ミャオの家より

今はいないネコの飼い主だった男の日常

飼い主よりミャオへ(63)

2009-07-05 18:54:57 | Weblog



7月5日
 拝啓 ミャオ様

 九州でも、梅雨の晴れ間の、青空が広がっているということだが、ミャオは元気で暮らしているだろうか。
 暑い日中は避けて、涼しくてなって余り車も通らない、朝早くと夕方に、おじさんの家に行って、エサをもらう時だけが、オマエの楽しみの時間なのだろう。おじさんも、少しはオマエをなでてはくれるかもしれないが、私といる時ほどに、心からくつろぐことはできないだろう。
 そんな、オマエのことを思うと、やはり心苦しいし、さらに、申し訳なく思うのは、私だけが、こちらでしっかりと自分の毎日を楽しんでいるからだ。

 と言うのも、一週間余りもかかった、草刈り、草取り作業が終わって、のんびりしていたからというではない。むしろ、細かい作業が色々とあって、忙しいほどだったのだ。実は、ついに、液晶テレビを買ってしまったのだ。ジャーン。
 それは、名前ばかりのエコ・ポイントとかにつられて、買ってしまったというわけではない。今まで、時々、大きな町の大型家電店に行っては、大きな液晶画面に見入っていたのだ、あの画面を家で見たいと思いながら。
 オマエも知っている通り、私の好きなものは、クラッシック音楽、絵画、写真、映画、山登りなどであるが、それらの番組を、液晶大型テレビで見てみたかったのだ。


 そして決心した。今は健康で良いけれども、いつまで生きられるか分からない、中年男の私、不肖(ふしょう)、鬼瓦熊三(おにがわらくまぞう)、独り身ゆえに、誰に迷惑をかけるわけでもない。(ただ、ミャオには申し訳ないが。)ともかく、今の自分のために、お金を使おうと、決断したのであります。バン、バン(講談調になる。)
 ご承知の通りの、不景気な折から、人影も少ない家電店に乗り込んだ熊三は、バンバン、ただでさえ恐ろしげなあの顔で、ヒゲヅラを撫で回しては、若い店員をにらみつけ、ひとえに値下げを迫りたて、ついには、店長決済と言うことで、最安値にて、目指すテレビを獲得し、さらに、リサイクル、ショップに立ち寄っては、チョー安い、見事なテレビ台もゲットン(ニシキゴイ、ゲットン)、それらをクルマに積み込んでは、帰途に着く、その熊三の、薄笑いを浮かべた顔の恐ろしさ、ああ、亡き母が、見たならば、わが子ながら、何と浅ましいと嘆いたであろう・・・熊三、町に行くの巻、この辺りで、バンバン、一件落着に御座いまする。


 という購入時の顛末(てんまつ)はともかく、その後の、テレビ設置、配線、アンテナ位置調整、部屋の片付けなどで丸一日かかってしまい、テレビの映像をじっくりと見たのは、二日後のことである。
 感想は、どこかの国の総理大臣の言葉ではないが、全く、ただ一言、”感動した”し、生きていて良かったとさえ思った。
 ブラウン管テレビからパソコン画面にいたるまで、24インチの広さが最大だったので、30インチを越える大きな画面の迫力に、まず圧倒された。驚天動地(きょうてんどうち)の思いで見つめ、まさに欣喜雀躍(きんきじゃくやく)の喜びだったのである。さらに、そんな大型画面であるにもかかわらず、何と色鮮やかで、繊細な映りであることか。
 ちょうど、放映されていた『アラスカを飛ぶ』とかいう、空撮のドキュメンタリー番組に、ただ茫然と見入ってしまった。普通の番組はもとよりのこと、さらに、のめりこんで見てしまったのは、映画、そしてオペラ公演の番組である。
 それも、いつかこの大型画面で見ようと、1年前に買っておいたDVDレコーダーの、ハイビジョン画質で録画しておいたDVDで見たのである。


 今年の1月に放送され、さらに6月2日に再放送されたヴェルディのオペラ『リゴレット』、その2時間半近くを、ただテレビの前を離れることなく見続けた。(演出が近頃はやりの、世紀末現代風で、あくどすぎる感じだったが。)
 ルチッチ(Br)、ダムラウ(S)、フローレス(T)という顔合わせも魅力的だったが、とりわけ、あのダムラウは、去年買ったCD(1月10日の項)の中でも少し触れていたのだが、そのジャケット写真に見る飛び切りの容姿は、舞台においても見栄えがして、少し小柄ながらも存在感のある立ち姿だった。
 そして、その容姿と伴に素晴らしい歌声を聞くと、確かに彼女が、来るべきオペラ界を担う一人であることが分かる。今後、彼女がヒロインになったヴェルディのオペラを、他にも色々と聴いてみたい。
 オペラ歌手は、本当に難しいものだと思う。優れた歌唱力だけでなく、ふさわしい演技力や容姿さえ求められる。さらに舞台を続けられる体力も必要だ。それなのに花の盛りは短いのだ。
 最近、ダムラウが病気のために、リヒャルト・シュトラウスの『無口な女』を降板した、というニュースも流れてきて、気がかりではあるが、私としては、次のテレビ放映をただひたすら待つほかはない。


 というわけで、私はここ数日、テレビ人間と化していたが、それではいけない。周りの景色も、夏へと向かって、日々変わってきているし、そろそろ山にも行きたい。
 写真は、帯広市郊外、旧グリュック王国(二年前に閉鎖)付近の光景である。青々と実る小麦畑の向こうに、残されたままの、グリュック王国の城が見えている。
 それは、若い頃、ヨーロッパを旅したときに見た、あのバイエルン州の田舎の景色に似ていた。破滅の国王、ルートヴィヒの居城、ノイシュヴァンシュテインに向かう時であった・・・あれから、歳月は流れ、私は、今、ひとりここにいる・・・。

                     飼い主より 敬具


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