ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

09/10/17 「蛮幽鬼」復讐心という監獄からの解放

2009-10-21 23:59:10 | 観劇

小学生の時に少年少女版の「岩窟王」を読んだのだが結末が思い出せなかった。内野聖陽主演の文学座での「モンテ・クリスト伯」をTVの録画で観て、救いのある結末がわかって安堵したものだ。さて、劇団☆新感線「蛮幽鬼」はどんなだったか。
17日新橋演舞場で「蛮幽鬼」夜の部を観た時の簡単な記事はこちら
【蛮幽鬼】中島かずき作
あらすじと主な配役を書き出してみよう。
鳳来国の伊達土門(上川隆也)は海を渡って留学。帰国直前に親友・京兼調部が殺され、他の仲間び稀浮名(山内圭哉)・音津空麿(粟根まこと)の讒言で濡れ罪を着せられてに監獄島に幽閉されて10年。独房に声が届くところに幽閉されていた男の言葉を信じて抜け穴を掘り、サジと名乗るその男(堺雅人)とともに脱獄。復讐に燃える土門にサジは力を貸すことを約束。同様に幽閉されていたペナン(高田聖子)も解放。もろともに土門の祖国に渡る。
先に帰国していた二人は蛮教を布教。信者に布施や供物を強要している。それに対抗し、土門は飛頭蛮と名乗り、炊き出しもしながら蛮心教を布教。貧しい民の拠所になっている。
土門の親友の父は左大臣の京兼惜春(千葉哲也)で、浮名の父の大連の稀道活(橋本じゅん)と政の覇権を争っている。娘・美古都(稲森いずみ)は土門の婚約者だったが、今では大王に入内していた。蛮教と蛮心教の教義問答が御前で行われることになった矢先に帝が暗殺され、その遺言で美古都が王位を継承。
新帝の美古都の前で土門は教義問答に勝つが、美古都は土門を宮中の役職を与えることを拒否。父の左大臣に諭されるが抵抗する。
土門が衛兵だった頃からの親友・遊日蔵人(山本亮)や刀衣(早乙女太一)が美古都を守るために付き従っている。その刀衣がサジを自分の同族である「楼蘭族の悪魔」だと見破った。楼蘭族は生まれた時から殺しのワザを教え込まれた一族で暗殺を請け負って生きてきた。サジは土門の復讐の道を作ると言っていたのだが・・・・・・。以下は省略。

「SHIROH」は再演をしないということを聞いていたが、上川隆也を主演にした舞台をつくり、大河ドラマ「篤姫」で大ブレイクした堺雅人も二枚看板として並べた企画になったらしい。中島かずきがキャストを踏まえてアテ書きをしているわけで、この二人が演じる人物の関係が実に面白い。
左大臣の京兼惜春が元々の黒幕でその陰謀に対しての復讐劇だったのだが、実はそこにはあまり重きを置いていない。
物語の鍵を握るのは堺雅人演じるサジだ。終始笑顔のサジだが、その笑顔は実は虚無的なものなのだ。族長からの使命を果たしたサジは抹殺されるところを反撃。信じているものに裏切られたサジは一族だけでなく自分が関わる世界に生きる人間全てが死ねばいいと思っているようだ。どうやったら多くの人を殺せるかということを遊戯の主題にしている。その遊戯のために土門の復讐心をあおり、利用している。その達成感で生きているがそれも最終的には自暴自棄だろう。
土門はそのことに気がつかないようにしていたのじゃないかと思う。

最後は土門とサジの対決となる。土門だけが死ぬのかと思いきや、トリック的な裏技(これってありかな?まぁありねというレベル)で相討ちになる。
そしてどうせ死ぬなら美古都に止めを刺させ、謀反人の飛頭蛮を成敗したとして王権を強固にさせる道を選ぶ。そしてさらなる一言、中島かずきの極め台詞!
「この監獄島から解き放ってくれ」(出してくれだったかもしれないが・・・・・・)

