■現在、安中市では、碓氷川の南側のあちこちで、平成19年8月からガスパイプライン工事が行なわれています。この地域を車で走ろうとすると、埋め戻したデコボコ道路にハンドルを取られそうになってヒヤリとしたり、あちこちで道路規制にぶつかったりしてイライラさせられます。
写真上:東京ガスが高圧ガス管埋設後、埋め戻した凸凹道。埋設後、最大1年以上経過しても、まだ仕上舗装していない箇所も多い。
迷惑な工事だと思いつつも、「どうも都市ガスがいよいよ安中にも導入されることになるようだから、不便でも我慢しよう」。地元住民は最初、そう思っていました。
安中市の北野殿と岩井地区の場合、最初の工事は平成19年6月14日から同年7月末にかけて行なわれました。天神川の橋から農免道路を経て、北野殿の二夜堂から市道に出て、藤井坂から岩井の県道をへて、碓東小学校の前の交差点から、少林山に向けて、常楽寺の前から高崎市との境の急カーブのところまで全部で41箇所を試験掘するということが、回覧板で地元に配布された東京ガスのチラシに書いてありました。このチラシには「輸送用ガス管埋設工事についてのお願い」として、「工事のための試験掘工事を施工させていただくことになった」ので「工事期間中、片側交互通行になるのでご協力願います」として簡単な日程表と試験掘の位置図が添付されていました。
■試掘掘工事が終わった途端、平成19年8月になり、また回覧板で「追加試験掘工事」を施工するというチラシが回覧板で回ってきました。この追加工事は同年8月27日(月)~9月29日(土)まで、前回工事のルートに沿って、26箇所で施工されました。
8月にたまたまチラシをみた地元住民が、チラシに書いてあった連絡先の東京ガスの群馬幹線I期建設工事事務所に電話をして工事の内容を聞いたところ、次のことが判明しました。
1)敷設するガスパイプは直径50センチ、ガスの圧力は7メガパスカル(約70気圧)。
2)安中市中野谷の信越半導体の横野平工場から高崎市の下小塙町まで総延長15.7キロ、投資額57億円、使用開始時期2010年3月。
3)安中市では、一般需要家に対する都市ガス供給サービス事業は考えていない。
4)試験掘工事は、埋設物が実際にどのように埋まっているのかを実際に掘ってみて、位置を事前に確認するため行なうもので、ルートは既に決まっている。
■また、ネット等で調べると、東京ガスと帝国石油が平成17年12月に共同で発表した天然ガスパイプライン「群馬連絡幹線」構想の概要は次のようなものでした。
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【天然ガスパイプライン「群馬連絡幹線構想について」】
平成17年12月 東京ガス㈱ 帝国石油㈱
<はじめに>
近年、地球環境問題の深刻化に伴うCO2排出量の削減問題等から、石油等の他化石燃料と比較して環境に与える影響が少なく供給安定性に優れた天然ガスが注目され、より一層の普及拡大が求められております。政府の「2030年エネルギー需給見通し」の中でも、1次エネルギー供給に占める天然ガスの割合が、今後更に高まるものと想定されており
ます。また、地球温暖化防止のため、先進国等に対する二酸化炭素排出量削減を定めた京都議定書が発効される等、地球環境の保全が企業の最優先課題となっており、こうしたことからも天然ガスの果たす役割はますます重要になっております。
天然ガスには、国産天然ガスと海外から輸入するLNG(液化天然ガス)の二種類が存在しますが、いずれの場合においても、天然ガスは各種パイプラインを介して全国約2,600万件のお客さまへ供給されております。現在、国内には首都圏等の大規模需要地周辺や関東甲信越等国産ガス供給地周辺を中心に約3,000kmの主要幹線パイプラインが敷設されておりますが、今後の天然ガスの普及促進のためには更なるパイプライン建設が必要不可欠であるといえます。
これらの状況を鑑み、この度帝国石油㈱と東京ガス㈱では、群馬県を始めとする北関東エリアにおける天然ガスの旺盛な需要増に対応するために、群馬連絡幹線構想を計画し、共同で検討することと致しました。今後とも、環境に優しいエネルギーである天然ガスによる、“より快適な暮らしづくり”と“環境に優しい街づくり”に貢献し、地域の皆様の信頼に応えてまいります。
