市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(その6)

2012-02-16 11:12:00 | 安中フリマ中止騒動
■乙第25号証の続きです。

第3 当裁判所の判断
1 本件各記事の内容について
 被控訴人講談社らが,本件週刊誌平成17年8月6日号に第1記事,本件週刊誌同月13日号に第2記事を掲載したこと及び本件各記事の内容は,前記第2,2(前提となる事実関係)(4)(5)記載のとおりである。
 第1記事は,控訴人らが被控訴人丁田の自宅に居座って,被控訴人丁田に対し,「出すまで帰れない」「それが貴方の身のためだ」などと強要し,被控訴人丁田の手帳を段ボール箱に詰めて持ち去った,控訴人らは本棚,押入れから妻の部屋に至るまで家探ししていった,との事実を摘示したものであり,このような内容の第1記事は,控訴人らの社会的評価を低下させると認められる。
 第2記事は,控訴人らが,4回にわたって被控訴人丁田宅を訪問し,その都度,被控訴人丁田に執拗な,強い要求をし,同被控訴人が「プライバシーの侵害になる」という強い抗議をしたにもかかわらず,同被控訴人の手帳を無理矢理持ち去り,これを強奪し,また,被控訴人丁田が強い抗議をしたにもかかわらず,被控訴人丁田宅の家探しを2回にわたり強行したと,一般人に認識させるものであり,控訴人らの社会的評価を低下させると認められる。
2 本件各記事の真実性の抗弁について
(1)公益目的
 前記第2,2(前提となる事実関係)記載の事実及び弁論の全趣旨によれば,本件各記事によって摘示された事実は,もと国会議員であった控訴人らが,被控訴人丁田の自宅がら,同被控訴人が議員活動等において使い続けてきた手帳を持ち去ったというものであり,この事実は,公共の利害に関わる事実であると認められ,また,被控訴人講談社らは,専ら公益を図る目的で本件各記事を本件週刊誌に掲載したと認められる。
(2)事実関係
 前記第2,2(前提となる事実関係)記載の事実に証拠(〈証拠等略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実を認めることができる(甲18,25~28,59,控訴人丙川本人のうち,この認定に反する部分は措信することができず,他に同認定を覆すに足りる証拠はない。甲25~28については,被控訴人講談社らは時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を申し立てているところ,これにより著しく訴訟手続を遅滞させることになるとは認められないから当該申立ては採用しないが,これらの証拠が適時に提出されなかったことは,後記のとおり,証拠の信用性の判断に当たって考慮する。)。
ア 本件に至る経緯
(ア)被控訴人丁田は,昭和38年に大阪府議会議員となり,同42年から平成5年まで衆議院議員を務め,昭和42年に公明党の書記長に就任し,同61年から平成元年まで同党中央執行委員長の地位にあった。
 被控訴人丁田は,衆議院議員を引退した後,政治評論家として活動していたところ,平成5年から同6年にかけて文藷春秋に手記を連載したが,同手記に「創価学会と公明党は政教一致と言われても仕方がない部分があった」旨の記述があったごとから,創価学会等から激しい非難を受けた。その結果,被控訴人丁田は,創価学会等に対して陳謝した上,同手記を単行本として出版する際に当該記載を削除するなどの措置をとった。
(イ)平成17年4月20日,被控訴人丁田は,創価学会の一色副会長(当時。以下「一色」という。)から創価学会戸田国際会館に呼び出された。その際,一色は,同被控訴人に対し,上記の文藝春秋の手記を挙げて「創価学会青年部が怒っている。」「丁田を除名せよとの要求が出ている。」「青年部は跳ね上がっている。丁田の命も危ない。」などと述べた上,あらかじめ用意をした文案を示して,同手記に関して謝罪文を書くように求めた。被控訴人丁田は,一色の要求にとまどったが,これを了承し,渡された文案に治って謝罪文を作成し,これを翌21日に一色に渡した。このことは,同月28日付け聖教新聞(甲4)において,「公明党元委員長の丁田氏が謝罪」「『文翁春秋』(93年,94年)掲載の手記をめぐって」「丁田氏“私の間違いでした”“当時は心理的におかしかった”」等の見出しを付した記事として大きく採り上げられた。同記事では,同手記が引き金となって,何人もの国会議員が創価学会を誹膀し,「喚問」「喚問」と大騒ぎする自体となったなどと,被控訴人丁田の手記の記述によって創価学会が大きな被害を受けたことが強調されていた。
(ウ)被控訴人丁田は,平成17年4月28日から所用で妻夏子(以下,単に「夏子」ということがある。)を伴って海外に出張したが,同月30日に至り,当時オーストラリアのブリスベーンに居住していた同被控訴人の長男秋男を通じて,数回にわたって,創価学会の二宮副会長(当時。以下「二宮」という。)に連絡をとるようにとの伝言を受け取った。被控訴人丁田が二宮に電話したところ,同人から「青年部が強硬だ。事態を収めるため,帰国日である5月14日に青年部と会ってほしい。」と強く面談を勧められ,これに応じた。その後,同年5月9日付け聖教新聞(甲5)には,被控訴人丁田の前記謝罪に関して,「公明党丁田元委員長が海外!?」「行動で示せ!口先だけの『謝罪』は要らぬ」等の見出しを付した記事が掲載されたが,同記事には,「“恩知らずは畜生の所業”」「我々は『口先だけ』なら絶対に許さない。本当に詫びる気持ちがあるなら,行動と結果で示してもらいたい」などの記述がされていた。
(エ)同年5月14日に被控訴人丁田が妻夏子と共に成田空港に到着すると,約10名の各自カメラを手にした背広姿の創価学会青年部所属者が同被控訴人夫妻の後を追って移動し,各々フラッシュを焚いて夫妻の写真を撮るなどした。引き続いて,創価学会戸田国際会館で行われた創価学会青年部との会談においては,三井青年部長ら5名が被控訴人丁田を取り囲むように着席し,口々に,「青年部において除名せよとの要求が出ている。」「我々は本当に怒っている。」などと同被控訴人を糾弾し,2度にわたって「土下座しろ」と迫り,「人命にかかわるかもしれない。」「息子さんは外国で立派な活動をしている。あなたは息子がどうなってもよいのか。」などとも述べた。そして,「政治評論家をやめるべきだ。元委員長が政治評論家面をするのは許せない。」などと述べて,政治評論活動を止めるように繰り返し迫った。被控訴人丁田は,青年部幹部らの言動に身の危険を感じ,青年部の用意した,文春のことは謝る,今後は書かない,恩返しをするなどの趣旨の文書に署名をし,政治評論家を辞めると述べた。
イ 平成17年5月15日の第1回訪問
(ア)平成17年5月15日は,日曜ということもあって被控訴人丁田は東京都新宿区内の自宅に在宅していたところ,午後5時ころ,控訴人らが突然,同被控訴人宅を訪問した。控訴人甲野は,昭和34年から同38年まで墨田区議会議員,同年から同55年まで東京都議会議員,同年から同61年まで参議院議員を務め,同45年から同61年まで公明党中央執行委員の地位にあった者であり,控訴人乙山は,昭和38年から同42年まで神奈川県議会議員,同年から平成5年まで衆議院議員を務め,昭和62年から平成2年まで公明党中央執行副委員長の地位にあった者であり,控訴人丙川は,昭和40年から平成7年まで参議院議員を務め,同5年から同7年まで公明党中央執行副委員長の地位にあった者であるが,控訴人らはいずれも被控訴人丁田と十数年前から個人的なつき合いが絶えており,控訴人甲野及び同乙山は被控訴人丁田宅を訪問したこともなかった。
(イ)被控訴人丁田が控訴人らを自宅1階の応接間に通すと,控訴人らは,文藝春秋の手記に関する謝罪をめぐっての前日の同被控訴人と創価学会青年部とのやり取りを話題にした上で,控訴人甲野が「乙山さんが今もうむずむずして一番言いたいのは,要するに,あの文藝春秋の極秘メモですよ。」と本件手帳について切り出し,続けて「はっきり青年部との約束が評論活動も今後やらないというようなことを大前提でおっしやったとなれば,そんなものがあったんじゃ先々心配だな。」と述べた。そして,控訴人丙川が「青年部に対しても,今後,まあ行動で示していくと,ね。……そのメモってのは,乙山さんが一番よく知ってるんですよ。要するに,そうすると極端に言うと,27冊の衆議院手帖にいろいろと害いてあると。極端に言うと。」と述べるなど,控訴人ら3名は,口々に,被控訴人丁田に対して,本件手帳を引き渡すように求めた。これに対して,被控訴人丁田は,「それは無茶な話だ。おれのプライバシーの書いてある手帳を預けろという意味が分かっての話か。それは人権問題になる。断る。」「手帳には,我が家の内部のこと,銀行口座の番号,ID番号,債権債務,息子のこと,その他我が家のすべてが害いてある。それを渡せというのは個人情報の侵害,人権侵害,プライバシーの侵害だ。分かっているのか。君たちは国会議員までやった人間だ。そういうことが知れたら……。」「その手帳には,絶対私以外の人が見てはならないことが害いてある。学会の税金問題,ルノアール事件,捨て金庫事件,やばい筋の話,言論妨害事件で他党の政治家と交渉した内容が実名で害かれている。月刊ペン事件,本山との抗争問題,山友問題等も害いてある。これは爆弾だ。だからおれは墓場まで持っていこうと思っている。絶対に外部に知られてはならぬ内容だ。それを承知か。だから渡すわけにはいかない。」などと述べて,これを拒絶した。 しかし,控訴人らは,「それを渡さないと皆怒り狂って何が起こるか分からない。」「渡さないなら覚悟はできていますね。」などと述べて,あくまでも本件手帳を引き渡すことを求めた。
(ウ)被控訴人丁田は,かつて五木昭夫元都議会議長から創価学会と対立した六沢和夫元都議会議員に対して創価学会内部においてこれを暗殺する計画があると間いたこと,五木の依頼により,四元創価学会会長に対して当該計画を思いとどまらせるように要請したことなどを想起するとともに,かつて自分自身が公明党幹部として関与した,創価学会に批判的な人物に対する幾多の攻撃を思い出し,控訴人らの要求に応じないときには自己又は家族に対してどのような危害が加えられるかも知れないと恐怖を覚えたが,本件手帳を控訴人らに渡すことだけは避けようと考えて,本件手帳については自分自身で燃やすなどして処分することを提案したごしかし,控訴人らはあくまでも本件手帳の引渡しを受けることにこだわり,被控訴人丁田が控訴人ら立会の上で本件手帳を処分することを申し出ても,控訴人甲野において「丁田さんが本当に青年部とか一色さんときちんと大前提約束したんなら,今後のことはまたお家のことだとか,ご家族にもいろいろ関わりがあることだから,僕らは先のことを考えりゃあ,あくまで『膨大なメモ』ってやつは,燃やしちゃうとかなんとかじゃあなくて,……差し出がましいけど,一時,僕らが,ほかじゃ差し障りがあるから,僕らOBの仲間で一時お預かりしちゃって,時が来るまでは抱いてるかと。そういうね。」などと述べ,控訴人乙山が「神奈川だって火光会をやったときに,が一っと出たよ。」と発言し,これを受けて,控訴人丙川が「火光会の意見っていうのは決して火光会だけの意見じゃないですよ。学会の意見でもあるんですよね。皆組織に入ってますから。そうなるとね,要するに,今更のようだけ,ども,あのタイトルと張出しにあった膨大な資料だと,整理するのも大変だと,極秘メモだというようなことがね。要するにまたこの次書くんじゃなかろうか,これをネタにして何かやるんじゃなかろうかという,当然,やっぱり疑心暗鬼はみんなあるわけですよ。
 ………ですから,……燃やせばいいじゃないですか,ということだけじゃだめなんですよ。」と述べた。そして更に控訴人乙山が「燃やしゃいいってことじゃなくてね。」と述べ,更に,控訴人甲野が「だから,もしあれだったら,封印して,僕らが丁田さんから預かってもいいよ。開けて見る必要ないんだから。」と述べ,本件手帳を焼却するのでは足りず,これを控訴人らに引き渡す必要のあることを述べて,繰り返し本件手帳の引渡しを求めた。被控訴人丁田は,これに対して,「だから,あのね。正直言うて,個人的なプライバシーもありますし,あのう家庭のこともありますし,あるいはこの会社のね。……それはあのう……」と,なおも本件手帳を引き渡すことに難色を示し,更に,「私が処分すると。処分の方法は考えようと。こう言っていたということにして理解して下さい。僕は約束は守りますから。」と述べて,本件手帳を引き渡すことを明確に拒絶した。
(エ)これに対して,控訴人甲野は「それはね,丁田さんね,僕らの気持ちはね,残しておいて,そのことで悪用するんじゃないかっていう,僕ら,そういう邪推じゃなくて,もし,すっきりね,ここでちゃんとお辞めになるというなら,周囲をね,周囲を説得するのに,……封印して全部ね,これだけ,ちゃんとしっかりして,もうこんな論議やめてくれっていうには,預かってるのが一番いいなというのがね。……さんざん議論してね。それが,僕ら,僕の結論なんです。」「丁田さんがこっちに預けるには,全部ご自分で封印して,それをこっちに預かってきて,手つけないで,また時来たら返すってことじゃないの。」などと述べ,控訴人乙山において「だから封印してもいいじゃない。」などと述べ,本件手帳を控訴人らに引き渡す以外の選択肢のないことを示して,繰り返し,本件手帳を引き渡すことを求めた。この間,控訴人丙川は応接室から出て,玄関ホール付近において携帯電話で五木と連絡をとり,「ええ,今やっている最中です。」「はい,絶対に取ります。」「打合せどおりにやっています。」などのやり取りをした。被控訴人丁田は,控訴人らの強硬な勢いに抗することができず,本件手帳を控訴人らに預けることを了承したが,本件手帳は貸金庫に保管中であり,一部を除いて手許にはないと説明した。
(オ)被控訴人丁田が控訴人らの威勢のため本件手帳を控訴人らに預けることを了承したところ,控訴人甲野は「こっちがね。なんかね,あの強奪しちゃったみたいなね。」と述べ,控訴人乙山は,「預かります。僕がね。」などと述べた。そして,貸金庫において保管中のものを含めて,すべての本件手帳を1週間後の平成17年5月22則こ引き渡すことを決めた。その際,控訴人乙山が「じやあ党本部に来てもいいよ。持って。」と述べるなど,被控訴人丁田において本件手帳を公明党本部に持参することも検討されたが,最終的には,同日午後1時に控訴人らにおいて再び被控訴人丁田の自宅を訪問することとした。控訴人らが退去する際に,被控訴人丁田が,「皆さん,これでねえ,……これ全部,丁田の日記預かってきたと。丁田から,もうお前ら保管しとってくれと言われたというふうに言って下さい。……でないと,これはね,問題になります。」と述べると,控訴人丙川は「全部丁田さんの自発的な行動ですね。」と応じ,控訴人乙山は「そらそうでしょう。大変なことになりますよ。」と述べた。
ウ 平成17年5月15日の第2回訪問
(ア)平成17年5月15日午後6時30分ころ,控訴人らは,再び被控訴人丁田の自宅を訪れた。控訴人甲野は,「今日たまたま党側の方に帰りますと,五木さんと七瀬さんがいて……今あるならあるだけの資料でも預かってくるなり,それから貸金庫というのはどこの金庫かはっきりしてこなきや,お前ら何やって来たんだって,今言われて。もう,言われりゃそうかと。……で,また3人でやって来ました。なんていうか,むしろ,怒られちやって,笑われちやって。」と述べ,これを引き取って控訴人丙川において「おしかりを受けて,またこうやって来たわけですよ。申し訳ないです,すみません。」,控訴人甲野において「預かって,うちの党の本部で僕らが預からせてもらえば一番安全なんだけどな。変な言い方だけどね。」,控訴人丙川において「要するに,今ご自宅にあるのは,あるって丁田さん言ったんだから,それだけでもあれしなかったら,子供の使いじやないか,なんてことでですね。」と述べ,控訴人らが公明党本部に戻ったところ,五木及び七瀬の両名から,本件手帳を保管してある貸金庫の場所を確かめ,被控訴人丁田宅において保管している一部だけでも預かって公明党本部に持ち帰るように叱責されたため,再び被控訴人丁田宅を訪れた旨を述べた。
(イ)これに対して,被控訴人丁田が「何でそんなに焦るのか。」と反論したが,控訴人丙川は,大声で「3年分くらいはあるだろう。それを寄こせ。」と述べた。被控訴人丁田は,「無茶を言うな。」「お前ら狂っているぞ。こんな無茶な法律無視のことを脅迫でやったとなると,それがばれたら重大な社会問題になる。分かっているのか。」と述べたが,控訴人らは聴かず,控訴人丙川が「どうしてもだめか。」と迫ったので,被控訴人丁田は身の危険を感じて,応ずることにした。被控訴人丁田は,本件手帳は新宿区所在のA司法書士事務所に預けてあり,同事務所の金庫において保管されている旨を説明した上で,本件手帳のうち平成14年から同16年までの分を持参し,銀行の暗証番号や金融機関からの借入債務の内容等が記載されていることを告げ,手帳の内容を見ないように述べた上で,当該手帳を封筒に入れて封鍼し,控訴人らに渡した。控訴人らは,翌5月16日に本件手帳の残りを預かるために再び来訪すると述べたが,被控訴人丁田は,これらの手帳を用意するためには保管先であるA司法書士事務所の都合をきかなければならないと述べた。控訴人らは控訴人乙山の携帯電話の番号(090-***0-***0。一部を伏字とした。)を被控訴人丁田に教えて,翌5月16日に引渡しの日取りを連絡するように求めた。控訴人らは,更に,控訴人甲野において「こんなに遅く夜悪いけどさ,せっかく来たんだから,丁田さんの作業所,見学させて。」と述べ,控訴人丙川において「一色さんから3階の事務所を1回,見学して来いって言われてさ。」などと述べ,こもごも,自宅内を案内するように求めた。被控訴人丁田は,控訴人らを案内して,自宅1階の事務所やガレージなどを案内七だ。その際,控訴人甲野は「お預か
りするなら,党本部で預かりゃ一番もう安全だと思う。」と述べ,控訴人乙山は「要するに,要するにね。もう,みんな,こうカーッとなった訳よ。それは分かるでしょう。……だから,やっぱりそれをだね。誠心誠意やっていった方がいいですよ。」などと述べた。控訴人らは,被控訴人丁田とこのようなやり取りをしながら,その自宅内を見た後,退去した。
(ウ)翌5月16日,控訴人乙山から被控訴人丁田に対して再三電話があり,「水曜(5月18日)は忙しいので,明日火曜日にしてくれ。」と要求した。被控訴人丁田は,「こっちは先方に連絡しているところだ。そっちの都合だけ言うな。」と抵抗したが,控訴人乙山に押されて,5月17日に来訪するように述べた。なお,5月15日に控訴人らが被控訴人丁田宅を訪問した後,同被控訴人宅に連日のように無言電話や嫌がらせ電話がかかったり,面識のない人物らが訪れて執拗に面会を求めたりすることなどがあったほか,自宅付近に駐車した車両から常時監視を受けるようになった。
エ 平成17年5月17日の訪問
(ア)平成17年5月17日午後8時ころ,控訴人らは,被控訴人丁田の自宅を訪れた。同被控訴人は本件手帳のうちの大半のものをA司法書士事務所に預けていたことから,あらかじめこれを引き取った上で,これらを揃えて段ボール箱に詰めていた。控訴人らは,控訴人甲野が「いや,これね。話し合い,今後のことも信義をもってきちんとやってもらえないと俺もね,役目つとまんねえからさ。」と述べるなどしながら,被控訴人丁田の用意した手帳を確認し,1996年から1999年までの手帳がないことなどを指摘し,控訴人丙川が「ちょっと,抜けてるか抜けてないかというのは失礼ですけどね。要するにこれがすべてかどうかも分からない訳ですよ。ただ,年数が抜けているということだけをいうのですよ。」などと述べた。被控訴人丁田は,「昨日,僕が手許にある引出,調べてこれだけ探しできたんだから,あとも,どっかにあるかもわからへん。」「僕は誠意をもって探す。」などと述べた。
(イ)本件手帳のうち当日用意されたものを段ボール箱に入れてガムテープで密封するに当たり,控訴人丙川は,被控訴人丁田に対して,妻夏子を立ち会わせるように要求した。被控訴人丁田は,「女房にはこんなこと知らせない方がいいって。」「こんなことは,そら,うちの女房は信心しっかりしてますけれどね,そりゃ女房にはね,こういうことあんたらに渡すこと言ってないんです。やばいですよ。」「俺はね,こういう余計なことはね,この4人だけでいいと思っているから。」などと述べて抵抗したが,控訴人甲野及び同乙山も,同丙川に同調して,夏子が立ち会うことを要求したことから,被控訴人丁田もこれに応じることとして,夏子をその場に呼び入れた。前記手帳に加えて,控訴人乙山の要求により被控訴人丁田が文蔡春秋社から読者賞として受けとった記念品の置時計もー緒に段ボール箱に入れて,夏子の立会いの下で,ガムテープで封印した。その際,被控訴人丁田は,あらかじめ用意した念書について,その内容を控訴人らに説明した上で,控訴人ら及び夏子と共に署名した。念書は,2通作成して,1通を被控訴人丁田において,1通を控訴人らにおいて保管することとしたが,その内容は,次のようなものである。
 「丁田春男は,丁田の日記および関係書類(梱包2箱)を公明党元議員の甲野一郎氏,乙山二郎氏,丙川三郎氏に預ける。
 双方は次の条件を遵守する。
 ① 丁田は,三氏らが承諾する案件以外に今後この資料は利用しない,ことを責任を持って約束する。
 ② 三氏は,これら資料が丁田のプライバシーに閲する資料であること,他の人物,団体に迷惑が掛かることに鑑み,責任を持って,紛失,流出することのないよう厳重に保管し,丁田の了解なしに開封しないことを責任を持って約束する。また,丁田が個人的な情報が必要な場合は三氏の了解,立会いの元で資料を閲覧することもある。
 ③ 将来,関係者が死亡したときは,資料の流出を避けるため,上記①,②の条件に基づき,丁田は子息丁田秋男,三氏は指定する公明党関係者の立ち会いの元で協議し,これら資料の保管の継続などの処理を決める。
 ④ 5月15日に三氏に別途に預けた手帳および書類も上記①,②,③と同様の扱いとする以上,双方,信義誠実を重んじ確約する。」
(ウ)念書への署名を終えた後で,控訴人丙川が「あとは,いつ渡してくれるか。」と尋ね,被控訴人丁田が「捜す必要があるから1週間後だ。」と答えると,同控訴人は「もしこれ以外に残っていたら重大なことになる。」と述べた。被控訴人丁田が「足りない手帳を除けば,これですべてだ。重大なことになるとは,どういうことか。無礼ではないか。」と言うと,控訴人丙川は「重大なことと言えば分かるだろう。丁田さんの身に危険が迫る。」と述べ,被控訴人丁田が「また脅迫か。」と言うと,同控訴人は「そうだ。嘘をついたことになるから重大だ。そのために家探しをさせてほしい。」と述べた。被控訴人丁田は「お前,常識があるのか。家探しの捜査令状でもあるのか。」と答えたが,控訴人丙川は大声で「でないと俺たちは子供の遣いになる。是非,家探しをさせてくれ。」と言い,控訴人甲野及び同乙山も同様の要求を繰り返した。被控訴人丁田は,控訴人らの威勢に身の危険を感じ,控訴人らの要求に応じ,自宅の1階から3階までを案内し,被控訴人丁田において戸棚や引出を開けるなどして,控訴人らに見せた。その途中で,被控訴人丁田が「こんな無茶をするとは,相当上からきつく言われているのだな。」と言うと,控訴人らは「俺たちの立場があるので。家の隅々まで見たと報告しなければ,五木や七瀬にしかられる。」と述べた。
(エ)翌5月18日に,被控訴人丁田は,同月14日の創価学会青年部との面談の際の政治評論家を辞める約束の実行として,日刊ゲンダイの下桐編集長に電話をかけ,同級に当時連載していたコラムの打切りを申し出た。
オ 平成17年5月30日の訪問
(ア)平成17年5月27日,控訴人乙山から電話で「残りの手帳はいつくれるか。」と催促があったことから,被控訴人丁田は,「来週月曜日の30日の午後2時に来てくれ。」と答えた。
(イ)同月30日,控訴人らは,約束の時刻よりも早い午後1時ころに被控訴人丁田の自宅を訪れた。控訴人らが到着した時は,被控訴人丁田の妻夏子は外出中であった。被控訴人丁田は,本件手帳のうち前回の5月17日の訪問の際に指摘された1996年から1999年までの手帳のほかメモ類等の書類をあらかじめ用意しており,これらを控訴人らに見せた。控訴人らは被控訴人丁田の用意した手帳等を確認し,「年数はこれで全部揃ってます。」「国会手帳以外もあるんだね。」などと述べた。
(ウ)被控訴人丁田が,当日用意した手帳等を探し出した経緯として,「預けていない分は,ひとつは言論問題の時のやつは,大分かなり前にどっかに押し込んでしまってたんですね。僕も全然記憶がなかったんですわ。せやけど,昭和42年ですかね43年か,金属製の柳行李みたいなのあるじやないですか,箱。いろんな訳わからん,もう,書類がつっこんである,おじいさんの時代からの古い古い文書。」「古い書類がねえ。私の親父の前,おじいさんの代からね。たぶん私,引越の時に,議員宿舎から二十騎町に引っ越した時にとりあえず全部つっこんだんだね。」などと説明した。
(エ)すると控訴人甲野は,「ところでね,丁田さんね。こないだのと今日のこれで,全部お出しになるって言っていたので僕らもそれで信頼しますが。あのう,文春のはじめの方を見るとね,『資料とメモ,膨大で我ながら驚いた』って,驚きになっているから,丁田さん自身が驚きになるなら,こないだのとこれで,ほんまに膨大な資料全部なんかと思うんですけどね。」と述べ,控訴人丙川も「ご自分で扉も開けていただきましたから,私たちは秘密のご子息のあれまで見せていただいたんで,これ以上疑わないんですけど。」と述べた。続いて控訴人乙山が「いや俺達話してたのはね。『メモと資料がある』と,こうあった。これはほとんどメモだから,まだ資料があるんじやねえかと。」と述べると,これをひきとって控訴人丙川が「そういうことです。今おじいさんの時代からの鉄の行李とか何とか,そこからお探しになったって今言われましたからね。そういう物をまだ探せば,また出てくるんじやないかというような感触を,今の文春の。」と述べた。これに対して,被控訴人丁田は「はんだら,先祖代々からの全部お持ちになりますか,そんなら。それは言い過ぎじやありませんか。」と反発したが,控訴人丙川は「別に言い過ぎじやないです。」と答えた。被控訴人丁田が「誠心誠意してるわけですから。そこまで言われたら,そりやあ,もう紙1枚もないかと言われれば,あるかも分かりませんけど。」と言うと,控訴人丙川は「この前ね,丁田さん自身が開けて,みんなどうだどうだとお見せいただいたでしょ。あれが順に残っている訳ですよ。それで更に今,おっしやったようにお探しいただいて,要するに,おじいさん時代の鉄みたいな行李のなかから出てきたということを総合しますとね,何かこう今の膨大な資料という中の,内容は分かりません,私は。丁田さん,当人だから一番よく分かるんでしょうが。」と述べ,前回の5月17日の訪問の際に,被控訴人丁田の案内で自宅の本棚や引出の中を見たが,この日も,もう一度,同様に被控訴人丁田の自宅内を捜索したい希望を表明した。これに対して,被控訴人丁田は,「そんなことおっしやるならね。もう全部返して下さい。……私ね,本当にこの1週間,必死の思いで探したんですよ。そんな言われ方したんじやね。僕が今度の件で悪ロ言われることとは別に,全部返してください,と。燃やしちやいましょう,と。」「私は,もうね。これをお預けすること自体に,ものすごい抵抗感じているんですよ。正直言うて,人権喋躍ですよ。私のプライバシーまで持っていくんですから。私の子供の問題,私の家族の問題,私の父親の問題,全部人っているんですよ。これあなた方持っていったことが世間にばれたら大変なことですよ。」「私はそんなことは言いません。誰にも言いません。しかし,私のプライバシーのすべてをお持ちになってですよ,まだ残ってないかっていうのは,丙川さん,言い過ぎじゃないですか。」と述べて,控訴人らの要求を拒絶した。
