■11月30日に、配達証明付きで安中市監査委員から、当会が10月12日付で提出していた安中市のごみ焼却施設の談合問題に関する住民監査請求に対して、棄却通知が届きました。
その翌日、12月1日の東京新聞長朝刊に次の記事が掲載されました。これを見ると、岡田市長は、11月30日の12月定例市議会でタクマへの損害賠償請求に関する議案提出を行ったと報じています。
住民に対しては、「現時点で、談合(受注調整)を確認できない以上、市が損害を被ったことも確認できない」として棄却し、議会に対しては、「談合による損害賠償請求を行う」と、なぜ裏腹な対応をしたのか。岡田市長の今後の本件の進め方を占ってみました。
■まずは東京新聞の12月1日付の記事を見てみましょう。
**********
ごみ焼却施設 建設談合疑惑
受注業者を提訴へ 安中市6億4800万円の賠償請求
安中市は11月30日、市ごみ焼却施設「碓氷川クリーンセンター」の建設工事の入札で談合が行われていたとして、工事を受注した「タクマ」(兵庫県尼崎市)に対し、落札金額の1割にあたる約六億四千八百万円の損害賠償請求をするため、この日開会した市議会定例会で議案を提案した。
同センター建設については一九九五年、当時の安中市と松井田町でつくる安中松井田衛生施設組合が指名競争入札を実施。大手メーカーのタクマが、二番札とは二百万円差で、予定価格の99・76%の約六十四億八千六百万円で落札し九八年三月に完成した。
同市では、タクマを合む大手メーカー五社が絡む談合があったとする公取委の審決を受け、同社に対し事実確認とともに弁明書の提出を求め審議していた。その結果、審決によれば大手五社以外の落札率は89・76%だったことから談合が推察できると判断。十月に同社に賠償請求したが応じなかったため提訴することにした。
十月には、市民十一人が同焼却場建設で多大な損害を被ったとして損害賠償請求を求めるための監査請求を行ったが、先月二十九日、「談合を確認できなかった」として請求は棄却された。
同市の岡田義弘市長は「住民に対する説明責任を果たすために提訴が必要と判断した」と話し、タクマは「内容を見て検討する」としている。(樋口聡)
**********
■次に、安中市監査委員から配達証明付きで11月30日に送られてきた監査結果通知を掲げます。
**********
安監発第18201号
平成22年11月29日
請求人 小川 賢 様
安中市監査委員 安藤忠善 印
安中市監査委員 中里 稔 印
安中市職員措置請求書に関する監査の結果について(通知)
平成22年10月12日付けで提出された、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第1項の規定による請求について、同条第4項の規定により監査を行ったので、その結果を下記のとおり通知します。
記
第1 請求の受付
1 請求人
安中市野殿980番地 会社員 小川 賢
2 請求の受理
本件請求は、法第242条第1項に規定する要件を具備しているものと認め、平成22年10月18日、これを受理した。
第2 請求の要旨(原文のとおり)
1 対象行為
平成7年(1995年)6月22日に聞かれた安中・松井田衛生施設組合(当時)によるゴミ処理施設(日量90トンの焼却炉及び日量20トンの破砕機など)の入札で、税込み総額64億8591万円でタクマが一番札となり、続いて、三機工業64億8797万円、川崎重工67.8億円、日立造船67.9億円、日本鋼管(現在のJFEエンジニアリング)69.4億円、クボタ70.1億円、ユニチカフ0.3億円、荏原製作所70.8億円、三菱重工業70.9億円という入札額の順位であった。当時、ストーカ式ゴミ焼却炉の相場は、ゴミ処理量1トン当りせいぜい5000万円といわれており、破砕機1Oトンのコストが数億円として、およそ50億円強が相場であり、65億円近い受注額は異常に高いので大変驚かされた記憶がある。
その後、タクマをはじめ、日立造船、JFEエンジニアリング、三菱重工業、川崎重工業が、全国各地の衛生施設組合が発注したごみ焼却施設建設の入札において、談合を繰り返した結果、建設価格が高騰し、自治体が多額の損害を受けている問題が浮き彫りにされた。
2 違法・不当の理由
そのため、公正取引委員会は平成11年(1999年)8月、安中・松井田衛生施設組合の案件を含む地方公共団体が発注するごみ処理施設建設の入札において、談合行為を繰り返していたとして、当該5社に排除勧告を行った。その後、この5社は、談合行為の排除措置を命じた、公疋取引委員会の審決取り消しを求めて提訴したが、最高裁判所が平成21年(2009年)10月6日、5社の上告を棄却した。この結果、談合を認定した公正取引委員会の審決が確定した。
3 回復不能な損害額の発生
この最高裁の上告棄却によって、談合行為の認定が確定したことを受けて、安中市長は、直ちに損害額の算定をしたうえで、株式会社タクマに対して、遠やかに損害賠償の支払いを請求しなければならない。請求額の目安としては、当時の落札率を計算し、公正取引委員会審決で示された、談合行為を繰り返していたタクマほか4社以外の業者が受注した平均落札率89.76%(要確認)との差が損害金であると断定し得るので、それを損害額として算出することが可能である。こうした手続きを踏まえ、もし、安中市からの損害賠償の支払い請求に対して、株式会社タクマが支払いを拒否した場合には、速やかに訴訟における法理を構築したうえで、訴訟を視野に入れた対応をとらなければならない。
4 監査委員に求める措置
以上のように、既に安中市に回復困難な損害が発生しているので、監査委員が以下の勧告をすることを求める。
「市長は、談合によって高値につり上げられた、工事費に使われた市民の血税を、きちんと取り戻すよう万全の手段を講じなければならない」
5 事実証明書