<「群馬連絡幹線」構想の目的>
「群馬連絡幹線」構想は、帝国石油㈱が現在建設中の新東京ライン(2008年1月より供用開始予定)と、東京ガス㈱が現在供用中の熊谷~佐野幹線を連絡する、延長約100kmの天然ガスパイプラインを建設するものです。
昨今の原油価格の高騰を背景に、省エネを推進する上で最も有効なクリーンエネルギーである天然ガスの導入を望むお客さまが急激に増加しております。群馬県を始めとする北関東エリアにおいては、主に新潟県内に埋蔵されている国産天然ガスや、海外から輸入し東京湾内の工場で生産している天然ガスを、帝国石油㈱及び東京ガス㈱が保有するパイプラインを介して供給しております。しかしながら、現在の旺盛な需要増に対して既存パイプラインでの供給ではその能力に限界が生じる可能性があります。そこで、同社の保有するパイプラインを有機的に連絡するパイプライン「群馬連絡幹線」を具現化することにより、群馬県を始めとする北関東エリアにおける天然ガスの供給安定性を大幅に向上させるとともに、天然ガスの更なる普及拡大に貢献することが可能となります。
<「群馬連絡幹線」構想の概要>
現段階における概要は、以下の通りです。
項目/主な内容
始点/群馬県甘楽郡妙義町(帝国石油㈱妙義VB)
終点/群馬県邑楽郡邑楽町(東京ガス㈱邑楽GS)
延長/約100km
圧力/7MPa
ガス導管の主な仕様/口径 500mm
材質 鋼管
接合方法 溶接接合
完成時期/2011年(2012年より全線供用開始予定)
<「群馬連絡幹線」I期工事について>
上記のように全体構想がある中で、東京ガス㈱群馬支社内における天然ガス需要が堅調に増加する見通しがあることから一部区間(妙義~高崎)についてはI期工事として建設に着手することと致しました。
区間/群馬県甘楽郡妙義町~群馬県高崎市
延長/約20km(帝国石油㈱約6km、東京ガス㈱約14km)
導管仕様/500mm(全体構想と同じ)
工事予定/2006年工事着手、2010年完成目標
<おわりに>
今後は、関係官庁ならびに沿線の皆様方のご指導、ご協力を賜りながら計画を推進してまいりたいと考えております。また、建設にあたりましては設計・施工・維持管理に方全を期すと共に、維持・運用にあたりましても安全管理・品質管理を十分徹底してまいります。
何卒、ご理解と格段のご高配を賜りますようお願い申し上げます。
[連絡先]東京ガス㈱群馬連絡幹線建設PT. TEL:027-324-5437 FAX:027-323-9662
帝国石油㈱新東京ライン建設事業所 TEL:0274-74-7881 FAX:0274-74-7883
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このように、エネルギーフロンティアを自称する東京ガスは、低炭素社会実現のために崇高な精神と目標を掲げていますが、実際には、地元の安中市には全く裨益効果のない計画であり、カドミウム公害で知られる東邦亜鉛安中精錬所向けに安価でクリーンな燃料として売り込む計画も目指していることが伺えます。ところが、住民の知らない間に、東京ガスは安中市との間で必要な手続を殆ど済ませていたのです。
■住民は、東京ガスが地元に天然ガスを供給する意思のない事を知って驚き呆れました。てっきり都市ガス供給のための工事だとばかり思っていたら、単なる通過のための工事であること、しかも、住民はそれまで一度もガスパイプラインの工事計画など、誰からも聞かされていなかったからです。そこで、このルートに決めた理由を東京ガスに聞いたところ、東京ガスは「いろいろなルートを検討した結果だ」というだけで、詳しい説明を避けました。
住民は、「回覧板で交通規制の通知チラシを配布しただけでは、不十分。70気圧もの超高圧の可燃ガスが地元の生活・通学道路の下に埋設されると、交通安全や生活環境の安全面で脅威となるから、事前に地元住民に説明をして理解を得ておくことが必要だと思うが、説明会をやったのか?」と質問しました。
