かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

列車の旅と、駅弁で味わう「九州の味」

2012-04-19 00:39:00 | 気まぐれな日々
 僕は、東京と九州の佐賀を往来するときは、いつも列車である。いや、国内の旅はどんなに遠くても、ほとんどが列車である。飛行機に乗ったのは何年前だろうかと思うほど、飛行機に乗らない。
 別に高所恐怖症でも、鉄の塊のような物体がなぜ空を飛ぶのか不安なので乗らないというのでもない。目的地にただただ速く運ぶという、マキャベリズム的な機能目的が好きではないのだ。飛行機では、移動感覚が味わえない。

 人は、移動するのを速めるために、次のように変化させた(と思う)。
 歩く→動物を利用する→道具を使う→機械を使う*船に乗る*車に乗る→飛行機で空を飛ぶ
 本来、人も他の動物と同じように歩くことでのみ(時として泳ぐこともあっただろうが)移動していたのが、飼いならした馬やロバやラクダに乗って遠距離を移動することを覚えた。すぐに、川や海では筏や舟(おそらく丸木舟)の道具を使うことの便利さを知ったはずだ。
 道具としては、車輪の発見は画期的だったかもしれない。馬車や牛車で、人間も含めて大きな荷物が運べるようになった。
 産業革命による蒸気機関の発明は、移動を一変させた。それまでの道具から機械への変化は、手動から燃料を使うことによって、車も船も根本的に変わった。
 地上には、網の目のように道路と鉄道が敷かれ、道路には自動車が往来し、鉄道線路には列車が走るようになった。川や海を渡る船からは櫓や帆はなくなり、急速に大型化した。
 地上と川や海をある程度自由に移動できるように工夫した人は、目の前にそびえる山々や広い海原を見て、一気に飛び越えられたらと、鳥を見て夢想したに違いない。
 そして、空を飛ぶ飛行機を造った。その延長として、ロケットも。

 移動時間の短縮による便利さで失ったものは、移動感覚である。人が感じる、たどり着くという感覚である。
 端的に言えば、僕は山登りの愛好家ではないが、山の頂上に行くのに、飛行機で頂上に運ばれるのと歩いて登ったときの違いといおうか。
 移動時間短縮で失われたものは、「旅」の感覚であろう。

 *

 さて、列車の旅に話を戻すと、列車の旅の楽しみの一つは、車内で食べる駅弁である。年をとるにしたがって、そうなってきた。若いときは、食べ物は二の次だったはずなのに。
 駅弁で有名なのは、信越本線・横川駅の「峠の釜めし」、函館本線・森駅の「いかめし」、北陸本線・富山駅の「ますのすし」、高崎線・高崎駅の「だるま弁当」などがすぐ浮かぶ。

 駅弁では、どうしても幕の内弁当を選んでしまう。具(おかず)の種類が豊富なのがいい。その幕の内弁当も、最近は各駅で地方色を出している。
 東京から九州に行くときは、最近は東京駅の中央口新幹線改札口構内の売店で、包み紙に東京タワーが描かれている「特選弁当・東京」を買っていた。穴子てんぷら、海老握り寿司、アサリ煮付け、炊き込みあさりご飯(深川めし)などの中身で、1,000円である。
 今回先ほどの佐賀に帰る際は、東京駅構内の弁当屋にあった「老舗の味 東京弁当」というのを、1,600円と少し高いが買ってみた。牛肉たけのこ(浅草・今半)、キングサーモンの粕漬け(人形町・魚久)、玉子焼き(築地・すし玉青木)などと銘打ってある。
 これらの老舗店には行ったことがないので、駅弁で行った気になるのもいいだろう。

 佐賀から東京に戻るときは、鳥栖駅の売店を見まわした。
 鳥栖駅は鹿児島本線と長崎本線の分岐点で、1889(明治22)年開業で九州初の鉄道駅の一つという古い駅である。駅のホームには、うどんの立ち食いの店「中央軒」が今も営業している。名物はかしわうどんで、安くてうまい。
 東京から田舎の実家に帰るとき、日も暮れた頃この駅のホームでうどんをすすると、佐賀に帰ってきたと実感したものだ。
 今は駅から、J1に昇格したサッカーのサガン鳥栖のホーム・スタジアムがすぐ近くに見える。
 駅の売店に、「かしわめし」と「長崎街道焼麦(シュウマイ)弁当」はあるが、幕の内弁当である「肥前路弁当」がなかったので、鳥栖駅で買うのは諦めて、博多駅で買うことにした。

 博多駅構内にある、北九州の駅弁会社が作っている「九州物語」は、九州各県の名産を並べてある幕の内弁当である。値段も1,100円と手ごろであるので、これを買ってみた。内容を列挙してみる。
 福岡から、とり飯、明太子、鯖の明太子煮、鶏肉と胡瓜の甘酢和え、北九州の合馬の筍煮。
 大分の椎茸煮と栗の甘煮。
 熊本の高菜漬。
 鹿児島の薩摩芋の甘煮。
 佐賀の蓮根煮。
 長崎の豚の角煮。
 沖縄のゴーヤ揚げ。

 車窓を楽しみながらの、安上がりの九州の味めぐりである。

コメント (2)
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