(オ)これに対して,控訴人丙川は「だからそこまであれするとさ,またね。せっかく,せっかく好意をいただいたことについて,へんな話になっちゃいますから。」と述べたが,被控訴人丁田は,「僕もね。ほんとに必死になって探してこういうことですよ。それで1枚もないですかと言われりゃね,そら僕だってそら天井裏に1枚あったら分かりませんよ。それをね,家探しして下さいとは言えません。」と再び明確に拒絶した。控訴人丙川は,「あの,別に家探しなんてなるとね,警察沙汰にでもなるから。……ただ,家探しという言葉じゃなくて,要するに,……丁田さん言ったことをこちらも,昔の仲間として善意に受けとめて来てる訳ですよ。……ただし,是非ご理解いただきたいことは,今,乙山さんが言ったように,膨大な資料とかメモとか,それから今もう一回繰り返しますが,2週間の間に本当にご苦労いただきましたけれども,おじいさんの時代のそういう行李までひっくり返したんだということになりますとね,何となくね,まだあるんじゃなかろうかなという,感触ですよ,感触。」「あの丁田さんもね,ほいじゃあ家探しして下さいって,まあ失礼なことでは。」と,なおも家探しを要求したが,被控訴人丁田は「それは僕は断ります。」「そりゃ甲野さん,そりゃなんぼでも,おっしゃる言葉じゃないんじゃないですか。」と,引き続き拒絶する旨を明確に述べた。すると,控訴人丙川は「だから,家探しという言葉,もうまったくこれは変な言葉ですけどさ。あの,家探しという言葉はね。これはもう,今私たちが警察権力を持ってるわけでも何らありません。要するに昔の仲間としてあれしているわけですからね。」「一生懸命お探しいただいたんだと思いますけど,それで出てきた。そのほかにもどっかに,もしかすると,と。だから要するにそれで我々があれしたら,これでなきゃないでも,しょうがないと言っちゃ失礼ですけど,おしまいですよ。」と述べ,被控訴人丁田が「強盗ですよ。それは,今おっしゃっていることは。」となおも抵抗すると,控訴人乙山が「それで我々とすれば,万万が一よ,後になって出てきたなんてことになるとね,3人でこうやって話し込んで,それでお互い信頼だ信頼だと言って,後で出て来ちゃ問題だと。だから念には念を入れてという意味で言っているんであってね。そこんところは分かってくださいよ。」と述べた。控訴人丙川は,更に,「もう本当にくどいようですけど,膨大なメモ資料ということになると,……この次出てきて,何かのときになると,これ大変なことになる可能性ありますよと。」「だからね万が一ね,この次に何もペーパー1枚がどうだとか,手帳が1つどうだとかこういう問題を言っているんじゃないんです。だけど,やっぱり,その客観的に判断する人はね,『要するにまた出てきたらだめだった,また出てきたらじゃ,何回続きやいいんだ』という可能性だけ,可能性だけです。丁田さんに言わせれば,『無いよ』とこれでおしまいです。私たちもその善意に対しては間違いなかろうと。ただし,私たちあくまでも3人は言われてやってきた訳で,まだこの周りにですね,もう乙山さんも,うるさい五木さんだっているし,七瀬さんだっているし,まだまだいっぱいいるわけですよ。そういう人たちはね,要するに私たちの言っていること,丁田さんの言っていること,半分わかるけど半分わかっていない。あとは,文春のあの書面,そういうものについてやっぱり彼らは中心にいろいろコメントするわけですよ。ですから,……出てきた場合には大変なことになるよって。……もしですね,この次,……また出てきちやったじゃないかといった場合に,まあ失社ですけど,我々も立つ瀬がないわけですよ。『何だお前たちでくの坊』と,……何しに行ってんだと。」「私たちはね,言ってること7害リ,あるいは人によって違うかもしれないけど,私は7割信用します。ですけれども,……もしこの次出てきたならば,これはやっぱりね,ただ単に書かないとか,またあったから出しますよという問題ではないですよと。……意図的に隠したんですか,それとも分からないであったのか,これはね,第三者の判断というのがね,これはもう,まちまちになっちゃう訳ですよ。だから,私たちも今ここでね,もうケリをつけたい訳ですよ。」と,執拗に,家探しをしなかった場合には騒動が生ずる可能性を示し,控訴人らの威勢にひるんだ被控訴人丁田が「気持ちは分かります。じゃあ,どないしたらよろしいんですか。」と述べると,「どないしたらって言ったら,どうですか甲野さん,ですからこの前ね,要するにくどいようですけど,……開けていただいたでしょ。ああいうのを見てね,それで我々が目で見て,それで無いとなったら,それは無い訳ですよ。」と述べて,あくまでも前回の5月17日の訪問の際のように,被控訴人丁田の自宅の各部屋の本棚や引出の内部を探すことを要求した。被控訴人丁田は,「するなら勝手にやれ。不法侵入,脅迫ですぐに訴える。」と述べた。これに対して,控訴人丙川が「やるならやってみろ。」と言ったので,被控訴人丁田は110番に通報しようと電話の受話器を取り上げたところ,控訴人丙川が急いで立ち上がり,被控訴人丁田につかみかかってこれを止めた。控訴人甲野は,「どうしてもだめなら,全党挙げて丁田をつけねらう。」と述べた。
(カ)控訴人らの剣幕に,被控訴人丁田は,控訴人らの要求を拒み続けるとどのような危害を加えられるかもしれないと畏怖して,「それは,かまいませんけどね,感情論で申し訳ない。心外なんですよ。甲野さん。なんで……」と述べたが,控訴人丙川が「私たちは,本当にその,感情論で言ってるんじやないですよ。……丁田さんの立場に立ったつもりで言っているんですよ。」と畳みかけると,被控訴人丁田は,渋々「何度でも何でもどうぞ」と答えた。すると,控訴人丙川は,「いやそれは,これはね。赤の他人の家ですから,どうぞなんて言われるもんじやないですよ。やっぱりね,……やっぱり,その丁田さんがご案内いただき,奥さんのご了解をいただかなきやね。そんなもの,私は社会人だし,少なくともあの立法府に長いこといた者ですから,そんなもの,ズカズカズカズカね,行くわけにはいきませんよ,それは。それはいけませんよ。そんな失礼なことはできません。あくまでもですね,出すのも,私が自発的に出したんだよ,と。みな,自発的にやったんだよ,と。それは圧力になるよ,と。言っていただいているんですから。」と,被控訴人丁田に対して,同被控訴人の自宅内の捜索に当たって控訴人らを案内することを求めた。これに対して,被控訴人丁田が「ほんとにね。こんなこと,そんな昔の過去のことよりも,このこと自体が大問題ですよ。まさか,お互いね,野暮ですから言いません。だから僕は自発的に出した形をとっている訳ですからね。それをもう……。」と述べて案内を渋ると,控訴人丙川は「その是非はね,もう私たちはいいんですよ。ここにね,6000名のね,0Bと議員がいる訳ですよ。」と,控訴人らの背後には多数の創価学会ないし公明党関係者がいることを示して被控訴人丁田を威迫した。控訴人らから,このような要求を受けて,被控訴人丁田は,「じやあ,もうご覧下さい。」と述べた。
(キ)夏子は,控訴人らが被控訴人丁田宅に到着した際には外出していたが,その後,控訴人らと被控訴人丁田が自宅応接間で上記のようなやり取りをしている間に帰宅した。しかし,被控訴人丁田は夏子が既に帰宅していることを知らなかったことから,上記のやり取りに引き続いて同被控訴人と控訴人らとの間で次のような会話がされた。
 丁田「ご案内するんですか?」
 丙川「やっぱりそうじゃないとね。そうじゃないとね,もう。」
 丁田「屋根裏まで行きますか?」
 丙川「ズカズカズカズカってわけにはいかないし,奥様だっていらっしゃるし。」
 丁田「家内はおりませんよ,今。」
 丙川「お留守ですか,今?」
 丁田「仕事で出かけてます。」
 丙川「少なくとも,やっぱりご案内いただかないと。どうですかね,ズカズカってわけには。」
 乙山「そりゃまずいよ。」
 甲野「人の家だよ,あんた。」
 上記のような会話の後,被控訴人丁田は「いやいや,どうぞ,もう。ご案内してもいいですよ。しかし,あの,俺,本当にどないしてご覧になるかなと思って。」と述べながら,なお案内を渋る様子を見せたが,控訴人丙川が「そしたら案内してもらって。」と述べ,更に,控訴人乙山が「その方がいいよ。そんでね,そんでさ。 したくない,本当にしたくない,したくないけれどもね,したくないけれども,我々もこうやって話し合って,それで大勢の人いるわけですよ。あれだけのものを。」と述べて,再び,控訴人らの背後に多数の創価学会ないし公明党関係者が存在することを示して威迫したので,被控訴人丁田も,遂に抵抗をあきらめて,「ご案内しましょ!もうめんどくさい。……もうあれですよ,ちょっと私としては,ひっくり返っているのを見られるのはいやですけどね。そういうプライバシーのところは,目をつぶっていただいて。」と述べて,腰を上げた。すると,控訴人丙川が「あの,丁田さん。丙川が無理に押しかけてきたなんて,後で書かないで下さいよ。はっはっは。」と笑うと,これを受けて,控訴人乙山が「そんな余計なこというからいけないんだよ。」と述べた。
(ク)被控訴人丁田に案内をさせて,控訴人らは,同被控訴人の自宅を1階から3階まですべての部屋を順次捜索した。特に2階の書斎では本棚を詳細に調べ,引出も全部開け,すべてのファイルを取り出して点検した。3階の物置では,掛け軸なども調べ,段ボール箱の中まで見た。また3階の被控訴人丁田の部屋(寝室)では,すべての引出を開け,クローゼットも開け,中の段ボール箱まで捜索した。
(ケ)被控訴人丁田の妻夏子は,帰宅後,3階の自屋(寝室)において着替えをしていたところ,夏子郷帰宅を知らない被控訴人丁田が部屋の扉(引き戸)を開けた。被控訴人丁田に続いて扉の前まで来ていた控訴人らは,着替え中の夏子をいきなりのぞき見る形となり,控訴人らと目が合った夏子は,「きゃあ,きゃあ。」と大声を出した。被控訴人丁田は,「ああ,おったんか失礼。」と述べて扉を閉め,控訴人らに「着替えておりますから。」と説明したが,夏子の声に驚いた控訴人らは,他所に移動した。
(コ)被控訴人丁田と控訴人甲野は,その後,次の内容を記載した念書に署名し,原本を被控訴人丁田が,写しを控訴人甲野が保管した。
 「丁田春男は,5月15日,5月17日,5月30日の3回で1967年から2001年まで通年の丁田の日記および関係書類を公明党元議員の甲野一郎氏,乙山二郎氏,丙川三郎氏に預けた。
 双方は,5月17日に確認した条件を信義誠実を重んじ遵守する。
 以上,双方,確約する。」
(サ)被控訴人丁田は,用意した手帳のほかメモ類等の書類を大型封筒に入れてガムテープで封をし,これを控訴人らが持ち帰った。
(シ)控訴人らが退去した後,夏子が「なぜ,あの人たちに2回も家探しをさせるのか,非常識すぎる。許せない。それに私が着替え中,私の部屋を覗くとはけしからん。」と被控訴人丁田に泣きながら抗議したところ,同被控訴人は夏子に対して一言もなく,黙っていた。
(3)事実認定の補足
ア 控訴人らは,控訴人らが平成17年5月15日(2回),17日,30日に被控訴人丁田宅を訪問した際に,いずれも控訴人乙山においてICレコーダ(ソニー製品。 IC RECORDER ICD-MS515
.甲43は同型のもの)を携行し,事のすべてを隠し録りしたとする音声データを複製収録した記録媒体(CD-R)及びその反訳書(甲25~28)を提出し(以下,これらを併せて「本件音声データ」という。),被控訴人丁田本人,証人丁田夏子及び同東町純の各供述書(乙ハ4~6)並びに原審での尋問における供述のうち,本件音声データに収録されていない部分は信用できないなどと主張している。これに対して,被控訴人らは,本件音声データは被控訴人丁田宅における控訴人らと同被控訴人等のやり取りのうちの重要な部分が削除されていると主張している。
イ 本件音声データに関しては,控訴人ら提出に係る甲34(西村正作成の鑑定書)が合成,修正及び加工された箇所は見当たらず,編集改ざんが行われた録音ではないとしている。しかしながら,乙ハ7及び9(日本音響研究所鑑定書)及び弁論の全趣旨によれば,一般にデジタル方式で録音された音声データは削除,結合等による編集を行ってもその形跡が残らないと認められるから,本件音声データに編集改ざんの痕跡が認められないからというだけでは,本件音声データについて録音後に編集改ざんが行われなかったと断定することはできない。現に,日本音響研究所鑑定言において分割,削除,結合を施したデジタル音声データである乙ハ8について,西村正は甲36において,これらの作業が施された箇所を具体的に指摘することができていない。
ウ そこで検討すると,
(ア)原審では,弁論準備手続において主張内容及び証拠の整理がされたところ,本件音声データは,原審準備手続期日において提出されず,原審第2回口頭弁論期日(平成18年12月15日)の被控訴人丁田本人尋問での反対尋問において,控訴人ら代理人が同被控訴人において控訴人らの訪問時に録音をしていなかったことを念入りに確認した後の第3回口頭弁論期日(平成19年3月9日)において,初めて提出されたものであり,被控訴人丁田及び当裁判所から後記第一次録音媒体を提出するように促されても,当該録音媒体における録音内容は既に消去したというのみで,これに応じようとしないものである。控訴人らの主張によれば,本件音声データは,被控訴人丁田宅における録音の際にICレコーダに収納されていた録音媒体(64メガバイトメモリースティック。以下「第一次記録媒体」という。甲43は同型のもの)から,本件音声データが録音された当日(平成17年5月15日,17日及び30日),コンピュータ内蔵の記録媒体に複製収録し,それをさらに他の記録媒体を介して他のコンピュータ比より複製したものを証拠として提出したというものであり,第一次記録媒体からの複製収録の際,同媒体から音声データを削除し,また,その際に用いたコンピュータは壊れたので廃棄したため,いずれも裁判所に提出できないというのである。しかしながら,控訴人らが被控訴人丁田とのやり取りを録音したのは,本件のような訴訟に備えてのものであると推認されるところ,訴訟における原本主義に鑑みれば,録音に係る第一次記録媒体は原本として保管し,ICレコーダを再使用するために新しい記録媒体を購入するのが通常であること等からすれば,証拠の保管ないし提出方法において著しく不自然な点があるといわなければならない。
(イ)次に,本件音声データそれ自体を見ても,その内容において,以下のような不自然な点を指摘することができる。①平成17年5月15日の訪問時の音声データ(甲25)において,本件手帳を自ら燃やすという被控訴人丁田の供述を前提としての控訴人らと被控訴人丁田との供述が録音されているにもかかわらず(204項),前提となる本件手帳を自ら燃やす旨の被控訴人丁田の供述が録音されていない。②同月17日の訪問時の音声データ(甲27)において,エレベータの音や仏壇での題目三唱等,階上における行動に関するやり取りを録音した箇所があるのに(527項以下),念書の署名終了後の会談(455項以下)やその前の会談で,控訴人らが被控訴人丁田に対し,階上の案内を求めたことに関するやり取りが存在しない。③同月30日の訪問時の音声データ(甲28)において,同月17日の訪問の際に被控訴人丁田から自宅内の本棚等の開示を受けたことを前提とする控訴人らの供述(前回と同様に自宅内を開示することを求める供述)が録音されているにもかかわらず(97項,109項),同月17日の訪問時の音声データ(甲27)には,その様子が一切録音されていない。④同月30日の訪問時の音声データ(甲28)において,控訴人丙川が控訴人甲野に意見を求めたところ(197項),同控訴人の発言がないにもかかわらず,被控訴人丁田は,「それはかまいませんけどね。感情論で申し訳ない。心外なんですよ。甲野さんね。」と,控訴人甲野に向けて発言している(198項)。なお,その前は,控訴人丙川と被控訴人丁田のやり取りが続いていた。⑤同音声データでは,被控訴人丁田において,妻夏子が不在であると思いこんでいたことを前提とする供述が録音されているにもかかわらず(214項等),自宅3階の夏子の部屋(寝室)を控訴人らが覗いた様子が録音されていない。
 なお,上記のうち,⑤(夏子の部屋の覗き見)について,補足的に説明すれば,音声データには控訴人らが夏子の部屋付近にいる際の録音として,扉をたたくような音が録音されているところ,自宅内を控訴人らを案内した際に,被控訴人丁田は夏子が不在と思いこんでいたのであるから,夏子が在室するかどうかを確かめるために夏子の部屋の扉をたたくことはあり得ず,また,夏子においても,被控訴人丁田以外の者が自らの部屋に入ることを予想していなかったはずであるから,自室の扉を内側からだたくことで自らの在室を知らせたというのも不自然である。さらに,3階の被控訴人丁田の部屋(寝室)にギターが置いてあり,被控訴人丁田自身がこれを鳴らしているが,ギターと扉とは4m余り離れていた(当審における検証)にもかかわらず,扉の音とギターの音が短時間のうちに連続して録音されており,そのように連続して音を発生させるためには,被控訴人丁田において極めて迅速に移動しなければならないことになるが,当時の状況や同被控訴人の年齢から認められる運動能力に照らせば,そのような迅速な移動は困難である上に,控訴人らのギター談義を無視して同被控訴人において迅速な移動をしなければならない必要性はない。付加するに,控訴人らは,被控訴人丁田の部屋(寝室)を捜索するために入室したにもかかわらず,同部屋を捜索した気配が全く録音されておらず,検証における控訴人らの説明も同部屋を素通りしたことを前提になされている。
エ 上記ウに指摘した各事情に照らせば,本件音声データは,被控訴人丁田宅において録音された当時の音声データ(第一次記録媒体に記録されていた内容)について,その後に削除等の加工を施されたものと認められるから,その録音内容は,録音された部分について控訴人らと被控訴人丁田との間に録音された発言等があったことの証拠として採用しうるとしても,録音がないことを理由に録音されたもの以外の発言等がなかったと認定することができない。また,控訴人丙川の原審本人尋問における供述や陳述書についても同様であり,録音されたもの以外の発言等がなかったとの点は到底採用することができない。録音されていない部分の発言等については,被控訴人丁田本人,証人丁田夏子及び同東町純の各陳述書(乙ハ4~6)並びに原審での尋問における供述を証拠として認定するのが相当である。
(4)真実性の抗弁について
ア 上記認定事実に照らせば,控訴人らは,平成17年5月14日に被控訴人丁田が創価学会青年部の幹部多数に囲まれ,いねばつるし上げのような形で,家族に危害を加えることを暗示する脅迫の下で,今後の政治評論活動を辞めると約束させられた事情を十分に知悉した上で,翌5月15日から同月30日にかけて4回にわたって被控訴人丁田宅を訪問し,創価学会青年部との約束を守るあかしとして本件手帳を引き渡すように求め,被控訴人丁田においてこれを拒絶するや,自分たちは創価学会ないし公明党の指令により訪問したもので,控訴人らの背後には多数の創価学会員ないし公明党員が存在するものであって,控訴人らの要求を拒めば,これらの多数の創価学会員ないし公明党員が被控訴人丁田及びその家族に対してどのような危害を加えるかもしれない旨を暗示しあるいは明示的に述べて,被控訴人丁田を脅迫し,控訴人らのこのような発言内容に畏怖した被控訴人丁田が,やむなく控訴人らの要求に応じて本件手帳等を引渡したこと,控訴人らが被控訴人丁田に対して同様の威嚇をして被控訴人丁田宅の1階から3階まで,本棚,引出,クローゼット等の内容まで捜索する家探しを行い,3階の妻夏子の部屋にまで捜索に及んだことを認めることができる(控訴人らは,妻夏子の部屋に立ち入っていないとしても,夏子が室内で着替えをしていたため入室ができず,それでも扉の開かれた部分から同部屋を覗いたのであり,捜索に及んだということができる。)。
 なお,本件音声データ中には,控訴人らと被控訴人丁田がやり取りのなかで談笑する部分も存在するが,これは,控訴人らにおいて,控訴人乙山がICレコーダを携行して隠し録りをしていることを認識していたことから,録音結果がなごやかな雰囲気となることを意図して,表面上強い口調や大声を出すことを避け,会話中にあえて笑いを交えていた結果であり,他方,被控訴人丁田においては,平成5~6年ころの文藷春秋への手記の連載のため創価学会等に対して迷惑をかけたとの思いや,控訴人らを刺激することにより今後更なる糾弾を受けたり身に危険が及ぶといった事態を避けるために,あえて控訴人らに迎合する姿勢をとった結果と認められる。前記認定のような,控訴人らの訪問の前後の状況や訪問時における会話の内容に照らせば,控訴人らの脅迫の結果,被控訴人丁田が畏怖して本件手帳等を引き渡し,自宅内の捜索に応じたと認定すべきものであり,本件音声データ中の上記のような内容は同認定の妨げとなるものではない。被控訴人丁田においてあらかじめ念書を作成しておいた点も,前認定の事実関係によれば,同被控訴人主張のとおり,控訴人らが持ち去った後の本件手帳等の管理について一定の願いを聞き入れてほしいとの趣旨で作成したものと認められ,念書作成の事実をもって,被控訴人丁田において心底任意に本件手帳等を控訴人らに交付したものと認めるべきものではない。
イ 上記によれば,控訴人らが,共謀の上,被控訴人丁田の自宅において,同被控訴人に,同被控訴人が極秘メモを記載していた衆議院手帖を引き渡すよう強要し,本棚,押し入れ,妻の部屋に至るまで家探しし,被控訴人丁田の衆議院手帖を段ボール箱に詰めて同被控訴人から奪い,これを持ち去ったとの事実を摘示した第1記事の内容及び控訴人らが,4回にわたって被控訴人丁田宅を訪問し,その都度,執拗かつ強い要求をし,被控訴人丁田が「プライバシーの侵害になる」と強い抗議をしたにもかかわらず,2回にわたって家探しを強行するなどして,同被控訴人の手帳を無理矢種に持ち去ったとの事実を摘示した第2記事の内容は,いずれも真実というべきである。また,これらの事実をもって第2記事の見出しで「手帖強奪」と表現したことは,大仰な感を否めないが,強要ないしは脅迫の程度を強調したものと評価することができ,同表現があるからといって記事全体の真実性が左右されるものではない。
3 控訴人らの請求(第1,2事件)について
(1)被控訴人講談社らに対する請求
 そうすると,被控訴人講談社らに対して,本件各記事を名誉毀損であるとして,謝罪広告及び損害賠償を求める控訴人らの請求はいずれも理由がない。
(2)被控訴人丁田に対する請求
 上記のとおり,本件各記事が公共の利害に関わる事実を内容とするもので,被控訴人講談社らにおいて専ら公益を図る目的で本件各記事を本件週刊誌に掲載したものであり,本件各記事の内容が真実であるというのであるから,本件各記事についてその情報を提供した者が控訴人らに対して名誉毀損を理由とする責任を負うということはできない。したがって,本件第1記事が被控訴人丁田の取材に基づき作成されたものであるかどうかを検討するまでもなく,被控訴人丁田に対して謝罪広告及び損害賠償を求める控訴人らの請求もいずれも理由がない。
4 被控訴人丁田の請求(第3事件)について
(1)本件手帳等の引渡請求について
ア 控訴人らは,被控訴人丁田は本件手帳等の引渡しに際して2通の念書を作成し,控訴人らとの間で,当該内容の合意をしたものであるところ,上記合意は本件手帳等の負担付贈与若しくは信託的譲渡又は信託の設定とみるべきであり,これにより本件手帳等の所有権は控訴人らに移転し,被控訴人丁田はその所有権を喪失した,あるいは控訴人らに本件手帳等を保持する権原を付与する無名契約であると主張する。
イ しかしながら,2通の念書の内容は上記認定のとおりであるところ,当該念書の文言に照らせば,被控訴人丁田が本件手帳等の所有権を保持し続け,控訴人らにこれを移転していないことは明らかであって,これを控訴人ら主張のような内容の合意と解することはできず,また上記認定のようなこれらの念書の作成された前後の状況に照らしても,控訴人らの主張は採用することができない。
 この点,控訴人らは,本件手帳等引渡しの経緯や念書中に関係者が死亡した後における保管の継続等に関する条項があることからすれば,同念書に基づく合意は,民法に定める寄託契約ではなく,フランス民法1956条等に定める合意による係争物寄託ないしは英米法におけるエスクロウ契約に類似した一種の無名契約であり,少なくとも関係者が死亡するまでは本件手帳等の返還は予定されていないものであると主張する。しかしながら,念書にいう「将来,関係者が死亡したときは,……丁田は子息丁田秋男,三氏は指定する公明党関係者の立会いの元で協議し,これら資料の保管の継続などの処理を決める。」との条項は,関係者が死亡した時の本件手帳等の保管方法について定めているだけであり,また,被控訴人丁田において,その生涯返還請求権を放棄する旨の約束が含まれていないので,同主張に理由がない。
ウ なお,上記念書の文言に照らせば,当該内容のとおりの合意がされたとすれば,被控訴人丁田と控訴人らとの間に本件手帳等についての保管期間を関係者死亡までとする寄託契約が成立したことを認める余地はある(もっとも,控訴人らは寄託契約を主張しておらず,また,被控訴人丁田は合意の成立を否定している。)。しかし,仮に本件において寄託契約の成立を認めるとしても,それは無償寄託契約であり,民法662条により,期間の定めがあっても,寄託者たる被控訴人丁田はいつでもその返還を請求することができるから,現に同被控訴人が返還を請求している以上,いずれにしても控訴人らが本件手帳等を占有する権原を認めることはできない。
エ したがって,被控訴人丁田が控訴人らに対し,所有権に基づき本件手帳等の引渡しを求める請求は理由がある。
(2)不法行為を理由とする損害賠償請求について
ア 被控訴人丁田は,控訴人らが平成17年5月17日及び同月30日に被控訴人丁田の意思に反して同被控訴人宅内を家探しして検分し,同被控訴人のプライバシーを侵害したと主張して,不法行為を理由に,控訴人ら各自に対して1000万円(合計3000万円)の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。
イ 上記認定事実によれば,被控訴人丁田の主張するとおり,控訴人らが平成17年5月17日及び同月30日に被控訴人丁田の意思に反して同被控訴人宅内を家探しして検分し,同被控訴人のプライバシーを侵害した事実を認めることができる。上記認定事実によって認められる控訴人らの被控訴人丁田に対する言動や家禄しの状況等を総合考慮すれば,被控訴人丁田の精神的損害に対する慰謝料額としては300万円をもって相当というべきであり,控訴人らの行為は共同不法行為というべきであるから,控訴人らは当該金額の支払につき連帯(不真正連帯)してその責に任ずるべきものである。
ウ したがって,被控訴人丁田の控訴人らに対する損害賠償請求は,控訴人らに対して連帯して300万円及びこれに対する不法行為目以後の日である平成17年5月30目以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
5 結論
 以上によれば,控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,被控訴人丁田の請求は,本件手帳等の引渡し及び上記の金額の支払を求める限度で理由がある。
 よって,これと異なる原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 南敏文 裁判官 安藤裕子 裁判官 三村量一)

