かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

◇ 現金(げんなま)に体を張れ

2007-04-03 01:16:17 | 映画:外国映画
 スタンリー・キューブリック監督・脚本 ライオネル・ホワイト原作 スターリング・ヘイドン コリーン・グレイ 1956年米

 子どもの頃、犯罪者の気持ちが分からなかった。悪いことをしてはいけないと教えられたからではない。ラジオなどのニュースで、強盗が捕まったとか殺人犯が捕まったとか聞くと、どうして捕まるようなことをするんだろう、そんなことを、つまり悪いことをしなければ、捕まることなどないのにと思ったものだ。
 捕まって、牢屋(監獄)に入れられるのは嫌だったし、そんなことをする人間が絶え間なく存在するということが不思議だった。
 つまり、まだまだ、女にも金にも用がなかったのだ。

 この映画で、(男の台詞で)「人生の目的は、女と金だ」といった台詞が出てくる。
 このことは、突き詰めれば正しいことを言っていると言えるだろう。言葉が露骨なだけで、言い換えれば、恋愛とそれを得るための手段が最も大事だとでもいおうか。
 人は、愛が金では買えないことは分かっているが、金のない愛が味気なくなるのも知っている。いや、金のない愛が成就するのが難しく、壊れやすいのを経験的に知っている。できれば、人は、愛も金も欲しいのだ。しかも、その両方とも、自分の背丈(能力)より少しでも高い方がいい、と潜在的に思っているのだ。
 愛する相手は、男性であれば相手は美人であった方がいいし、女性であればハンサムで、金持ちがいいに決まっている。

 5年の服役を終えた主人公のジョニーは、美人の婚約者のために金を得ることを考える。しかも大金を、短時間の間に得る法を。
 そんなことは、悪いことをやるしかない。だから、捕まったら牢屋(監獄)に入れられるに決まっている。しかし、美人の女と幸せになるには金が必要なのだ、とジョニーは考える。女も、いい男と大金を望む、のである。
 彼が計画した短時間に大金を得る方法、それは強盗である。つまり、最も単純で、昔からある悪事である。計画は、競馬場の売上金を奪おうというのである。
 一方、しがない競馬場勤めの中年の男は、若く色気のある女房を持っている。彼女を自分のところに留めておけるかどうか分からないので、いつも女房の機嫌を取っているが、それが功を奏しているとは思っていない。つまり、ハンサムでもなく金もない男にとって、女房は背丈以上の女なので、気が気ではないのだ。実際、彼女(女房)は若いハンサムな男と不倫している。
 だから、しがない中年男も、色っぽい女房を留めておくために、大金話に飛びついて、悪い話に乗る羽目になる。女房も、大金が入るのだったらと唆す。
 金が欲しい男たちによって、計画通り大金の強奪は見事に成功する。
 ジョニーは、美女と大金を持ってトンズラするはずだった。しかし最後に、思わぬハプニングが……
 やはり、悪いことをすると、牢屋行きだ。
 女も金(大金)も、簡単に得ようというのは難しい。それでも得ようと思うから、つい悪いことを考えてしまう……だから、犯罪はなくならないのだ。
 子どもの時には、分からなかった。

 スタンリー・キューブリックの監督第3作目、28歳の時の作品である。
キューブリックといえば、映画史上不朽の名作とも言える「2001年宇宙の旅」であまりにも有名である。
 それだけではない。「ロリータ」、「博士の異常な愛情」、「時計じかけのオレンジ」、「シャイニング」と、毛色の変わった作品を発表している。
コメント
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