公正取引委員会 平成11年(判)第4号審決別紙(記載省略)
TKC法律情報データベース最新判例(記載省略)
第3 監査の実施
1 請求人の陳述
法第242条第6項の規定に基づく、請求人の陳述及び証拠の提出について機会を与えたところ、請求人より陳述書の提出があり、証拠の提出はなかった。
(1)陳述書概要
請求人は、仕事の都合で陳述に出向けないので、書面にて陳述を行う旨述べ、自分は、市民オンブズマン群馬の代表であり、談合問題については、犯罪と捉えて、全国市民オンブズマン連絡会議において、積極的に住民訴訟を奨励し、多額の税金を自治体に返却させて来たと言う。
続いて、本件請求事実である地方公共団体発注のストーカ炉建設談合問題の経過を説明し、談合問題の背景に、地方自治体の談合に対する極めて甘い体質があると指摘し、この問題に関しては、全国のオンブズマンや住民がその努力により、数多くの勝訴判決を勝ち取って来たと述べ、これは住民の談合を許さないという意思が示されたものだとしている。
また、本来このような入札談合の損害回復は、地方自治体自ら率先して行わなければならないのに、多額の税金を役人する事業において、談合について鈍感な自治体が多いと述べ、市にあっては、公正取引委員会の度重なる立ち入り調査、警告、排除勧告、審決等の情報があるのだから、債権管理の責務を果たさず裁判の推移を見守るだけ、という傍観者的姿勢は取らないでもらいたいと述べている。
2 監査対象事項
本件請求の内容は、公正取引委員会が平成18年6月27日に下した、平成17年法律第35号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の雍保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく平成11年(判)第4号審決(以下「審決」という。)が、平成21年10月6日、最高裁判所の決定により確定し、平成6年4月から平成10年9月17日までの間、日立造船株式会社、JFEエンジニアリング株式会社(旧商号 日本鋼管株式会社)、株式会社タクマ、三菱重工業株式会社及び川崎重工業株式会社の5社(以下「5社]という。)による独占禁止法違反行為が明らかになり、平成7年6月22日に、安中・松井田衛生施設組合(現在は合併により安中市)が実施した、ごみ処理施設及び粗大ごみ処理施設建設工事(以下「本件工事」という。)の入札においても、入札参加事業者による、独占禁止法違反行為である談合(受注調整)が行われたことによって、安中市(以下「市」という。)が披った損害を回復するため、損害賠償請求を、受注者である株式会社タクマに対し行うことを、安中市長に勧告するよう求めているものと認められる。
このことから市が損害賠償請求権の行使を怠っていることについての監査請求とみなされ、法第242条第1項の違法若しくは不当に財産の管理を怠る事実に該当すると解した。
よって次の点について監査を行うこととした。
(1)本件工事の入札において談合(受注調整)があったかについて
(2)市は損害を被ったかについて
(3)市は違法若しくは不当に財産の管理を怠っているかについて
3 監査対象部課
法第242条第4項の規定により、次の関係部課に対し、監査を行い事情を聴取した。
(1)市民部クリーンセンター
ア 事情を聴取した者
市民部長、市民部クリーンセンター所長
(2)財務部財政課、財務部契約検査課
ア 事情を聴取した者
財務部長、財務部財政課長及び財務部契約検査課長
4 関係人調査
法第199条第8項の規定により、次の関係人に対し、書面による調査を行った。
(1)公正取引委員会
(2)本件工事入札参加者
株式会社タクマ、日立造船株式会社、JFEエンジニアリング株式会社(旧商号 日本鋼管株式会社)、三菱重工業株式会社、川崎重工株式会社、株式会社荏原製作所、株式会社クボタ、ユニチカ株式会社及び三機工業株式会社
(3)国土交通省近畿地方整備局
5 その他関連調査
公正取引委員会ホームページ、裁判所ホームページより、審決害、判例を取得し、調査研究を行った。
第4 関係人調査の回答概要
1 公正取引委員会
(1)本件工事において、談合(受注調整)が行われた事実があるか。
(回答)
審決では、5社が、遅くとも平成6年4月以降、地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について、審決案理由第1の2(1)の本件合意に基づいて、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していたことを違反行為として認定しているものであり(同行為は、平成10年9月17日以降、取りやめられている。)、個別の入札物件ごとに違反行為の有無を認定しているものではない。
なお、審決は、具体的な証拠から、5社が受注予定者を決定したと推認される工事として30工事があること等から、当該30工事を含め地方公共団体の発注するストーカ炉の建設工事の過半について、受注予定者を決定し、これを受注することにより、前述の取引分野における競争を実質的に制限していたものと認定しているが、お尋ねの安中・松井田衛生施設組合工事入札は、当該30工事に含まれていない。
(2)本件工事において、談合(受注調整)による、契約実績額の引き上げが行われた事実があるか。
(回答)
審決においては、5社の平成6年4月から平成10年9月17日までの契約実績額が違反行為により引き上げられたという認定は行っていない。
(3)審決では、本件工事は、審査官が違反対象であると主張する60件の工事に入っていたが、審判官が違反を認定した30件の工事には入っていないその理由
(回答)
審決における30工事の認定については、(1)のとおりであり、当該30工事は、具体的な証拠から、5社が受注予定者を決定したと推認されると判断した。