別紙
 物件目録〈省略〉
 謝罪広告〈省略〉
**********

■こうして、両者のせめぎあいは平成22年から平成23年へと年を跨いで続くのでした。

【ひらく会情報部・この項つづく】

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フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(その5)

2012-02-16 10:45:00 | 安中フリマ中止騒動
■未来塾側が安中市側を訴えた損害賠償控訴請求事件の第2回口頭弁論は、平成22年12月20日(月)午前11時30分から東京高等裁判所第5民事部511号法廷で開かれました。

 安中市職員が傍聴の為出張して同日に市長に提出した復命書(出張報告書のこと)によると、次のとおりです。
**********
平成22年12月20日受付・起案、平成22年12月28日市長決裁
件 名 復命書(損害賠償等請求控訴事件の第2回口頭弁論)
地域づくり団体未来塾の市に対する損害賠償等請求控訴事件について、下記の通り第2回口頭弁論が行わ
れ、傍聴しましたので復命いたします。

1.日時  平成22年12月20日(月)午前11時30分
2.場所  東京高等裁判所第5民事部511号法廷
3.事件番号  平成22年(ネ)第4137号
4.当事者  (控訴人) 地域づくり団体未来塾 代表 松本立家、訴訟代理人弁護士 山下敏稚
       (被控訴人) 岡田義弘、安中市訴訟代理人弁護士 渡辺明男
5.概要  控訴人から第1準備書面および第2準備書面、安中市から準備書面について陳述。控訴人は平成23年2月10日(できるだけ早く)までに準備書面を提出することとなった。次回口頭弁論は、平成23年2月21日午後4時第5民事部511号法廷と決まった。(次回結審予定)
**********

■この復命書に記載されている安中市が第2回口頭弁論で陳述したとされる準備書面は、平成22年12月17日付の被控訴人の安中市側の準備書面(2)です。通常は弁論期日予定日の遅くとも2週間前に出すのですが、寸前に、あるいは法廷で当日提出するのもテクニックの一つです。安中市の顧問弁護士で群馬県公安委員もしている多忙な渡辺明男弁護士が、おそらく安中市の秘書行政課の職員にハッパをかけて、また、岡田義弘市長が直々に職員を叱り飛ばして、急遽ドラフトを作らせた可能性も否定できません。

 いずれにしても、同11月29日の控訴人の未来塾側から提出された第1準備書面と第2準備書面をみて、岡田義弘市長が拠り所としてた日本音響研究所の鑑定書の内容にイチャモンがつけられていたので、慌ててこれを払拭するために、わざわざ、ICレコーダーによる録音記録の改ざん等不自然な加工で証拠採用されなかった判例を引き合いに出して延々と例示するのが目的でした。

 じわじわと、外堀を埋めてくる未来塾の裁判進行テクニックには、群馬県公安員や県内有名会社の顧問弁護士をやっている渡辺弁護士としては守勢に立たされている観は否めません。

**********
平成22年(ネ)第4137号  損害賠償等請求控訴事件
控訴人  松本立家 外1名
被控訴人 岡田義弘 外1名
          準 備 書 面(2)
                         平成22年12月17日
東京高等裁判所第5民事部 御中
                被控訴人安中市
                訴訟代理人弁護士  渡 辺 明 男
第1 社会的評価の低下について
1 市長選挙の結果について
 控訴人らは,社会的評価の回復のために必死の努力があってこそ,市長選挙における接戦という結果を生んだと主張し,その努力の例示として,会報の発行,議会の一般質問及び本訴訟の提起などをあげている。
 しかし,乙24号証の新聞記事に「訴訟は市政の大きな課題ではなく,対立関係が市長選に持ち込まれた経緯を多くの市民が分かっている」と書かれているように,民事訴訟による対立を市長選挙に持ち込んだが故に,市民から冷ややかな見方をされ,投票率が低迷したという実態がある。
 このため,本訴訟の提起は,立候補者の高橋由信陣営の中心であった控訴人らにとって,純粋な政策論争であれば得られるべき票を失ったとも言える結果となっている。
 岡田義弘陣営の選対本部長が「不安はないが,油断することなく」(乙22号証)と述べているように,大方の推測として市長選挙があのような接戦となることは予想していなかった。
 このことから,当該市長選挙の結果や市民の冷静な反応から判断すれば,本件談話の発行が控訴人らの社会的評価に何ら影響を与えていないことは明白であって,むしろ,被控訴人岡田義弘の行政手腕が「独善的」と指摘される(乙24号証参照)要因の一つとなり,得票にも影響を及ぼしたと言えるのではないだろうか。
 なお,念のため付言すると,被控訴人岡田義弘は,直裁的な発言から誤解を受けることが多いが,行政執行そのものは,決して「独善的」ということはない。
第2 真実性・真実相当性について
1 録音記録(甲39・甲40)
(1)録音記録の提出の時期が遅れたこと
 録音記録の提出の時期が遅れたことについて,名誉毀損の立証責任から被告の抗弁事実に対する反論・反証として位置づけられることを理由としているが,平成20年(ネ)650号各損害賠償,手帳返還等請求控訴事件(乙25号証)においては,第3回口頭弁論で原告側から提出されたICレコーダの記録が時期に遅れた攻撃防除方法であると被告から批判されている。
 本件では,いったい,いつ,控訴人らは録音記録を提出する予定だったのか?
 上記事件と同様に控訴人らは,市長室で意見交換会が開催されたため,被控訴人らに録音記録があることを恐れ,それが不存在であることを確認したうえで録音記録を提出する予定であったと疑われてもやむを得ない。
 そうでなければ,控訴人らが怒鳴っていないことなどを裏付ける,極めて有利な証拠を,こちらが要求するまで提出してこない理由が見当たらない。
 しかも,原審において,被控訴人らは日本音響研究所の指示に従い,音源であるICレコーダ本体から直接データを抽出させてくれるよう求めたが,裁判長がその必要を認めなかったという経過があったにせよ,控訴人らは意見書まで提出してこれを拒んでいる。
 確かに当初は,被控訴人らもICレコーダのメーカーからの説明で,編集加工を施したものを本体に書き戻すことが可能な機種(乙15号証参照)とされたため,本体のデータ自体の真実性が極めて疑わしいことから,あえて提出を求めなかった。
 しかし,その後,鑑定を実施するに当たって,専門家である日本音響研究所から本体からのデータ抽出が必要とされたため,この事情を説明し,改めて提出を求めたが,控訴人らは,被告らの要求は理由も不合理であり,必要性を全く欠いているうえ,訴訟の遅延を招くものであると主張してこれに応じなかった。
 編集加工していないなら,なぜ正々堂々と提出に応じなかったのか,また自ら鑑定を求めなかったのか,非常に疑問が残るが,以上の経過でやむなく被控訴人岡田義弘が事実を証明するため,個人の費用をもって,写しのCD-Rにより鑑定を依頼したものである。
 このような控訴人らの不可解な訴訟対応も,本体データに編集加工を施したことが大きく疑われる証左を示すものと言える。
(2)鑑定書の信用性について
 専門家が作成した鑑定書の信用性について,互いに素人意見を重ねても意味がないため,あえて反論はしなかったが,そもそも原審においては,鑑定自体が不要とされたうえ,鑑定人の証人尋問も認められていない。
 控訴人らは,時計の衝撃音がマイクと時計との距離,マイクの感度等,何らかの原因によって録音されない場合かおるとしているが,録音した者はICレコーダの位置を変えたのは,一度だけであり,録音の障害となるものはなかったと陳述している(甲52号証松木通陳述書6頁参照)。
 したがって,マイクと時計との距離,マイクの感度などが原因で,時計の衝撃音が録音されたり,されなかったりするはずがない。
 しかも,実際に市長室に来たうえで,意識して聞いてもらえばわかるが,長針による衝撃音はかなり目立つ信号であって,それが確認できないことは非常に不自然である。
 また,30秒を単位として削除するという編集加工の作業自体が極めて不自然としているが,合計で30秒という意味であれば,例えば15秒+10秒+5秒を削除しても辻棲は合う。
 こうした場合に途中の10秒に長針による衝撃音が記録されていたが,その部分が削除の対象になったと考えれば,全く矛盾は生じないし,さらに,録音内容を削除したうえで全く同じ時間の編集加工した内容を挿入したことも想定できる。
 なお,衝撃音は聴き取りやすい場所と聴き取りにくい場所があるが,はっきり聞こえるところであれば,誰もがその衝撃音には気付くものである。
 控訴人らは,衝撃音を意識していたが,上記のような特性があるので,聞こえないところもあってもおかしくないと判断した可能性は考えられ,時間調整のみ行ったのではないだろうか。
 鑑定書後半の証明方法では,番号136から137の間で3分あるいは3分30秒のまとまった時間の削除が行われたことを示唆するものであるが,30秒又は1分までの削除ならば,誤差の増加の直線上に大きな変化は現れにくいと考えられる。
 この場合において,既に指摘したように,録音内容の挿入も行われていたとすれば,誤差増加の直線上には一切の影響は起こらない。
 時計については,市長室の時計は,子時計であり,親時計は電話交換室の壁に設置されている。
  メーカーはセイコー社であって,「RADIO CONTROL」と表示されているところから,本来はNHKのラジオを受信して,自動的に時刻修正をするタイプであったが,現在は同調しておらず単体で動いている。
 また,時計の表面にはCrystalと表示されているため,水晶振動子を使用したクォーツ時計であると推察され,その精度については,控訴人らの主張のとおり,月差±15秒以内のレベルである。
 事実,鑑定を依頼するに当たって,10月2日(金)午後3時から10月9日(金)午後3時までの1週間で市長室の時計を精査しているが,3.75秒以上の誤差は生じていなかった。
 したがって,意見交換会が行われた約2時間程度では,時計による誤差は,最大0.05秒に過ぎず,鑑定では全く問題とならない。
 また,ICレコーダの機械的な誤差については,鑑定書では「このような誤差は機械的,ソフトウェア的に発生するものであるとすれば,急激に変化するものではなく,徐々にずれていくものである」(鑑定書7頁15~16行目)としている。
 鑑定を依頼した日本音響研究所は,村越吉辰ちゃん誘拐殺害事件をはじめとして,数々の刑事事件の音声分析のほか,裁判所,各国政府機関等からの依頼で音声・音響分析の鑑定を行っており,その信頼性は高い。
(3)控訴人らの鑑定について
 控訴人らは,次々回期日までに専門家の立場から分析した書面を提出するとしているが,被控訴人としても全く異存はない。
 しかし,付言するならば,先の平成20年(ネ)650号各損害賠償,手帳返還等請求控訴事件では,原告側から「音声データのすべてについて,周波数分析を行い,音や信号の周波数成分の状態をスペクトログラムに表示し,録音内容の聴取検査をも併用し,本件音声データを検査した結果,合成,修正及び加工された箇所は見当たらず,編集改ざんされた録音ではない」とする鑑定書が提出されているが,デジタル方式で録音された音声データは,削除,結合等による編集を行ってもその痕跡は残らないと認められるため,本件音声データについて録音後に編集改ざんが行われなかったと断定はできないと事実認定が補足されている。
 本件鑑定書において,編集についての一般的な所見として,デジタル編集は,ICレコーダ等で録音された音声データを,パソコン等を用いて内容の削除・挿入等の波形編集を行う方法で,編集の初歩的な知識があれば編集した形跡をほとんど残さないため,その証明が難しいことをはっきり記している。
 このため,鑑定は市長室に設置された時計の特徴的な音響信号に着目して,その点を中心として分析が行われているが,この調査で明らかに不自然な箇所が生じているため,編集加工されたものと推定しているのである。
 これに対して控訴人らは,デジタル編集であるICレコーダでしかも無断録音された音声データについて,今さらどのような鑑定方法で編集改ざんが行われなかったと証明するのか不明であるが,真実性の証明は極めて困難であると言わざるを得ない。
2 要点筆記(丙17)
 意見交換会の要点筆記であるが,被控訴人安中市代理人が,証人尋問前日,被控訴人岡田義弘に確認したときには,意見交換会においては要点だけを走り書きでメモをしておいた。これが,本人が言うところの頭だけ書いた部分であると思われるが,その夜に意見交換会の内容について,当該メモを元に一生懸命思い出しながら書き,残りを翌日に書いたものであると話していた。
 つまり,あらためて清書したわけであるが,被控訴人岡田義弘にとって,はじめての証人尋問という経験のなかで,質問を勘違いして回答している場面も多かったと思われる。
 なお,市長がメモをとっていたことは,意見交換会の出席者の誰もが認める紛れもない事実である。
 また,市長という立場においては,いったん非常時が発生すれば,睡眠不足や過労があったとしても,休むことは許されず,これを理由に意見交換会の当日に書いたことを不自然であるとするのは,あまりに行政運営を知らない者の考えである。
3 長澤証人に関する録音記録(甲54・甲55)
 確かに民事訴訟法には証人尋問等の証拠調べ中に書証を提出してはいけないという規定はないが,同法156条には,攻撃防御方法の提出時期として,訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならないとされている。
 おそらく控訴人らは,証人長澤和雄から意見交換会において怒鳴っていないという証言を得るために,弾劾証拠として甲54号証及び55号証を提出したと思われるが,そこには,言葉を濁すだけで怒鳴っていない旨を発言した内容は全く記録されていなかった。
 そもそも無断録音したのも証人長澤和雄が控訴人松本立家に配慮し,本人は怒鳴っていないと発言してくれることや自己に有利な発言を引き出すことを期待して,それを記録に残そうとしたと推測できるが,徒労に終わっている。
 にもかかわらず,証人尋問では,記録された当日の会話の詳細な内容を中心として,厳しく質問しているが,証人長澤和雄から控訴人らが怒鳴っていない等の有利な証言を得ることはできなかった。
 つまり,証人長澤和雄の証明力を弱めることを目的として提出されたものの,はじめから弾劾証拠とするだけの内容は含んでいなかったことになる。
 むしろ,甲54号証及び55号証の内容を全く知らされないまま,その詳細までいきなり聞かれたのでは,記憶が曖昧であることから誘導尋問となるおそれが多分にあり,訴訟における信義則に反することは明らかである。
第3 人格権侵害
1 自己情報コントロール権
 これまで何度も主張したとおり,本件談話は,安中市の広報紙の一部として発表されたものではあるが,情報の厳格な正確性が求められる一般記事ではなく,あくまで市長としての意見表明の場であった。
 市長本人の表現方法として,本件談話を作成し,その内容も同席した3人の部長に確認を行っており,その主旨とするところは真実に全く反していない。
 控訴人らとしては,書かれた内容に不満かおり,本件談話の相当部分が真実に反すると考えることには理解できるものの,それはあくまで主観的な感情であって,客観的に判断すれば,自己情報コントロール権を侵害するような虚偽の内容ではなく,ましてや社会的評価を低下させるものではないことは,原審において認めるとおりである。
2 団体の人格権
 平成22年9月29日付け準備書面においては,公法私法の二元論に基づき,基本的人権が公権力との関係を規律するものではないと主張したわけではなく,控訴人らはその主旨とするところを故意に前提を間違えている。
 人格権は,その性質上,本来は私法上の権利として,私人間に適用されるものであるが,その根源は憲法上の人権として幸福追求の権利に結びつくものである。
 なお,私人間の効力を積極的に捉えない立場においては,人格権は即憲法上の人権とは考えない。
 それに加えて基本的人権は,自然人の権利として承認されてきたものであるから,未来塾のような団体に人格権として名誉やプライバシー(自己情報コントロール権を含む。)を認めることの是非をはじめとして,仮りに,認められるとしてもその範囲を問題としているのである。
 法人等の団体が一定の基本的人権を享有できるとしても,団体一般に名誉感情侵害は認めることはできないし,名誉侵害に対する救済方法として慰謝料を認めることに対しても議論がある。
  しかし,団体一般に対する名誉保護の範囲が,人格権の権利主体であるべき自然人と対等に取り扱われるべきではないことは、控訴人らも異論はないはずである。
 特に,その名前で独自の社会的信用の保護が問題となるような控訴人未来塾の場合,相応の社会的関心の下にあり,社会的評価や批判にさらされる立場にあるのだから,私人よりもはるかに名誉保護の範囲は限定されたものになるべきである。
第4 請願権侵害
 本件談話の掲載・発行が,なぜ控訴人らの請願権(憲法16条)を侵害することに結びつくのか,全く理解ができない。
 本件談話の掲載・発行が請願を行った一審原告らに対する「差別待遇」であって,請願を実質的に萎縮させる圧力を加えるものであるとしているが,意見交換会はその名称のとおり,対等な立場における話し合いの場であって請願を行うものではないし,本件談話の掲載・発行が「差別待遇」にも当たるはずがなく,控訴人らの論理は飛躍しすぎている。
                        以 上

【証拠説明書】
平成22年(ネ)第4137号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人 松 本 立 室外1名
被控訴人  岡 田 義 弘 外1名
            証 拠 説 明 書
                        平成22年12月17日
東京高等裁判所 第5民事部 御中
                 被告安中市
                 訴訟代理人 弁護士 渡 辺 明 男
号証/標目(原本・写しの別)/作成年月日/作成者/立証趣旨/備考
乙25/高裁判決・写し/21.3.27/東京高等裁判所/本件の類似事件において、ICレコーダによる録音記録の提出が遅れ、その他不自然な点から削除等の加工をされたと認められたこと。

