市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

関東最大級メガソーラーを2月12日に買い取った東京ガスに出した質問状の回答に滲む上から目線体質

2020-08-19 23:25:00 | 安中市内の大規模開発計画
■2016年秋から造成が開始された群馬県安中市の岩野谷の大谷・野殿地区約130ヘクタールに及ぶ関東地方で最大級とされるメガソーラー施設が2019年12月末に完成し、2020年1月3日に送電が開始されました。約370万立方メートルに上る移動土砂が行われ、それまでオオタカやキツネが生息し、関東地方の平野部では唯一猟銃による水平撃ちも可能で、エビネやヒツジグサが自生していた広大な里山が僅か3年で姿を消し、現地では一面の殺風景なパネルの海となってしまいました。
 ところが、送電開始後わずか1か月余りの2月12日に、このメガソーラーを中国資本も関与するタックスヘイブン会社から東京ガスが買い取ったという衝撃的なニュースが駆け巡りました。
 この余りの素早い電撃的買収劇を目の当たりにした筆者は、近々、各方面にヒヤリングをして今回の突然の外資系SPCの撤退と、東京ガスの進出の顛末を調べてみようと思っていましたが、新型コロナウイルスの蔓延で、しばらく様子見をしていました。
 その後、7月16日に、東京ガスの担当者らが、地元に事務所を置く鹿島建物の現場代理人の案内で、留守中、筆者の自宅に来たと言うので、この機会にかねてから知りたかった質問事項を東京ガスに訊いてみることにしました。


東京ガスが2020年2月にタックスヘイブンのペーパー会社から買収した関東最大級のメガソーラー施設。

 なお、現時点で稼働中のメガソーラーではおそらく関東圏では最大級のこの大規模太陽光発電施設の今年に入ってからの経緯は次の通りです。
○2020年1月5日:関東最大級の安中ソーラー合同会社のメガソーラーがついに1月3日から送電開始!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3107.html
○2020年3月1日:1月3日に送電開始したばかりの関東最大級の安中ソーラーが早くも東ガスに身売り!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3126.html

■それでは当会が東京ガスに宛てた質問書を見てみましょう。

*****質問書*****ZIP ⇒ j.zip
                    2020年7月23日
〒105-8527
東京都港区海岸1-5-20
東京ガス株式会社 エネルギー需給本部
再生可能エネルギー事業部
再エネ第一グループ
係長 砂田 良知 様
係員 大内ありさ 様

                質問者:〒379-0114
                    群馬県安中市野殿980
                    小川 賢
                    電話090-5302-8312
                    FAX027-381-0364

件名:安中市岩野谷地区の安中ソーラー合同会社メガソーラーにかかるご質問

前略 先日は遠路お越し下さったにもかかわらず自宅を留守にしており大変失礼しました。
 さて、貴社が2020年2月12日にプレスリリースで公表した「群馬県安中市における太陽光発電所の取得について」と題する情報によると、「東京ガス株式会社(社長:内田 高史、以下「東京ガス」)100%出資子会社のプロミネットパワー株式会社(社長:菅沢 伸浩)は、このたび、アジア・パシフィック・ランド・(ジャパン)・リミテッド社が運営を行ってきた特別目的会社である安中ソーラー合同会社を通じて「安中市太陽光発電所」(以下「本発電所」)を取得しました。固定価格買取制度の適用期間終了後は、自社電源としての活用を想定しており、年間約5.6万トンのCO2削減に寄与する環境価値のある電力をお客さまにお届けしてまいります。東京ガスグループは、経営ビジョン「Compass2030」で掲げた2030年における国内および海外での再生可能エネルギー電源取扱量500万kWの達成に向け取り組んでまいります。」としています。
 このことについて、次の質問がありますので、できる限り、詳しく教えてください。

【質問1】
 この本発電所の土地(借地を除く)は、安中ソーラー合同会社という特別目的会社(SPC)が、日刊スポーツ新聞社の子会社から買い取ったものと認識しております。またこのSPCのバックには、代表社員としてグレート・ディスカバリー・ホールディングLLC社(GDH)という米国デラウエア州ウイルミントン市に登録されたペーパー会社がおり、その職務執行者として、東京都港区赤坂2-10-5にある税理士法人赤坂国際会計事務所の山崎亮雄と、香港に拠点を置く香港九龍大角咀ホイファイロード18ワン・シルバー・シー、ブロック7、21階、ルームBのリュー・シャオ・フィの2名が選任されていました。今回、貴社のプレスリリースによると、「アジア・パシフィック・ランド・(ジャパン)・リミテッド社(APL)が運営を行ってきた特別目的会社を通じて『安中市太陽光発電所』を取得しました。」と報じています。
 今回の貴社による一連の取得劇において、貴社、貴社子会社プロミネット・パワー社、SPC、GDH、APL、および後述の三菱UFJ信託銀行、さらに、本発電所の運営を請け負っている鹿島建物の各社がどのように関与してきたのか、その結果、現在どのような立ち位置に各社が置かれているのか、わかりやすく説明をお願い申し上げます。

【質問2】
 一方、地元の菩提寺である念称寺が本発電所内に保有する土地については、寺とSPCとの間で、2016年11月7日付で地上権設定予約契約書が交わされ、2016年4月24日付予約権行使の通知書により地上権の設定が為されています。日付が前後しているのは、国土法違反が発覚して、地上権設定予約契約書の正式締結が遅くなったものと思料されます。
 このことに関連して、2020年1月10日付で念称寺にSPCから差し出された書面によれば、SPCは、本件地上権を2019年12月25日付で受託者である三菱UFJ信託銀行に信託譲渡し、地上権設定予約契約書に定めたSPCの地位・権利・義務を三菱UFJ信託銀行に承継したことが明記されています。SPCは承継後も寺の土地を三菱UFJ信託銀行から賃借しながら、事業を継続し、地代もSPCから支払うとしています。
 こうした事実によれば、プレスリリースで「SPCを通じて太陽光発電施設を取得した」と報じた貴社は、本発電所のどのような権利を誰からどのような条件で取得したのか、わかりやすく説明をお願い申し上げます。

【質問3】
 プレスリリースで貴社は「固定価格買取制度の適用期間終了後は、自社電源としての活用を想定しており、年間約5.6万トンのCO2削減に寄与する環境価値のある電力をお客さまにお届けしてまいります。」と言明しています。このことは、FIT制度の適用期間が終了する2040年1月3日(要確認)以降は、引き続き自社電源として本発電所を保有し運用していくことが想定されます。具体的には、本発電所内の土地の所有権、借地の地上権、施設・設備等の管理について、どのようにお考えなのか、わかりやすく説明をお願い申し上げます。

【質問4】
 質問者は、本発電所に取り巻かれている山林を所有し、そのアクセスとして市道を利用しています。しかし、道路の両側が本発電所の所有地となっていることから、道路管理面で支障の出ることが予想されます。道路管理者である安中市は、認定道路として道路に番号を付与していますが、実際の管理面ではなんの対策も講ずる意図が見られず、やむをえず、唯一の利用者である質問者が道路里親制度等を活用して管理するほかはありません。この件については、本発電所の運営管理業務を貴社が鹿島建物に委託していると思われますが、どのような条件で業務委託をしているのか、分かりやすく説明をお願い申し上げます。
 とりわけ、質問者の所有する山林および道路管理者である安中市が保有するアクセス用市道との境界付近の管理責任について、所掌範囲や責任の明確化等はどうなっていますでしょうか、

【質問5】
 本発電所の設置及び稼働に関連して2017年(平成29年)2月24日付で、安中市(群馬県安中市安中―丁目23番13号)、地区住民(安中市岩野谷地区第6区および第7区区長)および事業者の安中ソーラー合同会社(東京都港区赤坂二丁目10番5号赤坂国際会計事務所内)の3者による協定書が締結されました。さらに同日、FIT制度終了後を想定した撤去費の積立及び支出の仕組を構築することを約すとして、安中ソーラー合同会社と安中市の間で覚書が交わされました。この覚書に基づき、安中ソーラー合同会社では、三井住友信託銀行株式会社との間で信託契約が締結され、その具体的な条件は、別途三井住友信託銀行株式会社の指定金銭信託約款及び金銭信託契約特約申込書に従とされました。この覚書に基づき、発電事業(売電)開始日から毎年3000万円ずつが積み立てられ、20年間で6億円の累積積立金が確保されることになります。これらの協定書や覚書は、現在どのように承継されているのか否か、その内容についてわかりやすく説明をお願い申し上げます。

【質問6】
 質問者の知る限り、SPCは三井住友信託銀行から150億円の資金を借り入れ、そのうち20億円を日刊スポーツ新聞社に支払い、土地を取得し、残りの130億円を投じて、造成工事と施設・設備設置工事を東芝プラントシステムに請け負わせて、2020年1月18日に完成した本発電所の施設・設備がSPCに引き渡されました。貴社はその僅か25日後に、本発電所を何らかの形で取得されました。
 つきましては、貴社は本発電所の取得のために資金としていくら投じたのでしょうか。また、本発電所の取得について、いつ頃から会社として方針を立て、取得に向けた計画を策定してきたのでしょうか。分かりやすく説明をお願い申し上げます。

【質問7】
 本発電所の建設に当たり、地元を対象とした説明会で、本発電所の稼働により年間17億円の売電収入が見込めるとの発言が、SPC側からありました。今回、本発電所を取得した貴社として、本発電所の取得を決断された理由にはどのようなものがありますでしょうか。さまざまな理由があると思いますが、それらをすべて教えてください。また、それらの理由について、優先度を付してください。

 以上が質問者からの質問事項です。
 本発電所が設置された場所は、岩野谷地区の南部の広大な丘陵地帯です。ご案内の通り、岩野谷地区の北部には、カドミウム公害でしられる東邦亜鉛安中製錬所が位置しており、これまでに80年間に及ぶ操業により、周辺にカドミウムをはじめ重金属を含む降下煤塵が降り注ぎ、深刻な土壌汚染が発生し、今でも製錬所周辺半径1キロメートル以内は、汚染土壌が手つかずのまま放置された状態にあります。
 現在、製錬所周辺の北野殿地区や岩井地区では、公害防除特別対策事業として区画整理方式による汚染土壌の排客土計画が行政主導で進められていますが、遅々として進展を見せておりません。その過程で、本発電所の造成工事中に発生する山土を汚染土壌対策のための客土用への利用を行政にもSPCにも働きかけましたが、ことごとく無視されてしまった経緯があります。
 質問者が本発電所計画に対して、終始慎重な対応を、関係筋に一貫して求めてきた理由や背景には、地元の事情を無視して、経済的論理で開発が為されることへの戒めがありました。以下にかいつまんで、これまでの経緯を記してみました。
【経緯概要】
 岩野谷地区南部の水境および大谷にまたがる約130haの丘陵地帯については、バブル期に日刊スポーツ新聞社による朝日新聞グループ専用のゴルフ場計画が進められてきましたが、バブル崩壊により、同社の社有林として維持されてきたところ、東日本大震災を契機に2012年7月1日にスタートしたFIT制度(再生可能エネルギー固定価格買い取り制度)のため、太陽光発電施設業者によるメガソーラー設置計画の動きが活発化し、日刊ゴルフ場もその動きの中で、2013年になると数社から日刊スポーツに買取り要請が寄せられ、日刊スポーツはその中で最も高額の買取価格を提示したタックス・ヘイブンで知られるグレート・ディスカバリー・ホールディングスLLCに約20億円で2015年12月に売却しました。その後2016年10月までに群馬県の大規模開発許可がおり、造成工事に着手、2019年末までに完成し、2020年1月3日に運転開始となりました。

 事実、地元説明会でも、広大な森林伐採による周辺への気象変化(温度上昇)や、鳥獣が棲み処を失うことによる周辺農業への鳥獣害も懸念され、さらに調整池が設置されるとはいえ、下流に流出する水量の変化によりとくに集中豪雨の際の下流への出水被害を懸念する声が多数出されました。このうち、獣害や水害については、実際に周辺や下流に被害がでたことも事実です。
 とりわけ、これまでSPCの実態が素性のしれない外資系のタックスヘイブンのペーパー会社であったことは、いつ転売されて、FIT制度終了後は産業廃棄物中間処理ないし最終処分場施設にかかわる事業者の手に渡ってしまうのではないか、との強い不安がありました。
 今回、事情はともかく、結果的に日本を代表する企業のひとつである貴社が本発電所を取得したことについて、これまでの不安は解消したと判断してもよいのかどうか、近日中に貴社と面談の機会を持たせていただければ、質問者としても幸いと存じます。
 その際、上記の質問事項についても、あらかじめ書面でご教示願えれば、無用な誤解や不明事項を最小限化することができ、効率よく情報共有ができると思います。
 つきましては、誠に恐縮ですが、盆明けの8月17日(月)までに上記質問へのご回答を書面で質問者の連絡先あてにお願いいたします。そして、その後、適当な時期に、直接ご面談できる機会を希望しております。
 貴社におかれましては、こうした事情を拝察いただき、今後とも本発電所の事業を通じて地元と良好な関係を保持していただけるよう、ご理解ご協力を賜りたくお願い申し上げます。
                    草々
**********

■こうして、8月17日(月)期限で回答を待っていたところ、8月13日付で東京ガスから封書で回答が郵送されてきました。わずか2ページ(実質的に1頁強)でした。回答内容は次の通りです。



*****東京ガスからの回答*****ZIP ⇒ 20200813kx2.zip
                           2020年8月13日
小川 賢 様
                     東京ガス株式会社
                     群馬安中太陽光発電合同会社

              回答書

 平素より、弊社太陽光発電事業への格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 2020年7月23日付「安中市岩野谷地区の安中ソーラー合同会社メガソーラーにかかるご質問」につきまして、以下の通り回答申し上げます。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

【ご質問1への回答】
 東京ガスの100%出資子会社であるプロミネットパワー株式会社が100%出資する群馬安中太陽光発電合同会社(群馬GK) が安中ソーラー合同会社(安中GK) の出資持分を取得しております。その後、群馬GKが安中GKの権利義務を承継しており、当社グループの群馬GKが事業運営を行っております。

【ご質問2への回答】
 安中GKより群馬GKが取得し、現在はプロジェクトに関連する契約は群馬GKが承継し履行しております。地上権設定者への地代お支払いは群馬GKより実施いたします。

【ご質問3への回答】
 本発電所内の土地の所有権、地上権、施設・設備等の管理については事業期間を通して、法令等を遵守し、事業者として適切に運営・管理する所存です。施設・設備の管理については、専門の第三者に委託しております。

【ご質問4への回答】
 第三者との契約内容については大変恐縮ではございますが、秘密保持義務を負っていることから回答を差し控えさせていただきます。貴殿の所有地及び安中市道との境界付近の 管理責任については、地権者として適切に管理し、法令遵守に努めて参ります。

【ご質問5への回答】
 安中GKの発電事業は会社分割により群馬安中GKに承継されており、契約は群馬GKにて履行致します。撤去費は契約に従い、群馬GK によって積み立てられており、今後も継続して参ります。

【ご質問6への回答】
 取得に要した金額がいくらであるかは、秘密保持義務により、大変恐縮ではございますが、回答を差し控えさせていただきたく存じます。本発電所の取得を計画した時期についても同様です。

【ご質問7への回答】
 CO2削減に向けて取り組むことはエネルギー事業者の責務であり、環境に優しい天然ガスの普及拡大と合わせて、再生可能エネルギーの開発を通じた安定的な電力供給も当社の使命と考えております。このような背景の下、本太陽光発電所の取得を決定しております。

                               以上
**********

■ご覧のとおり、当方ができる限り詳しくお答えいただきたいと5ページにわたり7項目の質問への回答を要請したにもかかわらず、たった1ページ半しか答えてくれません。それも、当方が時系列に沿って、わかりやすく、概要を説明したうえで質問しているのに、「秘密保持義務」を連発したり、わざと当方の質問の趣旨をはぐらかしたり、端折ったりしています。

 これでは、まるで、2009年から2013年にかけて地元安中市の磯部から高崎市の下小塙町まで、高圧ガス導管を敷設した際の、横柄な東京ガスの対応を彷彿とさせます。まさに、東京ガスの体質そのものと言えます。

 上記の回答内容だけでは質問との兼ね合いが把握しにくいため、個々の項目の質問と回答を対比させてみましょう。

*****各質問・回答ごとの対比*****
【当会の質問1】
 この本発電所の土地(借地を除く)は、安中ソーラー合同会社という特別目的会社(SPC)が、日刊スポーツ新聞社の子会社から買い取ったものと認識しております。またこのSPCのバックには、代表社員としてグレート・ディスカバリー・ホールディングLLC社(GDH)という米国デラウエア州ウイルミントン市に登録されたペーパー会社がおり、その職務執行者として、東京都港区赤坂2-10-5にある税理士法人赤坂国際会計事務所の山崎亮雄と、香港に拠点を置く香港九龍大角咀ホイファイロード18ワン・シルバー・シー、ブロック7、21階、ルームBのリュー・シャオ・フィの2名が選任されていました。今回、貴社のプレスリリースによると、「アジア・パシフィック・ランド・(ジャパン)・リミテッド社(APL)が運営を行ってきた特別目的会社を通じて『安中市太陽光発電所』を取得しました。」と報じています。
 今回の貴社による一連の取得劇において、貴社、貴社子会社プロミネット・パワー社、SPC、GDH、APL、および後述の三菱UFJ信託銀行、さらに、本発電所の運営を請け負っている鹿島建物の各社がどのように関与してきたのか、その結果、現在どのような立ち位置に各社が置かれているのか、わかりやすく説明をお願い申し上げます。
【東京ガスの回答1】
 東京ガスの100%出資子会社であるプロミネットパワー株式会社が100%出資する群馬安中太陽光発電合同会社(群馬GK) が安中ソーラー合同会社(安中GK) の出資持分を取得しております。その後、群馬GKが安中GKの権利義務を承継しており、当社グループの群馬GKが事業運営を行っております。

←(当会注:この度の突然の買収劇において、有象無象のペーパー会社がどのような役割で蠢いて、その最終的なかたちが東京ガスによる取得という結果になったのか、その過程も訊いているのに、完全無視!)

【当会の質問2】
 一方、地元の菩提寺である念称寺が本発電所内に保有する土地については、寺とSPCとの間で、2016年11月7日付で地上権設定予約契約書が交わされ、2016年4月24日付予約権行使の通知書により地上権の設定が為されています。日付が前後しているのは、国土法違反が発覚して、地上権設定予約契約書の正式締結が遅くなったものと思料されます。
 このことに関連して、2020年1月10日付で念称寺にSPCから差し出された書面によれば、SPCは、本件地上権を2019年12月25日付で受託者である三菱UFJ信託銀行に信託譲渡し、地上権設定予約契約書に定めたSPCの地位・権利・義務を三菱UFJ信託銀行に承継したことが明記されています。SPCは承継後も寺の土地を三菱UFJ信託銀行から賃借しながら、事業を継続し、地代もSPCから支払うとしています。
 こうした事実によれば、プレスリリースで「SPCを通じて太陽光発電施設を取得した」と報じた貴社は、本発電所のどのような権利を誰からどのような条件で取得したのか、わかりやすく説明をお願い申し上げます。
【東京ガスの回答2】
 安中GKより群馬GKが取得し、現在はプロジェクトに関連する契約は群馬GKが承継し履行しております。地上権設定者への地代お支払いは群馬GKより実施いたします。

←(当会注:これも当会の質問にまともに応えようとせず、焦点をはぐらかせています。SPCはこの施設の地上権を三菱UFJ信託銀行に信託譲渡した、と言っているのに、東京ガスはこの施設の何の権利義務を承継したというのか、判然としません。想像するに、どうやら、地上に設置したパネル装置とその下の土地について、三菱UFJ信託銀行が安中ソーラー合同会社から買い取り、それを東京ガスに賃貸で使わせ、FIT制度により高値で売れた電力の販売利益は東京ガスが得るという構図のようです。東京ガスは、それを源資に、念称寺の土地の地代を支払っているということのようです)

【当会の質問3】
 プレスリリースで貴社は「固定価格買取制度の適用期間終了後は、自社電源としての活用を想定しており、年間約5.6万トンのCO2削減に寄与する環境価値のある電力をお客さまにお届けしてまいります。」と言明しています。このことは、FIT制度の適用期間が終了する2040年1月3日(要確認)以降は、引き続き自社電源として本発電所を保有し運用していくことが想定されます。具体的には、本発電所内の土地の所有権、借地の地上権、施設・設備等の管理について、どのようにお考えなのか、わかりやすく説明をお願い申し上げます。
【東京ガスの回答3】
 本発電所内の土地の所有権、地上権、施設・設備等の管理については事業期間を通して、法令等を遵守し、事業者として適切に運営・管理する所存です。施設・設備の管理については、専門の第三者に委託しております。

←(当会注:ここでも東京ガスの回答は曖昧というか、故意に分かり難くさせている感じがします。どうやら土地の所有権はSPC、地上権は三菱UFJ信託銀行、施設・設備等の管理は鹿島建物というくくりのようですが、あらためて確認する必要があると思います)

【当会の質問4】
 質問者は、本発電所に取り巻かれている山林を所有し、そのアクセスとして市道を利用しています。しかし、道路の両側が本発電所の所有地となっていることから、道路管理面で支障の出ることが予想されます。道路管理者である安中市は、認定道路として道路に番号を付与していますが、実際の管理面ではなんの対策も講ずる意図が見られず、やむをえず、唯一の利用者である質問者が道路里親制度等を活用して管理するほかはありません。この件については、本発電所の運営管理業務を貴社が鹿島建物に委託していると思われますが、どのような条件で業務委託をしているのか、分かりやすく説明をお願い申し上げます。
 とりわけ、質問者の所有する山林および道路管理者である安中市が保有するアクセス用市道との境界付近の管理責任について、所掌範囲や責任の明確化等はどうなっていますでしょうか、
【東京ガスの回答4】
 第三者との契約内容については大変恐縮ではございますが、秘密保持義務を負っていることから回答を差し控えさせていただきます。貴殿の所有地及び安中市道との境界付近の管理責任については、地権者として適切に管理し、法令遵守に努めて参ります。

←(当会注:第三者とは鹿島建物のことでしょうが、あえて固有名詞を出さず、隣接地権者である当方に対して、できる限り情報を教えないという東京ガスの徹底した方針を痛感させます。ここで、東京ガスは自ら地権者と明言しています。東京ガスはSPCを買い取ったから土地は自ら所有し(念称寺の土地のように地上権設定された場所は、SPCが支払い、上物のソーラーパネルは、三菱UFJ信託銀行から賃借しているということだと思われます。であれば、東京ガスと当方は隣接地権者同士ということになります。また、本件メガソーラー計画では、三菱UFJ信託銀行が裏で主要なプレーヤーとして動いていたことが今回ハッキリしました)

【当会の質問5】
 本発電所の設置及び稼働に関連して2017年(平成29年)2月24日付で、安中市(群馬県安中市安中―丁目23番13号)、地区住民(安中市岩野谷地区第6区および第7区区長)および事業者の安中ソーラー合同会社(東京都港区赤坂二丁目10番5号赤坂国際会計事務所内)の3者による協定書が締結されました。さらに同日、FIT制度終了後を想定した撤去費の積立及び支出の仕組を構築することを約すとして、安中ソーラー合同会社と安中市の間で覚書が交わされました。この覚書に基づき、安中ソーラー合同会社では、三井住友信託銀行株式会社との間で信託契約が締結され、その具体的な条件は、別途三井住友信託銀行株式会社の指定金銭信託約款及び金銭信託契約特約申込書に従とされました。この覚書に基づき、発電事業(売電)開始日から毎年3000万円ずつが積み立てられ、20年間で6億円の累積積立金が確保されることになります。これらの協定書や覚書は、現在どのように承継されているのか否か、その内容についてわかりやすく説明をお願い申し上げます。
【東京ガスの回答5】
 安中GKの発電事業は会社分割により群馬安中GKに承継されており、契約は群馬GKにて履行致します。撤去費は契約に従い、群馬GK によって積み立てられており、今後も継続して参ります。

