の民主化を既成事実としてどんどん進める必要があったせいで急いだのだ。
それなのに日本政府から出てくる法案は、保守的すぎて全くお話にならないレベルで、改正作業がGHQの民政局スタッフに委ねられた。その中にベアテ・シロタ・ゴードンもいて、幼少時から日本で長く暮らした経験の中で日本女性の地位の低さに心を痛めていた彼女がワイマール憲法なども踏まえた男女平等規定を起案。それを一蹴されようとしたのをギリギリの線で盛り込ませることができたのだ。「ベアテの贈りもの」に描かれていないようなGHQ側の状況もこちらの映画で補えてより明確に把握することができたのが嬉しい。
白洲次郎がGHQ側と日本政府代表の交渉のテーブルでも頑張るわけだが、ふーんという感じ。この人物には今のところあまり関心がないので仕方がない。

さて、肝心の主人公の鈴木安蔵については今回初めて知ることばかりだった。治安維持法の違反第一号「学連事件」で自主退学し、独学で研究を続けたという。戦時下で研究を続けるには史実を淡々と追う研究であれば当局に目をつけられにくかったのではないかと推察。1937年からは衆議院憲政史編纂委員という仕事を続けていた。
そして戦後になって、動き出すのだ。1945年12月26日にGHQと日本政府に提出された「憲法草案要綱」憲法研究会案の先進性に目を見張る。
GHQ側に押し付けられたという主張をする側は、日本人の中から今の憲法の根幹をなすような草案が出されたという事実をどう説明するつもりだろうか。

鈴木安蔵とその妻・俊子の夫婦の人間関係のゆらぎもきちんと描いていることがいいと思った。ただ夫を支えた妻の存在があったというだけでは浅すぎる。この時代であれば、どうしても男性中心のものの見方になりがちであったろう。そこへの妻の申し立てがあって、夫が考える機会を持ったというエピソードは大事だ。

鈴木安蔵夫妻の高橋和也・藤谷美紀が実にいい仕事をしてくれている。舞台でも活躍してくれている二人の実力が映像でも花開いたようで嬉しく思った。

さて、続けて「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」の感想も書くことにしよう。

10/02/14 ゲキ×シネ「蜉蝣峠」、古田新太は魅力的だが・・・・・・

2010-02-16 23:59:43 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

ひとりでヒマな日曜日、MOVIXさいたまで「おとうと」を観た時に前売券を買っておいたゲキ×シネ「蜉蝣峠」に急遽行ってきた。劇団☆新感線の舞台は、私の好みにあいそうな作品をのぞいてゲキ×シネ待ちにして倹約。今回もそうしてみたが・・・・・・。

【いのうえ歌舞伎★壊PUNK 蜉蝣峠(かげろうとうげ)】作:宮藤官九郎 演出:いのうえひでのり
「goo映画」の「ゲキ×シネ蜉蝣峠」からあらすじ等を引用、加筆。
「蜉蝣峠で暮らしていた記憶喪失の男・闇太郎(古田新太)。彼は元旅役者の銀之助(勝地涼)と一緒に蜉蝣峠を下り、ろまん街と言う宿場町にやって来た。そこでは、天晴(堤真一)と立派(橋本じゅん)というヤクザ者が勢力争いを繰り広げていた。実はその街は、25年前に大通り魔という殺人鬼に襲われ、街を牛耳っていた大親分も殺されていたのだ。盲目の老人・がめ吉(梶原善)の証言で、闇太郎はその事件の生き残りだということがわかる。そして、闇太郎は幼なじみのお泪(高岡早紀)と再会するのだが…。」
<その他の出演者>高田聖子、粟根まこと、右近健一、木村了、他

