Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

シューベルトのオペラに何が欠けていたか?(No.1916)

2011-08-17 14:59:33 | 作曲家・シューベルト(1797-1828

シューベルトは「美しき水車屋の娘」を作曲するまでは、「オペラ作曲家」を目指していた


 この事実を忘れてはならない。シューベルトは「オペラ作曲家」としては生前も成功しなかったし、没後に見直しが大きな波になったことも無いが、成熟期の2作品「アルフォンソとエストレッラ」D732 と「フィエラブラス」D796 については、DVDが発売されている。

Schubert Opera DVD List



  1. "Alfonso und Estrella" D732 Nikolaus HARNONCOURT(Cond), Jurgen GLIMM(Stage), Chamber Orchestra of Europe(1997.05)


  2. "Fierrabras" D796 Franz WELSER-MOST(Cond), Claus GUTH(Stage), Zurich Opera Hause(2005.11 & 12,2006.03)



 簡単に「演奏の出来」等について触れておく。「フィエラブラス」はこれしかDVDが出ていない。「アバド指揮の映像が残っている」との記述を何度か見たが、

名著『シューベルトのオペラ』著者の井形ちづる も実物を観ていない「アバド指揮 フィエラブラスの映像」


である。私高本の語学力では見付けられない(爆
 チューリヒオペラは「シューベルトオペラ」に極めて力を入れてくれているオペラハウスで、アーノンクール指揮盤もウィーンの上演だが、チューリヒオペラとの「共同制作」である。
 「アルフォンソとエストレッラ」はもう1種出ているが、アーノンクール指揮盤のキャストが豪華な上に、指揮、ソリスト陣、オケ、合唱、演出、収録 全てが良いので満足している。これはお薦めの1枚。日本語字幕が無いことだけが不自由だ(爆
 「フィエラブラス」は、ウェルザー=メスト盤はアバド盤よりも「シューベルトに忠実」。『セリフ入り』で演奏した点がシューベルトの要求通りなのだ。だがその1点を除くと、オケと合唱はそれなりなのに満足度が低いのがウェルザー=メスト盤。演出がスカでどうしようもなく悪いのが、全てに悪影響を及ぼしたようだ。私高本はお薦めしない。アバド指揮CD の方がお薦め。
 そう言えば、

アバド指揮「フィエラブラス」盤も、ヨーロッパ室内管弦楽団 + シェーンベルク合唱団 + トーマス・ハンプソン


だった!


 シューベルトオペラではこの2作品が最高傑作、と評判を取っている。現在までCD&DVDで入手できる演目は全て最低1種類は入手したが、確かにこの2作品が最も魅力的だろう。頻度多くCDは聴いている。

 さて、この2作品は「普通のオペラファン」が観たらどう感じるだろうか?「イタリアオペラファン」でも「ドイツオペラファン」でも「フランスオペラファン」でも「オペレッタファン」でもいい。
 真っ先に指摘したいのが、

  1. ストーリー展開が「オペラ風」に感じられない。特に「第1幕」の物語進行が「劇的」で無い!


     プッチーニ「ラボエーム」では、ミミとロドルフォが「劇的に」出会い恋に落ちる。R.シュトラウス「ばらの騎士」では、オクタヴィアンが女装して女になりすまし、「ばらの騎士」に選ばれるドタバタがある。ビゼー「カルメン」では、ホセが許婚ミカエラがいるのに、カルメンに粉を掛けられて恋してしまい、軍規に叛いてまでカルメンを逃げさせてしまう。オッフェンバック「地獄のオルフェウス」では、冷え切った夫婦の夫オルフェウスが妻ユーリディウスの死を喜んでいると、「世間」が出てきて「妻を生き返らせるために迎えに行く」。

     う~ん、こんな「劇的な場面」は無いなあ。モーツァルト や ロッシーニ の名作オペラは観ていたハズだが、どうも ベートーヴェン「フィデリオ」程度の話の進行で満足しているようだ。個人的には「フィデリオ」よりもこの2作品の方が好きだが、賛同する人は多くないだろうなあ(泣

  2. 「恋に落ちる描写」が浅い


     CDで聴いていると「聴き落としてしまう」可能性が高いが、DVDで観るとさすがに「恋に落ちる」情景はあることはある。アルフォンソはエストレッラを「1目見て恋に落ちる」。これで終了!
     「フィエラブラス」では恋人同士の組み合わせはあるのだが、オペラ開始前に既に決まっている(爆

     人気オペラの全部が全部「オペラ進行中に恋に落ちる」モノばかりでないことは知っている。プッチーニ「トスカ」では、やきもちを焼いたり、トスカのカヴァラドッシへの思いを踏みにじったりしながら「悲劇的な死別」でクライマックスを迎える。しかし、シューベルトは描かない。オペラ台本として、モーツァルト や ロッシーニ が人気オペラを次々にヒットを飛ばしたのだから「時代」は無関係。 
     「シューベルトのオペラ観」が原因である。

  3. アリアの「カマし」が全く無い!


     モーツァルトの「後宮からの逃走」と「魔笛」はドイツ語オペラだから、全て理解できたハズ、なのだが、コンスタンツェが3点Es カマしたり、夜の女王が3点F カマすことには興味を全く示さなかったらしい。
     どうも

    2点A が最高音で満足してしまったのがシューベルトオペラの特徴


    である。テノールはこれでもいいのだが、「ソプラノの高音が不足」なのである。

     シューベルトを取り巻く「歌手陣」は圧倒的に男声が多い。フォーグル、シェーンシュタイン、ティーツェ などなど。だが女声もいる。「最初の傑作 = 糸を紡ぐグレートヒェンD118」を思いを募らせて作曲した ソプラノ=テレーゼ・グローブ を初めとして、皆無では無い。

    アジリタで 3点C(ハイC) より上で転がすのを「芸」としていたソプラノが廻りにいなかった


     これが大きい、と私高本は考える。オペラ作曲で手本にした曲は、モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」「魔笛」の2作品のように聴こえるのだが、アジリタを転がすソプラノがいなかったためにオペラだけでなく、ミサ曲でも、リートでも「2点A」までで満足している。モーツァルトのハ短調ミサK427 は知っていたと思うのだが(苦笑



「ストーリー展開に劇的な進行が無い」「恋に落ちる描写が浅い」「アリアのカマしが無い」

 この3点セットで、シューベルトオペラは流行らなかったのである。
コメント
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