←(当会注:会社分割とあるので、額面通りに受け止めると、発電専業のはずの安中ソーラー合同会社が、会社分割により発電事業が群馬安中太陽光発電合同会社に引き継がれたということなのでしょうか。となると、他にもパートナーがいることをうかがわせます。なお、事業終了後のパネルの撤去費はこのSPCが積み立てているとしています。)

【当会の質問6】
 質問者の知る限り、SPCは三井住友信託銀行から150億円の資金を借り入れ、そのうち20億円を日刊スポーツ新聞社に支払い、土地を取得し、残りの130億円を投じて、造成工事と施設・設備設置工事を東芝プラントシステムに請け負わせて、2020年1月18日に完成した本発電所の施設・設備がSPCに引き渡されました。貴社はその僅か25日後に、本発電所を何らかの形で取得されました。
 つきましては、貴社は本発電所の取得のために資金としていくら投じたのでしょうか。また、本発電所の取得について、いつ頃から会社として方針を立て、取得に向けた計画を策定してきたのでしょうか。分かりやすく説明をお願い申し上げます。
【東京ガスの回答6】
 取得に要した金額がいくらであるかは、秘密保持義務により、大変恐縮ではございますが、回答を差し控えさせていただきたく存じます。本発電所の取得を計画した時期についても同様です。

←(当会注:今回の質問の中でも核心に触れる質問なのに、東京ガスはあっさりと秘密保持義務を盾に情報秘匿を決め込んでいます。おそらく取得には200億円は優に投じられたと当方では見ています。あるいは、地上権を設定している三菱UFJ信託銀行から賃借しているので、運転資金面では、さほど一時的に巨額の投資は必要なかったのかもしれません。となると、日刊スポーツ事業から朝日新聞グループ専用ゴルフ場計画跡地を、三井住友信託銀行から150億円(うち20億円が土地代、130億円が発電施設代)の融資を受けて購入し、造成し、設備を設置した安中ソーラー合同会社から、東京ガスの再生エネルギー事業本格参入の為、200億円(当会推測)で取得したのは三菱UFJ信託銀行で、東京ガスはその土地の所有権を買い取り、設備である地上権は三菱UFJ信託銀行から賃借していることが考えられます。ここで思い当たるのは、この事業の為の造成工事が始まったころ、匿名で、この事業の裏にはメガバンクが関与している、との情報提供があったことです。そのため、メガバンク3行に公開質問状を出して、本件事業に関与しているかどうか尋ねましたが、顧客との守秘義務を理由に一切回答拒否をされたことがあります。しかし、そこには三菱UFJ信託銀行の名前が記載されていました。安中ソーラー合同会社には三井住友信託銀行が資金面で関与していましたが、実際には匿名情報が言っていた三菱UFJ信託銀行がこの事業を主導していたことになります。ということは、このメガソーラー発電所計画では、造成工事に着手した時点で、三菱UFJ信託銀行が東京ガスの意向を受けて、完成後早期に取得するシナリオができていた可能性が濃厚だったことになります。まさにマネーゲームに翻弄された日刊スポーツによる朝日新聞グループ専用ゴルフ場計画の構図を彷彿とさせます)

【当会の質問7】
 本発電所の建設に当たり、地元を対象とした説明会で、本発電所の稼働により年間17億円の売電収入が見込めるとの発言が、SPC側からありました。今回、本発電所を取得した貴社として、本発電所の取得を決断された理由にはどのようなものがありますでしょうか。さまざまな理由があると思いますが、それらをすべて教えてください。また、それらの理由について、優先度を付してください。
【東京ガスの回答7】
 CO2削減に向けて取り組むことはエネルギー事業者の責務であり、環境に優しい天然ガスの普及拡大と合わせて、再生可能エネルギーの開発を通じた安定的な電力供給も当社の使命と考えております。このような背景の下、本太陽光発電所の取得を決定しております。

←(当会注:これも、当会の質問に対してまともに答えていません。東京ガスが、関東最大級のこのメガ―ラー施設の完成直後に土地と施設の使用権を取得した背景には、たしかに再生エネルギーを活用した企業イメージ向上と電力事業参入の方針もあるのでしょうが、その一方で、得体のしれないタックスヘイブンのペーパー会社を隠れ蓑にした、いかがわしい香港=中国のファンドマネージャーを巻き込んだマネーゲームに加担し、彼らに多額の利益を与えたことになります。形を変えたハゲタカ・ファンドに我が国の国土を利用され、搾取されたわけですが、東京ガスはそのことをどう考えているのでしょうか)
**********

■ところで東京ガスの100%出資子会社であるプロミネットパワー株式会社が100%出資する群馬安中太陽光発電合同会社(群馬GK) について、調べてみましょう。

○群馬安中太陽光発電合同会社
https://pps-net.org/ppscompany/72722
発電実績:8594千kWH(2020年4月)
住  所:東京都港区赤坂二丁目10番5号 税理士法人 赤坂国際会計事務所内
電話番号:03-4560-8891

○群馬安中太陽光発電合同会社
https://presspage.biz/corporation/3010403021647/
群馬安中太陽光発電合同会社は2019年10月21日に法人番号が指定されました
本店所在地 〒105-0022 東京都港区海岸1丁目5番20号
<基本情報>
称号または名称:群馬安中太陽光発電合同会社
法 人 種 別:合同会社
法人番号指定日:2019年10月21日
更 新 年 月 日:2019年10月25日
代 表 者 名:代表者名はまだ登録されていません
ホームページ :まだ登録されていません
変 更 履 歴:群馬安中太陽光発電合同会社は2019年10月25日に法人番号が公開(一部の情報が更新)されました

○経産省資源エネルギー庁発表「発電事業届出事業者一覧(令和2年7月31日時点)」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/004/list/
番  号:754
事業者名:安中ソーラー合同会社(法人番号 3010403011920)
住  所:東京都港区赤坂二丁目10番5号 税理士法人赤坂国際会計事務所内
電話番号:03-4560-8891
届 出 日:令和元年6月24日

○国税庁「法人番号公表サイト」/安中ソーラー合同会社
https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/henkorireki-johoto.html?selHouzinNo=3010403011920
法人番号:3010403011920
商号又は名称:安中ソーラー合同会社
商号又は名称(フリガナ):アンナカソーラー
本店又は主たる事務所の所在地:東京都港区海岸1丁目5番20号
最終更新年月日:令和2年2月4日
<変更履歴情報>公表以後の変更履歴について表示しています。
No.1
事由発生年月日:令和2年1月30日
変更の事由:本店又は主たる事務所の所在地の変更
旧情報:東京都港区赤坂2丁目10番5号税理士法人赤坂国際会計事務所内
No.2 新規
法人番号指定年月日:平成27年10月5日

○国税庁「法人番号公表サイト」/群馬安中太陽光発電合同会社
https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/henkorireki-johoto.html?selHouzinNo=3010403021647
法人番号:3010403021647
商号又は名称:群馬安中太陽光発電合同会社
商号又は名称(フリガナ):グンマアンナカタイヨウコウハツデン
本店又は主たる事務所の所在地:東京都港区海岸1丁目5番20号
最終更新年月日:令和元年10月25日
<安中ソーラー合同会社の登録履歴>
日付:2020年01月30日
内容:【住所変更】国内所在地が「東京都港区海岸1丁目5番20号」に変更されました。
日付:2015年10月05日
内容:【新規登録】名称が「安中ソーラー合同会社」で、「東京都港区赤坂2丁目10番5号税理士法人赤坂国際会計事務所内」に新規登録されました。
<変更履歴情報>公表以後の変更履歴について表示しています。
No.1 新規
法人番号指定年月日:令和元年10月21日

■上記のとおり経産省のHPには、群馬安中太陽光発電合同会社の住所として未だに「東京都港区赤坂2丁目10番5号 税理士法人赤坂国際会計事務所内」などと記載があります。東京ガスが買い取ったとしていますが、本当にそうなのでしょうか、単に経産省のHPの「群馬安中太陽光発電合同会社」のデータが更新されていないだけなのでしょうか。このあたりも全く明らかになっていません。

 ここはやはり東京ガスに確かめ続けるしかありませんが、一方で東京ガスは地元岩野谷地区の区長会が8月7日に開催されるのに合わせて、10分間ほど、2月に外資から買収したこのメガソーラーの概要について、地元区長らに説明をしました。その内容についてはまだ当会に区長会から報告が来ていません。

 おそらく10分間では詳しい説明は期待すべくもありません。かつて地元岩野谷地区の生活道路の下に東京ガスが高圧ガス導管を強引に敷設した当時、東京ガスは地元の代表区長と結託して協定を交わしていたことが後で発覚しました。

 その当時を彷彿とされる今回の誠意の見えない回答書を読み返すほどに、同社の情報秘匿体質をあらためて痛感しました。それだけに、今後、半永久的に東京ガスとは隣接地権者の関係を強いられることから、先の見えない長い苦労と困難が予想されます。
※参考情報;「東京ガス高圧パイプライン問題」
https://pink.ap.teacup.com/applet/ogawaken/msgcate11/archive

【岩野谷の子ども達の明日を想う会】

※参考記事「東京ガスの群馬安中太陽光発電合同会社」
**********日経BP 2020年08月03日05:00
国内外で「再エネ5GW」、東京ガスのCO2ネット・ゼロ戦略
太陽光、風力、バイオマス電源を開発、獲得へ

■関東最大のメガソーラー
 今年1月、群馬県安中市大谷に関東地方で最大規模となるメガソーラー(大規模太陽光発電所)「安中市太陽光発電所」が運転を開始した。
 ゴルフ場の計画が頓挫した開発跡地を活用し、出力63.2MW分の太陽光パネルを設置した。事業区域約137haのうち約3割を森林とし、残りを造成してパネルを敷き詰めた。東京電力パワーグリッドの系統に送電する最大出力は42.8MWで、固定価格買取制度(FIT)により売電している(図1)。

図1●関東最大のメガソーラー「安中市太陽光発電所」(出所:東京ガス)
 安中市は、世界遺産・富岡製糸場のある富岡市に隣接するなど養蚕業で栄え、いまでも安中市には国内最大の製糸工場が操業している。市内にはかつて多くの桑畑があった。メガソーラーのあるエリアも、かつては桑園に囲まれた小高い丘陵だった。
 完成した「安中市太陽光発電所」には、北側に複数の調整池があり、緩やかな北向き斜面になっている。そこにパネル4段(枚)のアレイ(パネルの設置単位)を整然と並べている。パネルを設置できない急な法面を極力減らして緩斜面を段状に造成し、巧みに設置枚数を増やした。造成面積は約92haとなり、盛土と切土による土量は327万7000m3に達した。
■5GWの再エネ獲得を目指す
 大掛かりな造成を伴うことが多い大規模なメガソーラー開発は、相対的に用地コストの低い北海道や東北、中国、九州地方がほとんど。現在、国内で稼働済みのメガソーラーの設備規模で、関東地方にある60MWを超えるサイトは「安中市太陽光発電所」だけだ。
 一方、FITを利用する再生可能エネルギー電源は、買取期間が終了した後、発電電力を相対契約で販売することになる。将来まで見通すと、巨大な首都圏の需要地に地域間連系線を経ずに売電できる関東地方のメガソーラーの価値は高い。
 東京ガスは今年2月、「安中市太陽光発電所」が運転を始めてから約1カ月後、こうした将来性などを評価して、同発電所を取得したことを発表した(図2)。

図2●東京ガスが取得した「安中市太陽光発電所」(出所:東京ガス)
 「安中市太陽光発電所」を開発したアジア・パシフィック・ランド・(ジャパン)・リミテッド(東京都港区)の運営してきた特別目的会社(SPC)安中ソーラー合同会社を通じ、東京ガスグループのプロミネットパワー(東京都港区)が取得した。
 東京ガスは、これにより関東圏で大規模な再生可能エネルギー電源を持つ、数少ないエネルギー企業の1社になった。同発電所の取得により、東京ガスの国内における再エネの運営規模は100MWを超えた。
 それでも、今回の再エネプロジェクトの買収は、同社の掲げる再エネ戦略のほんの序の口に過ぎない。
 同社グループは、2019年11月に発表した中期経営計画「Compass2030」の中で、再エネ電源に関する目標を掲げ、国内外で「5GW(5000MW)」とした。2022年度までに2GW、そして2030年度までに5GWの再エネ電源を確保することを目指す。この目標を達成するには、関東最大の「安中市太陽光発電所」規模の発電所が実に80個も必要になる(図3)。

図3●2030年度までに再エネ電源「5GW」を目指す(出所:東京ガス・中期経営計画「Compass2030」)
 同社では、メガソーラーのほかバイオマス発電、そして、洋上も含めた風力発電を主体に、「安中市太陽光発電所」のような稼働済みプロジェクトの獲得のほか、開発段階から関与して新規案件を発掘することで、「5GW」の達成を目指している。
■CO2ネット・ゼロ戦略
 こうした再エネ電源の積極的な獲得戦略の背景には、同社が「Compass2030」で掲げた「CO2ネット・ゼロ」への挑戦という経営ビジョンがある。具体的には、「東京ガスグループの事業活動全体で、お客さま先を含めて排出するCO2をネット・ゼロにすることに挑戦し、 脱炭素社会への移行をリードする」と明記した。
 「ネット・ゼロ」とは、再エネなどの環境価値を使って化石燃料によるCO2排出を相殺(カーボンオフセット)することを意味する。同社では、基幹商品である都市ガスなどガス体エネルギーそのものが「脱炭素」に移行できるのは2050年頃と見ており、それまでは、天然ガス由来のガス販売事業で客先から発生するCO2を、自社の持つ再エネなどの環境価値(CO2クレジット)で相殺することで脱炭素を達成するとの道筋を描いている(図4)。

図4●東京ガスが掲げる「CO2ネット・ゼロ戦略」(出所:東京ガス・中期経営計画「Compass2030」)
 ここ数年、世界では風力と太陽光発電の低コスト化によって、電力事業の脱炭素化が急速に進み始めた。一方で、残された化石燃料として、ガス体エネルギーの脱炭素化への模索が始まっている。欧州などで注目されている「P2G」(パワー・ツー・ガス)もその1つで、再エネで水を電気分解して製造した水素や、CCS(CO2回収・貯留)を組み合わせて化石燃料から取り出した水素を活用したり、それを原料にメタンを製造したりするメタネーションの実証的なプロジェクトが動き始めている。
 東京ガスでは、P2Gによる水素製造やメタネーションなどの技術が商用ベースに乗り、ガス体エネルギーの脱炭素が進む前に、環境に配慮する先進企業による「脱炭素」のニーズが顕在化すると予想する。こうした動きに対応し、環境価値によるCO2排出の相殺という「ネット・ゼロ戦略」を打ち出した(図5)。

図5●東京ガスが掲げる「CO2ネット・ゼロ」へのロードマップ(出所:東京ガス・中期経営計画「Compass2030」)
 7月21日に米アップルは、2030年までに同社製品のサプライチェーン、ライフサイクル全体を含めて、CO2「ネット・ゼロ」を達成すると発表した。こうした動きが、国内外の先進企業に広がった場合、再エネ電源やその環境価値を巡り争奪戦になる恐れもある。そうなれば、自社で大量の再エネ電源を持っていることが有利になる。エネルギー企業にとって、再エネ電源を大量に獲得しておくことが、経営リスクに先手を打つことになる。
■カーボンニュートラル都市ガス
 東京ガスは今年3月、初めて「カーボンニュートラル都市ガス」の販売に乗り出した。地域熱供給会社である、丸の内熱供給(東京都千代田)を通じて、都内のオフィスビル2棟(丸の内ビルディング、大手町パークビル)に提供し始めた。
 「カーボンニュートラル都市ガス」とは、東京ガスが英蘭国際石油資本・シェルグループから購入した「カーボンニュートラルLNG(液化天然ガス)」を原料に製造したもの。天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生するCO2を、シェルの保有する環境価値で相殺している。
 両ビルでは、ガスを燃料にしたコージェネレーション(熱電併給)システムによって電気と熱を供給している。東京ガスは、それぞれで使用する都市ガスの全量について、「カーボンニュートラル都市ガス」を使用する(図6)。

図6●都心の2つ商用ビルに「カーボンニュートラル都市ガス」を供給(出所:東京ガス)
 さらに今年4月から、工業用向けにも初めて「カーボンニュートラル都市ガス」の供給を始めた。堺化学工業の小名浜事業所・松原工場で使用する都市ガスの全量を「脱炭素」製品に切り替えた。
 また、東京ガスは、ガスに並ぶ柱として参入し、着実にシェアを上げている小売電気事業でも、今年7月に環境価値を活用したサービスに乗り出すと発表した。
 大東建託グループの首都圏における56事業所に「トラッキング付FIT非化石証書を用いた実質再生可能エネルギー電気」を供給する。8月までに切り替えを完了する予定。
 「トラッキング付FIT非化石証書」とは、FITによる再エネの環境価値を特定の再エネ電源と紐づけした形で活用できる仕組みで、再エネ利用を促す国際イニシアチブ「RE100」など国際的な基準にも適合して「実質的に再エネ利用」と認められる。
■FIT後の再エネ市場を牽引
 昨年12月、再エネ発電事業者の新しい業界団体として一般社団法人・再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(=REASP・東京都港区)が設立された。発起メンバーは、再エネ開発ベンチャーのリニューアブル・ジャパン(東京都港区)のほか、東急不動産、ENEOS、オリックス、そして東京ガスが名を連ねた。
 同協会の会長理事である、リニューアブル・ジャパンの眞邉勝仁社長は、「国内の再エネ市場は、FIT後を見据えて、新たな段階に入りつつある」とし、大きな変化として、「旧・一般電気事業者や石油・ガス分野の大手企業が、再エネの新部署や新会社を立ち上げて急速に再エネに投資し始めている」ことを挙げる。
 「こうしたエネルギー大手の再エネへの取り組みは、単なる『投資』ではなく、発電事業者として設備を持ち続け、FIT後の長期運用を前提にしている。企業規模も大きく経営力もあるこうした大手資本が、本気で再エネに乗り出したことで、もう1段、もう2段の再エネ拡大が十分に可能になりつつある」と見ている。
 そして、「本気で再エネに乗り出した大手エネルギー企業」の1社が東京ガスだ。REASPの発起メンバーになったのも、同協会の趣旨である、「FITを乗り越えて、さらに再エネを大量導入し、長期安定電源として運営していく」という方向性と一致しているからだ(図7)。

図7●再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)のホームページ(出所:REASP)
■提携戦略でキャッチアップ
 2012年7月にFITがスタートして以降、国内でメガソーラー開発を中心的に担ってきたのは、ICT(情報通信)系企業や商社、リース、ベンチャーなど、これまで直接、エネルギー事業に携わっていなかった異業種からの参入組だった。
 逆に言うと、国内エネルギー大手企業は、再エネ大量導入の不可逆的な流れを読み切れず、FITを追い風にしたメガソーラー開発合戦に乗り遅れたとも言える。東京ガスは、こうした再エネ開発の第1ステージでの後れを取り戻すべく、再エネで先行する企業との提携によって「時間を買う」戦略を進めている。
 2017年2月に自然電力(福岡市中央区)に出資したうえで、業務提携契約を締結し、太陽光発電事業を共同で開発すると発表した。契約に基づき、可能な限り早期に合計出力60MWを目標に、太陽光発電所の開発を目指すと公表した。
 さらに2018年5月には、東京ガスと、東京センチュリー、九電工の3社共同で再エネ事業を取得・開発・運営することで基本合意書を締結した。最初の取り組みとして、九州にあるメガソーラー6カ所・約10MWの稼働済み案件を共同で所有した。
 自然電力との連携の成果は、2019年12月に公表した。東ガス子会社のプロミネットパワーが、石川県にメガソーラー2件を建設し、商業運転を開始した。契約に基づく最初のプロジェクトで、東京ガスグループが建設から手掛ける初の太陽光発電所になった。
 同県志賀町の「志賀町猪之谷貯水池太陽光発電所」は出力約2.6MW。また、羽咋市の「羽咋市新保町太陽光発電所」は約2.7MW。両発電所ともEPC(設計・調達・施工)サービスは自然電力グループのjuwi自然電力(東京都文京区)が担い、JAソーラー製のパネルと、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製のパワーコンディショナー(PCS)を採用した(図8)(図9)。

図8●「志賀町猪之谷貯水池太陽光発電所」(出所:東京ガス)

図9●「羽咋市新保町太陽光発電所」(出所:東京ガス)
  東京ガスでは、プロジェクト開発や買収にあたっては、20年のFITによる売電期間が終了した後も、十分に事業を継続できるだけの耐久性や信頼性を条件としている。冒頭紹介した「安中市太陽光発電所」は、東芝プラントシステムがEPC(設計・調達・施工)サービスを務め、太陽光パネルは東芝製、PCSはABB製を採用している。
 東芝プラントシステムのほか、再エネ開発で連携している九電工、juwi自然電力は、国内メガソーラーのEPCサービスでは、いずれもトップクラスの実績を持っている。
 東京ガスは、こうした提携企業と連携しつつ、今後ともメガソーラープロジェクトの開発案件を積み重ねていく方針だ。
■洋上風力、海外事業で飛躍
 太陽光以外では、すでにバイオマス発電事業への参画を発表している。3月24日にレノバが宮城県石巻市で計画している木質バイオマス発電事業に出資すると公表した。
 定格出力約75MWで、FITにより売電する。主燃料に北米産の木質ペレットを、補助燃料にインドネシアおよびマレーシア産のパーム椰子殻(PKS)を利用する。EPCサービスは、日揮ホールディングスが受注している。2023年5月に運転を開始する予定(図10)。

図10●石巻ひばり野バイオマス発電所の完成予想図(出所:レノバ)
 さらに7月21日には、食品残渣を利用したバイオガス発電に参画すると発表した。JFEエンジニアリングの子会社であるJ&T環境(横浜市)とJR東日本、東京ガス、JR東日本の関連会社である東北鉄道運輸(仙台市)の4社による共同事業になる。
 1日最大40tの食品廃棄物をメタン発酵させ、発生する可燃性ガスを燃料に、出力780kWの発電設備を稼働させる。2022年春に営業を始める予定だ。
 バイオマス発電は、太陽光に比べると安定的に発電できるという利点があるものの、開発できる規模に限界がある。「5GW」の達成に柱になるのは、国内では洋上風力、そして、海外での大規模な再エネプロジェクトへの参画になりそうだ。
 東京ガスはすでに茨城県鹿島港の港湾区域での洋上風力開発プロジェクトに参画し、運営会社に15.6%出資している。洋上640haの面積に36基もの風力発電設備を設置し、合計出力187MWを予定している。
 洋上新法(再生可能エネルギー海域利用法)による開発プロセスが動き出した一般海域での洋上風力に関しても取り組んでおり、特に遠浅海域の少ない日本で潜在的な開発ポテンシャルの大きい浮体式洋上風力の可能性を積極的に探っている。
 今年5月27日には、洋上風力向けの浮体基礎システムの技術を開発・保有するプリンシプル・パワーに20億円を超える出資を行ったと発表した(図11)。

図11●プリンシプル・パワーの洋上風力向けの浮体基礎システム(出所:東京ガス、提供:プリンシプル・パワー)
 一方、海外では、2019年4月にフランスのエネルギー事業者Engieと共同で、メキシコの再エネ開発を推進すると発表した。100%子会社の東京ガスアメリカを通じて、Engieが設立した共同開発運営会社の株式を50%取得した。共同会社は、2つの陸上風力と4つの太陽光発電プロジェクトに取り組んでおり、6プロジェクトの合計出力は900MWに達する(図12)(図13)。

図12●東京ガスが関与するメキシコでの風力発電(出所:東京ガス)

図13●東京ガスが関与するメキシコでのメガソーラー(出所:東京ガス)
 さらに東京ガスは7月29日、東京ガスアメリカが、米再エネ開発事業者のヘカテエナジーがテキサス州で開発を進めている出力630MWのメガソーラープロジェクト「アクティナ太陽光発電事業」を取得すると発表した。
 同事業は、2020年度上期に着工し、2021年度中に段階的な商業運転を開始する予定で、建設から運転開始後の事業運営までを東京ガスグループ主導で手掛ける初めての海外太陽光発電事業となる。
 これにより、海外と国内の再エネ事業を合わせると、これまでに1.2GWを超える規模になる予定という。
 国内の大手再エネ開発事業者は、FITによって再エネプロジェクトの開発を積み重ね、シェア上位企業は1GWの水準に達している。「ギガプレーヤー」が再エネ業界のリーディングカンパニーの目安になる中、5GWを目標に着々と布石を打っている東京ガスの存在感が増していくことになりそうだ。
(金子 憲治=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ)
**********

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【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】第一次訴訟で当会が原告準備書面(2)提出…機構は準備書面無し!?

