かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

CM作ってカンヌへ行こう

2008-04-03 17:18:57 | 気まぐれな日々
 かつて「トリスを飲んでハワイへ行こう」というCMコピーがあった。
 サントリーがまだ寿屋といっていた時代、開高健や山口瞳が宣伝部に在籍したときの作品だ。因みにこのコピーは、山口瞳の代表作である。
 このコピーに倣って、「CM作ってカンヌへ行こう」というキャッチを勝手に作った。

 去年の12月、突然カメラマンのY君が電話で、「一緒にカンヌに行きませんか」と言ってきた。
 「今、CMを募集しているんですよ。それで優勝すれば、カンヌですよ」と言った。Y君は以前僕のDVDを作ったように、最近すっかり動画に凝っていて、動画関係で何かやりたくて腕をむずむずさせていた。
 話の内容は、朝日放送が「ショートムービーCMグランプリ」を企画していて、そこで大賞を取れば、カンヌ広告祭にエントリーされてカンヌに行けると言うことだった。
 つまり、あらかじめ提示されている10社の商品の中からどれかを選んでCMを製作して、コンクールに応募する。その各10社(部門)応募作品から最優秀賞が1つ選ばれ、その各部門優秀賞10作品の中から大賞が選ばれるというものだ。
 僕は、面白そうなので、遊び心の二つ返事でOKした。

 商品はK社のケチャップということになり、内容は、「達人の一筆書き」という少し真面目なコミカル仕立てで、僕と彼の若いスタッフが演者となった。
 応募締め切りは1月15日なので、撮影は僕が佐賀に帰る前の年末12月に決めた。時間がなく、万全な準備をする暇もなく、寒さの中、何しろ撮影を決行した。
 Y君と彼のスタッフ及びフード・コーディネーターによって、僕たちは何とか撮影を終えたあと、何しろ今回は参加することに意義がある、しかしカンヌに行けたらいいね、と微妙で複雑な言い回しをした。
 そして僕は、編集はヤス君に任せて東京をあとにし、1月は佐賀で過ごした。
 途中経過で、K社の商品に応募が集まり最も激戦区だという報告が入ってきていた。

 製作したCM内容の「達人の一筆書き」は、以下のような筋立てである。
 武道の達人らしき者が弟子の前に厳かに現れ、正座する。掛け声とともに腕をかざし、何やらを一気に書く。見守る弟子の「お見事です」という声に、「うむ」と納得の答えの達人。その間、達人の振り動かした腕から、弟子の頬に赤い点が飛んだ。
 達人に後ろからカメラが徐々にアップして、作品が露わになる。できあがった作品とは、黄色いオムライスの上に、赤いハートがケチャップで描かれているというもの。
 そして、弟子が飛んできて頬に付いた赤い雫(ケチャップ)をひとさし指で拭い、その指を舐めて、にっこりと笑う。
 字幕に、「愛されつづけて100年……」と映り、FIN。

 *

 あのキャッチコピーを忘れかけていた2月も後半に入った頃、Y君から電話があった。
 「驚かないでくださいよ。あの作品が、K社の部門最優秀賞を取りましたよ」と言った。
 いやはや、本当に驚きだった。
 Y君はどうか知らないが、僕は作品を作ること、それに参加するだけで充分楽しめたから、入賞するかどうかは大して問題にはしていなかった。
 Y君は、「カンヌへの道が、また一歩近づいてきましたね。あとは大賞ですね」と言って電話を切った。

 *

 それから、さらに1か月がたった3月の後半。
 Y君から連絡があった。
 審査会場の大阪からだった。
 「桜散る、ですね。残念ながら」というものだった。

 ABC朝日放送で、3月21日夜、「ABCショートムービーCMグランプリ」の受賞作発表のテレビがオンエアされた。
 そのDVDを見た。

 司会は、ケンドーコバヤシと大沢あかね。
 審査員は、いとうせいこう、大鶴義丹、板尾創路、あびる憂、それに会場の一般50人。
 番組は、全国の様々なCMや変わった看板などを挟みながらの1時間30分の深夜番組であった。
 各社の10作品中、真っ先に僕らのK社ケチャップが紹介された。
 審査委員長格のいとうせいこう氏が、「カット割りがうまい」と賞賛。
 結局グランプリ受賞作は、A社のコンソメスープ作品だった。

 こうして、カンヌへ行く夢は終わった。
 「まあ、カンヌはスノッブであまり好きじゃない。どちらかというと、マルセイユの方が好きだね」と、僕はほざくのでした。
コメント
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