クドカンと劇団☆新感線の舞台「メタルマクベス」はこちら
最近のクドカンの作品は12月の歌舞伎座の新作「大江戸りびんぐでっど」(感想未アップ)を観たばかり。イイ男に着ぐるみを着せて出したり、ゾンビの群れを出すところは同じようだと苦笑(染五郎はイルカをくさや干しにしたという着ぐるみだった)。軍鶏の着ぐるみを着た堤真一の関西弁は映画「舞妓Haaaan!!!」の内藤貴一郎役とかぶる。
それにしても幕開けからまるで少年漫画でねらうようなベタな笑いをとってくる。「がきデカ」のこまわり君や「マカロニほうれん荘」のようなお下品で変身ネタのよう。お下品でベタな笑い路線には高いお金を出したくない私としては、この時点でゲキ×シネどまりで正解という感じ。

劇団☆新感線メンバーの魅力を活かした当て書き的なキャラ設定だし、見せ場もあるので楽しめはする。劇団メンバー3人によるテクノポップユニットperfumeのパロディっぽい「YAKUZA IN HEAVEN」なんかもう最高に笑えた。

そうやって笑わせながら、闇太郎の失った記憶と過去の「大通り魔」の惨事が少しずつ明らかになっていく。現代社会に頻発する無差別殺傷事件とも重なるのだが、この惨事を起こした人物設定としては説得力がなく、ご都合主義を感じてしまう。
その中で愛するようになった女お泪(おるいと読ませる)と母恋いの思いが重なるところを高岡早紀が二役をしたりするのもわかるが、やはり弱い。
そういう切ない男の表情をやらせたら、二枚目でないくせに古田新太はやたらに魅力がある。これは「リチャード三世」を彷彿とする。堤真一との迫力のある立ち回りもカッコいい。
若手イケメンのダブルりょうちゃん=勝地涼と木村了も可愛いし、なかなか切ない。
しかしながら、何も残らない。一度観てああ、楽しかったで終ってしまった。まぁ、ゲキ×シネも含めて劇団☆新感線は定点チェックの対象であり続けている。

今年の10月には「蛮幽鬼」がゲキ×シネで登場するという。楽しみに待っているとしよう。
写真は「goo映画」から宣伝画像。

10/02/06 「おとうと」は家族愛の物語で終らない!

2010-02-10 23:59:29 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

【おとうと】公式サイトはこちら
演劇界の蜷川幸雄のように映画界で私が敬愛している山田洋次監督。その作品でもキムタク主演の「武士の一分」などは映画館で観なくてはという気にならないのだが、吉永小百合が姉、笑福亭鶴瓶がだめな弟で共演するというので話題もしっかりチェックしていた。
さてさて、どんなもんだろうか?以下、MOVIXサイトよりあらすじ等を引用。
<あらすじ>
夫を亡くした吟子(吉永小百合)は、東京のある商店街にある薬局を女手一つで切り盛りしながら娘の小春(蒼井優)を育て、義母の絹代(加藤治子)と3人で暮らしていた。やがて、小春の結婚が決まり、結婚式当日を迎えるが、吟子の弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)が紋付袴で大阪から現われ、披露宴を酔っ払って台なしにしてしまう。・・・・・・
<解説>
女手一つで娘を育ててきた姉と、大阪で芸人にあこがれながら破天荒な暮らしを送る弟との再会と別れを描く家族ドラマ。市川崑監督の「おとうとにオマージュをささげ、戦後に生まれ育った姉弟のきずなをバブル景気直前に生まれた娘を通して、現在と今後の日本の家族の姿を映す。
<その他の出演者>加瀬亮、小林稔侍、森本レオ、芽島成美、田中壮太郎、キムラ緑子、笹野高史、ラサール石井、佐藤蛾次郎、池乃めだか、小日向文世、横山あきお、近藤公園、石田ゆり子