2020-08-16 23:22:00 | 群馬高専アカハラ問題
■国立高専校長の選考実態、群馬高専J科アカハラ情報不開示取消訴訟の弁護士費用、長野高専連続自殺の発生年月日などなど、高専組織が執拗に黒塗りにこだわる「都合の悪い」情報は枚挙にいとまがありません。こうした悪質な情報黒塗りの数々のいくつかをピックアップして不開示処分の取消しを求めた第一次訴訟(令和元年(行ウ)第515号)では、既報のとおり被告高専機構側もなりふり構わぬ抵抗を見せています。

 その第一次訴訟では、4月6日に被告高専機構側の準備書面(2)が出された直後、新型コロナ騒動での予期せぬ中断に遭ってしまいました。その後なんとか再開し、7月7日に第3回弁論が開かれました。森裁判長は、原告・被告双方に、追加主張があれば8月13日までに提出するよう指示し、8月20日の第4回口頭弁論で結審する可能性が高いことを示唆しました。

○2020年4月12日:【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】銀座弁護士の本気?第一次訴訟で被告高専機構が準備書面(2)を提出
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3148.html
○2020年7月9日:【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】七夕の第一次訴訟第3回弁論報告&第二次訴訟の再開通知到来!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3180.html

■原告当会としては、雇い主の高専機構と裁判所に尻を叩かれる形で銀座の田中・木村法律事務所が出してきた分量だけのお粗末な準備書面(2)を吟味し、原告準備書面(2)として余すところなく杜撰な点を指摘していくことにしました。

 指定された提出期限である8月13日当日、刷り上がった原告準備書面(2)および附属書類を東京地裁民事第2部窓口に現地提出するため、当会担当者が東京に向かいました。

■その2日前は群馬県伊勢崎市・桐生市で、今年全国初の40℃超えを記録し、前橋市でも最高気温39.8℃を記録する猛暑日でした。そして13日も、2日前のように記録的なレベルには至らないものの、引き続き前橋で最高気温35.9℃を観測する猛暑でした。この日は、昼前に迎え盆を済ませましたが、帰宅するやいなや汗だくの服を着替えて、高崎駅に向かい、腹ごしらえをしてから午後1時37分発の上越新幹線とき364号に乗車しました。

 お盆休みのうえに新型コロナの感染再拡大もあり、車内はガラガラでした。大宮までノンストップの為、東京駅に着いたのは午後2時28分でした。さっそく丸ノ内線に乗り換え、午後2時39分に霞ヶ関の駅を降りて地上に出ると、久しぶりに、裁判所の塀のところに、「植え込みの一部が道路にはみ出している」と書かれた抗議のプラカードが掲げてありました。

 不当裁判の被害にあったかたがたの心境は実によく分かります。当会もこれまで数えきれないほどの住民訴訟を提起してきましたが、ほとんど9割9分は敗訴を強いられてきたからです。これまで勝訴できた事案は、談合事件と情報不開示取消訴訟くらいです。その数少ない勝訴の実績を引っ提げて、この日、原告準備書面(2)と附属書類を携えながら、裁判所の玄関をくぐりました。

 玄関にある手荷物検査エリアの手前で、感染対策のアルコール消毒液を手にかけて、もみ手をしながら中にはいりました。検査エリアでは手荷物のX線検査と、金属探知ゲート通過による身体チェックを受け、チェック前に渡された手荷物の番号札を係員に渡して、準備書面の入ったカバンを受け取りました。

■東京地裁の民事第2部は10階の北側(法務省側)にあります。通路を北に向かって歩いてゆくと一番奥の左側に民事第2部と民事第38部があります。そこを入ると正面に民事第2部の窓口があります。コロナ感染予防対策として、窓口には、上からビニールフィルムがだらりと垂れ下がっています。昼下がり、他には誰もいないため、番号札も不要で、窓口に立つと直ぐに女性書記官が応対してくれました。

 予めカバンから取り出しておいた原告準備書面(2)正本と証拠説明書正本及び甲号証一式をダブルクリップでひとまとめにして入れておいた封筒を開け、中から、おもむろに書類を取り出して、ぶら下がったビニールの下端を手で払いのけながら、書記官の前に差し出しました。当会担当者から「今日が書面の提出期限日なので直接うかがいました。来週20日に弁論でお世話になります」と話しかけたところ、「はい、承知しております。わざわざご苦労様です」とねぎらっていただきました。

東京地裁庁舎総合案内図

■当会担当者が、「なお、副本については、これから地下1階の郵便局から被告訴訟代理人の弁護士事務所に郵送しておきます」と告げると、書記官は「承知しました」と言い、当会担当者が「それでは、来週お目にかかります」と告げると、書記官は頷いて、当会が提出した書類を手にして席に戻っていきました。

 さっそくすぐわきにあるエレベーターで地下1階に直行し、郵便局を目指しました。中に入って、備え付けの机の上で、副本の入った封筒を取り出しました。予め住所を記載済みだったので、ダブルクリップで止めてある書類が中にあることを確認したうえで、備え付けの糊を使って封筒の口を封印し、「きって・はがき」窓口前の列に並びました。ここでも他の郵便局と同様に、床にフィジカルディスタンスの離隔距離を考慮した立ち位置がマーキングされており、その上で、前に並ぶ2人ほどが手続きを終えるのを待ちました。

 待つこと2分ほどで当会担当者に順番が回ってきたので、封筒を提出し「特定記録郵便でお願いします」と告げました。担当の男性職員は手際よく処理してくれ、渡された受領証と領収書をみると、ちょうど午後3時の記録が印字されていました。こうして東京地裁民事第2部と被告高専機構の訴訟代理人弁護士への準備書面提出を完了しました。

■原告当会が8月13日に提出した第一次訴訟の原告準備書面(2)の内容は次のとおりです。

*****原告準備書面(2)*****ZIP ⇒ 20200813iqj.zip
令和元年(行ウ)第515号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告  市民オンブズマン群馬
被告  独立行政法人国立高等専門学校機構

               原告準備書面(2)
                          令和2年8月13日
東京地方裁判所民事第2部Bc係  御中

                     原告  市民オンブズマン群馬     
                     代表 小川 賢

                   記

 令和2年4月6日付け準備書面(2)(以下「被告準備書面(2)」)での被告側主張に対し,原告として以下反論する。

1 訴状別紙1項にかかる主張について
 (1)被告は,被告準備書面(2)1項において,甲3号証の国立高等専門学校長候補者一覧の記載項目名およびその簡単な概要と性質(以下「記載項目名等情報」)を初めて原告に対し明らかにした。この記載項目名等情報について,やはり明らかにしないことが妥当と判断されるような要素は認められず,現に被告は記載項目名等情報を明らかにできたわけだから,本決定のみならず答弁書や被告準備書面(1)においてまで被告が記載項目名等情報を明かさなかったことについて,正当な根拠は一切存在していなかったと結論するほかない。したがって,訴状のとおり,まず個別の項目名等については本決定の不開示を取り消して開示とすることが妥当である。
そして本決定時点において記載項目等情報が明かされておらず,そのために本件提訴時点では個別の項目について不開示妥当性を検証することが不能とされており,本件係争中にようやく記載項目等情報が明らかとされたことに鑑みれば,行政事件訴訟法第7条および民事訴訟法第64条の規定に基づき,訴状別紙1項にかかる請求に関しては,判決における認容度合いに一切かかわらず被告はその請求分について訴訟費用を全額負うべきである(この点,被告は答弁書において争うとしながらも,とくに反論は見当たらない)。
   付言すると,被告は,本決定に先立って,国立高等専門学校長候補者一覧に関し同様の不開示決定をした際(甲35),記載項目名は明らかにすべきであるとの原告の要請を組織として明確に拒否している(甲36)。このことからすれば,記載項目等情報を明かさなかったことについて,やむをえない過失であったということはできない。

 (2)被告準備書面(2)1項において被告が記載項目名等情報をはじめて明らかとしたので,これら各項目について不開示妥当性をあらためて検討する。

ア 原告が訴状において認めているとおり,甲第3号証の国立高等専門学校長候補者一覧の記載項目のうち,候補者の氏名が候補者を特定する情報として独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という)5条1号前段の個人識別情報に該当することについては,争わない(そもそも請求にない)。なお,生年月日もこれに準ずる。

イ 被告は,被告準備書面(2)1項(2)の結論として,学歴,学位,専門分野,職歴,現職に関する記載の5点が個人識別情報に該当する旨主張する。
ところが,被告は直後の被告準備書面(2)1項(3)において「たとえば整理Noや職歴のうち現職に関する記載,推薦機関の種別のみを開示した場合には,個人を特定できる可能性は低いものの」などとし,現職に関する記載について個人識別情報にあたらないことを自ら認めていることがうかがえる(同一準備書面の同一項内で主張が自己矛盾を起こしているのは理解に苦しむものである)。
  また,被告が被告準備書面(2)1項(2)において上記5点の個人識別情報該当性を主張するにあたり,その理由を説明するところによれば,「このため,氏名を不開示として学歴や職歴,専門分野のみを開示した場合でも,(中略)該当の候補者を特定することが容易に可能となる。」とあり,学位および現職に関する記載について特に言及がないのは明らかである。現職に関する記載が個人識別情報に該当しないことは(上で指摘したとおり)被告自身認めるところであり,また,学位というのはたとえば一般的に「工学修士」や「理学博士」といったものであり,個人識別性は認められない(仮に個人識別性を生じる箇所があれば,法6条に基づきその部分を区別して開示すればよい)から,学位および現職に関する記載は法5条1号前段の個人識別情報に該当せず,開示が妥当である。

ウ 被告は,被告準備書面(2)1項(3)の結論として,整理No,主な学歴,学位,専門分野,職歴や現職(被告に所属する者の場合には現在の所属先),推薦機関の種類別といった項目が,法5条4号への不開示情報に該当する旨主張する。
  しかしそのうち,被告準備書面(2)1項(3)で被告が新規に該当性の理由を説明するのは整理No,現職に関する記載,推薦機関の種別の3点のみであり,その余の項目については,「学歴,経歴といった個人に関する事項が開示される場合はもちろん,(中略)候補者が推薦の内諾を拒否するといった事態が生じることも考えられる。」とごく短く言及されるにとどまる。その記述から解釈するに,個人識別情報であれば同時に法5条4号へも満たし,かつ,上にいうその余の項目の個人識別性は被告準備書面(2)1項(2)で既に示していると被告が考えていることがうかがえるが,これらのうち学位および現職に関する記載が個人識別情報に該当しないことは前項イで指摘したとおりである。

エ 被告は被告準備書面(2)1項(3)で,整理No,現職に関する記載,推薦機関の種別の3点が,個人識別情報ではないながらも,これらを開示した場合,校長に就任しなかった候補者の構成を推測することが可能となり,そのため推薦機関が候補者の推薦について消極的となってしまうおそれがあることから,被告の円滑な人事に支障をきたすものとして法5条4号へ該当性を主張するようである。
  しかしまず,「校長に就任しなかった候補者の(推薦機関の)構成が判明する」ことと,「推薦機関が候補者の推薦に消極的になる」ことにいったいどのような連関があるのか,被告はこの点一切説明しておらず,主張根拠がまったく不明である。
  なお,高等専門学校校長となる資格は,高等専門学校設置基準(昭和三十六年文部省令第二十三号)第10条の3においては「人格が高潔で,学識が優れ,かつ,高等専門学校の運営に関し識見を有する」とされており(甲37),また被告自身が被告による校長候補者の選考基準も,被告自身が甲8号で説明するとおり,「教育,研究,社会貢献に係る実績・能力,組織の長としての実績・経験・能力,職務に対する意欲・熱意」とされている。
  すなわち,候補者本人の純粋な実力や資質のみをみて公平に選考が行われることは言うまでもなく,候補者や推薦機関においても当然このことは了解済みと解される。したがって,推薦機関やその種別が選考上において加味され,特定の候補者に有利または不利に作用するということは有り得ず,候補者や推薦機関もそのことを了解しているのは明らかな以上,校長に就任しなかった候補者の構成といった情報が明らかとなることで,推薦機関が候補者の推薦に消極的になるという被告の危惧は,著しくその根拠を欠いたものと言わざるを得ない。
  また,被告は同様の理由で,候補者が推薦の内諾を拒否するといった事態が生じるおそれもある旨主張するが,そのようなおそれが生じ得ないことは上記指摘のとおりである。
加えて,国立高等専門学校長候補者の募集は,候補者となる者が推薦機関を通じ主体的に応募する性質のものであり,その際に当該応募人が推薦機関に推薦を依頼するものであって,推薦機関が有望な人物に主体的に接触し,推薦されてもらえないか打診する性質のものではない。したがって,「候補者が推薦の内諾を拒否する」などという,原理的にまず生じ得ない事態を理由に挙げる被告の主張は,率直に理解に苦しむものである。
  以上から,整理No,現職に関する記載,推薦機関の種別が法5条4号へに該当するという被告の主張は失当であり,開示が妥当である。

オ 被告は被告準備書面(2)1項(4)において,甲第3号証の一覧表は,被告が各推薦機関から提供された校長候補者の学歴,職歴等の事項のすべてを記載したわけではなく,提供された情報のなかから校長の選定の考慮要素として主要と考えられる事項を整理して記載したものである旨主張するが,常識としてこうした一覧表に,たとえば提出された履歴書の記載をぜんぶ余さず記載するといったことがあり得ないのは当然であり,「主要と考えられる事項」すなわち記載項目については被告が被告準備書面(2)1項(1)において現に明らかにしたのだから,被告のこの主張には何ら意味がない。
  また被告は,推薦機関ごとに記載事項に細かい差異があることも理由に,法5条4号へ該当性を主張するようである。この真偽については原告において検証不能であるが,一覧表の性質からいって,学位,整理No,現職に関する記載,推薦機関の種別等項目については,推薦機関に関わらず普遍的に記載されているとみるのが妥当であり,これら共通事項を開示することで選考基準が明らかになるとは思われない。したがって,これら4つの項目については,開示することが妥当である。

カ 被告は被告準備書面(2)1項(5)において,全候補者数を開示しようとすれば推薦機関別の候補者数を容易に推測できることになることを理由に,校長の選考という人事管理に支障を生じるおそれがある旨主張するが,推薦機関それ自体は校長の選考要件となっていないことは原告が前項で指摘したとおりであり,推薦機関別の候補者数を明かしても被告内部における校長選考の具体的基準といった機微にかかる情報を明かすことにはつながらないのは明らかである。よって,法5条4号へ該当性を主張する被告の主張には理由がない。

キ 加えて,そもそも,甲第3号証の国立高等専門学校長候補者一覧に記載のある人物のうち半数程度は,選考に合格し最終的に国立高等専門学校長に就任した者にかかるものであって,それらの者の氏名,生年月日,学位,学歴,専門分野,職歴等はすべて公開情報となっている(甲38)。したがって,これらの者に関する情報が法5条1号イに定めのある公知情報であることは明らかであり,被告は法6条の部分開示規定に則り,これらの者に関する情報について一切開示すべきである。(被告は本決定においてそうした情報も不開示としており,その点においても過失が認められる)

(3)以上から,訴状別紙の1にかかる請求について,被告準備書面(2)1項で新規に明らかとされた情報を踏まえ,改めて以下の請求が認容されるべきである。

・記載のある者のうち,選考通過者にかかる情報については,その一切の開示。
・記載のある者すべてについて,整理No,現職に関する記載,推薦機関またはその種別,学位の開示。
・訴状別紙の1にかかる請求分の訴訟費用について,被告がその全額を負担すること。

2 訴状別紙2項にかかる主張について
(1)被告は,被告準備書面(2)2項(1)において,「原告が別紙2項で取消を求めているのは,甲第4号証の群馬高専元校長の西尾典眞氏の印影及び退職理由に関する被告の不開示決定である。」などとしているが,印影にかかる不開示決定の取消は原告の請求にない。

(2)被告は,被告準備書面(2)2項(2)において,「甲第4号証の退職届は,被告との雇用契約を終了するという被用者としての意思を表示したものであって,この意思表示は,退職理由のいかんにかかわらず被用者の個人としての行為であることは明らかである。」などと主張し,訴状別紙2項にかかる情報が法5条1号但書ハに該当しない,とする。
   しかしこの主張は,西尾氏のかかる人事を,あたかも所属組織の関知しないまま独立した個人の意思で行われる一般的な転職行為であるかのように扱った詭弁であり,実際には被告自身が出向であったと認めるとおり,組織間の都合と命令で行われ個人としての意思が一切介在しないものであったのは明らかである。西尾氏が,群馬高専校長退職時,何らかの個人的な事情により,自発的にその意思で被告からの退職を思い立ったのであれば,退職の意思表示は個人に属する情報であると解されることは原告においても認めるところであるが,被告はかかる人事がそうであるとは説明していない。
   甲第4号証の退職届にかかる人事は,被告と文科省双方の人事の連携のもとおこなわれ,その際,何らかの内示ないし職務命令によって西尾氏が退職届の作成も含めた形式的作業(以下「退職行為」)を命じられていたことは明らかである。(そうでないのであれば,被告は,被告ないし文科省が西尾氏に退職行為を命じた事実がないこと,むしろ退職行為が西尾氏の独立した意思によるものであること,を説明しなければならない。)また仮に,西尾氏が被告に在籍していた時,形式的に文科省の所属から一旦離れているにせよ,今度は独立行政法人である被告の一員としての性格を帯びることは当然である。また,退職行為の命令が私人としての西尾氏に宛てられたものでないことも明らかである。
   したがって,退職行為は,仮に形式上西尾氏の身分に関する行為であっても,文科省職員ないしは独立行政法人である被告の一員としての担当職務のひとつとしての性格を帯びており,当然甲第4号証の退職届はその遂行にかかる情報というべきであるから,開示は妥当である。

3 訴状別紙3項にかかる主張について
(1)被告は,被告準備書面(2)3項の(2)において,甲5号に記載のある補助職員のうち群馬高専各学科所属の者について,退職時の所属や職名のみを開示した場合でも,群馬高専内外の者に,当該所属や職名が誰に関する記載であるか容易に特定することが可能となるため,法5条1号本文前段の個人識別情報に該当する旨主張する。
   しかし,同僚等学内関係者にとって新たに「容易に個人を特定することが可能」になる状況が成立すること自体が有り得ないのは原告準備書面(1)3項①で指摘したとおりであるが,被告はこの点一切言及せず,法5条1号本文前段の不開示情報に該当すると繰り返すに留まる。また,学外の者からも特定が不可能もしくは著しく困難であることも,訴状4項および原告準備書面(1)3項①で原告が再三指摘のとおりであるが,被告はこの点も一切触れないまま,群馬高専外部者からの特定可能性を無根拠に主張し続けている。
   また,上記の被告の主張は,文面のとおり群馬高専の補助職員のうち各学科所属の者に限って適用されうるものであり,その他の部署に所属の補助職員に関する退職時の所属や職名のみの情報について,法5条1号本文前段の個人識別情報に該当する旨の主張は一切ないから,議論の余地なく開示が妥当である。
   なお,人事前後の「所属」と「職名」のうち群馬高専における「職名」のみを分離して開示することも容易であったのは甲32号証を見ても明らかである。この場合は被告の主張をすべてそのまま採用しても法5条1号本文前段には当たらないから,最低でも法6条に基づいて被告はこうした措置を取ることが可能であったはずのところ,被告は全面不開示としたことも指摘しておく。

(2)被告は,被告準備書面(2)3項の(2)ないし(3)において,国立印刷局編「職員録」(以下「職員録」)への掲載有無を,教職員にかかる情報の開示内部基準としており,職員録への掲載のない補助職員(技術補佐員含む)は氏名や所属を公にする慣行はなく,法5条1号ただし書イに該当しない旨主張する。
   しかし,職員録は被告が独自に基準として用いているだけの参照資料であり,そこへの記載の有無と,その他に慣行として公にしている事例があるかどうかに,何ら連関がないことは自明であり,被告のこの主張はその意図を図りかねるものである。事実,技術補佐員に関しては甲10ないし11,甲33のような公表慣行の存在を原告が指摘しているにも関わらず,被告はこの点一切言及していない。
   なお原告は,答弁書に事実と異なる主張が多数含まれていることを原告準備書面(1)3項②において指摘したが,被告からこの点への言及や反論は見当たらないから,答弁書4項(2)における主張に事実誤認が多数含まれていることに疑問の余地はない。

(3)また被告は,被告準備書面(2)3項(3)において,技術補佐員の退職挨拶の掲載は慣行の扱いではなく,法5条1号但書イに該当しない旨説明する。
   しかし,かかる主張が採用されてしまうと,たとえば今後,公表が事実上の慣行と認められる程度で行われていても,開示実施機関がたんに個別事例の積み重ねに過ぎないと強弁すれば不開示とされてしまうといったことが認められてしまうのであり,法に基づいた国民の利益が不当に侵害されてしまうおそれがある。なお,法5条1号但書イの「慣行として公」とは,事実上の慣行であれば足り(甲39),被告がそれを慣行として捉えているか,もしくは個別事例の集合と捉えているかには左右されない。あわせて被告は,年報以外でも(技術補佐員の)異動や退職を群馬高専の外部に公開していない旨主張するが,甲10のようなHPや,甲11および甲33のような年報における職員氏名一覧の掲載状況を追跡することで異動や退職といった人事状況も事実上の公表情報として把握できるのであり,人事内容を直接公表している必要はない。特に被告は,甲10に示した氏名等情報のHP掲載事実と,その推移から人事情報が把握可能である事実には一切触れておらず,仮に年報の記載を公表慣行と認めないにしても,依然として公表慣行が存在していることは否定できない事実である。
   なお,被告は被告準備書面(2)3項(3)において,「群馬高専では,甲第33号証と,甲11号証の両年報では公開対象とする情報が異なっている」旨を付記するが,まったく具体性のない記述であり,今回請求箇所と関係ない箇所について変更していてもこのような主張はできるため,考慮する意味はない。

(4)被告は,本決定において,訴状にいう不適切不開示箇所を不開示とするにあたり,「個人情報に該当する部分」とのみ記述して,原告にその不開示の理由や妥当性(各不開示箇所がなぜそれに該当するのか)を検証不可能な形でかかる処分をおこなった。このことは,法の運用として極めて不適切であると言わざるを得ない。そして本決定時点において,各不開示箇所と前後の開示箇所で扱いを異にする理由が明かされておらず,そのために本件提訴時点では個別の不開示箇所について不開示妥当性を検証することが不能とされており,本件係争中にようやくに一定の不開示理由が明らかにされたことを鑑みれば,行政事件訴訟法第7条および民事訴訟法第64条の規定に基づき,訴状別紙3項(1)にかかる請求に関しては,判決における認容度合いに一切かかわらず被告はその請求分について訴訟費用を全額負うべきである。
   なお,本決定に先立って,原告が被告に対して各不開示箇所の具体的な不開示事由を問い合わせたところ,被告は「不開示が妥当とされたので不開示とした」とのみ回答して,各不開示箇所にかかる不開示妥当性の検証を不能とした(甲40)。このことからすれば,被告は明確に組織としての意思で各不開示箇所にかかる不開示妥当性の検証を不能とさせたことは明らかであり,やむを得ない過失であったということはできない。