すると、東京ガスは「ガス管が通る沿線の方々や地権者の方々に説明するが、地元説明会という形では説明する予定はない。市道管理者の安中市の指導で、既に区長の同意書を取った」と答えました。東京ガスは「これまでガス導管工事で、地元説明会は一度もやったことがない」と過去の“実績”を強調したのです。
既に安中市や地元区長には相談済みだというので、さっそく情報公開で安中市から資料をとりよせ、地元区長にも様子を聞いてみまた。その結果、驚くべきことが判明したのです。
1)経緯として、東京ガスは、平成19年7月18日に、野殿21番地~岩井371番地における市道へのガス導管占有工事について桜井区長(安中地区代表区長)、赤見区長(岩野谷地区代表区長)と協議し、同意書を受領していた。
2)今後の対応として、桜井区長、赤見区長と協議の上PR範囲を決めた後、工事予告回覧板の回覧、訪問による個別PRを実施する予定。
3)7月31日付けで桜井区長の同意書、7月27日付けで赤見区長の同意書が安中市長宛に出ていた。
4)岩野谷地区の赤見代表から各地区の区長らには何の話もなかった。赤見代表区長は「東京ガスに、回覧を各区長に届ける際に工事内容について説明するよう依頼しただけで、東京ガスが、地権者や沿線住民の方に説明するという約束ができている」として、実際にガス管が埋設される岩野谷1区、2区、3区、5区の各区長には全く話をしないで勝手に東京ガスの持参した同意書に署名押印した。
5)北野殿(岩野谷4区)の岡田区長は「東京ガスは、回覧板にチラシを入れてくれと言って持ってきて、簡単な説明はあったが、専門的なことは分からないので、4区の区長代理2名にもちゃんと説明しておいてくれ」と東京ガスに頼んだ。峯組の大塚区長代理は「直接業者がチラシを持ってきて入れてくれ」というので、内容のわけも分からないチラシを受け付けるのを最初は断ったが、「名刺を置いていくから頼む」というので、結局チラシを回覧板に入れたが、東京ガスからの説明は、チラシの内容についてだけだった。
■このように、地元説明会もせずに、交通規制のチラシを回覧板で回しただけで、東京ガスはガス管埋設工事に着手しようとしたため、地元住民が東京ガス社長に対して、直訴状を出し「地元説明会をぜひ開催してほしい。また、沿道に民家が密集し、地元通学路として使っているルートを避けて、再度見直ししてもらいたい」と強く要請しました。
地元住民は、生活道路や通学路を避けて、交通量が少なく沿線に住宅が比較的少ない代替ルートとして、①切通しの野殿交差点から野殿に上らず、そのまま県道を真っ直ぐ進み、柳瀬川沿いの道路を東邦亜鉛に沿って東進し、国道18号線に出て、碓東大橋を経て豊岡に抜けるルート、②切通しから農免道路を経て北野殿を経由し、再び東邦亜鉛の敷地に沿って農免道路を下り、中宿の交差点から国道18号線に出て、碓東大橋を経て豊岡に抜けるルート、③あるいは②のルートで農免道路を下って信越線の線路の手前から碓東小学校の北側の市道を東進し、碓東小の交差点の北側の越線橋の下を通過して、若宮橋の付近に出るルートなどを提案しました。いずれも工事による交通への支障が最小限に抑えられ工期の短縮により、コストダウンにも役立つからです。しかし、東京ガスは、既に決定済みだとして一切の変更に応じようとしませんでした。
そこで思い余った地元住民は直訴状を東京ガスの社長宛に送りました。ところが、東京ガスでは、本社では回答できず、全て出先の事務所が回答するというのです。
写真上:通学路の下に70気圧50センチ径の高圧ガス管を敷設する東京ガスの無神経。
■その後、工事の認可手続の経緯、実際の工事内容についてさまざまな情報を収集し分析した結果、東京ガスの高圧ガス導管工事には次の問題があることが明らかになりました。
1)住民からの要望は無視
頑なにルート変更を拒否している東京ガスが、実は、岡田市政スタート直後の平成18年7月末に安中市に対して「周辺の水田、河川への影響等を考慮してルートを変更したい」として申し入れていたこと。変更前のルートは、信越化学の半導体工場付近の磯部MSから柳瀬川と信越線の間に沿って下磯部~大竹~岡田市長選挙小屋付近を通過して、野殿交差点からヒヤ坂を経由して北野殿地区に至り、岩井地区の東平から直接碓氷川の川底を推進工法で対岸の八幡町の国道に抜け、上豊岡町から環状大橋に添架工法で導管を設置し、対岸の高崎市下小塙町の高崎GSに接続する計画でした。しかし、計画を知った住民が平成19年10月に住民説明会で生活・通学道路を避けたルートに変更してほしいと要請しても、東京ガスは、コスト高や工法面での技術的課題などを理由に拒否。