(4)審決では、地方公共団体の発注するストーカ炉建設工事の過半について独占禁止法違反行為があったと認めることができるとあるが、過半とは具体的にどのような工事を指しているのか。
(回答)
審決においては、30工事以外に具体的にどの工事が過半の工事に含まれるかについては、認定していない。
(5)課徴金について
(回答)
平成22年11月10日に課徴金の納付を命ずる審決(平成19年(判)第3号ないし第7号。)を行ったが、当該審決において、安中・松井田衛生施設組合工事は、課徴金算定の対象となっていない。
2 本件工事入札参加者
(1)本件工事の入札に係る談合(受注調整)の事実は確認できなかった。
(2)本件工事の入杜価格は工事にかかる原価を積算の上、当該原価に基づき決定した。
(3)本件工事の入札に係る資料は廃棄されているのでわからない。
(4)本件工事の入札が安中・松井田衛生施設組合に損害を与えたとは考えていない。
3 国土交通省近畿地方整備局
(1)照会事項
平成22年1月20日、近畿地方整備局長(建設部建設産業課)が、独占禁止法違反で、株式会社タクマに対して行った、建設業法第28条第3項の規定に基づく処分(営業の停止命令)についで、停止を命ずる営業の範囲に群馬県が含まれていない理由について
(回答)
本件監督処分は、平成6年から平成10年までの独占禁止法違反に関して、平成21年10月6日に最高裁の判決が確定したことから、建設業法第28条第1項第3号(他法令違反)に該当し、処分基準【不正行為に対する監督処分の基準について】(平成6年6月3日建設省経建発第133号)に基づく地域限定の考え方により、審判審決及び最高裁判決において「具体的な証拠から受注予定者を決定したと推認される工事」として22都道府県内の工事が明示されていることから、当該営業停止の範囲とした。なお、この22都道府県の中に群馬県は含まれていない。
第5 監査の結果
1 事実関係
(1)主な経過
平成11年 8月13日 公正取引委員会が5社に対し排除勧告
平成11年 9月 8日 公正取引委員会が5社の不服申し立てを受け審判開始決定
平成18年 6月27日 公正取引委員会が5社の独占禁止法違反を認定する審決
平成18年 7月27日 5社が審決取消請求を東京高裁へ提訴
平成20年 9月26日 東京高裁が5社の審決取消請求棄却
平成21年10月 6日 最高裁が5社の上告棄却及び上告不受理
(公正取引委員会審決確定)
(2)安中市の対応
平成22年 2月19日 審決確定を受け、株式会社タクマに対し、弁明書の提出を要請
平成22年 3月 3日 審決確定を受け、指名参加登録のある、株式会社タクマ、日立造船株式会社及びJFEエンジニアリング株式会社(旧商号 日本鋼管株式会社)について、4箇月の指名停止措置
平成22年10月20日 株式会社タクマに対し、損害賠償請求書を送付(契約金額の10%+年5%の割合による遅延損害金)
(3)本件工事の契約等について
ア 入札方法 指名競争入札(9社)
イ 工事名 ごみ処理施設及び粗大ごみ処理施設建設工事
ウ エ事場所 安中市原市65番地
エ 工事期間 平成 7年6月26日着工
平成10年3月10日完成
オ 契約金額 6,485,910,000円(うち消費税188,910,000円)
カ 契 約 日 平成7年6月23日 仮契約
平成7年6月26日 本契約(議会可決の日)
キ 発 注 者 安中市原市65番地
安中・松井田衛生施設組合
管理者 小川 勝寿
ク 請 負 者 東京都中央区日本橋一丁目2番5号
株式会社タクマ東京支社
取締役副社長・支社長 寺中 慶二郎
ケ 工事完成保証人 日立造船株式会社東京支社
川崎重工業株式会社東京本社
コ 落 札 率(落札価格/予定価格) 99.8%
(4)本件工事の概要
ア 建物構造 鉄筋コンクリート造及び鉄骨造
イ 建築面積 3,553㎡(工場株3,088㎡・管理株465㎡)
ウ 施設規模
① ごみ焼却処理施設 准連続燃焼式ストーカ炉
90t/日(45t/16hx2基)
② 粗大ゴみ処理施設(20t/5hx1基)
(5)入札執行状況(平成7年6月22日入札即時開札)
入札参加事業者名 第1回入札金額(税抜き金額) 結果
株式会社タクマ東京支社 6,297,000千円 落札
三機工業株式会社 6,299,000千円
川崎重工業株式会社東京本社 6,578,000千円
日立造船株式会社東京支社 6,590,000千円
日本鋼管株式会社 6,736,000千円
株式会社クボタ東京本社 6,810,000千円
ユニチカ株式会社東京本社 6,830,000千円
株式会社荏原製作所 6,875,000千円
三菱重工業株式会社 6,888,000千円
予定価格 6,3 1. 1,700千円
2 監査委員の判断
(1)本件工事の入札において談合(受注調整)があったかについて
ア 損害賠償請求権
5社による独占禁止法違反行為である談合(受注調整)を認定した公正取引委員会の審決が、最高裁判所の決定で確定した。
請求人は、本件工事の入札においても談合(受注調整)が行われ、市が損害を被ったので、落札者である株式会社タクマに損害賠償請求を行えと主張する。独占禁止法は、独占禁止法の規定に違反する行為をした事業者は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずると定めている。
入札談合の被害者は発注者である。市が損害賠償請求権を有しているか否か判断するためには、個別工事に位置付けられる本件工事の入札において、談合(受注調整)が行われたか確認しなければならない。
イ 審決が認定した独占禁止法違反行為