この記事にもタイトルとして書いたが、「復讐心という監獄からの解放」ということだと解釈。それも死ぬことによってしか成すことができなかった悲劇的結末にしたようだ。
しかし、愛する女の腕の中で死んでゆくというロマンチズムにあふれる幕切れ。その女の大王は愛する男の遺志を踏まえて宣言するが、最後は「この国を・・・・・・」で終わり、観客の想像に委ねている。何やら復讐劇の「ハムレット」の幕切れの新王になるはずのフォーティンブラスのイメージも重なる。

こうしていろいろと反芻していると、ロビーにあった像は蛮教の神像というより「蛮幽鬼」だと思えてきた。像の本体は堺雅人のサジのイメージで世界を破壊する復讐神で、お腹の牢獄に上川隆也の土門が閉じ込められている。その復讐神=復讐心という解釈だ。そこからの解放という大きなテーマを感じ取る。

実はこのテーマを感じた舞台が今年はこれで3本目。まずは野田秀樹の「パイパー」(感想未アップ)。次に井上ひさし×蜷川幸雄の「ムサシ」。そして今回の「蛮勇鬼」。まさに今という時代に心ある作家が書く作品は共通してこのテーマにいきあたるように思えた。
世界から復讐心がなくなり、復讐神がいなくなりますように!!

上川隆也についてちょっとだけ追記。
「SHIROH」同様に貧しい民のための国づくりをめざしながらも懊悩する人物像がこれほどカッコよくハマる役者もいないんじゃないかと惚れ惚れ。歌の場面は今回もいっぱいいっぱいという感じだったけれど、音程はしっかりしていてまぁ合格。「大地の子」で中国語を暗記して絶賛された耳のよさが歌でも通用するということだと思う。

写真は今回公演の宣伝画像。
そうそう、娘が「飛頭蛮って頭が胴体から離れて浮遊する中国の妖怪だよ」と教えてくれた。ウィキペディアの「ろくろ首」の項にあり

今回も役の名前にもいろいろ凝ってくれているのが面白い。娘とゲキ×シネ版も観ようとしっかり約束済みである。



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7 コメント

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さすがっ! ()
2009-10-24 01:06:35
ぴかちゅうさんの鋭い視点の感想、拝見しました。

私的には、終始笑顔で冷酷に殺人を繰り返す、
サジにメロメロだったんですが・・・。(笑)
二度目の観劇時には、土門の悲哀がストレートに伝わってきて、
ラストで泣けてきました。

浮名を斬る空麿、その空麿を斬る道活。
そして道活を斬る物欲・・・。
このシーンで「あ!復讐の連鎖だ!」と思い、
真っ先に「ムサシ」が思い浮かびました。
(気付くの遅すぎですね。(笑))

>「飛頭蛮って頭が胴体から離れて浮遊する中国の妖怪だよ」
そうなんですね!
面白い情報、ありがとうございます。
他の役名にも由来がありそうですね。
これだから新感線はヤめられない。(笑)
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なるほど! (恭穂)
2009-10-24 19:31:50
ぴかちゅうさん、こんばんは。
復讐心=復讐神・・・なるほどそういう意味だったんですね。
あのロビーの像は、私には嘆きの表情に見えて、
どちらかというと土門の象徴のように思えたのですが、
ぴかちゅうさんの解釈に、なるほどなあ、と頷いています。
人それぞれ、感じ方が違うのが面白いですね。
というか、この物語にそれだけの深さがあるのかもしれません。
そして飛頭蛮の由来もなるほどです!
なんだか、とても率直な名前の妖怪ですね(笑)。
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2009-10-28 22:44:15