エンドロールの最後にも市川崑監督の映画「おとうと」(Wikipediaの記事)にオマージュを捧げるとにあったのでネットで調べてみると、なるほどという場面に思い至る。その原作となっているのが幸田文の「おとうと」ということだが、男きょうだいのいない私には関心のなかったタイトルでもあり未読(^^ゞ
困った男きょうだいに振り回されるという話は「寅さんシリーズ」と共通しているが、寅さんよりももっと滅茶苦茶に生きてきた鉄郎。寅さん映画をオンタイムに観ていた頃は、困った存在なのに憎めないのは寅さんの個性によるものだという感じで受け止めていたように思う。今の私は性善説にも性悪説もとらず、多少先天的なものを持ちつつも基本的に人間は生まれた時は真っ白に近い存在だと思うようになっている。
鉄郎の破天荒ぶりに大笑いさせられながら、兄や姉はまともなのに鉄郎だけがなぜこんな風な人間になってしまったのだろうと思いながら、この家族の物語にどんどん引き込まれていく。
姉の吟子の夫の13回忌の集まりでも泥酔して大暴れし、親族との付き合いが途切れていたのに、名付け親になっている姪の結婚式の情報を聞きつけて駆けつけてきた鉄郎。酒乱のようで酒を飲まない約束で披露宴に出て、またまた大失態し、兄(小林稔侍)は絶縁を言い渡す始末。姪の名前の由来は坂田三吉の妻の小春。その夫婦のやりとりを台詞入りで歌う場面は大きな意味があった。鉄郎も芸人として成功したいという強い思いがわかる。それなのに夢はかなっていない。
大阪に引き上げていって、しばらくして今度は大阪から鉄郎の恋人だと名乗る女(キムラ緑子)が借金返済を求めて吟子の薬局に現れ、吟子は借金の肩代わりをする。彼女は鉄郎をいい人だけど酒と博打がやめられないので切れるという。鉄郎の「小春」にはなりきれないのだ。
酒乱とかギャンブル依存症になる人は、自分の送ってきた人生が嫌で嫌で忘れたい衝動にかられているのだと思う。鉄郎の人生に最初に励ましの機会をつくったのは吟子の夫だった。きっと義弟は誰からも褒められたり感謝されたりして育ってこなかったんだろう。だから娘の名前をつけてもらっていっぱい感謝してあげたいというのだ。それで吟子は弟に対して初めて負い目を感じたのだと娘に話す場面にも衝撃を受ける。きょうだいなのに弟のコンプレックスに気づいてこなかった自分!
いつも頑張り屋の兄や姉と比べられ、自分には何もいいところがないというコンプレックスを抱き続けたら真っ直ぐに育っていくのはかなり困難なことだろう。夢をおいかけながら、支えになってくれそうな女も得ながら、挫折感を持つたびに酒や博打に走ってしまい、全てを失っていく鉄郎。救いがないじゃないか!!

姪の小春も子どもの頃は叔父さんが大好きだったのに、今では大嫌いになっている。玉の輿の結婚も叔父さんが披露宴をぶち壊しにしたせいでうまくスタートが切れなかったように見えるのだが、実は相手やその家族が悪かったというのもわかってくる。離婚して自暴自棄になっているのを叱りつけた幼馴染くん(加瀬亮)の愛情につつまれていく。こういう成り行きを見ていると、鉄郎がした禍も転じて福となっているようにも思える。しかし、エリート医師一家が思いっきり悪く描かれていたのには対比効果もあったのだろうが笑えた。

挫折と人生のやり直しのドラマを小春で見せておいて、救いがない鉄郎の消息がわかるともう末期ガン。予告編やTVCMからここまでの予測はついていた。
ところが、大阪で運び込まれていて連絡がきたのはドヤ街のホスピスからだった。鉄郎は駆けつけた吟子に突っ張った態度をとるが、そこの所長(小日向文世)やスタッフ(石田ゆり子)たちがピシッと嗜める。ただただ優しいだけではなく、人間としての尊厳を大事にしている姿勢を貫いているのが胸をうつ。歌やジョークで患者仲間たちにも人気があるという鉄郎のいいところも褒めてくれる。胃ろうのボトルに水だと偽って酒を注がせて酔っ払うという悪戯もやってのける鉄郎。叱りながらもスタッフは心優しい。そのスタッフに弟を託して東京に戻る吟子。
人生最後の看取りの家は実にあたたかだった。ここに鉄郎の救いがあったと観ている私も救われた気がする。家族愛の物語に終らせない山田監督はさすがと思った。