東京高等裁判所は、平成20年9月26日の判決で、審決は5社が「基本合意の下に受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていたことを違反行為と捉え、個別の受注調整行為は間接事実として認定している」と述べ、「個別の合意に関しては、基本合意がその内容のとおり機能し、競争を実質的に制限していたとの事実を認定する上で必要な範囲で立証されれば足りる」として、個別工事については、5社の基本合意を立証するために、必要な範囲で受注調整行為を立証したと述べている。
ウ 審決で談合(受注調整)が認定された個別工事
審決は、「具体的な証拠から、5社が受注予定者を決定したと推認される工事jとして、30件の工事を認定しているが、本件工事はこの中に含まれていない。
ただし、「5社が受注予定者を決定したと具体的に推認される工事を含め、地方公共団体の発注するストーカ炉の建設工事の過半について、受注予定者を決定していた」とし、30件の工事以外の個別工事について、受注調整行為が行われていなかったと認定したものでもない。
エ 課徴金
公正取引委員会は、平成19年3月23日、5社に対し課徴金納付命令を発し、審判が開始されたが、平成22年11月10日、課徴金の納付を命ずる審決を行った。
課徴金は違反行為実行期間の売り上げに算定率を掛けて算出する。
課徴金の算定根拠を調べることにより、個別工事の談合(受注調整)を特定できるものと考えられるが、違反行為実行期間の限度は、違反行為の終期から追って3年間であるため、違反行為終期の平成10年9月17日から起算した場合、平成7年6月22日の入札である本件工事は対象に含まれない。
オ 証拠
審決で、審査官(公正取引委員会)は本件工事が違反対象である証拠として「査第107号証」を挙げている。「査第107号証」は、川崎重工業株式会社の社員が所持していた書類である。審査官(公正取引委員会)は、この書類について、5社がアウトサイダーの株式会社荏原製作所及び株式会社クボタに協力要請を行った証拠としたが、審判官(公正取引委員会)はこれを認めていない。
しかし、東京高等裁判所は、平成20年9月26日の判決で、「7社に関する数値について、審査官が主張したような荏原製作所及びクボタとの協力関係に基づく数値の加算が行われていたことが認められないからといって、7社に関する数値の存在が直ちに本件違反行為と無関係なものということはできない。」とも述べている。
カ アウトサイダー
本件工事の入札は5社の外、アウトサイダーである株式会社荏原製作所、株式会社クボタ、ユニチカ株式会社及び三該工業株式会社が加わった9社で行われた。
アウトサイダーの存在を過大評価するものではないが、本件工事の場合4社と多く、談合(受注調整)の確認には、アウトサイダーの協力を明らかにすることが必要と考えられる。
しかし審決で、本件工事におけるアウトサイダーの協力が説明されているとは認められない。
株式会社荏原製作所、株式会社クボタについては、審査官(公正取引委員会)が主張する「アウトサイダーに協力要請を行った工事」に記載はあるが、ユニチカ株式会社、三機工業株式会社、特に2番札を入れた三機工業株式会社については記載がほとんどなく、関係人調査でも情報を得ることができなかった。
キ 落札率
落札率について、審決では「平成6年4月1日から同10年9月17日までの間に、地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事は87件のうち予定価格が判明している84件について落札率をみると、5社以外の者が受注した工事の平均落札率は、89.8%であるのに対し、5社のうちのいずれかが受注した物件の平均落札率は、96.6%であった。」としている。
本件工事の落札率は99.8%と、際だって高い。このことは、本件工事の入札における談合(受注調整)を疑わせるが、5社以外で落札率の高い所もあり、落札率の高さのみから何らかの結論を導くことはできない。
ク 結論
現時点で、本件工事の入札において、独占禁止法違反行為である談合(受注調整)が行われたか確認することはできない。
(2)市は損害を被ったかについて
現時点で、談合(受注調整)を確認できない以上、市が損害を被ったことも確認できない。
(3)市は違法若しくは不当に財産の管理をかつているかについて
市が行使すべき損害賠償請求権を確認できないので、市は違法若しくは不当に財産の管理を怠っているとは言えない。
よって本件請求には理由がないものと判断し請求を棄却する。
**********
■いろいろごちゃごちゃ述べていますが、最後に「請求を棄却する」とあることから、要するに「住民から言われなくても、既にタクマには損害賠償請求のための手はずを打ちつつあるので、でしゃばるな」という意味の回答のようです。
当会が予想したように、安中市は10月20日、タクマに対して、損害賠償請求書を提出していることが分かりました。また、それ以前にも、昨年末の審決確定を受けて、市の指名参加登録をしていたタクマを含む談合3社の指名停止措置をとったり、タクマに対して弁明書の提出を要請していたことが分かりました。(この件については別途情報公開で事実関係を確認する予定)
ところが、タクマに対して損害賠償請求書を提出したのが、市監査委員が住民から監査請求を受理した直後の10月20日であることをみると、岡田市長は、当初はタクマ相手の訴訟にあまり乗り気でなかったことをうかがわせます。
■住民からの監査請求を門前払いにしたことから、岡田市長には今後、不退転の決意をもって、談合会社のタクマ相手に損害の回復をきちんと行わせる責務が生じました。
しかし、口利き行政を得意とする岡田市政の脇の甘さは、業者のほうも認識しているかもしれません。裁判所に顔の効く岡田市長であるからこそ、裁判において、業者側から何らかの形で「談合」が持ちかけられるのではないか、心配です。
なにしろ互いに談合体質を引きずっている原告と被告同士です。当会では、裁判の経緯についてしっかりとモニターして、裁判の行方をきちんと監視してゆく所存です。