【乙第25号証】
裁判年月日 平成21年3月27日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ネ)650号
事件名 各損害賠償、手帳返還等請求控訴事件
裁判結果 取消、自判 上訴等 上告、上告受理中立 文献番号 2009WLJPCA03277002
要旨
 ◆名誉毀損による損害賠償等請求訴訟において証拠として提出された音声データが削除等の加工をされたものと認められ,録音がないことを理由に録音されたもの以外の発言等がなかったとは認められないとされた事例
裁判経過
 第一審平成19年12月21日東京地裁判決平17(ワ)15151号・平17(ワ)15738号・平17(ワ)23436号損害賠償等請求事件、手帳返還等請求事件
出典
 判タ1308号283頁
評釈
 上田竹志・法セ663号122頁
 林昭一・法セ増刊(速報判例解説)6号149頁
参照条文
 民事訴訟法231条
 民事訴訟法247条
 民事訴訟規則1 4 3条
裁判年月日 平成21年3月27日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ネ)650号
事件名 各損害賠償、手帳返還等請求控訴事件
裁判結果 取消、自判 上訴等 上告、上告受理中立 文献番号 2009WLJPCA03277002
控訴人・被控訴人(原審第1,第2事件原告,第3事件被告) 甲野一郎(以下「控訴人甲野」という。)
控訴人・被控訴人(原審第1,第2事件原告,第3事件被告) 乙山二郎(以下「控訴人乙山」という。)
控訴人・被控訴人(原審第1,第2事件原告,第3事件被告) 丙川三郎(以下「控訴人丙川」といい,控訴人甲野及び同乙山と併せて「控訴人ら」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士         佐藤博史
同                    新堀富士夫
同                    海野秀樹
同                    小川治彦
同                    金庫優
被控訴人・控訴人(原審第1,第2事件被告,第3事件原告) 丁田春男(以下「被控訴人丁田」という。)
同訴訟代理人弁護士            弘中惇一郎
同                    久保田康史
同                    川端和治
同                    河津博史
同                    弘中松里
同訴訟復代理人弁護士           大木勇
同                    品川潤
被控訴人・控訴人(原審第1,第2事件被告)株式会社講談社I(以下「被控訴人講談社」という。)
同代表者代表取締役            野間佐和子
被控訴人・控訴人(原審第1,第2事件被告) 戊原大介(以下「被控訴人戊原」といい,被控訴人講談社と併せて「被控訴人講談社ら」といい,被控訴人丁田及び同講談社と併せて「被控訴人ら」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士         的場徹
同                    山田庸一
同                    服部真尚
同                    大塚裕介
同                    小西裕雅理
主文
1 原判決中,控訴人らの請求に係る部分のうち,被控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 原判決中,被控訴人丁田の請求に係る部分を次のとおり変更する。
(1)控訴人らは,被控訴人丁田に対し,別紙物件目録記載の手帳及び関連資料を引き渡せ。
(2)控訴人らは,被控訴人丁田に対し,連帯して300万円及びこれに対する平成17年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人丁田のその余の請求をいずれも棄却する。
4 控訴人らの控訴(当審において変更した被控訴人丁田に対する請求を含む。)をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,一審及び当審を通じてこれを10分し,その1を被控訴人丁田の負担とし,その余を控訴人らの負担とする。
6 この判決は,第3項(1)及び(2)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人ら
(1)原判決中,控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
(2)被控訴人講談社らは,控訴人ら各自に対し,連帯して1780万円及びうち890万円に対する平成17年7月25日から,うち890万円に対する同年8月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人丁田は,控訴人ら各自に対し,被控訴人講談社らと連帯して1890万円及びうち1000万円に対する平成17年7月25日から,うち890万円に対する同年8月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被控訴人丁田は,控訴人らに対し,別紙謝罪広告を被控訴人講談社発行の「週刊現代」に原判決別紙掲載要領記載の要領で1回掲載せよ。
(5)訴訟費用は,一審及び当審を通じて被控訴人らの負担とする。
(6)仮執行宣言
2 被控訴人講談社ら
(1)原判決中,被控訴人講談社ら敗訴の部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る控訴人らの被控訴人講談社らに対する請求をいずれも棄却する
(3)訴訟費用は,一審及び当審を通じて控訴人らの負担とする。
3 被控訴人丁田
(1)原判決中,被控訴人丁田敗訴の部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る控訴人らの被控訴人丁田に対する請求をいずれも棄却する。
(3)控訴人らは,被控訴人丁田に対し,別紙物件目録記載の手帳及び関連資料を引き渡せ。
(4)控訴人らは,被控訴人丁田に対し,それぞれ1000万円及びこれに対する平成17年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 本件事案の内容等
(1)原審第1事件(以下,単に「第1事件」という。)は,控訴人らが,被控訴人講談社発行の週刊誌「週刊現代」(以下「本件週刊誌」という。)に掲載された,控訴人らが被控訴人丁田の自宅から同被控訴人が極秘事項をメモしていた手帳を持ち去った,控訴人らは家探しをしていったとする記事により名誉を毀換されたとして,それぞれ,被控訴人らに対し,共同不法行為を理由として1000万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日である平成17年7月25日(同記事が掲載された本件週刊誌の発売日)以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,謝罪広告の掲載を求めている事案である。
 原審第2事件(以下,単に「第2事件」という。)は,控訴人らが,「上記手帳は無理矢理持ち去られたものであり,上記記事の内容は真実である」旨の被控訴人丁田のコメントを内容とする本件週刊誌の記事により名誉を毀損されたとして,それぞれ,被控訴人らに対し,共同不法行為を理由として,1000万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日である平成17年8月1日(同記事が掲載された本件週刊誌の発売日)以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,謝罪広告の掲載を求めている事案である。
 原審第3事件(以下,単に「第3事件」という。)は,控訴人らが,被控訴人丁田所有の手帳及び関連資料を強奪した上,同被控訴人の自宅を家探ししてプライバシーを侵害したとして,被控訴人丁田が,控訴人らに対し,所有権に基づき上記手帳及び関連資料の返還を求めるとともに,不法行為を理由として控訴人ら各自に対して1000万円(合計3000万円)の損害賠償及びこれに対する不法行為日以後の日である平成17年5月30日以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
(2)原判決は,第1事件及び第2事件において控訴人らの被控訴人らに対する請求を一部認容するとともに,第3事件において被控訴人丁田の控訴人らに対する請求を全部棄却した。そこで,控訴人ら及び被控訴人らは,いずれも原判決のうち敗訴部分の取消し及び請求の全部認容(控訴人講談社らを除く。)を求めて,それぞれ控訴した。なお,控訴人らは,当審において,被控訴人丁田に対して求める謝罪広告の内容を一部変更した。
2 前提となる事実関係(末尾に証拠を掲げたもの以外は,争いがない。)
(1)控訴人ら
ア 控訴人甲野は,昭和34年から同38年まで墨田区議会議員,同年から同55年まで東京都議会議員,同年から同61年まで参議院議員を務め,同45年から同61年まで公明党中央執行委員の地位にあった。
イ 控訴人乙山は,昭和38年から同42年まで神奈川県議会議員,同年から平成5年まで衆議院議員を務め,昭和62年から平成2年まで公明党中央執行副委員長の地位にあった。
ウ 控訴人丙川は,昭和40年から平成7年まで参議院議員を務め,同5年から同7年まで公明党中央執行副委員長の地位にあった。
(2)被控訴人ら
ア 被控訴人講談社は,雑誌及び書籍の出版等を目的とする株式会社であり,本件週刊誌を発行している。
イ 被控訴人戊原は,本件週刊誌の編集人である。
ウ 被控訴人丁田は,昭和38年に大阪府議会議員となり,同42年から平成5年まで衆議院議員を務め,昭和42年に公明党の書記長に就任し,同61年から平成元年まで同党中央執行委員長の地位にあった。
 被控訴人丁田は,衆議院議員を引退した後,政治評論家として活動している。
(3)控訴人らは,平成17年5月15日に2回,同月17日及び同月30目に各1回,合計4回にわたって被控訴人丁田の自宅に赴き,同被控訴人所有の別紙物件目録記載の手帳及び関連資料(以下,この手帳を「本件手帳」といい,関連資料と併せて「本件手帳等」という。)を持ち帰った。
(4)被控訴人講談社らは,平成17年7月25日発売の本件週刊誌同年8月6日号に,控訴人らが被控訴人丁田の自宅から同被控訴人の手帳を持ち去った,控訴人らは家探しをしていったとする原判決別紙第1記事のとおりの記事(以下「第1記事」という。)を掲載した(甲1)。
(5)控訴人らが同年7月26目に第1事件の訴訟を提起したところ,被控訴人講談社らは,同年8月1日発売の本件週刊誌同月13日号に,控訴人らは,被控訴人丁田が強い抗議をしたにもかかわらず,同被控訴人の手帳を無理矢理持ち去ったものであり,第1記事の内容は真実である旨の被控訴人丁田のコメントを内容とする原判決別紙第2記事のとおりの記事(以下「第2記事」といい,第1記事と併せて「本件各記事」という。)を掲載した(甲2)。
3 争点及びこれについての当事者の主張
(1)第1記事による名誉毀損
(控訴人らの主張)
 第1記事は,控訴人らが,共謀の上,被控訴人丁田の自宅において,同被控訴人に,同被控訴人が極秘メモを記載していた衆議院手帖を引き渡すよう強要し,本棚,押し入れ,妻の部屋に至るまで家探しし,同被控訴人の衆議院手帖100冊を10箱近い段ボール箱に詰めて同被控訴人から奪い,これを持ち去ったとの事実を摘示したものである。
 このような内容の第1記事は,一般読者に対し,控訴人らが犯罪行為又はこれに準ずる行為を行ったとの印象を抱かせるものであり,控訴人らの名誉を毀損するものである。
(被控訴人講談社らの主張)
 第1記事が控訴人らの社会的評価を低下させることは認め,その余は争う。
(被控訴人丁田の主張)
 控訴人らの主張事実は認める。
(2)第2記事による名誉毀損
(控訴人らの主張)
 第2記事は,控訴人らが,4回にわたって被控訴人丁田宅を訪問し,その都度,執拗かつ強い要求をし/同被控訴人が「プライバシーの侵害になる」と強い抗議をしたにもかかわらず,2回にわたって家探しを強行するなどして,同被控訴人の手帳を無理矢理に持ち去り,これを強奪したとの事実を摘示したものである。
 このような内容の第2記事は,一般読者に対し,控訴人らが,強要,恐喝又は強盗等の犯罪行為によって,被控訴人丁田から手帳を奪い取ったとの印象を与えるものであり,控訴人らの名誉を毀損するものである。
(被控訴人講談社らの主張)
 第2記事は,被控訴人丁田の手帳が同被控訴人の意に反して持ち出されたとの事実を摘示したものであり,これが控訴人らの社会的評価に触れることは認め,その余は争う。
(被控訴人丁田の主張)
 控訴人らの主張事実は認める。
(3)被控訴人丁田の責任
ア 第1記事について
(控訴人らの主張)
 第1記事は,被控訴人丁田が,被控訴人講談社に情報を提供したものであった。第1記事中の「丁田氏と同世代の元公明党幹部X氏」は被控訴人丁田にほかならず,「黒革の手帖」あるいは「衆議院手帖」という事実,殊に,「大きな事件が起きたときや,政局が動いた年は何冊も使っていたので,合計100冊以上にのぼる」との事実は,被控訴人丁田以外には知りようのない事実である。このような第1記事の内容のほか,相当性を主張しない被控訴人講談社らの態度等からしても,第1記事の情報源が被控訴人丁田であることは明らかである。
 したがって,被控訴人丁田には,同記事による控訴人らの名誉毀損について,控訴人らに対し,被控訴人講談社らと共に共同不法行為の責任がある。
(被控訴人丁田の主張)
 被控訴人丁田は,第1記事の作成に関与していない。同被控訴人は,控訴人らの行為に憤概しており,話の通じる人にてん末を話をしたことがある。しかし,その話が被控訴人講談社に伝わったか,どのようにして伝わったかは知らない。
イ 第2記事について
(控訴人らの主張)
 被控訴人丁田は,被控訴人講談社から,控訴人らによる第1事件の訴え提起についてコメントを要請され,コメントの内容を自ら読み上げた。
 ある者の情報提供に基づく記事が人の名誉を毀損する場合において,当該情報提供者が,自らの提供する情報が報道されることを認識し,これを容認していたときは,不法行為責任を負うというべきところ,被控訴人丁田は,自らのコメントを内容とする記事が本件週刊誌に掲載されることを認識,認容していたばかりでなく,積極的に意図して虚偽の情報を提供し,記事の作成に深く関与したものであり,第2記事について不法行為責任がある。
(被控訴人丁田の主張)
 情報提供者に対して不法行為責任を問うためには,取材に対する事実の摘示や評論,意見を述べる行為が虚偽であることを知りながらあえてされるなど,取材当時,情報提供者が置かれた立場を考慮してもなお相当でないことが明らかであり,情報提供者が,自らの発言内容がそのまま雑誌等に掲載されることについて了解した上,あえて第三者の名誉を毀損するような事実の摘示や論評,意見を述べたという特段の事情が存在することを要すると解すべきところ,被控訴人丁田による第2記事のコメントはこれらの要件を欠くから,同被控訴人は第2記事について不法行為責任を負わない。
(4)真実性の抗弁等
ア 第1記事について
(被控訴人らの主張)
 第1記事は,元公明党委員長という要職にあった被控訴人丁田が多くの政治的秘密をつづった被控訴人丁田の手帳をめぐる,政権与党の一翼を担う公明党及びその支持母体である創価学会内部の騒動を報じたものである。これらの内容は国民の関心事で,公共の利害に関する事実に関わるものであり,被控訴人講談社らは,専ら公益を図る目的で第1記事を本件週刊誌に掲載した。そして,控訴人らが被控訴人丁田の意思に反してその手帳を持ち出したとの摘示事実,控訴人らが同被控訴人宅の本棚,押入れから妻の部屋に至るまで家探ししていったとの摘示事実はいずれも真実である。
 控訴人らの提出に係るICレコーダによるデジタル録音データ(甲25~28.枝番号は省略する。以下同様)は痕跡を残さずに削除,分割,結合等の編集を行うことが一般的に可能なものであり,本件においても,被控訴人丁田宅における控訴人らと同被控訴人等のやり取りのうちの重要な部分が削除されている。
(被控訴人講談社らの主張)
 控訴人らの提出に係る上記ICレコーダによるデジタル録音データは,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。
(控訴人らの主張)
 控訴人らが,手帳を渡すように被控訴人丁田を脅迫,強要したり,同被控訴人宅を家探ししたり,同被控訴人の手帳を強奪した事実はない。被控訴人丁田は,自ら進んで手帳を控訴人らに引き渡したものであり,第1記事の摘示事実は虚偽である。このことは,ICレコーダによるデジタル録音データにより明らかなところである(同データについては削除等の編集は一切されていない。)。
イ 第2記事について
(被控訴人講談社らの主張)
 第2記事は,政権与党の一翼を担う公明党及びその支持母体である創価学会内部における元公明党委員長という要職にあった被控訴人丁田に対する訴訟提起及びこれに対する同被控訴人の反論を報じたものである。これらは,国民の関心事で,公共の利害に関する事実に関わるものであり,被控訴人講談社らは,専ら公益を図る目的で,第2記事を本件週刊誌に掲載したものである。そして,控訴人らが被控訴人丁田の意思に反して手帳を持ち出したとの摘示事実,控訴人らが被控訴人の強い抗議にもかかわらず,家探しを2回にわたって強行したとの摘示事実はいずれも真実である。
 控訴人らの提出に係るICレコーダによるデジタル録音データに関しては,前記第1記事に関する主張と同一である。
 仮に本件第2記事の内容が真実でないとしても,被控訴人講談社らには,これを真実と信じるについて相当な理由があった。
(被控訴人丁田の主張)
 第2記事は,政権与党を構成する公明党の元委員長という要職にあった被控訴人丁田に対して訴訟が提起されたことを報じるとともに,訴訟の対象とされた第1記事が真実であることを同被控訴人が述べたと報じるものであり,その報道が国民の関心事であり,公共の利害に関するものであること,報道目的が専ら公益を図ることにあったことは明らかである。そして,被控訴人丁田が控訴人らから脅迫,暴行を受け,手帳を強取されたとの摘示事実,控訴人らが同被控訴人の強い抗議にもかかわらず,家探しを2回にわたって強行したとの摘示事実はいずれも真実である。
 控訴人らの提出に係るICレコーダによるデジタル録音データに関しては,前記第1記事に関する主張と同一である。
(控訴人らの主張)
 控訴人らが,手帳を渡すよう被控訴人丁田を脅迫,強要したり,同被控訴人宅を家探ししたり,同被控訴人の手帳を強奪した事実はなく,第1記事の摘示事実は虚偽である。被控訴人丁田は,自ら進んで手帳を控訴人らに引き渡したものである。このことは,ICレコーダによるデジタル録音データにより明らかなところである(同データについては削除等の編集は一切されていない。)。本件第2記事の内容を真実と信じるについて相当な理由があったとの被控訴人講談社らの主張は,争う。
(5)第1事件及び第2事件の損害額
(控訴人らの主張)
 被控訴人らの上記各不法行為により,控訴人らの社会的評価は著しく低下し,控訴人らは多大な精神的苦痛を被った。
 第1記事及び第2記事は,ねつ造された虚構の記事であり,被控訴人講談社らにおいても,これを認識し,又は容易に認識することができたものであり,被控訴人らの行為は悪質である。
 被控訴人講談社らは,第1記事において情報提供者が被控訴人丁田であることを隠ぺいした上,情報提供者をねつ造し,さらに,第2記事により再び虚偽の事実を公表し,控訴人らの提訴を擲楡し,嘲笑している。これらに加え,本件各記事の内容,本件週刊誌の社会的影響力,被控訴人講談社が得た利益,控訴人らの受けた被害の内容,被控訴人丁田が本人尋問において虚偽の供述をしていることなどを考慮すると,被控訴人らの上記不法行為による控訴人らの損害額は,弁護士費用相当分の損害を含めて,控訴人各自において第1事件につき1000万円,第2事件につき1000万円を下らない。
(被控訴人らの主張)
 控訴人らの主張は争う。
(6)謝罪広告
(控訴人らの主張)
 上記のとおり,被控訴人らの不法行為は悪質であり,また,本件週刊誌が大きな社会的影響力を有していることにかんがみると,これらの記事により低下した控訴人らの社会的評価を回復させるためには,金銭賠償のみでは足りず,謝罪広告が必要である。その内容は,①第1記事については,被控訴人講談社らにつき原判決別紙謝罪広告1のとおりの謝罪広告,被控訴人丁田については別紙謝罪広告のとおりの謝罪広告,②本件第2記事については,被控訴人講談社らにつき原判決別紙謝罪広告2のとおりの謝罪広告,被控訴人丁田については原判決別紙謝罪広告3のとおりの謝罪広告がそれぞれ相当であり,これらを原判決別紙掲載要領記載の要領により掲載することを命じる必要がある。
(被控訴人らの主張)
 控訴人らの上記主張は争う。
(7)本件手帳等の返還請求及び控訴人らの不法行為について
(被控訴人丁田の主張)
ア 控訴人らは,平成17年5月15日,同月17日及び同月30日,被控訴人丁田宅を訪問し,同被控訴人に本件手帳等を出すよう強要し,同被控訴人の意思に反してこれを奪い,持ち去り,本件手帳等を強奪した。
 仮に,控訴人らの挙げる念書により本件手帳等を占有管理する権原が控訴人らに付与されたとしても,同念書により成立するのは民法上の寄託契約であり,民法662条により寄託者たる被控訴人丁田はいつでもその返還を請求することができるから,本件第3事件の提起による解約告知に伴い寄託契約は終了した(なお,寄託契約の解約を制限する特約の効力を認める学説も,受託者に特別の利益が認められる場合か又は有償寄託の場合に限って特約の効力を認めるものであるところ,本件においては受託者に特別な利益は認められず,また無償寄託であることは明らかである。)。
イ また,控訴人らは,同年5月17日及び同月30日,被控訴人丁田の意思に反して同被控
訴人宅を家探しして検分し,同被控訴人のプライバシーを侵害した。
(控訴人らの主張)
ア 被控訴人丁田は,平成5年9月以降,月刊誌「文藝春秋」(以下,単に「文藝春秋」という。)に,「極秘メモ全公開」と題する,公明党の書記長,委員長時代のぼう大な資料とメモに基づくと称する手記を公表していたところ,平成17年4月28日付の聖教新聞には,被控訴人丁田は,創価学会の副理事長らとの面談の席で,上記記事によって支持者に迷惑を掛けたことを謝罪したとの話が紹介された。
 このような経緯の下で,被控訴人丁田は,今後,本件手帳等を利用するつもりはないとし,控訴人ら立会いのもとで処分したいとの意向を示したことから,同被控訴人と控訴人らで協議した結果,被控訴人丁田が本件手帳等を封印した上で控訴人らに交付し,以後,控訴人らがこれを保管・管理することになった。
 被控訴人丁田は,本件手帳等を控訴人ら立会いの下で処分する,これを使う気はないし,自分のもとに残ってもろくなことはなく,万一これを控訴人らの立会いの下で見ることはあっても,これを持って帰ることはない,自分の死後は燃やしてくれと述べ,「被控訴人丁田が利用しないことを約して控訴人らに交付し,以後,控訴人らがこれを保管・管理すること」を約する内容の2通の念書を作成し,控訴人らとの間で,その内容の合意をした上,本件手帳等を控訴人らに引き渡した。
イ 上記合意は,被控訴人丁田が公明党やその関係者に迷惑をかけることがないよう,本件手帳等を利用できない状態に置くことを目的としたもので,本件手帳等の負担付贈与ないし信託的譲渡あるいは信託の設定とみるべきであり,これにより,本件手帳等の所有権は控訴人らに移転し,被控訴人丁田はその所有権を喪失した。
 また,控訴人らは,上記のような日的のもとに締結された無名契約である上記合意により,本件手帳等を保持する権原を取得したというべきである。この合意は,被控訴人丁田による本件手帳等の利用を制限することを中核とするものであり,被控訴人丁田に返還することは予定されておらず,寄託契約ではない。
(被控訴人丁田の再反論)
 上記の念書は,本件手帳等を奪い取られるにしても,せめてその後の管理について一定の願いだけは聞き入れてほしいという趣旨で被控訴人丁田が作成し,控訴人らにおいて,これを聞き入れるという趣旨で署名したものである。所持者が畏怖して物を交付し,あるいは奪取行為があった場合においても,念書など自由意思があったかのような文書が交付される例はままあることであり,上記のような念書が作成されたことによって,本件手帳等が強奪されたとの事実が変わるものではない。
(8)第3事件の損害額
(被控訴人丁田の主張)
 被控訴人丁田は,控訴人らによる本件手帳等の強奪及び被控訴人丁田の意思に反した家探しにより,多大な精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料の額は,控訴人ら各自について1000万円(合計3000万円)を下らない。
(控訴人らの主張)
 被控訴人丁田の主張は争う。
**********
【ひらく会情報部・この項つづく】

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フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(その4)

2012-02-16 01:53:00 | 安中フリマ中止騒動
■未来塾側が安中市側を訴えた損害賠償控訴請求事件の第1回口頭弁論は、平成22年10月18日(月)午後1時50分から東京高等裁判所第5民事部511号法廷で開かれました。

 安中市職員が傍聴の為出張して同10月20日に市長に提出した復命書(出張報告書のこと)によると、次のとおりです。

**********
平成22年10月20日受付・起案、平成22年10月28日市長決裁
件名   復命書(損害賠償等請求控訴事件の口頭弁論)
 地域づくり団体未来塾の市に対する損害賠償控訴請求の訴えについて、下記のとおり第1回口頭弁論が行われ、傍聴しましたので復命いたします。
            記
1. 日時  平成22年10月18日(月)午後1時50分
2. 場所  東京高等裁判所第5民事部511号法廷
3. 事件番号  平成22年(ネ)第4137号
4. 当事者 (控訴人)地域づくり団体未来塾 代表 松本立家、訴訟代理人弁護士 山下敏雅
       (被控訴人) 岡田義弘、安中市訴訟代理人弁護士 渡辺明男
5. 概要  控訴人から控訴理由書及び甲57号証ないし甲59号証、被控訴人岡田市長から答弁書、安中市から準備書面及び乙22号証ないし乙24号証について陳述。控訴人は11月30日までに準備書面を提出することとなった。次回口頭弁論は、12月20日午前11時30分第5民事部511号法廷と決まった。
**********

■これをみると、安中市から準備書面と証拠書類(乙22~24)が第1回口頭弁論で陳述されたことになっていますが、なぜか陳述されたはずの岡田義弘市長の答弁書が手元にありません。

 なぜ安中市が情報開示請求から、この公文書を除外したのか理由は定かではありませんが、おそらく、市民の目に触れさせたくないという配慮か、あるいは何らかの市民に言えない事情があったのだと思われます。

■東京高裁の裁判指揮に基づいて、控訴人の未来塾側は平成22年11月29日付で、「第1準備書面」を裁判所に提出しました。

 これは平成22年9月28日付の安中市側の準備書面に記載された岡田義弘市長による広報誌における未来塾に対する虚偽内容の記事が、未来塾に対する社会的評価の低下には繋がらないとする主張に対して、反論のコメントをおこなうためのものでした。

**********
平成22年(ネ)第4137号 損書賠償等請求控訴事件
控訴人(一審原告)  松本立家 外1名
被控訴人(一審被告) 岡田義弘 外1名
          第 1 準 備 書 面
                       平成22年11月29日
東京高等裁判所 第5民事部 御中
        控訴人(一審原告)ら訴訟代理人
                  弁護士  山 下 敏 雅
                  同    中 城 重 光
                  同    釜 井 英 法
                  同    登 坂 真 人
                  同    寺 町 東 子
                  同    後 藤 真紀子
                  同    青 木 知 己
                  同    吉 田 隆 宏
                  同    船 崎 ま み
                  同    寺 田 明 弘
                  同    高 城 智 子
                  同    山 口 裕 末
        目 次
第1 社会的評価の低下について ――――――――――――――――――― 4
 1 社会的評価の低下等 ………………………………………………………… 4
 2 市長選結果について ………………………………………………………… 4
第2 真実性・真実相当性について ―――――――――――――――――― 5
 1 真実性・真実相当性 ………………………………………………………… 5
 2 録音記録(甲39,甲40) ……………………………………………… 5
 (1) 提出経過 ……………………………………………………………………… 5
 (2)鑑定書(丙22)に信用性のないことについての一審原告らの指摘に一審被告らが何ら反論をなしえていないこと ……… 7
 ア 総論 …………………………………………………………………………… 7
 イ 鑑定書の骨子 ………………………………………………………………… 8
 ウ 時計の音が確認できないとする点(①)について ……………………… 8
 エ 時計の音の間隔の誤差(②)について ……………………………………10
 オ 結論 ……………………………………………………………………………12
 (3) 日本音響研究所の鑑定内容に関する他の訴訟での扱い …………………12
 ア 東京地方裁判所平成9年4月17日判決(判例タイムズ971号184頁) …12
 イ 東京地方裁判所平成12年5月30日判決(判例時報1719号40頁) …13
 ウ 札幌高等裁判所平成13年2月16日決定(判例タイムズ1057号268頁) …15
 (4) 追加証拠の提出予定 …………………………………………………・………16
 3 要点筆記(丙17) ……………………………………………………………16
 (1) 総論 ………………………………………………………………………………16
 (2) 内容及び作成経過の不自然性 …………………………………………………18
 ア 「要点」の筆記でないこと  …………………………………………………18
 イ 意見交換会の細部の記憶・再現が不可能であること ………………………18
 ウ 2日に分けて作成したとの証言の不自然性 …………………………………18
 エ 作成時間の不自然性 ……………………………………………………………19
 オ 各部長に作成させず一審被告岡田自らが作成したことの不自然性…………21
 4 長澤証人に関する録音記録(甲5 4, 甲55) ……………………………27
第3 人格権侵害 ――――――――――――――――――――――――――――27
 1 自己情報コントロール権 …………………………………………………………27
 2 団体の人格権侵害 …………………………………………………………………30
第4 請願権侵害 ――――――――――――――――――――――――――――32