2)安中市長との密約
住民に説明もなく勝手に地区代表として東京ガスの同意書に署名押印した岩野谷地区の赤見代表区長が、平成20年12月5日(金)の地元区長会議で、住民の意向を無視して勝手に同意書を出した経緯について、「自分が同意書に署名押印する前に、既に岡田義弘・安中市長が、本件工事に同意ないし承認をしていたので、追認する形を取らざるを得なかった」との釈明したことが判明しました。市長が地元住民の意見を聞かずに業者の計画にゴーサインを出した根拠と経緯について、さっそく情報公開したところ、上記1)のとおり平成18年7月末に業者のルート変更について承諾済みであることが判明。
3)行政手続きの杜撰さ
東京ガスは、岩野谷地区の高圧ガス導管敷設工事に際して、本来、道路法32条及び36条に基づく許可である道路占用許可申請で、道路法24条の承認工事許可で使う同意書を使用して平成19年7月18日に地元代表区長の同意を取り、平成19年7月26日付で道路占用許可を得た。このため、安中市に訂正を求められて、本来であれば、許可申請を初めからやり直すべきであるところ、平成19年8月初めに、同意書の差し替えを行なった。加えて、東京ガスは、先行する東横野地区の地元区長の同意書も同様に道路法24条に基づく様式であったことが明らかになったにもかかわらず、平成18年12月21日付の東横野地区の地元区長の同意書を添付した平成19年2月13日付の道路占用許可申請(同年5月23日付で占用許可取得)を修正しようとせず、東横野地区での高圧ガス導管敷設を強行。
4)地元との災害協定防止協定に消極的
通常、直径50センチで70気圧もの高圧可燃物質が、住宅地や通学路に敷設される場合、万が一の事故や災害に備えて、地元と災害防止協定を締結するのが常識です。岩野谷地区でも、あまりにも身勝手な東京ガスのやり方を心配して、早期に災害防止協定の締結を地元と結ぶよう要請したところ、東京ガスが前向きに検討するというので、工事の回覧版の地元配布を承諾したが、いまだに東京ガスは協定締結をやろうとしない。
5)工期の延長による地元住民への迷惑無視
東京ガスは、地元住民に対して、「平成20年12月末までに、岩野谷地区における全ての高圧ガス導管敷設工事を完了予定」と、平成19年1月に地元住民に説明しましたが、その後、平成20年3月末に工期を5ヶ月延長し、平成20年11月末にさらに7ヶ月延長すると臆面もなく一方的に通知しました。地元住民が、現状ルートでは土質や地形条件が悪いので、ルート変更により農免道路の使用により工期の短縮とコストダウンを提案したにもかかわらず、東京ガスはこれを無視。
6)コストとCSR意識の欠如
距離16キロたらずのパイプライン敷設に57億円もの巨費(1m当たりなんと40万円!)を投じたり、予定より1年以上工期延長をしたり、東京ガスは、工程管理やコスト管理の意識が完全に欠如している。このようなコスト意識は、施工する住友金属エンジニアリング会社との馴れ合い体質から生じている。東京ガス向けに高圧ガス導管を製造する住友金属、新日鉄、JFEの製鉄製管会社は以前から談合体質が問題となり、公正取引委員会から何度も是正勧告を受けている。また東京ガス自体、談合体質を有している。東京ガスの豊洲工場の跡地は、土壌汚染で大問題となっているが、東京ガス自体は既に東京都に所有権が移転され無関係だとして、社会的企業責任(CSR)問題などどこ吹く風。
■こうして、岡田市長との密約で、巨額の利権を生む高圧ガス導管敷設工事が、住民への説明もないまま、どんどん進められています。今後、高崎市の豊岡町から烏川を越えて下小塙町まで高圧ガス導管敷設工事が実施されますが、とくにルート沿線の住民にとって、東京ガスの強引な工事の進め方には要注意です。
写真上:岡田市長の庭先で施工中の高圧ガス導管敷設工事。東京ガスに便宜を図る岡田市長の思惑と東京ガスの利害が一致しているかのようだ。
【ひらく会情報部・東京ガス高圧導管敷設問題研究班】