【ひらく会情報部】
その翌日、12月1日の東京新聞長朝刊に次の記事が掲載されました。これを見ると、岡田市長は、11月30日の12月定例市議会でタクマへの損害賠償請求に関する議案提出を行ったと報じています。
住民に対しては、「現時点で、談合(受注調整)を確認できない以上、市が損害を被ったことも確認できない」として棄却し、議会に対しては、「談合による損害賠償請求を行う」と、なぜ裏腹な対応をしたのか。岡田市長の今後の本件の進め方を占ってみました。
■まずは東京新聞の12月1日付の記事を見てみましょう。
**********
ごみ焼却施設 建設談合疑惑
受注業者を提訴へ 安中市6億4800万円の賠償請求
安中市は11月30日、市ごみ焼却施設「碓氷川クリーンセンター」の建設工事の入札で談合が行われていたとして、工事を受注した「タクマ」(兵庫県尼崎市)に対し、落札金額の1割にあたる約六億四千八百万円の損害賠償請求をするため、この日開会した市議会定例会で議案を提案した。
同センター建設については一九九五年、当時の安中市と松井田町でつくる安中松井田衛生施設組合が指名競争入札を実施。大手メーカーのタクマが、二番札とは二百万円差で、予定価格の99・76%の約六十四億八千六百万円で落札し九八年三月に完成した。
同市では、タクマを合む大手メーカー五社が絡む談合があったとする公取委の審決を受け、同社に対し事実確認とともに弁明書の提出を求め審議していた。その結果、審決によれば大手五社以外の落札率は89・76%だったことから談合が推察できると判断。十月に同社に賠償請求したが応じなかったため提訴することにした。
十月には、市民十一人が同焼却場建設で多大な損害を被ったとして損害賠償請求を求めるための監査請求を行ったが、先月二十九日、「談合を確認できなかった」として請求は棄却された。
同市の岡田義弘市長は「住民に対する説明責任を果たすために提訴が必要と判断した」と話し、タクマは「内容を見て検討する」としている。(樋口聡)
**********
■次に、安中市監査委員から配達証明付きで11月30日に送られてきた監査結果通知を掲げます。
**********
安監発第18201号
平成22年11月29日
請求人 小川 賢 様
安中市監査委員 安藤忠善 印
安中市監査委員 中里 稔 印
安中市職員措置請求書に関する監査の結果について(通知)
平成22年10月12日付けで提出された、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第1項の規定による請求について、同条第4項の規定により監査を行ったので、その結果を下記のとおり通知します。
記
第1 請求の受付
1 請求人
安中市野殿980番地 会社員 小川 賢
2 請求の受理
本件請求は、法第242条第1項に規定する要件を具備しているものと認め、平成22年10月18日、これを受理した。
第2 請求の要旨(原文のとおり)
1 対象行為
平成7年(1995年)6月22日に聞かれた安中・松井田衛生施設組合(当時)によるゴミ処理施設(日量90トンの焼却炉及び日量20トンの破砕機など)の入札で、税込み総額64億8591万円でタクマが一番札となり、続いて、三機工業64億8797万円、川崎重工67.8億円、日立造船67.9億円、日本鋼管(現在のJFEエンジニアリング)69.4億円、クボタ70.1億円、ユニチカフ0.3億円、荏原製作所70.8億円、三菱重工業70.9億円という入札額の順位であった。当時、ストーカ式ゴミ焼却炉の相場は、ゴミ処理量1トン当りせいぜい5000万円といわれており、破砕機1Oトンのコストが数億円として、およそ50億円強が相場であり、65億円近い受注額は異常に高いので大変驚かされた記憶がある。
その後、タクマをはじめ、日立造船、JFEエンジニアリング、三菱重工業、川崎重工業が、全国各地の衛生施設組合が発注したごみ焼却施設建設の入札において、談合を繰り返した結果、建設価格が高騰し、自治体が多額の損害を受けている問題が浮き彫りにされた。
2 違法・不当の理由
そのため、公正取引委員会は平成11年(1999年)8月、安中・松井田衛生施設組合の案件を含む地方公共団体が発注するごみ処理施設建設の入札において、談合行為を繰り返していたとして、当該5社に排除勧告を行った。その後、この5社は、談合行為の排除措置を命じた、公疋取引委員会の審決取り消しを求めて提訴したが、最高裁判所が平成21年(2009年)10月6日、5社の上告を棄却した。この結果、談合を認定した公正取引委員会の審決が確定した。
3 回復不能な損害額の発生
この最高裁の上告棄却によって、談合行為の認定が確定したことを受けて、安中市長は、直ちに損害額の算定をしたうえで、株式会社タクマに対して、遠やかに損害賠償の支払いを請求しなければならない。請求額の目安としては、当時の落札率を計算し、公正取引委員会審決で示された、談合行為を繰り返していたタクマほか4社以外の業者が受注した平均落札率89.76%(要確認)との差が損害金であると断定し得るので、それを損害額として算出することが可能である。こうした手続きを踏まえ、もし、安中市からの損害賠償の支払い請求に対して、株式会社タクマが支払いを拒否した場合には、速やかに訴訟における法理を構築したうえで、訴訟を視野に入れた対応をとらなければならない。
4 監査委員に求める措置
以上のように、既に安中市に回復困難な損害が発生しているので、監査委員が以下の勧告をすることを求める。
「市長は、談合によって高値につり上げられた、工事費に使われた市民の血税を、きちんと取り戻すよう万全の手段を講じなければならない」
5 事実証明書
公正取引委員会 平成11年(判)第4号審決別紙(記載省略)
TKC法律情報データベース最新判例(記載省略)