返事のコメントが遅れてごめんなさいm(_ _)m「飛頭蛮」の由来にお二人が反応してくださったのも嬉しく、早速娘に伝えてあります。
★「ARAIA -クローゼットより愛をこめて-」の麗さま
>サジにメロメロ.....これは同じです。しかしそのサジこそが復讐神のイメージになってとわかってくるとそのギャップが劇的でした。
>「あ!復讐の連鎖だ!」と思い、真っ先に「ムサシ」が思い浮かびました......ってやっぱりそうですよね?!その復讐の連鎖をどうやってやめるかというところが全く違うのですけれど、それを止めることでその先の希望が生まれるはずですよね。
★「瓔珞の音」の恭穂さま
>人それぞれ、感じ方が違うのが面白いですね。というか、この物語にそれだけの深さがあるのかもしれません......ひねりがもう少しあるといいという感想をあちこちで拝見しますが、私はけっこういろいろと反芻して何度も楽しめる作品だと思っています。
アップが観たいだけでなく物語も楽しむべくゲキ×シネ版を楽しみにしていようと思います。

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結局・・・。 (かずりん)
2009-11-01 19:55:26
『SHIROH』でもそうだったんですが
上川さんって死んじゃって、そして女性を
残してゆくでしょう・・・。
ぎゃ~!もうあれ・・ダメですよね~~!
あのパターンでこられると、ダメだ!!
家に帰ってからも残りすぎます!!切ない!!
あのラストのシーン!最高に泣けます!
ゲキ×シネになると、あの辺りもアップで
バンバン出てくるでしょうから、さらに泣けそうです!
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★かずりん様 (ぴかちゅう)
2009-11-03 18:18:16
>上川さんって死んじゃって、そして女性を残してゆくでしょう・・・。・・・・・・あのラストのシーン!最高に泣けます!
かずりんさんがボロ泣きしている様子が目に浮かびますねぇ。
私は今回ぐっと引いて作品世界全体を眺め渡していたので、上川さんの土門が死ぬところでは泣かなかったんですよ。
ゲキ×シネになると一気に感情移入して泣けるかもしれないとその時を楽しみにしていようと思います。
かずりんさんの東京千穐楽のレポを下記に紹介させていただきますね(^O^)/
http://blog.goo.ne.jp/toukisyou/d/20091030
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監獄島からの解放 (スキップ)
2009-11-23 06:54:23
ぴかちゅうさま
大阪公演を観て、遅ればせながらぴかちゅうさんのレポをじっくり拝読いたしました。

「ここはまだ監獄島じゃないか」「俺を監獄島から解放してくれ」「外の光だ」という土門の一連のセリフの流れは私も一番キモと感じた部分です。
“復讐の連鎖からの解放”という意味で、「パイパー」や「ムサシ」と繋がるテーマというぴかちゅうさんの解釈にも大いに納得です。
「飛頭蛮」っていう妖怪のことも初めて知りました。
お情様に感謝!
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★スキップさま (ぴかちゅう)
2009-11-26 00:18:22
スキップさんの「蛮幽鬼」大阪公演レポの連続アップを読ませていただきTBさせていただきました。「碇知盛」の時と同様にスキップ様からのTBがうまくいかないとのこと、残念なので下記にご紹介させていただきますm(_ _)m
http://paradise.269g.net/article/15062464.html
>「ここはまだ監獄島じゃないか」「俺を監獄島から解放してくれ」......最後にきましたよね、この芝居のキーワード!
歌舞伎座の「碇知盛」とも復讐の連鎖を断ち切るという同じテーマを感じ取れたので、時代の巡りあわせの上演ということを感じないではいられなかった10月となりました。
「飛頭蛮」という妖怪のこともコメントで触れていただいたことを早速娘に話したら、またまた面白いことを言ってくれました。
「上川さんの役って、頭は飛び回っていたけれど身体はずっと監獄島に残されていたっていうことだよね」ですって!!ここまでイメージして中島かずきがネーミングしたということでしょうね。うーん、一本とられた気分でした(^^ゞ
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