最後の数日、容態の急変に吟子が駆けつけ枕頭につめる。最後の医療処置についての本人希望もきちんと踏まえてのスタッフの対応。苦しくなって目覚めた時の怖い気持ちを訴える鉄郎と自分の手を花束についていたリボンで結ぶ場面もオマージュ。
リボンが引っ張られ、いよいよというところに小春も彼の車で駆けつけて間に合った。姉や姪っ子にも見守られながら、最後に大きく息をした。
所長が死亡時刻を告げ、スタッフが提携の医師を確認のために呼びにいく。その前に鉄郎の亡骸に呼びかける。よく頑張ったねと。有難うと!

モデルとなった山谷のホスピス「きぼうのいえ」はこちら。こんな看取られ方、誰にでもあってほしいと思ってしまった。落ちこぼれと思われている人にこそ必要なんじゃないだろうか?
親鸞上人だと思うが「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」(悪人とは犯罪者という意味ではない)。阿弥陀仏が多くの人を救うという発願をされているのでどんな人でも信じれば救ってくださるという教えを説いている。またキリストは「貧しき者こそ幸いである」であると説いたという。両者ともどんな人でも救われたいと願えば救われるという風に説いていると解釈している。
別に宗教心があるわけの私ではないが、どんな人にも人間としての尊厳をもって死を迎えられるようになって欲しいと思う。もちろん、自分もそういう最後を迎えたいと思うのだ。そのためにしておくべきことも考えていかなくてはと早くもそんな気構えだけはつくってしまっている。

さらに最後にダメ押しの場面。吟子の義母の絹代(この役名もオマージュ!)は、まだら呆け状態の認知症。嫁姑でけっこう喧嘩もあったらしいことが台詞の中でわかり、「そんなに私が邪魔なの」「ハイ」というやりとりにも可笑しみを感じていたが、それだけではなかった。鉄郎を毛嫌いしていたはずなのに、仲間はずれにしては可哀想だから孫の小春の二度目の結婚式には呼んであげようよと言い出すのだ。彼が死んだということも忘れているのに、好き嫌いの感情は変化させているのだ。認知症の患者への山田監督の温かい目も感じられた。人間はいつでも変わる可能性をもった存在なのだと!

家族愛の物語だけでないものを見せてもらって嬉しい気持ちでいっぱいになってしまった。それと笑福亭鶴瓶はこれで主演男優賞をもらうだけのことはあると納得だったことも書いておこう。

この日はMOVIXで先に座席指定チケットをGETしてからさいたま新都心駅に母親を迎えに行き、健康診断終了後の玲小姐さんとデニーズで待ち合わせ。玲小姐さんと母親は父の作品の展覧会出品時と葬式に来て頂いて以来だ。本の貸し借りの受け渡しのついでに昼ごはんをご一緒していただいた。こういう友人がいることにも感謝。人生はつらいことの方が多いがまだまだ捨てたものではない。
写真はこの作品のチラシ画像。

10/01/31 「ゴールデンスランバー」は面白かったけど好みじゃないかな

2010-02-06 23:59:20 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

大河ドラマ「新撰組!」の山南役から注目していた堺雅人の映画の主演が続いているが、全部観るつもりはなく、これならばといいかなぁという作品を選んで観る。「南極料理人」はよかった!「ゴールデンスランバー」は冤罪サスペンス物ということでまぁいいかなぁと観てみたら・・・・・・。

