谷崎潤一郎原作 市川昆監督・脚本 岸恵子 佐久間良子 吉永小百合 古手川祐子 石坂浩二 伊丹十三 桂小米朝 岸部一徳 江本孟紀 小坂一也 細川俊之 横山道代 上原ゆかり 1983年東宝
日本の「若草物語」、つまり4姉妹の物語である。
谷崎潤一郎の作品にしては異質である。しかし、このなかに谷崎らしさを見つけるとなると、滅びゆくものの美しさであろう。三島由紀夫は、この作品に影響を受け「鏡子の家」を書いたのではなかろうか。
ヨーロッパに目を移すと、思い浮かぶのはルキノ・ヴィスコンティの「山猫」をはじめとする一連の映画だろうか。
比較すると、宗教画の油絵と風景画の水彩絵ほどの違いがある。
それでも、この市川昆による「細雪」は、色彩といい構図といい、かなりこってりとしている。花鳥風月の日本画の題材を油絵で描いたような印象を残す。
京都の桜の下での午後のひとときから始まるこの映画は、大阪の老舗蒔岡家の四姉妹である、長女鶴子(岸恵子)、次女幸子(佐久間良子)、三女雪子(吉永小百合)、四女妙子(古手川祐子)が揃い、満開の桜に負けじと華々しい。その4人に紛れ込んではしゃいでいるのが、次女幸子の夫貞之助(石坂浩二)である。
長女と次女は、サラリーマンの夫を婿養子にしている。三女雪子は静かに家にいる女性で、適齢期を過ぎているものの縁談を断り続けていて、姉たちは心配している。四女妙子は、三女とは正反対に男と問題を起こしたこともあり、自由奔放に生きている。
独身の妹2人は、本家大阪の船場ではなく、分家の次女の家、芦屋にいるのだが、そこでは幸子の夫、つまり2人の叔父である禎之助が雪子をほのかに想っているのだった。
物語は、三女雪子の縁談を中心に、長女の夫(伊丹十三)の東京転勤話、四女妙子の男遍歴などが絡んで進んでいく。
この4人のキャラクターの違いが分かるのが、衣装である。和服で揃ったとき、長女が藤(青紫)、次女が青、三女が薄青(白)、四女がオレンジ色である。
時代は昭和13年となっているが、シーンのところどころに何気なく描写される、関西の上流社会のグルメぶりが興味深い。
「音楽会のあと、船場の吉兆で食事をしましょうよ」
「神戸の北京楼でどかんと奢ってやろうかと思って」「あんなすごいところで?」
東京転勤が決まったとき、鶴子の夫(伊丹十三)が今夜は祝いに飲もうと、言う台詞は、
「白ワインのバーガンディがある」「そりゃ、今どき貴重品やな」
戦前から吉兆は一流だったのだ。船場の吉兆がこのような状態に陥るとは、思いもよらなかったかもしれない。神戸の北京楼は、分からない。戦前は有名店だったのかもしれない。バーガンディとは、ブルゴーニュのことである。
世代が違う四姉妹は、役者としても当時の最高級の配役だろう。
岸恵子は、戦後「君の名は」の大ヒットで国民的人気を博し、フランス人監督イヴ・シャンピと結婚し(後離婚)フランスへ渡った国際派女優だ。現在は、日本とパリを行き来し、物書きもやっている。
佐久間良子は、「五番町夕霧楼」「越後つついし親不知」などの名作を残した、日本的な妖艶さを漂わせる美女である。和服が最も似合う女優の一人だ。
吉永小百合は、日活青春映画から出発し、常に第一線で活躍している存在感のある美女である。いつまでも青春ぽさを失わないのは、彼女の生き方ゆえか。
古手川祐子は、NHK連続テレビ小説「おていちゃん」で人気を博し、本格的に映画に進出していた彼女の溌剌とした時期である。その後作品に恵まれていないが、この映画ではおきゃんな末娘を活きいきと演じている。この映画が、彼女の代表作になったのではなかろうか。
三女の縁談相手に、小坂一也(元ウエスタン歌手)、江本孟紀(元プロ野球選手・国会議員)、細川俊之、四女の男友達に、桂小米朝、岸部一徳など、個性的な男たちが物語にメリハリをつけている。