第1 社会的評価の低下について
1 社会的評価の低下等
 本件談話による一審原告らの社会的評価の低下に開する,一審被告安中市の平成22年9月29日付準備書面(以下単に「準備書面」という)における1頁ないし13頁,及び,一審被告岡田答弁書2頁ないし3頁に関する一審原告らの主張は,すでに一審原告ら控訴理由書9頁ないし,56頁までに詳述した通りである。
 また,一審原告松本個人の社会的評価の低下に関する準備書面13頁ないし15頁及び19頁ないし20頁に関しても,すでに一審原告ら控訴理由書56頁ないし60頁に詳述した通りである。
2 市長選結果について
 一審被告安中市は,平成22年4月22日に行われた安中市長選挙において,一審被告岡田と,一審原告未来塾メンバーの訴外高橋由信が立候補し,非常に接戦となったことを理由に,本件談話によって一審原告らの社会的評価が低下していないと主張するようであるが(準備書面13頁),明らかに失当である。
 「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」等の記載をはじめとする虚偽の内容が記載された本件談話を,市の広報という形式で安中市全戸に配布されたことよって,一審原告らの社会的評価は著しく低下させられた。一審原告らは,本件談話の内容が虚偽のものであることを明らかにし,低下させられた社会的評価を回復するために,会報の発行や,訴外高橋による市議会一般質問,そして,本訴訟の提起などの,多大な負担を強いられることとなったのである。
 このような多大な負担は,一審被告らによる本件不法行為がなければ,一審原告らが負う必要のなかったはずのものであり,その分,本来は,フリーマーケットをはじめとする地域づくり活動に,より一層尽力することが可能だったのである。社会的評価の回復のための一審原告らの必死の努力があってこそ,市長選における接戦という結果を生んだのであって,仮に,一審被告らによる本件談話の掲載・発行に対して,一審原告らが多大な負担を負ってまで様々な形で異議を唱え続けなければ,一審被告らから低下させられた社会的評価の下で,このような選挙結果に至ることは困難だったのである。
 市長選の結果は,本件談話が一審原告らの社会的評価を低下させたことを否定する根拠とはなり得ない。
第2 真実性・真実相当性について
1 真実性・真実相当性
 本件談話に真実性及び真実相当性がないことについての,一審被告安中市準備書面15頁ないし16頁,及び,一審被告岡田答弁書1頁ないし2頁に関する,一審原告らの主張は,控訴理由書60頁ないし63頁,及び,一審原告ら原審最終準備書面40頁ないし60頁で詳述した通りである。
 ここで,真実性・真実相当性に関して重要な書証である,一審原告らが提出した録音記録(甲39,甲40),これに対する一審被告岡田が提出した鑑定書(丙22),及び,一審被告岡田が作成したとする要点筆記(丙17)について,本書面で主張を補充するとともに,原審ですでに述べた主張についても,重要な争点であり,かつ,現時点においても一審被告らが何らの反論もなしえていないことから,改めて指摘する。
 以下詳述する。
2 録音記録(甲3 9,甲40)
(1) 提出経過
ア 一審被告安中市は,「控訴人らが真実として主張する録音記録(甲39・40号証)は,被控訴人が提出を促すまで,なかなか証拠として提出されず」(準備書面15頁),「本来であれば訴状とともに提出されてしかるべきもの」(同18頁),などと主張するが,名誉毀損訴訟における立証責任を正解しないものであり,極めて失当である。
イ 「摘示された事実が真実であること」,「行為者において真実と信ずるについて相当の理由があること」が,被告が主張立証すべき抗弁事実であることは,確立した最高裁判例である(最判昭和41年6月23日民集20巻5号1118頁)。「摘示された事実が虚偽であること」「行為者において真実と信ずるについて相当の理由のないこと」は,原告で主張立証すべき請求原因事実ではなく,被告の抗弁事実に対する反論・反証として位置づけられるものである。
 したがって,一審原告らが録音記録(甲3 9, 甲40)を提出するよりも先に,本件談話の記載内容が真実である,あるいは真実と信ずるについての相当な理由がある,とする一審被告らにおいて,その根拠を示すべきであることは当然である。
ウ 実質的にみても,一審被告らは,一審原告らの社会的評価を低下させる記事を掲載・発行する以上,その内容が真実であることを裏付ける根拠を有していなければならず,ましてや,一審被告岡田は,本件訴訟以前から,この裏付ける根拠として「要点筆記」が存すると平成20年3月14日の市誰会においても公言し(甲2の7),さらに原審答弁書において「要点筆記」が存在することを明言していたのである。
 そうである以上,一審被告らは,本訴訟開始後速やかに,この「要点筆記」を提出すべきであったし,また,それが十分に可能であった。
 それにもかかわらず,一審被告岡田は,一審原告らからの書証提出の求釈明にも一向に応じず,一審被告岡田が「要点筆記」(丙17)を提出したのは,一審原告らが文書提出命令を申し立てた後の,平成21年4月だったのである。
エ なお,一審原告らは,一審被告岡田から「要点筆記」(丙17)の提出があった後,造やかに録音記録を提出している。
オ 仮に,一審被告らがいうように訴え提起段階で一審原告らがこの録音記録を提出していたとすれば,後述するように,一審被告岡田が提出した「要点筆記」(丙17)が後日作成された虚偽のものであることを明らかにすることも,困難となっていたであろう。
カ 非難されるべきは,最高裁のいう立証責任の分配にしたがって正当に証拠を提出した一審原告らの側ではなく,一審原告らの名誉を毀損する記事を市の広報に掲載しながら,その真実性・真実相当性の根拠となるべき「要点筆記」を一向に訴訟に提出せず,しかも,意見交換会直後ではなく後日作成した虚偽のものを提出した,一審被告らの側である。
(2) 鑑定書(丙22)に信用性のないことについての一審原告らの指摘に一審被告らが何ら反論をなしえていないこと
ア 総論
 ー審被告安中市は,意見交換会の録音記録(甲39)について,「鑑定書(丙17号証〔一審原告ら訴訟代理人注:ママ。丙22号証の誤り〕)の内容からも編集加工されている事実は明らかとなった」(準備書面16頁)などと述べている,また,一審被告岡田に至っては,自身の後援会会報において,録音記録(甲39)が偽造であるとする鑑定書を提出したとの新聞記事を掲載し(甲59),鑑定書(丙22)を地区懇談会の場でも振りかざすなどしている。
 しかしながら,図鑑定言には論理的に重大な誤りがあり,全く信用性を欠くものであるうえ,むしろその分析結果は,編集偽造されたものではないとの一審原告らの主張を裏付ける内容のものとなっている。
 これについて,一審原告らは,原審最終準備書面62頁以降で,鑑定書(丙22)の誤りを具体的かつ詳細に指摘した。しかるに,一審被告らからは,これに対する反論は何らなしえていないのである。
イ 鑑定書の骨子
 「録音内容は編集加工されたものである」と結論づける同鑑定書の骨子は,以下の通りである。
① 30秒ごとの時計の音が確認できない部分が3ヵ所ある(15番=509秒付近,26番=899秒付近,51番=1781秒付近)。その3ヵ所の前後部分については,時計の音が記録されている部分を含む30秒,あるいは30秒の倍数を削除した可能性が考えられる(丙22:7頁)。
① 30秒ごとの時計の音の間隔について,録音記録では誤差が生じている(およそ10分45秒で1秒のペースで長くなるという誤差が生じている)。その誤差が,「137番」のポイントで30秒に対し0.3秒と急激に増加していることから,約3分間あるいは約3分30秒間の録音内容の削除があったことが推測される(丙22:8頁)。
ウ 時計の音が確認できないとする点(①)について
(ア) そもそも,「時計の音がない=一審原告らが録音を一部削除した」との論理自体,明らかな飛躍がある。鑑定書の立論は,「時計の音は必ず全て録音されている」との前提に立っているが,マイクと時計との距離,マイクの感度等,何らかの原因によって録音されない場合があっても何ら不自然ではなく,前提自体が失当である。
(イ) 「衝撃音を意識して」(鑑定書8頁)30秒ないしその倍数の時間数を削除するという編集加工の作業自体が,極めて不自然である。
 本件意見交換会での会話の流れが不自然に途切れないように,かつ,30秒ないしその倍数で削除することなど,高度な専門知識・技能を持つ者であってもおよそ不可能であり,まして,一般市民の一審原告らがそのような編集加工を行えるはずがない。
(ウ) 仮に,鑑定書がいうように一審原告らが人為的に30秒又は30秒の倍数の時間数の録音を削除したのであれば,鑑定書が②で述べているような誤差が発生する可能性が高くなる。
 3ヵ所それぞれで30秒またはその倍数の時間数削除するということは,すなわち,「51番(1871秒)」のポイント時点までに削除される時間数の合計が,90秒ないしそれ以上ということと同義である。
 鑑定書の結果によれば時計の音の誤差は10分45秒で1秒遅れるペースであるから,合計で90秒以上削除すれば,当初よりも0.139秒以上の誤差が生じることとなる(90÷(10×60+45)×1≒0.139)。
 すると,鑑定書の別添10の表の「51番」と「137番」を結んだ直線(少なくとも鑑定書もこの区間に編集偽造があったとは述べていない)は,グラフの原点を通過せずに,縦軸で原点よりも上を通過するはずである(別添10の表の縦軸は2秒あたり3.5センチメードルであるから,原点よりも2.4ミリメートル上かそれよりさらに上を通過することとなる。0.139÷2×3,5≒2.4)。
 ところが,別添10の表は,原点から「1 3 7番」までの直線が,原点を通過し,きれいに比例しているのである。
 この事実は,むしろ,一審原告らが当該部分で録音記録を削除していないことを強く裏付けている(なお,周波数・バツクノイズ等から見て編集された形跡がないことも同鑑定書4頁で述べられているとおりであり,一審原告らが記録録音を削除していないことがさらに裏付けられている)。
エ 時計の音の間隔の誤差(②)について
(ア) そもそも,「市長室の時計の長針が常に正確に30秒きっかりで(コンマ何秒以下の狂いもなく)動き,衝撃音を発している」との前提自体,失当である。
 時計は,機械式であれば1日に10秒程度,クォーツ式でも1ヶ月に15秒程度の誤差を生じるところ,鑑定書は市長室の時計の種類についても明らかにしていない。また,市長室の時計が「1週間で5秒以上の誤差が生じていない」との鑑定書の調査結果も,何を基準に測定したのか,また正確に(コンマ以下も含めて)何秒の誤差を生じていたのかさえ,全く記載がなく,不明である。
 鑑定書は,コンマ何秒の微細な数値を基準に立論しているが,その依って立つ肝心の時計の「誤差」の有無・内容について,分析が全く欠けている。
(イ) また,鑑定書は,「ICレコーダーが常に精確な時間数で録音している」との前提に立っており,この点でも失当である。
 当該ICレコーダーは,科学研究等で用いるような1秒以下の秒数まで精確に測定することを目的とした機械ではない。あくまで会話内容の保存が目的であるから(甲49:30頁「本機は人の声を長時間録音するのに適した機器です」との記載参照),録音にあたってコンマ何秒の誤差が生じることは十分に生じ得る。
 現にほぼすべての衝撃音が30秒きっかりの間隔になっていないことから考えると,時計自体の誤差だけでなく,ICレコーダーの録音時における何らかの障害によって一部0.3秒の遅れが生じたということは,十分に考え得ることである。
(ウ) また,鑑定言は,30秒毎に発する時計の衝撃音との関係で30秒またはその倍数の削除があったとし,その時間数について,わずか0.3秒の衝撃音の誤差を根拠に,3分間あるいは3分30秒間の録音記録が削除されているとしている。その理屈(10分45秒で1秒の誤差であることから,0.3秒の誤差に対応する時間数は3分間あるいは3分30秒間との理屈)からすれば,削除した時間数は,30秒きっかり又は3分30秒きっかりの時間数,すなわち,コンマ何秒の誤差も全くない時間数を削除しなければならないはずである。
 ところが,鑑定書は,「約3分間,あるいは約3分30秒間の録音内容の削除があった」(8頁。下線一審原告ら訴訟代理人)と結論づけている。鑑定書が削除のあったとする時間数に「約」と付記した根拠は全く不明であるが,「約」3分ないし「約」3分30秒削除すれば,誤差は0.3秒からさらにずれる(その「約」の分だけ前後する)ことが必至であって,0.3秒の誤差から削除の時間数を導き出したことと矛盾する。鑑定書の論理は完全に破綻している。
(エ) 鑑定書の立論でいけば,3分間あるいは3分30秒間の削除があったのは「136番」から「137番」の間ということになる。この時間帯は,ICレコーダーの録音記録の反訳(甲40)では35頁の3行目から7行日,一審被告岡田の提出した「要点筆記」(丙17)では58頁の部分に該当し,両者の記載内容に食い違っている部分はない。
 仮に一審原告らがこの部分を削除したのであれば,「要点筆記」(丙17)の58頁に3分間あるいは3分30秒間分の会話内容が記載されていて然るべきであるが,むしろ,反訳(甲40)の方が記載の分量が多い。また,当該部分は,「冒頭から怒鳴った」等本件名誉毀損の主要部分とは関係のないやりとりがなされていた箇所であり,一審原告らが編集する必要性は全くない。一審被告らも,当該部分で一審原告らが一体どのような内容のやりとりを削除したとするのか,明確な主張を全く行っていない。
 鑑定書は,一審被告岡田が出した「要点筆記」(丙17)や,一審被告らの主張との間に,全く整合性がなく,この点でも信用性がない。
オ 結論
 以上の通り,鑑定書の編集偽造されたものとの結論は全く信用性を欠くものであるうえ,むしろその分析結果は,編集偽造されたものではないとの一審原告らの主張を裏付けている。
(3) 日本音響研究所の鑑定内容に関する他の訴訟での扱い
 一審被告岡田は,「控訴人らは,犯罪の声紋鑑定も行っている専門家の鑑定書を信用性がないと(する)」などと論難する(答弁書3頁)。
 しかし,以下に見るように,日本音響研究所所長鈴木松美作成の鑑定結果が裁判所に採用されない例は,多数に及んでいる。
ア 東京地方裁判所平成9年4月17日判決(判例タイムズ971号184頁)
 マンションの6階に居住する被告が,その階上で発生するゴルフのパター練習によって生ずると考えられる騒音のため生活の平穏を害されたとして,マンションの管理組合総会で右騒音を問題とし,善処を求めたことに端を発した事案である。原告は,そのようなパター練習は行っていないと争い,被告に対し,名誉毀損に基づく謝罪広告及び損害賠償を請求した。他方,被告は原告に対し,原告方で行うゴルフのパター練習によって発生する騒音のため睡眠妨害等の精神的苦痛を受けたとして,原告に対し,原告が行っているとする夜間のゴルフ練習の中止及び損害賠償を請求する反訴を提起した。
 この事案では,平成8年6月11日,当事者双方及び訴訟代理人ら関係者が集まったうえ,原告宅でゴルフ練習機を使用し,これによって発生する音を,被告宅において,被告がそれまで録音に使用してきた機材を用いて録音する,という実験が行われた。そして,同実験に立ち会った日本騒音防止協会事務局長が,こうして収録された音と,「被告方における騒音を録音したもの」として被告が提出したテープとを比較し,衝撃音の発生,周期及びレベル,並びに周波数分析によれば,「両データの音源を全く同一のものと断定するには無理があるものと思われる」とする測定報告書を,平成8年7月に作成していた。
 これに対して,日本音響研究所所長鈴木松美は,被告の依頼を受け,被告が,平成6年に被告が被告宅で録音した音を,実験室の階上でゴルフボールを転がしてゴルフ練習機に強く接触させて発生さ甘た音を階下の部屋の天井付近で録音した音と対比・検討し,「被告の提出したテープに録音されていた音は,原告方でゴルフボールと形伏,質量,材料がほぼ同等の物体と,右練習機に類する物体とが強く接触した際に発した音を被告方で録音したものと推定できる」旨の平成7年8月21日付け鑑定書を提出し,さらに,被告が平成6年に録音したテープと本件実験によって発生した音を録音したテープの衝撃音とを周波数分析等により対比した結果「両者は同種のものと推定される」とする鑑定書を,平成8年12月4日付けで提出した。
 しかしながら,判決は,日本騒音防止協会事務局長の意見を採用し,「原告方から被告の主張するような騒音が発生していたとは認められないというべきである」旨判示した。
イ 東京地方裁判所平成12年5月30日判決(判例時報1719号40頁)
 原告の妻が,被告(創価学会の名誉会長)によって昭和58年8月ころ及び平成3年8月ころの2回強姦された,として,原告が被告に対し,損害賠償を提起した事実である。
 裁判所は,「事実的根拠が極めて乏しい」とし,「本件訴えは,その提起が原告の実体的権利の実現ないし紛争の解決を真摯に目的とするものではなく,被告に応訴の負担その他の不利益を披らせることを目的とし,かつ,原告の主張する権利が事実的根拠を欠き,権利保護の必要性が乏しいものであり,このことから,民事訴訟制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠き,信義に反するものと認めざるを得ないのである」として,訴権を濫用した不適法な訴えとして,却下判決を言い渡した。
 この訴訟において,日本音響研究所所長鈴木松美は,原告の依頼を受け,被告が提出した,原告及び原告の妻が創価学会関係者との間で行った電話でのやりとりの録音記録について,「録音されている女性の声は妻の声ではない」としてその証拠能力を争う原告の主張に沿う形で,同趣旨の声紋鑑定書・意見書を作成した。
 これに対し,裁判所は,日本音響研究所の鑑定書・意見書の結論を否定した。裁判所は,元警察庁科学警察研究所副所長の鈴木隆雄の意見を引き,「声紋とは,同じ言葉又は発音の音声を周波数分析して得られる周波数の分布状態をいい,声紋鑑定とは,この声紋を比較し,その同一性の有無を鑑定するものである」としたうえで,日本音響研究所の声紋鑑定が,同じ言葉又は発音の音声の中央周波数を比較するという手法を採用していたことから,「声紋鑑定の手法として妥当であるかどうか基本的な疑問が残るといわなければならない」とした。さらに,日本音響研究所が比較対照に使用した資料の適切性の観点からみても疑問がある,とした。その他,会話の流れそれ自体が自然であること,仮に録音が偽造であるとすると,似た声の人物二人を用意して録音テープを偽造したということになり,そのような事態が経験則上想定しにくいこと,さらに鈴木隆雄氏が行った声紋鑑定結果等を踏まえ,同録音記録について「偽造により証拠能力を欠くものであるとする主張には理由がないといわざるを得ない」とされた。
ウ 札幌高等裁判所平成13年2月16日決定(判例タイムズ1057号268頁)
 空知の連続婦女強姦殺人事件再審請求事件において,警察官と再審請求人との対話を録音したとされる2巻の録音テープについて,日本音響研究所代表鈴木松美は,弁護人の主張に沿うように,同録音テープが人為的に録音を編集したものである旨の鑑定書を作成・提出した。
 同鑑定書は,明らかに録音を中断したときに発生するスイッチの接点部より発生するパルスがあると判断できること,ダビングについては,録音を停止したと思われるパルスがあるにもかかわらず,ある種の音がそのパルスの中に混入していることなどを根拠とするものであった。
 これに対して,決定は下記のように述べ,その鑑定書の結論を否定している。
「 検察官は…科学警察研究所技官鈴木隆雄作成の鑑定書を提出するが,右鑑定書によれば…右両テープは同一の録音機で録音された可能性が大きいと考えられるとしている。そして,鈴木隆雄は…「甲308のテープのOIの部分は,マイクロホンのスイッチ操作による録音停止・開始の場合に類似しており,右録音停止から開始まで録音テープは走行していた可能性が強く,マイクロホンのスイッチをオフにした直後マイクロホンをたたくような音がしているのは,インジケーターの針が動いて録音状態にあるのを確認したのではないかと思う」,「鈴木松美の鑑定書で,甲308のテープについてダビングしたものと判断する根拠とされた点,すなわち,録音を停止したと思われるパルスがあるにもかかわらず,ある種の音がそのパルスの中に混入しているとすることについては,この音は,右パルスが発生する前からあり(本件の録音がなされる以前に何らかの理由により録音された音ではないかと思う),停止のパルスとは無関係であるとみなければならない」としている。
 右の両鑑定を対比し,更に,実際に録音テープを再生した結果によれば,鈴木隆雄が説明するところに説得力があるように考えられる。
 そして,鈴木松美が録音の中断や停止があると指摘するところは,話題が別のものに変わる部分や,対話を終えた部分がほとんどであり,そこで,事実を曲げるための操作が行われたとは考えにくい。鈴木松美の鑑定書をもとに2巻の録音テープが人為的に編集されたものであるという所論は採用できない。」
(4) 追加証拠の提出予定
 なお,一審原告らは,丙22考証の鑑定書に信用性のないことについて,専門家の立場から分析した書面を,次回期日に証拠として提出する予定である。
3 要点筆記(丙17)
(1) 総論
ア 繰り返し述べるが,真実性・真実相当性の立証責任を負うのは,一審被告らの側である。一審被告らは,本控訴審においても,一審原告らが録音記録を提出した時期について論難するが,かかる主張が失当であることはすでに上述した。
 他方において,一審被告らは,自身の抗弁を支える重要証拠となる「要点筆記」(丙17)の提出を一向になさず,一審原告らが文書提出命令を申し立ててようやく提出したことについて,何らの弁明もない。
イ 「要点筆記」は,その内容及び提出経過を見れば,意見交換会当日(及び翌日)に作成されたものではなく,後日作成された虚偽のものであることは明白である。一審原告らは,原審最終準備書面67頁ないし76頁において,これを具体的に論証し,さらに,控訴理由書63頁においても指摘した。
 ところが,一審被告岡田,一審被告安中市ともに,本控訴審においてこのー審原告らの主張に対する反論は,全くない。そもそも,一審被告らは,本控訴審においては,「要点筆記」に触れること自体を回避している。このような一審被告らの態度自体,「要点筆記」が後日作成された虚偽のものであることを否定し得ないことを端的に示している。
ウ 近時,検察官が証拠を改ざんしたとの疑いがもたれ,マスコミで大きく報道されたことは,周知の事実である。
 一般論として,訴追権という強大な公権力を有する検察官がその依って立つべき証拠を改ざんすることなど,言語道断である。
 同様に,多大な公権力を有し,法を遵守すべき要請の著しく高い一地方公共団体の長も,法廷に虚偽の証拠を提出することなど,断じてあってはならないのである。
 一審被告岡田は,その長という立場を利用し,市の広報を用いて,一般市民や市民団体の言動について,当該市民・団体の社会的評価を低下させる内容の記事を掲載・発行し,その内容が「真実である」と根拠づける証拠として,後日作成した虚偽の「要点筆記」を作成し,厳粛な法廷に平然と提出した。
 そして,一審被告岡田は,自身が立証責任を負う事実を支える証拠について虚偽証拠を提出していることについては沈黙し,棚に上げながら,他方で,一審原告らが録音記録を編集加工したなどと主張し,信用性のない鑑定書(丙22)を金科玉条の如く振りかざし,果てには,国家賠償法に関する最高裁判例を根拠に免責されるなどと主張して憚らない(答弁書4頁。なお,この点に関する一審原告らの主張はー審原告ら原審最終準備書面123頁記載のとおり)。
 かような一審被告岡田の行為を,裁判所が看過することがあっては,断じてならない。
(2) 内容及び作成経過の不自然性
ア 「要点」の筆記でないこと
 丙17号証は,一見して明らかな通り,意見交換会のやりとりのほぼすべてを,各出席者の発言の順番や内容など細部にわたって記したものであって,「要点」(=重要な点,肝要な点。広辞苑)を記載したものでは到底ない。
 一審被告岡田は,「要点筆記」について,「話し合い終了後,会話の内容について要点をメモ用紙に記載したもの」と説明するが(一審被告岡田第2準備書面9頁),かような一審被告岡田の主張を聞いて,その「要点筆記」が90枚以上にもわたるメモ用紙に詳細が記されたものであるなどと,一体誰が想像するであろうか。
イ 意見交換会の細部の記憶・再現が不可能であること
 約2時間にもわたる話し合いを,録音もメモも取らずに,細部にわたって正確に記憶し再現することなど,たとえ当日であっても不可能であることは,経験則上明白である。
ウ 2日に分けて作成したとの証言の不自然性
(ア) 一審被告岡田は,「要点筆記」の作成方法について,以下のように証言した。
「 頭だけ全部書いて,それで,その夜,次の日,全部その頭出しのところ書きました」(一審被告岡田:9頁)
「 頭出しというのは,だれが発言,こういう,したという頭の部分ですね」(同9頁)
「 頭出しというのは,こういう短い文章は,言葉は全部書けますよね。長い文章があるわけですよ,中には」(同10頁)
「 こういうの(注:2紋日「6」の長澤発言)は頭だけ書いて,それで,その晩とその次の副こ」
「(これは当時のメモに書いて,あとは,あとで思い出して書いたと,こういうことですか)そういうことですね」
(イ) しかし,そもそも一審被告岡田の証拠説明書上では,「要点筆記」の作成日は平成19年9月10日となっており,翌11日にもわたって作成していたということ自体,唐突な証言である。
(ウ) また,-一審被告岡田は,意見交換会中に「頭だけ」を書いていたと証言するが(一審被告岡田:9頁),一審被告岡田はほんの数回程度,単語程度の短いものをメモしていただけであり(甲50;20頁・21頁,甲52:6頁,一審原告松本:17頁),同証言は明らかに虚偽である。
(エ) さらに,一審被告岡田は,意見交換会中に「頭だけ」書き,細部をその晩と翌日に書き入れたと証言するが(一審被告岡田:9頁),翌日にわたったのであれば記憶の再現は当日に再現するのと比してさらにより一層困難である。
(オ) そして万一,一審被告岡田のいうような方法を取るならば,後で細部を書き入れようとする部分の余白スペースの見込みが異なるのが通常であり,細部を書き入れた後も余白が残ったり,逆に,余白が足らずに文字を詰めて書き入れる必要も出てくるはずである。しかし,実際の「要点筆記」(丙17)は,全てにわたって,文字間も行間もきれいに等間隔となっており,「頭だけ」書き入れて空白部分を作り,後日細部を書き込んだような形跡は,微塵もない。
エ 作成時間の不自然性
(ア) 「要点筆記」(丙17)はすべて一審被告岡田の手書きで記載されているところ,その文字数は,一審被告岡田の有利となるように句読点を除いて数えても,1万6334文字にもわたる。仮に1分間に100文字のペースで休みなく書き続けても,優に2時間40分を要することとなる。通常,日本語の筆記速度は1分間に70文字程度と言われており(太田晴康「リアルタイム字幕の自由化と要約筆記」,財団法人日本リハビリテーション協会『ノーマライゼーション』2000年9月号),1分間100文字のペースは,通常日本人の1.42倍という異常な速さである。その異常なスピードで,全く休みなく書き続け,しかも,何かを書き写すだけという単純作業ではなく,記憶を喚起しながらの作業で,数時間にもわたって筆記し続けることなど,およそ不可能である。
(イ) しかし,一審被告岡田は,この「要点筆記」の作成時間について,「2日合わせて要点筆記を作るのにかかった時間」を問われ,法廷で下記のように「1時間半から2時間」と証言した。
(一審被告岡田:13頁)
一審原告ら訴訟代理人山下  二日合わせて,この要点筆記を作るのにかかった時間ですけれども,30分くらいですかね。
岡田  いや,今少し考える時間もありますから,前後,考える時間ありますから。
山下  そうすると,どのぐらいですか。
岡田  1時間半から2時間はかかるんじゃないでしようか。
(略)
山下  今,1時間半とおっしやいましたけど,例えば1時間半だと1枚当たり1分間のペース,2時間でも1枚あたり1分20秒のペースで,ずっと書き続けて休みなく書いてそのペースなんですが,1時間半ないし2時間ぐらいでしたか。
岡田  そうですね。
(ウ) 一審被告岡田は,反対尋問において,筆記速度の不自然性を指摘されるや,意見交換会の最中に「ずっと書いていた」ので,「1時間半ないし2時間」は「仕上げた話で,空白を埋めたところの話です」と弁解した(一審被告岡田:15頁)。しかし,上述したように一審被告岡田が意見交換会の最中にメモをとっていたことはなく,また「空白を埋める」作業は不自然極まりないのであって,一審被告岡田の弁解は明らかに信用性がない。
(エ) しかも,一審被告岡田の主張によれば,意見交換会当日の一審被告岡田の状況について,「平成19年9月6日夜半から8日にかけて台風の襲来で睡眠不足と過労が重なっていた」(一審被告岡田原審第1準備書面11頁),「安中市は台風9号の被害を受けて職員の方々も,岡田も疲労が頂点に達していた」(同21頁),「寸陰なく議会・委員会の対応や台風9号襲来による被害対策に渾身してい(た)」(同39頁)のであるから,その状態で,一審原告らと2時間近くの意見交換会を終えたあとの午後8時以降に,「1時間半か2時間ぐらい」(一審被告岡田:15頁)をかけてこの「要点筆記」を作成したことになり,不自然極まりない。
オ 各部長に作成させず一審被告岡田自らが作成したことの不自然性
 一審被告岡田は,意見交換会について,出席していた各部長にメモ,議事録,報告書等を作成させておらず,市長である一審被告岡田自らが作成している点でも不自然である。
 行政機関が議事録・報告書等を作成するのは極めて常識的なことであり,本件では特に,一審被告岡田が「市民からの指摘がある」と意見交換会で繰り返し述べていたのであるから,その指摘に答える可能性に備え,正確性を期すためにも,議事録・報告書を作成させるべきであったのに,作成させていない。
 また,上述したとおり,「要点筆記」は被告岡田が述べるだけでも意見交換会終了後に1時間半ないし2時間の作成時間を要するものであるところ,一審被告岡田の主張によれば当時は「睡眠不足と過労」が重なっていたのであるから,なおのこと,市長自らが作成せずに各部長に作成させて然るべきであるのに,作成させていないのである。
(3) 提出経過の不自然性
ア 一審被告岡田は,「要点筆記」があると述べながら,その重要な書証を本訴訟に一向に提出せず,一審原告らが文書提出命令を申し立てて,ようやく平成21年4月7日に提出した。「談話」の真実性・真実相当性の立証責任を負う一審被告らが(最高裁昭和41年6月23日判決民集20巻5号1118頁参照),特段の理由もなく「要点筆記」を早期に提出しなかった(できなかった)こと自体,「要点筆記」が当初には存在していなかったことを強く裏付けている。
イ 「要点筆記」(丙17)は,一審被告岡田が,原告らによるICレコーダーの録音記録をもとに,後日作成したものである。
(ア) 一審原告らは,録音記録(甲39)の反訳(甲40そのものではない)を,平成20年1月ころ,安中市議会議長の土屋弘氏と,フリーマーケットの支援者数名に対し,真実を知ってもらうために手渡している(甲50:20頁)。一審被告らは,その反訳を何らかの方法で入手して,これに基づいて答弁書や準備書面を作成した。その後一審原告らより文書提出命令が申し立てられるや,さらに一審被告岡田は,同反訳をほとんど引き写した「要点筆記」(丙17)を作成して(ただし一審被告岡田自身に不利益となる事実部分は間引いたり,都合良く部分的に付け加えるなど加工してある),それをあたかも意見交換会当日に作成したものであるかのように平然と訴訟に提出したのである。
(イ) 意見交換会について一審被告側が有しているとする記録は,一審被告岡田の作成した「要点筆記」(丙17)のみである。
 それにもかかわらず,次項で具体的に示すように,ー審被告ら答弁書や一審被告安中市原審準備書面(1)では,「要点筆記」(丙17)に記載のない細かい表現・ニュアンスが記載されており,それらは,後に一審原告らが提出した録音記録とその反訳(甲39,甲40)と,正確に一致している。
 すなわち,一審被告ら原審答弁書やー審被告安中市原審準備書面(1)の作成時点で,一審被告らの手元には,録音記録の反訳が存していたのである。
 そして,一審被告岡田が「要点筆記」を訴訟に提出したのはその後の平成21年4月7日であり,一審被告岡田は,手元にある反訴を参照しながら「要点筆記」を作成したのである。
(ウ) 「要点筆記」(丙17),一審被告ら原審答弁書・一審被告安中市原審準備書面(1),及び,反訳書(甲40)の比較は,下記の通りである(甲56)。


■要点筆記(丙17)1丁目左上(「1」):
長沢 フリーマーケットの件で本日1時間程時間をいただきました。市長と代表の方から一言ずつお願いします。

■一審被告ら原審答弁書(平成20年11月5日付)5頁:
建設部長:「長時間お待たせしました。以前から懸案でありましたフリーマーケットの件でございますが,本日1時間ほどお時間をいただきました。未来塾の方と市の執行部との意見交換会ということで,ここに次第があります。いくつかのポイントに沿って意見交換をしていただき、今後について進めて行きたいと思ってます。まず、はじめに市町と代表の方から一言ずつお願いします。

■反訳書(甲40)2頁:
長澤 えーとですね,えー,これは以前から提案でありましたフリーマーケットの関係でございますけれども,えー,今日ですね,ちょうど時間を1時間ばっかもらいました。えー,未来塾の関係の方とですね、執行部のほうと意見交換会ということで,ここに次第があります。えー,いくつかのポイントに沿ってですね,意見交換をしてもらってですね,是非ですね,えー,非常に地域振興のためになってるの___ね,十分ですね,意見交換をしてもらって,今後について,えー,進めていこうと思ってますんでですね,よろしくお願いします,私,あの,今日,司会をいたします,建設部長の長澤でございます。