【ゴールデンスランバー】
以下、MOVIXサイトよりあらすじ等を引用、加筆。
<あらすじ>
「伊坂幸太郎の同名ベストセラー小説(Wikipediaの記事)を、「アヒルと鴨のコインロッカー」「フィッシュストーリー」に続き中村義洋監督が映画化したサスペンス」
「凱旋パレード中に首相が暗殺された仙台、宅配ドライバーの青柳(堺雅人)は、久々に再会した大学時代の友人(吉岡秀隆)の謎の言葉を聞いた直後、警官から突然銃を向けられる。訳もわからず逃げ出した彼は、身に覚えのない証拠と見えない力によって無実の首相暗殺犯に仕立てられていく。絶体絶命の中、青柳は大学時代の仲間たちに助けられながら逃亡を続けるが・・・・・・」

あまり現代小説を読まない私は伊坂幸太郎という名前も初めて認識したくらい(^^ゞ興味がないことは視野に入ってこない方かも(笑)
政争の中で首相が暗殺され、その犯人に仕立て上げられる宅配ドライバーの青柳。妻の借金帳消しの代わりにその先棒を担いだ友人が、「お前、オズワルドにされるぞ」というわかりにくい言葉を使いながら必死に状況を説明し、逃げて生きろというメッセージを受け取って同乗していた車を出た途端に爆発炎上。その殺人の罪も負わされての逃亡が始まる。
なかなか緊迫感たっぷりで面白いスタートだ。数年前にアイドル凛香(貫地谷しほり)を助けて一躍注目されたとにかく人のいい男が、わけのわからない状況に追い込まれてパニクって情けなく、それでも友人たちや関わる人達が放っておけずに助けたくなるというキャラクターに堺雅人ほどハマル役者はいないだろうと思える。

オズワルド=ケネディ暗殺犯だが、本当の犯人は別にいてその身替りにされて消された男ということだが、警察は首相暗殺犯が逮捕できなければショットガンで撃ち殺してもいいという乱暴なやり方をおしすすめる。香川照之が主人公を追い詰める警察陣の指揮をとるのだが、これまた偏執的でいい。ところが最後になって、本当に犯人だと思っていたのが間違いだったと県警本部長(竜雷太)の一言で気づかされるところは実に皮肉が効いている。

青柳の無実を信じ、逃亡を助ける人たちとのドラマも実に面白い。タイトルの「ゴールデンスランバー」はビートルズの名曲由来らしいが、彼らのベストアルバムの赤と青バージョンに入っていない曲は知らないので初めて聞いたように思うし、私にはその曲への思い入れができない。とにかく大学時代のサークル仲間が信頼に結ばれていた共通の懐かしい思い出の象徴になっている。

その中の一人が指名手配中の通り魔殺人犯のキルオという設定が現実離れしている。演じる濱田岳はTVドラマの「3年B組金八先生」での生徒役が印象深く、彼のイメージで書かれた役らしく、その存在感も魅力のひとつになっているのだろうと思うのだが、やっぱりなぁ。

青柳の父役が伊東四朗で、マスコミの批判にも屈せずに息子は犯人ではないと言い切って、とにかく「チャッチャと逃げろ」というのがキーワードのようだった。
主人公は地方マスコミに公開取材をさせて無実を訴えようとするが、それも失敗。そこからはとにかく逃げる。彼を助ける人たちもとにかく逃がす。

その先は?青柳は逃走の末に海に浮かび、濡れ衣を着せようとする巨悪は暴かれなかった。ところが青柳は社会的には死んでも生きていた。途中でも出てくるが「整形」もまたキーワードになっている。彼を心配する人達には生存を知らせるので観ている方も少しは落ち着くのだが、なんだなんだ?この結末の肩すかし感にびっくりする。
感想未アップの「崖の上のポニョ」と同じエンディングの疑問「主人公の戸籍どうすんだよ~」(笑)(まぁ、戸籍と住民票でダブル管理している国は日本とその旧植民地国くらいらしいので戸籍制度も見直していいとは思っているのだが・・・・・・脱線m(_ _)m)
確かに、巨悪とは闘い切れるような状況ではない。だったらせめて「生き残ること」が庶民のとるべき最上の手段なんだろうなぁというように思うようにした。そうして初めてなんとなく落ち着いた。まぁ今の世の中的にはアリだろうねぇ。
しかし、カタルシスがないまま終ってしまうので、私的には好みではないかなぁ。
以上、ようやく書けた感想でしたm(_ _)m
<他の出演者>
竹内結子、劇団ひとり、ベンガル、相武紗季、大森南朋、ソニン、柄本明、香川照之、永島敏行、木内みどり、他
写真はこの作品のチラシ画像。

