「イワシは海の米だ」という言葉を九十九里浜で聞いた。40年も前のこと網元の言葉であった。
当時マイワシはふんだんに漁獲されその国内年間水揚げ量は300万トンを超えていた。ふんだんにあるからかそれとも食物連鎖の低位にあって多くの魚類の命を支えるからか、おそらくその両方の意味で「海の米」という表現が生まれたのだろう。
マイワシやカタクチイワシは世界中の海にいる。多獲性の表層魚だから,もっとも身近な魚として親しまれることはどの国でも同じ。カタクチイワシは地中海では塩漬けアンチョビーとして基本調味料の役割を担う。日本でもチリメンジャコや煮干が、その呈味成分を理由に利用される。塩煮して乾燥するのは生では足が速いからで、大型魚のようにその身質を味わいながら食すのではなく出汁やスープとしての役割だ。もちろんそのまま食べても旨い。
ベトナムではこの小型の魚をCa comとよび、直訳すれば米魚である。九十九里と同じではないか。サイゴンから車で東へ3時間、ビン・トアン省の漁業基地として有名なファン・テイエットでも多獲され塩漬けして樽に入れた上澄みからは例の魚醤ヌウクマムが生産される。よって街はこの匂いに包まれていた。観光地化がすすむと魚醤を含めて生臭い魚加工場は中心から追い出されつつあると聞いた。基幹産業があたかも3K産業のように言われるとき、それをもって国が経済的に離陸したということは皮肉だ。
同じ魚がマレーシアではIKAN BILISである。華人の島ペナンではこの魚を売る乾物屋が並んでいる。色白のものから褐色のものまでいろいろあるが、色白のほうが高価である。これをキロ単位で買って何もせずにそのまま食べると実に旨い、ただし塩分はきつい。マレーシアやインドネシア料理ではこれをヤシ油で揚げたりしているがもったいないと思う。自分の好みはイカン・ビリスのスープや味噌汁である。日本製の煮干よりも更に強い出汁が出ると思うのはその塩分のせいだろうか。
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