■要点筆記(丙17)1丁目右上(「2」):
市 行政に入ってきている話は出店者から2000円を徴収している,2000円徴収しているにもかかわらず募金箱を持って回っているという話しが行政に来て行政は苦慮しています。
■一審被告ら原審答弁書(平成20年11月5日付)5頁:
岡田市長:「これまでフリーマーケットを何回か開催してきたと思いますが,この行政に行政に入ってきている話として,出店された方から1店舗2,000円を徴収していると,それが1点。2,000円徴収しているにもかかわらず,募金箱を持って出店されているお店を回っているという話が来ていまして,大変行政としても苦慮いたしております。これについて明快なご返答をお願いします
■反訳書(甲40)3頁
岡田 お待たせしてすいません。あのー,確認をですね,さしていただきたいと考えております。あのーまず,これまでフリーマーケットを何回かやって,開催してきたと思うんですが,この行政に入ってきている話として、出店された,その,か,方から1出店2000円を徴収していると。それが第1点。第2点はその,2000円を徴収しているにも関わらず,募金箱を持ってここに出店されているお宅,あのお店を回っているという,こういうお話が行政に来てまして,大変行政としてもですね,苦慮いたしていることであります。これについて,ひとつ明快なですね,ご返答をいただきたいと思ってます

■要点筆記(丙17)22丁目左上(「85」)
(略)私はいつわかりますか,と課長が通りかかり聞いたら,今日の段階では貸せないので,これは,お預かりするかです,と言われましたから,■■は持ち帰りました。出してもらわなけれと私共とすれば困ります。
■一審被告安中市原審準備書面(1)(平成21年2月26日付)2頁:
意見交換会の中で未来塾の加藤副代表は,都市整備課長から「今日の段階では,使用許可が出せないので,申請書をお頂かりするか,お持ち帰りください。」と言われたという趣旨の発言をしている。
■反訳書(甲40)56頁
■■ (略)私は,じゃ、そのことの保留はいつわかるのか?って言ったら今係の者がいないのでわからないと言われましたね,と思っていたらそこに課長さんか誰か,課長さんかな,顔見りりゃわかりますけども,来て,そこで聞いたら、今,今日の段階では,貸せないのでこれはお預かりするかお持ち帰り下さいと言われたもんだから,わたしは持ち帰りました。(略)
(エ) 一審被告岡田は,要点筆記にない表現・ニュアンスが答弁書,準備書面に記載されている理由について,「要約ですから」(一審被告岡田:17頁)「要点筆記ですから」(一審被告岡田:19頁)などと弁解するが,意見交換会からすでに2年近く経過した時点でこのような微細にわたって一審被告らが再現できるはずのないことは指摘するまでもなく明白であり,一審被告岡田の弁解は不自然極まりない。
 さらには,一審被告岡田は,自らの記名押印のある答弁書について,
「 ・・・私は答弁書ではそういうのは書いてないですから」(一審被告岡田:18頁)
「(でも,ここに岡田義弘と,岡田の判こ押してありますよね)はい。(あなたが作った書面ですよね)いや,違います」(一審被告岡田:18頁)
などと,その作成自体まで否認する,不誠実極まりない訴訟態度をとっている。
(オ) 一審被告岡田は,反対尋問において,反訳をもとに「要点筆記」(丙17)を作成したのではないかとの質問に対し,下記のように証言した(一審被告岡田:16~17頁。下線一審原告ら訴訟代理人)。
一審原告ら訴訟代理人山下  それから,原告の陳述書を見ますと,平成20年1月ごろに原告が安中市議会の議長さんに対してICレコーダーの反訳の文書を手渡したというふうに言いてあるので,それであなたに端的にお伺いするんですが,丙第17号証の要点筆記は,その反訳を見ながらお作りになったものではありませんか。
岡田  議長からはそういうものは一切ありません。
山下  質問に対して,はいかいいえで答えていただけますか。その反訳を見ながら丙第17号証を作ったのではありませんか。
岡田  いいえ,違います。今初めて知りました。
 一審被告岡田は,原告松本に対し,鑑定書(丙22)を読んだか否か尋問し,一審原告松本が「読む」の意味を「深く理解するほど読んでいない」という趣旨で読んでいないと回答したこと(一審原告松本:30頁)に対し,「なんで読まないんですか」「それはちょっと不思議ですね」などと述べ(一審原告松本:29頁),さらには,証人尋問後,各地区懇談会において,「一審原告が鑑定書を読んでいない」などと一審原告らを非難する発言を繰り返している。
 そのような言動をとる以上,一審被告岡田は一審原告松本の陳述書(甲50)を読んでいるはずであり,「要点筆記」という重要な証拠の信用性を疑わしめる事実である「一審原告らが反訳を議長に手渡していたこと」についても,当然読んでいたはずである。この事実について,「今初めて知りました」との弁解はあまりに不自然極まりない。かような不自然な弁解を行うこと自体,一審被告岡田が反訳を見ながら「要点筆記」を作成していた事実を強く裏付けている。
4 長澤証人に関する録音記録(甲54, 甲55)
 一審被告安中市は「準備手続での裁判官の指示を守らず,証人尋問の当日に証拠(甲54・55号証)を提出するなど,真実性が疑われるようなことを控訴人らは行っている」などと主張する(準備書面16頁)。
 しかし,民事訴訟規則102条は,書証の提出時期について,「証人等の陳述の信用性を争うための証拠として使用するものを除き」相当期間前までに提出するよう定めている。これに基づいて長澤証人の証言内容の弾劾証拠となる甲54号証,甲55号証を尋問当日に提出することは当然である。
 これらの書証を提出した口頭弁論期日において,一審原告は裁判所からの求釈明に対し,同様に釈明した。さらに,その直後に裁判所が一審被告らに対し意見を求めた際,一審被告らは,何らの異議も留めておらず,結果,証拠として採用されたのである。
 一審被告安中市の主張は明らかに失当である。
第3 人格権侵害
1 自己情報コントロール権
(1) 憲法13条から導かれる人格権には,自己情報コントロール権として,「自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動に関して,正確に周知され,ないしは,誤った情報をみだりに流布されない権利」も含まれ,不法行為法上の保護を受けるべきこと,及び,本件において,一審被告らによる本件談話の掲載・発行が,一審原告らのかかる権利を侵害するものであることは,控訴理由書67頁ないし71頁に詳述した通りである。
(2) ここで,控訴理由書70頁に引用した東京高裁平成21年5月13日判決(乙13)は,「人は,自らの個人に関する誤った情報をみだりに開示又は公表されないことについても,不法行為法上の保護を受ける人格的な利益を有する」と判示した。
 そして,この判示内容は,最高裁によっても維持されている。
 すなわち,同高裁判決に対しては,その後,一審被告出版社側が,平成21年5月26日付で上告及び上告受理申立を行った。そして,一審被告出版社は,上告については同年7月23日付で取下げ,上告受理中立については維持していた。
 一審被告出版社側の上告受理中立理由の骨子は,おおよそ下記の通りであった。
 ・ 最高裁平成20年3月6日第一小法廷判決は,原判決のように,「誤った情報」という,情報の真偽に基づいて人格権侵害の成否を判断することをしていない。
 ・ 最高裁判決からすれば,「個人に関する情報」の開示又は公表が不法行為となるか否かは,「みだりに」の要件を満たすかどうかで判断されるべきであり,「誤った情報」か否かで判断すべきでない。「誤った情報」が公表・開示された場合には,情報を公表・開示されない法的利益がいかに僅少であろうとも,公表・開示によって得られる利益がゼロであれば,前者の利益は常に後者を上回ることになり,不法行為が成立することになる。
 ・ 原判決が保護した情報は,たとえば「通常人の感覚で他人に知られなくない」といった制限が存せず,およそ「個人に関する情報」であればすべて含まれている。誤っていれば,ほぼ確実に人格権侵害が認定され,これによって,報道機関は著しく不安定な立場に置かれてしまう。
 この上告受理申立に対し,最高裁判所第二小法廷は,同年9月18日付で不受理決定を行い,同高裁判決は確定した(平成21年(受)第1486号)。
(3) 一審被告安中市は,この東京高裁の事件について,①「出版会社の記者が本人への取材を行っていない」,②「記事の真実性についての主張・立証にも応じず」,③「記事の主たる内容の記載だけでなく,その他の記載も含めて相当部分が真実に反すると認められたもの」,などの理由を挙げて,本件とは「全く比較にならない」などと主張するが(準備書面17頁),失当である。
 ①東京高裁の事件で,「本人への取材」が行われなかったのは,出版社側が当該個人に取材を申し入れたにもかかわらず断られた,という経過によるものである(乙13:7頁)。本件において,一審被告らは,「本人」たる-一審原告らに対して,本件談話発行前に何らの確認を取っていない(「意見交換会に出席した3人の部長から事実確認を行った」というのは「本人への確認」ではない)。②真実性の主張立証について,「要点筆記」(丙17)の提出が一向になされず,また,その後,「要点筆記」が後日作成された虚偽のものであるとの一審原告らの主張に対し一審被告らが何らの反論も行っていないことは上述した通りである。③そして,「目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」をはじめとする本件談話の主たる内容を含めた相当部分が真実に反することも,従前より詳述しているとおりである。
 この東京高裁の事業を踏まえれば,個人のダイエット情報以上に人格的生存・存立基盤にも関わるものというべき,一審原告らの地域づくり活動に関する情報が,営利目的に発行される週刊誌以上に公共性・公益性を有し正確の情報性が求められる地方公共団体の広報紙に,市長名で誤った情報が流布されていることから,より一層,人格権侵害が認められるべきである。
(4) また,一審被告安中市は,「自分の発言内容等が正確に発表される利益」が直ちに人格権として不法行為法上保護される利益とはならないなどと主張するが(準備書面17頁),一審原告らが人格権として保護されると主張しているのは。「自己の重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動に関して,正確に周知され,ないしは,誤った情報をみだりに流布されない権利」であって,「自分の発言内容等が正確に発表される利益」ではない。
 一審被告安中市が一審原告らの法的利益を侵害していないとする根拠に挙げている「記事の特殊性やスペース上の理由」は,一審原告らの権利利益を「発言内容」を「正確に発表する」利益と倭小化したことから生じる根拠付けである。
 「発言内容を正確に発表する」のであれば紙幅が不足するのであろうが,一審原告らはそのように大量のスペースを割いて発言内容を正確に記載することを求めているのではない。「重要な身上,生き方,人格形成と強く結びついた活動に関して,正確に周知され,ないしは,誤った情報をみだりに流布されない」こと自体は,本件記事の性質や限定されたスペースを前提としてもなお十分に達しうることは,言うまでもなく明らかである。
2 団体の人格権侵害
 一審被告安中市は,「控訴人らの主張は,団体等の人格権を全く理解していない」などと主張するが,人格権を正解していないのはむしろ一審被告安中市である。
 一審被告安中市は,その論旨の大前提として,「人格権とは,個人の人格的利益を保護するための権利のことであって,基本的人権の一つであるとすれば,本来私法上の権利であって私人間に適用されるべきものである」などと述べるが(準備書面22頁),かような主張が憲法の基本原理・原則から大きく逸脱したものであることは明白であり,驚きを禁じ得ない。
 憲法学者らも,「憲法の基本的人権の規定は,公権力との関係で国民の権利・利益を保護するものであると考えられてきた」(芦部信喜,「憲法〔新版〕」106頁),「基本的人権は歴史的には元来対公権力との関係で構想されたもの」(佐藤幸治,「憲法〔第三版〕」483頁)と述べている。このように,憲法の基本的人権の規定が公権力との関係を規律するものであることを前提としたうえで,憲法の人権規定が私人間でも何らかの形で適用されるべきとする,いわゆる私人間効力について論じているのである。
 このことは,最高裁も,三菱樹脂事件判決(昭和48年12月12日判決民集27巻11号1536頁)において,
「 憲法の右各規定〔一審原告ら代理人注:憲法19条及び14条〕は,同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく,国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので,もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり,私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。このことは,基本的人権なる観念の成立および発展の歴史的沿革に徴し,かつ,憲法における基本権規定の形式,内容にかんがみても明らかである。のみならず,これらの規定の定める個人の自由や平等は,国や公共団体の統治行動に対する関係においてこそ,侵されることのない権利として保障されるべき性質のものであるけれども,私人間の関係においては,各人の有する自由と平等の権利自体が具体的場合に相互に矛盾,対立する可能性があり,このような場合におけるその対立の調整は,近代自由社会においては/原則として私的自治に委ねられ,ただ,一方の他方に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ,法がこれに介入しその間の調整をはかるという建前がとられているのであって,この点において国または公共団体と個人との関係の場合とはおのずから別個の観点からの考慮を必要とし,後者についての憲法上の基本権保障規定をそのまま私人相互間の関係についても適用ないしは類推適用すべきものとすることは,決して当をえた解釈ということはできないのである。 」
と明確に判示している(下線一審原告ら訴訟代理人)。
 したがって,一審被告安中市の主張は,その前提自体を誤っており,失当である。
第4 請願権侵害
1 一審被告らの本件談話の掲載・発行は,一審原告らの名誉を毀損し,名誉感情を侵害し,人格権(自己情報コントロール権及び重要な身上・生き方・人格形成と強く結びついた活動を平穏に行うことを妨げられない権利)を侵害するだけでなく,一審原告らの請願権(憲法16条)をも侵害するものである。
2 すなわち,憲法16条は,「何人も,損害の救済,公務員の罷免,法律,命令又は規則の制定,廃止又は改正その他の事項に間し,平穏に請願する権利を有し,何人も,かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」と定めている。
 請願権とは,国や地方公共団体の機関に対し,それぞれの職務にかかわる事項について,苦情や希望を串し立てることのできる権利をいう(佐藤幸治「憲法〔第三版〕」639頁) 。この請願権は,かつて,専制君主の絶対的支配に対して,国民が自己の権利の確保を求める手段として発達した権利であり,国民が政治的意思を表明するための有力な手段であったところ,国民主権に基づく議会政治が発達し,言論の自由が広く認められるようになった現在においても,国民の意思表明の重要な手段としての役割を果たしている(芦部信喜「憲法〔新版〕」230頁参照)。このような請願権の歴史的経過及び役割に照らすと,同条に規定されている「いかなる差別待遇も受けないjとは,「請願を実質的に萎縮させるような圧力を加えることも許されない」との趣旨を含むと解すべきである。
 この点,東京地方裁判所八王子支部平成12年12月25日判決(判例時報1747号110頁)も,
「 請願とは,国又は地方公共団体の機関に対して,その職務に属する事柄について希望を述べることであり,何人も,請願をしたためにいかなる差別待遇も受けないのであるが,そこには,請願を実質的に萎縮させるような圧力を加えることも許されないとの趣旨が含まれており,請願を受けた国又は地方公共団体が,請願の趣旨を釈明する限度を超えて,請願した者に対して反対の事実を説明し,説得する等のことは許されないものと考えられる。」
と判示している(下線一審原告ら訴訟代理人)。
3 そこで本件についてみるに,本件フリーマーケットに関して安中市及び安中市長の「職務にかかわる事項」であるところの,①出店料の徴収を自粛して真のボランティア活動で,との趣旨不明な文番(甲22)が突然届いたこと,②寄付金の受け取りも突然拒否されたこと,③会場の使用許可が下りなかったこと,の3点について,一審原告らは再三にわたって一審被告らとの話し合いを求め,結果,平成19年9月10日に「意見交換会」が開催されて,一審原告らは「平穏に」「苦情・希望を申し立て」だ。
 ところが,一審被告らは,「意見交換会」の内容について,一審被告らは,その地方公共団体の広報紙という,公的かつ影響力の大きい媒体を用いて,一審原告らが「目を見て話をしろ」と冒頭から怒鳴ったなどの記載を始めとして事実関係を歪めた本件談話を,安中市全戸に配布した。
 一審被告らによるこの本件談話の掲載・発行は,請願を行った一審原告らに対する「差別待遇」,すなわち,請願を実質的に萎縮させる圧力を加えるものである。このようなー審被告らの行為が許されれば,一審被告らや国・地方公共団体に対して,一般市民・国民が請願を行うことを躊躇せざるを得なくなる。かかる事態が,請願権を保障する憲法的価値を毀損することとなり,到底許容できないことは明らかである。
4 したがって,一審被告らの本件談話の掲載・発行は,一審原告らの請願権(憲法16条)をも侵害するものであり,違法である。
                        以上
**********

■また、未来塾側は、岡田義弘市長が胡散臭い鑑定書を一審で提出してきたことから、これを一蹴するために、きちんとした音響分析専門の研究機関に依頼した万全な鑑定書を用意周到に準備していたらしく、このとき満を持して、提出のタイミングを図っていたらしく、12月20日(月)の第2回口頭弁論でのタイミングに間に合わないことから、急遽内容を変更した第2準備書面を併せて、裁判所に提出しました。

**********
平成22年(ネ)第4137号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人(一審原告) 松 本 立 家 外1名
被控訴人(一審被告)  岡 田 義 弘 外1名
          第2準備書面
                   平成22年11月29日
東京高等裁判所第5民事部 御中
        控訴人(一審原告)ら訴訟代理人
               弁護士 山 下 敏 雅
 一審原告ら第1準備書面16頁12行目を,下記の通り訂正する。
              記
誤 「専門家の立場から分析した書面を,次回期日に証拠として提出する予定である」
正 「専門家の立場から分析した書面を,次々回期日までに証拠として提出する予定である」
                      以上
**********

■こうして、着々と平成22年12月20日の第2回口頭弁論に向けて両者のせめぎ合いが続くのでした。

【ひらく会情報部・この項つづく】

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フリマ中止を巡る未来塾側と安中市・岡田市長とのバトル・・・逆転劇となった東京高裁での攻防(資料編)

2012-02-16 01:20:00 | 安中フリマ中止騒動
■控訴人の未来塾が高裁に提出した控訴理由書の残りの部分を掲載しています。

※参考資料
【控訴人未来塾・代表者の控訴理由書その4】
**********
(5) 本件放送
 Y社は,平成11年2月1日午後10時以降の約16分間,本件番組において,「所沢ダイオキシン 農作物は安全か?」「汚染地の苦悩 農作物は安全か?」と題する所沢産の野菜のダイオキシン類問題についての特集に係る本件放送を行った。
 本件放送は,その前半において録画映像を.後半においてDキャスターとC所長との対談を放映した。その内容は,要約すると,前半の録画映像部分においては,① 所沢市には畑の近くに廃棄物の焼却炉が多数存在し,その焼却灰が畑に降り注いでいること,② A市農協は/所沢産の野菜のダイオキシン類の分析調査を行ったが,農家や消費者からの調査結果の公表の求めにもかかわらず,これを公表していないこと,③ 所沢市の土壌中に含まれるダイオキシン類濃度を調査したところ,その濃度は,ドイツであれば農業が規制されるほど高く(注14),また,かつてイタリア北部の町セベソで起きた農薬工場の爆発事故(注15)の後に農業禁止とされた地域の汚染度をも上回っていることなどであり,後半の対談部分においては,④ B研究所が所沢産の野菜を調査したところ,1g当たり0.64~3.80pgTEQのダイオキシン類が検出されたこと(本件要約部分),⑤ その結果は,全国の野菜を対象とした調査結果に比べて突出しており,約10倍の高さであること,⑥ 所沢市周辺のダイオキシン類による大気汚染濃度は,我が国の平均よりも5~10倍高く,我が国のダイオキシン類による大気汚染濃度は,世界よりも10倍高いこと,⑦ 体重40 kgの子どもが所沢産のほうれん草を20~100 g食べた場合にWHOが定める耐容1目摂取量である体重1kg当たり1pgTEQの基準を超えること等であった。
 このうち,上記④の本件要約部分等に係る放送において,Dキャスターは,C所長との対談0冒頭部分で,C所長を5年前から所沢市の汚染を調査しているB研究所の所長であると紹介し,今夜は,B研究所が所沢市の野菜のダイオキシン類汚染の調査をした結果である数字を,あえて本件番組で発表するとした上で,本件フリップを示して「野菜のダイオキシン濃度」が「所沢(B研究所調べ)0.64~3.80ピコg/g」であると述べ,上記対談の中で,C所長は,本件フリップにある「野菜」が「ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物」である旨の説明をしたが,その際,その最高値である「3.80ピコg/g」が煎茶についての測定値であることを明らかにせず,また,測定の対象となった検体の具体的品目,個数及びその採取場所についても,明らかにしなかった。さらに,C所長は,上記対談の中で,ほうれん草等の葉っぱ物は,ガス状のダイオキシン類を吸い込んで菜の組織の一部に取り込んでいること,所沢産の野菜のダイオキシン類濃度は,調べた中では突出して高いこと,体重40 kg ぐらいの子供が所沢産のほうれん草を20~100 gぐらい食べるとWHOの耐容1日摂取量に達することなどを指摘して,主にほうれん草を例として挙げて,ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物のダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性について説明した。