第3 監査の実施
1 請求人の陳述
法第242条第6項の規定に基づく、請求人の陳述及び証拠の提出について機会を与えたところ、請求人より陳述書の提出があり、証拠の提出はなかった。
(1)陳述書概要
請求人は、仕事の都合で陳述に出向けないので、書面にて陳述を行う旨述べ、自分は、市民オンブズマン群馬の代表であり、談合問題については、犯罪と捉えて、全国市民オンブズマン連絡会議において、積極的に住民訴訟を奨励し、多額の税金を自治体に返却させて来たと言う。
続いて、本件請求事実である地方公共団体発注のストーカ炉建設談合問題の経過を説明し、談合問題の背景に、地方自治体の談合に対する極めて甘い体質があると指摘し、この問題に関しては、全国のオンブズマンや住民がその努力により、数多くの勝訴判決を勝ち取って来たと述べ、これは住民の談合を許さないという意思が示されたものだとしている。
また、本来このような入札談合の損害回復は、地方自治体自ら率先して行わなければならないのに、多額の税金を役人する事業において、談合について鈍感な自治体が多いと述べ、市にあっては、公正取引委員会の度重なる立ち入り調査、警告、排除勧告、審決等の情報があるのだから、債権管理の責務を果たさず裁判の推移を見守るだけ、という傍観者的姿勢は取らないでもらいたいと述べている。
2 監査対象事項
本件請求の内容は、公正取引委員会が平成18年6月27日に下した、平成17年法律第35号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の雍保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく平成11年(判)第4号審決(以下「審決」という。)が、平成21年10月6日、最高裁判所の決定により確定し、平成6年4月から平成10年9月17日までの間、日立造船株式会社、JFEエンジニアリング株式会社(旧商号 日本鋼管株式会社)、株式会社タクマ、三菱重工業株式会社及び川崎重工業株式会社の5社(以下「5社]という。)による独占禁止法違反行為が明らかになり、平成7年6月22日に、安中・松井田衛生施設組合(現在は合併により安中市)が実施した、ごみ処理施設及び粗大ごみ処理施設建設工事(以下「本件工事」という。)の入札においても、入札参加事業者による、独占禁止法違反行為である談合(受注調整)が行われたことによって、安中市(以下「市」という。)が披った損害を回復するため、損害賠償請求を、受注者である株式会社タクマに対し行うことを、安中市長に勧告するよう求めているものと認められる。
このことから市が損害賠償請求権の行使を怠っていることについての監査請求とみなされ、法第242条第1項の違法若しくは不当に財産の管理を怠る事実に該当すると解した。
よって次の点について監査を行うこととした。
(1)本件工事の入札において談合(受注調整)があったかについて
(2)市は損害を被ったかについて
(3)市は違法若しくは不当に財産の管理を怠っているかについて
3 監査対象部課
法第242条第4項の規定により、次の関係部課に対し、監査を行い事情を聴取した。
(1)市民部クリーンセンター
ア 事情を聴取した者
市民部長、市民部クリーンセンター所長
(2)財務部財政課、財務部契約検査課
ア 事情を聴取した者
財務部長、財務部財政課長及び財務部契約検査課長
4 関係人調査
法第199条第8項の規定により、次の関係人に対し、書面による調査を行った。
(1)公正取引委員会
(2)本件工事入札参加者
株式会社タクマ、日立造船株式会社、JFEエンジニアリング株式会社(旧商号 日本鋼管株式会社)、三菱重工業株式会社、川崎重工株式会社、株式会社荏原製作所、株式会社クボタ、ユニチカ株式会社及び三機工業株式会社
(3)国土交通省近畿地方整備局
5 その他関連調査
公正取引委員会ホームページ、裁判所ホームページより、審決害、判例を取得し、調査研究を行った。
第4 関係人調査の回答概要
1 公正取引委員会
(1)本件工事において、談合(受注調整)が行われた事実があるか。
(回答)
審決では、5社が、遅くとも平成6年4月以降、地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について、審決案理由第1の2(1)の本件合意に基づいて、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、同工事の取引分野における競争を実質的に制限していたことを違反行為として認定しているものであり(同行為は、平成10年9月17日以降、取りやめられている。)、個別の入札物件ごとに違反行為の有無を認定しているものではない。
なお、審決は、具体的な証拠から、5社が受注予定者を決定したと推認される工事として30工事があること等から、当該30工事を含め地方公共団体の発注するストーカ炉の建設工事の過半について、受注予定者を決定し、これを受注することにより、前述の取引分野における競争を実質的に制限していたものと認定しているが、お尋ねの安中・松井田衛生施設組合工事入札は、当該30工事に含まれていない。
(2)本件工事において、談合(受注調整)による、契約実績額の引き上げが行われた事実があるか。
(回答)
審決においては、5社の平成6年4月から平成10年9月17日までの契約実績額が違反行為により引き上げられたという認定は行っていない。
(3)審決では、本件工事は、審査官が違反対象であると主張する60件の工事に入っていたが、審判官が違反を認定した30件の工事には入っていないその理由
(回答)
審決における30工事の認定については、(1)のとおりであり、当該30工事は、具体的な証拠から、5社が受注予定者を決定したと推認されると判断した。