(5)被告は,被告準備書面(2)3項(4)において,原告が訴状別紙3項(2)で開示を求める情報が法5条1号本文前段の個人識別情報に該当し,さらに法5条1号但書イに該当しない旨を主張するが,特にその根拠についての記載はなく,答弁書および被告準備書面(1)における結論をただ繰り返しているだけであるとみられることから,考慮する意味はない。

(6)被告は,被告準備書面(2)3項(2)および(4)において,本件訴訟に先行して原告が申し立てた審査請求に対する答申書(乙2)を,訴状別紙3項(1)および(2)にかかる箇所の不開示を支持したものとして援用する。
  しかし,原告がおこなった「本件訴訟に先行して原告が申し立てた審査請求」というのは,被告による平成29年9月20日付法人文書開示決定(29高機総第77号,甲41ないし42)において,発令年月日および記載項目名を除いたすべての箇所について不開示決定をしたため,まずはインターネット上における明らかな公開情報に限り不開示処分を取り消させるべく,平成29年10月11日に審査請求をおこなったものである(甲43)。その際,訴状にある観点からの請求は特に行っておらず,したがって審査会にこれらの点について審査を請求したという事実はない。審査会が特に開示すべきという判断を下さなかったのは,審査請求当時,たんに原告がそれらの点について判断を求めなかったことから,残った不開示措置が現状維持とされたためであり,特に本件訴訟における原告の主張を否定し,また被告の主張を支持したものではない。

4 訴状別紙4項にかかる主張について
(1)被告は,被告準備書面(2)4項(1)において,「弁護士費用は,被告が委任した弁護土の個々の具体的業務に対して支払われた報酬単価を内容とするものであり,これは特定の法律事務所の具体の案件処理に係る取組体制や実作業等の詳細な内訳等に基づき出される営業秘密に属する情報である。この情報を公とすることにより,当該特定法律事務所の事案処理に係る方針や費用算定の方針等が明らかとなり,当該特定法律事務所及び弁護士の競争上の地位その他の正当な利益を害する」とし,法5条2号イ該当性を主張するが,答弁書および被告準備書面(1)から細かい文言を変えて同じ主張を繰り返しているだけで,特に新規の主張はない。なお,訴状のとおり,原告は弁護士費用等情報の詳細な個別内訳については必ずしも開示を求めておらず,被告が当該弁護士事務所に支払った弁護士費用の総額や大項目ごとの合計(以下「合計金額等情報」)といった,特定法律事務所の内部規定等運営上における機密情報を推察することが不能である情報に関して開示を求めている。
   原告として,合計金額等情報から,当該特定弁護士事務所の営業秘密に属する情報を逆算することなど明らかに不可能であることを訴状および原告準備書面(1)において再三指摘しているにも関わらず,被告はこの点一切説明しないまま,成立し得ない「おそれ」を根拠に,法5条2号イ該当性を主張し続けている。法5条2号イに定めのある「おそれ」とは,情報の開示により事業者等が何らかの不利益を受けるおそれがあるというだけでは足りず,競争上の地位又は事業運営上の地位その他正当な利益に対する具体的な侵害を受ける蓋然性が客観的に明白である場合に限られると解されることに鑑みれば,こうした観点からしても,まず合計金額等情報については法5条2号イに該当するとはいえず,開示は妥当である。
   なお,被告は「甲第6号証の支払決議書の記載金額のすべてが弁護士費用の支払いに関するものであるため,「全体金額」を開示することは個別の支払金額等を開示することと同義である。」とも主張するが,記載金額のすべてが弁護士費用の支払いに関するものであることが,なぜ全体金額の開示と個別の支払金額を開示が同義であることの理由になる,と被告が考えているのか不明であり,主張の意図を図りかねるというほかない。

(2)被告は,被告準備書面(1)に引き続き,被告準備書面(2)4項(2)において,本件訴訟に先行して原告が申し立てた審査請求に対する乙3号証の答申を援用するが,そもそも当該答申自体が極めて不当なものというべきである。なぜなら,原告はかかる審査請求において「①弁護士費用情報の開示を支持する答申例・判例が多数存在すること」「②審査会自身が,弁護士費用情報の開示を支持する判例を出しており,答申選にも掲載していること」「③弁護士費用情報が開示された事例は多数あるにも関わらず,その結果,特定弁護士事務所の権利利益が害された事例は存在せず,法5条2号イにいうおそれが生じるとする根拠が不明であること」「④法5条2号イにいうおそれが生じないことは明らかであり,それでも生じると主張するのであれば,その具体的な根拠を提示すべきこと」などを指摘したにも関わらず,争点となるべき原告のこうした主張に対して審査会は一切の判断や検討を示さないまま,被告の一方的な説明のみを採用して,「諮問庁の説明は否定しがたい」とのみ言及して結論とした(乙3)。なぜ「否定しがたい」のかや,原告の上記①ないし④にかかる主張がなぜ否定されるかについて,審査会は一切言及しておらず,とうてい公平中立な審査とは言い難いものであることは明らかである。また,上記②のとおり,審査会自身の過去答申例と矛盾していることは致命的である。これは,乙4に示す答申でも同様である。そのため,原告は訴状別紙4項にかかる請求について,あらためて裁判所による審理を求めているものである。

(3)また,弁護士費用情報の開示を支持する最近の地方自治体による答申例としては,葛飾区平成31年度答申第2号(甲44)もある。この答申においては,宮崎地裁平成9年1月27日判決・東京高裁平成3年5月31日判決が「『公開することにより当該事業を営む個人に明らかに不利益を与えると認められる情報』に該当するというためには,当該情報が公開されることにより,事業活動等に何らかの不利益が生じるおそれがあるというだけでは足りず,競争上の地位等の正当な利益は具体的に侵害されることが客観的に明白な場合をいう」と判示していることを指摘しつつ,弁護士費用情報の開示を妥当と裁決している(なお,被告が「正当な利益が具体的に侵害されることが客観的に明白」である説明を一切なしていないことは,上記で指摘したとおりである)。
   さらに,弁護士費用の開示を認める同様の答申例としては,墨田区による令和元年11月1日付31墨行審第37号答申(甲45),目黒区による平成30年8月8日付け目企広第755号・平成30年8月22日付け目企広第862号答申(甲46)がある。いずれも,日本弁護士連合会の会則である報酬規程第6条が「弁護士等は,弁護士等の報酬に関する自己の情報を開示し,及び提供するよう努める」と規定し,弁護士報酬に関する基準等の情報開示を要求している事実を指摘して,弁護士との契約金額を非公開とすべき特段の事情を認めることは困難であると判断している。特に,甲45号の答申においては,弁護士報酬等にかかる契約情報について,「単に着手金及び報酬金を訴訟1件当たりの単価として定めたものに過ぎず,この定め方に,弁護士業務の営業機密やノウハウに属するような競争上重要な要素などが含まれているとは認められず,これを非公開として保護すべき事情はない。」と言及している。

5 訴状別紙5項にかかる主張について
(1)被告は,被告準備書面(2)5項(1)において,日時情報を開示することにより報告書の対象者が特定されるおそれがあり,法5条1号前段の個人識別情報に該当する旨を主張するが,答弁書および被告準備書面(1)と同様の主張を繰り返しているだけであり,新規の主張や根拠は認められない。日時情報を開示したとして,様々な観点から報告書の対象者のプライバシー権等が侵害されえないと結論されることは訴状および原告準備書面(1)で指摘のとおりである。
   また,被告は,「しかし,自死事案であることが周知されているかどうかと,上記のとおり事案経過の詳細が明らかになることは別の問題であり,しかもカウンセラーの講演はおよそ対象事案が「慣行として公にされている」ことの根拠となるものではない。原告の指摘は,法5条1号ただし書イに該当することの根拠とはなりえない。」などと主張するが,原告が甲7号証の記載などから自死事案であることが周知されていることを指摘したのは,法5条1号但書イとの兼ね合いを検討したものではなく,被告が被告準備書面(1)において「学校の内外を問わず当該案件が発生したことを公表しておらず」などと説明していることとの矛盾を指摘したものである。そして,被告はこの点,自死事案であることが学内において周知されている事実自体については特に否定しておらず,被告準備書面(1)における当該説明が誤っていること,自死事案であることが学内において周知されていること,は明らかである。
   こうした事実に加え,訴状において原告が示したような方法ですでに被告が事実上日時情報を明らかとしている(または明らかとできる)ことを鑑みれば,被告が日時情報を開示することにより,報告書の対象者が新たに失う権利利益(特に法5条1号前段該当性を満たすプライバシー権)はとくに存在しないというべきであり,開示することが妥当である。

(2)被告は,被告準備書面(2)5項(2)において,「日時の記載が開示される可能性があることが被告の教職員に認知されると,類似の事件・事故事案が発生して報告書を作成する際,自身の対応経過が明らかとなって批判の対象となることなどを懸念して,教職員が対応経過の詳細についての報告を控えるなど,被告が事件・事故に関する経緯の詳細を把握したり,報告書を作成することに支障が生じるおそれがある。」などとして,日時情報の法5条4号柱書該当性も主張するようである。
   しかし,既に開示されている甲7号証のとおり,対応内容自体はすでに一定度明らかとされているものであり,そこから記載のある日時のみ新たに明らかになることで,被告の教職員がいきなり批判の対象にされるという被告の主張は,あまりに飛躍していて到底受け入れがたい。また,誰が「批判」をするのか,被告が想定するところの主体も不明であり,主張の趣旨も不明瞭である。
   ところで,学生の死亡事案に対応した長野高専の教職員について,当該教職員の氏名・所属その他を特定可能な情報はすべて法5条1号前段に基づいて不開示とされており,またそうすることに原告としても異存はない。すると,記載のある当該教職員が誰かも不明である以上,そもそも「批判」のしようもないのであり,日時情報の開示の有無によってこの状況に変化があるとも考えられないことから,被告のかかる主張は著しく前提を欠いたものと言わざるをえない。
   さらに,仮に被告のかかる主張を採用するとしても,教職員の対応にかかるもの以外の日時情報は法5条4号柱書に該当しないことは明らかであって,こうした箇所について開示されるべきであることに変わりはない。

                         以上
**********

○証拠説明書(甲35~46号証) ZIP ⇒ 20200813ib3546j.zip
○書証(甲35~46号証) ZIP ⇒ b3546.zip
○被告訴訟代理人あて送付書兼受領書 ZIP ⇒ 20200813tiqj.zip


■ところで冒頭説明のとおり、森裁判長は前回口頭弁論で、追加主張があれば8月13日を期限に提出するよう指示しましたが、その指示は原告だけに向けたものではありませんでした。すなわち、入れ違いに被告高専機構側が準備書面(3)を提出している可能性は高いと考えられました。

 帰宅してから当会事務局長に確認したところ、やはり8月13日の午前10時過ぎに田中・木村法律事務所からFAXで書面が送られてきていたことが判明しました。しかし確認してみると、準備書面は含まれておらず、乙5として答申例のコピーが一部のみと、あとはその証拠説明書だけが送られてきていました。

○送付書と被告証拠説明書 ZIP ⇒ 20200816ti5j.zip
○乙5号証 ZIP ⇒ 202008165.zip

*****被告証拠説明書*****
令和元年(行ウ)第515号 法人文書不開示処分決定取消請求事件
原 告  市民オンブズマン群馬
被 告  独立行政法人国立高等専門学校機構

            証  拠  説  明  書

                           令和2年8月13日

東京地方裁判所民事第2部Bc係 御中

             被告訴訟代理人弁護士  木  村  美  隆
                  同      藍  澤  幸  弘
                  同      角  谷  千  佳

              記

●号証:乙5
○標目: 答申書(平成29年度(独情)答申第56号)
○原本・写:写
○作成年月日:H30.2.7(答申日)
○作成者: 情報公開・個人情報保護審査会(総務省ホームページより)
○立証趣旨: 日本政策金融公庫が支払った弁護士費用の単価額について,法律事務所の競争上の地位を害するおそれがあるとして,当該事項が法5条2号イに該当すると判断した答申例があること。なお,諮問手続において,諮問庁である日本政策金融公庫は,弁護士が依頼者との間で締結する個別の委任契約における報酬内容が弁護士間の競争上重要な要素であること等を指摘した裁判例(諮問庁が被告となっているもの)を引用しており,委任契約における弁護士報酬の内容について,法5条2号イに該当する旨判断した裁判例があると推測される。
*********

【乙5号証は上に掲載のファイルもしくはhttps://www.soumu.go.jp/main_content/000531629.pdfをご覧ください】

■このように被告高専機構側は、最後の反論機会において、準備書面すら作らない手抜きそのもので、弁護士費用情報の不開示を支持する総務省情報公開・個人情報保護審査会の答申を新たに1つだけ持ち出してくるに留まりました。しかし、そもそも総務省審査会自体が、他判例や自治体多数の判断どころか、自分たちの過去の答申例とすら矛盾した答申をメンツからかせっせと作り続けているのですから、前後する年度で同じ組織の同じメンバーが量産してきた似たような答申例を2、3ばかり出してきても、説得力はそこまで上がらないはずです。

 しかも、「法5条2号イに該当する旨判断した裁判例があると推測される。」となぜか証拠説明書の中で主張を始める始末です。ひょっとして判例があるのではないか、などという曖昧な「推測」でいちいち審理が左右されていては敵いません。実際の判例のコピーどころか年度も裁判所も事件番号すらも示せないのでは、わざわざ目玉が飛び出るほどの金を使ってプロの弁護士を使っている意味がありません。

 ベラボウな家賃を払ってわざわざ銀座に事務所を置いているのですから、裁判所に行って裁判資料を漁ることはいくらだってできるはずです。腐ってもプロとして仕事をしているのですから、判例集を事務所に取り揃え、膨大なデータ量と優秀な検索機能を誇る有料判例データベースとも利用契約しているはずです。依頼人の高専機構からはたっぷりと金を貢がれているにも関わらず、弁護士3人掛かりでここまで手間を惜しんで横着するのですから、やはり安定の「田中・木村法律事務所クオリティ」を再確認させられました。

■当会の原告準備書面(2)、そして被告高専機構側の出してきた「添え物」を見て、本件を担当する森裁判長はどのような評価をし、判断を下すのでしょうか。

 8月20日の15時半から東京地裁7階703号法廷で開かれる本第一次訴訟第4回口頭弁論の様子については、追ってご報告します。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

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スラグ不法投棄問題・・・大同特殊鋼に続き、日立金属よ!お前もか!島根県安来市からの告発レポート

2020-08-14 23:07:00 | スラグ不法投棄問題
■日立金属は日立グループに所属する高機能材料メーカーで、高級特殊鋼、希土類磁石、素形材製品を主力とし、売上高は年間1兆円を超えており同グループ内では日立製作所に次ぐ規模の鉄鋼(電気炉)メーカーです。最近は貿易摩擦やコロナ禍による主力製品の需要減退で売り上げが伸び悩んでいますが、今年4月に同社製の磁性材料で検査データ不正が発覚し、業績への更なる影響が取りざたされています。こうした中で、島根県安来市在住市民のかたから、「自分の所有農地に日立金属がフッ素などの有害物質を含む鉄鋼スラグを不法投棄され同社に撤去を求めたが拒否された」として当会に情報が寄せられました。


安来市内に不法投棄された有害スラグの生みの親とみられる日立金属安来工場。

日立金属安来工場エレクトロスラグ再溶解工程フロー図

■安来市民(仮に「Aさん」とお呼びします。ご本人は氏名の開示について了承されていますが、当面当会の判断で伏字とします)から寄せられた情報は次の通りです。

*****相談いただいた情報*****
 平成14年5月のある日、隣接する水田の持ち主K氏から次の話がAさん宅に持ち込まれました。
「貴方の不耕作地を私の田んぼの様に埋め立てれば、きれいになるし、管理も大変楽になる」
 実は、我が家には、他家に貸す程畑は十分にあるので、埋め立てて畑にする必要はありませんでしたが、公会堂の前という立地から人目にもつきますし、再々、会合のたびに埋め立てを勧められる状況だったので、断りきれず承諾しました。Aさんの夫は何事もイエスマンであったことはBさんも周知していました。
 早速、当時、田中建設に在籍していたH氏が手続きに来訪し、その時、Aさんが「埋め立ての土は、何処から持ってこられるのか?」とH氏に尋ねると、「広瀬(東出雲町に近い山間地区)の山の土」との返答でした。その後、何台もの大きなダンプが来て埋め立てが始まりました。その時、何故こんなにまでして無料で埋め立ててくれるのか?と不思議な思いがした事を覚えています。
 埋め立てが終わった頃、田中建設が「下水道工事の仮事務所を建てたいので用地を借りたい」との申し出があり、Aさんの夫が田中建設と契約しました。工事が始まった頃、埋め立てた土地をAさんが初めて見に行くと、埋め立てた場所にはゴロゴロとした塊が沢山あり、とても初めに聞いていた山の土とは程遠いものでした。そこに居合わせた現場監督にAさんが「この塊は何ですか?」と聞くと、「日立の鉱さいです」と言い難そうな、すまなさそうな顔をして答えられました。


Aさんの田んぼから掘り起こしたフッ素を含む有害な製鋼スラグ。大同スラグに似た石灰質で白色を呈していて、一番上の中央のスラグに錆が浮いている。よく見ると、その他のスラグの表面にも点々と錆が見える。写っているのは一番小さいもので、この3倍から4倍のサイズのものが埋め立てたスラグのほとんどを占めていると見られる。


日立金属の有害スラグが大量に埋め込まれたAさんの田んぼ。

 Aさんは「約束が違う」と驚き、H氏に問うと、「Aさんとこは了承済みと思っていた・・・K氏の土地にも埋まっているから・・・」という返事でした。K氏(当時K氏は日立金属に在籍していた)にも問うと、「大丈夫、これは肥料にも使われているもので、畑にも適している」との返事。なぜそんな嘘をついてまで埋め立てるのか?とK氏に問い詰めると、「間もなく田中建設の下水道工事が始まるから、仮事務所が必要と思い、自分が先走って考えてしまった」と言っていました。
 その後、年に1~2回は「この土地を買って下さい」とお願いしても、「うちも土地がようけあるけんなあ」と言われ、Aさんが「あなたの隣接する田んぼにこれを移してください」とお願いしても「自分所が狭いからなあ」とあいまいな返事。こんな調子で今まで至り、いよいよAさんの夫も亡くなり、子供たちにこの様な士地を残すのは大変な重荷になると思い、K氏、奥さん、田中建設、安来市役所、保健所などに相談してみましたが、解決をみないまま今日に至ってしまいました。
 Aさんの夫が死亡してからは、「夫の了解済み」と事情を知らなかったK氏の奥さんまでがそのように強調しだしたので、「死人に口なし」の様相となり、Aさんは心外に思い、K氏や田中建設、そして安来市には誠意を持って対応して欲しいと願ってきました。
 Aさんは田中建設のH氏にも「あなたが農家で田んぼにこんなものを埋められたらどうしますか?」 と聞いたところ、H氏は「僕はそんなこと絶対しません」と笑いながら答えていました。公共事業を請け負う会社に勤務しておきながら、他人の田んぼには嘘をついてまで有害スラグを廃棄するのかと思うと許せない気持ちです。
 NHKクローズアップ現代でも、フッ素問題が提起されていますし、群馬県でも問題になっています。
 日立金属のM氏は、「国で禁止になる前の事だから、自社は廃棄物は取り除く責任はない」との返事でした。Aさんは、「産業廃棄物処理の経費を節約する為に他人の田んぼに偽ってまで捨てるのは論外だ」として原因者の日立金属に対して解決を求めてきました。また、安来市にも同様に何度もこの問題の善処を求めてきました。
 しかし、安来市と日立金属との関係からか、双方とも対策を取ろうとする気配がなく、Aさんはやむなく令和元年12月16日に丸山達也島根県知事に公害紛争処理法第26条第1項の規定に基づき、日立金属安来工場(安来市飯島町)と田中建設(安来市内)を被申請人として、「元通りの田んぼに戻して欲しい」として、調停申請書を提出しました。
 その理由は次の通りです。
 ①当時、K氏は、日立金属株式会社安来工場に勤務していた。H氏は、当時田中建設に勤務していた。
 ②日立金属㈱安来工場は、当時、国の許可があったとしても、民間地に鉱さいが適正に処理される様、業者を監督する責務が有り、それを怠った。
 ③フッ素は、目に見えない物質上、健康被害は確認出来ないが、現時点でも絶えず発生しており、将来深刻な被害を生じる恐れがある事は、資料より明らかである。
 ④有害物質が埋められられている為、土地の価格が下がる。
 ⑤鉱さいを相手方費用負担で、除去して欲しい。
 ⑥長期にわたり精神的苦痛を被ってきた。
 ⑦正しい告知もないまま、日立金属の鉱さいが田んぼに埋め立てられ、発生から16年経過するも、話し合いに応じない。
**********

■その後、令和2年4月16日付環第51号で丸山知事(島根県環境生活部環境政策課)からAさんに調停委員として、公害紛争処理法第31条第2項の規定に基づき、島根県令和元年(調)第2号事件についての調停委員を熊谷優花氏(弁護士)、石賀裕明氏(島根大学総合理工学部教授)、帯刀一美氏(学識経験者)の3名を指名したとして通知がありました。

そして、同4月20日付島公調第2号で公害紛争調停委員会からAさんあてに、被申請人の田中建設と日立金属からの意見書が送られてきました。

*****田中建設の意見書*****
島根県環境政策課2年4.15収受
                    令和 2年 4月15日
            意  見  書
島根県知事
(環境生活部環境政策課)御 中
                 島根県安来市○○○町〇〇〇番地○
                 株式会社 田 中 建 設
                 代表取締役 ○○○○

 令和2年2月27日付調停開始通知書の、島根県令和元年(調)第2号事件につきまし て当社の意見は、下記のとおりです。

1.当社は、当該土地について工事用の現場事務所・資材置き場として借地いたしました。土地の使用にあたっては、搬入された鉱さいを平らに整地し使用しておリます。

2.借地期間終了時の土地返遠につきましては、覚書の通り土地上面を盛土整地して返還しております。

3.H氏は当社の元社員で、平成29年3月末にて退職しております。
  尚、K氏とは従兄弟関係ではないとのことです。
  埋め立て当時、土地所有者が農地転用等の手続きに不慣れなため相談を受けて、手続きの方法等お教えしてお手伝いしたそうです。

4.H氏の発言について、埋め立てに広瀬の山土のを持ってくると返答した部分については、そういう事実はなくA氏より依頼されて、耕作の苗床に使用する真砂土を準備して現地に搬入してあげた事があるそうです。
  尚、工事用に使用する土砂は広瀬方面より搬入しており ます。

5.借地については、借地覚書の通りです。

6.本件につきましては、当社および元従業員のH氏へ申請人のA氏より何度か連絡がありましたが、当社は鉱さいの搬入には関与していないので、K氏に連絡してK氏を通して話をしてくださいと返答しております。
(1/2)

<借地期間一覧>
      K氏 借地期間一覧     A氏 借地期間一覧
土地所在地 安来市○○町○○○XXXX-X 安来市○○町○○○XXXX-X
○借地期間
1 平成13年10月1日~14年3月31日
2 平成14年10月1日~15年3月31日 平成14年10月1日~15年3月31日
3 平成15年9月1日~16年3月31日
4 平成16年12月1日~17年3月31日
5                  平成17年9月1日~18年3月31日

