4年前のことだった。広島駅の北側の山沿いに、「二葉の里」という神社仏閣の散策コースを知人に案内してもらったことがある。そのコースの最後のポイントは、ポツンと離れた所にある「不動院」というお寺であるが、時間切れとなり訪れることなくその日を終えていた。いつか行ってみたいと思っていた不動院へ、広島からやって来た孫を車で送っていったとき、通りがかりに看板を見つけて、思いがけなく訪れることができた。
「不動院」とは、広島市東区にある真言宗別格本山の寺院のこと。寺院が建てられた時期は平安時代の終わり頃。その後南北朝時代には、足利氏が全国に置いた安国寺のひとつとされ、守護武田氏の保護のもとで栄えたが、武田氏の滅亡とともに衰えた。
これを再興したのが恵瓊(えけい)であり、毛利氏の使僧として活躍し、豊臣秀吉からも厚い信任を得ていて、その力を背景に安国寺の建て直しを行い、中央の大社寺にもひけをとらない大寺とした。天文9年(1540年)に建築された金堂は国宝に、楼門・鐘楼・梵鐘などは重要文化財に指定されている。
広島県の国宝といえば、厳島神社にある数々の建造物であるが、広島市内にある唯一の国宝がこの金堂である。金堂とは本尊を安置する仏殿のことをいい全国に数々あるが、すぐ近くにこんな立派な国宝の金堂があった。
お寺は、広島駅の北北西3km、牛田新町を走る国道54号線から少し入った山ふところにある。狭い住宅街の道を入っていくと、突然大きな構えの楼門が目に入る。少し小ぶりではあるが、これはこれで京都・南禅寺の三門を思わせる立派な楼門であった。金堂は正面が15.5m、側面が16.8mもあり、現存する中世禅宗様仏殿の中で最大規模を誇るという。
もうひとつの見どころは、寺の墓地に、苔むした「太閤 豊臣秀吉公 遺髪の墓」がひっそりと建っている。秀吉に恩義を感じた恵瓊の気配りだろうか。思いがけないところで秀吉に巡り合うこともできた。コンドゥ、皆さんも国宝・金堂見物をぜひどうぞ。