【甲第58号証】
(6) 本件放送後の事情
ア 本件放送の翌日以降,ほうれん草を中心とする所沢産の野菜について,取引停止が相次ぎ.その取引量や価格が下落した。
イ 埼玉県知事は,平成11年2月4日,記者会見を開き,所沢産野菜等のダイオキシン類調査を実施することを表明し,翌5日,庁内対策会議を設置した。また,埼玉県は,同日,Y社とB研究所に対し,本件放送内容に関する資料の提供を要請した。
ウ A市農協は,平成n年2月9日,所沢産のほうれん草(出荷状態)から検出されたダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)が1g当たり0.087~0.71pgTEQであり,里芋からは検出されなかったことを明らかにした。
エ B研究所は,平成11年2月17日,埼玉県からの資料提供0要請に応じ,同県知事に対し,本件放送のもとになった自主調査研究の中間報告書を提出した。
オ Y社は,平成11年2月18日,埼玉県が上記中間報告書の内容を公表したのを受けて,本件番組において,本件放送でダイオキシン類の濃度が1.g当たり3.80pgTEQもあるとされた検体が所沢産の煎茶であることを明らかにし,所沢市内のほうれん草生産良家に迷惑をかけたことを謝罪した。
 その後,郵政大臣は,Y社に対し,報道に不正確な表現があったとして,厳重注意の行政指導をした。
カ 環境庁,厚生省及び農林水産省が,平成11年2月16日から所沢市周辺を対象に野菜等のダイオキシン類調査を行ったところ,所汎産のほうれん草(出荷状態)から1g当たり0.0086~0.18pgTEQ,平均0.051pgTEQのダイオキシン類が検出され,また,埼玉県も同じころ同様の調査を行ったところ,所沢産のほうれん草(出荷状態)から1g当たり0.0081~0.13 pgTEQ,平均0,046 pgTEQ のダイオキシン類が検出され,同年3月,これらの調査結果が公表された(注16)。
キ その後,ダイオキシン類対策特別措置法,同法施行令,同法施行規則,ダイオキシン類対策特別措置法に.基づく廃棄物の最終処分楊の維持管理の基準を定める省令等のほか,埼玉県公害防止条例の一部を改正する条例,所沢市ダィオキシン類の汚染防止に関する条例等が公布・施行され,大気中に排出されるダィオキシン類の総量規瓢小型焼却炉・野焼きの規制等が行われるようになった(注17)。
3 第1,2審の判断(注18)
 第1審(さいたま地判平成13・5・15)も,原審(東京高判平成14・2・20)も,Xらの請求を棄却すべきものとした。原判決の理由の要旨は,次のとおりである。
(1) 本件放送は,一般の視聴者にほうれん草等の所沢産の葉物野菜の安全性に対する信頼を失わせ,所沢市内において各種野菜を生産するXらの社会的評価を低下させ,Xらの名誉を毀損したものと認められる。
(2) 本件放送は,野菜等無産物のダイオキシン類の汚染実態やダイオキシン類摂取による健康被害等についての多数の調査報告を取り上げ,ダイオキシン類の危険性を警告しようとするものであり,その関係において所沢産の野菜のダイオキシン類の汚染の実態についての調査結果を報道するものであるから,そのこと自体は,公共の利害に関するものであることが明らかである。
 また,Y社の報道機関としての社会的使命及びダイオキシン類問題に関する従前からの取組等を勘案すると,本件放送は,専ら公益を図る目的で行われたものと認めることができる。
(3)ア 本件放送で摘示された事実のうち,本件要約部分を除く部分については,その重要な部分がすべて真実であると認められる。
 イ 本件要約部分に.ついては,所沢産の野菜のダイオキレン類濃度として摘示された測定値「0.64~3.80 pg TEq」のりち,「0,64pgTEq」は,B研究所が調査した所沢産のほうれん草から検出された数値であるが,「3.80 pgTEQ」は,B研究所が調査した所沢産の煎茶から検出された数値であって野菜から検出された数値ではないから,B研究所の調査結果のみによって上記摘示された事実が真実であることは証明されていない。
 しかし,宮田教授らの前記調査により所沢産の白菜(1捨鉢)からlg当たり3.4pgTEQのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)が検出されており,コプラナーPCBを含めた場合のダイオキシン類濃度は,これを含めない場合の約1.1~1.3倍になると認められ右から,上記白菜のダイオキシン類の濃度は,コプラナーPCBを含めれば,1g当たり3.80pgTEQに匹敵することになり,本件放送当時,所沢産の野菜の中に1g当たり3.80 pgTEQのダイオキシン類を含むものが存在したことは真実であると認められる。
 そして,3.80pgTEQのダイオキシン類の濃度を示す所沢産の野菜が,B研究所の調査に係るものであるか,他の調査に係るものであるかという点は,それが所沢産の野菜の安全性に関する理解を根本的に左右するに至るまでのものではなく,ダイオキシン類による農作物の汚染の実態及びそれによる人体への健康影響を明らかにしようとする上で,所沢市で栽培された野菜から高濃度のダイオキシン類が検出されたという調査結果があることを報道することが本件放送の趣旨であることにかんがみれば,本件放送による報道において提示された事実の主要な部分に当たらないというべきである。そうすると,本件要約部分については,所沢産の野菜から1g当たり3.80 pgTEQのダイオキシン類が検出されたとの重要な部分につき真実性の証明があったと解するのが相当である。
 ウ したがって,本件放送にlより摘示された事実については,その重要な部分がすべて真実であると認められるから,本件放送による名誉毀損については,違法性が阻却され,Y社のXらに対する不法行為は成立しない。
 4 Xらから上告受理申立て。
第2 上告受理申立て理由と本判決
1 上告受理申立て理由
 所論は,本件要約部分について,その重要な部分が真実であると証明されたとした原審の判断の法令違反を主張するものである。
2 本判決
 本判決は,論旨を容れ,次のとおり説示して,原判決のうちXらのY社に対する請求に関する部分を破棄し,同部分につき本件を原審に差し戻した。
(1) テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準
 「新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞報道に関する最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照),テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても,同様に,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。」
(2) テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについての判断基準
 「テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。テレビジョン放送をされる報道番組においては,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を諧じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については.当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである。」
(3) 本件放送について0真両性の証明の有無
ア 本件摘示事実及びその重要な部分
 「本件放送中の本件要約部分等は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高談度の汚染状態にあり,その測定値は,B研究所の調査結果によれば,1g当たり『0.64~3.80 pgTEQ』であるとの事実を摘示するものというべきであり,その重要な部分は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高談度の
汚染状態にあり,その測定値が1g当たり『0.64~3.80 pg TEQ』もの高い水準にあるとの事実であるとみるべきである。
イ 本件摘示事実の重要な部分について,原審確定事実によって真実であることの証明があるといえるか。
 「B研究所の調査結果は,各検体1g当たりのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)の測定値が,せん茶(2検体)は3.60pgTEQ及び3.81 pgTEQであり,ほうれん草(4検体)は0.635 pg TEQ,0.681 pgTEQ,0.746pgTEQ及び0.750 pg TEQ であり,大根の葉(1検体)は0.753 pgTEQであったというのであり,本件放送を視聴した一般の視聴者は,本件放送中で測定値が明らかにされた『ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物』にせん茶が含まれるとは考えないのが通常であること,せん茶を除外した測定値は0.635~0.753pgTEQであることからすると,上記の調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,それが真実であることの証明があるといえないことは明らかである。また,本件放送が引用をしていない宮田教授らが行った前記調査の結果は,『所沢産』のラベルが付けられた白菜(1検体)から1g当たり3.4pgTEqのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)が検出され,所沢市内で採取されたほうれん草(1検体)から1g当たり0.859 pg TEQのダイオキシン類が検出されたというものである。前記の本件摘示事実の重要な部分は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,そり測定値が1g当たり『0.64~3.80pgTEQ』もの高い水準にあることであり,一般の視聴者は,放送された葉物野菜のダイオキシン類汚染濃度の測定値,とりわけその最高値から強い印象を受け得ることにかんがみると,その採取の具体的な場所も不明確な,しかもわずか1検体の白菜の測定結果が本性病示事実のダイオキシン類汚染濃度の最高値に比較的近似しているとの上記調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,それが真実であることの証明があるということはできないものというべきである。したがって,原審の確定した前記の事実関係の下において,本件摘示事実の重要な部分につき,それが真実であることの証明があるとはいえない。」
(4) 結 論
 「以上判示したところと異なる見解に立って,本件摘示事実の重要な部分につき,宮田教授らによる上記調査の結果をもって真実であることの証明があるものとして,名誉毀損の違法性が阻却されるものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中XらのY社に対する請求に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本件摘示事実による名誉毀損の成否等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。」
(5) 泉裁判官の補足意見
 「本件事案において,所沢市の農家の人々が損害を被ったとすれば,その根源的な原因は,所沢市三富地区・くぬぎ山周辺地区を中心に乱立していた廃棄物焼却施設にある。……本件放送を含む上記一連の報道は,所沢市の農家も被害を受けている廃棄物焼却施設に焦点を合わせ,これを規制してダイオキシン類汚染の拡大を防止しようという公益目的に出たものであり,立法措置を引き出す一因となってその目的の一端を果たし,長期的にみれば,これらの立法措置によりダイオキシン類汚染の拡大の防止が図られ,その生活環境が保全されることとなり,所沢市の農家の人々の利益類護に貢献するという面も有している。本件放送がせん茶のダイオキシン類測定値を野菜のそれと誤って報道した部分については,本件放送が摘示する事実の重要部分の一角を構成するものであり,これを看過することができないことは,法廷意見が説示するとおりであるが,上記部分は本件放送の一部であり,本件放送自体も,廃棄物焼却施設の規制等を訴えてY社が行った一連の特集の一部にすぎないこと,そして,前記のとおり,所沢市の農家の人々が被害を受けたとすれば,その根源的な原因は,上記一連の報道が繰り返し取り上げてきた廃棄物焼却施設の乱立にあることにも,留意する必要があると考える。国民の健康に被害をもたらす公害の源を摘発し,生活環礁の保全を訴える報道の重要性は,改めて強調するまでもないところである。私も,法廷意見にくみするものではあるが,Y社の行った上記一連の報道の全体的な意義を評価することに変わりないことを付言しておきたい。」
第3 説 明
1 はじめに
 本件は,テレビ報道について,真実性の証明の対象となる摘示事実がどのようなものであるかという点が争われた事件であり,本判決は,この点について,最高裁として初めて判断基準を示したものである。
2 新聞記事と名誉毀損
(1) 名誉毀損の判断基準
 名誉毀損は,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させる行為であり,それが事実を摘示するものであると意見ないし論評を表明するものであるとを問わない(大判明治43・11・2民録16輯745頁,最三小判平成9・5・27①民衆51巻5号2024頁等。なお,民法723条にいう名誉の意義につき,最二小判昭和45・12・18民衆24巻13号2151頁参照)。新聞記事による名誉毀損にあっては,これを掲載した新聞が発行され,読者がこれを閲読し得る状態になった時点で,損害が発生する(前掲最三小判平成9・5・27①)。
 そして,新聞記市の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである(最二小判昭和31・7・20民衆10巻8号1059頁。以下「昭和31最判」(注19)という。)。
(2) 真実性の法理・相当性の法理・公正な論評の法理
ア 真実性の法理・相当性の法理
(ア) 事実を摘示しての名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合において,摘示された事実の重要な部分が真実であると証明されたときは,その行為には違法性がなく,仮に真実であることの証明がされなくても,その行為者がその重要な部分につき真実であると信じたことに相当の理由があるときには,その放恣又は過失が否定され,不法行為は成立しない(最一小判昭和41・6・23民衆20巻5号1118頁,最一小判昭和58・10・20判例時報1112号44頁)。
(イ) 「人の噂であるから真偽は別として」という表現を用いて名誉を毀損する事実を摘示した場合,事実の証明の対象となるのは,風評そのものが存在することではなく,その風評の内容たる事実の真否である(注20)(最一小判昭和43・1・18判例時報510号74頁参照)。
(ウ) 裁判所は,名誉毀損に該当する事実の真実性につき,事実審口頭弁論終結時においてその事実の客観的な存否を判断すべきであり,その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも許される(注21)(最三小判平成14・1・29判例時報1778号49頁)。
イ 公正な論評の法理
 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に.おいて,その意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分が真実であると証明されたときには,その衷明の内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない阻り,その行為は違法性を欠き,仮に真実であることの証明がされなくても,その行為者がその重要な部分につき真実であると信じたことに相当の理由があるときには,その故意又は過失が否定され,不法行為は成立しない(注22) (最二小判昭和62・4・24民集41巻3号490頁,最一小判平成元・12・21民集43巷12号2252頁,最三小判平成9・9・9民集51巻8号3804頁)。
ウ 名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事における事実の摘示と意見ないし論評の表明との区別
 名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事が,意見ないし論評の表明に当たるかのような語を用いている場合にも,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に,前後の文脈や記事の公表当時に読者が有していた知識ないし経験等を考慮すると,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解されるときは,その記事は,その事項についての事実の摘示を含むものというべきである(前掲最三小判平成9・9・9)(注23)。
 なお,名誉毀損の成否が問題となっている法的な見解の表明について,「法的な見解の表明モれ自体は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たる」とされた(注24)(最一小判平成16・7・15民集58巻5号1615頁)。
3 テレビ報道と名誉毀損
(1) テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準
 前記のとおり,本件は,テレビ報道について,真実性の証明の対象となる摘示事実がどのようなものであるかという点が争われた事件であるが,本判決は,その判断基準を示す前提として,まず,テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準を示した。
 すなわち,本判決は,新聞記事の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきであるとした昭和31最判を引用した上で,「テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである」旨判示した。昭和31最判の示した基準は,その後の最高裁判決においてしばしば引用され,新聞記事等による名誉毀損成否の基準を示すものとして,確立した判例となっている(注25)。この判断基準は,報道により人の社会的評価が低下したか否かは,当該報道の受け手の一般的な受け取り方を基準として判断すべきことをいうものと解されるから,新聞報道等の印刷(活字)メディアのみならず,テレビ報道等の放送メディアについても,あてはまるものと解される。本判決は,このような考えに基づき,上記のとおり判示したものと考えられる。
 これまで,テレビジョン放送による名誉毀損の判断基準を示した最高裁判例はなく,本判決は,最高裁として,初めての判断を示したものである。
(2) テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについての判断基準
ア Xらの主張及び原審の判断
(ア) Xらの主張
 Xらは「テレビ報道は,視聴者に対し,画面に映し出された映像という最も鋭敏な感覚である視覚に訴えかける方法によって,その内容を強く印象づけることが可能であり,同時に,効果音という聴覚に訴えかける方法によって,視聴者に対し,番組製作者の意図に合わせた疑惑や衝撃を惹起させることが可能であるから,その摘示事実の認定は,上記テレビ報道の特性を考慮して行わなければならない。したがって,テレビ報道における名誉毀損の成否が問題になる場合には,ナレーション,映像,効果音,編集による放送内容の順番等を併せ考慮した番組全体から,一般視聴者の普通の注意と普通の知識に基づいて,その受けた印象を認定すべきであり,テレビ報道では,テレビ局側が意図的に一般視聴者に対して与えた印象が,摘示事実であり,主要事実となる。与えた印象は,必ずしも明示に表現されている必要はなく,暗喩や推論や伝聞の形式,若しくは,前後の文脈から受け止める内容で足りる。」などと主張していた。
(イ) 原審の判断
 原審は,「テレビ報道は,新聞,雑誌等の記事による報道に比べ,テレビ局がナレーション,映像,効果音,編集等を工夫することにより,視聴者が受ける印象が著しく異なるものになることがあり得る。しかし,名誉毀損の真実性の立証の対象となる事実ないし論評がどのようなものであるかは,報道機関の表現行為に重大な影響を与えるため,明確なものでなければならない。一般視聴者がテレビ報道を視覚と聴覚でとらえたことによって受ける印象は,千差万別であって,これを客観的に分類ないし識別したり,その内包と外延とを客観的に定義づけたりすることはほとんど不可能事に属するから,テレビ報道の印象というものを真実性の立証の対象とすると,立証の対象事項が極めて不明確になることは明らかであり,ひいてはテレビ局の報道による表現行為を客観的な基準なく著しく規制することになりかねない。したがって,テレビ報道においても,このような印象そりものではなく,映像により画面に映し出された事実,ナレーションの内容,アナウンサーや出演者の発言,画面上のテロップ等によって明確に表示されたところから一般視聴者が通常受け取る事実ないし論評が,真実性の立証り対象となると解するのが相当である。」旨の判断をしていた。
イ 下級審の裁判例
 この問題については,これまで最高裁の判例はなく,テレビジョン放送に関する下級審の裁判例には次のようなものがあった(注26)。判決の'説示の中には,テレビジョン放送による名誉毀損の判断基準をいうものもあるが,実質において,テレビジョン放送により摘示された事実が何であるかの判断基準をいうものとも解されるものである。
① 東京地判平成6 ・11・11判例時報1531号68頁
 テレビ放送は,ブラウン管を通して流される影像及びこれと連動したスピーカーからの音声を情報伝達の手段とするものであって,新聞,雑誌などの活字のメディアと異なり,その情報の受け手である視聴者は,通常その内容を保存しこれを繰り返し見て吟味するということをせず,流された情報を瞬時にとらえてその内容を判断するものであるから.このテレビ放送の内容に上がった何人かの名誉が毀損されたものといえるかどうかは,一般視聴者がその放送を一見して通常受けるであろう印象によって判断すべきである。
② 大阪地判平成7・11・30判例時報1575号85頁
 ドキュメンタリー番組の放送によって名誉が毀損されたか否かについては,一般視聴者が通常テレビをみるときに払う注意・関心の程度を基準として,-一般視聴者がその番組で個別的に摘示された事実及び番組全体から受け取る事実ないし批判論評について,それが原告らの社会的評価を低下させるものであるか否かによって判断すべきである。
③ 東京地判平成8・3・25判例タイムズ935号189頁
 テレビ放送が他人の名誉を毀損するものであるかどうかは,一般の視聴者が,当該放送を通常の注意をもって視聴した場合に,構成等を含めた当該放送内容全体から受けるであろう印象を基準として判断するのが相当である。
④ 東京地判平成8・7・30判例時報1599号106頁(注27)
 放送において,その内容が名誉毀損にあたるかどうかは,一般視聴者を基準として,放送において取り上げられた者の社会的評価がその放送によって低下するかどうかという視点で判断されるべきである。
⑤ 東京地判平成10・3・4判例タイムズ999号270頁(注28)
 本件テレビ放映が,原告の名誉を毀損するか否かの判断をするにあたっては,一般視聴者の通常の注意と理解の仕方を基準として,放映内容が名誉毀損事実の存在を視聴者に印象づける内容のものであるか否かを検討すべきである。
⑥ 東京地判平成10・6・19判例時報1649号136頁
 テレビ放送の視聴者は,新聞や雑誌等の場合と異なり,情報を十分に検討する時間的余裕なく,映像又は音声の形で流された情報を受領しながら,瞬時の検討を余儀なくされるのであり,その後の情報受領過程で,一旦受けた印象を払拭することは必ずしも容易でなく,むしろ,その印象を前提とした上で,さらに新たな情報を受領し,判断資料に組み入れていくのである。テレビ放送のかかる特性に艦みれば,ある放送部分が他人の名誉を毀損するか否かの判断においては,当該放送部分の吟味とともに,その前後の放送内容をも併せ考慮した上で,一般視聴者を基準として,当該放送部分が,他人の社会的評価を低下させるかどうかを検討すべきである。
⑦ 東京高判平成14・2・27判例時報1784号87頁
 本件各放送は,たとえその番組全体を批評者に近い目で慎重に視聴して冷静かつ合理的な判断をすれば別の意味内容に解されないことはないとしても,いやしくも一般視聴者を対象として放送されているものである限り,その普通の注意と見方を基準として判断される意味内容及びそれによって形成される印象に従う場合,その放送が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上,これをもって名誉毀損の報道と判断すべきことぱ当然である。
ウ 本判決
(ア) 本判決は,テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきであるとの上記(1)の判断基準を踏まえ,「テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である」と判示した。
 昭和31最判は,当該報道の受け手の一般的な受け取り方が名誉毀損の成否の基準となる旨を説くものと解されるから,この考え方に従えば,報道により摘示された事実がどのようなものであるかについても,当該報道の受け手の一般的な受け取り方を基準として判断すべきものと考えらる(注29)。本判決は,このような考え方に立って,テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのよりなものであるのかは,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべき,ものと判示したものと考えられる。
(イ) 本判決は,その上で,この判断基準を数行し,当該報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについては,当該番組の全体的構成,出演者の発言内容,フリップやテロップ等の文字情報の内容を重視し,映像及び音声に係る情報の内容や放送全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断すべき旨を説示した。
 これは,第1に,テレビ報道においても,あくまで言語として表現された出演者の発言内容や文字情報を重視すべきであると説くものであり,番組の全体的構成や言語による表現によっていかなる事実が摘示されたのか(一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準としていかなる事実が摘示されたと受け取られるのか)をまず探り,これを重視すべきであるとしたものである。しかし,他方で,「視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされ……録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができない」というテレビジョン放送の特性にかんがみて,一般の視聴者が映像・音声・放送内容全体から受ける印象等をも総合考慮すべきであるとした。これは,たとえ録画して繰り返し見れば別個の事実が摘示されたものと見られなくはないものであるとしても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とすれば,映像・音声・放送内容全体から受ける印象等によって異なる見方,受け取り方がされることが通常でもあることから,このような印象等も総合考慮して,摘示事実が何かを判断すべきことを説くものと考えられる。
(ウ) Xらは,前記のとおり,「番組全体から一般視聴者の受けた印象そのものが摘示事実である」旨の主張をしていたが,本判決は,このような見解を採るものでないことが明らかであろう。そして,原判決は,「テレビ報道においても,印象そのものではなく,映像により画面に映し出された事実,ナレーションの内容,アナウンサーや出演者の発言,画面上のテロップ等によって明確に表示されたところから一般視聴者が通常受け取る事実が摘示事実である」旨の説示をしていたが,この説示の趣旨は,本判決とそう異なるものではないように思われる(前記ア(イ)の原判決の説示中には,Xらの主張を排斥するに急な余り,やや行き過ぎた表現が見られないではないが,原判決は,印象を完全に排除せよとまでいうものではないであろう。)。
 また,下級審の裁判例も,テレビ報道の特色を考慮して,その摘示事実をとらえるべき旨を説示しており,本判決は,これらの下級審裁判例の考え方の流れにも沿うものと思われる(もっとも,これらの下級審裁判例の説示の中には,印象そのものが名誉毀損を構成するかのごとく読めなくはないものもあり,その真意はともかくとして.措辞としてやや不適切といわざるを得ないであろう。)。
(エ) 本判決は,テレビ報道による摘示事実がどのようなものであるかという点についての判断基準を,最高裁として初めて示したものである。
 そして,この判示は,報道等による摘示事実がどのようなものであるかという点は,メディアの種類等により,そのメディアの受け手の一般的な受け取り方を基準として,そりメディアの特性を踏まえて判断すべきことを示すものということができる(注30)。
(3) 本件放送へのあてはめ
ア 原審の判断
 原審は,まず,上記(2)アのXらの主張について,「本件放送は,所沢市周辺に荏在する数多くの廃棄物焼却炉とその操業中の光景,ダイオキシン類に対する不安を訴えている一部住民らの声,A市農協がダイオキシン類の濃度に関する分析調査結果を公表しないことによる関係住民の不安,所沢及びその周辺の土壌中や大気中に含まれるダイオキシン類の濃度が高い旨の調査結果があることについての感想等の相対的,主観的事実を順次積み上げてC所長とDキャスターの対談に至り,その間疑惑ありげな状況をうかがわせるナレーション,効果音,テロップ,フリップ等を用いるなどの番組制作上の工夫をしていることからすると,一般視聴者に対し,所沢産の野菜が広くダイオキシン類に汚染されており,それを摂取することにより健康被害が発生するおそれがあるという印象を与えるものであることは否定できない。しかし,上記印象をもって真実性立証の対象となる事実に当たるとの見解は,直ちには採用することができない。」とした。その上で,上記(2)ア(イ)の判断基準を本件にあてはめて,「本件要約部分の真実性立証の対象となる事実は,『B研究所が調査したところ,所沢産ほうれん草をメインとする葉物野菜のダイオキシン類の濃度は,最高3.8pgTEQ/gのものがある』ということであり.このうち3.8 pg TEQ/g を超えるダイオキシン類の濃度を示す所沢産の野菜がB研究所の調査に係るものであるか,他の調査に係るものであるかという点は,所沢で栽培された野菜から高濃度のダイオキシン類が検出されたという調査結果があることを報道することが本件放送の趣旨であることにかんがみれば,本件要約部分において摘示された事実の重要な部分に当たらないというべきである。また,3.4pgTEQ/gという高濃度のダイオキシン類が検出されたのは,宮田教授の調査に係る白菜1検体のみであるが,上記の本件放送の趣旨に照らすと,所沢産の野菜から一般的にそのような高濃度のダイオキンン類が検出されているといりことではなく,そのような野菜が一つでもあったという事実を発表することが有意義というべきであるから,上記白菜1検体のみにより本件要約部分について真実性の立証があったと認められる。」と判断した。
イ 本判決
 本判決は,上記(2)ウの判断基準を本件にあてはめ,原審確定事実(①本件放送の後半のC所長との対談の冒頭部分で,Dキャスターは,今夜は,B研究所が所沢市の野菜のダイオキシン類汚染の調査をした結果である数字を,あえて本件番組で発表するとした上で,本件フリップを示して「野菜のダイオキシン濃度」が「所沢(B研究所調べ)0.64~3.80ピコg/g」であると述べ,上記対談の中で,C所長は,本件フリップにある「野菜」が「ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物」である旨の説明をしたが,その凰その最高値である「3.80ピコg/g」が煎茶についての測定値であることを明らかにせず,また,測定の対象となった検体の具体的品目,個数及びその採取場所についても,明らかにしなかったこと,②C所長は,上記対談の中で,主にほうれん草を例として挙げて,ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物のダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性について説明したこと,③本件放送の前半の録画映像部分においては,所沢市には畑の近くに廃棄物の焼却炉が多数存在し,その焼却灰が畑に降り往いでいること,A市農協は,所沢産の野菜のダイオキシン類の分析調査を行ったが,農家や消費者からの調査結果の公表の求めにもかかわらず,これを公表していないこと等,所沢産の農産物,とりわけ野菜のダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性に関する情報を提供したこと,④本件放送の翌日以降,ほうれん草を中心とする所沢産の野菜について,取引停止が相次ぎ,その取引量や価格が下落したこと)に基づき,本件摘示事実は,「ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜(葉菜煩)が全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,その測定値は,B研究所の調査によれば,1g当たり0,64~3.80 pgTEQ であるとの事実である」とした上で,本件摘示事実のうち,「測定値がB研究所の調査に係るものである」との事実は重要な部分でないが,その余の事実は,測定値0数値を含め,重要な部分であり,真実性立証の対象となるものと判断した。これに対し,原審は,上記アに照らせば,「所沢産の野菜から一般的にそのような高濃度のダイオキシン類が検出されている」ということではなく,「そのような野菜が一つでもあったという事実」が本件摘示事実であると判断したものと思われる。しかしながら,本件放送においては,検体の具体的品目,個数,採取場所等が明らかにされず,野菜のダイオキシン濃度が所沢産のものは1g当たり0.64~3.80pgTEQであるとのみ示されたこと,一般の視聴者はその最高値に強い印象を受け得ること,本件放送の前半録画部分においても,後半対談部分においても,所沢産の野菜を全体として取り上げていることなどに照らすと,一般の視聴者は,所沢産の葉物野菜が全般的に1g当たり3.80pgTEQ程度にまでダイオキシン類により汚染されていると受け取るのが通常であると考えられる。本判決は,このような判断に基づいて,本件摘示事実及びその重要な部分を前述のをおり解したものと考えられる。その上で,本判決は,1g当たり3.4pgTEQの測定値を示した白菜が1検体存在するにすぎないなどの原審確定事実をもっては,本件摘示事実について,その重要な部分が真実であることの証明かあるとはいえないと結論づけ,これと異なる原審の判断に法令違反があるとして原判決を破棄し,本件摘示事実による名誉毀損の成否等について更に審理させるため,本件を原審に差し戻したものである。
 なお,泉裁判官の補足意見は,本件放送の誤りは看過できないとしながらも,本件放送によりダイオキシン類対策が進み,Xら所沢市内の農家も結果的に大きな利益を受けていることを説き,本件放送の意義を高く評価するものであり,報道機関が公益目的の報道をすることに萎縮することがないように配慮したものと思われる。この補足意見を合わせ読めば,本判決は,本件放送の持つ意義にも十分な目配りをした上での判断であることがうかがわれる(注31)。
4 名誉毀損についての審理
 本判決が,テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについての判断基準を示したこと池は,名誉毀損の事件の審理の在り方についての一定の示唆を含むもののように思われる。
(1) 本判決の前,名誉毀損の成否については,昭和31最判に従って,当該表現の一般の読者の普通の注意と読み方によって人の社会的評価が低下したか否かを判断すべきものと解されていたが,下級審の中には,当該表現がいかなる事実を摘示したのかということを必ずしも確定しないまま,一般の読者の受けた印象を基準として名誉毀損の成否を判断していたものがあるように思われる(このことは,前記3(2)イの下級審裁判例の説示の内容からもうかがわれる。)。しかし,名誉毀損とは,一定の事実を摘示し又は意見ないし論評を表明する行為が人の社会的評価を低下させることにより成立するものであるから,まず,裁判所が審理し確定すべきは,当該報道によって摘示された事実が何か,表明された意見ないし論評がどういうものかということであろう。その上で初めて当該事実摘示,意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるものか否かが判断されるべきである(そして,それが真実性証明の対象ともなる。)。
 摘示された事実が何かという点については,本判決(及び昭和31最判)の示した基準により,当該メディアの受け手の一般的な受け取り方を基準とし,当該メディアの特性を考慮して判断すべきである。ある言明が事実の摘示であるのか意見ないし論評の表明であるのかについては,前掲最三小判平成9・9・9の示した基準により,当該メディアの受け手の一般的な受け取り方を基準として.証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解されるか否かを判断すべきである。その際,評価的言明については,その前提となる事実の摘示があるのかどうかという点にも留意すべきであろう。
(2) 摘示された事実,表明された意見ないし論評が確定された後,その内容が,当該メディアの受け手の一般的な受け取り方を基準として,人の社会的評価を低下させるものか否かを判断すべきである。そして,これが人の社会的評価を低下させるものであると判断されるときは,摘示された事実又は意見ないし論評の前提となる事実について,その重要な部分が真実であるか否か,真実と信ずるについて相当な理由があったか否かを判断すべきことになる。
(3) 名誉毀損の不法行為が成立する場合,裁判所は,損官給償又は/及び謝罪広告等(注32)(注33)を命ずることができ,また,人格権(名誉権)に基づき。出版等の差止めを命ずることもできる(注34)。
5 本判決の意義
 本件は,テレビジョン放送による名誉毀損の事案について,最高裁として初めて名誉毀損の判断基準や摘示事実のとらえ方の判断基準を示したものであり,また,この基準を適用して,本件放送により摘示された事実の重要な部分について真実性の証明があるとはいえないと判示しで,これと反対の判断をした原判決を破棄したものであり,実務の参考になるものと思われる(注35)(注36)。
(本解説については,三村晶子前調査官の調査結果を参照させていただいた。)
(注1)第1審での原告数は376名,請求総額は2億円余であり,第2審での原告(控訴人)数は41名,請求総額は約3500万円であった。
(注2)ダイオキシン類の構造図は,次頁の図のとおりである。図のOは酸素であり,図の1~9,2’~6’の位置に塩素又は水素が付いている。ダイオキシン(PCDD)は,2個のベンゼン環が2個の酸素で結合したものに塩素が付いた構造をしており,塩素数と塩素の位置により,75種類の異性体がある。ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)は,2個のベンゼン環が1個の酸素で結合したものに塩素が付いた構造をしており,135種類の異性体がある。ポリ塩化ビフェニル(PCB)209種類のうち2個のベンゼン環が同一平面にあって偏平構造を有する異性体をコプラナーPCBといい,これには12種類の異性体がある。
 以上に.つき,宮田秀明「ダイオキシン」岩波新書新赤版No.605(平成11年),ダイオキシン類対策関係省庁共通パンフレットブダイオキシン類2003」
http://www.env.go.jp/chemi/dioxin/pamph/2003.pdf)(平成15年)等参照。
***PCDDs、PCDFs、PCBsの構造図は省略***
(注3)ダイオキシン類対策特別推服法は,「ダイオキシン類が人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある物質であることにかんがみ,ダイオキシン類による環境の汚染の防止及びその除去等をするため,ダイオキシン類に関する施策の基本とすべぎ基準を定めるとともに,必要な規制,汚染土壌に係る措置等を定めることにより,国民の健康の保護を図ることを目的とする」法律である(1条)。同法の成立の経緯等につき,宮澤宏幸・ジュリスト1165号46頁(平成11年)。
(注4)最も毒性の強い2,3,7,8‐四塩化ジベンゾ‐パラ‐ジオキシン(2,3,7,8 -TCDD。PCDDのうち2,3,7,8の位置に塩素が付いたもの)の毒性を1としたときの相対的な毒性を示す係数。
(注5)ダイオキシン類は,工業等で意図的に製造する物質ではなく,物の焼却の過程等で自然に発生してしまう副生成物である。ごみ焼却のほか,農薬,PCB等の製造や,紙パルプ工場等における漂白等の過程でも生成する。また,自然界においても,火山活動や森林火災等によって発生しているといわれている。宮田・前掲(注2)64頁以下,関係省庁共通パンフレット前掲(注2)3頁以下。
(注6)2,3,7,8-四塩化ジベンゾ‐パラ‐ジオキシンの致死毒性が青酸カリの1000倍,サリンの2倍を示したとのモルモットを対象とする実験結果の報告がある。宮田・前掲(庄Z)192頁等。
(注7)ダイオキシン類による健康被害の例としては,ベトナム戦争で使用された枯薬剤による先天奇形(無脳症,二重胎児〔ベトちゃんドクちゃん〕,口蓋裂等)等や,我が国のカネミ油症事件が有名である。宮田・前掲(注2)38頁,206頁,関係省庁共通パンフレット前掲(注2)6頁,20頁。
(注8)ダイオキシソ類は,通常は無色の固体で,水に溶けにくく,蒸発しにくい反面,脂肪等には溶けやすいという性質を持っている。また,他の化学物質や酸,アルカリにも筒単に反応せず,安定した状態を保つことが多いが,太陽光の紫外線で徐々に分解されるといわれている。ダイオキシン類が体内に入ると,その大部分は脂肪に蓄積されて体内にとどまり,体外に排出される速度は非常に遅く,人の場合,半分の量になるのに約7年かかるとされている。関係省庁共通パンフレット前掲(注2)3頁,11頁。
(注9)ダイオキシン類を人が生涯にわたって継続的に摂取したとしても健康に影響を及ぼすおモれがない1日当たりの摂取量で2,3,7,8‐四塩化ジベンゾ‐パラ‐ジオキシンの量として表したもの(ダイオキシン類対策特別措置法6条1項)。
(注10)1pgは10-12 g (1兆分の1g)。関係省庁共通パンフレット前掲(注2)8頁には,「東京ドームに相当する体積の入れ物を水でいっぱいにした場合の重さが約1012 g です。このため,東京ドームに相当する入れ物に水を満たして角砂糖1個(lg)を溶かした場合を想定すると,その水1ccに含まれている砂糖が1pg(ピコグラム)になります。」との説明がある。
(注11)関係省庁共通パンフレット前掲(注2)11頁によれぼ,日本人が1日に平均的に摂取するダイオキシン類の量は,食事や呼吸等を通じて体重1kg当たり約1.68pgTEQと推定され,耐容1日摂取量を下回っているとされる。
(注12)これらの測定値は,ほうれん草については,よく水洗いした上で測定されたものである。煎茶については,加工の過程で水洗いがされていないものであったと推測されている。
(注13)これらの測定値は,ほうれん草については,よく水洗いした上で測定されたものであり,白菜については,水洗いなしに測定されたものである。
(注14)この点に関する原判決及びその引用する第1審判決の認定は,民衆57巻9号1115頁,1195頁。なお,宮田・前掲(注2)4頁は,「ドイツでは,穀類やトウモロコシなどの汚染されにくい作物は40pgTEQでも栽培可能であるが,葉菜類栽培用には40pgTEQ以上で土壌の入れ替えをすすめている」としている。
(注15)1976年(昭和51年)7月,イタリアのミラノ市北部の農薬工場で,2,4,5‐三塩化フェノールの製造プラントが暴走し,2,3,7,8-TCDDを高濃度に含む反応物が白い実状となって,工場南東部のセベソを中心とする11町村を汚染する事故が発生した。宮田・前掲(注2)208頁等。なお,この点に関する原判決の認定(その引用する第1審判決の認定)は,民集57巻9号1117頁。
(注16)これらの調査に係る検体のほうれん草は,畝ごとに円弧状の支柱を立ててプラスチックで被覆され,土壌の表面もプラスチック等で被覆された状態で栽培されたものであり,そのダイオキシン類の抽出法は,宮田教授らが用いる抽出法に比べ,抽出率が半分から3分の1程度のものであった。なお,気温の低い時期は,気体状態のダイオキシン類が占める割合が低下し,植物に吸収されるダイオキシン類の量が減少するとされている。
(注17)所沢市では,焼却施設撤去費用の補助を実施し,12の焼却施設が解体撤去され,平成13年3月末現在で,平成9年度に比べてダイオキシン類排出量の削減率は99%に達したと推定されている。
(注18)第1審判決は,民集のほか,判例タイムズ1063号277頁に,原判決は,民集のほか,判例時報1782号45頁に掲載されている。原判決の評釈として,飯塚和之・私法判例リマークス27巻52頁(平成15年)がある。
(注19)昭和31最判の示した基準は,モの後の最高裁判決においてしばしば引用され,新聞記事等による名誉毀損成否の基準を示すものとして,確立した判例となっている。特定の新聞の性質についての社会の一般的な評価等と当該新聞の記事による名誉毀損の成否を判示した最三小判平成9・5・27②民集51巻5号2009頁,名誉毀損の成否が問題となっている新聞記事における事実の摘示と意見ないし論評の表明との区別を判示した後掲最三小判平成9・9・9等参照。
(注20)この場合,摘示された事実も,風評そのものの存在ではなく,風評の内容たる事実である。
(注21)前掲最三小判平成14・ 1 ・29は,「裁判所は,摘示された事実の重要な部分が真実であるかどうかについては,事実審の口頭弁論終結時において,客観的な判断をすべきであり,その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも当然に許されるというべきである。けだし,摘示された事実が客観的な事実に合致し真実であれば,行為者がその事実についていかなる認識を有していたとしても,名誉毀損行為自体の違法性が否定されることになるからである。真実性の立証とは,摘示された事実が客観的な事実に合致していたことの立証であって,これを行為当時において真実性を立証するに足りる証拠が存在していたことの立証と解することはできないし,また,真実性の立証のための証拠方法を行為当時に存在した資料に限定しなければならない理由もない。他方,摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由が行為者に認められるかどうかについて判断する際には,名誉毀損行為当時における行為者の認識内容が問題になるため,行為時に存在した資料に基づいて検討することが必要となるが,真実性の立証は,このよりな相当の理由についての判断とは趣を異にするものである。」と判示した。
(注22)公正な論評の法理は,意見ないし論評の前提事実に関しては真実性又は相当性を要求するが,これに基づく意見ないし論評に関してはその内容の合理性を要求せず,意見ないし論評としての域を逸脱するものでない限り,不法行為責任の成立を否定し,意見ないし論評の表明の場合について.事実の摘示の場合よりも緩和された要件で免責を認めるものである(八木一祥・最高裁判所判例解説民事篇平成9年度国1158頁参照)。
(注23)前掲最三小判平成9・9・9は,昭和31最判の基準がこの区別にも妥当するとした上,「新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分について,そこに用いられている語のみを通常の意味に従って理解した場合には,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときにも,当該部分の前後の文脈や,記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し,右部分が,修辞上の誇張ないし強調を行うか,比喩的表現方法を用いるか,又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどによりつつ,間接的ないしえん曲に前記事項を主張するものと理解されるならば,同部分は,事実を摘示するものと見るのが相当である。また,右のような間接的な言及は欠けるにせよ,当該部分の前後0文脈等の事情を総合的に考慮すると,当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解されるならば,同部分は,やはり,事実を摘示するものと見るのが相当である。」と判示した。そして,この基準を当該事件に係る「夕刊フジ」の記事にあてはめ,①「甲野は極悪人,死刑よ」との見出しについて,当該記事の内容や,当時甲野(上告人)について妻Cに対する殺人未遂の嫌疑や未遂事件後にCを殺害したとの嫌疑について数多くの報道がされていたことを考慮して,「Aの談話の紹介の形式により,上告人がこれらの犯罪を犯したと断定的に主張し,右事実を摘示するとともに,同事実を前提にその行為の悪性を強調する意見ないし論評を公表したものと解するのが相当」とし,②「Bさんも知らない話……警察に呼ばれたら話します」との見出しについて,「Aの談話の紹介の形式により,上告人が前記の各犯罪を犯したと主張し,右事実を摘示するものと解するのが相当」とし,③「この元検事にいわせると,甲野は『知能犯プラス凶悪犯で,前代未聞の手ごわさ』という。」との記述について,「元検事の談話の紹介の形式により,上告人がこれらの犯罪を犯したと断定的に主張し,右事実を嫡示するとともに,同事実を前提にその人格の悪性を強調する意見ないし論評を公表したものと解するのが相当」とした。
(注24)なお,東京地判平成13・10・22判例時報1793号103頁は,著名な建築家Xが景観設計に関与した愛知県下の橋(豊田大橋)について,Y社がその発行する週刊誌の中吊り広告及び新聞広告において「X『100億円恐竜の橋』に市民の大罵声!」との見出しを掲載した事案につき,同見出しは「Xがその建設設計に関与し,工事費100億円を要した『恐竜の形をした橋』の評判が極めて悪く,多数の地元市民から,この橋とその建設設計に関与したXに対し,激しい罵声が浴びせられている」という事実を伝えるものとみるべきであるとした。また,その控訴審である東京高判平成14・7・18判例銀朱登載も,「市民の大罵声」という表現は,単なる評価的概念ではなく,「多数の市民から橋に対し激しい非難が加えられている」という事実を摘示したものであることが明らかであるとした(後掲(庄32)平成16年6月22日第三小法廷判決=上告棄却により確定)。一般に,評価的言明であって,その基礎となる事実を摘示しないものについては,一般の読者は,その評価的言明から,その評価にふさわしい事実の存在を黙示に主張するものと受け取るのが通常であると考えられるから,そのような事実を黙示的に摘示するものというべきであろう。上記広告においては,「大罵声」の評価の前提となる事実の摘示がないのであるから,「大罵声」に相当する事実の摘示があると解されたのは当然であろう。なお,山口政樹「名誉毀損法における事実と意見-英米法の示唆するもの-(一)~(三)」東京都立大学法学会雑誌35巻1号109頁(平成6年),同巻2号111頁(同年),36巻2号91頁(平成7年)参照。
(注25)前掲(注19)参照。
(注26)下級審裁判例を整理した文献に,大寄久「テレビ放映と名誉毀損」新・裁判実務大系9『名誉・プライバシー保護関係訴訟法』(平成13年)等がある。
(注27)判例評釈として,浜田純一・法律時報69巻13号234頁(平成9年)等がある。
(注28)判例評釈として,野村豊弘=磯本典章・ジュリスト1162号141頁(平成11年),山口いつ子・法律時報71巻1号72頁(平成n年)等がある。
(注29)むしろ,昭和31最判は,「所論新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても,いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合,その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上,これをもって名誉毀損の記事と目すべきことは当然である」と判示するものであって,新聞記事の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準を述べると同時に,その前提として,新聞記事の内容が何であるか,すなわち,新聞記事の摘示事実が何であるかという点についての判断基準(一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容)を述べるものでもあった。
(注30)もっとも,前掲双三小判平成9・5・27②に照らせば,名誉毀損に係る報道をした特定のメディア自体の個別的事情(その編集方針,主な受け手の構成,社会の一般的な評価)は,考慮すべきではない。
(注31)遂に,本判決は,いかに公益目的の真摯な報道であっても,真実性や相当性の認められないよりなものは,不法行為を構成することを改めて確認したものということもできるであろう。報道機関が,公共の利害に関わる情報を入手しながらこれを報道しないのは,その社会的使命に背く行為であるといわなければならないが,報道機関による報道によって,被害者が大きな(時に致命的な)ダメージを受けることにかんがみれば,報道機関が報道を行うに当たっては,その情報の真実性について厳格な調査確認義務があるというべきであり,これを怠って報道を行い,また,報道の受け手が事実等を誤解するような表現方法によって報道を行うなど,真実性又は相当性を立証できないような報道を行って他人の名誉等の人格的利益を侵害すれば,不法行為責任を問われるのは当然というべきであろう。
(注32)謝罪広告と憲法19条との関係について,最大判昭和31・7・4民集10巻7号785頁は,新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は,その広告の内容が,単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものにあっては,旧民訴法733条(民航法171条)により代替執行をすることができ,憲法19条に違反しない旨の判断を示し,また,最―小判昭和41・4・21裁判集民事83号269頁は,新聞紙の発行人に対して当該新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決(代替執行ができず,間接強制によるほかない。)についても,その広告の内容が,単に事態の冥福を告白し陳謝の意を表明する程度のものにあっては,憲法19条に違反しない旨の判断を示している(なお,被告の発行する出版物に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は,下級審において広く見られ。最近公刊物に登載されたものだけでも,東京辿判平成元・9・6判例時報1351号79頁〔新潮社に対し,「週刊新潟」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,東京地判平成2・5・22判例時報1357号93頁〔新潟社に対し,「フォーカス」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,東京地判平成2・11・7判例時報1369号125頁〔社会党に対し,「社会新報」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,東京地判平成3・10・7判例時報1405号64頁〔朝日新聞社に対し,「朝日新聞」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,大阪高判平成4・6・24判例時報1451号U6頁〔内外タイムス社に対し,「内外タイムス」への謝罪広告の掲載を命じた1審判決を維持。〕,東京地判平成4・9・30判例時報1483号79頁〔東京スポーツ新聞社に対し,「東京スポーツ」,「大阪スポーツ」,「中京スポーツ」,「九州スポーツ」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,前掲東京高判平成6・9・7〔新潮社に対し,「週刊新潟」への謝罪広告の掲載を命じた。〕,東京地判平成13・3・27判例時報1754号93頁〔小学館に対し,「週刊ポスト」への謝罪広告の掲載を命じた。東京高判平成13・12・26判例時報1778号73頁により是認された。〕,東京高判平成14・3・28判例時報1778号79頁〔講談社に対し,「週刊現代」への謝罪広告の掲載を命じた1審判決を維持。〕等がある。他方,謝罪広告でなく,判決の広告又は訂正記事の掲載を命じたものとして,大阪地判平成4・10・23判例時報1474号108頁〔月刊タイムス社に対し「月刊TIMES」への,内外タイムス社に対し「内外タイムス」への判決の広告の掲載を命じた。〕,東京高判平成13・4・11判例時報1754号89頁〔毎日新聞社に対し,「毎日新聞」への訂正記事の掲載を命じた。〕等がある。)。さらに,前掲最一小判昭和41・4・21は,新聞紙の発行人に対して当該新聞紙に上記内容の謝罪広告を掲載することを命ずる判決が憲法21条に違反しないことは,前掲最大判昭和31・7・4の趣旨に徴して明らかであるとした。近時の最高裁の判決においても,被告の発行する出版物に謝罪広告の掲載を命ずることは,その広告の内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものである場合には,憲法19条,21条に違反しないとの判断が示されている(最高裁平成14年(オ)第1620号同16年6月22日第三小法廷判決,最高裁平成16年(オ)第911号同年7月15日第一小法廷判決,最高裁平成16年(オ)第1886号同17年3月22日第三小法廷判決。いずれも判例集未登載)。
 もっとも,前掲最二小判昭和45・12・18は,「民法723条が,名誉を毀損された被害者の救済処分として,損害の賠償のほかに,それに代えまたはそれとともに,原状回復処分を命じうることを規定している趣旨は,その処分により,加害者に対して制裁を加えたり,また,加害者に謝罪等をさせることにより被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく,金銭による損害賠償のみでは填補されえない,毀損された被害者の人格的価値に対する社会的,客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためであると解すべき」と判示しており,その趣旨にかんがみると,毀損された名誉を回復するためには被告側の謝罪までは必要がないと考えられることや,謝罪文言の公表を被告自身に求めること(間接強制で強制すること)には,違憲・違法の問題がないとしても,相当性の点において必ずしも問題がないとはいえないことなどに照らし,将来的には,訂正記事等の掲載を命ずる方向へ改めていくべきものと思われる。
(注33)ただし,放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた者は,放送事業者に対し,放送法4条1狽の規定に基づく訂正放送又は取消しの放送を求める私法上の権利を有しない(最一小判平成16・11・25民集58巻8号2326頁)。
(注34)最大判昭和61・6・11民集40巻4号872頁は,「名誉侵害の被害者は,人格権としての名誉権に基づき,現に行われている侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するため,侵害行為の差止めを求めることができる」旨判示し,また,近時,最三小判平成14・9・24判例時報1802号60頁は,Aが執箪し,Y1が編集兼発行者となってY2が発行した雑誌において公表された小説によって名誉を毀損され,プライバシー及び名誉感情を侵害されたとするXが,A及びYらに対して慰謝料の支払を求めるとともに,A及びY2に対し,同小説の出版等の差止めを求めるなどした事案において,「原審の確定した事実関係によれば,公共の利益に係わらないXのプライバシーにわたる事項を表現内容に含む本件小説の公表により公的立場にないXの名誉,プライバシー,名誉感情が侵害されたものであって,本件小説の出版等によりXに重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるというべきである。したがって,人格権としての名誉権等に基づくXの各請求を認容した判断に違法はなく,この判断が憲法21条1項に違反するものでないことは,当裁別所の判例(最高裁昭和41年困第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁,最高裁昭和56年團第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁)の趣旨に照らして明らかである。」と判示した。
(注35)新聞報道等によれば,差戻後の控訴審(東京高裁)において,平成16年6月17日,要旨,①Y社は,Xらに対し,本件放送においてダイオキシン類汚染の測定値を表示したフリップの記載の誤りやその説明内容に不適切な部分があったことなどにより,一般の視聴者に最高値の3.80pg/gを示したのがほうれん草を中心とした葉物野菜であるとの誤解を与え,所沢産の葉物野菜の安全性に疑いを生じさせ,所沢市内の農家に多大な迷惑をかけたことを心よりおわびする,②Y社は,Xらに対し,和解金として1000万円を支払う,③Xらはその余の請求を放棄する,④XらとY社は,和解条項に定めるほか,何らの債権僕務のないことを相互に確認する,との和解が成立したとのことである。
(注36)本判決について,新聞各社は,次のような社説を公表した。すなわち,①平成15年10月17日付け朝日新聞は,「苦い教訓と懸念と」と題して,「取材の基本をおさえ,正確にデータを伝える努力が軽んじられていたのだ。テレビ朝日には厳しく反省を求めたい。とはいえ,この点に目を奪われるあまり,ダイオキシン汚染に警鐘を鳴らした報道の意義を否定することはできまい‥‥・・この報道をきっかけに,ダイオキシン対策法ができ,大気中に排出されるダイオキシンの総量規制が導入されるなど対策が進んだ……そうした報道の意義を評価する見方は,今回の般高裁判決では全般的に乏しいのではないか。」と,②同日付け読売新聞は,「TV報道のあり方に厳しい警鐘」と題して,「センセーショナリズムに陥りがちなテレビ報道に,警鐘を鳴らす画期的な判決だ……慎重かつ注意深い報道-。最高裁判決は,それを求めている。」と,③同月19日付け毎日新聞は,「他山の石と厳粛に受けとめる」と題して,「判決は,テレビ報道を新聞記事としゅん別したが,正確で緻密な事実の積み重ねが求められる点では,新聞などの報道も同じことだ。これまで以上に正確な報道を期さねばならないとの意を強くする。しかし,ミスを理由にテレ朝の報道の意義までを否定してはならない……判決によってメディアが消極的になり,結果的に政治家や役人の不正,腐敗の隠ぺいにつながるような事態は暖じて避けねばならない。司法が望むところでもあるまい。jと,④同日付け産経新聞は,「教訓と警鐘を鳴らす判決」と題して,「最高裁第一小法廷が,テレピ朝日系のニュース番組をめぐる裁判でテレビの視聴者に与える影響の特性から,真実性を厳格に確認することを求めたのは,報道の自由を制限するものではなく妥当な判断だ。他局もこの判決を“他山の石”とし,より正確な報道に努めるより望みたい……ただ,この報道を契服に政府のダイオキシン対策が一気に進んだことも見逃せない。今回の最高裁判決は,テレピ報道のあり方について,テレ朝だけでなく他局への教訓と警鐘を鳴らす意義深い判決といえよう。」と論じた。
(後住)本判決は,民集のほか,判例時報1845号26頁,判例タイムズ1140号58頁にも掲載されている。本判決の評釈としで,①右崎正博・判例評論549号18頁(平成16年11月),②紙谷雅子・民商法雑誌130巻4・5号850頁(平成16年8月),③新美育文・ジュリスト1269号(平成15年度重要判例解説)91頁(平成16年6月),④橋本恭宏・法学教室283号102頁(平成16年4月),⑤前田陽一・NBL788号83頁(平成16年7月),⑥升田純・.NBL722号4頁(平成15年n月), ⑦真鍋美穂子・判例タイムズn84号(平成16年度主要民事判例解説)96頁(平成17年9月),⑧森田修・法学協会雑誌121巻9号1489頁(平成16年9月),⑨和田真一・法学教室294号別冊付録(判例セレクト2004)23頁(平成17年3月),⑩松並良雄・ジュリスト1276号140頁(平成16年10月)等がある。
                    (松並 重雄)
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未来塾の最終勝訴であきらかになった不当裁判が余りにもまかりとおりすぎる群馬県の裁判所と裁判官の実態