1 平成13年10月1日より工事施工の仮設用地として、K氏より上記上地を借り受け平成14年3月に返却。
2 平成14年10月1日より工事施工の仮設用地として、K氏、A氏より上記土地を借り受け平成15年3月に返却。
3 平成15年9月1日より工事施工の仮設用地として、K氏、A氏より上記土地を借り受け平成16年3月に返却。
4 平成16年12月1日より工事施工の仮設用地として、K氏、A氏より上記土地を借り受け平成17年3月に返却。
5 平成17年9月1日より工事施工の仮設用地として、A氏より上記土地を借り受け平成18年3月に返却。
※平成13年10月よりK氏の土地を借地し工事を実施、平成14年10月からの工事についてはK氏・A氏両氏の土地を借地し工事を実施した。
※A氏の土地使用については、搬入された鉱さいを平らに整地し使用し、借地 覚書の通り工事終返却時、土地表面を盛土整地し返還をしました。
※平成30年7月A氏夫人より会社に電話連絡があり、当該土地の有効利用について何かないでしょうかと相談あり。(A氏死去後)
 ソーラーパネルの設置等あるが現在売電価格が下がっていておりますと返答。また、何かいい案があれば教えてくださいと言い電話を切られる。
※その後の電話で鉱さいのことについて苦情を言われたが、当社は埋め立て後に借地をしているので、K様を通して話をしてくださいと返答しております。
(2/2)
**********

■次に有害スラグ排出の原因者である日立金属の意見書を見てみましょう。

*****日立金属の意見書*****
(島根県環境政策課2年4.17収受)
島根県令和元年(調)第2号 公害紛争に係る調停事件
申 請 人 Aさん
被申請人 日立金属株式会社 安来工場

          意 見 書

                   令和2年4月16日
島根県知事 丸山達也 殿

             被申請人代理人
              弁 護 士  安  藤  有  理

〒690-0882
  島根県松江市大輪町420-19
  松原三朗法律事務所(送逹場所)
  被申諸人代理人弁護士   安  藤  有  理
            TEL 0852-26-5733
            FAX 0852-23-6650

1 調停を求める理由に対する答弁
  ①項は一部否認し、②、③項は否認し、④、⑥項は不知とし、⑤項は争う。
2 被申請人の主張
(1)事案の概要
 ① 2001(平成13)年頃
 本件について被申請人が認識している事案の概要は次の通りである。
 2001(平成13)年頃、被申請人において、鉄鋼の製造過程で生じる鉄鋼スラグ(以下、「鉱滓」と言う。)の資源化方法が色々協議されていた。同じ頃、被申請人の生産技術部環境技術グループ長をしていたKは、自己の所有地に減反政策で牧草地にしていた田(以下、「K所有地」と言う。)に雑草が生い茂り、草刈りに追われていた。
 このような状況の中、2001(平成13)年頃、島根県安来市の株式会社田中建設(以下、「田中建設」と言う。)が、K所有地付近において下水道工事を受注した。そのため、田中建設は、仮設事務所や資材置き場などの土地が必要となったことから、KにK所有地の賃借を申し込んだ。
 その際、Kは、K所有地を田中建設に賃貸することに異議はなかったものの、雑草の草刈りを行うことに苦慮していたことから、K所有地に鉱滓を埋設することを考えた。そこで、Kは、田中建設に対して、鉱滓を自ら調達、搬入するから田中建設がその上に盛土をして地ならしをすること、返還時、原状回復は行わないこと、K所有地が田であるため一時転用の手続きを田中建設が行うこと、という付帯条件でK所有地を賃貸した。
 そして、Kは、被申請人場内の鉱滓約500㎥を搬出し、K所有地に運搬し、田中建設が持ち込まれた鉱滓を地ならしして、その上に盛土をして、プレハブを建築した上で資材を置く等、利用した。併せて、田中建設は、安来市に一時転用の代理申請を行った。
 その後、Kは田中建設から下水道工事の終了後、プレハブや資材などの撤去を受けた上で盛土下部に鉱滓が埋設されている状態のK所有地の返還を受けた。
 ② 2002(平成14)年頃
 2002(平成14)年頃、Kは、田中建設から下水道工事の第2期工事が行われることになり、K所有地に加えたより広い土地が必要となる旨の申出を受けた。これを受けて、Kは、K所有地の隣地であり、かつ2001(平成13)年頃のK所有地と同様に雑草が生い茂っている状態にあった申請人の夫であるAが所有していた田(以下、「本件土地」と言う。)を対象とすることを考えた。
 そこで、Kは、Aに対して、田中建設からの賃借の申入れがあることを伝えるとともに、鉱滓を埋設する際の留意点の説明を行った。具体的には、鉱滓を池などの水源地に埋設をした場合には水質のアルカリ性が強くなって魚が死んでしまうことがあること、埋設した土地が膨張することがあること、当分の間、雑草が生えないこと、鉱滓の搬入はKが行うことなどの説明であった。Aは、Kからの説明を受け、了承し、K所有地と同等の条件で本件士地を田中建設に貸与することとした。その際に、Aと田中建設との間で『借地覚書』が作成されているが、その中には「借地の期間満了後は、盛土整地し返還する。」とあり、鉱滓の除去を含めた原状回復義務は定められていなかった。
 その結果、本件土地に鉱滓が埋設され盛土され、下水道工事期間中、K所有地と同様に田中建設が使用した。その際、Aは、本件土地を将来的に田としての利用を考えていなかったため、田から畑への農地改良の手続きを行った。そして、Aは、田中建設から下水道工事の終了後、プレパブや資材などの撤去を受けた上で盛土下部に鉱滓が埋設されている状態の本件土地の返遠を受けた。
 なお、Kは、2002(平成14)年、被申請人を退職し、株式会社安来製作所に転職した。
 ③ 2015(平成27)年頃
 2015(平成27)年頃、Kは、突然、申請人から本件土地に関して、土地に進入路がないので入り口付近を譲って貰えないかという相談を受けた。その時は、土地は調整区域で農地の状態では売れないことや、家を建てるなら自分の家の分家くらいしか建てられないなどと相談に乗っていたが、いつの間にか申請人から連絡がなくなって話がたち切れとなってしまった。
 その後、Kは田中建設から申請人が本件土地に埋設した鉱滓について苦情を申し立ててこられた旨の話しを聞かされた。これに対して、Kは、田中建設に対して不満があるのであれば田中建設ではなく自分に言うように伝えてくれと頼んでおいたものの、申請人からKに連絡はなかった。また、Kが(Aと偶然、会った時、Aに対して、「奥さんが鉱滓のことで田中建設にクレームを言っているようだが、あれはお互いが同意してやったことだろう。」と言うと、Aは、「そんなことを言っていたのか、自分から言っておきます。」と申請人へのとりなしを約束した。
 ④ 2019(平成31、令和元)年頃
 2017(平成29)年12月23日、Aが死亡した。
 その後、2019(平成31)年3月20日、申請人は被申請人を訪れ、本件土地に被申請人の鉱滓が埋められているので何とかして欲しい、被申請人の従業員であったKにも話したが相手にされないなどとの申入れを行った。そこで、被申請人は、翌日、申請人の案内で本件土地を確認し、鉱滓が埋設されている状況を確認した。
 そこで、被申請人は、Kと、同年4月4日に当該土地の賃貸借契約に関わった田中建設の元従業員からそれぞれ事情聴取を実施し、記述①乃至③の事実を確認した。これを受けて、被申請人は、同年4月8日、申請人に対し、2002(平成14)年頃、鉱滓を埋設することについて問題がなかったこと、そもそもAの同意の下、鉱滓の埋設が行われたこと、被申請人は埋設、賃貸借などについて当事者ではないことから当事者同士で協議をされたいことを告げた。これに対して、翌9日、申請人は、被申請人に対して、架電をし、被申請人が何もしないことは納得できないこと、公害問題に取り組んでいる方達に相談をして世間に知らしめることなどの苦情を申し立てた。また、同月11日には、申請人の子が被申請人の本社に対して、架電をし、16年前にAが所有していた本件土地を田中建設に賃貸することになり、土を入れるということであったが、被申請人の鉱滓が埋めたてられたこと、申請人は本件土地の処分を考えているが、鉱滓が埋められていて処分ができないこと、被申請人は法的に問題がないと言っているが納得できないこと、保健所、農業委員会にも相談をしているが取り合ってくれないことなどを告げてきた。そのため、被申請人は、翌12日、改めてKに連絡を取ったところ、申請人の希望が不明確であるため話し合いが進められないこと、Aには喜んでもらっており残念であること、被申請人に迷惑をかけて申し訳ない旨の回答を得た。そして、同日、被申請人は申請人に対して同月8日と同様の連絡を行ったところ、申請人は当時、問題がなくても現在規制されているのであれば会社として道義的責任があるはずであり、納得できないと激しい口調で返答した。その後、同月16日、申請人から被申請人に架電があり、以降はKとの間で解決することとし、被申請人には何ら要求しない旨の連絡があった。しかし、令和元年8月28日、申請人から被申請人に対し、公害問題として調停を申立てる予定であること、そのため埋設した鉱滓のデータの開示を求められた。
 その後も、被申請人は、申請人、Kに対して話し合いによる解決を精力的に提供したものの、成立せず、本手続きに至ったものである。
(2)見解
 ① 不法占拠
 民法上の不法占拠についてであるが、本件土地への鉱滓の埋設は本件土地 の所有者であったAの承諾の下、行われたものであること、鉱滓の埋設そのものによって本件土地の占有を侵害していると評価される事情はないことなどから、不法占拠は認められない。
 ② 土壌汚染対策法、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(農用地土壌汚染防止法)
 本件において、本件土地に埋設された鉱滓から健康被害及び水質汚濁、土壌汚染の具体的な事象が発生したとの事実は認められない。
 仮に土壌汚染のおそれがあったとしても、本件土地は私有地であり不特定多数の人が立ち入ることがないうえに埋設された鉱滓には真砂土で30cm程度覆土されていることから、鉱滓を直接摂取するおそれはない。また、本件土地の周囲は上水道が整備されており飲用井戸は存在せず、地下水経由の間接的に摂取するおそれもないことから、人が鉱滓を暴露し、健康被害に及ぶことはない。
 なお、KがAに対して「水質のアルカリ性が強くなって魚が死んでしまうことがある」旨の説明を行っているが、日本の土壌は酸性を示すことが多く、対象地の透水性が悪いなどでない限り、上記の説明のような事象が必ず生じるものでもない。
 また、農用地である本件土地に埋設された鉱滓にフッ素が含有されている ことは直ちに否定しないものの、農用地土壊汚染防止法にはフッ素は特定有害物質に定められていない。
 ③ 廃棄物処理法
 申請人の添付資料中、鉄鋼スラグに関して群馬県が行政処分を行った旨の事情を本件にあてはめるかのような主張をしていることから、念のため反論 する。
 群馬県の行政処分は、鉄鋼スラグの取引方法について鉄鋼業者が建設業者に鉄鋼スラグを販売した形式を取り、建設業者から売買代金の支払いを受けながら、反対に建設業者に対して販売管理費名目で売買代金を上回る金員を支払っていたことから、形式上は鉄銅スラグの売買であるが実態は廃棄物処理と事実認定したものである。
 しかし、本件において、上記のような取引きが行われていないことは既述の通りである。
 また、群馬県は前橋地方検察庁に鉄鋼業者を廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反で告発しているが、 同庁は不起訴処分としている。
 そもそも、鉄鋼スラグはグリーン購入法の特定調達品目に指定されている など、市場が形成され路盤材などにおいて利用されていることもあり、産業廃棄物と同義ではなく、その性質や形状などから総合的に判断すべきものである。
(3)結論
 被申請人としては、申請人からの本調停申諸は、埋設された鉱滓が原因として所有地を売却できないという私的権利に関するものであり、公害と称するものではなく、かつ鉱滓の埋設については所有者が承諾をしたものである以上、被申請人が何ら法的義務を負うものではないと考えている。
 よって、現時点において、申請人の申し立てられている原状回復請求には応じることはできない。
**********

■安来市民のかたから、上記の情報と共に、助言を求められたため、当会はさっそく7月21日付で次の書面を折り返し差し上げました。

*****当会からの助言*****
前略 所有地に日立金属がフッ素などの有蓋物質を含む鉄鋼スラグを不法投棄された件で、情報をお寄せくださりありがとうございます。
 お送りいただいた情報をまだ詳細に分析していない段階ですが、もし島根県の日立金属の排出するスラグが、フッ素の土壌環境基準を超過しているのであれば、次の2つの文書がお役に立つのではないでしょうか。

1.フッ素の含有量の観点から
 フッ素の土壌環境基準の設定は、以下の環境省の公示により 平成13年3月28日だと思われます。↓↓
※別紙1:土壌の汚染に係る環境基準についての一部改正について
http://www.env.go.jp/water/dojo/law/h130328_44.pdf
 Aさんのお手紙にある資料によれば、田んぼの埋め立て話が持ち込まれたのは、平成14年5月頃のようですので、環境省の公示後のことだと推察できます。

2.群馬県廃棄物リサイクル課による廃棄物認定の事実から
 頂いたお手紙の資料でも触れられておりますが、上記に加え、群馬県廃棄物リサイクル課による大同特殊鋼が排出したスラグ(鉱滓)を廃棄物認定したときの経緯を示す文書があります。↓↓
※別紙2:大同特殊鋼(株)渋川工場から排出された鉄鋼スラグに関する廃棄物処理法に基づく調査結果について
https://www.gunma-sanpai.jp/gp26/003.htm
 この中の2/6ぺージの下から2行目以下に次の記述があります。
 (7)ふっ素の土壌環境基準等が設定されて以降、大同特殊鋼(株)渋川工場から製鋼過程の副産物として排出された鉄鋼スラグは、土壌と接する方法で使用した場合、ふっ素による土壌汚染の可能性があり、また、平成14年4月から平成26年1月までの間、関係者の間で逆有償取引等が行われていたことなどから、当該スラグは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案し、廃棄物と認定される。

3.日立金属のフッ素添加のESR製造法による鉄鋼スラグの特徴から
 ネットで「日立金属安来工場 スラグ」のキーワードで検索してみると、二立金属では、電気炉酸化スラグ骨材というスラグの副産物を製造しており、これには「ただし、弗化物の溶出量が多い事から、路盤等の陸域での使用はできない」と明記されています。↓↓
※別紙3-1:電気炉酸化スラグ骨材
https://www.pref.shimane.lg.jp/infra/kouji/kouji_info/shimane_hatsu/hayami_hyo.data/003gidenkirosuragu.pdf
※別紙3-2:電気炉酸化スラグ骨材(実績データ①)
https://www.pref.shimane.lg.jp/infra/kouji/kouji_info/shimane_hatsu/hayami_hyo.data/003jidenkirosuragu.pdf
 さらに日立金属安来工場では、フッ素を添加した製造法に「ESR(エレクトロスラグ再溶解)」という名称を付けて、高品質をアピールしています。↓↓
※別紙3-3:日立金属工具鋼株式会社「製造工程」
https://www.hitachi-metals-ts.co.jp/strength/metalmoldmaterial/process.html
 このESR製造法について、2009年(平成21年)発行の日立金属技報第25号に詳しく記載されており、フッ素を使ったスラグ製錬であることがよく分かります。↓↓
※別紙3-4:日立金属技報Vol.25(2009)
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8710332_po_vol25_r08.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
 日立金属安来工場が代理人弁護士を使って「意見書」として、「鉄鋼スラグはグリーン購入法の特定調達品目に指定」とか、「群馬県は前橋地方検察庁に鉄鋼業者を廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反で告発しているが、同庁は不起訴処分としている」とか、挙句の果てには「本件は指摘権利に関するものであり、公害と称するものではない」などと、自らの都合よく解釈したとんでもない主張をしていますが、自らのやったことが違法行為であることを認識しているだけに、内心ビクビクしている様子も行間から読み取れます。

4.まとめ

 上記に示したこれらの文書をご参考に、Aさんが2019年12月16日に申請しておられる公害紛争処理法(昭和45年6月1日法律第108号)に基づく調停申請の場で。「スラグの埋め立てが平成13年3月28日以降なら廃棄物だから撤去しろ」と主張し、しかるべき処置を島根県に請求できないか、検討してください。
 そのためには、まず、日立金属が排出した鉄鋼スラグの成分と土壌汚染の実態を行政にきちんと測定させることが肝心だと思われます。その場合、行政はかならず大企業側に加担しようとしますので、できれば行政にサンプル採取のためのボーリングをさせた機会に、ご自身でもサンプルを採取し(そのような必要もなく簡単にスラグを採取できるのであれば今すぐにでも)、民間分析業者に分析させることも有効だと思います(費用は若干かかりますが)。
 なお、Aさんが直面しておられるこの事件を弊団体「市民オンブズマン群馬」のブログやHPを通じて、公表してもよろしいでしょうか。その際、Aさんのご氏名など個人情報の取扱いについても、開示してもよいのかどうか、アドバイスしていただけませんでしょうか。
 弊団体の活動が少しでもAさん様へのサポートとしてお役に立てれば幸いです。
                         草々

別紙1:平成13年3月28日環水土第44号「土壌の汚染に係る環境基準についての一部改正について」
ZIP ⇒ p.zip
別紙2:群馬県産業廃棄物情報「廃棄物の不適正処理対策(産廃110番)」■大同特殊鋼㈱渋川工場から放出された鉄鋼スラグに関する廃棄物処理法に基づく調査結果について
ZIP ⇒ qqnyp.zip
別紙3-1:電気炉酸化スラグ骨材
ZIP ⇒ rp.zip
別紙3-2:電気炉酸化スラグ骨材(実績データ①)
ZIP ⇒ rqdcf_xo.zip
別紙3-3:日立金属工具鋼株式会社「製造工程」
ZIP ⇒ rrmvh.zip
別紙3-4:日立金属技報Vol.25(2009)
ZIP ⇒ rshesrxoy_digidepo_8710332_po_vol25_r08.zip
                         以上
**********

■その後、第2回目の調停委員会が松江某所で8月7日に開催され、Aさんは、自ら所有する田んぼに埋め込まれた日立金属安来工場由来の高濃度のフッ素等の有毒物質を含む有害スラグの撤去をあらためて求めたうえで、もし撤去しないのであれば、撤去費用として想定される1500万円が節約できるのだから、その節約分に相当する金額を支払えば、日立金属が望む田んぼの買い取りに応じてもよい、と提案したそうです。

 しかし、日立金属側は「田んぼの評価額からすれば35万円での買取が相当だ」として、有害スラグの撤去には触れようとしなかったとのことです。さらにAさんが不審に思ったのは、調停委員である3名(弁護士、島根大教授、学識経験者)がそろって日立金属側の主張に寛容な姿勢を見せたことです。

 Aさんは、田んぼの買い取りを希望する日立金属側の打診に対して上記の提案をしましたが、撤去しないまま35万円で田んぼを売り渡すつもりは毛頭なく、「本来、原因者の日立金属らが、有害スラグをすべて撤去したうえで、健全な田んぼに戻すことが最前提であり、田んぼの買い取りはその後の話」として主張したところ、原因者の日立金属はAさんのまともな提案を受け入れようとせず、2回目の調停は決裂したとのことです。

■日立金属安来工場は臨海部に位置しており、フッ素入りの有害スラグの処理については沿岸部の埋立てに使えることから、内陸県の群馬県に立地している大同特殊鋼渋川工場や東邦亜鉛安中製錬所がスラグの処理に悪知恵を常に働かせている状況とは無縁であり、スラグの処理については問題発生がほとんどないと思われていました。

 ところが実際には、安来市内の各所で日立金属安来工場由来の有害スラグの投棄が取りざたされていることが、Aさんの報告でも明らかです。

 当会は大同特殊鋼渋川工場由来のフッ素・六価クロム入りの有害な鉄鋼スラグや、東邦亜鉛安中製錬所由来の鉛・ヒ素入りの有害な非鉄スラグの不法投棄問題に取り組んできています。その知見を、島根県においても活用できれば、これほど嬉しいことはありません。

【8/15追記】
 本日は終戦記念日であり、送り盆ですが、Aさんがお盆を控えて8月11日に近くの墓掃除に行ったところ、駐車場を見て異変に気付いたとして、当会に報告がありました。
 その駐車場には、日立金属安来工場由来の鉱さいが埋め込まれて、表面をアスファルトで舗装したため、鉱さいが水分を吸って膨張し、地表面がボコボコになっていました。それが、なぜか突然急に補修されていた箇所を目撃したAさんはビックリ仰天しました。










以上、ご覧のとおりの状況。日立金属が鉱さい(スラグ)を埋めたこの駐車場のあちこちの凹凸はスラグの膨張崩壊性によるものとみて間違いないだろう。
 大同特殊鋼のスラグの場合、いちおうエージング処理をしているとカタログで強調しているが、日立金属は海岸沿いに立地しているせいか、いつでも埋立用の資材として処理できるせいかどうか定かではないが、どうやらエージングしてないようだ。
 エージング処理については次のブログを参照のこと。
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1977.html
 ↑

 誰がいつ何のために・・・。Aさんは直ぐに思い当たりました。先日、8月7日に行われた日立金属ら原因者との調停の時に、Aさんが「日立金属の鉱さいがお墓の駐車場にも埋められている」と証言したことを思い出したのでした。Aさんは「それで、証拠を隠蔽したのではないか」と語っています。【8/15追記終わり

【8月21日追記】
 8月20日に日経が日立金属に関するスクープ記事を報じました。
**********日経ビジネス2020年8月20日
スクープ 日立、日立金属を売却へ 「選択と集中」が最終段階に
 日立製作所が約53%の株式を保有する上場子会社、日立金属を売却する検討に入ったことが日経ビジネスの取材で明らかになった。売却に向け外資系証券会社をファイナンシャルアドバイザーとして雇い、入札の準備に入った。日立金属は日立製作所グループの「御三家」の一角。同じく御三家の一つだった日立電線は2013年に日立金属と合併しており、もう一つの日立化成は今年、昭和電工に買収されている。日立金属の売却が進めば、「御三家」がすべて日立グループの外に出ることになる。

日立製作所は上場子会社の株式売却を進めており、日立金属と日立建機の2社が残っていた(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
**********ブルームバーグ2020年8月20日 13:07 JST 更新日時 2020年8月20日 13:29 JST
日立、上場子会社の日立金属を売却へ-FA起用し入札準備
 日立製作所が上場子会社、日立金属を売却する検討に入ったことが明らかになった、と日経BPが20日、報じた。売却に向け外資系証券会社をファイナンシャルアドバイザー(FA)として雇い、入札の準備に入ったとしている。

日立のロゴPhotographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
 日経BPの報道によると、今秋にも買い手候補を募る入札を開始する計画。日立は「選択と集中」を旗印に上場子会社の整理を進めており、その一環としている。日立広報担当の久永禎氏は当社から発表したものではなく、コメントはないと述べた。
 報道を受けて日立金属の株価は一時、2009年1月以来の日中上昇率となる前日比15%高の1740円と大幅に上昇。日立株も同1.9%高の3590円まで買われた。
 日立はコーポレートガバナンス上で問題があるとされる「親子上場」の解消の狙いもあって、上場子会社との資本関係の整理を進めてきた。昨年12月に発表された昭和電工による日立化成の公開買い付け(TOB)では、日立は保有株をすべて売却。今年1月には逆に日立ハイテクノロジーズにTOBを実施し、総額5311億円で完全子会社化すると発表していた。
 日立の河村芳彦最高財務責任者(CFO)は7月30日の決算会見で、上場子会社との関係については数カ月後に方向性を出すと述べていた。
(堀江政嗣)
**********ロイター2020年8月20日
日立「企業価値向上に様々な検討、決定事実はない」 日立金属売却報道で
[東京 20日 ロイター] - 日立製作所は20日、同社が日立金属を売却する検討に入ったとの報道を受けて、「企業価値向上に向けてさまざまな検討は行っているが、現時点で決定した事実はない」とのコメントを発表した。
 日経ビジネス電子版は20日、日立製作所が約53%の株式を保有する上場子会社、日立金属を売却する検討に入ったと報じた。売却に向け外資系証券会社をファイナンシャルアドバイザーとして雇い、入札の準備に入ったという。
 日立金属は日立製作所グループの「御三家」の一角で、日立金属の売却が進めば、日立電線、日立化成に続き「御三家」がすべて日立グループの外に出ることになる。
**********【8/21追記終わり】