(4)審決では、地方公共団体の発注するストーカ炉建設工事の過半について独占禁止法違反行為があったと認めることができるとあるが、過半とは具体的にどのような工事を指しているのか。
(回答)
審決においては、30工事以外に具体的にどの工事が過半の工事に含まれるかについては、認定していない。
(5)課徴金について
(回答)
平成22年11月10日に課徴金の納付を命ずる審決(平成19年(判)第3号ないし第7号。)を行ったが、当該審決において、安中・松井田衛生施設組合工事は、課徴金算定の対象となっていない。
2 本件工事入札参加者
(1)本件工事の入札に係る談合(受注調整)の事実は確認できなかった。
(2)本件工事の入杜価格は工事にかかる原価を積算の上、当該原価に基づき決定した。
(3)本件工事の入札に係る資料は廃棄されているのでわからない。
(4)本件工事の入札が安中・松井田衛生施設組合に損害を与えたとは考えていない。
3 国土交通省近畿地方整備局
(1)照会事項
平成22年1月20日、近畿地方整備局長(建設部建設産業課)が、独占禁止法違反で、株式会社タクマに対して行った、建設業法第28条第3項の規定に基づく処分(営業の停止命令)についで、停止を命ずる営業の範囲に群馬県が含まれていない理由について
(回答)
本件監督処分は、平成6年から平成10年までの独占禁止法違反に関して、平成21年10月6日に最高裁の判決が確定したことから、建設業法第28条第1項第3号(他法令違反)に該当し、処分基準【不正行為に対する監督処分の基準について】(平成6年6月3日建設省経建発第133号)に基づく地域限定の考え方により、審判審決及び最高裁判決において「具体的な証拠から受注予定者を決定したと推認される工事」として22都道府県内の工事が明示されていることから、当該営業停止の範囲とした。なお、この22都道府県の中に群馬県は含まれていない。
第5 監査の結果
1 事実関係
(1)主な経過
平成11年 8月13日 公正取引委員会が5社に対し排除勧告
平成11年 9月 8日 公正取引委員会が5社の不服申し立てを受け審判開始決定
平成18年 6月27日 公正取引委員会が5社の独占禁止法違反を認定する審決
平成18年 7月27日 5社が審決取消請求を東京高裁へ提訴
平成20年 9月26日 東京高裁が5社の審決取消請求棄却
平成21年10月 6日 最高裁が5社の上告棄却及び上告不受理
(公正取引委員会審決確定)
(2)安中市の対応
平成22年 2月19日 審決確定を受け、株式会社タクマに対し、弁明書の提出を要請
平成22年 3月 3日 審決確定を受け、指名参加登録のある、株式会社タクマ、日立造船株式会社及びJFEエンジニアリング株式会社(旧商号 日本鋼管株式会社)について、4箇月の指名停止措置
平成22年10月20日 株式会社タクマに対し、損害賠償請求書を送付(契約金額の10%+年5%の割合による遅延損害金)
(3)本件工事の契約等について
ア 入札方法 指名競争入札(9社)
イ 工事名 ごみ処理施設及び粗大ごみ処理施設建設工事
ウ エ事場所 安中市原市65番地
エ 工事期間 平成 7年6月26日着工
平成10年3月10日完成
オ 契約金額 6,485,910,000円(うち消費税188,910,000円)
カ 契 約 日 平成7年6月23日 仮契約
平成7年6月26日 本契約(議会可決の日)
キ 発 注 者 安中市原市65番地
安中・松井田衛生施設組合
管理者 小川 勝寿
ク 請 負 者 東京都中央区日本橋一丁目2番5号
株式会社タクマ東京支社
取締役副社長・支社長 寺中 慶二郎
ケ 工事完成保証人 日立造船株式会社東京支社
川崎重工業株式会社東京本社
コ 落 札 率(落札価格/予定価格) 99.8%
(4)本件工事の概要
ア 建物構造 鉄筋コンクリート造及び鉄骨造
イ 建築面積 3,553㎡(工場株3,088㎡・管理株465㎡)
ウ 施設規模
① ごみ焼却処理施設 准連続燃焼式ストーカ炉
90t/日(45t/16hx2基)
② 粗大ゴみ処理施設(20t/5hx1基)
(5)入札執行状況(平成7年6月22日入札即時開札)
入札参加事業者名 第1回入札金額(税抜き金額) 結果
株式会社タクマ東京支社 6,297,000千円 落札
三機工業株式会社 6,299,000千円
川崎重工業株式会社東京本社 6,578,000千円
日立造船株式会社東京支社 6,590,000千円
日本鋼管株式会社 6,736,000千円
株式会社クボタ東京本社 6,810,000千円
ユニチカ株式会社東京本社 6,830,000千円
株式会社荏原製作所 6,875,000千円
三菱重工業株式会社 6,888,000千円
予定価格 6,3 1. 1,700千円
2 監査委員の判断
(1)本件工事の入札において談合(受注調整)があったかについて
ア 損害賠償請求権
5社による独占禁止法違反行為である談合(受注調整)を認定した公正取引委員会の審決が、最高裁判所の決定で確定した。
請求人は、本件工事の入札においても談合(受注調整)が行われ、市が損害を被ったので、落札者である株式会社タクマに損害賠償請求を行えと主張する。独占禁止法は、独占禁止法の規定に違反する行為をした事業者は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずると定めている。
入札談合の被害者は発注者である。市が損害賠償請求権を有しているか否か判断するためには、個別工事に位置付けられる本件工事の入札において、談合(受注調整)が行われたか確認しなければならない。
イ 審決が認定した独占禁止法違反行為