2012-02-10 18:50:00 | 安中フリマ中止騒動
■群馬県安中市で15年あまりにわたって、市民団体が開催していた北関東最大とまで言われていたフリーマーケットを、平成19年9月に岡田義弘・安中市長が中止に追い込んだ上に、フリマ開催の最後のお願いをするために、市民団体が市長に申し入れて平成19年9月10日に市長室で行われた「意見交換会」のやりとりを、岡田市長が平成19年12月広報紙で、虚偽の内容を掲載して、未来塾と未来塾代表のイメージダウンを図る為に、市内全戸に配布して、市民団体と代表者の名誉を毀損したうえ、安中市のホームページにも掲載した事件は、平成20年9月17日の提訴から約3年5ヶ月目、すなわち約41ヶ月経過した平成24年2月7日(火)に最高裁第3小法廷で最後の審判が下されました。2月10日付の上毛新聞は次のように報じています。

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安中市の上告棄却 5万円支払い確定 フリマ訴訟
 フリーマーケット開催をめぐり、安中市の岡田義弘市長に虚偽の記事を市広報に掲載され、名誉を傷つけられたとして、同市の地域づくり団体「未来塾」と松本立家代表が岡田市長と市に800万円の損害賠償などを求めた民事訴訟で、最高裁第3小法廷は2月9日までに、市の上告を棄却する決定をした。市が未来塾に5万円を支払うことを命じた東京高裁判決が確定した。
 岡田市長は「公平な第三者機関である司法の判断を真摯に受け止める」と話し、松本代表は「団体だから公権力に立ち向かえたが、個人なら泣き寝入りしてしまう。このようなことを繰り返さないでほしい」と話している。
(2012年2月10日上毛新聞朝刊社会面P24)
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■自分で虚偽の公文書(=安中市広報)を作成して、行使(=市内全戸配布)したのに、「公平な第三者機関である司法の判断を真摯に受け止める」などとコメントすること自体、岡田市長のヒジョーシキな言動を象徴的に示しているわけですが、「僅か5万円の損害で済んだ」ことにまずは感謝すべきでしょう。

 しかし、僅か5万円でも市民の名誉を毀損したのですから、その罪は重大です。「司法の判断を真摯に受け止める」ことは勿論ですが、それをふまえて、どのような反省と行動を取るかが肝心です。期待は出来そうもありませんが。

■今回の約41ヶ月間に及ぶ係争を振り返ってみましょう。

 既述の通り、市民団体と代表者が安中市と岡田義弘市長を相手取り、総額800万円の名誉毀損の損害賠償などを求めて前橋地裁高崎支部に提訴したのは平成20年9月17日でした。

 その後、平成22年5月27日に一審の判決が前橋地裁高崎支部で下されました。一審では市広報に掲載された当該記事が原告らの名誉を毀損しないとして原告らの請求が棄却されました。この時の裁判官は悪名高い松丸伸一郎判事でした。もともと、このようないわく付きの裁判官が群馬県の司法界にのさばっていること自体、群馬県民として不幸なことでした。松丸判事にはこれ以上、不当判決を出して国民を混乱に陥れない為にも、早急に引導を渡すべきです。

 市民団体と代表はさっそく控訴しました。二審の控訴審は、およそ1年1ヶ月余りで結審し、平成23年7月13日に東京高裁で、逆転判決が下りました。控訴審では、一審の不当判決を取り消し、当該記事が市民団体の名誉を毀損するもので、記事の内容は真実ではない、として、記事を作成・配布した市長の行為を違法と認定しました。いかに、群馬県の裁判がいい加減か、を痛感させられます。

 すると、今度は、安中市と岡田市長が上告しました。勝訴の見込みもないのに、特別予備費として市民の税金40万円が使われました。そして、意外に早く、最高裁から平成24年2月7日に高裁の判決を支持し、安中市と岡田市長の上告・上告受理申立てを棄却するという通知が来たのです。きっと裁判官全員一致による判断だったと思われます。

■市民団体が訴訟代理人を依頼したのは、弁護士法人東京パブリック法律事務所に所属する山下雅雄弁護士です。

 同氏のプロフィールを見ると、1978年9月高知県南国市生まれで、1980年に千葉市に転居し、2001年まで居住。2002年4月、司法研修所に入所し、配属先は高知地方裁判所でした。そして2003年10月に弁護士登録をし、東京弁護士会に弁護士登録をして、4年半の川人法律事務所での勤務を経て、2008年4月より弁護士法人東京パブリック法律事務所で執務しています。

 過労死・過労自殺等の労災申請・行政訴訟・損害賠償事件、少年事件・虐待事件・学校災害等の子どもの事件、脱北者・拉致被害者等の北朝鮮に関する人権問題、ゲイ・レズビアン等セクシュアルマイノリティーの支援活動などにおもに取り組んでおり、今回の行政訴訟はもっとも得意とする分野のひとつだといえます。

■当会は、これまでの本件名誉毀損損害賠償請求事件の裁判資料を入手して分析してきましたが、完全に虚偽の公文書であっても、公権力が作成すると、それが公平、公正であるはずの裁判所でもウソをつけば、裁判所もそれを真実だと看做して、市民団体のほうに、証拠など実証するものの提示を求めるのです。結果として、市民団体の代表が述べているように、普通の市民であれば、公権力と裁判所の加担の前に、無力感にさいなまれて、泣き寝入りせざるを得ないことになります。

 とにかく、これまで、群馬県の司法界に対して政治力を行使し、公平、公正であるべき裁判を捻じ曲げ続けてきた岡田市長ですが、今回の敗訴には重大な意味があることをよく認識してもらわなくてはならないでしょう。

【ひらく会情報部】

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