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

※参考情報「日立金属の不正検査発覚」
**********日立金属HP 2020年4月27日
URL:https://www.hitachi-metals.co.jp/topinfo/20200427.html
【重要なお知らせ】当社及び子会社の一部製品における検査成績書への不適切な数値の記載等について
 このたび、当社及び子会社において製造する特殊鋼製品並びに磁性材料製品(フェライト磁石及び希土類磁石)の一部につきまして、お客様に提出する検査成績書に不適切な数値の記載が行われていた等の事実が判明しましたので、現時点で把握している事実及び今後の対応について下記の通りご報告いたします。
お客様をはじめ関係各位に多大なるご迷惑をおかけすることとなり、深くお詫び申し上げます。
 当社では、今後このような事態を再び起こすことがないよう、外部の専門家から構成される特別調査委員会による調査で、事実・原因を徹底究明するとともに、品質保証体制の抜本的な見直しとコンプライアンスの一層の強化を図ることで、再発防止及び信頼の回復に全力で取り組んでまいります。
【本件に関するお客様お問い合わせ先(受付時間09:00~17:30、土日祝日を除く)】
■特殊鋼製品について 03-6774-3366、03-6774-3348
■磁石製品について 03-6774-3446
■そのほかのお問合せはWeb問合せフォームからお願いします
日立金属Webお問い合わせフォーム一覧
【発表資料】
○2020年6月3日:当社事業所および当社子会社の品質マネジメントシステム登録(認証)一時停止に関するお知らせ
ZIP ⇒ 20200603isoxm.zip
○2020年4月27日:当社及び子会社の一部製品における検査成績書への不適切な数値の記載等について
ZIP ⇒ 20200427sklm.zip

**********RESPONSE 2020年4月28日(火)08時49分
日立金属、車部品などの特殊鋼・磁石で検査不正が発覚[新聞ウォッチ]
 大型連休に入り、外出を控えての「自粛疲れ」でもないが、新型コロナウイルス関連以外の気になる記事を取り上げるのは久しぶりである。まさか、どさくさに紛れての発表ではないだろうが、日立製作所傘下の日立金属が、自動車部品向けなどの特殊鋼や、家電用モーターなどに使われるフェライト磁石などの品質試験で、検査成績書の数値を改ざんするなどして、納入先に提出していたという。
 日立金属が発表したもので、今年1月に特殊鋼の不正に関する情報提供があり、調査を進めて見つかったそうだ。検査不正は4種類の製品で、納入先は延べ約170社に上り、しかも10年以上にわたって改ざんが続けられて、それには管理職も関与していた「組織ぐるみ」というから驚くばかりだ。
 自動車部材などに使われる特殊鋼では、安来工場(島根県安来市)で検査データの改ざんなどが確認。14品種が約30社の顧客へ納入されたという。また、自動車や家電のモーターなどに使う磁性材料ではフェライト磁石と、ネオジムなどから作る希土類磁石で不正が判明。熊谷磁材工場(埼玉県熊谷市)や佐賀工場(佐賀県大町町)のほか、韓国やフィリピンなど海外の拠点でも同様の不正を確認。それぞれ約70社の顧客へ納入されたそうだ。
 きょうの各紙をみると、朝日が経済面のトップで「日立金属が検査不正、車部品の特殊鋼・磁石」と大きく報じているが、読売にはその記事はなく、産経は情報欄にわずか8行程度で、朝日を除くと極めて地味な掲載だ。中西宏明会長が経団連会長を務めていることへの“忖度”とは思いたくないが、日立製作所では競争力強化のため、グループ再編を進めており、同じ日立傘下の日立化成でも2018年6月に品質不正が発覚。その後、昭和電工に買収されることが決まったという経緯もある。
 日立金属では弁護士などで構成する特別調査委員会を設置、再発防止策などに取り組むというが、10年以上も改ざん不正を見過ごしていた隠蔽体質では、社内の杜撰なコンプライアンスにも問題がある。

**********日経2020年4月27日19:06
日立金属、特殊鋼や磁性材料で検査不正 約170社に出荷
 日立金属は27日、主力製品である特殊鋼やフェライト磁石など磁性材料について、社内で検査不正があったと発表した。顧客に提示する検査データを書き換えるなど、不正を通じて製品を納入した顧客は延べ約170社に上る。現時点ではいずれの案件でも安全性や性能に問題は生じていないという。業績に与える影響は現時点で不明としている。

フェライト磁石では顧客向けの検査データで不正な記載があったという
 同社の製品は自動車や家電などに幅広く使われている。フェライト磁石は高性能分野のシェアでは世界でもトップクラスという。日立金属は2020年3月期の連結売上高を現時点で8950億円と予想。うち約170社に出荷した不正品の出荷実績は約245億円だったようだ。
 自動車部材などに使われる特殊鋼では、安来工場(島根県安来市)で検査データの改ざんなどが確認された。14品種が約30社の顧客へ納入されたという。
 自動車や家電のモーターなどに使う磁性材料ではフェライト磁石と、ネオジムなどから作る希土類磁石で不正が判明した。熊谷磁材工場(埼玉県熊谷市)や佐賀工場(佐賀県大町町)のほか、韓国やフィリピンなど海外の拠点でも同様の不正を確認。それぞれ約70社の顧客へ納入された。
 西山光秋会長兼最高経営責任者(CEO)は27日、電話による記者会見で「(検査データの不正は)少なくとも10年以上継続していた」と説明。同日付で弁護士などで構成する特別調査委員会を設置しており、再発防止策などに取り組む。
 日立金属は日立製作所グループでかつて「御三家」と呼ばれた中核子会社の一つ。だが、磁石事業の不振などで業績悪化に苦しむうえ、親会社の日立は事業のシナジー(相乗効果)が乏しいとして売却を検討している。今回の不正が日立のグループ再編に影響を及ぼす可能性もある。

**********日刊自動車新聞電子版2020年04月28日
日立金属、特殊鋼と磁性材料製品で検査不正 成績書や製造工程を改ざん 10年以上続く

フェライト磁石
 日立金属は27日、同社と子会社が製造する特殊鋼製品と磁性材料製品の一部で検査不正などがあったと発表した。顧客に提出する検査成績書や製造工程の一部を改ざんして報告していた。対象顧客は自動車部品メーカーなど延べ約170社。現時点では今回の不適切事案で安全性や性能などに関する問題は発生していない。同日、電話会見を行った西山光秋会長兼CEOは「少なくとも10年以上は続いていた」と説明した。
 2020年1月に特殊鋼製品を製造する安来工場(島根県安来市)の不適切行為に関する情報提供とその後の調査で一連の不正が発覚した。特殊鋼製品では14品種を約30 社に納入されたことを確認した。
 磁性材料製品では自動車の電装・駆動用モーターなどにも使うフェライト磁石と希土類磁石の製品の一部で検査成績書の改ざんが発覚した。2製品合計で自動車部品メーカーなど約140社に納入されたことを確認。対象工場は熊谷磁材工場(埼玉県熊谷市)や佐賀工場(佐賀県大町町)、子会社、韓国やインドネシアなどの海外拠点などとなる。
 不適切行為の発覚後は顧客に対して個別に報告し、対応について協議を続けている。また、27日付で弁護士などで構成する「特別調査委員会」を設置し、客観的な視点での事実関係や発生原因の調査を依頼した。同委員会の調査結果を踏まえて、コンプライアンスの強化など再発防止策に取り組む。不正に関する業績に与える影響は現時点では不明としている。

**********東洋経済ONLINE 2020年04月30日05:10
日立グループ、「金属」「化成」で不正相次ぐ事情
日立金属で10年以上の検査データ不正が発覚


日立グループで検査不正が相次いで発覚している(写真:ロイター/Toru Hanai)
 日立グループで検査不正がまた発覚した。
 日立金属は4月27日、主力の特殊鋼製品とフェライト磁石などの磁性材料で、検査データを偽造するなどの検査不正があったと発表した。いずれの部品も自動車や家電、産業機器などで幅広く使われており、不正を通じて製品を納入した顧客は延べ約170社に上る。
★検査データを書き換え、顧客に提出★
 不正があったのは特殊鋼、フェライト磁石、希土類磁石の3種類の素材だ。特殊鋼はクロムやニッケルなどを特殊配合して耐久性を強くした鋼で、主に加工治具や自動車部材に使われている。
 またフェライト磁石は、主にワイパーやパワーウィンドウなど自動車用やエアコン等家電用の各モーターに用いられ、希土類磁石はネオジム等のレアアースを主原料とする強力な磁石で、自動車の電動パワーステアリングやFA(ファクトリー・オートメーション)、ロボット用モーターに使われている。
 いずれも顧客と契約していた品質基準に合うように検査データを書き換えたものを「検査成績書」として顧客に提出。特殊鋼では14品種、約30社、フェライト磁石は約580品番、約70社に、希土類磁石は約370品番、約70社の顧客にそれぞれ納入されていた。
 不正には特殊鋼を作っている安来工場(島根県安来市)や、磁石を作っている熊谷磁材工場(埼玉県熊谷市)などの国内拠点のほか、韓国、フィリピン、インドネシア、アメリカの海外拠点も関与していた。3品目の2019年度の売上高は合計3105億円で、そのうち実際に不正が一部でも認められた製品は245億円分に上る。
 日立金属の西山光秋会長兼CEOは4月27日に電話会見を開き、「現時点では安全性、性能に問題があるものは確認されていない」と説明したうえで、「顧客にご相談申し上げて、合意のもと出荷を継続している」と話した。業績に与える影響は現時点で不明という。
 不正が発覚したきっかけは2020年1月下旬、安来工場で不正が行われているとの情報提供だった。社内調査を進めた結果、フェライト磁石と希土類磁石でも同様の不正が判明した。
 西山会長は「不正は少なくとも10年以上前から継続していた」と説明。上層部も関わっていた可能性があるため、今後歴代幹部から聞き取り調査を行う方針とみられる。4月27日付で長島・大野・常松法律事務所の弁護士らからなる特別調査委員会を設置し、原因究明を急ぐ考えだ。
★日立の中核子会社で相次ぐ不正★
 日立グループをめぐっては、中核子会社の日立化成でも2018年に産業用鉛蓄電池などで大規模な品質データ不正が発覚している。このとき、日立グループでは全社に総点検するように指示していたが、今回の不正を防げなかったことになる。
 くしくも日立金属の西山会長は4月に親会社である日立製作所の専務兼CFOから転じたばかり。西山氏は「今回の不正と人事は関係ない」としたうえで、「(日立グループの総点検で)不正が把握できなかったのは私としても悔しい」と話した。
 一方、日立化成に続く中核子会社での相次ぐ不正は日立グループ全体の問題ではないかとの指摘には反論。西山氏は「日立グループの問題というよりも、日立金属は(独立した)上場会社だ。責任を持って調査して説明責任を果たさなければならない」と強調した。
 原因究明はこれからだが、コストを意識していた可能性もある。今回顧客との契約とは違う工程を未申請のまま変更したケースでは、自社材料から外部購入に変更していた。
 その理由について、西山会長は「おそらくはコスト。外部購入の方がコストが安いから変更したと推測できる」と認める。もっとも顧客は日立金属の材料を使用した製品と理解して購入しているため、契約が不成立になる恐れもある。
★試される「名門」のガバナンス力
 日立金属は日立化成とともに日立グループ御三家の一角を占め、売上高は1兆円規模を誇る。だが、磁石事業などの不振で業績低迷が続いている。2019年4~12月期は本業の儲けを示す調整後営業利益が前期比72%減の118億円に下落。前期まで3期連続で減益のうえ、2020年3月期は磁性材料で減損を計上し、470億円の最終赤字に転落する見込みだ。足元では新型コロナウイルスの感染拡大もあり、さらに下振れする可能性が高まっている。
 日立金属幹部はここ数年の業績不振について、「構造改革を怠り、全方位で積極投資した結果、固定費が大幅に増えてしまった」と分析する。西山氏は「一刻も早い業績の回復、事業再編に取り組んでいきたい」と抱負を述べたばかりだった。
 日立金属はもともと独立心が旺盛で、日立製作所との取引も少ない。ただ、2010年に日立金属社長を日立製作所の副社長に就けるなど、グループの一体感を高める動きもあった。その後、2013年に日立電線と経営統合し、日立化成との統合も模索していたが、日立化成は昭和電工への売却が決まった。そうしたこともあって、日立金属も業績が回復すればグループ外へ売却されるのではないかとの観測が強まっていた。
 ただ新たな問題が浮上したことで、売却の行方は不透明になってきた。原因究明には少なくとも数カ月かかるとみられるが、日立化成の不正問題のように、調査の過程でまた追加の不正が出る可能性も残る。名門で相次いだ不正をどう食い止めるか。日立のガバナンス力が試されている。
(冨岡耕:東洋経済記者)
**********

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【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】コロナ凍結の第二次訴訟再開目前に届いた被告高専機構の準備書面(2)

2020-08-14 01:15:00 | 群馬高専アカハラ問題
■群馬高専アカハラ犯の雑賀洋平が沼津に「人事交流」で異動していた最中、この「異動」に関する経緯等情報の開示を求めたところ、沼津異動期間がなぜか黒塗りとされて文書が出てきました。裏には、高専機構の情報不開示アドバイザーであるいつもの銀座の弁護士の影がありました。とにかく執拗に延々と理不尽な黒塗りで嫌がらせしてくることに辟易としたため、2019年10月の高専過剰不開示体質是正訴訟プロジェクトの一環として、ここに争点を絞った訴訟を提起し、第二次訴訟としておりましたことは既報のとおりです。

 提訴に応じて今年1月29日に被告高専機構の答弁書が出され、それを踏まえて2月4日に第1回口頭弁論が開かれました。そして、被告の説明不足を指摘した清水裁判長の訴訟指揮により、3月3日に答弁書補充となる被告準備書面(1)が提出されたため、当会ではこうした被告高専機構の杜撰な主張を一点一点指摘して準備書面を作成しました。ところがこのたった2か月程度の間に、いきなり現れた新型コロナウイルスの脅威が瞬く間に全世界を覆い尽くしてしまい、歴史的な緊急事態宣言発令に揺れる2020年4月7日の東京で、当会は原告準備書面(1)を提出したのでした。この緊急事態宣言のため、4月21日に控えていたはずの第2回口頭弁論は中止され、再開の目途すら付かなくなってしまっていました。

 その後、7月8日にようやく再開の連絡があり、並行する第一次訴訟と事実上日程を併合する形で、8月20日にようやく半年と半月ぶりの口頭弁論が開かれるはこびになりました。

○2019年10月20日:高専組織の情報隠蔽体質是正は成るか?オンブズが東京地裁に新たなる提訴!(その3)
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3057.html
○2020年3月5日:【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】第二次提訴に対する高専機構からの答弁書と第一回口頭弁論の様子
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3128.html
○2020年4月13日:【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】緊急事態宣言に揺れる東京で原告当会が第二次訴訟準備書面(1)提出!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3149.html
○2020年7月9日:【高専過剰不開示体質是正訴訟・報告】七夕の第一次訴訟第3回弁論報告&第二次訴訟の再開通知到来!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3180.html

■すると、待ち望んだ口頭弁論再開が2週間後に迫る8月7日、被告高専機構の代理人弁護士事務所である銀座の田中・木村法律事務所から、被告準備書面(2)が突然FAXで送られてきました。
 内容は、原告当会が4月7日に提出した上記の原告準備書面(1)に対しての再反論となっています。本来、コロナ騒ぎがなければ、第2回口頭弁論では原告準備書面(1)までを吟味して次の訴訟指揮がなされるはずでしたが、未曾有の事態によってその日程は宙に浮いてしまいました。今回、「コロナ様」のおかげで転がり込んできた4か月もの時間をフルに使って、原告準備書面(1)を無効化するためのありとあらゆる詭弁とハッタリを用意してきたものと思われます。それを示すように、今回の被告準備書面(2)は7ページと、手抜き恒例事務所にしてはそれなりの分量です。

■それでは、第二次訴訟に関しての被告高専機構側の準備書面(2)の内容を見てみましょう。

*****被告準備書面(2)*****ZIP ⇒
FAX送信分:20200807f1iqjfaxm.zip
郵送によるクリーンコピー:20200808c1iqjxnrs.zip
令和元年(行ウ)第549号 法人文書不開示処分取消請求事件
 原 告  市民オンプズマン群馬
 被 告  独立行政法人国立高等専門学校機構

          準 備 書 面(2)
                     令和2年8月7日

東京地方裁判所民事第51部2B係  御中

           被告訴訟代理人弁護士  木 村 美 隆
                同      藍 澤 幸 弘

             記
 原告の令和2年4月6日付準備書面(1)について
 1 同1項(1)について
(1) 原告の指摘事項
   原告は,被告における高専間人事交流制度(以下「人事交流」という)の実施にともなう人員補充について,被告が一般採用により正規教員または非常勤講師を補充する場合には「補充必要性」を公表周知すべきであること,他校から人事交流制度により教員を補充する場合には,派遣受入校(かつ派遣元校)の校長が選択的に却下できるので人事管理に支障は生じない,と指摘する。
   しかし,原告の上記指摘は,人事交流の実施にともなう人員補充が,派遣期間内に限定されたものであることを前提としていると解され,実際に各高専が非常勤講師を採用する場合の実態とは異なっている。また,人事交流において交換的に教員を派遣する揚合には双方で派遣期間の調整が行われるのであり,関係者が派遣期間の内容を承知している。被告のいう人事管理上の支障が生じるおそれ(法5条4号へ)は,このような交換的派遣を念頭に置いたものではない。

(2)高専間人事交流制度にともなう非常勤講師の採用の態様
 人事交流により派遣元校が教員を派遣する場合,派遣元校の他の教負や非常勤講師が,派遣教員の実施していた授業を担当する方法により派遣教員の業務を代替する場合もあれば,派遣実施前に非常勤講師を新たに採用する場合もあり,派遣教員が行っていた業務を補充する方法は,各学校の判断に委ねられている。なお,人事交流により派遣元校と派遣受校が交換的に教員を派遣することはあるが,派遣元校の業務を補充するために他校から非常勤講師が異動するという対応は行っていない。
 そして,各学校が人事交流の実施にともなう人員補充を念頭に非常勤講師を採用(被告の外部から採用する場合もあり,派遣元校以外の被告の高専に所属する非常勤講師等と新たに契約を締結する場合もある)しようとする場合,候補者には派遣教員の派遣期間に応じた契約期間を提示している。そして,この契約期間終了後に契約を更新するかどうかは各学校の業務の実情に応じて判断されており,非常勤講師の担当する授業内容を変更して契約を更新するといった場合もある。このように派遣教員が派遣元校に復帰した後には,常に非常勤講師の契約を終了させるといった取り扱いは行っていないため,非常勤講師を募集する際には人事交流の実施にともなう人員補充のための採用であることまでは示していない。
 以上のように,派遣教員の実施していた業務を補うために非常勤講師を採用する場合でも,当該採用は人事交流の実施をきっかけにしたものにすぎず,派遣期間の終了によって非常勤講師の契約がただちに終了するものでもない。それにもかかわらず,同制度における派遣が決定した段階(甲第3号証の作成日は,派遣開始日の約6ヶ月前である)で派遣期間が外部に公開されると,非常勤講師の募集が同制度による派遣にともなうものであり,派遣期間満了後には契約更新の見込みはないといった推測を生じさせることともなって,派遣元校における非常勤講師の採用活動に支障が生じるおそれがある。
 よって,甲第3,4号証のうち,交流期間派遣期間の記載は,法5条4号への「人事管理に係る業務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」のある情報が記載されたものに該当する。

2 同1項(2)について
(1)原告の指摘内容
 原告は,人事交流における派遣期間について,派遣元校や派遣受入校の教員に周知されないとの被告の主張は事実に反し,学校長が内部の教員等に人事交流の派遣期間等の情報について守秘義務を課されていたり,慣例としてそのよう(保秘扱いとして)に運用されている事実は認められないとし,また,実際に派遣教員や各高専管理者が口頭やホームページ等の挨拶で派遣期間を教員,学生に周知することが通例であると指摘する。

(2)派遣受入校への派遣期間の通知方法と派遣期間の取り扱いについて
 人事交流に関し,被告が各高専の学校長に通知した書面は甲第3,4号証のとおりである。甲第3号証は,派遣元校及び派遣受人校の各校長への通知であり,甲第4号証は全高専の校長へ宛てた通知であるが,これら通知の方法は,被告が甲第3,4号証の文書のデータを被告内部(機構本部及び各高専)で利用しているファイル共有システム(被告内のネットワークからのみ接続可能である)に保存し,その旨を甲第3号証は該当する高専の人事担当者に, 甲第4号証については校長,事務部長ほかの人事担当者(以下「人事管理者」という)に告知する方法により行っている(乙1)。甲第3号証が保存されたフォルダは,アクセス権限を有する者しか開くことができず,甲第4号証については人事管理者にフォルダやファイルを開くためのURLを通知する(乙2) という方法で管理しており,甲第3号証はアクセス権限を有する人事担当者数名のみが閲覧できる運用,甲第4号証は人事管理者のみに通知する運用となっている。このように,人事交流における派遣情報は,アクセス権限を有する者ないし人事管理者のみが知りうる態様で管理されており,派遣決定がなされた段階で,被告が派遣期間を派遣元校や派遣受入校の教員に周知している実態はない。
 また,甲第16号証で指摘する教員の挨拶文が,人事交流で派遣された教員のものであること,甲第14号証が奈良工業高等専門学校のホームページから引用されたものであることは原告が指摘するとおりである。しかし,派遣された教員が派遣受入校において自身の派遣期間を明らかにするかは,各教員や各高専の判断によるのであり,派遣された教員が派遣期間を自ら公開する慣行があるといった実態はない。
 そもそも,人事交流にともない非常勤講師の補充がなされるのは,人事交流の開始前であって,人事交流の実施後に派遣教員が派遣期間を公開したとしても,非常勤講師の補充に対する影響は小さいと考えられる。その意味で,派遣から約半年前の派遣決定時に派遣期間を公開することと,派遣教員が派遣開始後に派遣期間を公開することは,非常勤講師の補充に対する影響が大きく異なるというペきである。

3 同1項(3)について
(1)原告の指摘内容
 原告は非常勤講師の雇用は形式上1年ごとの更新であるところ,人事交流による人員派遣にともない非常勤講師を採用する場合には,採用の際に見込まれる勤務期間をあらかじめ通知することが通常であり,被告の「派遣期間が認知されると更新の可能性が低いと応募者側が判断して応募を見合わせるおそれがある」との主張は,たとえば採用の際,契約更新の可能性が皆無であるとあらかじめ分かっているにもかかわらず,そのことに一切触れないまま,契約に至らせることを優先して「更新可能性有」などと虚偽を伝えていることに等しい,と指摘する。

(2)非常勤講師の採用期間について
 しかし,人事交流による人員派遣にともない非常勤講師を採用するにあたり,候補者には派遣期間にあわせて実質的な契約期間を説明していること(非常勤講師の契約は,形式的には1年ごとの更新となっていることは,原告の指摘のとおりである),各高専の業務の実情により派遣期間満了後も契約を更新する場合もあり,募集をする際には,人事交流の実施にともなう人員補充のための採用であることまでは示していないことは前記1項(2)で述べたとおりである。
 原告は,人事交流にともなう非常勤講師の採用が,派遣期間の穴埋めとして採用される者であり,派遣期間を終えた派遣教員が派遣元校に復帰するかどうかと,非常勤講師の契約更新可能性の有無が直結しているのは明らかである,との認識を前提に前記(1)の指摘をしているが,その前提となる認識が実態と異なっている。派遣教員の派遣元校への復帰と,非常勤講師の契約を更新するかどうかは必ずしも直結していないことは,上記のとおりである。