10/01/29 マイケル・ムーアの「キャピタリズム マネーは踊る」で笑って泣いて

2010-02-01 23:08:24 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

前作の「シッコ」がとても面白かったので、今作も滑り込みで観に行った。レイトショー1回のみ上映になっていたMOVIXさいたまでの最終日の今日、娘と待ち合わせをして食事をとってからギリギリに飛び込んだ。
【キャピタリズム マネーは踊る】監督:マイケル・ムーア
以下、MOVIXサイトよりあらすじ等を引用。
<あらすじ>
2008年9月15日、リーマン・ブラザーズの経営破綻は大規模な金融危機を引き起こし、世界経済は100年に一度と言われる同時大不況に陥った。アメリカでは住宅市場の大暴落と企業や銀行の倒産で、自宅や職を失う人々が続出。本作を撮影中だったムーア監督は、$マークのついた大袋を手にウォール街へと突入して行く。
<解説>
『ボウリング・フォー・コロンバイン』のマイケル・ムーア監督が、キャピタリズム(資本主義)支配下の経済問題に迫るドキュメンタリー。巨大企業が利益を追求すると、世界にどのような影響が出るのかを検証する。デビュー作『ロジャー&ミー』で元GM(ゼネラル・モーターズ)会長に突撃取材を敢行したムーア監督が、GMが破綻した20年後の今、生活を支配する経済をテーマに選択。原点に立ち返ったムーア監督の覚悟と怒りが熱く伝わる。

さらにネット検索して面白かった岡本太陽氏の「米映画批評」サイトの記事もご紹介させていただく。
岡本太陽氏は「本作には観る者にとって“知られざる真実”的なものがほとんどなく、観て驚かされるという決定的な部分が欠如」と書いているが、私にとっては驚くことがけっこうあった。

企業が勝手に従業員に生命保険を掛けていて、在職中の死亡時に保険金を受け取るという話は、日本で裁判になっているのを知っていたが、その元祖はアメリカだったのかとあらためて思った。この映画の中ではウォルマートでの事例が遺族への取材を通じて明らかにされているが、「Dead Peasant Insurance=くたばった農民(小作人)保険」と呼ばれていて、大企業にとっての従業員の位置づけを端的に表している。批判を浴びて取りやめられているというが、批判がなければ続いていただろうという企業の倫理性のなさにあきれるばかり。

資本主義は自由主義=民主主義だという履き違えた論理が堂々とまかり通るのがアメリカという国だというのがあぶりだされている。自由=利益追求の自由だ。そのためなら何をしてもいいらしい。
コミュニズムが力を持っていた時代には、資本家とその権力が暴走することへの抑止力が働き、その暴走を規制する法律などができた。独占禁止法などがその代表例だ。資本主義が生き残るためにいわゆる「修正資本主義」という状態になっていた。
新保守主義の時代となって市場経済の万能性が強調され、「民間活力」を引き出すための規制緩和が伝家の宝刀のように振り回された。その結果がこの映画のような格差の極大化した社会の現出だ。

私が一番びっくりしたのは、ある地方都市の少年更正施設が民間委託されたことで起きていた事態だ。少年少女がそのくらいのことかというような非行行為で有罪にされ、収監され、その施設の職員の判定で収容期間が延ばされてしまっていた。民間企業と判事は癒着しており、その施設の稼働率を上げるためにどんどん収監させる。満室にしておくために、更正がすすんでいないとして延ばしてしまうのだ。