東京高等裁判所は、平成20年9月26日の判決で、審決は5社が「基本合意の下に受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていたことを違反行為と捉え、個別の受注調整行為は間接事実として認定している」と述べ、「個別の合意に関しては、基本合意がその内容のとおり機能し、競争を実質的に制限していたとの事実を認定する上で必要な範囲で立証されれば足りる」として、個別工事については、5社の基本合意を立証するために、必要な範囲で受注調整行為を立証したと述べている。
ウ 審決で談合(受注調整)が認定された個別工事
審決は、「具体的な証拠から、5社が受注予定者を決定したと推認される工事jとして、30件の工事を認定しているが、本件工事はこの中に含まれていない。
ただし、「5社が受注予定者を決定したと具体的に推認される工事を含め、地方公共団体の発注するストーカ炉の建設工事の過半について、受注予定者を決定していた」とし、30件の工事以外の個別工事について、受注調整行為が行われていなかったと認定したものでもない。
エ 課徴金
公正取引委員会は、平成19年3月23日、5社に対し課徴金納付命令を発し、審判が開始されたが、平成22年11月10日、課徴金の納付を命ずる審決を行った。
課徴金は違反行為実行期間の売り上げに算定率を掛けて算出する。
課徴金の算定根拠を調べることにより、個別工事の談合(受注調整)を特定できるものと考えられるが、違反行為実行期間の限度は、違反行為の終期から追って3年間であるため、違反行為終期の平成10年9月17日から起算した場合、平成7年6月22日の入札である本件工事は対象に含まれない。
オ 証拠
審決で、審査官(公正取引委員会)は本件工事が違反対象である証拠として「査第107号証」を挙げている。「査第107号証」は、川崎重工業株式会社の社員が所持していた書類である。審査官(公正取引委員会)は、この書類について、5社がアウトサイダーの株式会社荏原製作所及び株式会社クボタに協力要請を行った証拠としたが、審判官(公正取引委員会)はこれを認めていない。
しかし、東京高等裁判所は、平成20年9月26日の判決で、「7社に関する数値について、審査官が主張したような荏原製作所及びクボタとの協力関係に基づく数値の加算が行われていたことが認められないからといって、7社に関する数値の存在が直ちに本件違反行為と無関係なものということはできない。」とも述べている。
カ アウトサイダー
本件工事の入札は5社の外、アウトサイダーである株式会社荏原製作所、株式会社クボタ、ユニチカ株式会社及び三該工業株式会社が加わった9社で行われた。
アウトサイダーの存在を過大評価するものではないが、本件工事の場合4社と多く、談合(受注調整)の確認には、アウトサイダーの協力を明らかにすることが必要と考えられる。
しかし審決で、本件工事におけるアウトサイダーの協力が説明されているとは認められない。
株式会社荏原製作所、株式会社クボタについては、審査官(公正取引委員会)が主張する「アウトサイダーに協力要請を行った工事」に記載はあるが、ユニチカ株式会社、三機工業株式会社、特に2番札を入れた三機工業株式会社については記載がほとんどなく、関係人調査でも情報を得ることができなかった。
キ 落札率
落札率について、審決では「平成6年4月1日から同10年9月17日までの間に、地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事は87件のうち予定価格が判明している84件について落札率をみると、5社以外の者が受注した工事の平均落札率は、89.8%であるのに対し、5社のうちのいずれかが受注した物件の平均落札率は、96.6%であった。」としている。
本件工事の落札率は99.8%と、際だって高い。このことは、本件工事の入札における談合(受注調整)を疑わせるが、5社以外で落札率の高い所もあり、落札率の高さのみから何らかの結論を導くことはできない。
ク 結論
現時点で、本件工事の入札において、独占禁止法違反行為である談合(受注調整)が行われたか確認することはできない。
(2)市は損害を被ったかについて
現時点で、談合(受注調整)を確認できない以上、市が損害を被ったことも確認できない。
(3)市は違法若しくは不当に財産の管理をかつているかについて
市が行使すべき損害賠償請求権を確認できないので、市は違法若しくは不当に財産の管理を怠っているとは言えない。
よって本件請求には理由がないものと判断し請求を棄却する。
**********
■いろいろごちゃごちゃ述べていますが、最後に「請求を棄却する」とあることから、要するに「住民から言われなくても、既にタクマには損害賠償請求のための手はずを打ちつつあるので、でしゃばるな」という意味の回答のようです。
当会が予想したように、安中市は10月20日、タクマに対して、損害賠償請求書を提出していることが分かりました。また、それ以前にも、昨年末の審決確定を受けて、市の指名参加登録をしていたタクマを含む談合3社の指名停止措置をとったり、タクマに対して弁明書の提出を要請していたことが分かりました。(この件については別途情報公開で事実関係を確認する予定)
ところが、タクマに対して損害賠償請求書を提出したのが、市監査委員が住民から監査請求を受理した直後の10月20日であることをみると、岡田市長は、当初はタクマ相手の訴訟にあまり乗り気でなかったことをうかがわせます。
■住民からの監査請求を門前払いにしたことから、岡田市長には今後、不退転の決意をもって、談合会社のタクマ相手に損害の回復をきちんと行わせる責務が生じました。
しかし、口利き行政を得意とする岡田市政の脇の甘さは、業者のほうも認識しているかもしれません。裁判所に顔の効く岡田市長であるからこそ、裁判において、業者側から何らかの形で「談合」が持ちかけられるのではないか、心配です。
なにしろ互いに談合体質を引きずっている原告と被告同士です。当会では、裁判の経緯についてしっかりとモニターして、裁判の行方をきちんと監視してゆく所存です。
【ひらく会情報部】