子どものとき「マーブルちゃん」と言って、チョコレートのCMで人気になった上原ゆかりが、家の奉公のお手伝いさん(まだ少女だが)を力演している。
日本の「若草物語」、つまり4姉妹の物語である。
谷崎潤一郎の作品にしては異質である。しかし、このなかに谷崎らしさを見つけるとなると、滅びゆくものの美しさであろう。三島由紀夫は、この作品に影響を受け「鏡子の家」を書いたのではなかろうか。
ヨーロッパに目を移すと、思い浮かぶのはルキノ・ヴィスコンティの「山猫」をはじめとする一連の映画だろうか。
比較すると、宗教画の油絵と風景画の水彩絵ほどの違いがある。
それでも、この市川昆による「細雪」は、色彩といい構図といい、かなりこってりとしている。花鳥風月の日本画の題材を油絵で描いたような印象を残す。
京都の桜の下での午後のひとときから始まるこの映画は、大阪の老舗蒔岡家の四姉妹である、長女鶴子(岸恵子)、次女幸子(佐久間良子)、三女雪子(吉永小百合)、四女妙子(古手川祐子)が揃い、満開の桜に負けじと華々しい。その4人に紛れ込んではしゃいでいるのが、次女幸子の夫貞之助(石坂浩二)である。
長女と次女は、サラリーマンの夫を婿養子にしている。三女雪子は静かに家にいる女性で、適齢期を過ぎているものの縁談を断り続けていて、姉たちは心配している。四女妙子は、三女とは正反対に男と問題を起こしたこともあり、自由奔放に生きている。
独身の妹2人は、本家大阪の船場ではなく、分家の次女の家、芦屋にいるのだが、そこでは幸子の夫、つまり2人の叔父である禎之助が雪子をほのかに想っているのだった。
物語は、三女雪子の縁談を中心に、長女の夫(伊丹十三)の東京転勤話、四女妙子の男遍歴などが絡んで進んでいく。
この4人のキャラクターの違いが分かるのが、衣装である。和服で揃ったとき、長女が藤(青紫)、次女が青、三女が薄青(白)、四女がオレンジ色である。
時代は昭和13年となっているが、シーンのところどころに何気なく描写される、関西の上流社会のグルメぶりが興味深い。
「音楽会のあと、船場の吉兆で食事をしましょうよ」
「神戸の北京楼でどかんと奢ってやろうかと思って」「あんなすごいところで?」
東京転勤が決まったとき、鶴子の夫(伊丹十三)が今夜は祝いに飲もうと、言う台詞は、
「白ワインのバーガンディがある」「そりゃ、今どき貴重品やな」
戦前から吉兆は一流だったのだ。船場の吉兆がこのような状態に陥るとは、思いもよらなかったかもしれない。神戸の北京楼は、分からない。戦前は有名店だったのかもしれない。バーガンディとは、ブルゴーニュのことである。
世代が違う四姉妹は、役者としても当時の最高級の配役だろう。
岸恵子は、戦後「君の名は」の大ヒットで国民的人気を博し、フランス人監督イヴ・シャンピと結婚し(後離婚)フランスへ渡った国際派女優だ。現在は、日本とパリを行き来し、物書きもやっている。
佐久間良子は、「五番町夕霧楼」「越後つついし親不知」などの名作を残した、日本的な妖艶さを漂わせる美女である。和服が最も似合う女優の一人だ。
吉永小百合は、日活青春映画から出発し、常に第一線で活躍している存在感のある美女である。いつまでも青春ぽさを失わないのは、彼女の生き方ゆえか。
古手川祐子は、NHK連続テレビ小説「おていちゃん」で人気を博し、本格的に映画に進出していた彼女の溌剌とした時期である。その後作品に恵まれていないが、この映画ではおきゃんな末娘を活きいきと演じている。この映画が、彼女の代表作になったのではなかろうか。
三女の縁談相手に、小坂一也(元ウエスタン歌手)、江本孟紀(元プロ野球選手・国会議員)、細川俊之、四女の男友達に、桂小米朝、岸部一徳など、個性的な男たちが物語にメリハリをつけている。
子どものとき「マーブルちゃん」と言って、チョコレートのCMで人気になった上原ゆかりが、家の奉公のお手伝いさん(まだ少女だが)を力演している。