飛行機をハドソン川に不時着させて乗客の命を救ったと英雄扱いされたパイロットは、議会に呼ばれてのスピーチは英雄行為の報告よりもパイロットがバイトをしたり、フードチケットの支給を受けないと生活できない状況の改善要望だった。不採算路線は下請けに出し、直接雇用のパイロットも安い賃金で働いているという。ファストフードの店長よりも賃金が低いっていう状態は異常すぎる。

アメリカの政治へのロビイスト活動のもの凄さについては有名だが、その実態も名指しで映像を活用して暴かれる。
巨額の税金を投入して救われたウォール街の金融機関への突撃も名前が売れすぎてアポ取りの電話の段階で名乗った途端に切られている。最後はニューヨーク証券取引所の建物を黄色いテープで封鎖してのデモンストレーション。「犯罪現場、立ち入り禁止」というような意味だろうか。

マイケル・ムーアの故郷は米自動車産業の衰退で過疎の町になっている。キリスト教の指導者たちにも取材。年老いた司教様まで「キャピタリズム」の論理がキリストの教えとは相容れないとビシッと指摘してくれる。
そこにキリストのドラマが再現映像のように挟まり、貧しい人や病んだ人が救いを求めたキリストが現代のアメリカで罷り通っている言い回しで突き放す。究極のブラックユーモアの炸裂だ。

奇しくも政権が交代してオバマ政権の誕生の時期に重なる。真面目に働いているのに追い込まれている人々の投票行動が大きく政治を動かしたのだ。喜んで泣いている人の姿に切実さを感じて目頭が熱くなる。オバマ大統領誕生後の大集会の感動も思い出した。
アメリカでは富裕層への抵抗運動がおきにくいという。それは「アメリカンドリーム」というプロパガンダの浸透の威力のせいらしい。しかし、権力を握る1%の富裕層は99%の投票の力を恐れているという資料も提示される。

住宅ローンが返せなくなって家を明け渡した一家に町の人々が応援してもとの家に戻す実力行使の取材もあった。人々の迫力に警官たちが引き上げざるを得なくなった。
議会で議員も堂々と演説する。「堂々と不法占拠しなさい。どうせ銀行は明け渡させた家が多すぎて書類の整理だってきちんとできてやしないのだから」
確かに「悪法も法なり」ではあるが、それだってピープルズパワーでなしくずしにすることだってありだと思う。

マイケル・ムーアは、自分の国の異常さを告発し、「こんな国には住みたくない」という。そして「だから僕は闘う」というのだ。そして一人の力では無理だから、あなたの力も貸してほしいと訴えかけてくる。

このスタンスがいい。私が今の日本社会を嘆くと「だったら外国へ行っちゃえば」と批判する人がいる。そんなことをしたって問題の解決にはならないのに、要は愚痴るなと言いたいらしい。愚痴ったっていいじゃないか。自分の国を変えるためにやれることはやっていくつもりなんだから(この映画を映画館で観るのもそのひとつだと思っている)。もう少し長い目で見てほしいと思う。

写真はこの作品のチラシ画像。近くのシネコンでは終ってしまったが、都内では「新宿武蔵野館」などで上映中。軽い気持ちで観に行ってみていただきたい(^O^)/

09/12/20 「のだめカンタービレ 最終楽章 前編」映画館の音響の迫力!

2010-01-14 23:15:07 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

2008年お正月の「のだめカンタービレ」特番を観て、漫画とTVドラマDVDも観劇仲間さんがまとめて貸していただいたため、一気にのだめワールドの住人となっていた我が家。
今回の映画版も封切2日目の土曜日がシネコンの記念日割引デーだったこともあり、さっそく娘と二人で観てきた。