4 同2項について
(1)原告の指摘内容
 原告は,被告が派遣期間情報の記載された文書を各高専内部の一般教職員や学生に向けて配布掲示させたり,インターネット上等で公表したりといった積極的な措置を行っていないにすぎず,派遣期間情報を積極的に不開示情報として扱うよう定めた規程ないし慣例が存在していない以上,派遣期間情報は法5条1号ただし書きの,「慣行として公にすることが予定されている情報」に該当する,と指摘する。

(2)派遣期間情報が「慣行として公にすることが予定されている情報」に該当しないこと
 しかし,法5条1号ただし書きの「慣行として公にすることが予定されている情報」とは,公にすることが慣行として行われていること,事実上の慣習として公にされていること,または公にすることが予定されていることを意味しており当該情報と同種の情報が公にされた事例があったとしても,それが個別的な事例にとどまる限り「慣行として」にはあたらず(乙3),例えば取材や雑誌への投稿・掲載等でたまたま明らかになっているものであれば,「慣行として」には該当しないとされる。
 原告は人事交流の実施後に派遣教員が挨拶等で派遣期間に言及したり,高専が派遣期間を開示している事案があることを指摘して派遣期間が「慣行として公にすることが予定されている情報」に該当すると指摘するが,被告において派遣受入校の高専や派遣教員が派遣期間を公にするような慣行はなく,これらの個別的な事例があったことが「公にする慣行」があることの根拠となるものではない。
 また,そもそも人事交流における派遣実施後に派遣期間が明らかにされることと,その約半年前の段階における派遣決定時に派遣期間が公にされることは意味が異なることは前記のとおりであり,派遣教員等が派遣期間を明らかにすることは,派遣決定時における派遣期間を開示する「公の慣行」の根拠となるものではない。
 なお,被告において,人事交流における派遣決定時に派遣期間を公にする慣行はない。

5 同3項について
(1)原告の指摘内容
 原告は,人事交流におけるすべての事案に関する派遣期間の開示を求めているわけではなく,訴状別紙に示す雑賀氏個人の派遣期間情報に限って開示しても,法5条4号への「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」が新たに生じうるおそれはなく,法6条に従って部分開示されるべきであると指摘する。

(2)法6条における部分開示の内容
 そもそも法6条は部分開示について「独立行政法人は開示請求に係る法人文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。」と規定しており,不開示部分について裁量的に開示する義務を生じさせる規定ではない。
 人事交流における派遣期間の情報が不開示事由に該当することはこれまで主張したとおりであり,法6条に関する原告の主張は,同条の解釈を誤ったものといぅべきである。
 なお,甲第15号証は人事交流における派遣者及び派遣期間を一覧にまとめたものであり,原告がどのような経緯でこの書面を入手したかは不明であるが,被告がこのような一覧表をホームページで外部に公開したり,被告内部においてこのような一覧表が周知されているといった実態はない。
                                      以上
**********

*****証拠説明書と乙号証*****ZIP ⇒
FAX送信分:20200808c1iqjxnrs.zip
郵送によるクリーンコピー:20200808c2i13jxnrs.zip
令和元年(行ウ)第549号 法人文書不開示処分決定取消請求事件
原 告  市民オンブズマン群馬
被 告  独立行政法人国立高等専門学校機構

            証  拠  説  明  書

                           令和2年8月7日

東京地方裁判所民事第51部2B係 御中

             被告訴訟代理人弁護士  木  村  美  隆
                  同      藍  澤  幸  弘

              記

●号証:乙1
○標目:メール(平成31年度高専・同技科大間教員交流制度派遣推薦者の派遣決定について)
○原本・写:写
○作成年月日:H30.10.10
○作成者:被告
○立証趣旨:被告が人事交流の派遣元校及び派遣受入校の人事担当者のみがアクセスできるファイルに甲第3号証を保存する形式で派遣決定の内容を通知しており,派遣決定時に,派遣期間を関係する高専の教員等に公開,周知していないこと

●号証:乙2
○標目:メール(平成31年度高専・同技科大間教員交流制度派遣者の決定について)
○原本・写:写
○作成年月日:H30.10.10
○作成者:被告
○立証趣旨:被告が人事交流の派遣決定時に,被告が各高専の校長,事務局長等の人事管理者に限り派遣決定に関する文書(甲4)にアクセスするためのURLを告知しており,派遣決定の内容を各高専の教員等に公開,周知していないこと

●号証:乙3
○標目:独立行政法人国立高等専門学校機構における法人文書の開示決定等に係る審査基準(抄)
○原本・写:写
○作成年月日:H16.4
○作成者:被告
○立証趣旨;被告における,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に基づく処分に関する審査基準の概要,法5条1号ただし書イの「慣行として公にされた情報」とは,公にすることが慣行として行われていること,事実上の慣習として公にされていることを意味しており,当該情報と同種の情報が公にされた事例があったとしても,それが個別的な事例にとどまる限り「慣行として」にはあたらないこと。
なお,本審査基準は,文部科学省における行政文書の開示決定等に係る審査基準に準じている。
**********

■4か月間もかけて熟慮してきたわりには、致命的な点を間違えています。なぜか、原告当会が開示を求める雑賀洋平の派遣開始決定が派遣から約半年前に作成されたことをもって、原告当会が派遣開始前の時点で当該情報の公開を求めたことに話がすり替わっています。そしてその事実誤認、というよりもはや妄想を前提に、雪崩をうったように何度も致命的に間違えた主張をしています。

 なお、当会が雑賀洋平の沼津異動経緯に関する情報について開示請求をしたのは、とっくに沼津に異動済みの2019年8月9日です(https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3041.html)。そもそも因果関係として、雑賀洋平が沼津に異動したと知ったために開示請求をしたのですから、時系列がアベコベです。

 しかも、ご丁寧にも高専機構は、「人事交流の実施後に派遣教員が派遣期間を公開したとしても,非常勤講師の補充に対する影響は小さいと考えられる。その意味で,派遣から約半年前の派遣決定時に派遣期間を公開することと,派遣教員が派遣開始後に派遣期間を公開することは,非常勤講師の補充に対する影響が大きく異なるというペきである。」として、異動完了後にその予定期間を公開しても問題ないと自ら認めてしまいました。信じられないまでの自爆行為ですが、高専機構と田中・木村法律事務所はいったい何を考えているのでしょう。

 本気で事実誤認しているものでないとすれば、故意に原告当会のやってもいないことをやったことにして、話の大前提をすり替えたまま、強引に判決に持ち込もうとしているとしか考えられません。国立高専の人事交流制度という極めてマイナーな領域の話なので、いくら適当なことを言っても、裁判官はよく理解しないまま国家機関である自分たちの主張を鵜呑みにして判決を出してくれると期待しているのでしょうか。しかし、原告が開示請求をしたのが雑賀の沼津異動前か異動後かというのは、もっとも根本的で単純な事実関係なのですから、いくら高専の認知度の低さを利用して煙に巻こうといっても無理があります。

■今回、被告高専機構側はコロナのおかげで空いた時間を使い、本来は原告の準備書面(1)を踏まえて行われるはずだった第2回口頭弁論の直前に、自分たちの準備書面(2)を差し込んできました。しかし普通に考えれば、このタイミングでは準備書面は出さずにおいて第2回口頭弁論を済ませ、第3回口頭弁論直前に準備書面を提出したうえそのまま結審させていれば、準備書面の作成にはさらに時間を使え、しかも原告側に反論機会を与えないまま時間稼ぎもできたはずです。

 そこから推測すると、被告高専機構側は、原告が最後に準備書面を出したまま第2回口頭弁論で結審されてしまうリスクを恐れて、あえてこのタイミングで準備書面を提出してきたものと考えられます。しかし、裁判官がよほどのポンコツでなければ、いくらなんでもこの破綻した準備書面がそのまま通るとも思えません。

■原告・被告双方から出揃っている準備書面を見て、清水裁判長はどのような判断を下すのでしょうか。当会では、コロナによるイレギュラーや被告側のなりふり構わない杜撰な主張に鑑み、再度原告に反論機会を与えるため第3回口頭弁論を開くことを強く要請する方針です。8月20日の16時から東京地裁4階419号法廷にておこなわれる第2回口頭弁論の様子については、追ってご報告します。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

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【大同有害スラグ問題】・・・“スラグにアスファルトでフタすることは違法”と断じた判決文について考察

2020-08-13 23:16:00 | スラグ不法投棄問題

■2020年8月6日の上毛新聞に『スラグ撤去請求権行使せずは「違法」 渋川市行政訴訟 前橋地裁判決』という見出しの報道がありました。スラグの撤去という観点から見れば、全面勝訴というべき判決文が当会に情報提供されましたので、判決内容を見ていきましょう。


畑の中にある渋川農道のアスファルトでフタをする以前の様子。40ミリの大きさに砕かれた生一本スラグが敷砂利されている。畑の中に天然石以外の敷砂利をするのはいかがなものか、と心配するお役人様はいなかったのだろうか?

 この事件の判決に関する新聞報道はこちらです。↓↓
○2020年8月6日:【速報】大同有害スラグ報道・・・スラグにアスファルトでフタすることは違法判決!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3186.html


■判決文は、長文のうえ、しかも読みにくいので、当会で先にポイントを列挙してみたいと思います。

 まずはこの事件について、概要として押さえておきたい事項は次のとおりです。

①スラグは群馬県廃棄物リサイクル課が認定した産業廃棄物である。

②平成19年に渋川市の農道に大同スラグが敷砂利された。

③平成19年当時は、大同特殊鋼が直接スラグを建設業者や渋川市に販売する形式であった。

④このスラグは渋川市の調査で環境基準を上回れるフッ素が検出され、しかも直下の土壌まで汚染されていた。

⑤このような状況の中、スラグにアスファルトでフタをする工事が行われた。

⑥渋川市は大同特殊鋼と渋川市の工事において使用されたスラグに関する調査・撤去・処分・復旧工事等(以下処理という)について基本協定書を締結していた。末尾資料参照


■次に、この渋川農道スラグ裁判・判決文における司法判断のポイントを列挙します。

(1)渋川市と大同特殊鋼との間で締結された基本協定書には、スラグの処理はスラグに関する調査・撤去・処分・復旧工事等とあるので、被覆はスラグの処理ではなく基本協定書の処理を怠っているのではないか、とする訴えは却下された。

(2)スラグは土壌ではない。砂や石といった土壌とは区別されるべきものである。

(3)渋川農道のスラグからは土壌汚染対策法における溶出量基準及び環境安全品質基準における含有量基準をいずれも超過したフッ素が検出されており、産業廃棄物に該当するとして、裁判所も群馬県廃棄物リサイクル課同様に大同スラグを廃棄物に認定した。

(4)渋川農道のスラグは市道の客観的価値を減じて公有財産を毀損させること、つまりスラグは市道の所有権を侵害していること。

(5)スラグをばら撒いた者や排出者の大同特殊鋼に撤去を求めなければ、スラグの処理に関して渋川市の負担すべき金額が増大することが必至であること。

(6)渋川市はスラグを排出した大同特殊鋼に対し市道の所有権に基づく撤去請求権を有すること。

(7)渋川市は、渋川市の事務を自らの判断と責任において、誠実に管理し執行する義務を負担し(地方自治法138条の2)、渋川市の財産については、常に良好の状態においてこれを管理する義務(地方財政法8条)を負っているので、スラグの撤去請求権を行使しないことは違法であること。

(8)渋川市と大同特殊鋼との間で結ばれた協定書によりアスファルトでフタをする被覆工事をしたとしても市道の所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないことは正当化されない。つまり、協定書の撤去以外のスラグ処理は違法であること。

(9)国土交通省と群馬県県土整備部そして渋川市で組織された鉄鋼スラグ連絡会議のスラグ対応方針に従ってスラグを存置しても、市道の所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないことは正当化されない。つまりスラグを撤去しなければ違法であること。


■ざっと判決のポイントを列挙してみましたが、この判決により渋川市に限らず群馬県、また国なども所有地に依然としてスラグを存置している状況にあることは、所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないことになり、地方自治法138条の2や地方財政法8条に違反することになるでしょう。

 なお、国の場合は地方自治法や地方財政法は適用になりませんが、国有財産法
第九条の五 各省各庁の長は、その所管に属する国有財産について、良好な状態での維持及び保存、用途又は目的に応じた効率的な運用その他の適正な方法による管理及び処分を行わなければならない。


群馬県が整備を進める上信自動車道には(株)佐藤建設工業がスラグを納入したり、工事を受注したり、多くの場所でスラグが使用されている。スラグの撤去を、スラグを投棄した(株)佐藤建設工業に請求しないのは大変問題だ!

それではおまたせしました、判決文をどうぞ。

*****判決文*****ZIP ⇒ 20200805_xo.zip
<P1>
令和2年8月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 山本有理
平成30年(行ウ)第10号 渋川市が産業廃棄物撤去請求等を怠る事実の違法確認請求事件
口頭弁論終結日 令和2年1月20日
            判         決
   群馬県渋川市赤城町津久田201-12
       原       告     角   田   喜   和
       同訴訟代理人弁護士     吉   野       晶
   群馬県渋川市石原80番地
       被       告     渋   川   市   長
                     高   木       勉
       同訴訟代理人弁護士     田   島   義   康
       被告指定代理人       萩   原   喬   史
       同             小   林   弘   朋

            主         文

1 本件訴えのうち,渋川市市道1-4265号線上に存在する大同特殊鋼株式会社排出に係る産業廃棄物について「渋川市の工事における大同特殊鋼株式会社の鉄鋼スラグ製品の処理に関する基本協定書」3条1項による措置を怠ったことが違法であることの確認を求める部分を却下する。

2 被告が,大同特殊鋼株式会社に対し,渋川市市道1-4265号線上に存在する同社排出に係る産業廃棄物について撤去請求をしないことが違法であることを確認する。

3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

            事 実 及 び 理 由

<P2>
第1 請求
 1 主文第2項と同旨。
 2 被告が,渋川市市道1-4265号線上に存在する大同特殊鋼株式会社排出に係る産業廃棄物について,「渋川市の工事における大同特殊鋼株式会社の鉄鋼スラグ製品の処理に関する基本協定書」3条1項による措置を怠ったことが違法であることを確認する。
第2 事案の概要
   本件は,渋川市民である原告が,渋川市市道1-4265号線(以下「本件市道」という。)上に大同特殊鋼株式会社(以下「大同特殊鋼」という。)が排出した産業廃棄物である鉄鋼スラグが廃棄されている旨を主張して,渋川市の執行機関である被告に対し,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,①被告が,大同特殊鋼に対し,本件市道上の上記鉄鋼スラグ(以下「本件スラグ」という。)の撤去請求をすることを怠る事実,及び②被告が,本件スラグについて,「渋川市の工事における大同特殊鋼株式会社の鉄鋼スラグ製品の処理に関する基本協定書」(以下「本件協定書」という。)3条1項による措置を怠る事実がそれぞれ違法であることの確認を求めた事案である。
 1 関係法令等の定め
  (1) 廃棄物処理に関する定め
   ア 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)2条1項は,廃棄物とは,ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。)をいう旨を,同法2条4項1号は,産業廃棄物に該当するものとして,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物である旨をそれぞれ定める。

<P3>
   イ 廃棄物処理法施行令2条8号は,廃棄物処理法2条4項1号の政令で定める廃棄物に鉱さいが該当する旨を定める。
   ウ 廃棄物処理法3条1項は, 事業者は, その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない旨を定める。
   エ 廃棄物処理法19条の5第1項は,産業廃棄物処理基準又は産業廃棄物保管基準に適合しない産業廃棄物の保管,収集,運搬又は処分が行われた場合において,生活環境の保全上支障が生じ,又は生ずるおそれがあると認められるときは,都道府県知事は,必要な限度において,本項各号に定める者に対し,期限を定めて,その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる旨を定め,その対象者について,同項1号は,当該保管,収集,運搬又は処分を行った者等とする旨を,同項5号は,当該保管,収集,運搬若しくは処分を行った者等に対して当該保管,収集,運搬若しくは処分等の行為をすることを要求し,依頼し,若しくは唆(そそのか)し,又はこれらの者が当該処分等をすることを助けた者があるときは,その者とする旨をそれぞれ定める。
  (2) 土壌汚染に関する定め
   ア 土壌汚染対策法(平成29年5月19日法律第33号による改正前のもの。以下同じ。)1条は,この法律は,土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を定めること等により,土壌汚染対策の実施を図り,もって国民の健康を保護することを目的とする旨を定める。
   イ 土壌汚染対策法2条1項は,この法律において「特定有害物質」とは,鉛,砒素,トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう旨を定める。
   ウ 土壌汚染対策法施行令(平成30年9月28日政令第283号による改

<P4>
正前のもの。以下同じ。)1条22号は,士壌汚染対策法2条1項の政令で定める特定有害物質としてふっ素及びその化合物が該当する旨を定め,土壌汚染対策法施行規則(平成29年12月27日号外環境省令第29号による改正前のもの。以下同じ。)4条3項2号ロは, ふっ素及びその化合物が,第二種特定有害物質に該当する旨を定める。
   エ 土壌汚染対策法6条1項は,都道府県知事は,土地が本項各号のいずれにも該当すると認める場合には,当該土地の区域を,その土地が特定有害物質によって汚染されており,当該汚染による人の健康に係る被害を防止するため当該汚染の除去,当該汚染の拡散の防止その他の措置(以下「汚染の除去等の措置」という。)を講ずることが必要な区域として指定するものとする旨を定め,同項1号において,土壌汚染状況調査の結果,当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないことを,同項2号において,土壌の特定有害物質による汚染により,人の健康に係る被害が生じ,又は生ずるおそれがあるものとして政令で定める基準に該当することをそれぞれ定める。
   オ 土壌汚染対策法施行規則31条1項は,土壌汚染対策法6条1項1号の環境省令で定める基準のうち土壌に水を加えた場合に溶出する特定有害物質の量に関するものは,特定有害物質の量を同規則6条3項4号の環境大臣が定める方法により測定した結果が,別表第3の上欄に掲げる特定有害物質の種類の区分に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げる要件に該当することとする旨を,同条2項は,土壌汚染対策法6条1項1号の環境省令で定める基準のうち土壌に含まれる特定有害物質の量に関するものは,特定有害物質の量を同施行規則6条4項2号の環境大臣が定める方法により測定した結果が,別表第4の上欄に掲げる特定有害物質の種類の区分に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げる要件に該当することとする旨をそれぞれ定め,別表第3において,「ふっ素及びその化合物」に関する溶出量につい

<P5>
て「検液1リットルにつきふっ素0.8ミリグラム以下であること。」とする旨を,同規則別表第4において,「ふっ素及びその化合物」に関する含有量について「土壌1キログラムにつきふっ素4000ミリ・グラム以下であること。」とする旨をそれぞれ定める。
     また,鉄鋼スラグのうち,道路用鉄鋼スラグについては,日本工業規格(JIS)A5015が制定されており,同規格に定める環境安全品質基準(以下「環境安全品質基準」という。乙3の1,2)は,ふっ素の溶出量について1リットル当たり0.8ミリグラム以下,含有量が1キログラム当たり4000ミリグラム以下としている。
   カ 土壌汚染対策法7条1項本文は,都道府県知事は,前条1項(上記エ)の指定をしたときは,環境省令で定めるところにより,当該汚染による人の健康に係る被害を防止するため必要な限度において,要措置区域内の土地の所有者等に対し,相当の期限を定めて,当該要措置区域内において汚染の除去等の措置を講ずべきことを指示するものとする旨を,同条3項は,同条1項の規定により都道府県知事から指示を受けた者は,同項の期限までに,前項の規定により示された汚染の除去等の措置(以下「指示措置」という。)又はこれと同等以上の効果を有すると認められる汚染の除去等の措置として環境省令で定めるもの(以下「指示措置等」という。)を講じなければならない旨をそれぞれ定める。
   キ 土壌汚染対策法施行規則36条は,土壌汚染対策法7条3項の環境省令で定める汚染の除去等の措置は,別表第5の上欄に掲げる土地の区分に応じ,それぞれ同表の下欄に定める汚染の除去等の措置とする旨を,同規則39条は,別表第5の上欄に掲げる土地において講ずべき汚染の除去等の措置は,それぞれ同表の中欄に定める汚染の除去等の措置とする旨をそれぞれ定める。
 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨

<P6>
によって容易に認められる事実)
  (1) 当事者等
   ア 原告は,群馬県渋川市の住民である。
   イ 被告は,渋川市の執行機関である。
   ウ 鉄鋼スラグとは,製鋼過程で副産物として排出される鉱さいの一種である。(甲2)
  (2) 鉄鋼スラグヘの対応方針及び本件協定書の締結
   ア 群馬県,渋川市及び関東地方整備局で構成される鉄鋼スラグに関する連絡会議において,平成27年11月13日,大同特殊鋼渋川工場から出荷された鉄鋼スラグを含む材料の対応方針(以下「本件対応方針」という。)が,概要,次のとおり確認された。
   (ア) 鉄鋼スラグを含む材料が環境基準値を超過している施工箇所の対策
     a 管理者において将来にわたり管理できない施工箇所等については撤去を行う。
     b 上記a以外の箇所については,県環境部局の助言を得ながら表面被覆等を行う。
   (イ) 鉄鋼スラグを含む材料が環境基準値を満足している施工箇所の対策
     a これまでの調査の結果,直ちに撤去等が必要となるところはない。
     b 環境基準値を満足しているものの,スラグヘの経口・接触リスクが高いと考えられる小・中学校等の箇所については,県環境部局の助言を得ながら必要に応じて鉄鋼スラグを含む材料が表面に出ている施工箇所の表面被覆等を行う。
   (ウ) 鉄鋼スラグを含む材料を存置する場合の対応
     a 存置する工事の施工箇所については,県環境部局がリスト化し地下水の常時監視等を通じて,引き続き,環境への影響等について監視を行う。
     b 公共工事事業者としても,存置する施工箇所については,将来,修繕工事や占用工事等で該当箇所を掘削する場合は,県環境部局の助言を得ながら廃棄物処理法等の関係法令への適用状況を踏まえ適切に対応していく。
     (乙1)
   イ 渋川市は,本件対応方針を踏まえ,平成27年12月11日,概要,次の内容の本件協定書を取り交わした。
   (ア) 本件協定書1条は,工事で使用された鉄鋼スラグ製品の処理にあたり,大同特殊鋼の申出による費用負担について,基本的事項を定め,鉄鋼スラグ製品の処理を図ることを目的とする旨を定める。
   (イ) 本件協定書2条は,本件協定書を適用する範囲は,別添に示すとおりとする旨を定めており,本件協定書別添には本件市道が記載されている。
   (ウ) 本件協定書3条1項は,鉄鋼スラグ製品の処理については,渋川市の規定に基づき渋川市が施工するものとし,これに要する費用は,双方協議の上,合意した範囲で大同特殊鋼が負担することとし,詳細については,双方協議の上,個別の契約を別途締結するものとする旨を定める。
   (エ) 本件協定書3条2項は,今後,維持管理において発生する鉄鋼スラグ製品の処理に必要な費用の負担については,その都度双方が協議の上,個別の協定等を別途締結するものとする旨を定める。
     (乙4)
  (3) 本件市道の表面被覆工事までの経過
   ア 渋川市は,平成25年10月頃,市内の工事に使用されていた大同特殊鋼が排出した鉄鋼スラグを含む砕石から士壌汚染対策法及び環境安全品質基準を超える六価クロム及びふっ素が含有されていることが判明したため,これまで鉄鋼スラグを含む砕石が使用された工事箇所の調査を開始した。(甲1)
   イ 上記アの調査の結果,公有財産として渋川市が管理している本件市道上に存在していた産業廃棄物である本件スラグから土壌汚染対策法における溶出量基準及び環境安全品質基準の含有量基準をいずれも超過したふっ素が検出された。(甲1,乙8)
   ウ 渋川市は,本件市道の表面被覆工事(以下「本件工事」という。)を行うことを決定し,平成29年8月9日,大同特殊鋼との間で本件協定書3条1項に基づき,本件工事の費用負担について,大同特殊鋼が509万7600円を負担する旨の個別契約を締結した。(乙5)
   エ 渋川市は,本件工事についての入札手続を行い,平成30年1月12日,株式会社津久井工務店が落札し,同社は,その頃,本件工事を開始した。
  (4) 本件訴えに至る経緯
   ア 原告は,平成30年2月15日,渋川市監査委員に対し,本件工事は,有害物質である本件スラグを存置するものであり,違法である旨を主張して,渋川市監査委員が被告に対して①本件工事の中止を命ずること,及び②大同特殊鋼に対して本件スラグを含む渋川市内の大同特殊鋼排出に係る鉄鋼スラグの撤去を請求することを命ずることをそれぞれ求める旨の監査請求をした。(甲3)
   イ 本件工事は,平成30年3月30日に終了した。
   ウ 渋川市監査委員は,平成30年4月13日,上記アの監査請求のうち,②については監査の対象とならないとして却下し,①については理由がないとして棄却する旨の裁決をし,原告は,同日,監査請求結果の通知を受領した。(甲3)
   エ 原告は,平成30年5月11日,本件訴えを提起した。
 3 争点
  (1) 本案前の争点
   ア 大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為に該当す

