手の届かない恐怖
家庭の事情により、以前より飛行機に乗ることが増えた。高い所も、スピードが速いのも、離着陸時に下腹のあたりがフワリとする感覚も全て苦手で怖い。私は怖いと対象を調べたくなる。飛ぶ原理を調べたり、飛行機の事故を調べたりした。同様に、こちらに引越した時にはヒグマが怖くてよく調べていた。
中学生の時に読んだ『心の底をのぞいたら』(なだいなだ著、筑摩書房、1971年)を思い出す。ここでは「幽霊はなぜ怖いのか?」の問いに、「幽霊がよく分からない、理解できないものだから」と答える。人はよく分からないものに恐怖を感じるのだという。だから人間は世界を切り取り、名前を付け、「分かるもの」にしていったという。私の行動は恐怖を克服しようとするものだったのかもしれない。
現在は情報が多すぎるせいか、かえって「よく分からないもの」が多い気がする。政治家の説明も、ミサイルの意図も、分かるようでよく分からず、ぼんやりとした恐怖に身を包まれている気がするのだ。