「映画情報サイト ムービーネット」の「のだめカンタービレ 最終楽章 前編」の項はこちら
あらすじ等も上記サイトより引用。
プラティニ国際音楽コンクールで優勝後、千秋は、「ルー・マルレ・オーケストラ」の常任指揮者となる。さっそくマルレ・オケを偵察しにいく千秋だったが、まったくやる気の感じられないオケの態度を目の当たりにして愕然としてしまう。
 一方のだめは、フランク、ターニャ、黒木と共にコンセルヴァトワール(音楽学校)の進級試験を控え、練習にはげむ毎日。千秋は、そんなのだめに定期公演での演奏を頼んだ。妄想が広がるのだめだったが、その大役はひょんなことから、コンセルヴァトワールに転入してきた孫Ruiが引き受けることに。準備不足の中、マルレ・オケの公演の日がやってきた。しかし、千秋には恐ろしい結末が待っていたのだった……。
<スタッフ>
原作:二ノ宮知子『のだめカンタービレ』(講談社 KC KISS)
監督:武内英樹
<キャスト>
上野樹里、玉木宏、瑛太、水川あさみ、小出恵介、ウエンツ瑛士、ベッキー、山口紗弥加、山田優、谷原章介、なだぎ武、チャド・マレーン、福士誠治、吉瀬美智子、伊武雅刀、竹中直人

「のだめ」は上質のエンタメ作品として楽しめるのがいい。二人の活躍の場を海外に移しても、「ここからは日本語で・・・・・」って説明画面を入れて乗り切った特番の手法がこちらでも使われるので、字幕のうっとうしさもない。漫画でこそのギャグシーンを人形も使った演出で面白く見せてくれて大笑い。のだめちゃん、飛びます飛びます(笑)シュトレーゼマンの竹中直人というキャスティングのノリはテオ役までなだぎ武で日本人でいくんだと妙に納得。
R・S(ライジング・スター)オケの後任指揮者の松田が谷原章介というのはイケメン揃いで嬉しいと思っていたら・・・・・・。あの変顔炸裂はイタリア帰りの飛行機で観た「ハンサムスーツ」で慣れているとはいえ、やっぱり笑っちゃったよ~。

特番以降御馴染みののだめのコンセルヴァトワールの仲間たちも可愛いし笑えるし、マルレ・オケのオーディションメンバーもナイスキャスティング。ボロボロのボレロのレベルから千秋のオーディション実施と特訓を経ての脱皮ぶりも可笑しくも感動的。コンマスと心が通い合うところもしみじみ見せる。
のだめの上野樹里がめちゃくちゃ可愛いし、御馴染みの感情のアップダウンも今回も炸裂。映画の画面に広がった「変態の森」のベタなCGワールドも心地いい。
そういう漫画的世界から本格的なオーケストラ演奏シーンまでという広がりこそ、この作品の魅力だが、映画館のスクリーンと音響施設でドカーンと楽しみが二倍三倍・・・・・・となるのを堪能。

それにしても千秋役の玉木宏の指揮振りが素晴らしい。細い長身がうねり、長い腕が舞い、引き締まった表情の変化もみな美しい。今回はピアノを弾いて指揮をする弾き振りも見ることができるのも贅沢というものだ。のだめが打ちのめされるもの無理はないと思える力演。

一気に力をつけたマルレ・オケのチャイコフスキーの序曲「1812年」の演奏には大満足。ナポレオン軍の侵攻には「ラ・マルセイエーズ」が流れるのもわかったし、抵抗の戦争から勝利までを描いた作品ということで、会場の庭でテオが大砲を連発させるシーンにはちょっとびっくりしたが、こういう作品なんだろうから贅沢な演出なんじゃないかなぁと推測。家で検索したらコンサートで実際に大砲で空砲を撃つ演出も稀にあるのわかったから推測は当たった。東欧の歴史的なホールでのロケも素晴らしく、ホールいっぱいに響き渡るオーケストラの音の素晴らしさを、映画館で堪能できた。

春の後編も楽しみ楽しみ。
漫画やTVを観たことがない人も大丈夫だと思う。そういう方でも1000円の日なら全く損はしないと思うのでおすすめだ。

写真は東宝サイトよりチラシ画像。
劇場版公式サイトはこちら