<P9>
るか(争点1)
   イ 本件協定書3条1項の措置が財務会計上の行為に該当するか(争点2)
  (2) 本案の争点
   ア 大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求をしないことが違法か
   (ア) 大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求権の有無(争点3)
   (イ) 撤去請求を行わないことの違法性の有無(争点4)
   イ 本件協定書3条1項の措置を行わないことが違法か(争点5)
 4 争点に対する当事者の主張
  (1) 争点1(大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為に該当するか)
   ア 原告の主張
     本件市道という公有財産上に,大同特殊鋼由来の産業廃棄物である本件スラグが搬入され,かつ,ふっ素による土壌汚染が現実化しているのであるから,本件市道の客観的交換価値が産業廃棄物により減じられて公有財産が毀損されることはもちろん,大同特殊鋼に対して本件スラグを本件市道から排除することを求めなければ,本件スラグの処理等に関して渋川市が負担すべき金額が増大することは必至であり,渋川市が損害を被ることになるのであるから,本件スラグの撤去を大同特殊鋼に対して求めず,これを本件市道に放置したままにする行為は,財産の管理を怠る行為に該当する。
   イ 被告の主張
     本件訴えが適法であるためには,大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為としての財産管理に当たることを要するところ,鉄鋼スラグを含む材料を用いてした本件市道の施工箇所における対策は,行政財産の市道に対する環境保全という行政目的を実現するための行為であり,本件市道の財産的価値に着目し,その価値の維持,保全を図る財務

<P10>
的処理を直接の目的とする財務会計上の行為である財産管理には当たらない。
  (2) 争点2(本件協定書3条1項の措置が財務会計上の行為に該当するか)
   ア 原告の主張
     上記(1)アと同じ。
   イ 被告の主張
     上記(1)イと同じ。
  (3) 争点3(大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求権の有無)
   ア 原告の主張
   (ア) 廃棄物処理法3条1項の定める排出事業者処理責任原則は,廃棄物処理に関する公序を形成しているところ,不法投棄された産業廃棄物が存置された土地所有者は,廃棄物処理法の定める処理方法に従わない保管,収集,運搬又は処分に係る私法上の契約は公序良俗に反するものとして無効を主張できるため,当該廃棄物を排出した者が,所有権を侵害している者に該当する。
      そのため,本件スラグの排出者である大同特殊鋼が本件市道を侵害しており,渋川市は本件市道の所有権に基づく妨害排除請求権として,同社に対する本件スラグの撤去請求権を有する。
   (イ) 被告は,本件スラグが本件市道と付合している旨を主張するが,渋川市が依拠する本件対応方針は,廃棄物処理法に反する私設の廃棄物処理場を作り出して,廃棄物処理法に定める廃棄物処理場における管理と異なる粗雑な水準で有害廃棄物を管理するという法令違反行為を助長するものにすぎず,公序良俗に反する違法な行政措置であって,本件工事によっても,本件スラグが本件市道と付合したとはいえない。
      そもそも,本件工事は単に本件スラグが不法投棄された状態でその上部にアスファルト舗装をして覆ったものにすぎない。アスファルト舗装

<P11>
を剥がすことは,通常の道路補修工事でも容易に行われるものであり,それによって露出する本件スラグのなかに土壌に埋没しているものがあったとしても,その土壌ごと廃棄物処理法に従って処理するだけのことであり,実態としても本件スラグが本件市道に付合している状態ではない。
   イ 被告の主張
   (ア) 本件スラグは,本件市道に搬入され転圧を受けることによって土壌と一体化し,付合して渋川市の所有物になったのであるから,大同特殊鋼に対する妨害排除請求権の要件を満たさない。
   (イ) 本件市道の施工業者は,大同特殊鋼から本件スラグを買って,それを材料として施工したため,大同特殊鋼は,本件スラグの所有者や管理者ではなく,妨害排除請求の相手方とはならない。
      また,渋川市が大同特殊鋼から直接本件スラグを購入したとしても,両者の法律関係は,契約当事者間の問題であるため,物権の効力としての妨害排除請求権の問題は生じない。

  (4) 争点4(撤去請求を行わないことの違法性の有無)
   ア 原告の主張
   (ア) 本件市道に存在する本件スラグは,敷砂利として地表に露出した状態で施工されており,単なる道路という施設の一部分であって土壌ではなく,産業廃棄物が不法投棄されたままの本件市道につき土壌汚染対策法が考慮されることはない。
      そして,産業廃棄物である本件スラグについて,管理できるのは,法令上,廃棄物処理法に定められた廃棄物処理施設のみであって,本件工事をすることによって適法に本件スラグを管理することにはならないし,地下水モニタリングを行うことができるとしても汚染が確認された段階で手遅れであることからすると将来にわたり管理できない施工箇所

<P12>
である。
   (イ) 本件スラグがそのまま本件市道に残されていることにより,生活環境への支障が生じるおそれがある。廃棄物処理法は,健康被害等の具体的危険性など問題にしていない。
   イ 被告の主張
   (ア) 本件スラグは,土壌の上に敷かれ転圧を受けることにより土壌と一体化したと考えられることから,本件スラグヘの対応について土壌汚染対策法を適用することは合理性がある。
      そして,本件市道は,民有地と異なり,渋川市が造設して渋川市が管理している施設であることから,常時管理することができる上,本件市道の周囲で井戸を利用している住民が存在しないため,住民が地下水を経由してふっ素を摂取する危険性はない?もっとも,皮廣に接触する危険性があることを考慮して土壌汚染対策法に準じた工法の本件工事がされた。
      本件工事は,土壌汚染対策法等の関係法令及び本件対応方針からすると適正であり,そうである以上,大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求をすることはできない。
   (イ) 廃棄物処理法19条の5第1項からすると,生活環境の保全上支障がなく,そのおそれがない場合には,同項に基づく命令の対象とはならず,そのまま管理することができる。
      本件工事は,土壌汚染対策法に基づく適正な措置であり,本件スラグに含まれるふっ素による人に対する健康被害を防ぐことができるため,生活環境の保全上支障及びそのおそれは認められない。
  (5) 争点5(本件協定書3条1項の措置を行わないことが違法か)
   ア 原告の主張
   (ア) 環境基本法4条は,同法3条において環境が人類の生存や人間の健康で文化的な生活に不可欠であること,環境が有限であること等を確認した上で科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として行わなければならないとして,事後対応アプローチを排斥する基本理念を明らかにしている。
      上記の基本理念を,廃棄物処理法3条1項の定める排出事業者処理責任原則に照らして具体的に実行可能なものとしたのが本件協定書である。
   (イ) 本件市道上に本件スラグが存在し続けることは,廃棄物処理法に基づかない廃棄物の投棄の容認にほかならず,生活環境の保全目的に真っ向から反する行政行為である。
   (ウ) よって,被告は,本件協定書に基づき,渋川市が本件スラグを本件市道上から撤去することに要する費用負担を大同特殊鋼に求める協議を行う措置をしなければならない。
   イ 被告の主張
     本件スラグは,土壌の上に敷かれ転圧を受けることにより土壌と一体化したと考えられることから,本件スラグに対する対応につき土 壌汚染対策法を適用することは合理性がある。
     そして,本件市道は,民有地と異なり,渋川市が造設して渋川市が管理している施設であることから,常時管理することができる上,本件市道の周囲で井戸を利用している住民が存在しないため,住民が地下水を経由してふっ素を摂取する危険性はないが,皮膚に接触する危険性を考慮して,土壌汚染対策法に準じたエ法の本件工事がされたものである。
     本件工事は,土壌汚染対策法等の関係法令及び本件対応方針からすると適正であり,撤去工事の費用を求めることは,過度の請求であって大同特殊鋼も応じないため,本件工事の費用を請求し,これを回収した渋川市の措置には何ら違法性はない。

<P14>
第3 当裁判所の判断
 1 争点1(大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為に該当するか)
  (1) 地方自治法242条の2に定める住民訴訟は,地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし,その対象とされる事項は,住民監査請求に係る法242条1項に定める事項,すなわち,「公金の支出,財産の取得,管理若しくは処分,契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担」,「公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」に限られるのであり,これらの事項はいずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものである。そして,財務会計上の行為としての財産管理行為に当たるか否かについては,対象となる行為が,当該財産の財産的価値に着目し,その価値の維持,保全を図る財務的処理を直接の目的とするものであるかどうかという観点から判断するのが相当である(最高裁判所平成2年4月12日第一小法廷判決・民集44巻3号431頁参照)。
  (2)ア そこで本件を検討するに,原告の主張に係る大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求権は,渋川市の公有財産である本件市道の所有権による妨害排除請求権に基づくものであり,財産権にほかならないのであるから,上記撤去請求は,本件市道の土地としての財産的価値に着目し,その価値の維持,保全を図る財務的処理を直接の目的とする行為(権利行使)であると認めるのが相当である。したがって,大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求は,財務会計上の行為に該当するものというべきである。
   イ これに対し,被告は,前記第2の4(1)イのとおり主張して,本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為に該当しない旨を主張するが,被告主張に係る施工箇所の対策のいかんが,物権的請求権である上記請求権の不発生を裏付けるものとはいえない以上,被告の上記主張は理由がないから採用することができない。

<P15>
 2 争点2(本件協定書3条1項の措置が財務会計上の行為に該当するか)
  (1) 原告は,本件スラグを本件市道に放置したままとする行為は,財産の管理を怠る行為に該当することから,本件協定書3条1項の措置は,財務会計上の行為に該当する旨を主張する。
  (2) しかしながら,原告が財務会計上の行為である旨を主張する本件協定書3条1項の措置は,渋川市が施工した鉄鋼スラグ製品の処理に要する費用負担につき,大同特殊鋼と協議を行い,個別の契約を締結するというものであり,財務会計上の行為として具体化したものとはいえないのであるから,本件協定書3条1項に基づく協議を行うことによって本件市道の財産的価値が維持ないし保全されるというものではなく,公有財産である本件市道の財産的価値に着目し,その価値の維持,保全を直接の目的とする行為であるとは認められない。したがって,原告の上記主張は理由がないから採用することができない。
  (3) よって,本件協定書3条1項の措置は財務会計上の行為に該当しない。
 3 争点3(大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求権の有無)
  (1) 認定事実
    前記前提事実,証拠(認定に供した証拠は末尾に摘示)及び弁諭の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
   ア 本件の経緯
   (ア) 本件市道は,平成19年頃,大同特殊鋼が排出した鉄鋼スラグである本件スラグを含む砕石を敷砂利とする整備が行われた。(甲1)
   (イ) 渋川市は,平成25年10月頃,渋川スカイランドパーク第2第6駐車場補修工事の際,路盤材として使用されていた大同特殊鋼が排出した鉄鋼スラグを含む砕石に土壌汚染対策法及び環境安全品質基準の定める基準値を超える六価クロム及びふっ素が検出されたため,これまで施工した工事において使用された鉄鋼スラグを含む砕石の調査を開始した。

<P16>
      そのため,本件市道についても調査が行われたところ,土壌汚染対策法における溶出量基準を超過した検液1リットルにつき1.9ミリグラムのふっ素が,環境安全品質基準の含有量基準を超過した本件スラグ1キログラム当たり1万9000ミリグラムのふっ素がそれぞれ検出され,平成26年5月20日に上記検査結果が確定し,同年6月16日に渋川市議会市民経済常任委員会協議会に報告された。
     (甲1,乙8)
   (ウ) 渋川市は,平成26年6月17日,群馬県(環境森林部環境保全課)に対して上記(イ)を含む,鉄鋼スラグ砕石を使用した施工箇所に係る調査結果を報告した。
      報告を受けた群馬県は,同月26日,渋川市に対し,上記施工箇所から250メートル以内の住居・事業所における井戸の有無及び飲用井戸の有無に関する情報提供,県が実施する調査への協力,周辺地域で地下水汚染が確認された場合に調査範囲を拡大した情報提供等,住民に周知等を行う必要が生じた場合の協力を求めた。
     (甲1, 乙11,12)
   (エ) 渋川市は,本件市道を含む鉄鋼スラグ砕石を使用した施工箇所の周囲の井戸の有無等について調査を行い,平成26年7月22日までに本件市道の周囲250メートル以内に井戸を利用している住民が存在していないことを確認した。(乙12)
   (オ) 渋川市は,上記(エ)の調査結果から,本件スラグについて,住民が地下水を経由してふっ素を摂取する危険はないものの,皮膚に接触する危険性が認められること,本件市道は公有財産であり,将来にわたって管理が可能であると考えられるとの判断の下,本件工事の施工を決定し,平成29年8月9日,大同特殊鋼との間で本件協定書3条1項に基づき,本件工事に係る費用509万7600円を大同特殊鋼が負担する旨の個

<P17>
別契約を締結した。(乙4,5)
   (カ) 渋川市は,本件工事についての入札手続を行い,平成30年1月12日,株式会社津久井工務店が落札し,同社は,その頃,本件工事を開始した。
   (キ) 本件工事は,平成30年3月30日に終了した。
   (ク) 本件工事に係る請負代金は,本件工事施工中に設計変更が行われたことから,564万8400円に増額された。そのため,渋川市は,平成30年3月30日,大同特殊鋼との間で,本件工事に係る大同特殊鋼の負担する金額を564万8400円に変更する旨の変更個別契約を締結した。
      大同特殊鋼は,同年5月21日,渋川市に対し,上記変更個別契約に係る564万8400円を支払った。
     (乙4,6,7)
   イ 本件工事による変化等
   (ア) 本件スラグを含む砕石は,本件市道の土壌の上に敷砂利として散布されており,一見して土壌部分と区別できる状態で存在していた。(甲11)
   (イ) 本件工事は,本件市道上に敷設された本件スラグを含む敷砂利について,不陸整正の後,上から覆い被せる形でアスファルトによる舗装を行うというものであり,本件工事により,本件スラグは,現在もなおアスファルト舗装の下に存在し続けることになった。(甲11,甲12の1,2)
  (2) 検討
   ア(ア) 被告は,前記第2の4(3)イ(ア)のとおり,本件スラグが本件市道に搬入され転圧を受けることによって土壌と一体化し,付合して渋川市の所有物になったことから,大同特殊鋼に対する妨害排除請求権は認められな

<P18>
い旨を主張する。
    (イ) しかしながら, 前記第2の2(1)ウのとおり,鉄鋼スラグは製鋼過程で副産物として排出される鉱さいの一種であって,砂や石といった土壌を構成する自然物とは異なる物質であること,本件スラグは敷砂利として用いられているにすぎず,本件市道の土壌部分と区別することが可能であること(上記(1)イ(ア)),本件スラグからは土壌汚染対策法における溶出量基準及び環境安全品質基準における含有量基準をいずれも超過したふっ素が検出されており,これが商品価値の認められない産業廃棄物に該当すること(前記第2の2(3)イ,上記(1)ア(イ)からすると,本件スラ グが本件市道の土壌に付合したとは認められず,被告の上記主張は理由がないから採用することができない。
   イ(ア) 被告は,前記第2の4(3)イ(イ)のとおり,本件市道の施工業者が大同特殊鋼から本件スラグを購入し,それを材料として施工していることから,大同特殊鋼は本件スラグの所有者や管理者ではなく,妨害排除請求の相手方とはならず,また,渋川市が大同特殊鋼から直接本件スラグを購入したとしても,両者の法律関係は契約当事者間の問題であるため,物権の効力としての妨害排除請求権の問題は生じない旨を主張する。
    (イ) しかしながら,所有権に基づく妨害排除請求は,その所有権を侵害し,あるいは侵害するおそれのある物の所有権を有するものに限らず,現に存する侵害状態を作出した者もその排除の義務を負うものと解すべきであるところ(東京高等裁判所平成6年(ネ)第3321号,同第3499号・平成8年3月18日判決参照),上記(1)ア(ア)及び(イ)のとおり, 大同特殊鋼の排出した本件スラグが本件市道上に存在し,本件スラグにより本件市道の所有権が侵害されていることからすると,大同特殊鋼は,自身の排出した本件スラグにより本件市道の所有権の侵害状態を作出したというべきであり,所有権に基づく妨害排除請求の相手方になると認

<P19>
められる。また,渋川市と大同特殊鋼が契約当事者であるとしても,そのことは,所有権による妨害排除請求権に基づく撤去請求権の成否には何ら影響しないものである。したがって,被告の上記主張は理由がないから採用することができない。
   ウ よって,渋川市は,大同特殊鋼に対して,本件市道の所有権による妨害排除請求権に基づく撤去請求権を有する。
 4 争点4(撤去請求を行わないことの違法性の有無)
  (1) 地方公共団体の執行機関は,当該地方公共団体の事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し及び執行する義務を負担し(地方自治法138条の2),地方公共団体の財産については,常に良好の状態においてこれを管理する義務(地方財政法8条)を負っているところ, 本件全証拠によっても被告が大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求権を行使しないことを正当化する事実は認められないのであるから,被告が大同特殊鋼に対し,本件スラグの撤去請求権を行使していないことは違法であるというべきである。
  (2)ア これに対し,被告は,本件スラグに対する対応につき土壌汚染対策法を適用することは合理性が認められるところ,本件工事は,土壌汚染対策法等の関係法令及び本件対応方針からすると適正である以上,大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求をすることはできない旨,及び本件工事によってふっ素による健康被害を防ぐことができるため,廃棄物処理法19条の5第1項が定める生活環境の保全上支障及びそのおそれは認められない旨をそれぞれ主張する。
   イ しかしながら,被告主張に係る本件協定書に基づく本件工事は,いずれも公法である土壌汚染対策法及び廃棄物処理法における本件スラグの取扱いに関するものであり,本件対応方針も含めてこれらに適合するものであったとしても,それをもって,直ちに,既に発生している本件市道の所有権に基づく妨害排除請求権としての本件スラグの撤去請求権を行使しない

<P20>
ことが正当化されるわけではないのであるから,被告の上記主張は理由がないといわざるを得ず,採用することができない。
第4 結論
   以上によれば,本件訴えのうち,本件協定書3条1項による措置を怠ったことが違法であることの確認を求める部分は,争点5を検討するまでもなく不適法であるから却下し,被告が大同特殊鋼株式会社に対し,本件市道上に存在する本件スラグについて撤去請求を行わないことが違法であることの確認を求める部分は理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。

    前橋地方裁判所民事第1部

      裁判長裁判官 渡邉和義

         裁判官 浅川浩輝

裁判官高橋浩美は,転勤のため,署名押印することができない。

<P21>
      裁判長裁判官 渡邉和義

<P22>

 これは正本である。

 令和2年8月5日
   前橋地方裁判所民事第1部
    裁判所書記官 橋 本 勇 一

                     前橋 11-027479
**********

■このように、渋川農道裁判では、スラグの撤去について実質的に、全面勝訴と呼ぶべき画期的な判決が下されました。この判決により(株)佐藤建設工業がばら撒いた大同特殊鋼の有害スラグが、地方公共団体が所有する土地にある場合には、撤去しないことそのものが地方自治法と地方財政法に違反することになります。

 群馬県民の皆様、そして市民の皆様、お近くの公有地に大同スラグがある場合には、是非撤去を申し入れてください。裁判所が「撤去しないことが違法」と言ってくれているのですから遠慮は要りません。

 もともと、有害物質が法令に違反してばら撒かれてしまっているのですから、毒を撤去するのは当たり前です。もちろん(株)佐藤建設工業でも大同特殊鋼(株)でも言いやすい方に“撤去させろ”で結構です。

 若い母親が安心して子育てができる故郷に群馬県を戻しましょう。ぜひご協力をお願いいたします。

 あとは、渋川市民の安全・安心な環境づくりのために、渋川市が大同特殊鋼の圧力に抗して、判決の言渡し日から14日間控訴せずに我慢できるかどうか、にかかっています。渋川市民のみならず、大同特殊鋼や東邦亜鉛のスラグ不法投棄に心を痛めておられる群馬県各地の皆様とともに、この行方を注視してまいりたいと存じます。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

※参考資料:渋川市と大同との基本協定
**********ZIP ⇒ 20151211asxo.zip
       渋川市の工事における大同特殊銅株式会社
       の鉄銅スラグ製品の処理に関する基本協定書

 渋川市(以下「甲」という。)と大同特殊銅株式会社 代表取締役社長(以下「乙」という。)とは、渋川市の工事(以下「工事」という。)において使用された乙が製造した鉄鋼スラグ製品(以下「鉄鋼スラグ製品」という。)に関する詞査、撤去、処分、復旧工事等(以下「処理」という。)について、次のとおり基本協定(以下「本協定」という。)を締結する。

(目的)
第1条 本協定は、工事で使用された鉄鋼スラグ製品の処理にあたり、乙の申し出による費用負担について、基本的事項を定め、鉄銅スラグ製品の処理を図ることを目的とする。

(処理の範囲)
第2条 本協定を適用する範囲は、別添に示すとおりとする。

(処理の施行及び費用負担)
第3条 鉄鋼スラグ製品の処理については、甲の規定に基づき甲が施行するものとし、これに要する費用は、甲乙協議の上、合意した範囲で乙が負担することとする。なお、詳細については、甲乙が協瞬の上、個別の協定等を別途締結するものとする。
2 今後、維持管理において発生する鉄銅スラグ製品の処理に必要な登用の負担については、その都度甲乙が協議の上、個別の協定等を別途締結するものとする。

(財産の帰属及び管理区分)
第4条 財産の帰属及び管理区分については、必要に応じて甲乙協議の上、別途定めるものとする。

(協定の変更)
第5条 本協定の内容を変更する必要が生じたときには、その都度甲乙協議の上、変更するものとする。

(協定の有効期限)
第6条 本協定の有効期間は、協定締結の日から各条項に定める寧務が完了する日までとする。

(情報公開)
第7条 本協定に係る情報公開については、渋川市情報公開条例によるものとする 。

(その他)
第8条 本協定に定めない条項または疑義が生じた事項については、その都度甲乙協議の上、定めるものとする。

 この協定の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自その1通保有する。

平成27年12月11日

          甲 渋川市石原80番地
            渋川市
            渋川市長 阿 久 津 貞 司

          乙 愛知県名古屋市東区東桜一丁目1番10号
            大同特殊鋼株式会社 代表取締役社長 嶋 尾 正
**********

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